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ミステリの祭典

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紅き虚空の下で

作家 高橋由太
出版日2014年07月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 6点 ミステリーオタク
(2022/04/13 17:43登録)
自分にとって全く予備知識がない初読みの作家の作品集でタイトルからはシビアでハードなミステリを想像していたが、入ってみると前印象とはかなり違っていた。

《紅き虚空の下で》
単純に読み物として読みやすくて面白いし、SFミステリとしてなかなかの技巧が凝らされている妙作。無駄に長いと思われた部分にも意味があった。

《蛙男島の蜥蜴女》
太平洋の外れにあるという、なぜか住民が日本語を話すふざけた島でのふざけたミステリ。肩肘張らずにこの世界に浸ればこれも面白い。

《兵隊カラス》
本書の作品中、唯一「一応」現実世界での話。前2作に比べると、設定のみならずストーリーも落ち着いてしまった感は否めない。

《落頭民》
(ある意味ネタバレになるかと思うが、この話を読むならネタバレを読んでから読んだ方が失望や腹立ちが抑えられることだろう)
この上なく狂った世界での狂いまくった、話ともいえない話。エログロと称すのもおこがましいゲロのようなキモ与太が延々と続く。それでも「ミステリとしての何か」があるのだろうと我慢して読み通してみれば結局何もない。
中国の昔の奇談を題材にしたらしいが、何でこんな話がこの作品集にあるのか自分には意味不明。


前半の2話が類のない構築世界でのユニークなミステリだったので「これはかなりの掘り出し物か」と気持ちが高揚したが、3話目で地上に戻されて最終話でドブ川に突き落とされた感じ。

この作者、才能はあるがムラもあるのかもしれない。
今後に期待したい。

No.2 7点 メルカトル
(2018/11/05 22:13登録)
表題作、怪しげな雰囲気と思わせておいてからの、意外にまともなミステリかと思いきや、結局とんでもない異空間というか異世界に連れていかれます。これはまさにグロとシニカルの競演やーって感じですか。しかし特異な設定でありながら、一本筋の通った本格ミステリではあります。しかも、伏線が結構張られていて、二転三転しながら最後にどんでん返しを食らわせます。
他に類を見ないとは言いませんが、それに近いだけの独自の世界を構築しておりますね。荒唐無稽、茫然自失といったワードが頭に浮かんできます。敢えて言えば、白井智之と飴村行を足して2で割ったような作風でしょうか。

二作目の『蛙男島の蜥蜴女』も表題作と似通った作品です。こちらもグロパワー全開の本格物。とは言え、乾いた筆致なのであまり残酷なのに生々しさは感じられません。耐性のない方は嫌悪感を覚えるかもしれませんが、苦手でない方は是非とも読んでいただきたいものです。お薦めです。

『兵隊カラス』は、これまた一風変わった物語ですが、普通の人間界のお話です。油断していると足を掬われますよ。かなり救いのない暗い作品です。

『落頭民』は一見滅茶苦茶なホラーで、もしかしたらこの作者の最も異色な作品なのかもしれません。高橋氏は現在時代小説を量産しているとのことで、この短編集を読む限りでは全く違った作風のようで想像もつきませんが、残念ながら本格ミステリと呼べるのは先の二作のみのようです。
個人的には表題作や『蛙男島の蜥蜴女』のような路線を期待しています。今後現代もののミステリも書きたいとのことですので、注目していきたいと思います。

No.1 7点 人並由真
(2018/10/20 14:04登録)
(ネタバレなし)
 作者の高橋由太(たかはし ゆた)は2010年頃から各出版社のキャラクター時代劇ものの文庫オリジナル作品を主体に活躍。最近はライト? ミステリの方でも精力的に活動しているようだが、評者がこの人の作品を読むのは初めて。しかし想像以上に強烈で面白い一冊だった。
 本書は文庫オリジナルで、表題作「紅き虚空の下で」を含めて全4本の別の物語設定の中編を収録。別名義で書かれた作者の初期作品を主体に集成したものだそうである。(以前に創元の「新・本格推理」シリーズに収められた作品や、角川ホラー小説大賞の短編賞を受賞したものを改訂した作品も収録されている。)
 表題作と二番目の「蛙男島の蜥蜴女」が、かなりオカシな新本格パズラーで、三本目の「兵隊カラス」がサイコホラーっぽいミステリ、最後の中編「落頭民」が謎解き要素のない、爽快なまでにイカレきったクレイジーなホラー奇談である。

 各編を簡単に寸評するなら巻頭の「紅き虚空の下で」は、人間世界とは別個に異形の妖精的存在がひそかに人類を伺うファンタジー世界での謎解きパズラーで、地上で両手を切られて死んでいた少女の事件を追う。この世界設定ならではの推理ロジックと解決が用意され、初っぱなから口があんぐりするが、これが実は本書の中で一番マトモであった。
 二作目の「蛙男島の蜥蜴女」は文明世界とは隔絶された離島、狂気ともいえる文化の異郷での不可能犯罪で、謎解きミステリとしてはこれが一番面白い。最近の別の作家でいうなら白井智之あたりの、あの世界、あれを普通に楽しめる人にはぜひともお勧めしたい。
 「兵隊カラス」は山の中に遺棄された子供の視点で語られる、奇矯な老人「兵隊さん」との奇妙な生活の話。陰惨なサイコホラーっぽい物語(ただしスーパーナチュラルな要素はない)が途中で一転、別のジャンルに変調し予想外の結末に雪崩れ込んでいく。広義のイヤミスだが紙幅の割に読み応えは十分。
 最後の「落頭民」は、岡本綺堂の作品『中国怪奇小説集』の一編に材を取ったようだが(頭部が体から離れて飛翔する、ろくろ首の話だろう)、あくまでモチーフのみで作者の奔放なイマジネーションが無法に転がるまま、とんでもない筋立てが展開する。半ば話などあってないような、狂いきった叙述のみあるという感じだが、悪ノリと悪趣味を極める一方で、不快感や嫌悪感は(少なくとも評者には)皆無であった。そんな作品。たぶんこれが本書の核となる。

 なんつーか、ミステリ界の「ガロ系(かつてあった青林堂のあの漫画雑誌)」というか、あるいは一応は続刊が可能になって図に乗っておかしな旧作の発掘を始める一方、新世代の異才の作家を求め始めた時代の雑誌「幻影城」に似合いそうな一冊というか、まあそんな感じである。言いたいことは大体それでわかってもらえると思う(!?)。
 とにかく壮絶な一冊だったけどね。こんなものはまあ、そうそう読めないだろう。

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