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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:570件

プロフィール| 書評

No.190 7点 さよなら神様
麻耶雄嵩
(2015/09/02 13:36登録)
無謬の神様が冒頭に真犯人を明らかにするため、探偵たちは「当該人物がどのように犯行をなし得たか」を究明する、一風変わったハウダニットが並ぶ連作短編集。
各短編を思い切って荒唐無稽な真相とすることにより、神様が真実を保証していることを前提としなければ到底真相に到達できず、警察が特定した犯人が誤っているとしても、神様の存在を前提とできない故に、真犯人を告発できない。
神様の設定を存分に活かしきった挑戦的かつブラックな作品集であり、とりわけ「バレンタイン昔語り」の衝撃的な真相は本作の白眉。
例によってこの作者にしか書き得ない強烈な作品


No.189 6点 一の悲劇
法月綸太郎
(2015/08/27 18:09登録)
登場人物が極めて少ないにもかかわらず、その大半に犯人と疑うに足る可能性を残しつつ、中盤にあからさまに怪しい人物を撒き餌として配し、最後にどんでん返しを連発。
犯行手順・トリックの鮮やかさ、ミスリーディングに導く手際のいずれもが巧妙。
プロットの性質上、腰を抜かすようなサプライズは演出できていないものの、水準を超える佳作と評価


No.188 6点 双月城の惨劇
加賀美雅之
(2015/08/27 18:08登録)
第一の犯行は、城の建造経緯を巧みに活用した物理トリック、犯人の狙いを隠蔽する逆説的な構図が抜群。
反面、第二の犯行以降は、真相が複雑で、フィージビリティや合理性にも強く無理が感じられ、かつ手掛かりにも乏しいと褒めるべき点がない。
ハウダニットに重点を置いた作品とは言え、真犯人を特定する根拠が2点しかなく、その2点が非常に露骨であるなど、フーダニットとしてはかなり物足りなさを感じる。
全体としては力作の評価でよいものの、二階堂氏が絶賛するほどの水準とは言えない


No.187 4点 七人の証人
西村京太郎
(2015/08/27 18:08登録)
プロットは極めてトリッキーで興味深いのだが、看過し得ない瑕疵があまりにも多い。
まず無人島に犯行現場を再現し、関係者全員を昏倒させてそこに拉致したという舞台設定が、あまりにも無理筋。
獄死した犯人の父親による真相解明は、非常に強引で論理性に乏しいにもかかわらず、その誘いにまんまと乗って真相を吐露する証人たちの愚かさ・不出来さにも強い違和感。
そのうえ、無人島で連続殺人事件が勃発するのであるから、その犯行の杜撰さもさることながら、発生の事実自体が真相を強く示唆するヒントとならざるを得ない。
以上、着想の妙は買うのだが、華麗なる失敗作と評価


No.186 8点 天帝のつかわせる御矢
古野まほろ
(2015/08/27 18:07登録)
いい意味で大きく裏切られた作品。
デビュー2作目で下振れするケースは枚挙に暇がないが、これほど上振れするケースは初めて。
まず、物語として、本格ミステリとして、(一旦)しっかりと着地している点が大きい。
ルビ塗れの異様な文体は、慣れてしまえば却って立体的に感じるとさえ言えなくもない。
衒学趣味を1作目よりセーブし、その中に真相の伏線を巧妙に散りばめることで、プロットとの連動性を高めた。
推理合戦はその網羅性といい、緊迫感といい、読み応え十分。
最終盤の伝奇SF的展開によるプロットの破壊は、もったいないとは思うものの、一旦構築したうえでの破壊であるため、1作目とは異なり致命的な減点にはならない。
この荒唐無稽な展開をシリーズものとしてどのように収斂させるのかは、今後の展開を待ちたい。
主人公の人物像とか、随所に散見される文学的な表現等、肌にあわない点は感じるが、それは好き嫌いの問題であり、本作の評価を引き下げる理由にはならない。
作品全体を俯瞰して言うなら、一部の熱狂的ファンが称する「本格の申し子」とまでの評価には抵抗があるものの、「黒死舘殺人事件」にはじまる暗い水脈をバックボーンとして継承しつつ、そのうえに堅固な本格ミステリを建築し、流行りのライトノベル的センスでインテリアを施すことで、一個の新たな世界を作り上げた構築力・オリジナリティは瞠目すべきものと評価


No.185 8点 刺青殺人事件
高木彬光
(2015/08/27 18:06登録)
個々のトリックや犯人特定に至るロジックに突出した点はないものの、プロットの完成度や、個々の材料を有機的に連動させてミスリーディングに誘い込む手際が抜群。
古典と呼ぶに相応しい水準の正統的な本格ミステリと評価


No.184 5点 危険な童話
土屋隆夫
(2015/08/11 16:30登録)
警察の捜査過程が不用意かつ不可解であり、犯人が仕掛ける個々のトリックの合理性とフィージビリティにも相当程度に無理を感じる。
本サイトでは、作品の持つ独特の抒情性が高く評価されているものと理解するが、本格ミステリとしては完成度が低く無理筋の印象が強い


