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ミステリの祭典

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∠渉さんの登録情報
平均点:6.03点 書評数:120件

プロフィール| 書評

No.20 5点 ディオゲネスは午前三時に笑う
小峰元
(2014/01/07 22:31登録)
アルキメデス~パスカルまでの流れが結実した作品という印象。もうソクラテスがピークかなと思っていたので読んでびっくり面白い。物語の全体に漂う物悲しさ、虚無感。そして反対に青春を生きる若者のエネルギー。表裏一体で脆く繋がっている二つが良く描かれています。構成の妙もあって好い。
そしてなんといってもミステリが本作は仕上がってるというか、納得できます。そりゃケチをつければきりないんだろうけど。
あと小峰作品に総じて言えることだけれど、なぜ小峰作品に登場する若者達はどうしてこんなにギリシャの偉人にこだわるのかが少しわかった感じがした。タイトルにこじつけてるからと言ってしまえばそれまでだけれども、彼らにとっての拠り所なんですね。とくに哲学なんかは全てに通じる概念のような感じもあるけど意味がないっちゃあ意味がない。究極に。そういうところが物語の中にも浸透していて虚無を生んでるのでしょう。以上。


No.19 2点 パスカルの鼻は長かった
小峰元
(2014/01/07 21:03登録)
小峰元の青春×ミステリ第4弾。
学研の「高3コース」なる雑誌に連載されてたとか。当時のティーンエージャの支持がうかがえます。
小粒(ヒッグス粒子もびっくり)なミステリではありますが、かけがえのない仲間とかけがえのない青春を全力疾走する姿は、いいんじゃないでしょうか。自意識過剰で馬鹿で小生意気で小粋な主人公の「小峰元」は世代こそ大きく違えど、男なので「わかる!」というところもなきにしもあらず。やっぱ青春は小っ恥ずかしいからこそ、良い。
あとタイトル好き。


No.18 4点 虹を操る少年
東野圭吾
(2014/01/02 17:10登録)
自戒の念も込めた、4点。
どちらかといえばファンタジー。青春群像としても、読める。
ただ、本作では若者たちの敢然と大人たちに立ち向かう姿を描いてはいるが、これがなかなか、理解できない。若者が決起する姿は差し詰め70年代の学生運動といったところ。けれど、この作品では武装してなにかしようというのは旧モデルらしく、光を用いて独自のコミュニケーションを用いて世の中にメッセージを発信するそう。ただどっちにしろ理解には苦しみますね。ここでは若者たちを欲や権力にまみれた大人たちに立ち向かう姿をいきいきと、美しく描いていますが、傍からみればカルトにも思えるし、滑稽にも思える。主人公の光瑠も良く言えば達観しているのかもしれんけど、どうしても天才少年のすることとは思えないことばっかりしてて、なんかイマイチ見えてこない。やっぱ達観はしてませんね。前言撤回。
自分も平成生まれでまだギリギリ10代ではあるけれど、この世界の登場人物にはなれないなぁとつくづく感じた。そういう意味では、ラストの方に出てきたじいさんみたいに、スレてない人生には憧れを感じた。だから光ったんですもんね。
壮大なプロローグを引き延ばしたような構成は、好き。それも相まってラストもかなり好き。


No.17 6点 キャリー
スティーヴン・キング
(2013/12/28 18:42登録)
事件の後日談という構成で、まぁキングがおちぶれてたいた時期といこともあって、挑戦的なプロットですが、やっぱ面白い。どこにでも起こり得るいじめ問題そのものなんだけど、ホラーにすることによって、より人間のおぞましさが見えてきて面白い。こないだリメイクもされましたが、デ・パルマ版はやっぱ面白い!


No.16 4点 ソクラテス最期の弁明
小峰元
(2013/12/28 18:05登録)
青春推理の雄、小峰元の第3長編。
前2作の踏襲と今後の指針を見せてくれたような作品。
推理小説としては前2作よりさらに薄味で完成度も劣っている(キッパリ笑)。
なんて言ってはみたものの、是非おススメできるか?と聞かれたら是非読んでくれ!と、言いたいんですよ、僕は。
要するに、安全保証はしない作品だけど、読んでおくれよということ(要せてない笑)です。
では、再び感想⇩
10代のリアルが良く書かれていると思います(ホントかよ笑)。とは言ってもただリアルに書くのではなくそこにある滑稽さを愛情たっぷりに描いていて、ピカレスクではあるけども愛がある、決して批判精神に則らないところに、人柄がうかがえます。こりゃ西野カナもびっくりですわ(超批判精神笑)。
うまく感想言えてないので今回はこのへんで。


