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ミステリの祭典

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ボンボンさんの登録情報
平均点:6.51点 書評数:185件

プロフィール| 書評

No.165 6点 東京下町殺人暮色
宮部みゆき
(2018/11/27 22:38登録)
再読。
プロローグの印象が強く、その部分だけよく覚えていた。のどかさとグロテスクの対比が宮部さんらしい。映像的で鮮烈な掴みだ。
その他はすっかり忘れていたが、少年犯罪や戦争の記憶など、意外に深刻なテーマを扱ったものだった。
「そういう少年たちを育ててきたのは、我々の世代ですよ」と書かれてから、もう30年近く経つ。時代は巡り「そういう少年たち」が今まさに親の世代ですよ、宮部先生。感慨深いなあ。
「刑事の子」の別題で中高生に読んでもらうのに相応しい作品ではないだろうか。


No.164 6点 頼子のために
法月綸太郎
(2018/11/19 14:56登録)
冒頭の異様な手記を迂闊にも素直に読んでしまい、はじめ法月綸太郎は下手なのかと思ってしまった。お恥ずかしい。手記を基に調べが進み、徐々に複雑な事情が見えてきて、悪夢のような終盤を迎えるという見事な流れだった。
しかし、どことなく安易な感じが拭えない。都合よくとんとん拍子に関係者に会え、皆がどこまで本当か分からないことを順序良くぺらぺらとしゃべり、キャラがそれなりにありそうな人々が次々に使い捨てられていく。(嬰児の血液型は確定できるのだったか?猫は本当にご主人さまのために戦うのか?)
ある種のホラーだと思って読めば、窓を開けてしまう綸太郎も操られていたということでOKになるのだろうか。


No.163 5点 よろずのことに気をつけよ
川瀬七緒
(2018/11/03 15:46登録)
何が起こるのか期待せずにはいられない、この題名が非常に良い。
犯人と被害者の物語。犯人捜しの意味ではなく、真実、誰が悪いのか、どっちが被害者なのかがテーマになる意外に重い話だ。
読み心地としては、結構グロくて気持ち悪いのだが、その割にそこはかとなく甘っちょろいところがあって、その辺はあまり好きにはなれなかった。
作者自身が「地元愛をふんだんにちりばめた」と言っているが、ちょっと悪く書き過ぎの感があり、読んでいる間は、てっきり舞台となった地方をディスっているのかと思っていた。出身地だったとは驚き。
作品の表層は、怨念や呪術、祈祷念仏などおどろおどろしい古来のあやしい因習に覆われているが、本筋は生真面目なほど論理的なので、意外に落ち着いた雰囲気。どうも爆発しているようでしていない、もどかしい中途半端な優秀さが残念。


No.162 5点 フランス白粉の秘密
エラリイ・クイーン
(2018/10/25 13:12登録)
(ネタバレかもしれない)
まさに百貨店に並ぶ商品のように推理関連物品を陳列しての推理ショー。論文のように淀みない消去法が気持ちいい。
読後、「フランス白粉の秘密」という題名の面白味がわかる。
しかし、ラストをあんなに盛り上げている犯人の決定的な行動だが、どうにも変だ。余計なことをしないできっちり拭いとけばいいだけ。それより大量にそこらに流れたり飛んだり垂れたりしたはずの血の始末はどうしたのか。などなど、素晴らしい推理のために都合のいい真相が準備されているような感じ。
それなのに、そんなことが吹き飛ぶ迫力でぐいぐい読ませてくれるので、まあいいか、となる。
はったりを突き付けて、犯人を自滅させるパターンは、スリルがあって好きだ。ただ、死なせちゃったらダメだろう。


