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ミステリの祭典

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ミステリ初心者さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:388件

プロフィール| 書評

No.268 6点 鏡の中は日曜日
殊能将之
(2021/05/22 18:52登録)
ネタバレをしています。新書版を読みました。

 一度書評を書いたのですが、ミスで消えてしまいました(涙)。なので、簡単に書きます。
 
 非常に多くの叙述トリックが盛り込まれており、厚みを感じる作品でした。14年前の事件を、作中作で追っていく内容なのですが、その作中作の疑問点が、水城の性別の認識をずらしたり、第一章の人物の認識をずらす叙述トリックの伏線やヒントになっているところが良かったです。
 彼女と男が接近するたびに嫉妬と警戒をする田嶋が、なぜか水城には無警戒な点は私も訝しく思っていたのですが、水城が女性というところまでは気づけませんでした。これだけ性別詐称トリックを読んでいて、また騙されて悔しいです(笑)。

 以下不満点。
 多くの叙述トリックが盛り込まれていて良いのですが、ひとつひとつは既視感があります。この本ならではの要素があるともっと高得点でした。特に性別詐称トリックは、もう10冊は読んだ気がします(笑)。


No.267 6点 カーテン ポアロ最後の事件
アガサ・クリスティー
(2021/05/16 20:10登録)
ネタバレをしています。

 たまに読んでいるアガサ・クリスティーを買いました。ポワロ最後の事件だから買ったというわけではなく、単純に高評価だから買いました(笑)。だだ、ポワロ最後の事件だということは知っていました。
 舞台はスタイルズ荘。スタイルズ荘の怪事件をみたのはもう中学生のころなので、大分昔であり(涙)、あまり記憶に残っておりませんでした…。ポワロシリーズものの大半はその時期に読んでおり、もしこのカーテンにそのネタがちりばめられていても、自分にはわからないです…。これはちょっと残念です。

 さて、カーテンですが、個人的にはなかなか読みづらかったです。アガサ・クリスティーなので、文章や構成がうまく、登場人物もすぐに覚えられ、その辺りは苦労しませんでした。しかし、なかなか事件らしい事件が起こらず、ポアロは病が篤く、ヘイスディングズは娘の心配をして、いろいろなことを思ってしまい、ページが進みませんでした。ただ最後まで読むと、一見意味のなさそうな話にもちゃんと伏線が張ってあるところはさすがでした。

 推理小説的には、いろいろな仕掛けや、アガサ・クリスティーらしいドンデン返しも用意してありました。しかし、私にはどれも好みの類ではなかったです。
 ノートンによる殺人教唆? というのですかね? あれはイマイチぐっと来なかったです。もちろん、本全体にちりばめられていた伏線には感心しました。私は、ノートンがただの鈍くて気が利かないやつかと思ってました(笑)。
 次に、ワトソン役犯人についてです。これは大きな驚きであはありましたが、私にはただの事故に思えます(笑)。やはり推理小説は、犯人が殺意を持って殺人を犯してほしいですね。珍しいパターンなのでそこは評価してます。
 最後に探偵犯人ですが、これもそれほど好みではありません。ポワロ最後の事件ということで、メタ読みして、探偵犯人の可能性は頭にありました。しかし、全く論理的にポワロを犯人と指摘することができませんでした(笑)。ポワロ本人の行動もあって、とてもフェアだとは思います。

 最後のページでのポワロの文、"友よ、もうふたりで狩りに出ることはありません。初めての狩りがここでした―そして、最後の狩りもまた…"は非常に感慨深いですね。


No.266 7点 見えない精霊
林泰広
(2021/05/08 19:22登録)
ネタバレをしています。

 かなり特殊で強固な厳しい条件の密室殺人事件です。
 文は読みやすく、かなり早い段階で本題に入っていくため、すらすら読めます。かなり不可解な状況が続いていて、テンポも非常に良いです。

