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ミステリの祭典

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ミステリーオタクさんの登録情報
平均点:6.97点 書評数:155件

プロフィール| 書評

No.115 6点 紅き虚空の下で
高橋由太
(2022/04/13 17:43登録)
自分にとって全く予備知識がない初読みの作家の作品集でタイトルからはシビアでハードなミステリを想像していたが、入ってみると前印象とはかなり違っていた。

《紅き虚空の下で》
単純に読み物として読みやすくて面白いし、SFミステリとしてなかなかの技巧が凝らされている妙作。無駄に長いと思われた部分にも意味があった。

《蛙男島の蜥蜴女》
太平洋の外れにあるという、なぜか住民が日本語を話すふざけた島でのふざけたミステリ。肩肘張らずにこの世界に浸ればこれも面白い。

《兵隊カラス》
本書の作品中、唯一「一応」現実世界での話。前2作に比べると、設定のみならずストーリーも落ち着いてしまった感は否めない。

《落頭民》
(ある意味ネタバレになるかと思うが、この話を読むならネタバレを読んでから読んだ方が失望や腹立ちが抑えられることだろう)
この上なく狂った世界での狂いまくった、話ともいえない話。エログロと称すのもおこがましいゲロのようなキモ与太が延々と続く。それでも「ミステリとしての何か」があるのだろうと我慢して読み通してみれば結局何もない。
中国の昔の奇談を題材にしたらしいが、何でこんな話がこの作品集にあるのか自分には意味不明。


前半の2話が類のない構築世界でのユニークなミステリだったので「これはかなりの掘り出し物か」と気持ちが高揚したが、3話目で地上に戻されて最終話でドブ川に突き落とされた感じ。

この作者、才能はあるがムラもあるのかもしれない。
今後に期待したい。


No.114 6点 超短編!大どんでん返し
アンソロジー(出版社編)
(2022/03/23 12:59登録)
錚々たるミステリ作家30人による30のショートショート作品集だが・・・

う~ん、皆さんこれほど短い話は書き慣れていないということだろうか。
概して言えば、正直講談社の一般コンクール入賞作品集だった「ショートショートの広場」と同じレベルにしか感じられなかった。

各作品の表紙の作家名を見ては「おっ、この人なら」と期待して読み始め、4ページ読了すると出るのはタメ息・・・殆どその繰り返し。
何ていうのかなあ、チンケな例えだけど、プロ野球のトップスラッガー達が女子ソフトボールの投手の球を打ちあぐねているというような印象も受けた。

結局30作品中、あっと驚いた作品は・・・ゼロ。
「巧い」と感じたのが、井上真偽の《或るおとぎばなし》1作。
「まあ巧い」と感じたのが、
  青崎有吾 《your name》
  柳 広司 《阿蘭陀幽霊》
  乙  一 《電話が逃げていく》

更に貶すようで恐縮だが、個人的にはツカミも悪い話が多かったように思う。4ページと分かっているから全て完読したが、そうでなかったら2ページ位で放り出していた作品も少なくなかった気がする。
しかし何はともあれ自分にとって「短い」ということは絶大なアドバンテージなので、決して無駄な読書ではなかった。


No.113 7点 グランドマンション
折原一
(2022/03/05 17:38登録)
作者の作品集としては「幸福荘」シリーズ以来かと思われる、集合住宅が舞台の連作短編集。

《音の正体》
折原らしいと言えばらしいが、あまり変わりばえしないなあ、という感想。

《304号室の女》
ちょっとアンフェアな気もするが、前作よりは読み応えもあり、なかなかサスペンスフルで面白い。まあ、絶対無理だが。

《善意の第三者》
これも、よーやるよ。

《時の穴》 
イマイチよくわからん。辻褄合ってなくない?

