名探偵ジャパンさんの登録情報 | |
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平均点:6.21点 | 書評数:370件 |
No.30 | 4点 | 『アリス・ミラー城』殺人事件 北山猛邦 |
(2014/09/13 22:47登録) 「エ? コノヒトナニイッテンノ?」 読み終えた素直な感想がこれだった。どうやらそうらしい、と思っていたが、確信が持てず、かといってこれだけの分量の小説をすぐに再読する気も起きず。結局解説サイト等を回って、真相をようやく理解した。今まで読んだ中で最も難解な作品だった。 辛い点数を付けたが、これはひとえに、一読で作者の狙いを読めなかった(最後まで読んで「やられた!」というのとは訳が違う。最後まで読んだのに「理解できなかった」のだから)私のミステリ読者としてのレベルの低さによるもの。小学生が高校数学の問題を理解できずに、「何だよこれ」といちゃもん付けるのと似たようなものだと思っていただきたい。 本来であれば私が本作に点数を付けること自体、おかしな話なのだが。(理解できなかったやつに採点されたくないよ、と作者なら思うだろう)こんな読者もいたということで勘弁していただきたい。 本作のレビューはスルーしようと思ったが、自分の至らなさに対する戒めとして書いておくことにした。 |
No.29 | 7点 | バスカヴィル家の犬 アーサー・コナン・ドイル |
(2014/09/12 08:52登録) 私をミステリ小説の世界に引き込んだ、思い入れ深い一冊。 角川より新訳で出ていたので購入し読んでみた。 読む前に内容を思い出してみようとしたのだが、ほとんど思い出せず。まっさらな気持ちで読む事が出来た…というわけでもなく、読み進めていくうちに徐々に思い出してきた。場面場面に差し掛かると、少し先の展開を思い出していき、記憶の後追いをするような、不思議な読書体験ができた。大昔に一度読んだきりだったというのに、子供だった私にそれほど強烈な読書体験をさせたのかと、改めて本作が好きになった。 今になって読めば、ミステリ的要素はほとんどなく、ホームズとワトソンの冒険譚という色合いが強い。それらしいものは、ホテルから片方だけ盗まれた靴の謎くらいのものだ。当時の私がどうしてこれを読んで本格ミステリにハマったのかは分からない。恐らく「名探偵もの」という括りで、この後に読んだポワロやクイーンの影響のほうが大きいのだろうと思う。それでも私が生涯最初に触れた名探偵、シャーロック・ホームズの威光は大きく、これ以降、超能力も超科学も使うことなく、頭脳と行動力だけで悪人と戦う「名探偵」とカテゴライズされるキャラクター達は、私の中で「ヒーロー」となったのだ。 思い出補正も含めてこの点数を付けたが、「新本格」などをすでに愛読し、今から本作を初読する若い読者には、「そんなに面白くないよ」と言っておく(笑)。 |
No.28 | 5点 | 舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵 歌野晶午 |
(2014/09/10 17:33登録) 何だか誤解を受けそうなタイトルとカバー。 皆さんも想像されたように、こまっしゃくれたガキがアホな警察の鼻をあかして難事件をズバズバ解決。みたいなものかと思ったら全然違った。 ・黒こげおばあさん、殺したのはだあれ? いきなりこの気の抜けたサブタイトルで「むむっ!」と川平慈英みたいな声が出てしまう。が、内容はしごく真っ当なミステリだった。 挨拶代わりの軽いジャブといったところ。 ・金、銀、ダイヤモンド、ザックザク 第一話から繋がる設定に意表を突かれ、またしても「むむっ!」 後味の悪い、救いがない話だった。 序盤の関節技の攻防か。 ・いいおじさん、わるいおじさん どうやら全作、前の事件の設定を引き継いだ形の短編集のようだと気付く。突発的とはいえ、犯人の工作がずさんな気がした。 投げ技などの大技が炸裂しだす。 ・いいおじさん? わるいおじさん? 収録作の中でもっとも捻った作品だと感じた。犯行のきっかけとなった事故は、こういうことをやるのであれば、万が一に供えて何か対策を事前に練っておくのが普通ではないだろうか。片方に急用が入る、急病ということもありうる。(外にいるほうは立場上特に)これもまた救いようのない話。 