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ミステリの祭典

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アメリカン・ブッダ

作家 柴田勝家
出版日2020年08月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 ミステリーオタク
(2022/09/07 22:21登録)
 このふざけた名前の作家の作品を初めて読んでみた。まずは短編集をチョイス。

《雲南省スー族におけるVR技術の使用例》
 この話はVRに生きる仮想民族を通して、感覚認識論を深く緻密に掘り下げた仮想レポートだと思うが、物語としては「なぜこんなことをするのか」「それは民族にいい結果をもたらしたのか」も書いてほしかった。でも何かの賞を受賞したことは十分納得できる。

《鏡石異譚》
 主人公である若い女性の不思議な体験を通して「タイムトラベル」と「記憶」の問題とそれを解決する仮説を「遠野物語」に出てくる数々のストーリーに絡めて展開する、量子力学的サイエンスフィクション。
 くどかったり解りづらい所も少なからずあったが、終わり近くの次のフレーズは心に残った。
 「後悔も含めて人生だからね。僕は自分が後悔することも受け入れるよ」

《邪義の壁》
 ちょっといびつな民俗信仰モノ。一読SFではないが、あの「壁」は殆どSFだよね。最後は明記はされていないが・・・・ミステリだよね。

《一八九七年:龍動幕の内》
 なかなか凝った創りの「SFミステリ」。これも読み応えズッシリ。

《検疫官》
 第1話と同様ある統制の物語だが、これはチョッと無理すぎだと思う。実際、題材の扱いも中途半端な感が否めないし、そもそも人間の「目的のある行動」自体が既に「物語」なんだから、いかなる空想世界においてもこの規制が通る人間社会は成立し得ないだろう。

《アメリカン・ブッダ》
 壮大なマルティプレックスフューチャーヒストリーだが個人的には、読んでいて面白かったかと訊かれると・・・・ビミョー。
 途中、「この作者は自分が何を書いているのか解ってるのかな」と思ったことも。
 また頓珍漢な印象だとは思うが、「Mアメリカ」からは当初「あつ森」を連想してしまった。

総じて精緻さと完成度の高さにおいて称賛に値する短編集だとは思うが、万人向けとは言い難いだろうね。
 

No.1 8点 虫暮部
(2020/09/30 11:28登録)
 民俗学SFの雄、柴田勝家の短編集。「邪義の壁」はホラー・テイストのミステリ、と呼んでもいいのか、ギリギリ、SF的解釈無しでも読めそう。「一八九七年:龍動幕の内」はまるで江戸川乱歩のパロディ。ミステリ読みの為のSFって感じ。星雲賞受賞作「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」は、真面目な顔で与太話を語る、或る種のSFのど真ん中を射抜いており見事。

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