《懐かしい声》
ストップ詐欺被害!私は騙され・・・

《心の旅路》
ネタ自体は二番煎じだが、構成が実に巧みだし、読み物として非常に面白い。
滅多にないことだが思わず(飛ばし飛ばしではあるが)確認のために読み返してしまった。

《リセット》
最後の、古き良きミステリー風の解決シーンは悪くなかったが、真相はイマイチすっきりしない。

《エピローグ》
なくてもいいような気もするが・・・前作のラストでは作品集のシメとして美しくないからかもしれないが、それなら前作の最終段落として付加するだけにしておいた方が余計な期待を抱かされずに・・・でもまあこれも悪くはない。


この作者の短編はとにかく文体が読みやすくて程度の差はあれスパイスが入っているので、疲れた時や仕事の合間などの息抜きに(個人的には)ピッタリ。
登場人物の殆どが何となく漫画チックなのも気楽に読めて吉。


No.112 9点 オーブランの少女
深緑野分
(2022/02/05 15:26登録)
十九(?)~二十世紀の五つの国を舞台にした五つの「少女たちの」サスペンスミステリー。

《オーブランの少女》
この上なく異様で不可解な殺人事件の真相として語られる物語。
色彩に満ちたおとぎ話のような世界に事が起こり始め、やがて構図の変転を現してくる。
個人的には「アレの意味」に気づけなかったのは悔しいが、非常に印象深い作品。

《仮面》
これもグイグイ読ませてくれて、3分の2ぐらいのところで事件の全貌が見えるが、その後のドス黒さで読後感はかなり悪い。

《大雨とトマト》
二十数ページ、ワンシーン+αの中にスパイシーなネタが小気味よく仕込まれたナイスなショートミステリー。
表題作に続いて「あのヒント」に気づけなかったのは悔しい。
この作品では人物名や地名の記載が一切ないため、どこの国の話かはっきりとは分からないが何となくイタリアかな。

《片想い》
ないかと思っていた日本のお話。舞台は昭和初期の高等女学校。
他作に劣らずトリッキイなストオリイではあるが、本作では作者はトリックより成長途上の女の子達の情緒描写に魂を込めていたようだ。

《氷の皇国》
最後は北欧からの童話チック・ミステリー。100ページを越える中編作品。
出てくる地名は全て架空のもので、歴史の話や国の体制も全くの創作のようだが、地理的な舞台は恐らくノルウェーを想定したものと思われる。表題作同様、色彩感覚に満ち溢れた過酷なフェアリーテール。


う~ん、これほど完成度が高い作品集に出会ったのは久しぶりだ。
作者は芦沢央さんと同じく30代で、同じように魅力的な女性だが二人ともミステリー慣れした読者をも唸らせるような作品をポンポン生み出してくる。
これからもこういう作家が次々と世に出てくることを切に願っています。


No.111 7点 叙述トリック短編集
似鳥鶏
(2021/12/29 18:23登録)
ヨダレが出そうなタイトルの短編集。
いつの間にか文庫化されていたことを知り遅ればせながら食いつく。

《ちゃんと流す神様》
前例のない叙述トリックではないが、これはこれで面白くできている。
ただ解決ファクターの1つが後出しジャンケンだったのが残念。

《背中合わせの恋人》
80ページと長めの短編だが、なかなか面白い「コンバインド叙述トリック」。
詳しくは述べないが、作者らしいストーリーと言えるのではないかな。

《閉じこめられた三人と二人》
作者らしからぬ(?)「不可能犯罪+クローズド・サークル」だが・・・途中で何となく方向性は嗅げてしまった。でも巧いし面白い。

《何となく買った本の結末》
これも「トリックの分野」は途中で見当がついてしまう。
前作同様、ミステリとしてのクオリティを犠牲にしてオリジナリティだけを追った作品。

