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ミステリの祭典

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名探偵ジャパンさんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:370件

プロフィール| 書評

No.50 6点 ナウ・ローディング
詠坂雄二
(2014/12/05 22:24登録)
「インサートコイン(ズ)」に続く、テレビゲームをテーマとした短編集第二弾。もちろん舞台はおなじみ遠見市。

・「もう1ターンだけ」
「あきらめたらそこで試合終了だよ」あまりに有名なこのエールを、作者なりに解釈し、夢に向かって進む若者への応援メッセージを込めた作品なのだと感じた。しかし、この作者のこと、素直に応援などするはずもなく、もうひとつのメッセージを込めている「どんなにあきらめなくてもいずれ寿命は尽きるよ」

・「悟りの書をめくっても」
「リアルタイムアタック(RTA)」なる競技(?)をめぐる事件。「働かない二人」という漫画に出て来た、「ゲームが下手でも、楽しんでいるほうがゲーマーとして格が上」という台詞を思い出した。

・「本作の登場人物はすべて」
いわゆる「エッチなゲーム」をめぐる謎に主人公が挑む。にもかかわらず、主人公の達観しきった一人称や行動から、まったくエロさは感じない。この主人公、性欲はあるのか? と余計なことを考えてしまう。

・「すれちがう」
ニンテンドー3DSのすれちがい通信をガジェットに使った日常の謎的ミステリ。作者、詠坂雄二が大活躍? 本短編集の中ではかえって浮いてしまう、オーソドックスなミステリ。

・「ナウ・ローディング」
ほぼゲームとは関係のない、「遠見事件」の外伝的作品。これを読む前には、「遠見事件」を読んでおかれることをお勧めする。

全般的に主人公の人生を達観しきった(ような)中二的語りが、人によっては少々ウザいと感じるかもしれない。同じような構成の「インサートコイン(ズ)」のほうがゲームとの関わりも深く楽しめた。逆に言えば、こちらのほうがゲームに明るくない読者の方は楽しめる。


No.49 6点 『ギロチン城』殺人事件
北山猛邦
(2014/12/05 10:50登録)
前作「アリス・ミラー」で高度な文章トリックを使ってきた作者だったが、本作は、「俺たちの北山が帰ってきた!」と喝采を贈りたくなるガチガチの物理トリックものであった。
「ちょっとでも後ろを振り向いたら終わり」という薄氷を踏むようなトリックも、そのビジュアルを想像するとあまりに強烈で許してしまう。そして哲学的ともいえる犯人の正体。「アリス・ミラー」で培った叙述性と本来の物理トリックが合わさり、北山猛邦でしか成しえない怪作ミステリが出来上がった。


No.48 7点 ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!
深水黎一郎
(2014/12/05 10:32登録)
河出文庫で「最後のトリック」の改題で出版されていたもので読了。
当初の変なタイトルの頃のものからは加筆・修正が成されているらしい。
ミステリにおける「意外な犯人カテゴリ」最後にして難攻不落の砦「犯人は読者」に挑戦した意欲作。
結果として、他の方も書かれている通り、読者(もちろん私も含まれる)に殺意がないため、皆が想像したような「読者=犯人」の成立は微妙といえる。(言うなれば過失致死といったところだろうか)
しかし、そこを抜きにしても、導入部から引き込まれ一気に読んでしまった。普通にミステリとして面白いため、「犯人は読者」という色眼鏡を掛けた状態で読み始めてしまうのはもったいないかなと思った。だがこのキャッチーな煽りがなければ、本作を書店で手にしたかと言われれば唸ってしまうところで、作品の売り方というのは難しい問題だなと改めて感じた。
通常のミステリのように、明らかな殺意を持って被害者を殺害せしめ、トリックを労して完全犯罪の成立をもくろみ、しかし、最後には名探偵の推理の前に屈服する真犯人。それが本を読んでいる読者。そんな小説を書くというのは、果たして可能なのだろうか? そしてもしそんな小説が出て来た暁には、ミステリ界はどうなってしまうのか。
誰もが書きたい、読みたいと思いながらも決して届かない地平、「犯人は読者」それを体験できる日がいつか来るだろうかと、未来に思いを馳せてしまった。