これは凶器攻撃だ。 ・トカゲは見ていた知っていた 「黒こげ~」に次いでオーソドックスなミステリ。ラストに向けての箸休め的短編。 締めに入る。カウント2.9の連発。 ・そのひとみに映るもの 最後の事件にして主人公のある秘密が明かされる。しかし、それほど感情移入したキャラクターではないため、それを明かされても「ふーん」といったところ。 事件自体も結構捻っている。でも、小二くらいの年齢なら、犯人と思しき人物が手に持っていたものが、あれだと分かるんじゃないかなぁ? フィニッシュホールドで試合終了。いや、不完全燃焼の両者リングアウトか? 中身を読むと主人公はどう見ても刑事のおじさんのほうで、タイトルにある舞田ひとみは、ただヒントを与えるだけ。しかも本人はそうと意識しないまま。 ミステリとしては軽いノリで、子供向けなのかと言われたら、人はガンガン死ぬし、際どい話も含まれており、特に「いいおじさん?~」など、子供に読ませられないのでは? 一般向けドラマ化も無理だろう。 まさかの続編があるようなので、機会があればそちらも読みたい。 |
No.27 | 6点 | ○○○○○○○○殺人事件 早坂吝 |
(2014/09/09 09:02登録) キャッチーな表紙絵、二度見せざるを得ないタイトル、帯には書店員の紹介文と、地雷臭が半端ない武装に耐えきれずレジへ。 「まあ、つまらなかったらここでコキおろせばいいし」と軽い気持ちで読み始めたが、意外にしっかりしていて楽しめた。 本編の半分以上経過してからやっと事件が起きるなど、序盤の展開はだるい。取材の成果を生かしたかったのだろうが、船や諸島に関する描写が多すぎる。 タイトル当てという要素は必要なかったのでは? とも思うが、それも込みで購買意欲が湧いたことを考えると、怒濤のごとく発刊される新刊の中で、少しでも興味を引くには致し方ないのかも。 人気が出たらいずれドラマ化、映像化されるからそれを観ればと考えている方。本作は色々な意味で映像化不可能なので、気になったらご一読を。 |
No.26 | 6点 | 密室の如き籠るもの 三津田信三 |
(2014/09/07 20:31登録) この作者の作風から、短編というのは想像し難かったが、一作一トリックをうまく怪異現象と取り合わせて完成させていた。シリーズ探偵刀城言耶の魅力も増してきて、読み応えのある短編集となった。 ・首切の如き裂くもの 陰惨な過去の殺人事件、首裂きという残忍な殺害方法から、一気にアクロバティックな凶器消失トリックへ。あまりにギャンブルが過ぎるような気はするが、怪異とトリックのギャップが面白い。 ・迷家の如き動くもの いまひとつビジュアルがイメージしづらかった。登場の仕方、犯人との対決場面など、刀城のヒーローっぷりがかっこいい。こんなの刀城じゃない! と思ってしまう(笑) ・隙魔の如き覗くもの 個人的に一番よかった。アリバイトリック、被害者と殺人者との因縁など、テーマ性、本格テイストが最もあふれていたからかも。 ・密室の如き籠るもの 本の半分を占める中編。被害者が見せた「凍り付くような表情」の真相がミソ。長編でおなじみの多重推理も、刀城のやさしさという形で見せる。 |
No.25 | 7点 | 山魔の如き嗤うもの 三津田信三 |
(2014/09/02 22:39登録) 相変わらず骨太でド本格な作品を読ませてくれる。 無個性だったシリーズ探偵の刀城言耶も、山道を歩いている途中でビビる、親しくしていた関係者が殺され義憤にかられるなど、ちょっとヘタれだが心優しい青年というキャラが付いてきた。 これもシリーズ恒例となった多重推理については、最初の謎解き段階で、「どうせこれは間違った推理なんだろ」と思ってしまい、なおざりな読み方になってしまいがち。ただでさえ長い小説なのだから、今後何とかしてほしい。なぜわざわざ自分で間違った推理を最初に披露するのか、という疑問も。 とはいえ、よく作られた物語であり、犯人が猟奇的な行為をする意味も考えられているなど、ミステリとしては申し分ない。 刀城言耶のキャラが固まりつつあり、担当編集者との漫才のようなやりとりなど、コミカルな部分も出てきて、今後も目が離せない。 |
No.24 | 6点 | 星降り山荘の殺人 倉知淳 |