《貧乏荘の怪事件》
これはちょっとねぇ・・・古い禁じ手に読者の集中力を削ぐ空気を撒きまくったようなトリックだな。

《ニッポンを背負うこけし》
事件が起きた時点で犯人と動機は分かった。
当たったが当たらなかった。
当たるわけがない。
ふざけやがって。

《あとがき》
必ず最後に読むこと。前6作のネタバレあり。


さて、昨年に続いて今年も最終書評は似鳥作品になってしまったが全くの偶然です。

残念ながら今年も我々は病原ウイルスの脅威から離脱することはできませんでした。
でも日本は厳しい逆境の中で、オリンピック・パラリンピックや高校野球甲子園大会を成し遂げました。
そして新型ウイルスに対するストラテジーも着実に前進しつつあります。

来年こそは希望溢れるハッピーイアーになってもらいたいと思います。

皆さん、よいお年を。


No.110 5点 背が高くて東大出
天藤真
(2021/11/07 15:15登録)
まあ悪くはないが、流石に今読むと時代遅れ。
入れ込める気にもなれなかったが敢えてその愚を犯すならば、そこそこの短編集といえるかもしれない。
表題作:東大卒でこんなバカな奴って・・・・・実は結構いるよな、と思いながら読み、終盤の無茶苦茶もまぁまぁ。


No.109 8点 サーチライトと誘蛾灯
櫻田智也
(2021/10/27 21:44登録)
えり沢泉シリーズとやらの5つの作品からなる短編集。

《サーチライトと誘蛾灯》
平易っぽい(あくまでも「ぽい」)会話が多いストーリー構成なのでとても読みやすいが、真相に至る過程はちょっと飛躍気味ではないかい?

《ホバリング・バタフライ》
これも読みやすくてストーリーもまあ面白いが、前作以上に推理、というか思考プロセスが飛び跳ねている。つーか、「思いつき」で真相に至っている。

《ナナフシの夜》
うーん、ちょっとアンフェアな気もするが・・・やられた。
気づいて然るべきに気づけず悔しい。

《火事と標本》
・・・な真相であるが、これもそのアプローチはとても「推理」とは言えない。

《アドベントの繭》
教会が舞台の宗教色の濃いストーリー。キリスト教信仰の業に関してかなり深いところまで掘り下げられていて圧倒される。
ミステリとしても面白いネタがあるし、推理も、それで完全に詰められるものではないがよくできている。


何度も述べたように本格ミステリとしてはどうか?と思わせられる作品が多いが、とにかく全て読みやすく心に響くものがあり入れ込めた。


No.108 7点 許されようとは思いません
芦沢央
(2021/10/06 21:53登録)
自分にとって初の芦沢作品。5編からなる短編集。

《目撃者はいなかった》
ちょっと無理がある感は否めない(ミステリなんてみんなそうだが)が、実に面白いし、巧いとも思う。でもこの展開ならもっと話を最後まで書いてほしかった。

《ありがとう、ばあば》
これは捻りもあることはあるが、ミステリというよりは心理サスペンスだろう。また途中、ばあばと娘の口論などはちょっとダラダラした印象が拭えない。
   
   (ネタバレ小言)


   いくら人が少ないとは言え、それなりのホテルなんだし、高々7階なんだからバルコニーで大声で騒げば誰か気づくだろう。

   
   (ネタバレ小言終わり)

《絵の中の男》
凄惨な話でありながら前2作同様よみやすいが、やはり長い気がする。
一人称語りのストーリーだが(演出として故意にであることはわかるが)語り手の話し方のまわりくどさもだんだん鼻につき気味になってくる。ミステリ要素も悪くはないが、斬新とも思えない。

《姉のように》
姉の犯罪という異常事態、そして育児ノイローゼに陥っていく心理を生々しく描いていく陰鬱な心理小説かと思いきや・・・・・・「仕掛け」はこれがベストかな。ただし長崎弁は苦手。

《許されようとは思いません》
陰惨な話でありながら引き込まれるが、この「仕掛け」はチョットね・・・
タイトルのミーニングも含めて真相は意外ではあるが、自分には心情的に少し理解困難。エンディングは面白い。