No.47 5点 密室館殺人事件
市川哲也
(2014/11/20 17:50登録)
まさかのシリーズ化。
主人公は新世代探偵の蜜柑花子に。

ベテラン推理作家が自作に登場させた建築物をそのまま作った「密室館」語り手を始め、蜜柑ら数名がその館に集められる。そこでメンバーらは推理作家の企てる恐ろしい計画を聞かされるのだが……

同じようなテーマで二作続けて書くとは思わなかった。
作中で「現実(この小説の中の現実)にはミステリに出てくるような凄いトリックを使った事件などありえない」と再三語られているが、それを言ったらもうこのシリーズで「凄いトリック」を出せなくなってしまうよ。まさかそのため(作者がトリックを作れないこと)の言い訳なのかと勘ぐってしまう。
事実、本作に出てくるトリックは、そう驚かされるものではなかった。
蜜柑自身にも前作ほどの魅力を感じられなかったし、いまいち萌えなかった。
ラストからするとこのシリーズは続くようだが、次こそは「名探偵の業」みたいなテーマから離れるべきではないだろうか。せっかくの蜜柑花子というキャラクターが、これでは持ち腐れてしまう。名探偵は自らの業よりも、謎や怪奇と戦うべきなのだ。


No.46 7点 掟上今日子の備忘録
西尾維新
(2014/10/30 17:04登録)
これだけの著作を誇るにも関わらず、私は西尾維新は本作が初遭遇であった。アニメ化された作品も見たことはない。
しかるに本作を呼んで、その人気もむべなるかなと納得した。
まず読みやすい。キャラクターも立っている。不要な登場人物、ガジェットなど一切そぎ落として、読者を事件とキャラクターに注視させる手腕は凄い。
作者もこの年齢でこれだけの著作を上梓している。私は未読だが、他作も本作程度かそれ以上の内容を擁しているというのであれば、これぞ天才と評してもいいのかもしれない。
本作はミステリとしては「日常の謎」以上「本格ミステリ」未満
という内容。捜査一課でなく、知能犯や窃盗犯担当の二課、三課の出番というような事件で占められる。そのさじ加減も計算尽くなのだろう。
作中「三十歳では本格推理小説を書くには若い」という台詞が出てくる。これが作者の心情であるというなら、この作者の本領発揮はまさにこれからということだ。


No.45 6点 名探偵の証明
市川哲也
(2014/10/29 10:32登録)
一線を退いたかつての名探偵の悲哀。
これを読んで、藤子不二雄の珍作「劇画オバQ」を思い出した。
誰だって全盛期の勢いを失わずにはいられない。最近の名探偵は年齢固定の「サザエさん時空」に住むものが多いが、かつて明智小五郎、神津恭介とかは、実際に年代とともに加齢していってたなー。
そういった恵まれた晩節を迎えられる探偵ばかりではないということなのか。
新世代探偵が出て来たときは、老いさらばえた爺さん探偵を見下す小生意気な女探偵との、新旧対決となるかと思ったが、そういう(つまらない)展開は避けてくれた。
蜜柑は屋敷を尊敬し、犯罪には毅然とした態度を崩さない、大変心地いいキャラクターだ。普段と推理時とのギャップも萌え要素。
複数の事件が出てくるが、数が多いためか、どれも小粒。メインの密室トリックも、単純な割に説明が込み入るもので、スカッと解決といかなかったのは残念。

~~以下ネタバレです~~

最後の展開だが、主人公殺す必要あった?
今後蜜柑を主人公にして、その後見人的立場として置いてシリーズ化もできたのに。(たまに蜜柑の危機に助けに来たりしてね)キャラが魅力的なだけにもったいない。
最後、明確に死んだという描写はなかったように思うので、奇跡的に一命を取り留めたことにして、上記のような設定でシリーズ化を望む。


No.44 7点 満願
米澤穂信
(2014/10/28 11:20登録)
いい感じに(?)後味の悪い作品が多い短編集。

・夜警
端からかなり救われない話を持ってきた。この犯人ならこれはやるな、と納得させる描写がうまい。

・死人宿
主人公が名探偵ぶりを発揮し、丸く収まったと思いきや……

・柘榴
これはちょっとかわいそう。父親のキャラクターといい、よくできた話ではあるけれど、好きじゃない。

・万灯
ミステリ部分もだが、ビジネス編も楽しんで読めた。
本短編集の中では一番好き。

・関守
これもブラックな一編。解剖で死体からあれが検出されてもよさそうなものだが。

・満願
表題作にして、もっとも本格ミステリテイストが溢れた作品。

今時、キャラや叙述トリック、バカミステイスト、アンチミステリに頼らない、クラシカルな本格短編集で、派手さはないが堅実で安心して読める。こういった直球本格作品が上梓され、話題になっているというのはまことに喜ばしい。