(2014/09/01 12:00登録) 初出1996年という年代を考えれば、当時は十分驚きの結末だったであろうことは想像できる。 「あくまでフェアに」が売り文句だが、探偵の推理で、「~の人物なら~はしないだろう」という、「だろう推理」が多いところが気になった。 あと、各章の最初にメタ視点からの文章があるが、ここに何か仕掛けるというのは、フェアと言えるのか? 確かに嘘はついていないのだけれども… 楽しめはしたけれども、何だか腑に落ちない読後感だった。 |
No.23 | 6点 | 世界短編傑作集3 アンソロジー(国内編集者) |
(2014/08/28 10:13登録) 密室ものの傑作と名高い「密室の行者」目当てで購入。 当該作は、珍トリック(こういうのをバカミスと言うの?)を駆使した傑作で、未だに語り継がれるだけのことはあると思った。 他の作品は、話には聞いていたが実作を読むのは初めてといったトリックのもの、すぐにトリックが分かってしまうものもあるが、歴史的価値として貴重な作品集。こういったものが絶版を免れ今でも書店で買えるというのは素晴らしいことだ。 「密室の行者」以外では、「二壜のソース」がよかった。 再三繰り返される「このソースは肉料理にしか合わない」という台詞。犯人が木を切っていた理由。そして最後の一行。どれも奮ってる。言うことなし。 |
No.22 | 7点 | 厭魅の如き憑くもの 三津田信三 |
(2014/08/25 10:14登録) 「首無~」の完成度が高かったので、シリーズ第一作から読もうと購入。 「首無~」がほぼ純粋な本格だったのに対し、こちらは随分とホラー要素が強い。刊行順からして、こちらが本来の作者の味なのか。 探偵、刀城のキャラがいまひとつ弱い。こういう人知を越えた怪異に挑むのであれば、作品の空気を和らげる金田一的三枚目か、いっそ知恵と力の象徴のような、明智、神津的超人にして、近代的探偵対前時代的怪異という対立を押し出したほうが盛り上がるのでは。 と思ったが、どうも作品のスタンスが、「怪異はないとは言い切れない」というぼかした立場のため、探偵を無個性にしたのはわざとなのかな、とも感じた。怪異のキャラより前に出るような三枚目探偵も、すべて人間の仕業と看破する科学の申し子のような探偵も邪魔なだけという考えなのかもしれない。あくまでこのシリーズの主役は、探偵でも犯人でもなく、怪異なのだ。 本作の舞台となる、因習に縛られ、それを盲目的に遵守する山村とそこに住む人々、科学捜査の発達していない警察、携帯電話・パソコンもない時代、というのは、トリックを成立させる上での、本格ミステリとして絶好の装置なんだなと改めて感じた。 |
No.21 | 7点 | 長い家の殺人 歌野晶午 |
(2014/08/23 08:47登録) 皆さんご指摘の通り、見取り図を見ただけでトリックを看破できるという珍しい作品。作者デビュー作ということで、これでよく何かの賞を取れたなと思ったのだが、島田荘司の推薦だったとは。本作刊行の1988年には、まだこれが「驚愕のトリック」として成立していたのか? また、やはりここの方々の書評はまことに的確で、まさに、ミステリ好きが書いたミステリ、という匂いがそこかしこに溢れている。 本編以上に興味深く面白いのは、新装版冒頭の作者の言葉と、巻末の島田荘司の「薦」で、歌野晶午誕生秘話が語られる。 全面的に直そうかとも思ったが、当時の気持ちまで消えてしまいそうで、やめたという作者の思い。いきなり押しかけてきた作家志望の青年を迎入れる島田の懐の深さ。(全く正反対のイメージがあった。問答無用で門前払いするような。島荘やさしい。御手洗潔のようではないかw もっとも、音楽に無知識であったら、島田に追い返されていたようだが)今では考えられない、古き良き時代のおおらかさに触れた。 作品自体は4点、作者の思いに1点、島荘の「薦」に2点で計7点をつけた。 |
No.20 | 9点 | 首無の如き祟るもの 三津田信三 |
