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ミステリの祭典

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奇偶

作家 山口雅也
出版日2002年10月
平均点6.33点
書評数6人

No.6 6点 名探偵ジャパン
(2018/04/10 23:08登録)
何とも奇妙な作品です。
最後の「あのトリック」を成立させたい(やりたい)がために、それに至るまでの、ありとあらゆる理由付けが必要で、こんなに長大な物語になってしまったのか。
はたまた逆に、「そこに至るまでに起きた不可能状況の(作中においての)納得のいく理由付けのため、いわば「ラスボス」として「あのトリック」が生み出されたのか。鶏が先か卵が先か。トリックが先か現象が先か。どちらにしても、作者の山口雅也には「お疲れさまでした」と労いの言葉をかけたいです。
ひとつ言っておきたいのは、長いからといって退屈するというようなことはなかったです。物語として面白いです。ただ、本格ミステリか、と言われると言葉に詰まります。

No.5 6点 メルカトル
(2017/11/08 22:34登録)
一部では『匣の中の失楽』に次ぐ第五の奇書と呼ばれいているようですが、これは版元である講談社発信であり、一般には単なる奇書と呼称されるべき作品だと思います。
本格ミステリかどうかは意見の分かれるところだと思いますが、あまりに不確定性原理、確率論、人間原理などの衒学が溢れかえっており、その辺りが奇書と言われる所以なのでしょう。少なくともミステリであるのは間違いないですが、本格かどうかは疑問です。
奇偶とは奇数と偶数から転じて、丁半博打のことも意味します。そのタイトル通り、カジノのクラップスで4回連続六のゾロ目の奇跡に立ち会う主人公の火渡は、その4回すべてに賭けて勝ち続ける小人に取材したり、逆に負け続けた太極柄のネクタイの男がサイコロ型の電飾の落下により圧死したりするストーリーの流れは非常に興味深く読みました。
その夜、偶然眼の疾患により右目の視力を失う火渡は、偶然に次ぐ偶然に何らかの意味を見出そうと、新興宗教にのめり込んでいきます。
その後は面白いとか面白くないとかの次元を超えた奇書ぶりを発揮して、個人的には訳の分からなさが勝って、どう評価してよいのかすら判断できない状態です。

本作は山口雅也が残した、唯一の超異色作であり、ある意味氏最大のアダ花と言っても良い作品だと思います。

No.4 4点 いいちこ
(2015/07/15 15:02登録)
あまりにも強烈な偶然が続発する中、落とし処を危ぶみながら読んでいたが、量子力学・心理学で衒学まみれにしておいて笑止千万の結論。
立ち位置としてはバカミスというべきで、期待されるアンチミステリの領域には達していない。
であれば、こんなにやたら思わせぶりな大長編にするのではなく、もっと簡潔にキレ味よく結論に達するべき。
ミステリとしてはさらに低い評価が相応しいが、結論に至るプロセスと読み応えを買ってこの評価

No.3 7点 no.3
(2008/09/22 23:06登録)
「生ける屍の死」と「キッズピストルズ」の印象が強いと思いますが、今作は、目を患い精神が不安定になる作家が主人公で、全く違う作風です。主人公≒作者と思って読んだので、鬱っぽい心理描写が興味深かったです。
ミステリとしてというより、作者の内面吐露を楽しんでしまった感じですが、私には面白かったです。
ミステリとしても、予備知識無しに読んで高評価できるものなのかは謎で、「あの山口氏が書いた長編」として読むとなかなか楽しめるのではないかと思います。

No.2 8点 ぷねうま
(2007/09/19 16:16登録)
後半の宗教のあたりはちょっとダルかったが全体的にどう収束するのかが楽しみで一気に読めた。
読後に、同じく偶然をテーマにした映画『マグノリア』でラストで蛙が空からたくさん降ってきた時に天才少年が言った「ありうることは全てありうるんだ」というセリフが思い出された。
娯楽に触れる時ぐらい常識の枠は外しておきたい。

No.1 7点 しゃん
(2003/01/25 22:43登録)
 偶然についてこだわった小説。
 その手のことに興味があるので面白く読めた。
 偶然起こった意味のないことがらと、必然的に起こった意味のあることがら。その区別は何処でしたら良いのか、興味深い問題だと思う。
 本格ミステリかどうかは不明。だが、本格ミステリらしい論理のやり取りが面白い。論理の面白さを見せるのが本格ミステリだとすればこれほど本格ミステリらしい小説もないだろう。
 ただ、小説を読んだという気がしない。講談社現代新書の野矢茂樹氏や永井均氏の初心者向けの哲学の本
を読んだ気がする。

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