No.43 6点 すべてがFになる
森博嗣
(2014/10/12 14:22登録)
今更新規で書評を書くことが躊躇われる有名作だが、これだけ刊行作があるというのに、私は森博嗣作品は今になって初体験であったため、憚りながら書いてみることにした。
まず、これはいつの年代に書かれたのかと疑問に思い、奥付を見てみれば、1996年初出とのこと。正直、本作を初出年に読んでなくてよかったと思った。1996年当時の私の知識では、書いてある主に技術的な解説が、全くちんぷんかんぷんに違いなく、読むのに大変な労力を要しただろうと思う。
作品は、「天才の、天才による、天才のための犯罪(事件)」と言うようなもので、天才の考えることは凡人には理解できない(する必要もない)と言いたいのかもしれない。天才を凡人と同じ法で裁くことはできない、のか。
しかし、犯人が第三に行った殺人は、自分の犯行を見破られそうになって邪魔になったから殺した、という、およそ天才らしからぬ、凡百の犯罪者が人を殺すのと同じような動機。この殺人を犯してしまった以上、犯人のカリスマは地に落ちたと言っていい。それなのに、終始作中ではこの犯人を神様か何かのように、(探偵役である犀川までもが)崇め奉っているのに異常性を感じた。
大体、本来の計画では自分が娘に殺されるはずだったが、生まれてきた娘が自分と同じような天才ではなかった、という理由で加害者と被害者を入れ替えることになったわけで、(これも凡人いや常人には理解できない動機)プログラムが進行している以上、犯行だけは予定通り行うしかなかった(この辺りの融通のきかなさも頭の固い天才っぽい)というのであれば、無事島から逃げ果せたなら、もうやることはないのだから、さっさと自害してしまえばいいではないか。それをいけしゃあしゃあと生き延びて、何だかこれ以降、主人公のライバルとして立ちはだかるような終わり方をしている。
どうも私は殺人犯をかっこよく描くような作風が好きではないので(某名探偵の孫シリーズに出てくる高○とか)以降のシリーズを読むかどうかはまだ未定だ。
作品自体としては、本作がデビューながらも、すでに助教授として活躍していたという作者のこと、落ち着いた読みやすい文章で、過度な表現もなく、大人の余裕というべきものを感じた。多くのミステリ作家が二十代という若い年齢でデビューして、それらのデビュー作は、読みやすさなど何も考えず、ただただ情熱だけを叩きつけたものが多いのとは対照的で面白かった。


No.42 2点 魔神館事件 夏と少女とサツリク風景
椙本孝思
(2014/10/07 17:58登録)
こういうオチを全面的に否定するつもりはないが、こういうことをやるなら、本編はもっと短くまとめるべき。こっちは「このトリックは一体? 果たして犯人は?」と、真面目に読んでいるのだから、そういう無為な時間は極力短く抑えてもらわなければ。このオチに辿り着くまでの無為な読書時間で、他のまともなミステリを一本くらい読むことができたと思えば、これはもう時間泥棒です。
このオチで堂々長編を書いてしまおうという神経が図太い。作家に「読書とは読者の時間を奪って読んでもらっている」という感覚が持てるなら、「こんなの考えたけど、短編にまとめてちょっと軽く読んでもらおうかな」くらいに留めるはず。
「館ミステリへの挑戦」という触れ込みで売り出されたらしいが、プロレスのチャンピオンに挑戦したはいいが、受け身などまともな基礎もできておらず、凶器攻撃に頼るしかなく、それもまったくチャンピオンには通用せず、あえなく敗退してしまいました。そんな感じ。