(2014/08/18 00:24登録) 過去の事件に発する呪い、閉鎖的な村、君臨する大家族、怪異現象、密室殺人、首なし死体。「本格ミステリの鬼」と自称する人たちが狂喜乱舞するような舞台設定が整い、さらに、村の全景図、二ページにも渡る人物表、現場構造図も挿入されており「もうお腹いっぱいです」といいたくなる、超ストロングスタイルのミステリ。 ハリウッド映画の三時間超え大作アクション映画を3Dで鑑賞したかのような満腹感を味わえた。 呪いや怪異に支配された風習や取り決め、奇妙な建築物などは、ぶっちゃけてしまえば、作者が考えたトリックを無理なく成立させるために作者自身が用意した、いわば自作自演なのだが、(この作品だけでなく、ミステリの舞台装置というのは、おしなべてそういうものだ)それにいかに説得力を持たせるか。いかに、「こんなやついねーよ(笑)」とか、「これは無茶苦茶だろ」という読者の声を封じるか。そこに作家の力量が問われるわけだが、この作品のそれは絶妙。「もうこれ以上やったらヤバい」というギリギリで、踏みとどまっている。 それに加え、「このトリックをやるためにこの設定を作ったのか」というのが分かったときに、「うまい!」となるか、「いや、ちょっと強引だろ」となるか。本作においては、「うまい!」と唸るしかないと思う。 他の多くの方も書かれている通り、ある最初の欺瞞が発覚することにより、次々に謎が解かれる展開は心地よく、昔懐かしパズルゲーム「ぷよぷよ」の大連鎖が決まったかのような爽快感を得られる。 ただ、最後の逆転に次ぐ逆転の展開は、「もう勘弁してくれ」と言いたくなったが。 突っ込み所がないわけではないが、それを補って余りある「驚異の首なし死体トリック」が味わえる。これは全てのミステリ好きに読んでもらいたい。 |
No.19 | 6点 | ダンガンロンパ霧切2 北山猛邦 |
(2014/08/15 21:34登録) 純然たる続編なので、前作読了は必須。 今回も大がかりな物理トリックを駆使して楽しませてくれる。 この手のトリックを用いる際、必ず突っ込み所として挙げられる、「どうやって準備を?」の問題は、大きな権力、財力を持つ犯罪組織がバックにつき犯人をサポートする、という設定でクリア。 「作中において探偵は(死亡するような)被害に遭わない」というミステリのお約束を作中に取り込んだ、「探偵オークション」なるガジェットも登場。(その日の『探偵役』をオークションし、落札者にはその一日犯人は手を出さないという、安全を買うシステム。必ずしも探偵行為を行う必要はない) ただ、そういった舞台設定や制約があまりに多すぎるきらいはある。殺害トリックも、「そんなにうまくいくかなぁ?」と感じないこともない。 作者得意の浮世離れしたキャラも、原作がゲームのため違和感なく溶け込んでいる。北山はノベライズと相性がいいと再確認した。 二作限りのお祭り企画かと思ったら、続きがあるらしく、心待ちにしたい。 (ただ、本作最後の展開を見ると、次はミステリというより、ホラーとかSF要素が強くなりそうな・・・) |
No.18 | 6点 | ダンガンロンパ霧切1 北山猛邦 |
(2014/08/14 22:23登録) ビデオゲーム「ダンガンロンパ」のノベライズがあると聞き購入してみたら、作者が、あの「物理の北山」だったとは! ゲームのシナリオ担当者とかでなく、外部の作家がノベライズを書くというのは珍しいのでは? ゲーム舞台の前日譚という設定なので、ゲームを知らなくとも楽しめます。多分。 本がB6サイズなのだが、上下に必要以上に大きく余白が取られていて、資源の無駄使いな気分。(読者が推理するために書き込むスペースなのか? と思うほど) 作品ごとの独特の世界観を売りにする作者だが、原作ゲームという与えられた世界ありきの本作は、当然そういった「世界観との馴染めなさ」は発生せず、(そもそも原作ゲーム世界を許容したファンしか買わないのだから当然だが)ノベライズには相性の良い作家なのではないかと思った。 ぶっ飛んだ世界観の割に、結構本格ミステリしていた原作ゲーム同様、本作も意外に、と言っては失礼だが、楽しめた。 ゲームの事件が起こる前の話のため仕方ないのだが、人気キャラの「モノクマ」(声:大山のぶ代)が出てこないのは残念。 |
No.17 | 7点 | 11枚のとらんぷ 泡坂妻夫 |
(2014/08/14 21:51登録) 突然、角川文庫の新刊として出ていたので購入した。 第一部の、昭和の匂いがぷんぷんする(今から見るとギャグシーンもスベってる感があるが、笑いのサイクルは異様に早いので、これはやむなし)マジックショーのどたばたぶりに、ちょっと辟易してしまったが。(しかしこれも後に伏線に・・・) 第二部の作中作からは一気に読ませる。しかしこれはミステリとしての出来映えというより、奇術師たる作者のスキルによるものなので、これ一回こっきりしか使えない技ではあるが。 そして全ての伏線を回収して収束させる、見事な解決の第三部へ。ただ、ミステリ初心者さんも触れられている、晴江のあの発言は、私はギリアウトだと思う。 |