 推理小説的要素に関しても、非常に満足でした!
 最近では、偶然できてしまった密室や、犯人の意図しない密室など、私の好みではない密室が多くあります。この作品は真っ向から密室に挑んでおり、非常に好感が持てます。
 密室状況がかなり特殊であり、このトリックのためにつくった状況…といった感じで、そこが好みを分けるかもしれません。カー作品や島田作品のような感じです。しかし、このトリックを、非常にうまく小説に落とし込んでいると思います。非現実的な感じも少しはしますが、私は気になりませんでした。
 ヒントや伏線の張り方もよく、小説の序盤からあります。そこそこページ数のある作品ですが、無駄が一切なく、作者との勝負を純粋に楽しめる、本格好き垂涎の本であると感じます。
 私は、挑戦状1回目を2~3ページ過ぎたあたりで、ふと"戦闘力の高いズオウはなぜ殺されたのか?"と疑問を感じ、"油断する相手ではないのか?→ウィザードか?"と考えた瞬間、すべての謎が解けました(笑)。序盤のヒントや疑問が一気に氷解します。本格推理小説の神髄を見させられました(笑)。


 以下、難癖ポイント
 飛行船の図やドアなどの特徴、人の輪での儀式の図(ウィザードの脳内の図でもいいから)などが欲しかったです。読み終わった後は案外単純な構造だとわかるのですが、読んでいる最中は複雑なように思え、話についていくのに必死でした(笑)。
 精霊の行動は結構バレる危険があると思います(笑)。非常にうまく行動していますが、ウィザードと仲間たちがずっと一緒に行動していると、犯行がかなり難しくなってしまう気がします。


No.265 7点 丸太町ルヴォワール
円居挽
(2021/05/03 18:26登録)
ネタバレをしています。

 非常に読みやすく、エンターテイメント性(?)が高い小説です。文章が軽く、テンポが良く、500弱の多いページ数のわりにすぐに読み終えることができました。ただ、やや癖が強く、人を選ぶかもしれません。
 始めは論語の語りによる、ルージュとの出会いです。それ自体が叙述トリックのある短編小説としてみても面白い出来です。論語のキャラクターが、言葉遣いが丁寧なひ○ゆきみたいで鼻につきますが(笑)。私は前に読んだ本が盲目の主人公だったため、簡単に論語が目が見えないことに気づいてしまいました(笑)。ここの章でルージュが出ますが、そのキャラクター感が絶妙で、若いような年増のような、どう解釈しても成り立つような感じです。
 次の章からは流と達也が主観となる法廷ミステリのノリになります。逆転につぐ逆転は読みごたえたっぷりです。ただ、流が女性であることは察しがついてしまいました(笑)。この性別詐称トリックは、本当に多いですね(笑)。性別が明記されていないと、警戒するようになってしまいました(笑)。
 本全体として、"誰が殺したか"や"なぜ殺したか"や"どうやったか"ではなく、"誰がルージュであるか"が最も大きな謎であり、それまで章で張られまくった大量の伏線とミスリードが回収されていきます。睡眠薬はポットに入っていたことと、紅茶に入れ替えられていたことから、あおさんがルージュであるという論語の推理は見事でした。さらにその後、もう一つどんでん返しがあり、非常に読後感のよいラストとなりました。

 以下、難癖点。
 この本では、大量の伏線やミスリードや叙述トリックが入っています。正直、5冊分はあるんではないかと(笑)。しかし、一つ一つを見てみれば、2番煎じであり既視感があります。ただ。こんなにも盛り込んでいて、本として破綻しないプロットが見事でした。

 本格推理小説に偏見があり、1冊も読んだことのない人におすすめかもしれません。


No.264 7点 闇に香る嘘
下村敦史
(2021/04/27 19:47登録)
ネタバレをしています。
 
 中国残留孤児、盲目の人の苦労、腎臓移植など、社会派の色が濃いミステリです。それぞれが丁寧に書かれており、難しいテーマなのですが、全くの無知な私でも物語を理解することができました、
 また、途中、盲目の主人公が襲われるシーンはホラーやサスペンス感があり、ダレることがなく読むことができます。主人公による「誰が嘘つきなのか?」と疑う展開もよかったです。
 そして、驚きのどんでん返し。一つの要素が明らかになることで、これまでのすべての疑いや疑問が一気に氷解し、本格推理小説本来の快感を味わえます。
 大団円で終わるラストもいいですね。