No.41 5点 凶鳥の如き忌むもの
三津田信三
(2014/10/06 15:42登録)
今まで読んできた刀城言耶シリーズはどれも傑作揃いで、本シリーズに対する要求は自然とハードルが上がってしまう。そんな中で読んだ本書は、その高いハードルを越えるには至らなかったようだ。
トリックを成立させるために作者が作る舞台設定、人物設定をいかに自然に読者に納得させるか。刀城シリーズはそのさじ加減が絶妙なのだが、本作については少しやりすぎという印象を受ける。「そこまでやるかよ」と思ってしまったのだ。もちろんそのための、現代の風習、一般の常識が通用しない戦後の、しかも閉鎖的な地方という舞台設定は分かるが。
メイントリック自体も博打が過ぎるような。
しかし、今までの刀城言耶シリーズと比べて、という注釈付きでの評価のため、本作単体で読めば一般的なミステリの基準は軽々クリアしているといえる。
5点は辛いかなとも思ったが、数々の傑作を生み出してきた実績のある作者、三津田信三に敬意を表し、この点数にした。


No.40 6点 煙の殺意
泡坂妻夫
(2014/10/01 11:35登録)
ノンシリーズの短編集。いきなり書店に平積みされていた。

・赤の追想
泡坂氏らしくない、いきなり異色の作品を持ってきて。本短編集の方向性を示した。

・花山訪雪図
確かに面白かったが、解説で大絶賛されていたため、無用にハードルが上がってしまった。(先に解説を読んでしまった)

・紳士の園
一番の異色作。他の方のレビューにもあったが、星新一っぽい。

・閏の花嫁
途中でオチが読めてしまうが、手紙のやりとりという形式が緊迫感を演出している。

・煙の殺意
表題作にもなっている、盛大(?)な事件。百貨店内で煙草を吸いながら歩くというのが、時代を感じさせる。

・狐の面
ヨギ・ガンジーものっぽい。泡坂妻夫の真骨頂といえる作品。ブラックな事件、オチが多い本短編集内では、かえって浮いてしまっているが、一番好き。

・歯と胴
シンプルながら内容を的確に言い表したタイトルが秀逸。犯人はあんなに頑張ったのに。やはり悪いことはできない。

・開橋式次第
ある事柄に異様にこだわるという、作者デビュー作の「DL2号機事件」の発展型ともいえる作品。

三十年以上も前に刊行された作品集だが、今読んでも古くささはほとんど感じない。作者独特のドタバタした文章が読みづらい箇所もあるが、(「開橋式次第」の冒頭など顕著)楽しめた。


No.39 7点 月の扉
石持浅海
(2014/09/22 09:47登録)
キャンプの描写、犯人グループの要求が「釈放ではなく、ただ連れてくること」で、何をやりたいのかは大体分かってしまった。後はこの滅茶苦茶となってしまった状況にどう落とし前を付けるのかを興味に読み進めた。
「終章」はいらなかったかなと個人的に思う。あんなの書かれたら、犯人グループの犯行動機が(いい悪いということではなく、実現可能だったという意味で)肯定されたようなものではないか?「残念だったね、アクシデントさえなければ、大願成就できたね」と。ハイジャックしてでも手に入れたいものが、「確かにあった」のであれば、彼らの行動は無駄じゃなかった、と捉えることができてしまう。
金庫破りを計画実行した犯人がいる。途中で捕まってしまったが、金庫の中身が「本当に大金が入っていた」と「実は空だった」では、犯人の気持ちが違うと思う。「本当に大金があった」のであれば、捕まりはしたが、自分の行動には意味があった、もう少しで大金を手に出来たと、犯人は自己を正当化してしまうのではないだろうか。「犯罪を犯すだけの意味があった」と。本作の犯人なら、「ハイジャックをした意味は確かにあった」ということになる。それは、犯罪行為に価値を持たせてしまうことになるのではないだろうか。結局死亡者は犯人グループとそれに類する人に留まったが、子供を人質に捕られた親は。飛行機が飛ばなかったことで重要な約束、商談をキャンセルした人は。ハイジャックという環境に置かれて心身に悪影響が出た人もいるかもしれない。ずっと犯人に拘束され、多大なストレスを受けたであろう子供に対するエクスキューズが、教祖(あえてこう書く)が頭を撫でただけで解決、というのもちょっとどうかと思った。
フィクションに対してそんな目くじら立てるなと言われるかもしれないが、犯行動機が俗物的なものでなく、異常で危険なものであったため、神経質になったかもしれない。作品自体はハラハラしながら楽しんで読めた。


