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ミステリの祭典

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卍の殺人

作家 今邑彩
出版日1989年11月
平均点6.64点
書評数14人

No.14 7点 虫暮部
(2022/12/15 15:31登録)
 取り入れるべき要素が予め或る程度定められていて、それらを如何に確実にこなしたか、がジャッジの対象になる、いわばフィギュア・スケートのような作風か。
 5回転ジャンプ! みたいな奇跡は無い。先鋭的なオリジナリティがあるわけでもない。寧ろ先の流れが読めて変な安心感があったりする。しかし各々の技が綺麗に決まって上手に着地出来れば、やはり拍手も沸き上がると言うものだ。

 思わせぶりなプロローグ。仮にあの睦言が叙述トリック的なミスディレクションだったら、と考えた。そしたらそれに相応しい二人がいるじゃないか。
 ってことで、実は義務教育の少年少女の早熟な濡れ場でした、と言う仕掛けを期待したんだけどね。

No.13 5点 パメル
(2022/10/24 07:42登録)
ネタバレあります



東京創元社が「鮎川哲也と十三の謎」を刊行する際、十三番目の椅子として公募したところ、この作品が選ばれた。なおこの公募は、翌年から「鮎川哲也賞」としてシステム化されている。
萩原亮子は、婚約者の安東匠に連れられて、彼の実家を訪れた。卍型をした屋敷には、双子の娘たちの家族である安東家と布施家の二家族が住んでいた。そして連続殺人事件が発生する。
複雑な家系図や屋敷の見取り図に魅了されるし、密室トリック・暗号トリックと本格ミステリとしてのガジェットは詰め込んであるし、雰囲気もお気に入り。
だが、共犯であればこそ成立するアリバイトリックを、共犯者ではあり得ないと誤認させるといったプロットは使い古されており、新鮮味は感じない。犬猿の仲と思わせての実は共犯という描写が、あまりにもあからさまで、なんとなく想像がついてしまったのが残念。

No.12 6点 ミステリ初心者
(2022/06/14 20:57登録)
ネタバレをしています。

 同作者の他作品も読んだことがありますが、それと同様に非常に読みやすかったです。全くストレスなく読み終えることができました。
 さらに、ギスギスしている(?)旧家の館ものであり、連続殺人があり、クローズドサークルではないものの一つの館で話が完結します。これらの要素により、ほぼ一瞬とも思えるほど早く読み終えられました。

 推理小説的要素について。
 大きな事件は2度。殺人事件は3度起こります。
 私は館の地図を見た途端、嫌な予感がしました。そして、亮子が付き合って3カ月であること、宵子が亮子を連れて醸造所を解説して回ったシーンなどを見て、ある程度は真相と同じものを予想しました(笑)。最初の事件が起こったのを見てからはもう確信しました(笑)。やや、予想されやすいというのは欠点かもしれません。ただ、それはフェアさの現われでもあると思います。

 不満点はあまりないのですが、亮子が良い人過ぎましたね。ラストがちょっと淡泊に終わります。亮子と宵子の対決、匠の葛藤を描いても面白かったかもしれません(笑)。

 総じて、読みやすい文と、館ものらしいダイナミックなトリックが持ち味の作品です。作者あとがきにかかれたような「酷評された」のは信じられません。本格推理小説への愛も感じられる一冊でした。
 佳作と呼ぶにはトリックがパンチ不足感が否めませんが、楽しめました。

No.11 7点 sophia
(2020/06/22 19:25登録)
探偵役も言及している通り、海外古典名作の本歌取りに挑戦した作品ですが、なかなか健闘していると言ってよいのではないでしょうか。メイントリックは「金田一少年の事件簿」にそっくりなものがありましたが、これが元ネタなのですかね。館の形は必ずしも卍でなくともよい、という指摘が鮎川哲也氏からもされていましたが、「Xの殺人」よりも「卍の殺人」の方が日本的な趣なのでこれでよかったと思います。一応作中でも卍の持つ意味が説明され、ムード作りがされていましたしね。余談ですが、図書館で借りたハードカバーが学研の本のような装丁でびっくりしました(笑)

