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ミステリの祭典

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TON2さんの登録情報
平均点:5.65点 書評数:330件

プロフィール| 書評

No.130 7点 覆面作家は二人いる
北村薫
(2012/11/20 18:27登録)
角川文庫
ミステリーの謎解きはそこそこですが、主人公の大富豪令嬢のキャラが面白いです。屋敷の中では深窓の令嬢だが、いったん門の外へ出るとヤンキー顔負けの暴れ者に変身する。その変身のものすごさに、自宅に帰ってから自己嫌悪におちいる。ユーモアミステリーとして肩ひじ張らずに読むには最高だと思います。
また、会話が実に自然で、登場人物は頭のよい人間だということが分かります。少し飛躍した内容の会話ですが、小説にありがちな説明口調ではなく、普通の生活の中では確かにこう進むよなという感じです。
エロもグロもなく、中学生の娘にも薦められると思いました。


No.129 5点 浅草エノケン一座の嵐
長坂秀佳
(2012/11/20 18:20登録)
講談社文庫「江戸川乱歩賞全集17」より
第35回江戸川乱歩賞受賞作。
浅草が元気だったころの雰囲気にひたりたくて、前々から読みたいと思って期待していましたが、イマイチでした。密室殺人がテーマですが、「虚無への供物」を読んだ後では、トリックがちゃちすぎます。エノケン、ロッパ、シミキンの当時の関係が多少理解できたのが唯一面白い点でしたが、ミズテリーとしてはレベルが低いものです。


No.128 5点 白色の残像
坂本光一
(2012/11/20 18:15登録)
講談社文庫「江戸川乱歩賞全集17」より
第34回江戸川乱歩賞受賞作。
高校野球に題をとり、不正な方法での球種の確認、野球賭博、プロともいえる野球高校の存在を問題にしています。
読後感は「もの足りない」です。高校野球に関する薀蓄はほとんど語られず、事件を主人公が次々と謎解きをしていきます。警察でさえ解明できなかった密室トリック(たいしたトリックではないが)も解いてしまう。日本の警察をなめんなよといいたい。その分、嘘くさく、登場人物の高校野球にかける思いもストレートすぎると感じました。


No.127 8点 虚無への供物
中井英夫
(2012/11/20 18:08登録)
ミステリーの三大奇書といわれる古典的名作。正直衒学趣味満載の「黒死館」より読みやすく、分かりやすかったです。しかし、結末は情緒的で殺人事件の謎も残ったままで中途半端ですが、そこにも人気があるようです。
途中の素人探偵たちの推理合戦は、どのアイデアでも1冊の小説ができそうで、ぜいたくな内容だと思いました。
ネタばれもありますが、古今東西のミズテリーの名作も引用され、それらの作品を読んでいることも不可欠かもしれなません。あるいは、そうしたマニアしか作者の眼中にないのかもしれません。
何度も読み返すことができる作品だと感じました。


No.126 4点 緋色の囁き
綾辻行人
(2012/11/20 17:59登録)
祥伝社ノン・ボシェット
名門女学園を舞台に数十年前の事件と同様な事件を皮切りに連続殺人がおきる。閉じ込められた空間での鬱屈から、魔女裁判を始める女子高生。
同じシリーズの「黄昏……」よりは完成度が高いと思います。


No.125 7点 13階段
高野和明
(2012/11/19 21:06登録)
集英社文庫
第47回江戸川乱歩賞受賞作。
(ネタバレ)
死刑はどういう手順で決まり、どのように執行されていくのか。日頃知ることのない知識を得ました。このように、読者に新しい世界や知識を提示することは、今のミステリーの一つの型だと思います。
過去に死刑執行をしたことのある刑務官と過失致死により服役していた青年が、死刑囚の冤罪をはらすために捜査を始めます。
最後に、もう無実の人間を殺すのが嫌だと言っていた刑務官が真犯人を殺し、偶然による過失致死事件だと思われていたものが実は計画的に殺意のある事件だったということが分かります。
死刑とは何か、裁判は絶対か、刑罰とは因果応報による復讐か更生のための教育か。生活の苦しさから殺人を犯したものの、死刑執行までの間に後悔し、更生しているとしても死刑は行わなければならないのか。そんなことを考えさせられます。


