ミステリーオタクさんの登録情報 | |
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平均点:6.98点 | 書評数:170件 |
No.130 | 8点 | 無垢と罪 岸田るり子 |
(2023/04/14 21:23登録) 連作短編集の形を取っているが、先のお二方が仰るように実質的には6章からなる長編小説と言えよう。単体で読めるのは第1話ぐらい。 個人的には第5話「幽霊のいる部屋」のエンディングが、偶然流れていたルームミュージックの「星に願いを」とシンクロして感極まってしまった。 各編の絡み方が技巧的過ぎて、驚き、戸惑い、合点の繰り返しだったが、愛、運命の悪戯、絶望、底知れぬ切なさ、救い、の物語として非常に印象深い作品だった。 正直真相はあまりしっくり来ないし、あの子も○○に守ってもらえばよかったのではないかと思うし、京都弁の会話はキツかったが、忘れられないミステリ(本格とは言えないが)になりそうだ。 本作の作品名も第1話のタイトル「愛と死」でもよかったのではないか、と読後ふと感じた。 |
No.129 | 8点 | 婚活中毒 秋吉理香子 |
(2023/04/01 22:34登録) そういうジャンルがあるのか知らないが「婚活ミステリ」短編集。全4話。 《理想の男》 失恋した主人公が結婚相談所の紹介で理想の男性と出会うが、やがて疑惑の数々が・・・どうまとめるかと思えば、そうきたか・・・これはヨメなかった。 《婚活マニュアル》 出会いパーティーから始まり、割とありがちなラブ・ストーリーかと思いき・・・・・・これはヨメた。 《リケジョの婚活》 昔、こういう出会いの場をセッティングして、多くの男女に恋愛バトルを繰り広げさせるTV番組あったよね。今でもあるのかな。でも本作のような泊まりがけのプログラムで、尚かつ相手の実家に行ったり、そこで家族がゾロゾロ出てきたりというのは今も昔もないんじゃないかな。しかし本作ではそれが伏線に・・・ 《代理婚活》 何年か前にテレビなどで話題になっていた、親による「代理婚活」。今でも盛んなのかな。まあ、結婚は両者の家族の実情を切り離してできるものではないから悪くはないと思うが・・・ 4話とも現実的な婚活話で始まり(第1話以外は)とてもミステリなど出てきそうもないストーリーが、やがて現実ではほぼあり得ない展開を見せるところが凄い。 (ネタバレ的感想) 前半の2話は完全にイヤミス。3話目はハッピーエンドともバッドエンドとも言えないがちょっと気持ち悪い。最終話は唯一「いい話」と言えるだろう。 私は30回婚活パーティーに出席して20回見合いをして10年前の4月1日に結婚しました。 |
No.128 | 5点 | 完全・犯罪 小林泰三 |
(2023/03/26 19:33登録) 3年前に50代で鬼籍に入った作者の短編集の一つ。 《完全・犯罪》 バカSF、いやコメディ、いやコントだが全然面白くない。オチもデキの悪い子供漫画レベル。これが第一話にして表題作とは先が思いやられる。 《ロイス殺し》 寒々しいストーリーだがあまり、いや殆ど面白くない。(寒々しくても面白い話はある) ミステリ要素に何かあるのかと思えば、デキの悪い子供向けの推理クイズレベル。 《双生児》 始めから6割位までは双生児をテーマにした自己認識論やアイデンティティに関する禅問答のような議論が延々と続く。次いで新たなファクターが介入し、少しは面白くなるのかと思えばそうでもなく、訳の分からない結末へ続く。 《隠れ鬼》 これはリーダビリティがとても高く、一気に読めてしまったが・・・ 序盤は、迫ってくる不条理な恐怖、を描いたのだろうが全く怖くない。その後、その件および「鬼ごっこ」に関するフィアンセとの会話を挟んで、主人公の幼少期の「虐め」の記憶が展開される。そして最終シーンでは、これも訳の分からないエンディングへ。まあ、これは皮肉を込めた喜劇のつもりなんだろうね。 《ドッキリキューブ》 これも不快極まりない話だが、本書の中で唯一「面白かった」。終始「次の一手」が読める展開だが、笑えるシーンもあったし前作に続いて読み止まらないリーダビリティの高さ。 昨年、初めてこの作者の短編集「浚巡の二十秒と悔恨の二十年」を読んだ際、唸らされた作品がいくつかあったので本書も期待して手に取ったのだが・・・「浚巡・・」は本書の10年以上後に刊行されているようなので、この間に作者が「成長」したということなのだろうか。いずれにせよ今後、新作が出ることはないが・・・ |