No.263 7点 ウォリス家の殺人
D・M・ディヴァイン
(2021/04/20 19:45登録)
ネタバレをしています。

 解決編前の、モーリスが電話が警察へ電話をかけるところで読むのを止め、事件の再検証をしようかと思いましたが、それまでに同様に2冊の"解決編前止め小説"が重なってしまったため、面倒になり読みました(笑)。まあ読み返してもわからなかったでしょう(笑)。
 事件が起こるまで少々時間がかかり、やや読みづらかったです。しかし、ウォリス家のドロドロとした展開や、スレイター家のモーリスとクリスの物語、ジョフリーの隠し子と遺産問題など、ツボを突いた物語に厚みがあります。伏線とミスリードも多く、巧妙に犯人が隠されていて、それでいて解決編には読者に納得させられる論理的な犯人断定もあり、本格推理小説として満足度が高いです。フェア度が高いアガサ・クリスティー作品のようでした。

 難癖点を挙げるとすれば、物語の厚さに対しての、アイデンティティが薄いです。この小説ならではの大仕掛けはありませんでした。論理的な解決を目指すと、どうしてもそうなりがちなのですが、ロジックな要素はほぼ1点であり、あとは伏線回収で終わっています。クイーンのようなパズラーと比べても、クリスティーのどんでん返しと比べても、どちらにも劣るかもしれません。
 また、犯人のアリバイが主観の主人公による勘違いだったのは、私にとっては想像しづらかったです(笑)。私の知能が低いからなのかもしれませんが。

 いろいろ文句を言いましたが、完成度が高い本格推理小説だとおもいました。


No.262 6点 クララ殺し
小林泰三
(2021/04/20 18:54登録)
ネタバレをしています。また、前作アリス殺しのネタバレもしています。

 前作の世界観を踏襲した続編(?)ですが、共通の登場人物は井森/ビルのみであり、前作を読んでいることは必須ではありません。しかし、前作を読んていたほうが、基本的なルールが頭に入りやすいので、やはり読んだほうがいいと思います。

 非常に読みやすいです。ファンタジー要素はもちろんのこと、文の相性が私をよかったのか、誰がどこで何について発言しているのかというのが理解しやすいです。
 また、前作にあったようなグロ表現も少なくなっており、苦手な人にとっては読みやすいと思います。私は不思議の国の狂った世界が好きですが、グロは得意ではありません(笑)。

 以下、難癖部分。
 推理小説的要素である、誰が犯人なのか?という謎と、それに対するヒントや伏線は、アリス殺しのほうが洗練されていた印象があります。また、前作を読んでいると、マリー=くららであることと、オリンピアがクララであることは(頭パープリンの私でさえ)予想できてしまうと思います。その他のことは予想できませんでしたが、うそつきや協力者が多すぎるため、真相の完全な推理は難しいかと思います。個人的には前作よりパワーダウンしたしまったように感じました。


No.261 6点 紅蓮館の殺人
阿津川辰海
(2021/04/15 19:39登録)
ネタバレをしています。

 クローズドサークルであり、探偵vs元探偵の対決がみられ、元探偵の過去~現在の事件の決着など、本格推理小説的ようそがてんこ盛りです(笑)。
 物語主観の主人公はワトソン役で、友達が名探偵。それだけでも話は成立しますが、主人公の幼少の頃のあこがれであった元探偵の物語が濃く、もう半分以上主人公です。探偵という言葉が飛び交い、やや現実離れしていますが、本格ファンからしたらなんの違和感もないでしょう(笑)。
 登場人物もカタギじゃない人たちばかりで癖が強いです。詐欺師、盗賊、殺人犯。すべての登場人物に物語があり、狙いがあります。この役割配分は、ラストの探偵vs元探偵の決着にもかかわってくる要素でした。

 推理小説的要素もなかなか細かい論理で犯人断定をしています。
 はじめは推理小説的要素が薄く、読者に考えさせてくれることを与えてもらえない感じがしましたが、あらためて読み返すとところどころにヒントがあり、いい感じです。
 最も大きい要素は、やはり美登里の絵を飾る際の煤のロジックです。かなり難易度が高いとは思うのですが、しっかりと消去法できているのが素晴らしいです。もちろん私はわかりませんでした。