No.15 5点 聖い夜の中で
仁木悦子
(2013/12/25 19:19登録)
日本のクリスマスはホントに自由奔放なので、サンタクロースに持つイメージも、人それぞれ。
仁木さんが描いたサンタクロースは、一方からみれば、純粋な心が見せる虚像で、もう一方から見ると哀しき道化のような実像。そんな二つのサンタクロースが交錯したときの奇蹟の物語に、暖かくて切ないミステリを見ることが出来ました(表題作)。
聖夜の日に偶々出会ったこの作品に感謝。


No.14 4点 ピタゴラス豆畑に死す
小峰元
(2013/12/25 00:25登録)
粗いミステリ描写が印象的な長編2作目。
でも意外と嫌いじゃない。むしろ結構好きな方。
前作とは違って若者が陽性になってたり、大人たちの思惑もあったりで、青春群像ながら前作と一味変えようという工夫が見られます。会話も小気味いい。
もうひとつピタゴラスがしっくりこないところが惜しまれる点ではあります。「アルキメデスは~」はそれなりにしっくりきてたので。
でもこの作品の決め手はやはりツチノコ。ラストなんか「人生って豆畑の周りをウロチョロしながら、いるかどうかもわからないツチノコを捜しているようなものじゃないかしら」なんて名ゼリフ?が飛び出したし。まぁこんな青春も悪くない。
あと、まだ数年前まではツチノコって実在すると思ってたなぁ、なんてことも思い出したりもして。サンタクロースはいるのでしょうかね。メリークリスマス。


No.13 4点 アルキメデスは手を汚さない
小峰元
(2013/12/22 00:35登録)
ミステリ好きはどうしてもトリックの弱さがこの作品における一つのネックになっているようで。例にもれず僕もそういう印象を受けました。乱歩賞という看板もあればなおのこと。しかし、解説を見ると選考の時点でそういう話が出てたそうなので、ではここでこの作品がただの凡作か乱歩賞かを分けたのは、青春小説として確立された作品であるということだと思うのですが皆さんの感想を見るとそれも賛否の分かれるところ。
あまりに血色の良い若者がいなさすぎて気持ち悪い感じは否めませんが、僕はここ(青春小説の部分)に好印象を持ちました。若者達が社会や家族、そして犯罪やセックスに独特な価値観を持っていてそれが大人たちとの断絶を生む様はなかなか面白い。その若者達の描写が小気味わるく描かれていて引き込まれました。
それにラストも中々好きです。青春にピリオドを打って終わるところが何とも言えず。
あとはなんといってもタイトルがやっぱり良いですね。手に取って読みたくなる。どういうふうにタイトルと物語がリンクするのだろうかと思っていましたが、それもとりあえず納得。
ただ、やはりこの作品は登場人物の感情や心情の部分しか読ませるところがないわけでもないのですが、非常に弱いのが難点。でもそれを現在に引き継いで深化させたのがやはり東野圭吾だと思います。「放課後」に限らず「卒業」や「悪意」、そして「白夜行」などに本作のエッセンスが含有されたと思います。
柳生隆保の姿に確かに僕は桐原亮司の影を見ました。ふふ。とかいって。


No.12 4点 ダーク・タワーⅡ-運命の三人-
スティーヴン・キング
(2013/12/20 00:33登録)
あくまで単体としての評価。
全く物語の本筋が見えてこないままストーリィが展開していくので、第二部にしてもう少しじれったいけれども、物語が波に乗るまでが非常に長いのはもうキングのスタイルだし、それだけ細かく描きこまれているのは良いことだと思います。なのでここは壮大な伏線の章としてきっと重要なピースの一つなのだろうと思って読み進めた。
だけど、世界観としてはⅠの方がが個人的には好きだったのでこの評価。同じ作者の同じシリーズの作品読んで世界観違うって言うとおかしいけどインターバルもあってか全体に纏ってる雰囲気がなんかちがったんだよなぁ、と。でも迫力は抜群なので、ぐいぐい読まさりました。
やっと始まった感じはするけども、兎にも角にもまだまだ輪郭が見えてこない。だから早く続きを読まねばと思っちゃっている僕はもうこの物語の虜なのです。