No.127 | 6点 | 陽だまりの偽り 長岡弘樹 |
(2023/02/28 22:48登録) 以前からその名前はチラホラ見聞きしていたこの作者の作品を初めて手に取ってみた。まずは比較的評価が高い本短編集を。 《陽だまりの偽り》 これは楽しい。こんなに読みやすくて、いろいろな事が起こる短編はなかなかない。ミステリもしっかり入っているし。 サブタイトルをつけるとしたら「必死に痴呆症を隠そうとする自称名士の長ーい1日」といったところだろうか。でも、この時代には既に「認知症」という病名が世間一般に十分浸透していたと思うが。 《淡い青の中に》 これも読みやすくて、それなりに面白いが、結局・・・どうなるのか。まぁ、それは野暮というものか。 《プレイヤー》 なるほど・・・こういう話も書くのか。 個人的には本作のミステリ要素、引いては言葉遊びにも「ふ~ん」を越える感想は湧いてこなかった。 《写心》 誘拐を舞台にした心理ミステリとも言えるかもしれないが、さすがに無理があると思う。人間関係の濃度が違いすぎる。また、第2話同様、で、どうなる?っつうシメ。 《重い扉が》 ネタ自体は先例があるが、「絆」をテーマにした、この作者らしいストーリーに作り上げている。 でも「この状態」ではこうはならないと思う。 以上5編、全て非常にソフトで読みやすい文体で綴られていて、幅広い読者層におすすめできる短編集。 |
No.126 | 8点 | 逆転美人 藤崎翔 |
(2023/02/03 21:42登録) 未読の人は以下読まない方がいいと思います。 う~ん、アレだね・・・ 確かに想起させられる作品があるよね。 帯の「史上初の伝説級のトリック」という惹句が一部で「嘘だ」と不評を買っているようだが、そもそも「史上初」というのは「過去に一度もなかった」という意味なのに対して「伝説」というのは事実か虚構は別として「昔の尋常ならざる事象や人物についての言い伝え」のことであり「過去にあった」物事であることを前提にしたワードである。本作に関して言えば「史上初」には首を傾げたくなるが、「伝説級」については「アノ作品級」、野球で言えば「大谷翔平はベーブルース級」というのと同じく誇張ではないと言えるだろう。 つまりこのフレーズは「白い黒豚」とか「昨日生まれた婆さん」と同様自己矛盾を具現したキャッチコピーであり、同じ帯上で「紙の本でしかできない」とトリックの方向性を明示してしまった劣悪CMも含めて双葉社の鼎の軽重が大いに問われるPRマネジメントのレベルの低さを露呈している。 本作を「二番煎じ」と評する人もいるだろうが、自分は、仕掛けの難易度の高さ、ストーリーの緻密性、数十年に渡る時代考証に基づいた時系列使用の巧緻性などにおいて「アノ作品の令和の進化版」と評してもいいのではないかと思っている。 くだらないことをグダグダ書いたが、結局自分は人のひとかたならぬ頑張りに大きな拍手を贈らずにはいられないタイプなのて、努力点込みで。 |
No.125 | 10点 | 方舟 夕木春央 |
(2023/01/12 17:15登録) 基本、ミステリは文庫で読むことにしているが、本作のここでの評価があまりにも高いので我慢できなくなり、ひっさびさに単行本を入手して読んでしまった。(記憶がないが2冊買ってしまった) 以下は未読の人は読まない方が宜しいかと。 文字通り、タイムリミット付きのクローズドサークル・ミステリ&デスゲーム。(サバイバルゲームといった方が正しいかも) しかしエピローグ前までは実質「よくできた推理小説」という印象を越えるものではなかった。「最後の葛藤」では心が火照ったが。 そしてエピローグ・・・これはさすがに予測不能。帯を読んでいなかったので、流れから感傷的なエンディングを想像していたら・・・タマげた。これほどの高評価にようやく納得。 ただ、アノ人の「期待と準備」には何とも言えない皮肉な甘酸っぱさを感じてしまった。最後は究極の「告白」でもあったよね。自分ならどうしただろう・・・今までの人生で一番・・・だった人をイマジンして・・・いや、今の・・でも・・ 追記:もし後日、警察の徹底的な捜査により全てが明らかになったらどうなるだろう。スゴ腕の弁護士がついたら「カルネアデスの舟板」に持ち込める可能性はないだろうか。 |