No.161 7点 インド倶楽部の謎
有栖川有栖
(2018/09/17 11:22登録)
火村と作家アリスの長編で、久しぶりの国名シリーズ。舞台は、異国情緒をたっぷりデコレートされた神戸だ。
基本中の基本といえる、火村とアリスが警察の捜査に乗っかりながら刑事のように走り回るタイプの作品で、前半などは、ほとんど兵庫県警祭りの勢いでガミさんや遠藤刑事が活躍するのが楽しい。
犯人の絞り込みは、丁寧な捜査の中で行われ、謎解きもきちんとされているが、今回は珍しくアリスではなく火村による動機の心理の解明に力点が置かれているようだ。醜悪な犯罪を厳しく糾弾する、というのではなく、「ふわふわした妄想」の中を泳いで答えを探すような変わった味わいの捜査となり、常識外れの解答を手にする。まさにインドのお香に酔う感じ。
アリスに「過去に囚われた心を自由にする」悟りが衝撃的に訪れる場面が感動的だった。これだから有栖川有栖はやめられない。

余談だが、火村とアリスが確実に見えない年齢を重ねているのをはっきりと感じる。若々しい躍動感は見えなくなり、どんどん老成していく。それはそれで全く悪くないし当たり前なのだが、不安げで心細いようなダメさ加減も好きだったので、少し焦る。過去の作品を総ざらいで振り返ったり、火村とアリスのテーマにも整理がついてきたりするものだから、途中で、まさか!最終回?などと心配してしまったが、あとがきにちゃんと「これからも」とあったので、ひと安心。


No.160 7点 孤島パズル
有栖川有栖
(2018/09/09 23:04登録)
こんなにキレイで甘酸っぱい青春ものだったとは、少し驚いた。そこはそれで大変良いのだが、すばらしい作品なのに、自分があまりのめり込めなかったのはなぜかと考えると、グッとくる闇や毒が足りないからかなあ。見本のような舞台に、よくある人間関係。誰もそんなに悪くない。
しかし、ミステリとしては完璧で、切れた論理展開に大満足だ。こんなにやる気の出る「読者への挑戦」はなかなか無いし、こんなに納得と感動のある「密室」も見たことがない。名探偵江神さんの思考の深さ、あたたかな姿勢には頭が下がる。


No.159 7点 一の悲劇
法月綸太郎
(2018/08/12 22:37登録)
一つの事件について、様々なパターンの推理が色々な必要に迫られて次々と披露される。最終的に「これが正解」となっても、特に意外性がある訳ではない。それまでの長い推論の反復運動を楽しむ感じ。
語り手の信頼度が微妙なので、ずっと不安定な読み心地になっているところが何とも良かった。
しかし、子どもに対する親としての感覚について、山倉史朗の感じ方、考え方には、違和感があったな。他の親たちは自然なのだが、やはり、この語り手は、どこかずれていて、自己中心的でこわい。それを意図して書いているわけではないのだろうけれど。
そして、もう言わなくていいのだが、どうしても言いたい。ダイイングメッセージは余計だ。「~と考えて間違いないのです。」とまで言い切るのはどうか。


No.158 9点 不連続殺人事件
坂口安吾
(2018/08/04 09:31登録)

(ネタバレあり注意)


何だこのハチャメチャな世界感、気持ち悪いなと呆れていたが、何とそこに大仕掛けがあったとは。「木の枝は森の中に隠せ」と。作品全体そのものを道具にしたトリックなどというものが存在するとは、ミステリ読み実績の浅い私には大変勉強になった。「心理の足跡」という一発の本塁打でパァっと目が覚める。
しかし、煙幕みたいに同じような人がゾロゾロぞろぞろ。異様に濃すぎる人々で埋め尽くされ、しかも皆、出力100%で活き活きしている。それがそのまま著者の気概を表しているようで、読み終えてみれば、この人海戦術?も悪くなかったかなと思う。


No.157 8点 不思議島
多島斗志之
(2018/07/20 23:08登録)
清々しく爽やかな横溝正史か(よく知らないが)。
多島ワールド全開で、陽射しはキラキラ、新鮮な風が吹き抜けているにもかかわらず、え・・・、と眉間にしわが寄るような微かな不快の積み重ね。
精密に色々なものがきっちり納まった巧みな構成だ。瀬戸内海の美しさと閉鎖性、村上水軍に絡ませた謎解き、複雑な恋愛小説でもあり、ちょっと歳のいった青春小説でもあり、何より、くねくねと何度もねじれながら真相に迫るミステリ。人物の作り込みが素晴らしい。


