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ミステリの祭典

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T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか

作家 詠坂雄二
出版日2017年07月
平均点5.80点
書評数5人

No.5 5点 まさむね
(2023/08/06 13:14登録)
 孤島で撮影された映像を基に事件を再構成した部分(奇数章)については、敢えて淡々と書かれているのだろうと思いながら、個人的にはそう退屈することもなくある種の期待感をもって読み進めることができました。しかし読後感としてはう、うーむ…。
 真相らしきものは、まぁ置いておくとして、相変わらず捻くれているんだよなぁ。作者らしいと言えばそうかもしれないけれど、その捻りは真に読者の満足感につながっているのだろうか。少なくとも私は消化不良だったかな。狙いは分かるのですが…。関連作を読んだのが随分前で月島凪探偵の記憶がない私が悪いだけ、もしくは私の読み方が浅すぎるだけかもしれませんが。

No.4 6点 名探偵ジャパン
(2017/10/28 16:18登録)
作者らしい、ちょっとひねくれた結末のミステリでした。
絶海の孤島に渡ったメンバーが残した映像パートと、それを検証する現在パートが交互に進行していくのですが、他のレビュワーの方も書かれていた通り、映像パートが退屈です。これは、わざと平坦な文章にしてドキュメンタリー色を強めた、という解釈もできますが、作者は冒頭の「前説」で、「映像が退屈なため、それを解決するために小説という形にした」と書いており、それだったら、もう少し何とかならなかったのかな、とも思うのです。
事件の真相自体も、過去に似たような例があるものの派生バージョンです。そこは作者も承知していたのでしょう。やはり「前説」で、「(真相は)物語的な驚きに欠けたもの」と前もって書いています。ただ、これは決して「逃げ」ではなく、「この話の肝はそこじゃないんだ」という表明でしょう。
詠坂作品は、ほとんどの作品が有機的になにかしら繋がっていて、本作もその「詠坂ワールド」の一翼を担う一作であるわけで、乱暴な言い方をしてしまえば、「コアなファンのための作品」ということもでき、それが本作の一番の肝なのでしょう。

No.3 5点 人並由真
(2017/09/29 13:01登録)
(ネタバレなし)
 まだ詠坂作品はそんなに読んでないため、読後にwebでファンの研究サイトを見て、諸作の世界観が自由自在にリンクしている現実を思い知らされた。まあ本文中でもそれらしい叙述はあちこちにあったが、ここまでとは…という軽い驚き。
 したがって自分は本作のキーパーソン? といえる名探偵・月島凪のこの作品内での立ち位置も、おそらくまったく十全に満喫してないであろう。(ほぼ)一見さんには敷居の高い作品だね、これは。

 事件の方も、新本格ミステリのクローズド・サークルもの、さらには「そして誰もいなくなった」の定型性を揶揄したような趣向は良いとして、<編集もされていない単なる記録録画テープの退屈さ>をまんま置換して読者を退屈させるような、たぶん意図的に起伏を欠いた文章も疲れた。いや狙いはわかるつもりですが。

 最後の章ひとつまえの意外性、さらには最終章の解決(とここで明かされる本作の存在意味)も、それぞれのネタを素直に出さない&盛り上げない作者の屈折ぶりには好感を抱くが、一方でそのひねくれ具合が面白さに繋がっているかというと、う~ん。まあ、おまえの気づいていないこういうギミックもまだあるんだよ、と言われそうな一冊でもあるんだけれど。

No.2 7点 虫暮部
(2017/09/14 11:12登録)
 好きなタイプの作品だし前半は面白いのだが、それに比して結末の爆発力に欠けた。がっかりと言う程ではないが、何かもう少し違ったまとめ方があったのではないかという気もする。
 本を手に取った時、“表紙のタイトルに難読でもないのにわざわざルビを振っている、あれっ、濁らないんだ?”とチラッと気になったが、それがああいう伏線だったとは。

No.1 6点 メルカトル
(2017/08/06 22:29登録)
実に惜しいと思います。あとわずかで傑作になり損ねた残念な作品といった感じがします。それはサブタイトル通り、奇数章で描かれる、孤島でホラー映画のロケハンを行ったすべてのスタッフが死亡していく様がかなり退屈だからです。特に記号化された登場人物たちが見事に無個性で、単にセリフを喋って行動して死んでいくのを淡々と描いていますが、ある意味ドキュメンタリータッチで、何の面白みもなく延々読まされては、正直苦痛さえ感じてしまうというものです。
この事件は大部分がカメラにおさめられているのですが、警察も犯人追及を放棄したように、それぞれの事件が事故なのか自殺なのか殺人なのか判然としません。結局は『そして誰もいなくなった』へのオマージュなのか、それとも何か斬新な仕掛けが施してあるのか、それすらも最後まで五里霧中という仕組みです。
偶数章で探偵社に勤める探偵たちがああでもないこうでもないと推理を戦わせますが、それすらもなぜかもどかしく感じられて仕方ありません。名探偵の月島凪の不在が痛いです。


【ネタバレ】

最初の三件が殺人、殺人、自殺でここまではいいです。しかしその後は期せずして起こった事故、殺人、自殺というのがどうにも釈然としません。これらは「呪い」として片づけられますが、真相として納得がいかないというか、偶然に過ぎるきらいがありますね。
最終章ですべてがひっくり返りますが、なんとなくすっきりしません。ここでもっと驚愕の事実が明らかになっていれば、それまでの低迷ぶりをすべて吹き飛ばせたのにと思うと残念です。ただ、この章の存在感は個人的には好みです、いかにも捻くれた作者らしいと思います。

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