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ミステリの祭典

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リベルタスの寓話
御手洗潔シリーズ

作家 島田荘司
出版日2007年10月
平均点5.75点
書評数8人

No.8 7点 名探偵ジャパン
(2018/01/05 23:10登録)
常日頃から島田荘司は、「ミステリに必要なのは、今も昔も幻想的な謎である」そして「新しい時代に沿ったミステリを」といったことを言い続けています。島荘の偉いところは、「だからお前ら(若いやつら)書けよ」と、言うだけ言ってあとは投げっぱなしジャーマンスープレックス、としないところです。御大自ら書く。ミステリ界の大重鎮となっても、このスタンスは変わりません。何と頼もしいのでしょうか。

本作は、まさに上記二つの要件を見事に満たしています。「死体の内蔵がすっかり抜き取られ、人工物に置き換えられている謎」そして「昔ではありえなかった現代社会ならではの犯行動機(厳密には違いますが)」の合わせ技です。

メイン作品の「リベルタスの寓話」を前後編に分けて、間に中編を挟むという手法も面白いです。アメリカのバラエティ番組のような構成です。

この中編「クロアチア人の手」も、昔ではありえなかったトリック。一見して「あれみたいなものを本当に作ることが可能なのか?」という疑問はもちろん発生しますが、本作の肝はそこにはなく、御手洗が展開する水槽と魚にまつわるロジックがメインです。「そういうものがあったとしたら、このトリックは十分可能だろう」という、特殊設定もののひとつとして見ればおかしなところはないでしょう。それを解き明かすための手掛かりも十分に開示されています。

御手洗は二編どちらにも電話越しでのみの登場ですが、その存在感はいささかも陰りません。我らが石岡くんは「クロアチア人の手」のみの登場ですが、その分大活躍(?)を見せます。キャラクター小説としても抜群の出来栄えでした。

No.7 4点 TON2
(2013/01/15 18:26登録)
講談社
 「リベルタスの寓話」「クロアチア人の手」の中編2編。
 作者はボスニア・ヘルツェゴビナのクロアチア人、セルビア人とモスリムの民族内戦を勉強したらしく、それがベースになっています。
 いずれの作品もミタライは直接登場せず、電話のみで事件を解決します。

No.6 6点 E-BANKER
(2012/08/19 13:17登録)
御手洗潔シリーズ。表題作が前編と後編に別れ、その間に中編「クロアチア人の手」を挟み込むという形式の作品集。
(「帝都衛星軌道」と同じパターンね)
これも作者が提唱する「21世紀本格」を具現化した作品なのでしょう。

①「リベルタスの寓話」=ボスニア・ヘルチェゴヴィナで酸鼻を極める切り裂き事件が起きた。心臓以外のすべての臓器が取り出され、電球や飯盒の蓋などが詰め込まれていたのだ。殺害の容疑者にはしかし絶対のアリバイがあった。RPG世界の闇とこの事件が交差する謎に、天才・御手洗潔が挑む~
というのが粗筋。いつもの御手洗ものらしく、不可能趣味溢れる謎と荒唐無稽なトリックが満載なのだが・・・
何か、作者が興味をもった対象物を断片的にいくつも取り入れ、繋ぎ合わせたような感覚が拭えなかった。
セルビアとクロアチアの歴史的な対立・抗争やリベルタスなる物体、そしてRMTと仮想通貨、はたまた幹細胞に関する医学的知識・・・
作者の剛腕で最後にはうまく丸め込まれたような感じになってしまうのだが、私のような一般的市民にはもはや想像すらつかない世界で御手洗の推理が行われていることに、やや寂しさを禁じ得ない。

②「クロアチア人の手」=これは石岡君も登場して、①よりはとっつきやすい雰囲気はある。ガスバーナーで焼き切るしかない鍵により構築された超堅牢な「密室」、なぜか路上で爆死する容疑者など、まさに島田テイスト溢れる作品ではある。
しかしなぁ・・・このトリックは「いいのかなぁ?」
真犯人の独白では、さも簡単そうにこのトリックを語っているが、とてもじゃないがそんな簡単には思えないんだけどなぁ・・・
(そもそも、そんなスゴイ性能を持つアレがあるのかどうかが怪しい)
ピラニアや生石灰、底のつながった水槽なんていうのは、いつか使ってやろうと思ってた「トリックの材料」なんだろうな。
そしてそれらを具現化させたのが「アレ」・・・

あれこれと難癖をつけてますが、決して「駄作」というわけではないですよ。
ただ、「荒唐無稽で突拍子もない」というだけです。(それならいつもの島田作品と同じだろ!)

No.5 3点 スパイラルライフ
(2012/02/07 22:23登録)
ネタバレ





ロケットパンチ!!
吹ける作品。

ちょっと社会派すぎ

No.4 8点 Tetchy
(2011/08/17 18:32登録)
奇想と民族対立という社会的問題のコラボレーション。本書を読む際、本格ミステリか民族問題提起の社会派小説か、どちらかに比重を置くことで評価も変わってくるだろう。

中編『クロアチア人の手』で探偵役を務めるのが石岡くんというのはやはり嬉しい。しかしこの密室トリックはものすごいね(汗)。とうとうここまで来たかという感じ。

表題作は凄惨な殺人事件もさることながら旧ユーゴで起きた民族紛争が落とした暗く深い翳、セルビア人、クロアチア人たちの大きく深い暗黒のような溝が非常に重い読後感を与える。
世界的に見ても理解を超える残酷で苛烈な所業があの紛争で成されたこと、なにしろヒットラーの行為がまだぬるく感じるほどのすさまじさだ。
ミステリとして成立するには非常に危ういバランスだが、社会派小説として読むには非常に考えさせられる内容だ。

No.3 6点 touko
(2011/04/02 16:08登録)
なんでもかんでもミステリのネタに出来て、びっくり展開に持っていける作者はやっぱりすごいです。

オンラインゲームはちょっとだけですがやったことがあるので、RMTについてはなるほどと思いましたが、知らない人には説明不足だと思うし、大袈裟に書きすぎのような……。

No.2 6点 simo10
(2009/06/02 21:48登録)
御手洗シリーズ。2つの中編モノで構成されています。
どちらもセルビアとクロアチアの因縁を題材にした話です。

①「リベルタスの寓話」:ハインリヒの語り。物語の途中で語られる「寓話」に見立てられた殺人事件。その真相は… む、難しい。オンラインゲームに関する話が良くわからないっス。
②「クロアチア人の手」:石岡君の語り。密室トリックもの。真相は格闘漫画級にありえないものだが、石岡君の語りによって、何故かコミカルな仕上がりになっているので妙にマッチしているとも感じられる。クロアチアでは俳句が親しまれていたというのでビックリ。

どちらも楽しめました。ハインリヒはやはり好きになれず。ハードカバーは一見の価値あり。

No.1 6点 おしょわ
(2007/12/14 23:08登録)
表題作は割と良くできました。面白かったです。
ただもう一遍の「クロアチア人の手」の方はさすがにちょっとやりすぎの気が。そんなのありだったら何でもありじゃん。

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