No.124 | 7点 | アルテーミスの采配 真梨幸子 |
(2022/12/17 18:20登録) AV業界の生々しい実態を舞台にした、作者らしいサスペンスフルなイヤミス。 作者の多くの作品と同様に、グイグイ話を広げていき、ボカスカ登場人物を乱立させるが最後は見事に収束させる。 しかし本作の主人公は一体誰だったのだろう? |
No.123 | 7点 | Iの悲劇 米澤穂信 |
(2022/11/21 13:24登録) 廃村の復興をテーマにした連作短編集。 地味だがとても読みやすい「ヒューマンドラマ+ライトミステリ」が連ねられている。 いくつか印象に残ったストーリーに触れると・・・ 《第二章 浅い池》 不可思議な現象が起きるが・・・・殆どバカミスで笑った。 《第四章 黒い網》 マジシャンズセレクト。これは解ってしまった。 《第六章 白い仏》 不可思議な現象が起きて、一応説明が付けられるがスッキリしない・・・・と思っていたら次の終章で・・・ 《終章 Iの喜劇》 まとめの章。回収の章とも言える。確かに多少驚いたが、結局地方の貧困行政の愚かな上層部がもたらした虚しい悲喜劇と言えよう。 城塚翡翠もいいけど、こういう連作もTVドラマ化したら静かな人気を博するかも。 |
No.122 | 8点 | medium 霊媒探偵城塚翡翠 相沢沙呼 |
(2022/10/26 22:18登録) 心霊だとか超能力だとかには全く興味がない、どころかできれば関わりたくない分野だが、最近入れ込めるミステリを探すのに少し行き詰まってきたのと、本書の世評があまりにも高いのと、いつの間にか文庫化されていたことを知ったのが重なって、思い切って入手してみた。(テレビでやっているのは読み始めてから知った) 4編の中短編とプロローグと各話の間のインタールードとエピローグから成る作品集。 《泣き女の殺人》 「霊媒が出てきて霊視や降霊をする」ことを除けば、ごくごく平凡なミステリだと思うが・・・ 《水鏡荘の殺人》 本作を読んで、本シリーズのテーマなのかなーと思っていた「霊視、霊感をを論理に変換する」ということの意味は理解したが、本作の論理は正直よく解らんかった。 《女子高生連続殺人事件》 これも霊視や降霊が使われることを除けば、普通の猟奇ミステリだと思うが・・・ 繰り返しになるが、ここまでの感想・・・ホントにクドクて申し訳ないが、霊媒が出てくる以外取り立てて取り上げるものはなく、作者は随所随所で深味のある文章を書こうとしているが、いっぱいいっぱいで、まさにラノベの域を越えることができない。なるほどラノベとはこういうものなのか。ミステリとしてのストーリー展開もベタベタだし五冠って何?それとも本当は凄いミステリだが俺が読解できていないだけなのか?香月と翡翠のモヤモヤした関係も「そこまでするならさっさとヤッちゃえよ」とイラつかされる。ミステリに霊媒が出てくるとそんなに凄いのか? 《VSエリミネーター》 何という・・・・・・・・・ 《エピローグ》 これぐらいはないとね・・・ ここまで多くの方が「ほぼネタバレ」をされているので今更ネタ隠しをしてもしょうがないけれど、自分の主義なのでこれ以上の感想は控えます。 でも食わず嫌いしなくてよかった。 |
No.121 | 7点 | 初恋さがし 真梨幸子 |