No.156 7点 法月綸太郎の功績
法月綸太郎
(2018/07/12 23:38登録)
なるほど!これがアームチェア・ディテクティブか!という感動(『都市伝説パズル』『縊心伝心』)。いつまでも延々と読み続けていたい気持ち良さ。どの作品もスッキリきっぱりと切れが良く、きれいだ。贅肉が一切ない。
ただ、「ロジック+ドラマ」好きの自分としては、『スイス時計の謎』に軍配。


No.155 8点 ぼぎわんが、来る
澤村伊智
(2018/06/24 16:04登録)
こわいこわいこわいこわい。
第1章がもの凄く怖い。抜群の巧さに引き込まれる。第2章は、人間の裏表。これも別の意味で相当怖かった。第3章は、意外に現代的なエンタメに。章ごとに語り手が変わり、視点が移ることで、同じ事柄や人物を横からも後ろからも知ることになり、見えていなかった真相に近づいていく。
もちろん怖かったりグロかったりはするのだが、登場人物が皆、繊細に、複雑に、やわらかに描かれているので大変読みやすい。
ホラーとしても、サスペンス、ミステリー、そして人間ドラマとしても最高だ。
「ぼぎわん」に込められたものが濃い。


No.154 4点 ホテル・カリフォルニアの殺人
村上暢
(2018/06/23 15:24登録)
これはまた不思議なものを読んでしまった。
イーグルスのホテル・カルフォルニアのあの雰囲気を期待していたのだが、違った。どちらかと言うと金田一少年系。
小説としては、かなり乱暴で上手な素人レベルだが、トリックは、運動会のように次から次と繰り出される。ところどころ集中的に論理的だったり、一方で、今時まさかと思うような仰々しくもバカバカしい演出を平気でやったりと、良いのか悪いのか、どっちなんだと逆に問いたくなる。
物語の〆は、結構、強烈だった。なぜホテルが舞台なのに、ホテル感ゼロのつくりになっていたのかが分かって最後のモヤモヤは晴れたが、それまでのノリに反して随分と後味が悪い。
頑張った力作だとは思う。ただ、個人的には、無意味な大仕掛け殺人は好みではないので、この点数。


No.153 6点 法月綸太郎の新冒険
法月綸太郎
(2018/06/02 17:12登録)
体調が悪かったせいか、単に歳のせいか、面白いのに、読んだ先から忘れて行ってしまうような感覚。それだけ精密にロジックロジックしているということか。
すでに十分完成度の高い展開をしてきたところへ、さらに加えて、最後は忘れずに驚きのひねりを用意してくれるので、来るぞ来るぞ、来たーっ、という満足感を得られる。

ところで、綸太郎と穂波の会話を見ていると、昔、フルーツポンチと柳原可奈子がやっていたコント「通ぶる2人」というネタを思い出す。
「というと?」
「○○○、とあなたは言いたいわけね」
「さすがに飲み込みが早いな」


No.152 7点 法月綸太郎の冒険
法月綸太郎
(2018/05/13 23:25登録)
前半3編は素晴らしい。後半の図書館シリーズは楽しい。しかし、前半後半で、法月綸太郎のキャラさえ変わってしまうほどのギャップがあり、短編集全体の統一感が無さ過ぎだ。短編「集」としては、かなり残念なつくり。
『死刑囚パズル』:こんなにエラリー・クイーンに寄せ過ぎて大丈夫なのかと思うほどカブレ気味だが、最後の動機部分には脱帽。
『黒衣の家』:やはり翻訳物から借りてきたような匂いが漂うが、短編としての巧さ、面白味満点。
『カニバリズム小論』:カニバリズムはともかくとして、こういう雰囲気、構成は大好き。法月綸太郎の態度やリアクションを読み返して、スルメのように味わった。
図書館シリーズは、「図書館の自由」の件で随分もめたり悩んじゃったりしたようで、長いあとがきや追記ですっかりケチがついて、がっかり。「図書館の自由」は確かにとても大切なことだが、法月警視からだだ漏れる捜査上の秘密は別にいいんだろうか。