No.11 2点 殺人現場は雲の上
東野圭吾
(2013/12/18 12:09登録)
決して悪くもないんだけど採点するとこーなっちゃう感じの作品。
他の東野作品をたくさん読んじゃってる分どうしてもねぇ、ってところもあるけれど、ビー子のキャラは好きだしちょっと笑えるし、作品として非常に明快なところはさすが大阪人っていう感じを受けた。
旅行なり出張なりで空の上の2時間3時間を過ごすのにはベストなのでは。


No.10 4点 変身
東野圭吾
(2013/12/16 15:10登録)
読み終わってまず思ったのは、東野さんってやっぱ文系だな、ということ。
確かに内容はサイエンス的なものになっているけれど、東野さんが書きたいのはあくまで人間なんだな、と思った。それを効果的に表現するのにこういう題材を持ってきたんだなという印象。他作品でもそういう印象を少なからず抱いていたのだがこれ読んで確信。
そんでもって他の方々が言ってるように展開はまるわかりだけどゾクゾクしたりハラハラしたりちょっぴり感動したりという読ませる力はさすが。結局展開力があるんだなと思う。
ラストも下手にサスペンスフルにせずに、読み手に心とは?意識とは?そして人とは?といった問いを投げかけるようなラストで良。
ミステリ=神秘的という概念が個人的には根底にあるので、推理小説ではないにしてもとてもミステリアスな作品だった。


No.9 10点 喜嶋先生の静かな世界
森博嗣
(2013/12/14 00:21登録)
文句なしの10点つけさせていただきました。
第一短編集「まどろみ消去」の「キシマ先生の静かな生活」とストーリィは全く同じで、短編の方に書いてあることは全てこちらの方にも書いてあります。短編で読んだときは、自分とは相容れない世界の話で新鮮だったけど、いまいち作品に感情移入できなくて、後味も決して良いとは言えない印象だった。けれど、本作を読んで180度印象が変わりました。天才ともまた違う、まっとうな研究者。でも非常に稀有な存在で、逆説的になりますがやはり「天才」なのでしょう。喜嶋先生、すごい。凄い。研究とは、学問とはとても崇高で純粋なものなんだなと感じた。
そして、その世界を純然と生きることはとても難しい、ふと立ち止まって考えてみるともうその世界に自分はいないことに気付く、そこに戻れないことに気付く。ラストの橋場君の言葉には切なさと重さを感じた。沢村さんの自殺もそう思うと切ない。そして喜嶋先生はどこかで・・・と、想像しながら余韻を堪能してました。きっとまた、「王道」を歩いているのでしょうが。
自分も大学生となり、子供と大人の境界条件が環境や立場によって変わるような立ち位置で、これからどうやって生きていくのかを考えなきゃいけなくなって、周りに流される部分と自分が向かいたい部分とのせめぎあいのなかを過ごしているので、そういう意味でも、感情移入せずにはいられないというか、大切にしておきたいスピリットを再確認できた作品でした。心地いい反面、残酷さもあって、かなり刺さります。そして、またいつか必ず再会しなければいけない作品だと思った。僕にとっての未来への手紙のような作品です。なんて大袈裟に言ってはみましたが。


No.8 5点 ダーク・タワーⅠ-ガンスリンガー-
スティーヴン・キング
(2013/12/09 23:14登録)
全7部の超大作の導入部なので、単体として評価するのもあれですが、します。スケール感のある大作シリーズで、キング流「ロード・オブ・ザ・リング」であり、「ナルニア国物語」であり、「ハリーポッター」でありのような、つまりファンタジーなんですが、それをキングが書くと物語全体の雰囲気に漂うペシミズムが半端じゃなく、こんなにも夢と希望がなさげなファンタジーの幕開けってあるだろうか、というような感じで、既存の有名なファンタジー作品とは一線を画すものがあるなという印象。
そして話によるとこの作品はキングの多くの作品につながるらしく(小ネタのリンクとかだけじゃく)、キングの世界観のほとんどがこのシリーズに注ぎ込まれているようなのでキングファンとしは必読の様相。
個人的な印象だと森博嗣さんの「ヴォイド・シェイパ」シリーズや「スカイ・クロラ」シリーズのような雰囲気も感じました。なにか真理を求めて不安定になりながら、葛藤をして、悟っていく感じが。とても文章にも引き込まれるものがるので読み応えも読みどころも盛りだくさんの作品になっていると思います。あくまで第1部の感想ですが。


