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ミステリの祭典

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名探偵ジャパンさんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:370件

プロフィール| 書評

No.230 5点 富豪刑事
筒井康隆
(2018/09/03 14:06登録)
ミステリ部分に特に見るべきものはないが、設定の奇抜さとキャラクターの面白さで読ませていく。
これはまさに、昨今のミステリ界に幅をきかせている、日常の謎を取り扱ったキャラクターミステリの構造そのものです。ですが、それら十把一絡げの「キャラミス」と本作を決定的に分けるものは、作者が持つ毒と、どこか自作を突き放した客観姿勢でしょう。

いわゆる「キャラミス」を書く作者の姿勢として共通するのは、とにかく自作のキャラクターがかわいくて仕方がないという愛情です。まるで我が子を育てるかのごとく、作者は自身が生み出したキャラクターたちを愛し、読者にもそれを要求します。この『富豪刑事』は同じ「キャラミス」の構造を持ちながらも、それが著しく欠けているように思えるのです。読んでいて私が感じたのは、「早く終わらせたい」という作者の欲求、焦りばかりでした。
もうちょっと掘り下げようよ、というところで、いきなり作中人物がメタ視点に立って強引にストーリーを進める。明らかな作者の「天の声」が介入してくるなど、慣れないミステリを書いてみたはいいが、どうにもうまくいかなくてさっさと幕を引きたがっている。そんなふうに読めてなりませんでした。

というわけで、ミステリとしては高い評価はできない本作ですが、作者がどう思おうが登場するキャラクター、設定の魅力はかなりのものがあります。昨今の「キャラミス」が束になってかかってきても到底太刀打ちできないほどのものです。
このキャラクターたちを使って、まだまだ続編を書けたはずですが、潔くそうはしなかったところも、昨今の「キャラミス」とは一線を画するところでしょう。


No.229 8点 龍神池の小さな死体
梶龍雄
(2018/09/03 13:19登録)
完全に不意打ち的な掘り出し物でした。
始まりこそ、いきなり数名もの登場人物が一度に出てきたり、土木建築に関する専門的なやりとりにページを割いたりして、読み進めるモチベーションを維持するのに難儀をしましたが、それも少しの間だけのことでした。
謎やトリックのひとつひとつに、いちいち整合性と根拠が示されており、しかも伏線も抜かりなく、かなり巧妙に張られています。出版された年代でこれを書いたという時代的価値を考慮するまでもなく、現在の擦れたミステリマニアの眼鏡にも十分かなう一品でしょう。
難をつければ、池で起きた殺人事件には現場見取り図がほしかったですね。トリックの役割がより明確に説明できたかと思います。

調べてみたら、この作者の作品はほとんどが絶版で、入手不可能(図書館で検索しても、数点しかヒットしませんでした)な状態に陥っているようですね。
こんな逸品を眠らせておいて、ミステリに携わる出版人や作家たちはいったい何をやっているのか、と呆れてしまいます。


No.228 5点 怪盗不思議紳士
我孫子武丸
(2018/08/27 15:26登録)
演劇舞台のノベライズとは知らずに、「我孫子武丸」と「怪盗」の取り合わせが抜群に面白そうだ、と思って読みました。
冒頭から中盤にかけては、ミステリ的な仕掛けを予感させるガジェットがいくつも出てきて期待を煽られたのですが、本作のジャンルからも知られるとおり、古式ゆかしい快盗VS警察、じゃなかった、怪盗VS探偵ものに終始し、ミステリ的な仕掛けや驚きはほとんどありませんでした。
そういった意味では、私が昨今読んだ中でも最大瞬間風速的な肩すかしを食らった作品となってしまいましたが、これはジャンルをよく確認しないまま読んでしまった私のミスです。
このジャンルの作品としては、キャラクターも立って大変よくできていますし、読み応えもあります。


No.227 6点 ルビンの壺が割れた
宿野かほる
(2018/08/13 16:03登録)
人並由真さんの書評にも書かれていたとおり、本作はネット上で話題沸騰らしいです。「ラストで驚愕!」という、ある種お決まりの文句と一緒に紹介されています。タイトルも意味深に思えて興味をそそられます。