全て非常に読みやすいが、どの話も途中間延びして無駄に長いと感じる部分があったことは否定できない。
ドロドロと書き連ねられる心情描写の奥に「企み」が隠されている。そしてストーリー構成のテクニックにも際立つものがある。
ふと米澤穂信の短編集に似たテイストだと感じた。


No.107 6点 無限がいっぱい
ロバート・シェクリイ
(2021/09/04 22:38登録)
フレドリック・ブラウンと並べられることが多いらしい、この作家の短編集を初めて入手してみた。
作品自体は押し並べて60年以上前のものだが、設定は全て今よりも大部未来のSF作品集。
原題は【Notions:Unlimited】だが表と裏の表紙には[tales of menace]とある。

《グレイのフラノを身につけて》
全編読み終わってみればブっとんだ設定のSFが多い中で、これは例外的に割と現実感がある、ロマンスを題材にしたアイロニー。

《ひる》
一転して非現実感がハンパないtale of menace。

《監視鳥》
今で言うところのAIのmenaceをちょっと、いや、かなり極端だが鮮明に描いている。

《風起る》
読んでて疲れる異星の物語。地球上の最強台風を遥かに凌駕するヴァイオレントウインド。

《一夜明けて》 
ここは一体どこだ。
最後はパイオニアイズムと現実のギャップが皮肉っぽく書かれている。

《原住民の問題》
異星の開拓者達の話だが、(全編に共通したことではあるが)かなり強引な展開。特に解決編は。また最後の文明論っぽい話は難しいし、翻訳も相当苦労したものと思われる。

《給餌の時間》
6ページのショートショート。オチは大体読めるが、なぜそうなるのかが分からない。分かる方がいたら教えてください。

《パラダイス第2》
タイトルも含めて全編中、最もマニアックな作品だったように思う。
始めの方の「突然変異によって生じた細菌。これはもっぱら全住民に危害をくわえる目的で、実験室でつくりだされたものだ。この細菌の活動を制しきれなくなると、惑星ひとつ全滅するぐらい造作ないことなんだ」という一節も現在のmenaceを感じさせる。

《倍額保険》
タイムトラベル物。いろいろな時代でストーリーが繰り広げられるので映像化したら面白そう。

《乗船拒否》
人類の永遠の宿題の一つである、人種問題の話だが・・・捻りが面白い。

《暁の侵略者》
シンプルな宇宙進出ストーリーが、何か「鬼滅の刃」を思わせる展開になっていくが、最後は前作同様に「種の問題」がテーマに。

《愛の語学》
第1話以来のロマンス関連の話。これも概念性の強いシニカルな内容で、「どちらかと言えば」笑える。


恐らく原文はそこそこ古い英語である上に、翻訳も古い日本語が多いので少々読みづらいが、まぁ古き良きアメリカのSF短編集としてバラエティーに富んだシチュエーションを楽しむことができた。




No.106 5点 さよなら神様
麻耶雄嵩
(2021/06/23 16:32登録)
麻耶の神様シリーズ2冊目は6つの作品からなる連作短編集。

《少年探偵団と神様》
前作の既読者にとっては「よっ、神様ひさしぶり」てな感じで始まるが、ミステリとしてさほどインパクトのある話ではない。で、結末直前のアレは・・・後で分かる。

《アリバイくずし》
まあ結末が麻耶らしいと言えなくもないが、ミステリとしては普通。

《ダムからの遠い道》
前作に続いてアリバイ崩し。
最後に明かされるネタは悪くはないが、途中のガキどもの延々と続く議論は読むのが面倒だった。
そもそもアリバイは苦手。