No.10 7点 名探偵ジャパン
(2018/06/02 19:50登録)
館の見取り図が出た時点で(というよりも、タイトルを見て「卍形の館が出てくるのかな? だとしたらトリックは……」と思った時点で)おおよそのメイントリックが推察されてしまいました。
いざ本編が始まって、主人公の部屋があそこになり、あの位置が現場となり、主人公がああいう目に遭ったところで疑惑は確信に。途中で服のボタンが外れて見つからなくなるというシーンも、解決編でこれを決め手にするためだな、と察しが付きます。
で、犯人は当然、このトリックを行える(主人公を罠に嵌められる)人物に限定されるわけで、連鎖的に犯人までが……。
いきなり否定的なことばかり書いてしまいましたが、面白いか面白くないかで言えば、絶対に面白い作品です。トリックがすぐに分かるというのも、逆を言えばフェアに手掛かりが示されているということの裏付けでもあります。トリック抜きにしても、主人公の境遇、ドラマ自体にも読み応えがあります。何より、これがデビュー作であれば、十分に及第点でしょう。

本作は初登場時(1989年)、かなりの酷評を受けたということが中公文庫版のあとがきに書いてありますが、どうして? と言いたくなりました。今ほどミステリファン(マニア)の目が肥えていたというわけでもないでしょうし、何なんでしょう。偏屈なマニアが多かったのでしょうか。

No.9 8点 MS1960
(2016/07/16 23:04登録)
謎めいた館を舞台とした本格としての雰囲気作り、坂口安吾のあの小説に倣った人間模様、位置・方向を錯誤させるトリック、様々な制約条件がある本格としてのフレームワークの中で、ここまで小説としての完成度を高めたことは、この点数に値するのではないでしょうか。

No.8 5点 ボナンザ
(2015/08/22 12:51登録)
それほどオリジナリティは感じられないが、デビュー作としては佳作だろう。
文章が稚拙なのも残念。

No.7 7点 初老人
(2014/05/28 09:00登録)
ネタバレあり
布施家と安東家の構造が全く同じ事を利用して殺人の場面(実際には首を絞める真似だったのだが)を目撃させるトリックなど、巧妙さが光る。その後の方向感覚を狂わす襲撃など幾分苦しい部分もあり、犯行を暴く決め手となる証拠の不確かさなどもやはりマイナスではあるが、犯人である二人の行く末を暗示する事で読み手の心情に訴える手法は中々のものでデビュー作としては十分及第点に達しているのではないでしょうか。

No.6 6点 蟷螂の斧
(2012/07/06 07:27登録)
デビュー作としては、展開もいいし良い出来だと思います。ただ、事件解決か?と思われた後の真相が簡単に判明し過ぎるのがもったいないように感じました。語り手・亮子の友人が話だけで・・・というのはどうも釈然としません。亮子があることに気が付き、そこから真相にたどりついてゆく、犯人を追いこんでゆく、とした方が盛り上がったような気がします。

No.5 6点 makomako
(2012/03/10 14:25登録)
 この作品は前から読みたかったのだが、なかなか手に入らず今回ようやく手に入れた。本格物としてかなりいい線をいっているように思うのだが、登場人物がもうひとつ好きになれない。
 さらに気になるのは卍屋敷についての違和感です。本格物らしくへんてこりんな建物なのはむしろプラスなのですが、本文ではとても広大な建物で真ん中の大ホールは運動会ができそうなほどと書いてあるのだ。そうすると各個室はやっぱりべらぼうに広くないと挿絵のようにはならないのです。ところが部屋の図や本文の説明によると各個人の個室は普通の個室並みの広さとなっているようです??。どうみてもおかしいよね。
 殺人の方法もペーパーナイフでのどをひと切りで即死状態!。抜群のナイフの使い手?そんな人物は一人も出てこないのだが。
 こういった違和感を感じながら読んだのでどうしても低めの評価となりました。