 以下、難癖部分。
 クローズドサークル特有のサスペンス感とテンポはありませんでした。これは探偵vs元探偵の物語を描きたいがために、元探偵の物語をしっかりと書いた結果だと思います。されに、それにページを割くあまり、連続殺人も起こりませんでしたし、"真実を暴くことで危険が起こる"要素を入れると登場人物も絞らざるをえません。少々中途半端だったかもしれません。
 吊り天井を下げたのが犯人ではなく、共犯者でもない元探偵だということは、読者にとって真相を見抜くのにかなり難しくなってしまったと思います。私の知能が低いだけかもしれませんが。解決編での元探偵の行動の心理と、それを論理的に暴く匂い袋と消臭剤のロジックは見事なのですが、消臭剤がまかれていたことを完全に失念していました(笑)。もうちょっと大々的に書いてほしいです。再読はしていませんが(笑)。

 全体的に、推理小説好き作者が書く漫画のような作品でした。本格への愛を強く感じるため、このままこの路線を続けてほしいと思います。


No.260 6点 凍える島
近藤史恵
(2021/04/07 19:26登録)
ネタバレをしています。

 島に閉じ込められ、連続殺人が起こる、典型的クローズドサークルです。私の大好物な嵐の孤島系ですが、少々読みづらさを感じました。文の癖がつよいというか、主観や登場人物の癖が強いというか…静香が一番まともに思えました(笑)。
 登場人物紹介や地図がないこと、本名とは違うあだ名がある人物など、読み初めにはいろいろと叙述トリックを疑いましたが、たぶんなかったと思います。なので、普通に登場人物紹介や地図をつけてほしかったですね(笑)。

 殺人事件は3つ起こります。
 奈奈子殺しは密室殺人事件。単純なトリックでしたが、盲点でした。そういえばそうだ…と思える、なかなか良いトリックでした。
 椋殺しは、ちょっとアリバイ面で曖昧で、推理小説的には地味でした。
 うさぎ殺しもすこしあいまいな部分が多いです。守田氏はなぜあやめ以外には殺人が無理だと決めつけたのでしょうか?

 私は、日本刀関連のことと、最後に階段を落ちたことで、鳥呼を疑っていました。しかし、確証は持てませんでした(涙)。

 クローズドサークルものは叙述トリック一本でどんでん返しする作品が多い印象ですが、この作品は全体的に端正な本格推理小説で好感が持てます! しかし、個々の謎がちょっと小さめで地味な感が否めませんでした。


No.259 7点 十字屋敷のピエロ
東野圭吾
(2021/04/01 19:36登録)
ネタバレをしています。

 非常に読みやすく、読了までさほど時間はかかりませんでした。
 本格推理小説のツボを押さえた館ものです。クローズドサークルではありませんが、過去の事件と合わせ3つもの事件が起きます。変に説明っぽくなっていないのに、読み進めると、登場人物とその関係や館のことなど必要な情報が自然に読者の頭に入っていくようで文章がうまいです(単に相性がいいだけかもしれませんが)。

 推理小説的要素も満載で満足できました。主に3つの事件がおきます。
 時系列的には最初の頼子自殺事件。本書では最後あたりに解決します。十字屋敷であることを生かした、館ものらしい仕掛けです。私はまったくこの可能性に気づきませんでした…。好みが分かれそうですが、私は割と気に入りました。(難癖ポイントもあるが(笑))
 次に、宗彦・三田殺人事件。神の視点ではなく、ピエロの視点であることを生かしたトリックも見事でした。難癖点もあるので下記に書きます(笑)。
 青江殺しについてはあまり推理小説的良さはありません。しかし、ラストのどんでん返しは見事でした。


 難癖点。
 事件全体として、共犯者や犯人を庇う行動をしている者が多いです。論理的に全て推理するのは難しいと思います。
 宗彦・三田殺しは犯人の計画通りに行くかどうかはちょっと運が必要かもしれません。

 全体的には、本のページ数にたいして濃い内容でした。どんでん返しにつながる要素が随所にあるのもよかったです。個人的に、東野圭吾さんは初期の作品のほうが面白いと感じます。


No.258 6点 名探偵に薔薇を
城平京
(2021/03/27 22:19登録)
ネタバレをしています。

 中編ぐらい長い二部構成の小説です。

 第一部は三橋を主観とした、連続殺人です。メルヘン小人地獄の童話みたいな話の見立て殺人と、完全犯罪が容易にできる毒薬の話が出ます。この毒薬の製法がやたらグロい(笑)。私は全く真相に気づきませんでしたが、鶴田が国見と手を組むのは相当信頼関係がないといけないから考えられないとなっているのに、国見が鶴田と手を組む(脅迫まがいですが)のはありなのか(そして裏切られる(笑))という展開はちょっと気になりました。