(2022/09/24 22:31登録) 今年に入って文庫化された作者お得意の連作短編集。 《エンゼル様》 相変わらずのリーダビリティの高さで始まるが、オチは大体見えてしまう。お下劣描写も健在・・・などと思いながら読み進めたが、最終章のある一文が琴線に突き刺さって涙が出そうになった。そりゃないよ、マリ先生。 《トムクラブ》 メインの捻りは斬新とは言えないが軽妙で悪くはない。でもストーカー絡みの話はイマイチピンと来ずスッキリしない。最後もさほど驚くべき展開とも思えない。 《サークルクラッシャー》 これはアクの強さはあまりないが、サスペンスミステリとして普通に面白い。初めは全く解らなかった2つの物語のつながりが段々見えてくる展開も作者らしくて小気味いい。エンディングも意表を突く形でまあまあ。 《エンサイクロペディア》 これも面白い読み物だが、いかにも「続く」という形で終る。 《ラスボス》 このふざけた話のような中の緻密さとバカっぽくも感じられる心理描写こそはマリちゃんの真骨頂の一角だろう。これも露骨に「続く」で終る。 《初恋さがし》 これは表題作に相応しく、いかにも作者らしいショートミステリ。単品でも問題なし。 《センセイ》 本短編集のマトメになるが、いつもの連作短編集同様目まぐるしいアンサーディスプレイ、そしてラスボスの正体。 各種書評サイトでは「今までに比べてパワーが落ちている」などというニュアンスの感想が多かったような気がするが、確かに「エログロ」や「生臭さ」のグレードは昔の作品に比べると高くないかもしれないが、作者の長年の創作活動に裏打ちされた技巧性はかなり高い連作短編集だと個人的には感じた。というか、こうも「引っ掻き回して回収する」連作短編集を書くのはこの人ぐらいではないだろうか。 |
No.120 | 7点 | アメリカン・ブッダ 柴田勝家 |
(2022/09/07 22:21登録) このふざけた名前の作家の作品を初めて読んでみた。まずは短編集をチョイス。 《雲南省スー族におけるVR技術の使用例》 この話はVRに生きる仮想民族を通して、感覚認識論を深く緻密に掘り下げた仮想レポートだと思うが、物語としては「なぜこんなことをするのか」「それは民族にいい結果をもたらしたのか」も書いてほしかった。でも何かの賞を受賞したことは十分納得できる。 《鏡石異譚》 主人公である若い女性の不思議な体験を通して「タイムトラベル」と「記憶」の問題とそれを解決する仮説を「遠野物語」に出てくる数々のストーリーに絡めて展開する、量子力学的サイエンスフィクション。 くどかったり解りづらい所も少なからずあったが、終わり近くの次のフレーズは心に残った。 「後悔も含めて人生だからね。僕は自分が後悔することも受け入れるよ」 《邪義の壁》 ちょっといびつな民俗信仰モノ。一読SFではないが、あの「壁」は殆どSFだよね。最後は明記はされていないが・・・・ミステリだよね。 《一八九七年:龍動幕の内》 なかなか凝った創りの「SFミステリ」。これも読み応えズッシリ。 《検疫官》 第1話と同様ある統制の物語だが、これはチョッと無理すぎだと思う。実際、題材の扱いも中途半端な感が否めないし、そもそも人間の「目的のある行動」自体が既に「物語」なんだから、いかなる空想世界においてもこの規制が通る人間社会は成立し得ないだろう。 《アメリカン・ブッダ》 壮大なマルティプレックスフューチャーヒストリーだが個人的には、読んでいて面白かったかと訊かれると・・・・ビミョー。 途中、「この作者は自分が何を書いているのか解ってるのかな」と思ったことも。 また頓珍漢な印象だとは思うが、「Mアメリカ」からは当初「あつ森」を連想してしまった。 総じて精緻さと完成度の高さにおいて称賛に値する短編集だとは思うが、万人向けとは言い難いだろうね。 |
No.119 | 7点 | アリス・ザ・ワンダーキラー 早坂吝 |
(2022/08/15 18:03登録) 少女アリスが主人公の、5つのクイズという形式の連作短編集。 所々で『不思議の国のアリス』のシーンが紹介されるが、子供の頃に読んだ薄っぺらい絵本では記憶にないものがたくさんあり、あのおとぎ噺の原作は実はかなり盛り沢山の内容があったんだな、と思い知る。ハンプティ・ダンプティが『アリス』に出ていたことも初めて知った。 本書の内容も子供の絵本より、大人になってから見た盛り盛りの映画『アリス・イン・ワンダーランド』の方に遥かに近い。いや、それ以上と言えるだろう。 ミステリとしては面白いロジックが使われている所もあるが、殆ど読者が解けるようにはできていない。 全体としても何とかまとめた感はあるが、その形が何とも・・・。 |