で、私も読んでみたわけですが、なるほど大変読みやすく、いたずらに長くもなく、「ラストで驚愕」という煽りもそのとおり。これは普段ミステリに接する機会のない読者の方々にも十分アピールすると思いました。
これも人並由真さんの書評にありましたが、最後まで読み終えた段階で思い返してみれば、確かにメールのやりとりをする二者間で「あの話題」が一切出てこないというのは不自然で、それはなぜかと問われたら、「そうしないと話が成り立たない」というメタ理由しか出てこないでしょう。
ですがそれは、「あとから振り返ってみる」という行為をするからそう感じるのであって、恐らく本作はそういった読み方は推奨されなく書かれています。
つまりは「ライブ感」リアルタイムで読んでいる今現在に読者を驚かせて楽しませる。先のことは考えない。立ち止まって過去を顧みることもしない。常に人気を得続けなければならず、止まると死んでしまう週刊連載漫画のような疾走感で書かれているということです。これは、そういったものを求めている世相、読者層に対して書かれているものなので、いい悪いという話ではありません。

ただ、世間では本作が「ミステリ」として紹介されていることに危機感を覚えます。本作を読んで、「またこういうものが読みたい」と思った読者が、いわゆる「本格ミステリ」を手に取ったら、非常に退屈してしまいミステリ嫌いになってしまわないかと危惧してしまいました。


No.226 7点 マツリカ・マトリョシカ
相沢沙呼
(2018/07/28 23:29登録)
シリーズ初の長編です。
私の本シリーズの書評としては、二作目の『マツリカ・マハリタ』をとばしていますが、内容的には一作目の『マツリカ・マジョルカ』と大差ないため割愛させていただきました。

で、本作になるのですが、前二作とは打って変わって、このシリーズらしからぬ(?)本格的な二つの密室の謎が提示され、解決も論理的で納得のいく見事な仕上がりになっていると思います。

ただ、あくまで私見なのですが、主人公の男の子は、個人的ミステリ界もっともイライラする主人公で(笑)、そこのところが読んでいてイラっとして、手放しで褒められない要因になってしまっていました(一作目、二作目まではまだ我慢できましたが、三作目に至ってもこの状態で 笑)

せっかく、神(作者)の采配で、事件に関係する人物ほとんどすべてが美女、美少女ばかりというハーレム状態で、しかも何かと気をかけてくれる良い子ばかりなのに(加えて、数少ない男子レギュラーは女子に一切ちょっかいを出さない、というお約束つき)、この主人公は、いつまでも「自分はそんなことをされる価値のない人間で云々」と、うじうじしてばかり。
そうなってしまった理由が、敬愛していた姉の死にあるという説明はされているのですが、あまりに主人公のネガティブ思考を延々と聞かされてばかりでいい加減辟易してしまっているので、「主人公をこういう性格にするために姉が殺されたんだね」というメタ視点での「設定付け」ばかりを先行して考えるようになって覚めてしまいます。そのくせ、頭の中ではエロいことをしっかり考えているという、そこだけリアルな高校生男子像がいびつです。

それに対して、もうひとりの主人公であるマツリカは、出番自体は少ないながらも、長編ということもあってか、今回はいつも以上に大活躍を見せます。クライマックスでの登場場面とその後の推理展開はかっこよすぎです。これぞ名探偵。最高でした。


No.225 7点 GOTH リストカット事件
乙一
(2018/07/27 10:02登録)
「本格ミステリ大賞受賞作」という看板がついているにもかかわらず、今までどういうわけかスルーしてきた作品でした。乙一はホラー系の作家、という先入観があったためかと思われます。
で、読んでみたわけですが、文庫版のあとがきで、本作は元々ライトノベルとして執筆されたという経緯が分かりました。なるほど、言われてみれば確かに、「痛い系」オタクの理想を具現化したような主人公とヒロインなど、随所にそういった記号が散りばめられています。

ミステリ的な視点で見れば、使われているのがほとんど「○○トリック」で、「またこれかよ!」と思い、さらには「どうせあれだろ」と穿った読み方をするようになってしまいます。恐らく当時は「○○トリックにあらずばミステリにあらず」という風潮の時代で、そこが本作とベストマッチして大賞受賞とあいなったのではないでしょうか。

もしかしたら否定的な意見に読めてしまうかもしれませんが、好きか嫌いかで言えば、私は好きです。○○トリックの使い方も効果的で印象に残ります。もし高校生の頃に本作に出会っていたら、10点くれて大絶賛していたと思うのです。マイナスの3点分は、私が大人になって失ってしまった何かなのでしょう。


