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ミステリの祭典

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異常探偵 宇宙船

作家 前田司郎
出版日2018年02月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 名探偵ジャパン
(2018/07/06 21:07登録)
三津田信三の新作「碆霊の如き祀るもの」を買いに行ったのですが、隣に置いてあったこの本のタイトルが目に入り、「ああ、そういえば『ミス祭』で小原庄助さんがこの本の書評を書かれていたな」と思い出し、思わずこっちのほうを手にとってレジに向かってしまいました。作者は小原庄助さんに感謝するように。

で、読んだ感想なのですが、まず、ミステリではないですね。ミステリではない。じゃあ、何だ? と問われると、「変な小説です」としか私には答えようがありません。が、好きか嫌いかで訊かれると、「好きです」と答えてしまうでしょう。
「ヒーローもの」の一種だと捉えることも出来るでしょうか。常人とは違う特性を持っているがため、一般社会から距離をおき、都会の陰で暗躍する怪人物たち。次々に登場する「変人」たちが、「X-MEN」もかくやという活躍を見せます。
異分子としての苦悩や、ちょっと心が温かくなる場面など用意しているところも、「マーベルコミック」っぽいです。

今度書店に行くときは、ちゃんと「碆霊の如き祀るもの」を買います。

No.1 6点 小原庄助
(2018/06/28 10:37登録)
宇宙船というのは、スーパーのレジ打ちの主婦、遠藤君江の通称で、実は探偵。助手は美青年だが心は少年の米平、そして少年AとBの少年探偵団で、協力し合って小児性愛者の死の謎を追っていく。
このように紹介すると普通の探偵小説に見えるが、内実は全く異なる。そもそも宇宙船は頭の中から聞こえてくるさまざまな声を締め出すために頭巾をかぶっているし、夫のことを本気で宇宙人だと思っている。出てくる悪役たちも、壁を自由に登り下りできる怪人物空気ゴキブリだの、兜をかぶり続けている筋肉ムキムキの鉄頭人だのと全員が変態、異常なキャラクターだ。
にもかかわらず惹きつけられてしまうのは、小児性愛、窃視症、病的窃盗(下着泥棒)といったものを正気の視点から描くのではなく、変な言い方になるが、正常なる狂気から普通に描くからである。コミックノベルながらにゆがんだ笑いが拡大されて、正気と狂気の境界が分からなくなる。
さらに作者が頻繁に顔を出して「読者諸君はどうであろう?筆者である私は」誰が犯人であるか「はっきりと確信が持てない」などといって読者を煙にまき、探偵小説の法則からも自由になろうとする。しかし、それでいてきちんと人物を動かし、アクションも提供して謎を解き、驚くことに感動的な場面すら用意して、エンドマークをうつ。
突飛で、大胆で、実に挑戦的な、最高にくだらない小説だ。

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