《バレンタイン昔語り》
序盤で第1話のアレが分かる。
辛く残酷な話だが【神様ミステリ】としては、よくできていると評価せざるを得ないだろう。

《比土との対決》
これも面倒なアリバイもの。動機の意外性? あまりピンと来ない。

《さよなら、神様》
当然マトメになる話だが、分かったような分からんような・・・


基本的に残虐な殺人ミステリは嫌いではないが、幼気な子供が不幸になる話はキツい。本書では何人もの子供が死ぬが個人的にはその子たちより、ある気持ちの優しい子の悲運が不憫でならなかった。
作者としては本作品集はсчастливый κοнецのつもりなのだろうが、自分には最悪のイヤミスだった。

さよなら神様。
そして暫しの間、さよなら麻耶。


No.105 6点 作家刑事毒島
中山七里
(2021/04/15 20:15登録)
毒島(ぶすじま)という何ともやりきれない名字の作家刑事が、マインドポイズンで犯人を責め落とす様を出版業界を舞台に描いた異色ミステリ風短編集。

《ワナビの心理試験》
ワナビ・・・知らなかったなあ。それにしても痛快、痛快。

《編集者は偏執者》
前作と似たような設定だが、二作目ということもあってか業界論の展開がちょっとダラついた感じでウザかった。

《賞を獲ってはみたものの》
こんな殺害方法があったとはね。しかし終盤の「ツアー」には笑った、笑った。犯人なんか誰でもいい。

《愛涜者》
前三作とは少しニュアンスを変えて、それなりの意外性もあるが「本の出版関連事情」に精通している人以外は、ミステリとしてのカタルシスは得難いのではないだろうか。まあその分野の勉強にはなるが。

《原作とドラマの間には深くて暗い川がある》
出版業界とテレビ業界の交錯が描かれ読み物としては面白かったが、これもミステリとしてはねぇ~。


繰り返しになるが、個人的にはミステリとしてより業界内部事情と毒島のエキセントリックストラテジーを楽しめた短編集だった。


No.104 6点 メルカトルかく語りき
麻耶雄嵩
(2021/03/17 00:52登録)
メルカトルと美袋のための第2短編集。

《死人を起こす》
なかなか魅力的な短編ミステリに訳の分からない殺人事件をくっつけて、ぶち壊しているところが作者らしい。

《九州旅行》
あまり面白くなかった。オチも古い。

《収束》
また、こういう中途半端なミステリを書きやがって・・・
この話では登場人物たちの身長がポイントの一つになっているが、メルの身長が180センチ以下らしいのは少し意外だった。190位あるかと思ってた。

《答えのない絵本》
またまた訳の分からない話を書きやがって。
でもこれは凄い。緻密に組み立てていったロジックタワーを完成と同時に叩き壊して前代未聞の虚数解にいざなうのだから。
といってもマヤの悪ふざけだな。

《密室荘》
もういいよ。犯人は下弦の壱だ。


長年、自分の脳内でのメルカトルのヴィジュアルイメージは不敵な笑みを浮かべた阿部寛だったが、一昨年「シャーロック」というTVドラマを見てからディーンフジオカに変わった。しかしシャーロックの続編が見たい・・・あんな奴がホントの守谷であるわけがない!家族で守谷役を当てっこしたのに・・
おっと本作とは無関係な話でした。

思うのだが、摩耶にはミステリ界のピカソという形容が相応しいかもしれない。


No.103 6点 鬼の跫音
道尾秀介
(2021/03/02 21:24登録)
作者が脂が乗り切った頃の「ミステリ+ホラー」短編集。


《鈴虫》
確かにミステリ+ホラーではあるが、特に斬新さは感じす。

《(けもの)》
ミステリ部分はとても良くできているし、ホラーパートも、あまり好みではないが強烈。

《よいぎつね》
古より時々見られる○-□型ネタだが、こういうのはどうも作者の自己マンに感じられてしまう。

《箱詰めの文字》
途中までは面白い展開だが、結局何がしたかったのかよくわからない。

《冬の鬼》
全く斬新とは言えないが、あるユニークな手法が取られている。「ラスト」もかなりエグい。

《悪意の顔》
合理的な出来事か、超常現象か。その境界をさまよう不思議な作品。でも最後の1行がその解答らしい。


以上6編、良くも悪くも道尾らしさが色濃く出ている作品集に仕上がっていると感じた。
で、Sっつうのはやっぱり秀介のSか?