No.118 | 7点 | 午後の足音が僕にしたこと 薄井ゆうじ |
(2022/07/23 13:10登録) かなり短い作品ばかりが二十余作収録された短編集。 大半がボーイミーツガール物(1作だけガールミーツボーイ)だが、始めの数作を読んだ時点で何というか、ストーリーに責任を持たずに思いつくままに書き綴り最後は読者の期待など全く無視して意味がありそうなふりをしたセンテンスで適当にクローズしてしまう、という印象ばかり受けたので投了しようかとも思ったが5作目ぐらいになると、このツカミドコロのない作風が少しクセになってしまった感も否定できず結局読み続ける。 以後はボーイミーツガールのみならず「不安定なカップルの物語」なども語られるが後半に入ると殆どが海外編になる。マニアックな地域が多く情景描写も趣が深く、作者の海外旅行通ぶりが窺われる。 ただし、最終話は国内に戻り・・・・マトメも悪くない。 マイベストは「中国語のカサブランカ」:これだけは文句なしにオススメできる。 次点は「パタゴニアで買えなかったもの」 |
No.117 | 8点 | 逡巡の二十秒と悔恨の二十年 小林泰三 |
(2022/06/29 21:49登録) 今頃になって初めてこの作者の本を読んでみた。 10の作品が収録された短編集。 《玩具》 何これ・・・まあここまでベチョベチョグチャグチャに突っ走ればある意味立派。最後の一行は普通驚くよね。 《逡巡の二十秒と悔恨の二十年》 う~ん、そう来たか。類似例がないわけではないが、これはこれでかなりエグい。 《侵略の時》 非常に珍妙な発想の侵略モノ。最後の方で「人間の存在」に関する意味論が少しだけ展開されるが、エンディングは自分もウンザリした。 《イチゴンさん》 民俗信仰系の・・・何だろう、これは。バカホラーか? 《草食の楽園》 平和と種族間闘争に関する文明論がテーマの未来の物語だと思うが、この話は好きではない。ふとロバート・ジェクリイの短編を思い出したが、最後の男は誰なんだ? 《メリイさん》 これはお化け噺の落語。オチは○□く◇△ん▽。 《流れの果て》 よく分からん話だが短いから許せる。「無量大数」を越える数字の単位が興味深かったが「アレフ」なんてあったっけ? 《食用人》 前半はふざけすぎで抱腹絶倒。後半は文字どおり食傷気味。 《吹雪の朝》 ツカミは好みではない感じだったが、途中からどんどん好きな展開になっていき、間違いなく本書内のマイベスト。事件後の延々と続く議論はもたついた感じも少なからず受けたし、決め手が専門知識なのもちょっとどうかと思われるかもしれないが、それでも巧妙な作りは色褪せない。この作者はこんな冴えたミステリも書けるのか、いや書けたのかと少し意外な気がした。 《サロゲート・マザー》 代理出産と家畜の伝染病を題材にした、悲壮で濃密な生命の物語だが・・・これもマイベスト。 いやぁ~、よくもこんなにもバラエティーに富んだ異様な話をこんなにも思いつくもんだ。 亡くなった方を誹謗するつもりなど毛頭ないが、まともな精神状態の人が書いた作品集とは思えない。天才と何か。紙一重の共存。 新作はもう出ないけどまだまだ楽しませてもらおうと思う。 新作出たりして。 |
No.116 | 7点 | 失はれる物語 乙一 |
(2022/06/20 17:26登録) この作者とはあまり相性がよくないと思っていたが、少し前に読んだアンソロジーの中での作品が面白かったので食わず嫌いをやめて久々に乙一短編集を読んでみることにした。 表題作はあまりにもキツい話だが、マイベストの「手を握る泥棒の物語」を除けば他の作品も程度の差はあれ作者らしい哀愁と切なさと淡い希望を漂わせる物語になっている。しっかりした本格要素を含む作品もある。 マイベスト以外の作品を自分は本当に楽しんで読んだのか何とも判然としないが、しばらくしたら又、乙一作品を読んでみようと思う。 |