No.224 6点 雪冤
大門剛明
(2018/07/13 16:31登録)
色々と惜しすぎる傑作な気がします。
空さんの書評にあった「あの場面」とは、恐らくあれのことだと思うのですが、確かにあれには私も驚き、「何やねん! こいつ!」と激しく憤りました。このテンションを保ったまま展開が進めば大傑作になりえたかもしれなかったのですが、その後は、一気にトーンダウンというか、お決まりな展開に移行していってしまいます。
ラストのどんでん返しも、決して悪くはないのですが、この作品にそれを求めていないというか、取って付けたような印象は拭えませんでした。(生活反応の有無でばれるのでは?)「ミステリしよう」という作者の思惑が裏目に出てしまったのかもしれません。


No.223 6点 異常探偵 宇宙船
前田司郎
(2018/07/06 21:07登録)
三津田信三の新作「碆霊の如き祀るもの」を買いに行ったのですが、隣に置いてあったこの本のタイトルが目に入り、「ああ、そういえば『ミス祭』で小原庄助さんがこの本の書評を書かれていたな」と思い出し、思わずこっちのほうを手にとってレジに向かってしまいました。作者は小原庄助さんに感謝するように。

で、読んだ感想なのですが、まず、ミステリではないですね。ミステリではない。じゃあ、何だ? と問われると、「変な小説です」としか私には答えようがありません。が、好きか嫌いかで訊かれると、「好きです」と答えてしまうでしょう。
「ヒーローもの」の一種だと捉えることも出来るでしょうか。常人とは違う特性を持っているがため、一般社会から距離をおき、都会の陰で暗躍する怪人物たち。次々に登場する「変人」たちが、「X-MEN」もかくやという活躍を見せます。
異分子としての苦悩や、ちょっと心が温かくなる場面など用意しているところも、「マーベルコミック」っぽいです。

今度書店に行くときは、ちゃんと「碆霊の如き祀るもの」を買います。


No.222 6点 マツリカ・マジョルカ
相沢沙呼
(2018/06/18 23:01登録)
シリーズ最新作の「マツリカ・マトリョシカ」が評判がいいと聞き、読んでみようと思ったのですが、シリーズもののため第一作のこちらから手を付けていくことにしました。
これは完全にキャラクター小説ですね。ミステリ3に対してキャラクター7くらいの配合。ですがこれはいい意味での評価で、優れたキャラクター小説にミステリ的なスパイスがかかっていると思えばいいのです。
本作は一応、一般書籍として出ているのですね。こういうものこそ若い読者に読んでほしいので、ライトノベルレーベルで出して若いミステリファンを増やしてほしいものです。


No.221 6点 言霊たちの夜
深水黎一郎
(2018/06/17 19:50登録)
ミステリではないのですが、かなり笑えるので好きです。
特に三話目の「鬼八先生のワープロ」は、出だし数ページでもう、作者が何をやりたいのか、何を読ませて、どう笑わせてくれるのかが手に取るように分かり、実際そのとおりでした。
とはいえ、これは決してネガティブな感想ではなくて、予想を越えて期待に応える、想像していた以上に凄まじかったですね(笑)
言ってみれば、全編下ネタの嵐で、読む人をかなり選ぶ内容ですが、ただのおふざけではなく、知識と教養に裏打ちされた下ネタとでも言いましょうか、下品だが上品な仕上がりとなっています。ただ、でも絶対に人を選びます(笑)気が置けない、寛容な人にしか勧めてはいけません。
逆に言えば、もし本作を(特に「「鬼八先生のワープロ」が面白いよ」などという言い方で)勧めてくる人がいたら、その人はあなたのことを相当に心の広い人物だと認めてくれているということでしょう。


No.220 5点 六枚のとんかつ
蘇部健一
(2018/06/15 21:33登録)
ひどい、ひどいと読む前から悪評ばかりが耳に入っていたせいか、そこまで言うほどではないのでは? と感じました。が、「文庫版あとがき」を読むと、作者自身当作を「ゴミ」と認めていて、文庫化の際に文章の手直しをして、あまりにひどい作品は削除したのだとか。正直、この文庫版でも「これは……」という部分が少なくなかったため、修正前は相当な代物だったのでしょう。
確かに「普通考え付いてもこれで書きはしないでしょ」という安易なトリック(?)のものも散見されますが、表題作はなかなかいい線行っているのではないでしょうか。

