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ミステリの祭典

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サーチライトと誘蛾灯
魞沢泉シリーズ

作家 櫻田智也
出版日2017年11月
平均点6.62点
書評数8人

No.8 5点 E-BANKER
(2024/09/14 13:02登録)
~昆虫オタクのとぼけた青年・魞沢泉。昆虫目当てに各地に現れる飄々とした彼はなぜか、昆虫だけでなく不可解な事件に遭遇してしまう・・・~
ということでシリーズ第一弾の連作短編集。
2017年の発表。

①「サーチライトと誘蛾灯」=探偵が殺される、という事件がいきなり発生。そこでちょっと意表を突かれた感じ。魞沢のキャラは最初から明確。
②「ホバリング・バタフライ」=とある田舎の環境団体をめぐる”いざこざ”が事件の背景。山中で珍しい蝶を探していた魞沢が何となく感じてしまったことが、事件解決につながる。
③「ナナフシの夜」=連作短編の王道とも言える”バー・ミステリー”。しかし、探偵役はバーテンダーではなく、あくまで魞沢。なんかよく理解できない男女の関係がねじれた結果・・・
④「火事と標本」=日本推理作家協会賞の短編部門の候補にもなった作。やっぱり出来は良いと思った。事件の構図は固まったと感じた矢先、魞沢の口から語られる別の推理。こういう「切れ味」が短編には大事なのだろう。
⑤「アドペントの繭」=教会での事件が舞台となる最終話。牧師の親と子の確執が事件の背景にはなっているんだけど、事件の真相はなんか取ってつけたようで腑に落ちなかったかったが・・・

以上5編。
文庫版あとがきで作者自身が語られているとおり、本作の探偵役となる魞沢泉(えりさわ せん)は、「亜 愛一郎」の生まれ変わりのような存在。作者と泡坂妻夫との不思議な出会いのエピソードについても語れらていたけれど、人生ってそういう不思議な「縁」があるんだなあーと感じさせられた。

ということなので、1つ1つの短編についても、亜愛一郎シリーズを彷彿させて、どこかのんびりして、どこか浮世離れしたような雰囲気がある。ただし、作中に必ず1つ大きな仕掛けが施されていて、最後に少しだけ唸らされることに・・・。そんな感じの作品が並んでいる。
でも、うーん。「読み応え」という意味ではどうしても薄味にはなるね。
それが特徴といえばそれまでだけど、”玄人受け”はするけれど、一般読者にはどうかな。もう少し刺激、サプライズ感は欲しいところ。
(個人的ベストはやはり④。①や②も良いのだが・・・)

No.7 8点 ミステリーオタク
(2021/10/27 21:44登録)
えり沢泉シリーズとやらの5つの作品からなる短編集。

《サーチライトと誘蛾灯》
平易っぽい(あくまでも「ぽい」)会話が多いストーリー構成なのでとても読みやすいが、真相に至る過程はちょっと飛躍気味ではないかい?

《ホバリング・バタフライ》
これも読みやすくてストーリーもまあ面白いが、前作以上に推理、というか思考プロセスが飛び跳ねている。つーか、「思いつき」で真相に至っている。

《ナナフシの夜》
うーん、ちょっとアンフェアな気もするが・・・やられた。
気づいて然るべきに気づけず悔しい。

《火事と標本》
・・・な真相であるが、これもそのアプローチはとても「推理」とは言えない。

《アドベントの繭》
教会が舞台の宗教色の濃いストーリー。キリスト教信仰の業に関してかなり深いところまで掘り下げられていて圧倒される。
ミステリとしても面白いネタがあるし、推理も、それで完全に詰められるものではないがよくできている。