 第二部は、前半に登場した毒薬が使用された毒殺事件。しかし、楽に完全犯罪を起こせるはずが、なぜかわざと不要なぐらい多量の毒が使われていて不可解です。そして、被害者はあまり恨まれない人物…。状況が不思議で引き込まれます。実は私は、論理的なことは一切わからなかったですが、真相は察してしまいました。というのも、これに近い発想の小説を事前に見てしまったからです。おもに動機面が似ていました。

 名探偵の瀬川は、何者も寄せ付けないクールな人物ですが、その実過去の自分の推理によってつらい経験をしており、それによってずっと苦悩をしています。なかなか魅力的でした。しかし、警察にため口をきくのだけは気になりました(笑)。

 個人的には、犯人が協力者もなく、殺意を持って、何のミスもなく殺しを完遂し、それを読者が看破できる作品が好みです。しかし、そういう枠にとらわれず、広義のミステリとして読んだ場合、本作品は満足度が高かったです。途中、カイジ(?)のような文章が挟まれたり、気になる点もありますが、楽しめました。


No.257 7点 弁護側の証人
小泉喜美子
(2021/03/13 19:27登録)
ネタバレをしています。

 アガサ・クリスティーの作品のオマージュ作品のようですが、知らなくても楽しめます。
 私とこの本の文章の相性が悪く(笑)、序盤はなかなかページが進みませんでした。ころころ変わる時系列に独特の比喩で、やや読みづらさを感じました。時系列については、どんでん返しには必要な物だと思うので、仕方のないことだと思います。
 欲を言えば、もっと事件について、読者がいろいろと考察できる要素があると好みだったのですが、そういう類の小説ではありませんしね。

 推理小説的要素といえば、やはり叙述トリックをもちいたどんでん返しです。実は私、叙述トリック的要素がはいってくると十分に察しておきながら、しっかりと騙されてしまいました(笑)。法廷のシーンの最後、ネタバラシの文を読んだ際、「なぜこれにきづかなかったのか」「タイトルからしてヒントだったじゃないか」と、非常に悔しかったです。私は頭パープリンです(笑)。気づけただろう、気づかないといけないだろう、と思わせてくれる作品は、オマージュ元となるアガサ・クリスティーの十八番であり、この作品はそれに少しも引けを取ていません。プロットがうまく、とくにどうという大仕掛けや卑怯な文章があるわけでなく、小説の組み立てで自然と騙されてしまう感じです。
 いま気づいたのですが、63年出版なのですね…。レベルの高さを再認識しました。


No.256 5点 チョコレートゲーム
岡嶋二人
(2021/03/07 19:03登録)
ネタバレをしています。

 本格度はそれほど高くないですが、文章がうまいのか、テンポが良いのか、一気に読了しました。
 とはいえ、内容はちょっと暗いです。主人公は息子が事件に巻き込まれた父親。それまで息子を顧みることがなく、その変化に気づけないことで息子が死んでしまいます。そのことについて苦悩するシーンがちょっと読みづらかったです。

 推理小説的要素は、中学生連続殺人事件の裏で一体何が行われていたのか?と、その犯人ですが、一番大きいどんでん返しはチョコレートゲームの黒幕です。
 チョコレートゲームの詳細がわからない序盤はいじめられっ子のような印象だったのが、後半にはライ○ーゲームのヨ〇ヤさながらに見えました(笑)。
 犯人と共犯者によるアリバイトリックはいまいちでした…。


No.255 6点 聖女の毒杯
井上真偽
(2021/02/24 00:36登録)
ネタバレをしています。

 バカミストリックと、ロジカルな否定、多重解決もののような楽しみ方ができるシリーズです。今回は割とスタンダードな物語の入りで、前作よりも抵抗なく話に入っていけました。
 今回は毒殺ものであり、男(と1匹の雌)だけが死ぬという、なんとも不可解な状況で興味を惹かれます。図やアリバイ時間など、八ツ星聯君のおかげで丁寧に知ることができるし、容疑者たちの仮説もそれによって難なく理解できて大変読みやすいです。
 私はかねがね、いかに毒をいれられたか?が問題の推理小説が読みたかったのですが、かなりの量の毒殺方法が書かれており、その点で大変満足しました(笑)。そして、どの仮説も私の考えつかなかったものであり、そしてどの仮説にもちゃんと矛盾点を残しているあたりが素晴らしいです。アリバイトリック系と、ロジカルなフーダニットを合わせたような作風です。一番面白かったのは、フーリンの銚子に仕掛けのあるものでしたが、やや成功率に難がありそうでしたね。