本作が初刊行されたのが1997年。もう二十年も前ですよ。それからミステリ界は大きく様変わりしており、それこそ「『日常の謎』って言って、ラノベみたいなキャラクターさえ出しておけば、どんなアホみたいなトリックでも許されると思うなよ」と言いたくなるようなミステリが大量に生み出されていますから。それらと比べたら、本作は真摯に「本格ミステリ」と向き合っていると言えます。作者が悪いのではなく、(この作品が)生まれた時代が悪かったのでしょう。


No.219 8点 聯愁殺
西澤保彦
(2018/06/06 13:07登録)
大好きな作品です。
手がかりがどんどん後出しされるという展開に不満を持つ方もいるようですが、それらは「警察側が事件解決には不要と思い伏せていた手がかり」のため、探偵がそれを知らないまま推理を繰り広げ、それを受けて必要だと思ったら警察が新しく手がかりを出していく、という流れは自然でかえってリアルだと思います。これはいわゆる「後期クイーン的問題」を作品内レベルに落とし込んだものなのですよね。

真相も後味の悪さは残りますが、納得のできるものでした。「後味の悪い終わり方をして読者に苦い読書体験をさせてやろう(笑)」という作者の嫌がらせに近い、メタレベルからの介入による後味の悪さではなくて、作品内できっちりと流れのある展開だからでしょう。

ただひとつの不満点は、登場人物の名前です。どうして意味もなくこんな難読漢字を当てるのか(西澤は本作に限らずそういう傾向が多いですよね)。読書のテンポを阻害する要因でしかありません(これこそ嫌がらせでは)。ここまで変な名前を出すのであれば、初登場時だけではなく毎回ルビを振ってほしいです。


No.218 8点 贖罪の奏鳴曲
中山七里
(2018/06/03 17:23登録)
これは面白かったです。
冒頭から中盤はハラハラしっぱなし(内容にも、「ここまで書いて、どう落とし前付けるんだ?」というメタ的な視点でも)だったのですが、第三章からようやく物語が落ち着きを見せ、安心して読み進めることができるようになりました。
ピアノを聴いて改心とか、携帯電話の持ち込みはもっと早く誰か指摘するはずでは?(違和感を持った読者も多かったはず)など、突っ込みどころはありますが、それらを抱え込んでもなお読者を圧倒するパワーに溢れています。
登場人物たちも、誰も彼も(善悪という区分ということではなく)魅力的で、久しぶりに「終わらないでくれ」と思いながら読んだ本になりました。お勧めです。


No.217 7点 卍の殺人
今邑彩
(2018/06/02 19:50登録)
館の見取り図が出た時点で(というよりも、タイトルを見て「卍形の館が出てくるのかな? だとしたらトリックは……」と思った時点で)おおよそのメイントリックが推察されてしまいました。
いざ本編が始まって、主人公の部屋があそこになり、あの位置が現場となり、主人公がああいう目に遭ったところで疑惑は確信に。途中で服のボタンが外れて見つからなくなるというシーンも、解決編でこれを決め手にするためだな、と察しが付きます。
で、犯人は当然、このトリックを行える(主人公を罠に嵌められる)人物に限定されるわけで、連鎖的に犯人までが……。
いきなり否定的なことばかり書いてしまいましたが、面白いか面白くないかで言えば、絶対に面白い作品です。トリックがすぐに分かるというのも、逆を言えばフェアに手掛かりが示されているということの裏付けでもあります。トリック抜きにしても、主人公の境遇、ドラマ自体にも読み応えがあります。何より、これがデビュー作であれば、十分に及第点でしょう。

本作は初登場時(1989年)、かなりの酷評を受けたということが中公文庫版のあとがきに書いてありますが、どうして? と言いたくなりました。今ほどミステリファン(マニア)の目が肥えていたというわけでもないでしょうし、何なんでしょう。偏屈なマニアが多かったのでしょうか。