No.38 7点 ロートレック荘事件
筒井康隆
(2014/09/22 09:13登録)
私が最近読んだある作品と同じ仕掛けが施してあると聞いて購入してみた。
まず、その薄さにびっくり。今のミステリの一章分くらいの量しかない。カラーでロートレックの作品が挿入されているのも驚いた。絵自体が作品やトリックに関わってくることはないのだが、こうした配慮はうれしい。より視覚的に作品を捉えることができる。(本当に視覚的に捉えながら読むと、あとで面食らう羽目になるのだが。もしかしたらそういう効果を狙って絵を入れたのかもしれない)他の作品でも真似をしてもらいたい。たまに音楽が重要な位置を占める作品があるが、それも該当作の音楽CDを付けてもらってもいいくらいだ。
「本格ミステリの鬼」と言われる方々の中には、冒頭のエピソードを読んでからしてすでにトリックを見破ったという猛者もおられるが、筒井氏がミステリ畑の作家でないことを考えると、解答編の該当ページを指定しての犯人供述と合わせて、普段ミステリを読まない読者への配慮なのでないかと思う。
犯人のある特徴が仕掛けのミスリードとなっているところは、歌野晶午の「葉桜~」に通じるものがある。いかに普段自分が、自分だけの物差しで周りを見ていたかということを改めて思い知らされた。
本棚に並べると、近年の分厚い本格ミステリの背表紙に埋もれて掻き消えてしまうが、それがむしろ「これくらいの分量で十分だろ」という、大ベテランの示唆に思えて、存在感はまったく薄れることはなかった。


No.37 5点 時の密室
芦辺拓
(2014/09/22 08:57登録)
シリーズ探偵、密室、意外な犯人。私の大好物が揃えられているのに、どうもしっくりこなかった。いつまでも咀嚼しているのに、一向に飲み込めない、焼き肉のミノを食べてる感じだった。
芦辺氏の作品は十年以上前に一冊読んだ記憶があったが、なぜその後継続して読まなかったのか分かった気がした。
文体がぎこちなく読みにくいのだ。
その理由として、「こんなトリック思いついたった」という嬉しさに作者が酔っている。本格愛に溢れすぎていて仰々しい。(二階堂黎人氏の仰々しさとはまた別)というのがあるのではないかと思った。
また、何か新しい舞台、仕掛けが登場する度に披露される蘊蓄が余計。飛行船に関する蘊蓄が飛び出した時には、「こんなのも拾うのかよ!」と、仰け反った。取材の成果を発揮したい(ページ数を水増ししたい)という気持ちも分かるが、程々にしてほしい。
本作も各トリックの解明は、フェイクも含めて面白く読めたので、全体のバランスを整えて読みやすくしたら、「本格の旗手」と呼ばれる作家になり得ると思うのだが。


No.36 5点 ホラー作家の棲む家
三津田信三
(2014/09/20 08:57登録)
途中までは興味深く読めた。怪しい洋館、主人公にまとわりつく怪異、愛読者だという謎の人物。だがしかし、「これはホラーなんだ」と思い直すと、これらの怪異が合理的な理由で解明されるという流れにはならないだろうなと予想はつく。果たしてその通りで、うまくはぐらかされた。
途中に入る乱歩の蘊蓄も楽しく読めた。取材の成果を生かしたいがため、また、ページ数を稼ぎたいがために挿入される蘊蓄は嫌いだが、こういった内容とリンクした、ミステリと関連した読んで楽しいものなら歓迎だ。
刀城シリーズが好きで本作も読んでみたが、やっぱり私はホラーは合わないかな。


No.35 8点 インサート・コイン(ズ)
詠坂雄二
(2014/09/18 11:31登録)
私自身もテレビゲーム好きということで、思い出補正も手伝い甘めの点数になったかもしれない。テレビゲームに興味のない人が読んでも、この面白さは伝わらないと思うのでご注意を。

・穴へはキノコをおいかけて
「スーパーマリオブラザーズ」
動くスーパーキノコと、動かないファイヤーフラワーの考察に、なるほどと膝を打った。

・残響ばよえ~ん
「ぷよぷよ」
ミステリでおなじみのあのガジェットが使われている。テトリスではなく、ぷよぷよでなければこれは使えない。内容は主人公の青春譚。こういった甘苦い思い出を一切持たない私は、この手の話を読むのが辛い(笑)。