No.151 7点 死の第三ラウンド
ウィリアム・アイリッシュ
(2018/04/29 23:41登録)
創元推理文庫のアイリッシュ短編集2。
登場人物が直面する事態に恐怖し、焦り、ストレスが高まる場面の映像的な描写が強烈。どの話にも共通する洒落た雰囲気が素敵だが、短編各話の多彩さにも感心する。
アイリッシュは、私の周辺では、一部の新装版を除き本当に手に入りにくく、今回読んだのは、古本屋巡りの中で偶然見つけることができたボロボロの一冊。もっと多くの人に(特に若い人に)読んでもらえるようにならないものか。もったいない。

「消えた花嫁」・「墓とダイヤモンド」・「殺人物語」・「死の第三ラウンド」・「検視」・「チャーリーは今夜もいない」・「街では殺人という」


No.150 5点 葬儀を終えて
アガサ・クリスティー
(2018/03/29 22:38登録)
(ネタバレあり)
どうも、この作品とは馬が合わなかったようだ。犯人の特殊さとしては面白いのかもしれないが、そのほかの関係ないことが変に思わせぶりにたっぷり描かれ過ぎていて、わかるわけないし、最終段階で放り投げたくなった。
ポアロは、ほとんど何もしてない(元気がない)。第一、メインの犯罪について、まるで説明がない。
とはいえ、全体の構造がまるっきり大回転する迫力はさすが。犯人の動機もよく考えれば、境遇やら身分(?)の限界やらへの怒りが被害者に向かってしまったのかなあと理解はできる。また、大勢の親戚一同、使用人その他の皆さんの個性の書き分けが楽しい。まあ、大多数の人は、結局全然関係ないことになってしまうのだが。それにしても、スーザンの夫の意味の分からなさだけは、どうにも腑に落ちなかった。


No.149 4点 少年たちのおだやかな日々
多島斗志之
(2018/02/28 00:17登録)
中学生の男の子が、平穏な日常からおかしな具合にずれていき、最終的に異常にひどい目に合うという共通のテーマがある短編集。
あまりに不快要素満載なので面食らう。途中で何度も投げ出しかけたが、この著者独特のセリフや文章の運びの巧さがあり、先がどうなるのか気になって、つい全部読んでしまった。
とにかくあきれるほどの不快感。主人公を中学男子にすることで、日常と異常、間抜けな無邪気と深刻な結末のギャップを大きくすることに成功している。


No.148 7点 オリエント急行の殺人
アガサ・クリスティー
(2018/02/17 23:41登録)
安心と信頼の面白さ。無邪気に楽しむことができた。(これまでネタバレを耳に入れないように、どれだけ気を付けてきたことか。まあ、ちょっと入ってしまったが。)
ただ、意外に粗くて企画頼みなつくりなので、本当は結構深みのある話なのに、その骨組みだけで最後までいってしまうのがもったいない。
「ポアロ、二つの解決法を示す」の人間味が良かった。


No.147 6点 TAKER
日野草
(2018/01/31 23:30登録)
『GIVER』、『BABEL』に続く、復讐の贈与者のシリーズ最終巻。若い読者が多いので、今回は単行本を出さずに文庫書下ろしとなったそうだ。若い読者でなくて申し訳ない。
帯の煽りに「静かに火花を散らす頭脳戦」とあるが、そのとおり。騙しだまされ、嘘に演技に、上手のさらに上手を行く攻防。読んでいるこちらはそんなこと一切知らずにただ読むしかないので、いちいちショックを受け、ハラハラとサスペンスの世界に浸れる。
義波の心の回復、そして成長に救われるが、基本的に愉快な話ではない。人間て複雑、ままならないけどそれが人生、というようなことを改めて思い出させてくれる初々しい作品だ。


No.146 5点 白馬山荘殺人事件
東野圭吾
(2018/01/28 00:55登録)
犯人や結末に驚くような意外性はないが、結構複雑で良く練られている作品だ。だからといって、密室と暗号が特別面白いかというとそれほどでもなく、淡々と進んでいく感じ。序盤に本筋と無関係に叙述をチラつかせる変なノリや、あまり必要とは思えないクセのあるキャラ設定などがひっかかる。しかし、終盤に重層的な事件がどんどん膨らんでつながって、最終的にそもそものはじまりの物語が明かされるが、これが期待通りにドラマチックだったので満足した。

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