No.16 | 7点 | エラリー・クイーンの新冒険 エラリイ・クイーン |
(2014/08/14 21:27登録) 長編の国名シリーズとは打って変わって、ポーラとキャッキャウフフしたり、野球観戦で応援に声を張り上げたりする、普段着のエラリーの姿が見所。 ・神の灯 有名作で、トリックのネタバレを知ってから読んだのだが、それでも十分楽しめた。メイントリック以外、最後にもうひとつ逆転が控えており、明るい作風の本短編集向きのさわやかな読後感。 ・宝探しの冒険 宝の持ち出し方法まで考えた隠し場所が秀逸。でもこれが成功したとして、そんなにうまいこと回収できるかなぁ? ・がらんどう竜の冒険 変な名前の日本人が出てくる。現物を見ることなく周辺状況から「それ」の状態を推理する展開が好き。 ・暗黒の家の冒険 銃撃によりターゲットを殺すだけでなく、証拠を消し去る効果もあるというアイデアが面白い。 ・血をふく肖像画の冒険 うーん。これはいまひとつだったかな。伝説通り肖像画に血が付く過程は面白かったけど。長編のいちガジェットとして使ったほうが映えたかも。 ・人間が犬を噛む 「あれだけ」の青酸の量で致死量に至るのか? という疑問はあるが、発想と展開は面白い。試合観戦のために早く事件を片付けようとするエラリーがかわいい。 ・大穴 これは犯人がいくら火器に「うとい」という設定にしても、計画がちょっとずさんな気がした。 ・正気にかえる 消えエラリーの外套、そして、その外套の縫い目が引き裂かれていたということだけから犯人を言い当てる、理論派エラリーの面目躍如の一遍。 ・トロイヤの馬 「宝探し~」と同じく隠し場所にまつわる謎の話。一方のチームが試合に勝たなければ宝石は手に入らないということで、犯人は応援にとても力が入ったことだろう。 創元推理文庫の本作は、初版から実に50年経過して、未だに刷り続けられている。作品としては楽しめたが、本の体裁は当時と変わらず、最近の文庫に慣れた身には、文字が小さく、読みづらかった。 |
No.15 | 5点 | 『瑠璃城』殺人事件 北山猛邦 |
(2014/08/12 01:59登録) 前作「クロック城」を読んで、「この作者のはもういいかな」と思ったのだが、書店の棚を覗くと、最新作「私たちが星座~」以外の作品はもう置いていない。というのが数軒続き、飢餓感で一冊だけ置いてあった本作を購入した。 突然登場人物が「生まれ変わり」云々言い出して、「これは何かトリックの一環だな」と思ってたら、本当に生まれ変わりでびっくり。西澤保彦が得意とする、超常現象前提ミステリだった。 その生まれ変わりのルールがいまひとつ飲み込めず、漫画「デスノート」のような、作者が作劇を行うに当たって都合の良いようにいくらでもルールを変えられる現象。という感じで、話にのめり込めなかった。 ただ、各時代で発生するトリックはどれも豪快で、「物理の北山」(学校の先生みたい)の面目躍如といえる。 ひとつのトリックで数百ページ引っ張るような作品と比べたら、そのサービス精神はすばらしい。 次のシリーズも、書店で見かけたら、買う、かもしれない。 |
No.14 | 7点 | 電氣人閒の虞 詠坂雄二 |
(2014/08/04 10:29登録) 「リロ・グラ・シスタ」で酷評したにも関わらず、「佐藤誠」に続き本作も購読してしまった。実は詠坂雄二が好きなのかもしれない・・・ 本サイトのジャンル分けが「サスペンス」ということで、最初から色眼鏡で見ながら読んでいたのだが、オチ、そして最後の一文には爆笑させてもらった。 ~~以下ネタバレ~~ 読後の方にはお分かりのように、本作は「電氣人間」が過去を述懐している。という構成になっている。最後に、未来の出来事を持ち出していることからもそれは明らかだ。 そうすると、電氣人間が犯した二件の殺人の場面が、寸でのところで文章が切れているのはなぜだろう。 「それ以降(電氣人間が殺人を行う場面)を書いてしまったら、本作のネタがバレてしまうから、当たり前だろ」と言われるかもしれないが、それはメタレベルでの話。