・俺より強いヤツ
「ストリートファイターⅡ」
ちょっと他の作品からは浮いている。ストⅡを題材に無理矢理作った話という印象を受けた。同時に居合わせたはずの三人の体験談が微妙に食い違うというのに、何かミステリ的な仕掛けを期待してしまった。

・インサートコイン(ズ)
「シューティングゲーム全般」
「遠見市シリーズ」の常連キャラクターにある出来事が!
攻撃性のみを持つシューティングゲームが、暗いストーリーを持つはめになったという考察は頷ける。あれだけバカスカ破壊しまくるゲームでストーリーが脳天気だったら、ただの破壊魔だからね。多くのシューティングで、自機のみが世界を救う最後の切り札、という設定も無関係ではないだろう。

・そしてまわりこまれなかった
「ドラゴンクエストIII」
ドラクエ1.2.3、いわゆるロト三部作の重大なネタバレ含む。未プレイの方は読まれないよう。作者の言うとおり、そんな人間がこの宇宙にいるとは思えないが。
題材ゲームの容量が、現在のデジカメ写真一枚程度のデータ量でしかないということに、驚いたというか、ショックを受けた。
主人公が、ドラクエ3最大の伏線の謎に挑むという話だが、本作のタイトルも内容の伏線になっているといったら、勘のいい人にはネタバレになってしまうだろうか。

「ミステリ」ではない、あえて分類すれば「日常の謎」的なものになるのだろうが、ファミコン世代と呼ばれる人たちにとっては、ノスタルジックな思い出が絡まり、とてもひとことで言い表せない読後感を受けるのではないか。これは、80~90年代にゲームを趣味とした人間だけが感じることのできる感覚のはずだ。
各作品で展開されるゲームについての考察、研究は、どれも的確かつ面白く、ゲームを知っていれば、なるほどと納得するものばかりだ。実際に制作を手がけたゲーム作家がこの考察を読んだら、「よくぞ気付いた」と唸るだろうか、それとも「そこまで考えてなかったよ」と笑うだろうか。
作中に頻繁に作者「詠坂雄二」が登場するが、それが、漫画「Dr.スランプ」の作中に作者の鳥山明がよく出てきたことを思い出して、変に面白かった。


No.34 7点 天使のナイフ
薬丸岳
(2014/09/18 08:53登録)
「社会派」と銘打ってはいるが、エンタテインメント性に優れたミステリだと思う。諸氏語られているような偶然の連続も、娯楽作品ならではの展開で、いい意味で、社会派の皮を被ったミステリに落ち着いている。
ただラストに向けての展開は、色々詰め込みすぎと感じた。賞の応募作ということで、とにかくすべてを出し切ろうとしたのかもしれないが。
個人的には、事件の原因のひとつとなった、過去に登場人物をナンパして悪の道に引き込んだ連中に対する処遇が記載なく、あのまま無罪放免になったらしいことが不満。エンタテインメントなら、連中もしっかり殺さなければ(笑)
読み始めに受けた印象と、読後の感想がかなり違い、これまたいい意味で予想を裏切られた。本格ミステリファンにも、「社会派」と嫌ったりせずに読んでもらいたい。