 以下、難癖ポイント。
・ケチなのに高級な和服を着せるわけがない…という反証は結構弱いと思います。
・私には難易度が高すぎました(涙)。負け惜しみではないのですが、各仮説の反証と結末をすべて推理するのは不可能に思えました。

 私は論理もへったくれもなく、なんとなく小説の結末を予想し、花嫁の父が犯人なのではないかと思いました(笑)。どうやって花嫁をヒ素を入手したか?が突破できずに、すぐ諦めましたが(笑)。
 シリーズキャラクターが活躍し、さらにパワーアップした感じがあります。もっとシリーズが続いてほしいですね。
 


No.254 5点 黒猫・アッシャー家の崩壊 -ポー短編集Ⅰ ゴシック編-
エドガー・アラン・ポー
(2021/02/15 19:28登録)
ネタバレをしています。

 エドガー・アラン・ポーの名前は聞いたことがあったのですが、今まで読んだことはありませんでした。
 全体的に怪奇?やホラーよりの話が多く、世にも奇妙な物語的です。古典なのでしかたがないかもしれませんが、面白くなってきたところで急に終わってしまうように感じる作品が多く、個人的にもうひとひねりほしかったです。
 あと、文章が難しくまどろっこしいです(涙)。私には難解な話が多く、どれだけ理解できたのか不安です。

・黒猫
 黒猫を殺したときはあんなに動揺していたのに、どさくさにまぎれて(?)妻を殺したときは割とあっさり(笑)。そこがもう黒猫になにかしらされているのかもしれませんが。
・赤き死の仮面
 なかなか面白かったのですが、王がすぐ死んでしまって急に終わったのが残念。病気が蔓延して追いつめられる王のほうがスリリングで面白かったかも?
・ライージア
 ライージアが主人公の後妻の肉体を乗っ取る話…? ライージアがしゃべる呪詛めいた言葉はなにか関係があるのでしょうか?
・落とし穴と振り子
 パニックホラー(?)的なノリがあり、一番理解しやすかったです。振り子の話は怖くて面白いですし、脱出も見事でした。落とし穴の中には何が見えたのでしょうね?
・ウィリアム・ウィルソン
 ラストから、主人公のマネばかりするウィリアム・ウィルソンは、結局ドッペルゲンガーか自分のもう一つの側面みたいなものでよいのでしょうか(笑)。実在しないということは、カードのイカサマをばらしているのも自分? う~んよくわかりません(笑)。
・アッシャー家の崩壊
 早すぎた埋葬系。愛し合っていた兄妹の最後がアレかと思うと悲しくて後味が悪いですね(涙)。兄妹がテレパシー?なにか通じ合っている感じがあり、ロデリックは妹の蘇生のことに気づいていたのでしょうかね? 中盤、無機物も生きている的話がありましたが、アッシャー家族の全滅と関連するように家自体も崩落しました。家自体がアッシャー家族に何らかの悪影響を及ぼしていたような気がするんですが、この家は何がしたかったのでしょうか(笑)。


No.253 6点 鏡館の殺人
月原渉
(2021/02/10 19:34登録)
ネタバレをしています。

 舞台は明治の富豪の館。クローズドサークルで、見立て殺人と密室。文の読みやすさが半端ではなく、登場人物も適度でありキャラクター設定がかぶっていないので理解がしやすい。読了まで一瞬のような感覚でした(笑)。
 すこし怪奇な感じもあり、死んだと思われた主人公の姉がずっと鏡に映っていたり、鏡に引きずられて死んでいる死体だったり、手鏡に"ころす"の文字が書かれていたりします。
 全ての謎が明らかになった後、読後感が良いのもいいですね。
 シズカのシンプルな罵倒、「死ね」が初登場?しましたね。今までで一番おもしろかったです。前作で満月にへべれけになるところを見せていましたが、今作ではまた従来のシズカになっていましたね。前作の雇用主のほうが馬が合っていたのでしょうかね。