No.102 7点 マスカレード・ホテル
東野圭吾
(2021/02/17 18:14登録)
見ようと思いながら、なぜか映画もテレビの見損ねてしまったが、本書を読んで逆に映像に触れる前に原作に当たれてよかったんじゃないかと思えた作品。

実に精巧な構成で読みごたえのあるケイゴ・ミステリーでしたね。
まぁ、目的達成のためにそこまでやる必要性があるか?という感想もあるでしょうが。

続編も映画化されるそうだから、その前にそちらも読んでから映画館に足を運びたいものだが、どうなることやら・・・


No.101 6点 ミハスの落日
貫井徳郎
(2021/01/27 22:39登録)
海外の、名前は誰でも知っている5つの地(表題作もメインステージは下記のとおり)で繰り広げられる5つのヒューマンミステリー。
すべてのストーリーにとびきりの美女が絡んでくる。


《ミハスの落日》
真相は特段驚きが大きいものではないし、トリックに至っては残飯もの。
まあ、バルセロナが主舞台のセンチメンタルストーリー・ミステリー風ということで楽しく読めた。

《ストックホルムの埋み火》
前半はいかにもミステリチックな展開でそれなりの捻りもあるが、結局心情描写が強い作品になっている。

《サンフランシスコの深い闇》
これ、保険会社と警察のスタッフは間違いなく記憶にあるが、ストーリーは全く思い出せず。
登場人物たちのキャラクターがやたら濃い割にミステリーとしては薄味のため忘れてしまったのか、別の話だったのか判然とせず・・・と思っていたら、解説に「別の中編集のある作品の続編」であることが書かれていて、ようやく思い出した。

《ジャカルタの黎明》
ミステリーとしてはこれが一番面白かった。
しかし動機は苦しい。
ところでこの国って人の頭を撫でるのはNGじゃなかったっけ?

《カイロの残照》
これはキツい。


あまり貫井らしさが出ている作品集とは言い難いが、押し並べて読みやすいので異国情緒が気分転換にはなる。ただし、いい転換になるかは保証できない。


No.100 8点 片翼の折鶴
浅ノ宮遼
(2021/01/04 17:12登録)
現役医師の手による医学ミステリ短編集。

個人的な感想としては、最終話以外は「お見事」の一言。
特に《開眼》と《血の行方》には唸らされた。


No.99 7点 きみのために青く光る
似鳥鶏
(2020/12/30 22:29登録)
異様な超常能力を有する中高生3人とオーエル1人がそれぞれ主人公の、4つのインディゴな物語。


《犬が光る》
△・・前半はやや退屈でこんなんがずっと続くならムリかなーと諦念の予兆がよぎったが、後半に「事件」が始まってからはまあまあ。

《この世界に二人だけ》
◎・・これは面白かった。
恐怖、ほのかな甘酸っぱさ、再び恐怖、そして〇〇たち・・・
テーマは「なぜ人を殺してはいけないのか」

《年収の魔法使い》
◎・・前2作で中高生の発展途上の心理を繊細に描いた作者が、いきなりこういう「現金な」発想を噛ましてくることにまず驚いた。
それでも一応ミステリになっているし、前作に劣らず面白い。

《嘘をつく、そして決して離さない》
〇・・これは感想なしで。
テーマは「人間の運命とは」

今年は本当に大変な一年でした。
来年はどんな運命が私たちを待ち受けているのでしょうか。


それでは皆さん、よいお年を。


No.98 6点 首折り男のための協奏曲
伊坂幸太郎
(2020/12/19 22:17登録)
タイトルは仰々しいが、まぁ伊坂の作品集だからさほどのインパクトは期待せずに・・・