No.7 3点 タリスマン
スティーヴン・キング
(2013/12/04 22:05登録)
ファンタジーというジャンルの作品に対して、自分の想像力が追いつかなく、乏しい想像しかできなくなっていることを実感。そんな感じで読後の裏表紙(紹介文)見ると、「童心を失わない大人たちへのノスタルジアの贈り物」と書いてあり、自分の感性の磨耗に寂しさを感じた。ハリポタとか昔はすきだったのになぁ、みたいな。

ストーリィはよく練られたプロットというよりかは、とても自由に物語を紡いでいったような感じで、お二人の「一瞬の創造力」の豊かさを感じました。

キングらしい毒っ気はあまりなく、純度の高いファンタジーになっているので、童心を失ってはいない大人の方々は、ぜひ、読んでみては。


No.6 7点 セル
スティーヴン・キング
(2013/11/30 00:28登録)
携帯ゾンビといういかにもB級ホラーな設定をここまで上質なA級ホラーサスペンスにしてしまうキングの辣腕に7点です。
設定もさることながら、前半の展開の速さがとても心地よく、それでいて内容は厚く、読み応え充分です。
そしてそして、キャラクターが最高。トム、アリス、ジョーダンら、くしくも絶望の淵だからこそ出遭えた、素敵な仲間たちが、読んでて愛おしくなります。
そしてそしてそして、なんといってもラストです。キングの他作品とくらべてやや希望多めですが、これ、充分絶望ですよ。ジョニーを見つけたところでおわらせてたら、ここまでの圧巻のラストは書けなかったと思います。もう極限のラストですね。「もうこれ以上はさすがの僕も書けませんよ」とキングが言っているようなラストでした。

文明社会のもつ恐ろしさを大きなうねりとして描いていて、ひたすら恐ろしい。


No.5 8点 グリーン・マイル
スティーヴン・キング
(2013/11/26 22:17登録)
6冊あっという間に読めました。スプラッタだと思ってたら全然違って、あぁ、こんなんも書けるんだぁ、とただただ感心。伏線も沢山あるので最後は圧巻の切なさ。そして恐怖。下手するとホラーより恐いかも。混沌とした中で生きていることへの一抹の切なさを感じました。映画は、原作に忠実で大変良いのですが、なにせ、3時間超の作品だったので、見終わって僕はこういってやったよ、「ああ、神よ、ときに<グリーン・マイル>はあまりにも長すぎる。」ってね。


No.4 6点 奥様はネットワーカ
森博嗣
(2013/11/25 00:25登録)
内容云々の前にコジマケン氏のイラストがキャッチーで良かった。
森さんといえば他作品で西之園萌絵、犀川創平、瀬在丸紅子など、魅力的なキャラクターが登場しますが、本作はなんというか、「キャラ萌え」が全くない。なんか新鮮でした。あまりにも無機的な感じ。絵のポップさも乖離を生んでて、ある意味で一つのプロットを読んでいる感覚。度々挿入されている詩も文学的付加をプロットに接いでいる感でこれまた無機質な感じ。

で、最終的にネットワーカがあの人だったわけで、じゃあどこであの人はネットワーカしてたんだ?ってとこが「みんな道化師」であり、プロット臭い文章と、抽象的なものを題にした詩の意図なのかなと、僕の解釈として、思いました。どうでもいいんでしょうかね、それは。軽い文章なんだけどなかなか全体像を読み切れないところが憎い。

ミステリーとしても楽しめたし、ホラーとしても楽しめたし、作品を読ませる構成も効果的で良かったし、何より森ミステリィとして楽しめたので6点つけたりました(コジマケン氏のイラストに3点!)。


No.3 5点 深夜勤務
スティーヴン・キング
(2013/11/24 00:43登録)
一冊の短編集のなかに、とにかくたくさんの異形なやつらが出てくるので、ホラーですがなんかもう愉快でした。
キングの第一短編集ということもあって技術とか感性だけじゃない、威勢のいい感じがあって好きですね。才能はもちろんとして。

個人的に特に好きなのを挙げると、

「波が砕ける夜の海辺で」/パンデミックの話なんですが、パニックストーリィでなく、静かに最期を向かえようとする若者達の姿を描いた話で、生でもない、死でもない瞬間を切り取ったストーリィがなんか切ないです。

「トラック」/トラックが突然街を襲い、人間がどんどん追い詰められていく話。日常の風景から絶望を作り出すキングらしい作品という印象。モダン・ホラーというより社会派ホラーだと、僕は思ってます。

