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ミステリの祭典

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日本探偵小説全集(8)久生十蘭集

作家 久生十蘭
出版日1986年10月
平均点7.50点
書評数4人

No.4 8点 クリスティ再読
(2019/01/03 21:46登録)
ミステリというのは不祝儀の極みのジャンルなので、「おめでたいミステリ」って語義矛盾なんだけども、顎十郎の1編「丹頂の鶴」はというとね、

そもそも鶴は凡禽凡鳥ならず。一挙に千里の雲を凌いで日の下に鳴き、常に百尺の松梢に住んで世の塵をうけぬ。泥中に潜してしかも瑞々。濁りに染まぬ亀を屈の極といたし、鶴を以て伸の極となす。

「いや、目出度いの」。公方様お手飼いの丹頂鶴の死因を「捕物吟味御前試合」の場で、ライバルの南町奉行所の同心を向こうに回し、見事に目出度いオチを付けてみせるわけだ。まさにお正月に読むべきミステリはこれを外してないでしょうよ。
とまあ新年なので洒落てみせたのだけど、「半七」を別格にすれば、ミステリファンが読むべき捕物帳はやはり「顎十郎」ということになる。創元「日本探偵小説全集」の久生十蘭の巻で顎十郎を全作収録しているのはダテじゃない。トリックもあり、ロジックもあり、意外な犯人、不可能興味のミステリの精髄を、比較的短い紙幅(文庫20ページくらい)で切れ味鋭く繰り出されるのは、これちょっと快感、というのものだよ。
でしかもねえ、小説としての洒落っ気もさることながら、文章が実にリズミカル。江戸情緒溢れる日本語が、名調子に乗って繰り広げられる。まあ半七の江戸のリアリズムには及ばないにせよ、「粋」を愉しむエンタメとして秀逸なシリーズである。ミステリとしては、両国の見世物小屋から鯨が消失する不可能興味の「両国の大鯨」がとくによく出来ていると思うよ。
三編収録されている「平賀源内捕物帳」は顎十郎ほどの楽しさはないが、雪の上の足跡密室、一種のアリバイトリック、江戸・大阪・長崎で同一人物に刺殺される不可能興味など、趣向のハッタリの掛け方のうまさではこっちのが上かもね。
「日本探偵小説全集」の名に違わず、本書は捕物帳でもとくにミステリらしい作品が詰まった作品集になっているからね。もちろん、「湖畔」「ハムレット」は十蘭短編の最高峰みたいなものなので、こっちも読んでないと....
うんだから「捕物帳だから」で敬遠するのは、間違ってるよ(あと評者は城昌幸の「若さま」も捨てがたいな...これは「隅の老人」もかくやのアームチェア・デテクティブをカマす捕物帳なんだよ)。

No.3 7点 mini
(2015/02/25 09:57登録)
本日25日に河出書房から文芸別冊シリーズの1冊として「久生十蘭」が刊行される、書簡など資料も入った総特集らしい
久生十蘭入門としては創元文庫版のが代表的な短編を網羅しており適切だろう
内容は大きく分けて代表作「湖畔」「ハムレット」といったノンシリーズ短編群と、『顎十郎捕物帳』全編に作者のもう1つの捕物帳『平賀源内捕物帳』を合わせた捕物帳群の二本立てで構成されている

『顎十郎』は単発作品以外のシリーズものとしては作者の代名詞みたいな存在で、後に都筑道夫が書き継いだ事でも有名だ
このシリーズは捕物帳とは言え、「半七捕物帳」みたいな江戸情緒を満喫できるようなものではない
そもそも十蘭は東京の生まれではなく、最初から本格的な江戸気分の捕物帳を描こうなどという気は無かったと思われる
十蘭は職人気質な作家ではないが何でも書けてしまう天才肌な作家だと思う、おそらく捕物帳も自由自在に書けちゃったのでしょう
顎十郎シリーズとしては、マリーセレスト号事件を髣髴させる大掛かりな不可能ものの代表作「遠島船」が有名だが、私は案外と真相は面白いとは思わなかった
この種の大掛かりな不可能ものならもう1つの代表作「両国の大鯨」の方が上かも、抜け抜けとして大胆不敵な消失トリックもさることながら、トリックを弄す理由も秀逸だ
ユーモアに乏しいのでシリーズらしさに欠けるのが難だが、集中最も不可能興味が濃厚なのが「蕃拉布(はんどかちふ)」で、小粒なトリックながら強引かつ切れの有る解明に驚く

『顎十郎』シリーズ以外のノンシリーズ短編も出色の出来で、「湖畔」などはその耽美的な雰囲気に、本来の作者はこうした作風に秀でているのではと思った

No.2 7点 ボナンザ
(2015/01/17 19:39登録)
流れるような文体に奇想が重なる傑作短編集。
顎十郎を全て収録しているのも嬉しい。

No.1 8点 TON2
(2012/11/12 13:16登録)
創元推理文庫
「顎十郎捕物帳」全24編、「平賀源内捕物帳」3編、「湖畔」「昆虫図」「ハムレット」「水草」「骨仏」
「顎十郎」は20年前に読んだことがありますが、再読でも、情にはしらず知能を駆使しての解決で、妙にひねくったところもなく、面白かったです。日本のシャーロック・ホームズといえます。久しぶりに読み進むのがもったいないと感じました。
「昆虫図」「水草」「骨仏」は超短編ですが、恐怖小説、怪奇小説としての完成度が高いと思います。
この作者は、妻に口述筆記させていたそうですが、言葉のリズムはすばらしいものです。顎十郎は、本当に江戸ことばを使っていたんだなという感じがします。

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