何度も述べたように本格ミステリとしてはどうか?と思わせられる作品が多いが、とにかく全て読みやすく心に響くものがあり入れ込めた。

No.6 6点 パメル
(2021/10/13 09:25登録)
昆虫好きのとぼけた青年・魞沢が、昆虫目当てで行く先々で不思議な事件に遭遇し、探偵役として真相を解くスタイルで昆虫絡みの5つの事件が収録されている。
事件の舞台は、夜の公園、人気のない高原、街外れのバー、川沿いの町、雪降る町の教会などさまざま。季節も1話目が夏、2話目が春、3話目が秋、4話目、5話目が冬となり四季をも感じさせてくれる。登場人物はみなそれぞれ、生き生きとしていてキャラクター同士のユーモアあふれた掛け合いも魅力的。表題作の「サーチライトと誘蛾灯」は、チェスタトンの短編集「ブラウン神父の秘密」のなかの「大法律家の鏡」で神父が詩人について語る場面から着想を得たそうです。「火事と標本」のラストは、泡坂妻夫「亜愛一郎の狼狽」のある短編へのオマージュとなっている。
軽妙な語り口やユーモアあふれる会話の中に、巧みに張り巡らされた伏線。些細な手掛かりから驚愕の真相が現れ、事件構図が反転する鮮やかさなど切れ味鋭い本格ミステリが楽しめる。
また事件をめぐる人間ドラマも、しっかり描かれている。読み進めていくうちに、とぼけた性格という一面しか見えなかった魞沢が、犯人や事件関係者への悲しみや優しさを見せるようになり、キャラクターの存在感が増していく。罪と罰を問う最終話、「アドベントの繭」を読み終えた時、しみじみとした余韻が残ることでしょう。

No.5 7点 sophia
(2021/01/11 02:10登録)
●サーチライトと誘蛾灯 6点
●ホバリング・バタフライ 7点
●ナナフシの夜 6点
●火事と標本 6点
●アドベントの繭 7点

泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズへのオマージュの念は否が応でも伝わってきます。神出鬼没のとぼけた探偵のキャラ造形、随所に軽妙なユーモアを交えているのも同じです。そんな中で事件と虫を毎回絡めているのは著者ならではのプラスαです。ミステリーとしての出来はどの話も大差ないのですが、そのプラスαでしみじみとした読後感の作品群に仕上がっています。特に「ホバリング・バタフライ」と「アドベントの繭」の2編が気に入りました。この分なら「蝉かえる」にも期待できそうです。

No.4 7点 makomako
(2021/01/10 09:47登録)
 私は小説を読む際に登場人物の性格や周囲の雰囲気を感じながら読む傾向にあるので、短編の推理小説はあまり得意ではないのですが、この作品はなかなか楽しめました。
 はじめはちょっと変わった虫好きの男が変な推理をするなあといった感じでしたが、読んでいるうちにひょうひょうとした感じがだんだん好ましく思えるようになり、結構楽しめました。
 こういった連作型の短編だと主たる登場人物が同一であるため、お話に入りやすくなってくるからなのでしょうか。
 

No.3 7点 名探偵ジャパン
(2021/01/08 21:25登録)
「虫に関する事件」という結構コアな縛りで、なかなかの短編集に仕上がったのではないかと思います。どの話も丁寧で職人芸を感じさせますね。
「キャラクターミステリ」という程には探偵も主張しすぎることなく、読者を謎解きに専念させているのも好印象です。続編も出ているので、そちらも読んでみたいです。

No.2 6点 まさむね
(2021/01/02 22:52登録)
 「蝉かえる」を先読して感心。急ぎ、デビュー作を手にした次第です。読む順番は逆になったけれども、逆に、次作に繋がっていた登場人物や設定を見つける楽しさもあったかな。
 飄々とした主人公を据え、軽快な筆致で語られる中での反転が心憎い。本書中の個人的ベストは「火事と標本」。設定は違うのだけど、「蝉かえる」のとある収録作が思い浮かびましたね。
 ちなみに、ストーリー性や印象深さという観点では、次作の方に軍配。一方で、主人公の「亜愛一郎」度は、本書の方が高いような気がします。

No.1 7点 HORNET
(2020/09/13 18:48登録)
 昆虫好きのおとぼけ青年・魞沢泉(えりさわ せん)が探偵役の短編集。
 どこかかみ合わないユーモラスな会話でテンポよく展開しながら、しっかりとしたミステリ。あとがきによると作者は泡坂妻夫の亜愛一郎をこよなく愛しているそうで、それを意識したとのこと。
 短いストーリーの中にも無理なく、さり気なく手がかりが散りばめられ、しっかりとした解決編になっていると思う。私としては、表題作(第10回ミステリーズ!新人賞)と、「火事と標本」がよかった。

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