 推理小説的要素は、3つの事件と桐花関連の叙述トリック(なのか?)がありました。
 松太郎、クララ殺しは、隠し通路という禁じ手(笑)が用いられているので、考えるに値しません。
 もっとも良い点は、通路の存在と一方通行の特性が明かされた後の理詰めでした。真昼が罪を自白しますが、シズカがそれ以前に真昼には犯行が行えなかったことを明かすのはフェアでした。真昼の服を着替えてない→返り血を浴びていないロジックは見事で、犯人が存在しなくなる→結合双生児で澄花と同じアリバイを持っていると思われた桐花が実は手術によって一人で行動できるという驚きの展開でした。
 桐花は、読者(私)には、初めは幽霊…しかしシズカは見えている?…から、結合双生児…になって、最後には普通の人になるという、3回もの想像と実際の違いを味わいました(笑)。叙述トリックならではの驚きですが、3回は初めてです。
 私は、強烈な個性を持っている桐花のことだから、まあ犯人なんだろうと勘で考えましたが、どうしてもトリックを見破ることができませんでした。


 以下、好みではない部分。
・刺殺では返り血を浴びるため、着替えるのは必須ということはわかりましたが、その死体を運ぶ際も血が付きませんか? 胴体もたなければ大丈夫かな?
・密室が密室ではない(笑)。密室状態が完璧すぎたことと、クララの発言から、うっすら嫌な予感がしました(シズカが密室にノータッチなのも(笑))。安易に密室を出すと、犯人が密室を作る必要性について考えないといけないので、書きづらいのでしょうかね(笑)。
・桐花関連はすこし強引さを感じます。桐花単体で行動できたことや犯人だったことはまあ良いとして、澄花がそうとうアレじゃなければ小説として成立しない気がしますが。
・かなりの人間が犯人に協力してしまっています。
・クララ殺しについても返り血問題で論理的な犯人当てになってますが、そもそも複数犯人は好みではありません。

 雰囲気、読みやすさ、クローズドサークルと私の好みのシリーズなので、これからもシリーズが続いてほしいですね。


No.252 7点 検察側の証人
アガサ・クリスティー
(2021/02/06 18:54登録)
ネタバレをしています。

 小学生のとき以来の戯曲ですが、あまり覚えていないため、検察側の証人がほぼ初戯曲となります。この形式の文って、本当に読みやすいですね(笑)。もう全部の小説はこういう形式にしたらいいのに(笑)。発言者の名前が書かれていると混乱しづらいし、発言の文の途中に()で感情や行動などが書かかれているのもいいですね。
 さらに、この作品は法廷モノです。テンポもいいです。
 非常に読みやすい要素が多いですが、もしかしたらアガサ・クリスティーの文のうまさのなせる業なのかもしれません。

 推理小説的には、結局レナードが犯人かそうでないかは論理的には判断がつかないので、犯人当てにはならない(というか登場人物も少なすぎるが(笑))です。アリバイトリックでもありません。しいていうなら、ローマインの真の狙いは何か?というところが考えるポイントでしょうか?
 濃厚さはありませんが、アガサ作品らしいラストのどんでん返しが簡潔に楽しめる作品です。

 しいて嫌いな点を挙げるとしたら、後味が悪いところでしょうか…


No.251 7点 虹の歯ブラシ 上木らいち発散
早坂吝
(2021/02/02 18:49登録)
ネタバレをしています。文庫版を読みました。また、若干、○○○○○○○○殺人事件のネタバレにもなってしまうかもしれません。

 援助交際探偵上木らいちによる、エロい事件の連作短編。雰囲気が明るく、非常に読みやすく、またすこし馬鹿ミスが入っていますが、本格推理小説としてみても大変満足できるレベルの高い作品でした。