No.124 4点 黒死館殺人事件
小栗虫太郎
(2012/11/19 20:55登録)
創元推理文庫「日本探偵小説全集6 小栗虫太郎集」より
以下「黒死館……」について書きます。
日本の歴代探偵小説の中でNo1ともNo2ともされる作品を読んでみたくて読み始めましたが、その博学多才というか、衒学趣味に圧倒されてしまいました。1日に20ページぐらいしか読み進めない日が多く、読了までにほぼ1か月かかってしまいました。
本当か嘘か見当がつかない中世に関する知識と隠喩のオンパレードで、正直この作家がこれほど支持されるのは何故かと考えてしまいました。発表当時から熱狂的な支持を受けたということですが、改めて当時の読者のレベルの高さというものを感じます。元捜査局長にして優秀な弁護士の法水麟太郎の超人的な心理推理や機械トリックに関する薀蓄を読んでいると眠たくなってしまいました、そして「お前の言っていることは本当かいな」とおちょくりたくなりました。
たしかに空前絶後の作品なのでしょうけれど、最近のライトな作品を読みなれていると、この作品の内容すらおぼろとしてしっかりつかみきれなかったです。
推理小説を読む者の基本的知識だとして、ようやく読み終えた感じがします。一人の人間の頭の中に、これだけの知識が詰め込まれていたと思うと本当にすごい。


No.123 4点 三毛猫ホームズの推理
赤川次郎
(2012/11/19 20:34登録)
光文社文庫
大人気シリーズの第1作。
ダメ刑事が三毛猫ホームズの力をかりて見事に事件を解決します。
しかし、題材が有名女子大の売春組織ということであり、自分的にはあまり好きでないテーマでした。


No.122 4点 古本屋探偵登場
紀田順一郎
(2012/11/19 19:28登録)
文春文庫
東京神田を舞台として、古本屋の店主が本の探偵をする物語です。古本収集の世界にいる書痴のものすごさが気持悪いくらいです。本を読むために。あるいは資料としての必要性から集めるのが普通ですが、なかには本の量だけを愛する者がいるというのも異常です。
本のためなら殺人も辞さないというのですが、ミステリーとして読むと新しいところがなく平凡です。


No.121 8点 邪馬台国はどこですか?
鯨統一郎
(2012/11/19 19:23登録)
創元推理文庫
従来の通説を超えた新説・珍説による歴史検証バトル。バーのカウンターで行われる形式です。短編のため検証の底は浅いものですが、思わず本当かも?と思わせるところが作者の力量です。こういう作品は作者にとって極めてリスクの大きいものだと思いますが、これぐらいの説得力があれば、もっともっと読みたいと感じました。


No.120 6点 バスカヴィル家の犬
アーサー・コナン・ドイル
(2012/11/19 19:17登録)
新潮文庫
西部イングランドの沼沢地の富裕なパスカヴィル家に伝わる魔の犬の伝説。伝奇的な味わいを持つミステリーです。こういう作風は現代では普通ですが、20世紀初頭にすでに原型ができていたのです。この作品では、ワトスンが貴族の家に乗り込み、その様子をホームズに報告するという形式で、ホームズは冒頭と後半の事件解決の場面しか出てきません。


No.119 5点 焦茶色のパステル
岡嶋二人
(2012/11/19 19:12登録)
競馬のことは詳しくありませんが、それでも楽しめる作品です。
でも、競馬に詳しい人や競走馬に携わっている人たちにとっては、優性遺伝、劣性遺伝というのは常識なのではないでしょうか。


No.118 7点 スキップ
北村薫
(2012/11/13 19:17登録)
新潮社
高校3年生の女子高生が、突然25年後の自分にタイムスリップしてしまったらしい(「らしい」というのは、本当にタイムスリップしたのか、単に25年間の記憶をなくしたのかわからないため)という青春ファンタジーです。
この作品の優れている点は、17歳・18歳といった高校生の心がエログロなしできれいに描かれ、それに共感できることです。30年前の自分は、こんなふうにいろいろと考えていただろうか、感じていただろうか。もっと薄っぺらだったように思います。それでも、もう一度高校生に戻りたいと思いました。