No.216 6点 そして五人がいなくなる
はやみねかおる
(2018/05/21 20:41登録)
対象にしているのは、小学校中学年から高学年くらいでしょうか。こういう読みやすく楽しい読み物は、ミステリの導入口としてうってつけでしょう。「子供の読むものだ」と割り切って読めば、大人でも楽しめると思います。

以下、トリックのネタバレがあります。

宙づりになった箱から人間が消失するトリックですが、あの方法であれば、鏡に遮られてロープが二本しか見えない角度が必ず出てくるはずです。にもかかわらず徹底して「三本のロープ」という記述しかないというのは、少しアンフェアな気がします。観客の中に「自分にはロープが二本しか見えなかった」という証言でもあれば、探偵がトリックを見破るヒントにもなって、フェアになったのではないかと思います。


No.215 5点 蜃気楼の殺人
折原一
(2018/05/20 21:39登録)
折原一といえば叙述トリックの第一人者ですが、かつて「ミステリといえば旅情もの」という時代がありました。その時代においては、「旅情ものを書かねばミステリ作家にあらず」とまで恐らく言われていたのでしょう。仕方なく(?)折原も旅情ものを書き、そこへ得意の叙述トリックも組み込んだのですが、旅情と叙述は「ベストマッチ」とはいかなかったみたいです。
折原ミステリには、やはり狂った人間が必要です。最後になってようやくそういった人物が出てくるのですが、時すでに遅しというか、場違い感がすごいです。折原作品としては異色というか、楽しみ切れない中途半端な作品になってしまったのは残念です。


No.214 7点 時鐘館の殺人
今邑彩
(2018/05/20 21:27登録)
全般的に楽しめました。

「生ける屍の殺人」
やはりラストに賛否が分かれるところでしょうね。私としては、あの人物があれであるとは、完全に明かさず、ぼかして書くにとどめたほうがよかったのではないかと思います。サングラスを外すところで終わるとか。「驚愕のラスト」というよりも、「それ、書いちゃうんだ」という白けのほうが勝ってしまいました。

「黒白の反転」
これは見事に騙されました。後味が悪いのですが、いわゆる「イヤミス」というもの特有の趣味の悪さは感じません。そういう要素抜きにしても、ミステリとして端正に書かれているためでしょう。

「隣の殺人」
皆さん書かれているとおり、すぐに落ちが分かってしまいます。そのくせ紙幅を結構取っているので、「早くネタを割って終わってくれ」と思いました。もっとぐっと短くまとめたら読み甲斐もあったのではなかと思います。

「あの子はだあれ」
ミステリではなくホラー的SFでしょうか。箸休め的ないい話ですね。

「恋人よ」
これもラストの評価が分かれる作品ですね。「生ける~」と同じく、はっきりと真相を書いてしまったのは白けます。「そうであってくれてよかった。あれ? でも、もしかして……」と、ぼかして終わらせてほしかったです。

「時鐘館の殺人」
表題作にして本短編集のベスト。プロローグで原稿の枚数で編集者とやりとりをしていたのが、作家あるある的なネタではなく実は伏線で、こんな形で回収してくるとは。作中作自体は普通のミステリですが、全体的な仕掛けが楽しかったです。


No.213 6点 妖盗S79号
泡坂妻夫
(2018/05/20 21:06登録)
神出鬼没の怪盗S79号の華麗な盗みの手口と、それを追う二人の刑事の活躍(?)を描いた怪盗ものミステリです。
折しも今年(2018年)の日曜朝の戦隊が「怪盗(快盗)VS警察」という縁もあって読んでみました。
うーん、ちょっと思っていたのと違ったというか。いえ、中身は意外なくらい「怪盗VS警察」しているのですが、そうであることがかえって肩透かしを食らったと言いましょうか。あの泡坂妻夫が、このまま終わらせるはずがない。と思っていたら、本当にそのまま終わってしまってびっくり。怪盗事件の裏で別件の連続殺人事件も同時進行しているのですが、これも、最後にどのように本筋と絡んでくるのか? と期待していたのですが、普通に終わってしまいました。
おそらく私が勝手に異様にハードルを上げすぎただけなのだと思います。楽しめるか楽しめないかと訊かれたら、楽しめる、と答えられることは間違いないです。