・紫の章
 アリバイトリック系。全く予想できませんでした(涙)。コピーと写真では若干の違いがあるんじゃないかとは思いますが、なかなか良かったです。
・藍の章
 服の入れ替わりはよくあるので、すぐにわかりました。この本の中では平凡。
・青の章
 全く分からず、まさからいちがカニバっている(しかも子供も?)のかと驚きましたが、叙述トリックによる大きなどんでん返しがありました。また、それが犯人断定のロジックとかかわっており、レベルが高かったです。密室は馬鹿ミス(笑)。
・緑の章
 これも叙述トリック系。麻耶雄嵩作品を思わせるような、一人多い系でした。かなり特殊な状況で、本作のテーマ(?)のエロい事件と一人多い系をうまく絡めたよい作品でした。全く予想できませんでした。
・黄の章
 ウミガメのスープ形式で出される問題。法月作品に多い形式(な気がする)。マジックが伏線になっていました。
・赤の章
 今での章の伏線から上木らいちとは何者かを推理している章。多重解決のようでもあり、後半は深水黎一郎作品を思わせる展開でした(虹の歯ブラシのほうが出版が早い?)。この章に至るまでの伏線は太字になっており、丁寧さを感じました。避妊薬を飲んでいること、薬の世話になったことないことは頭パープリンの私でも矛盾していると思いましたが、作者の発想の飛躍に完敗しました。ただファンタジーやイレギュラーな要素を入れている…のではなく、複線の文を全て真にするために矛盾を解消する必要がある→ファンタジーにならざるを得ないという流れは好みです(笑)。


No.250 6点 『瑠璃城』殺人事件
北山猛邦
(2021/01/27 18:46登録)
ネタバレをしています。

 個人的に4作品目に読んだ城シリーズです。
 今作も城シリーズ特有の読みやすさです。テーマは生まれ変わりで、七つの大罪やゼノギアスを思い出す設定です(笑)。しかし、この作品はさらにループしています。城シリーズの中では一番きれいに話が完結している感じもあり、ファンタジー小説としても楽しめました。ラストの読後感もとてもいい(笑)。
 ラストの1行、スノウウィはマリィの重複した例外なのでしょうか?なぜ超人的能力がスノウウィにだけ添加されているのでしょうか?何時代の人物なのでしょうか?(笑)。

 推理小説的要素は大きく3つありました。密室殺人1つと、消失した死体系2つ。
 まず密室殺人。本をドミノにし、その時間差を利用したピタゴラスイッチ系密室。私は本来はこれ系はあまり好きではないのですが、今回は非常に楽しめました。ドミノは誰もが知っていることだし、想像が容易にできるところがいいですね。成功する確率が高いのかはわかりませんが。そのドミノは、犯人が直接手を汚さずに犯行を終えられるアリバイトリックも兼ねているのが素敵(?)でした。
 消失した死体1。ジョフロワによる6人の騎士を遠くの場所へ運ぶトリックです。川、十字架の建造物とその構造、塔の位置が露骨でなんとなく感づきました(笑)。私は実は最近、川の逆流を利用したトリックを目にしてしまったので、ちょっと有利でしたね(笑)。
 消失した死体2。これは…あまり必要性を感じません(笑)。

 ファンタジー、恋愛、物理トリックと、なかなかバランスが良かったです。他の城シリーズのほうが狂気的トリックや、びっくり仰天な仕掛けがありましたが、本としての総合力では瑠璃城が一番なのではないでしょうか? 6.5ぐらいつけたいですができないので…6というところで(笑)。


No.249 6点 十三番目の陪審員
芦辺拓
(2021/01/22 18:04登録)
ネタバレをしています。

 ジャンルについて詳しくないのですが、いろいろな要素が重なった作品です。まず冤罪事件を捏造する際に用いられた方法や、遺伝子や血液などの話はサイエンスミステリ(?)。政治家、警察、マスコミの腐敗や陪審員制度を採用しない異常さなどの話は社会派ミステリ。事件を検証し、議論や舌戦や苦戦と逆転などの楽しさが味わえる法廷ミステリ。少々のサスペンスの感じもあります。
 サイエンスと社会派の部分は少々読みづらさを感じ、なかなかページが進まなかったのですが、物語にリアリティとどんでん返しなどを求めるとどうしても説明が必要なため仕方ないと思います。
 最初は冤罪事件の弁護だけかと思いきや、その裏にある大きな悪との戦いになり、最後は感動的なラストにもっていく探偵はヒーロー的でなんともかっこいい(笑)。

 以下、好みでない部分。
 私の好みは本格なのですが、この作品は本格度が少々落ちる気がします。DNA検査をすり抜けるトリックも、関心はしましたが面白いとは感じませんでした。推理小説というよりも、面白い本といったかんじで、あまりジャンル分けするべきではないかもしれません。コテコテの本格好きにとっては、やや物足りなかった印象です。

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