No.4 7点 こう
(2012/01/25 23:36登録)
(少しネタバレあります)
著者のデビュー作で1989年作の様ですが昨年本屋で偶然手に取るまでタイトルすら知りませんでした。
 館物で、プロットが昔懐かしい作風で楽しめました。
プロローグはエピローグとの対として構成上必要だったのかもしれませんが察せ易いのが難点です。
 建物の構図も私も我孫子作品をイメージしてしましいました。刊行年度がさほど違わないのに損しているかもしれません。
 犯人についてはプロローグだけでも非常に察し易いですがストーリー、プロットいずれも昔懐かしい作風で新本格の他の作家のデビュー作と比べても見劣らないと思いました。 

No.3 7点 E-BANKER
(2011/10/29 22:27登録)
作者の長編デビュー作。
最近中公文庫から出た復刻版で読了。

~萩原亮子は恋人の安東匠とともに彼の実家を訪れた。その旧家は2つの棟で卍形を構成する異形の館。住人も老婆を頂点とした2つの家族に分かれ、微妙な関係を保っていた。匠はこの家との訣別を宣言するために戻ってきたのだが、次々に怪死事件が起こり・・・謎に満ちた館が起こす惨劇は、思いがけない展開を見せる・・・~

個人的には「好み」の作品。
新本格全盛期に書かれているためか、「奇怪な館」や「複雑な関係を持つ富豪一族」など、いわゆるコード型本格ミステリーのガジェットを詰め込んだ印象。
よって、好きな人は好きだし、毛嫌いする人もいるでしょう。
「館」は出来のいい方じゃないかな。
個人的には、館の平面図を見て、「もしかして○を使ったトリック?」という第一印象を持ったわけですが(→「8の殺人」からのインスピレーション)、なるほど・・・確かに館の特徴をうまく処理している。
伏線もこまめにちりばめているので、気付く人も多いんじゃないかな?
終盤以降、事件の構図が一変するので、その辺りのプロットも、デビュー作としてはよくできてると思う。
(プロローグが思い切りヒントになってるのが、良し悪しだが・・・)
ただまぁ、こういう作品を読んでると、「人が描けてない」っていう当時の新本格系作家に対する非難のフレーズが浮かんでしまうのは否めないかな。
(確かに、そのためか人物像があまり浮かんでこない)

No.2 8点 まさむね
(2011/09/10 22:11登録)
 個人的には,なかなかの収穫。本格モノとして,もっと広く読まれていてもいいような気がしますね。
 一方で,トリック自体に目新しく点はなく,犯人当てについても,読みなれている方にとっては比較的容易かもしれません。「綺麗に纏まっているけれど,ありがちな作品」と言われれば,うーん,否定はできないかも。
 しかし,自分なりの推理が展開できた作品であったこと,さらに建物のみならず,人物関係もシンメトリーとした設定に引き込まれましたので,加点しちゃいました。(甘すぎるかなぁ・・・?)

No.1 7点 江守森江
(2009/12/14 15:38登録)
鮎川哲也と十三の謎(実質的には初回の鮎川哲也賞)選考作品。
ダミー推理を捨て駒に伏線を潜ませた前半と安楽椅子探偵が真相を反転させる後半の二段構えになっている。
※一部の方々にはネタバレになります。
真相のドンデン返し&フーダニットが、まんま安吾「不○○殺人事件」なのは褒められない(選評の3氏が触れていないのはネタバレに配慮してなのか?)
その一方で、卍館をトリックに活かした事と伏線の回収は鮎川哲也と銘打った選考作品に相応しい。
デビュー作から纏め方が上手くインパクトが薄い作者の傾向が滲み出ている。
採点は水準やや上の6点にした。
※巻末にある鮎川御大の選評が楽しく+1点(←依井「記念樹」でも読んだ朧気な記憶がある)

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