《首折り男の周辺》
読みやすいし「先の見えない感」もよかったが、作者の作風の一つとは言え、もう少しまとめてくれてもよかったかな、とも思う。

《濡れ衣の話》
うーん、結構感情に差し込まれる話だが、これも最後は・・・

《僕の舟》
これは面白い。最後の最後は分かってしまうだろうが、笑うしかない。

《人間らしく》
延々と続くクワガタの話は少々ウンザリだが、たまにはこういう話も(ある意味伊坂の本質が出ていて)イイね。

《月曜日から逃げろ》
作中で述べられているとおり斬新とは言えないが、面白い試み。

《相談役の話》
「アリーナの写真」だけは少しゾクッとしたが、全体的には(個人的には)あまり面白くない。

《合コンの話》
一番ミステリらしくないツカミで始まり、やがて巧妙なミステリを予感させる流れへ移り、その後ダラダラ感を抱かされた後、フィニッシュは「半落ち」といったところか。


伊坂らしい人間味豊かな無難な短編集と言えるのではないだろうか。


No.97 6点 真実の10メートル手前
米澤穂信
(2020/11/06 17:24登録)
ベルーフシリーズとやらの最終巻?とのことだが、自分は本書以外は未読。


《真実の10メートル手前》
推理クイズの積み重ねのような展開は興があるが、閉め方は如何だろうか。平凡なのか叙情性を狙ったのか。

《正義漢》
20ページ弱の取り分け短い短編だが面白い構成になっている。

《恋累心中》
掘り下げが少し物足りない気もするが、よくできていると思う。何と言っても動機の意外性。

《名を刻む死》
例によって、推理クイズ的ないくつかの小ネタは悪くはないが、全体として何か理屈っぽい感じだし、また「そんな拘りを持つ奴」もいるかもしれないが、それをミステリー小説にしあげても、あまりしっくりこない。

《ナイフを失われた思い出の中に》
これも緻密な造りだが、やはり理屈っぽすぎる推理と抽象的なメディア論にいささか疲れる。

《綱渡りの成功例》
この真相が何か問題に?
まあ、コレもメインテーマはメディアの意義だろうが、ちょっとピンボケな気がする。


全作力作だとは思うが、総じてミステリーとジャーナリズムの関連づけに少々コジツケっぽさを感じてしまった。


No.96 7点 ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで
真梨幸子
(2020/10/15 23:59登録)
この春文庫化された、真梨先生の何冊目かの短編集。
大手百貨店の外商部が絡んだ奇妙な話が並ぶ連作作品集になっている。


《タニマチ》 全く前情報なしで入った本なので、どんなものかとチョットわくわくしながら読み進めたが・・・うん、途中少しダラついている感も否めなかったが、小気味いい「トリック」が効いている。

《トイチ》 これも凶悪犯罪が起こるわけではないが、それなりにミステリーしている。 
おひい様はだーれ?

《インゴ》 何という展開。

《イッピン》 ちょっとグロい描写もあったりして、大部いつもの真梨ミステリーになってきた感じ。

《ゾンビ》 なるほど、そう来たか。でも、なぜかさほど斬新さを感じないんだよな。

《ニンビー》 没落、意外な人間関係、凝った構成・・・前作と少しテイストが似たストーリーで、コレもよくできているとは思うが、やはり個人的には大きなサプライズはもたらされなかった。

《マネキン》 面白くてバカバカしくて、かつ本書の真髄も垣間見られるが、まとめずに最終話へと続く。

《コドク》 いくら何でもソリャネ・・・いや、マリワールドならアリか。そして、ある意味マリらしくまとめたね。


大体「薄→濃」の順に並んでいると言っていいだろうか。でもって「グロさ」や「不快感」といった調味料をドバっとかけることなくストーリーの素材と捻りで勝負している。
今まで読んだ作者の短編集の中では最も高い完成度を感じた。

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