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ミステリの祭典

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マスグレイヴ館の島

作家 柄刀一
出版日2000年11月
平均点5.83点
書評数6人

No.6 7点 ミステリ初心者
(2022/02/07 17:02登録)
ネタバレをしております。

 ページ数が多く厚いですが、内容も非常に濃厚な本でした。シャーロックホームズの物語の矛盾点と考察の話だったり、宝探し的話だったり、犯人の足跡がない殺人、島での不可解な死体…。
 実は、私はシャーロックホームズを読んだことが無いので、あまりよくわからなかったのですが(笑)。ちょっと杜撰な書かれ方をしているようですが、あえて矛盾点がないような館の構造を考える話はなかなか面白かったです。
 また、主人公格の一人、慶子の一人称?文章の"あなた"と読者を名指ししているかのような表現や、読者ではなく慶子への挑戦状など、ひと手間加えられた要素もありました。

 推理小説部分について。
 大きく分けて2つあると思います。1つは孤島の不可解な死体3人。もう一つは岬館における足跡のない殺人。
 孤島の死体については、非常にダイナミックなことが行われております。結末は、泡坂作品を思わせましたね(笑)。館ものとしては満足なのですが、ややヒント不足というか、知識が必要な気がしたりして、個人的にはいまいちでした。私は、ちょっと前に、水を使った推理小説を読んだため、解決編前の水門の話が出たときは嫌な予感がしました(笑)。論理的なことは全く分からなかったですが、おおむね想像通りでした(笑)
 岬館の足跡のない殺人について。私はページ数の多さから、読み返して考察することを怠ったのですが、この殺人については考察するべきだったかもしれません。この小説のなかでは一番良い殺人でした。足跡のない問題を存分に楽しむことができ、またそれができた人間はひとりであり、そして意外でもあります。事件の全体像を把握することにもつながります。素晴らしい出来でした。

 総じて、雰囲気・ダイナミックな館ものらしい事件・論理的に解けるアリバイトリック・アクセントにわずかな叙述トリック的な仕掛け・爽やかなラストと、高い水準でバランスが取れていた作品でした。ホームズを知らない私にとっては、序盤もう少し短くなると良いのですが、ホームズファンの人にとってはまた良い点になるのでしょうね。
 6点か7点かで悩みましたが、甘めの7点にしてみました。

No.5 5点 蟷螂の斧
(2020/04/04 21:05登録)
裏表紙より~『内と外から施錠された「密室牢獄」の中で墜落死した男と、まわりを食べ物に囲まれたテーブルの上で餓死した男。現代に蘇った“マスグレイヴ館の島”は百年前の奇想のままに、不可思議な死で飾られた。また、島の対岸の岬でも、時を同じくして関係者の死。絶壁まで続いた足跡は飛び降り自殺としか思われなかったが…。符号のように繰り返される“墜落死”、海を隔てた島と岬で起こった連続怪死事件にはなにが秘められていたのか。奇想とロマンの横溢する本格長編ミステリ。』~

島田荘司氏張りのトリックが炸裂するのですが、全体的な構成がチグハグかな?といった感じ。よって盛り上がりに欠けます。内容はいいので、非常に勿体ない。

No.4 6点 505
(2015/10/11 19:46登録)
佳作というよりも怪作である。
シャーロッキアンの宿命ともいえるネタと二つの離れた場所での殺人トリックという二重構造に、吹き荒れる嵐という状況が齎す一種の閉鎖空間が興味を掻き立てる。ホームズのネタをプロットに技巧的に落とし込んでからの豪快なトリックは、流石の柄刀一の筆力だと感じた。不可解な状況を生み出したトリックは大技そのもの。そこに不可思議な死体の謎や足跡の問題を絡ませた部分やメタフィクションの意外性だけを見れば、力作という表現が正しいかもしれない。
特に『周囲に食べ物が散らばった上での餓死』という状況の生み出すカオスな模様は、空前絶後と言っても差し支えないだろう。その他にも魅力的な謎が続々とテンポよく提示される辺りに、柄刀一のサービス精神が窺える。 しかし、細かい所で言えば、図面が多く駆使されているのに肝心の部分で図面が配置されていないのは些か不親切に思える。文章のみである程度は想像力で補えられるが、作者が意図したインパクトそのものを伝えるという面では迫力不足な感が否めない。また、偶然性に頼りすぎな面も大きい。それでも、ここまで良い意味でオーバーな作品は中々出会えないものである。

No.3 5点 nukkam
(2011/05/06 09:12登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表の第6長編にあたる本格派推理小説で、光文社文庫版の(乾くるみの)巻末解説によれば重厚でとっつき難いというイメージを打破する作品とのことですが、確かにそれまでの作品に比べれば読みやすいです。とはいえ文章が平明過ぎるというのか、物語としてのメリハリがなくて盛り上がりを欠いています。密室内の墜落死とか食料に囲まれた餓死者とか謎の魅力は十分以上で、更には「読者からの挑戦状」(「読者への挑戦状」ではありません)に大胆なトリックなど本格派推理小説の傑作となり得る要素は持ち合わせているのですが小説として味気ないのが大変惜しまれます。人称切り替えの導入も実験精神は評価されてもいいかもしれませんけど、それほど効果的ではなかったように思います。

No.2 7点 元FLUGELSファン
(2010/02/11 17:32登録)
やはり人が5人も死んでいるわけで、それぞれにトリック(?)があるという点は面白い。
まあ結果からすれば島の方はさして重要じゃないという事だけど・・・
あれだけ容疑者が絞られながら、それでも謎がなかなか解けないというところは素直に凄い。

No.1 5点 しゃんテン
(2004/07/05 16:47登録)
 文章が硬いように感じた。特に会話文が硬い印象を受ける。
 会話文が硬いためだろうか、キャラクターも今ひとつ冴えない気がした。
 けれど、ところどころに面白いやり取りもある。特に主人公のお目付け役とイギリス人少女のきついやり取りなどはみていて、面白い。「うちの母〜〜」「お母さんは優秀な娘さんならたくさん知っていますよ」といった感じで。
 謎は壮大。何故、彼はあのような場所であのように死んでいたのか? といった不可能ちっくな犯罪の場面も読み応えがあった。
謎が解けていく有様も、オオと感心して読めた。
 あと、あのトリックに関しては…本当に必要だったんだろうか、そんな気がする。

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