飯城勇三の言うところの、「神のメタレベル」からの介入ということになる。作品世界の外側にいる作者(神)が、「小説として成立させるためには、ここは書かないほうがいい」と判断した。ということだ。 私はこの、「神(作者)の介入」というのが好きではないので、飯城が言うもうひとつのメタレベル「未来からのメタレベル」として 考えてみたらどうなるのか。本書「電氣人間の虜」が、作中世界に実在する書籍、という立場を貫き通すには。 多くのミステリ小説は「実際(作中世界)に起きた事件を小説家なり事件の記述者なりが当時の資料を元に小説化したもの」という形を取っている。(そう捉えることが可能)本作も、そう考えなければ、わざわざ殺害シーンを省く理由が見つからないからだ。 では、この「電氣人間の虜」を書いた人物は誰なのだろう。それは、唯一電氣人間と交信できる韮澤以外にはありえない。妖魔ハンターとして活躍を続けるうちに、もう全ての秘密を明かしてもいいだろう、と韮澤が判断して、相棒との出会いのエピソードを、「電氣人間の虜」として執筆、出版したというものだ。もしかしたら、作中にも登場するプロ作家である詠坂雄二に執筆を依頼したのかもしれない。であれば、この本の作者が「詠坂雄二」であるということも、作中世界から逸脱することなく受け入れることができる。 書評というか、読み終わって考えついた、とりとめもないことを書き連ねただけになってしまったが、楽しめました。 詠坂雄二は今後も追いかけていこうと思います。 |
No.13 | 7点 | 帝都探偵 謎解け乙女 伽古屋圭市 |
(2014/08/02 09:40登録) 名探偵に憧れるお嬢様と、それに振り回されつつも実際に推理までしてしまう車夫。毎回少し外してしまうお嬢様の決め台詞、たまに成功する車夫の自己紹介など、お約束ネタもあり。読み進めていく途中は、新たな形のコンビ探偵誕生に喜び、「これはNHKあたりでドラマ化したらいいものが出来そうだな」などと、暢気な感想を持っていたのだが・・・ 結局本作も最後はびっくり箱を用意していたとは。タイムスリップして、「NHKでドラマ化」などと抜かしていた自分を蹴り倒してやりたい。映像化できるかこんなもん。 確かに面白かったし、最後いい話でまとめたのも好印象だ。しかし、釈然としないものが残る。久しぶりに魅力的なシリーズ探偵登場かと拍車喝采を送った自分への苛立ちか。 今の読者が欲しているのは、とにかく驚かせて欲しいというびっくり箱爆弾。一回限りでその世界ごと全て破壊してしまう爆弾が破裂してしまっては、シリーズを通して活躍する名探偵の登場など望むべくもない。探偵だけが爆破圏外に逃れ、次の事件に進むことは、もはや許されないのか。一作ごとの「使い捨て探偵」の時代に一抹の寂しさを憶えた。 |
No.12 | 5点 | 群衆リドル Yの悲劇 '93 古野まほろ |
(2014/08/02 09:15登録) 同作者の「天帝のはしたなき果実」を先に読み始めたのだが、独特の文体、登場人物の煩雑さに途中脱落してしまった。リベンジとばかり手に取った本作は無事(?)読み終えることが出来た。 クローズドサークル、密室殺人、天才的素人探偵。本格ミステリおなじみのガジェットを、若い感性で構築したらこうなるということなのか。 トリックや仕掛けは大掛かりなものもあり、この手のミステリを読む度思うのだが、「これ本当に個人で事前に用意できるのか?」と考えてしまう。 しかしながら、ホラー、SF要素を廃し(世界設定は架空の日本だが)あくまで本格に徹した姿勢は好感が持てる。機会があれば「天帝」にもまたチャレンジしてみたい。 |
No.11 | 5点 | あいにくの雨で 麻耶雄嵩 |
(2014/07/28 09:04登録) サンダとガイラ、矢的先生、ドン・ザウサー等、頻繁に登場する特撮、アニメネタに吹き出すも、事件そのものに先を知りたいという魅力はあまり感じず。平行して展開される生徒会の何やらも、「3年間の高校生活でなにもそこまで」と、主人公らの感じているであろう緊迫感と読み手とにどうしても意識のギャップが生まれてしまう。 これは事件そのものにも言えて、作中では何年も付き合いのある友人絡みの事件で、主人公たちが躍起になるのは分かるが、読者にとっては、本を開いて初めて会った人たちである。そこまで感情移入するのは難しかった。 |