No.212 6点 奇偶
山口雅也
(2018/04/10 23:08登録)
何とも奇妙な作品です。
最後の「あのトリック」を成立させたい(やりたい)がために、それに至るまでの、ありとあらゆる理由付けが必要で、こんなに長大な物語になってしまったのか。
はたまた逆に、「そこに至るまでに起きた不可能状況の(作中においての)納得のいく理由付けのため、いわば「ラスボス」として「あのトリック」が生み出されたのか。鶏が先か卵が先か。トリックが先か現象が先か。どちらにしても、作者の山口雅也には「お疲れさまでした」と労いの言葉をかけたいです。
ひとつ言っておきたいのは、長いからといって退屈するというようなことはなかったです。物語として面白いです。ただ、本格ミステリか、と言われると言葉に詰まります。


No.211 3点 バカミスじゃない!?
アンソロジー(国内編集者)
(2018/03/19 23:01登録)
『バカミスの世界 史上空前のミステリガイド』でおなじみの小山正が編んだ「バカミス・アンソロジー」とは言っても、既作品からチョイスしているわけではなく、各作家に「バカミス」をテーマに書き下ろしてもらった作品を収録しています(山口雅也作品のみ再録)。ベテラン辻間先をはじめ、鳥飼否宇、霞流一といったミステリファンおなじみの名前から無名の新人まで、バラエティに富んだ顔ぶれ。実に豪華なアンソロジーです。
と、そこまでは良かったのですが、この「テーマ(バカミス)を伝えて書き下ろしてもらう」という行為が完全に裏目に出てしまった感は否めません。依頼を受けた作家たちのほとんどは、「えっ? これがバカミス? いや、まっとうなユーモアミステリとして読めるじゃん!」という評価をもらうことを期待して書いた感がありありです。こんなスケベ心丸出しのミステリは「バカミス」とは呼べません。というよりも、収録されたほとんどの作品が「ミステリ」ですらありません。好意的に捉えて「広義の意味でのミステリ」ではあるのでしょうが、私は「バカミス」はバカミスである前に、れっきとした「本格ミステリ」であるべきと考えています。「ロジックが根幹を支えている知的な本格ミステリ」で「バカ」なことをやる(やってしまう)から面白いのです。ロジックも何もない、ただのドタバタで「バカ」をやっても、それは「ただのバカ」です。

私の個人的な見解ですが、全9作品のうち、「本格ミステリ」と呼べるものは、山口雅也と霞流一のものだけ。うち、「バカミス」といってよいものは霞流一だけという、大惨事に終わってしまっています。
どうしてこうなってしまったのでしょう。思うに、依頼された作家たちのほとんどは、先に書いた「スケベ心」が鎌首をもたげたとともに、バカミスのことを「バカなミステリ」だと勘違いしてしまったのではないでしょうか。逆。バカミスとは上にも書いたように「ミステリがバカ」なのです。「バカなものを書けばいいんだろう」と、とにかく変なものや笑わせるものを書けば、それが「バカミス」として通用する。そんな軽い気持ちではバカミスは書けません。本気で本格ミステリに取り組んだ結果、作者の意図とは別に完成作がバカミス化してしまった。もしくは、本気でバカミスを書くために大変な労力を使った。バカミスとは、そういった情熱がなければ書けない(書いてしまえない)ものです。

ただ、ひと言言っておきたいのは、編者の小山正はバカミスを愛し、〈序文〉を読んでもバカミスに対する造詣が深いことが分かる、真のバカミス信奉者です。私の勝手な妄想ですが、編者の小山は依頼した各作家から上がってきた原稿を読むたびに、「あちゃー」と頭を抱えたのではないでしょうか。「違う。俺の、世のバカミスファンが求めているのはこれじゃないんだ」と。ですが、まさか「違う。書き直せ」などと言えるはずもありません。企画は動き出している。もうこのまま突っ走るしかない。小山は内心、忸怩たるものを抱えながら編集作業を行ったのでしょう(あくまで私の個人的な見解です)。

本書の刊行は2007年。本作の存在を知ったとき私は、「こんなブツを十年も見逃していたのか!」と地団駄を踏む思いでした。それだけに、読み終えた今のこの空虚さといったら……。十年間、書評が書かれていない(どころか登録すらされていなかった)こともむべなるかなです。とても心揺さぶられる企画だっただけに、大変残念でなりません。今こそ、まっとうな、バカミス好きの、バカミス好きによる、バカミス好きのためのバカミスアンソロジーの登場を強く望みます。

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