No.115 | 6点 | 紅き虚空の下で 高橋由太 |
(2022/04/13 17:43登録) 自分にとって全く予備知識がない初読みの作家の作品集でタイトルからはシビアでハードなミステリを想像していたが、入ってみると前印象とはかなり違っていた。 《紅き虚空の下で》 単純に読み物として読みやすくて面白いし、SFミステリとしてなかなかの技巧が凝らされている妙作。無駄に長いと思われた部分にも意味があった。 《蛙男島の蜥蜴女》 太平洋の外れにあるという、なぜか住民が日本語を話すふざけた島でのふざけたミステリ。肩肘張らずにこの世界に浸ればこれも面白い。 《兵隊カラス》 本書の作品中、唯一「一応」現実世界での話。前2作に比べると、設定のみならずストーリーも落ち着いてしまった感は否めない。 《落頭民》 (ある意味ネタバレになるかと思うが、この話を読むならネタバレを読んでから読んだ方が失望や腹立ちが抑えられることだろう) この上なく狂った世界での狂いまくった、話ともいえない話。エログロと称すのもおこがましいゲロのようなキモ与太が延々と続く。それでも「ミステリとしての何か」があるのだろうと我慢して読み通してみれば結局何もない。 中国の昔の奇談を題材にしたらしいが、何でこんな話がこの作品集にあるのか自分には意味不明。 前半の2話が類のない構築世界でのユニークなミステリだったので「これはかなりの掘り出し物か」と気持ちが高揚したが、3話目で地上に戻されて最終話でドブ川に突き落とされた感じ。 この作者、才能はあるがムラもあるのかもしれない。 今後に期待したい。 |
No.114 | 6点 | 超短編!大どんでん返し アンソロジー(出版社編) |
(2022/03/23 12:59登録) 錚々たるミステリ作家30人による30のショートショート作品集だが・・・ う~ん、皆さんこれほど短い話は書き慣れていないということだろうか。 概して言えば、正直講談社の一般コンクール入賞作品集だった「ショートショートの広場」と同じレベルにしか感じられなかった。 各作品の表紙の作家名を見ては「おっ、この人なら」と期待して読み始め、4ページ読了すると出るのはタメ息・・・殆どその繰り返し。 何ていうのかなあ、チンケな例えだけど、プロ野球のトップスラッガー達が女子ソフトボールの投手の球を打ちあぐねているというような印象も受けた。 結局30作品中、あっと驚いた作品は・・・ゼロ。 「巧い」と感じたのが、井上真偽の《或るおとぎばなし》1作。 「まあ巧い」と感じたのが、 青崎有吾 《your name》 柳 広司 《阿蘭陀幽霊》 乙 一 《電話が逃げていく》 更に貶すようで恐縮だが、個人的にはツカミも悪い話が多かったように思う。4ページと分かっているから全て完読したが、そうでなかったら2ページ位で放り出していた作品も少なくなかった気がする。 しかし何はともあれ自分にとって「短い」ということは絶大なアドバンテージなので、決して無駄な読書ではなかった。 |
No.113 | 7点 | グランドマンション 折原一 |
(2022/03/05 17:38登録) 作者の作品集としては「幸福荘」シリーズ以来かと思われる、集合住宅が舞台の連作短編集。 《音の正体》 折原らしいと言えばらしいが、あまり変わりばえしないなあ、という感想。 《304号室の女》 ちょっとアンフェアな気もするが、前作よりは読み応えもあり、なかなかサスペンスフルで面白い。まあ、絶対無理だが。 《善意の第三者》 これも、よーやるよ。 《時の穴》 イマイチよくわからん。辻褄合ってなくない? 《懐かしい声》 ストップ詐欺被害!私は騙され・・・ 《心の旅路》 ネタ自体は二番煎じだが、構成が実に巧みだし、読み物として非常に面白い。 滅多にないことだが思わず(飛ばし飛ばしではあるが)確認のために読み返してしまった。 《リセット》 最後の、古き良きミステリー風の解決シーンは悪くなかったが、真相はイマイチすっきりしない。 《エピローグ》 なくてもいいような気もするが・・・前作のラストでは作品集のシメとして美しくないからかもしれないが、それなら前作の最終段落として付加するだけにしておいた方が余計な期待を抱かされずに・・・でもまあこれも悪くはない。 この作者の短編はとにかく文体が読みやすくて程度の差はあれスパイスが入っているので、疲れた時や仕事の合間などの息抜きに(個人的には)ピッタリ。 登場人物の殆どが何となく漫画チックなのも気楽に読めて吉。 |