「やつらはときどき帰ってくる」/最後から2番目の話なんですがキングの手数の多さをうかがい知れます。個人的にはこれが一番怖かった。

まぁ、他にもバラエティに富んだ作品群がズラリとしているんで結構何回も読んでも飽きないと思います。


No.2 7点 クージョ
スティーヴン・キング
(2013/11/22 00:53登録)
S・キングの作品が現代ホラーのオーソドックスの一つとして君臨している所以がわかるというか、まざまざと見せつけらたというか、というのが率直な感想。
日常に降りかかる絶望、崩壊、退廃が狂犬病の犬を軸として残酷に書かれていて、もう怖いというか惨い。
あくまで狂犬病の犬も、精神異常者だった殺人鬼も、恐怖を具現化する道具に過ぎないわけで。なのでこれを支点とすると、力点であるトレントン一家の日常に潜む何とも言えない狂気(崩壊の危機感)にこの物語が抱えている本質的恐怖を感じた。キャッスル・ロックの住民らも、それぞれにえも言われぬ狂気を纏っていてトレントン一家の破滅を誘う作用をしている。
ホラーの持っている幻想的な響き、耽美な雰囲気がとにかく皆無。「世界の崩壊を日常で例えたらこんな感じ」って言われてるような感じで、テロとか戦争とか災害とか病気とか、様々な「崩壊」を想起させるような読後。

オノマトペ的にいうと「ゾワッ‥」というより「ウゲッ!」って感じの作品でした。

あと序盤の「クージョ。クゥゥゥゥジョ!」ってとこがなんかジョジョっぽかった。これ書いて思ったけどジョジョ好きに結構向いてるかも。全体的に地味ですが、骨太なストーリーで、紛れもない傑作です。


No.1 4点 幸運の25セント硬貨
スティーヴン・キング
(2013/11/21 01:27登録)
正確には3.6点ってとこですかね。

キングの第4短編集という位置づけで90年代後半の作品が収録されているようです。

①なにもかもが究極的(1997)/若き超越者(トランス)の悩める非日常。組織によって能力が殺人の道具に使われていることを、わかっているんだけども目を背けていた青年が、現実を受け止め組織と縁を切る決意をするまでの物語。悩み苦しむ青年の姿がとてもよく描かれていて面白い。あと邦題が好き。

②L・Tのペットに関する御高説(1997)/離婚した奥さんとペットにまつわる少し怪異な話。元夫のL・Tが職場の昼休みの締めの定番の話題として語るこの話。ミステリアスな雰囲気を纏った語り口に引き込まれます。

③道路ウイルスは北に向かう(1999)/ホラーでは古典的な「変化する絵」をキング流に料理した逸品。キング自身が所有している絵を題材にして書かれたものだけに自身が受けたインスピレーションが注ぎ込まれていて、かなりの熱量を感じる作品。実際の絵を見てみたい気もするけれど、そのあとにこれはもう読めないかな。この絵の題名も中々秀逸で不気味だけどこれは本当にモチーフにした絵のタイトルなのだろうか。だとしたらそーとー怖い。

④ゴーサム・カフェで昼食を(1995)/これが個人的に一番好き。離婚調停の話し合いのために訪れたカフェで突然狂った給仕頭が暴れまくってとんだ惨劇に。もう読んでる側もどうしたらいいのかわかんない感じがハマった。

⑤例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚(1998)/いわゆるデジャヴってやつをキングの死生観に結び付けて表現した物語。地獄モノっすね。この中では一番実験的で、作者の意欲を感じました。

⑥一四〇八号室(1999)/「幽霊の出る旅籠の部屋」モノのキング流アレンジ。その題材も相まって一番ホラー色の強いものになった印象。キングらしい作品ですが、直球ど真ん中ホラーです。高校球児もびっくり。

⑦幸運の25セント硬貨(1997)/表題作。ホラー・サスペンステイストの前6編から一転して、或るホテルの従業員で、二児の母である女性がささやかな幸せを掴むまでを描いたハートフルなストーリー。25セントがもたらした幸運はいかなるものなのか、是非読んでみては。


キングの他作と比べると決して斬新なストーリー群ではないかもしれないが、日常に潜む非日常と”怪”日常が心地よく、その不思議な日常の瞬間を切り取ったような場面の数々に惹かれる、良い短編集だと思います。

全体的に程よい恐さ、程よい苦さ、程よい甘さで、まぁまぁ健康的な読み物だと思います。

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