No.33 8点 四神金赤館銀青館不可能殺人
倉阪鬼一郎
(2014/09/16 18:21登録)
作者は「バカミスの旗手」と聞き興味をそそられ、本屋やネット通販を漁ったが、紙の本はほとんどがすでに絶坂で、電子書籍で、一番に目に付いた本作を購入してみた。
巻頭の異様に多い登場人物表を見て、「これがバカミス? これは横溝正史か三津田信三の流れではないか」と思い、気合いを入れて読み始めたが……
読み終えて、「これがバカミス……」と、登場人物表を見た時とは別の意味で同じ言葉を出してしまった。
これは作者のスタンスはどうなんだ? 笑わせようと思って愉快犯的に書いているのか? それとも、本気で読者を騙そうと考えて真面目に書いているのか? ミステリ作家でもある作中探偵が作者の写し身だとすれば、本人は真面目だが、読者がそうとは捕らえてくれない、というところだろうか?
個人的には、作者は大真面目であってほしい。
「藤岡弘、探検隊シリーズ」で、藤岡隊長だけは、ネタを知らされず大真面目で探検しているのではないか? と囁かれた、あの無垢の狂気的なものを期待してしまう。
「折原一の叙述とも、綾辻行人の館とも、俺の作品はタメを張れるぜ」作者にはそう思っていてほしい。実際にそうかもしれないではないか。
直前に「パラダイス・クローズド」を読んだせいもあるかもしれないが、私は、プロレスに取り決めがあることは知っていながらも、目の前で繰り広げられる闘いには、素直に声援を送り、技の痛みを感じ取れるような人間でいたい。
「あんなのは八百長だよ」「密室殺人なんてリアルじゃない」
そんなことをしたり顔で言うよりも、コーナーポストから飛んでくる相手を逃げもせず受け止めるプロレスラーを讃え、奇策を駆使して読者を楽しませようと(騙そうと)するミステリ作家の挑戦に拍手を送り続けたい。
そんな思いが溢れてしまい、内容からはちょっと過剰とも思える8点を付けた。
本格ミステリは本当に面白い。


No.32 6点 連続殺人鬼 カエル男
中山七里
(2014/09/16 09:51登録)
最後のどんでん返しは驚いたが、犯人の計画については、そんなにうまく行くのかな? と、心理学は全く分からないながらも、疑問に思った。
これが純然たるエンタテインメントに徹したサスペンスなら、舞台装置として多少の誇張はありだと思うが、(例えば、「サブリミナル映像で人を操った」くらい許す)、最後の仕掛けからしてこれはミステリだし、軽くないテーマを扱っているのだから、ちょっと無茶な演出じゃないかな? と感じた。
犯人(もしくは作者)が自分の計画と目的に酔うあまり、ある法則に則るためだけに、無関係に殺された被害者への言及がないことも気になった。
死体の描写はスプラッタ、暴動シーンはサスペンス、犯人との暗闇での戦闘シーンは、「魁!男塾」かよ! と突っ込んでしまいたくなるような戦略を駆使したバトルっぷり。と、随所に作者のサービス精神があふれている。私は、もっと簡潔にしてくれ、と思ったが。


No.31 2点 パラダイス・クローズド
汀こるもの
(2014/09/15 22:45登録)
アンチというのは不安定な存在だ。アンチ対象とするものがなければ存在しえない。寄生虫とまでは言わないが、宿主がいなければ死滅してしまうのは確かだ。
本作は、「アンチミステリ」らしいが、これを書くことによって、何がしたかった、言いたかったのだろう。しかも、作者は本作がデビュー作だという。何本も「これぞ本格」と言える作品を上梓した作家が、ふと、「こんなアプローチもあるんじゃない」と、本作のようなものを書いたというなら、まだ分かる。デビュー作からこんなものを書いてどうするのか。
本格ミステリに出てくるどんなトリックよりも、一匹の毒タコのほうが恐ろしい? トリックなんか労せずとも人を殺すことなんてわけない? そんなことは百も承知だよ。
プロレス、格闘技ファンの前で「プロレスラーも格闘家も、結局ナイフや拳銃を持った素人には敵わないでしょ(笑)」と、したり顔で言うような「空気読めない感」がある。これを言っていいのは、プロレスラーや格闘家本人の側からだけだ。
作品の端々に漂うものから、作者が本格ミステリに詳しいのは分かる。もしかしたら、本格ミステリが本当に好きなのかもしれない。もしそうだとしたら、まるで好きな子をいじめる小学生のようなメンタルではないか。それとも、本当は、ドの付くほどの本格を書きたいが、書けない鬱積から、こんなんものを生み出してしまったのか。魚蘊蓄が多すぎるのもいただけない。ページ数稼ぎか?
作中で、ドアの密室トリックを考えているのだから、それを使って真っ当な本格を書いてみればいいではないか。
とにかく、このような作品はいきなり出てきた新人が書くようなものではない。せめて最後に、あっと驚くような仕掛けを施して、「なんだかんだ言っても最後は本格だったな」と思わせてくれればよかった。終わりよければ全てよし、だ。
もうこの作者の本は読まないだろうけれど、せめて、本作の本格ミステリをコケにしたような内容は、好きの裏返しであることを望む。これを受賞させたメフィスト賞って……

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