No.112 | 9点 | オーブランの少女 深緑野分 |
(2022/02/05 15:26登録) 十九(?)~二十世紀の五つの国を舞台にした五つの「少女たちの」サスペンスミステリー。 《オーブランの少女》 この上なく異様で不可解な殺人事件の真相として語られる物語。 色彩に満ちたおとぎ話のような世界に事が起こり始め、やがて構図の変転を現してくる。 個人的には「アレの意味」に気づけなかったのは悔しいが、非常に印象深い作品。 《仮面》 これもグイグイ読ませてくれて、3分の2ぐらいのところで事件の全貌が見えるが、その後のドス黒さで読後感はかなり悪い。 《大雨とトマト》 二十数ページ、ワンシーン+αの中にスパイシーなネタが小気味よく仕込まれたナイスなショートミステリー。 表題作に続いて「あのヒント」に気づけなかったのは悔しい。 この作品では人物名や地名の記載が一切ないため、どこの国の話かはっきりとは分からないが何となくイタリアかな。 《片想い》 ないかと思っていた日本のお話。舞台は昭和初期の高等女学校。 他作に劣らずトリッキイなストオリイではあるが、本作では作者はトリックより成長途上の女の子達の情緒描写に魂を込めていたようだ。 《氷の皇国》 最後は北欧からの童話チック・ミステリー。100ページを越える中編作品。 出てくる地名は全て架空のもので、歴史の話や国の体制も全くの創作のようだが、地理的な舞台は恐らくノルウェーを想定したものと思われる。表題作同様、色彩感覚に満ち溢れた過酷なフェアリーテール。 う~ん、これほど完成度が高い作品集に出会ったのは久しぶりだ。 作者は芦沢央さんと同じく30代で、同じように魅力的な女性だが二人ともミステリー慣れした読者をも唸らせるような作品をポンポン生み出してくる。 これからもこういう作家が次々と世に出てくることを切に願っています。 |
No.111 | 7点 | 叙述トリック短編集 似鳥鶏 |
(2021/12/29 18:23登録) ヨダレが出そうなタイトルの短編集。 いつの間にか文庫化されていたことを知り遅ればせながら食いつく。 《ちゃんと流す神様》 前例のない叙述トリックではないが、これはこれで面白くできている。 ただ解決ファクターの1つが後出しジャンケンだったのが残念。 《背中合わせの恋人》 80ページと長めの短編だが、なかなか面白い「コンバインド叙述トリック」。 詳しくは述べないが、作者らしいストーリーと言えるのではないかな。 《閉じこめられた三人と二人》 作者らしからぬ(?)「不可能犯罪+クローズド・サークル」だが・・・途中で何となく方向性は嗅げてしまった。でも巧いし面白い。 《何となく買った本の結末》 これも「トリックの分野」は途中で見当がついてしまう。 前作同様、ミステリとしてのクオリティを犠牲にしてオリジナリティだけを追った作品。 《貧乏荘の怪事件》 これはちょっとねぇ・・・古い禁じ手に読者の集中力を削ぐ空気を撒きまくったようなトリックだな。 《ニッポンを背負うこけし》 事件が起きた時点で犯人と動機は分かった。 当たったが当たらなかった。 当たるわけがない。 ふざけやがって。 《あとがき》 必ず最後に読むこと。前6作のネタバレあり。 さて、昨年に続いて今年も最終書評は似鳥作品になってしまったが全くの偶然です。 残念ながら今年も我々は病原ウイルスの脅威から離脱することはできませんでした。 でも日本は厳しい逆境の中で、オリンピック・パラリンピックや高校野球甲子園大会を成し遂げました。 そして新型ウイルスに対するストラテジーも着実に前進しつつあります。 来年こそは希望溢れるハッピーイアーになってもらいたいと思います。 皆さん、よいお年を。 |