No.117 6点 テロリストのパラソル
藤原伊織
(2012/11/13 19:09登録)
講談社
第41回(平成7年)江戸川乱歩賞受賞作。
大学在学中に学生運動に身を投じ、爆弾事件の犯人として警察に追われ、20年以上も隠れた生活を送っている男が主人公のハードボイルドです。
東大紛争、全共闘世代の思いを綴った作品なのかもしれませんが、ストーリー展開と人物設定が、ややご都合主義かなと感じました。


No.116 6点 眩暈
島田荘司
(2012/11/13 19:03登録)
講談社文庫
複数の死体を切断して1体の死体を作るという手記を巡り、御手洗潔が謎を解きます。
この手記は単なる精神異常者の妄想かとされていたが、御手洗は実際のできごとと看破し証明します。
たしかに設定やトリックは奇抜ですが、トリックのために話を進めているという点が鼻につきました。


No.115 5点 四つの署名
アーサー・コナン・ドイル
(2012/11/13 18:58登録)
新潮文庫
ホームズの「緋色の研究」に続く長編第2作。
ワトソンが依頼人の婦人と結婚することになる経緯も描かれています。
植民地インドの王族の宝=アグラをめぐる話で、伝奇的なおもむきもある冒険小説です。
「緋色の研究」ではモルモン教徒をさんざん悪党とののしったのと同様に、植民地の民や原住民に対する偏見が随所に見られます。やはり大英帝国の作品だからでしょう。


No.114 7点 エトロフ発緊急電
佐々木譲
(2012/11/12 13:36登録)
新潮文庫
この作品は、平成2年「山本周五郎賞」日本推理作家協会賞」「日本冒険小説協会大賞」を受賞した作品です。
1941年12月8日、大日本帝国海軍機動部隊は真珠湾を奇襲。この攻撃情報をアメリカは事前に入手していたのか?日系人スパイが艦隊集結地の択捉島に潜入する。
ケン・フォレットの「針の眼」に非常によく似た内容です。ストイックなスパイ、冬の北の島が舞台、島の孤独な女性と愛し合う、とどれも同じです。
登場するのが、日系人スパイ、ロシア人との混血娘、半島から連行された朝鮮人、北の島から連行されたクリル人、信仰に生きられない牧師と皆自分の居所を失った人間ばかりです。


No.113 6点 ミステリーを科学したら
評論・エッセイ
(2012/11/12 13:28登録)
文春文庫
昭和59年に「運命交響曲殺人事件」で第2回サントリーミステリー大賞を受賞した東大医学部名誉教授のミステリーに関するエッセーです。(もしかしたら神津恭介のモデルではといわれている人です。)
推理小説の出てくる毒薬の使用法の診断や、完全殺人の方法等に思いをめぐらしています。


No.112 7点 富豪刑事
筒井康隆
(2012/11/12 13:24登録)
新潮文庫
キャデラックを乗り回し、最高のハバナ葉巻をくゆらせた富豪刑事こと神戸大介の活躍です。
この作品はミステリーとしての基本をおさえたきっちりとしたものということですが、トリック等に目新しいものはありません。
それよりもキャラ小説として読むと、非常に面白いです。
あくどく金儲けをしてきた大介の父親が、大介が捜査のためにふんだんに金を使うと、贖罪になると、息子は天使だと言って泣きながら、毎回呼吸困難の発作を起こすというところはたまらなく笑えました。
またこの作者らしい毒も含まれていて、「ブルジョアの娘に失恋したために立派な共産党員になれたってやつは意外に多いんだよ。」というくだりには、大笑いしました。


No.111 8点 日本探偵小説全集(8)久生十蘭集
久生十蘭
(2012/11/12 13:16登録)
創元推理文庫
「顎十郎捕物帳」全24編、「平賀源内捕物帳」3編、「湖畔」「昆虫図」「ハムレット」「水草」「骨仏」
「顎十郎」は20年前に読んだことがありますが、再読でも、情にはしらず知能を駆使しての解決で、妙にひねくったところもなく、面白かったです。日本のシャーロック・ホームズといえます。久しぶりに読み進むのがもったいないと感じました。
「昆虫図」「水草」「骨仏」は超短編ですが、恐怖小説、怪奇小説としての完成度が高いと思います。
この作者は、妻に口述筆記させていたそうですが、言葉のリズムはすばらしいものです。顎十郎は、本当に江戸ことばを使っていたんだなという感じがします。

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