No.183 7点 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?
詠坂雄二
(2015/08/11 16:28登録)
あらかじめ犯人がシリアルキラーであることを示し、その人物像を追う犯罪小説の形式を採用していること自体が、強烈なミスディレクションとして機能しており、プロットは非常に秀逸。
一方、犯人像が理性的・合理的すぎるため、人物像の反転は所期の効果を挙げたとは言い難い。
ホワイダニット1点勝負の作品でありミステリとしての核は小さく、ご都合主義的なアリバイ工作等、細部に綻びも感じる


No.182 7点 狂骨の夢
京極夏彦
(2015/08/07 20:47登録)
前2作のファンタジックな世界観が影を潜め、よりリアリスティックな、いわば土着的な色彩が濃くなったためか、本格ミステリとしての性格を強めており、その点で嗜好にフィット。
登場人物・事件が丹念かつ網羅的に描写され、披露される衒学と事件が一体感を増していることから、これまで以上に「やたら長いが無駄が少ない」構成となっており、1個の読物としての完成度・リーダビリティは明らかに向上。
一方、提示された謎の怪奇性は抜群なのだが、事件をあまりにも複雑にしすぎたのが大きな難点。
こうした謎がすべて一点に収斂する解決は圧巻であり、伏線の回収の妙は以前にも増して見事ではあるのだが、真相があまりにも壮大すぎてリアリティに乏しく、無理筋の印象が非常に強い。
以上を総合すれば、世評では前2作に見劣ると言われているものの、互角以上の力作と評価


No.181 4点 首断ち六地蔵
霞流一
(2015/07/30 20:13登録)
徹底的に多重解決にこだわった連作短編集。
荒唐無稽な物理トリックの多用やリアリティの欠如は作風として理解。
ただ、各短編とも最低4回以上の“解決”を盛り込んでいるため、やむを得ないとはいうものの、ロジックは至ってルーズで、個々の解決の完成度は低水準。
連作短編としてのどんでん返しは、章立てから十分に予測可能なうえ、その内容も「これだとつまらないけど…」という予測どおりの古典的なもの。
意欲・密度を買ってもこの評価


No.180 9点 夏と冬の奏鳴曲
麻耶雄嵩
(2015/07/28 18:05登録)
(以下、ネタバレを含みます)
一般にミステリは、提示された謎が解決されることが暗黙の前提となっているところ、本作は「その長大な本編がまるごとダミーの謎と解決に充てられており、真の謎の解決は随所に伏線として散りばめられているだけで明示されない」という点において、他に類を見ない徹底的なアンチ・ミステリである。
主題は孤島の連続殺人であるが、これ自体が著者が仕掛けた罠(ダミーの謎)でしかない。
「犯行とその解明が遅々として進行しない」「犯行の全体像は異様な舞台設定とは裏腹に底が浅い」「荒唐無稽を極める雪上密室トリック」「地震の頻発や真夏の降雪といった異常現象に全く説明が付けられない」など、不可解な点が散見されるが、これもひとえにダミーの謎であることを示唆する一種のヒントではないかと思われる。
真の謎は最終盤に浮かび上がってくるが、本編が終了したあとに突如登場するメルカトル鮎の一言がすべてを解決する。
ただし、その解決はあくまでも主人公に対するもので、読者に対しては明示されないまま、一見するとさらに謎が拡散したような印象さえ残しつつ閉幕する。
しかし、随所に配された伏線を手掛かりに解釈すれば、人によってはある程度合理的な“真相”に到達することが可能となっている(はず)。
この異様とも言える奇想の徹底、巧緻極まるテクニック、絶妙なバランス感覚には、ただただ脱帽せざるを得ない。
毀誉褒貶が激しく、解説で巽昌章氏に「本格推理小説への許しがたい裏切りとみなされることのある問題作」と評されるのも当然であろう。
しかし、アンチ・ミステリとして1つの頂点を極めた金字塔的作品であることもまた間違いない


No.179 1点 黒死館殺人事件
小栗虫太郎
(2015/07/24 20:35登録)
ミステリとは「提示された謎に対して解決が与えられる作品群」を指すと解するところ、本作は謎が提示され、その解決が与えられている点において、ミステリであると理解。
従って、私が本作の真価の片鱗さえも理解していないであろうこと、著者が既存のミステリの枠組みなど意識していないであろうことを前提としつつ、あくまでもミステリとして以下のとおり評価。
まず、解明プロセスは、殺人事件の発生にもかかわらず、探偵がひたすらゲーテの「ファウスト」はじめ中世ヨーロッパの衒学を披露し、容疑者への心理戦に終始するという異様なもの。
衒学が難解なのはやむを得ないとしても、その量があまりにも膨大過ぎるため、確信犯的に説明不足に陥り、読者の理解を拒絶するものにならざるを得ない。
こうした合理性・論理性のないアプローチを続け、実証的な捜査を全く進めない間に、殺人事件が続発し、しかも手口がエスカレートしていくにもかかわらず、捜査方針を一向に変更せず、登場人物がほぼ死に絶えた最終盤に至って唐突に真犯人が指名される。
膨大な衒学を除去して一連の犯行を俯瞰するなら、合理性・フィージビリティを無視した、荒唐無稽というべき物理トリックを一貫して使用し、それを登場人物の特異体質というご都合主義で支えた楼閣でしかない。
また、恐らく意図的に登場人物の詳細な描写を避け、ロボットのように描く作風を選択した結果、これだけ凶悪な連続殺人事件にもかかわらず、サスペンス的な盛りあがりに欠け、犯行動機も十分に説明される訳ではない。
こうした点はすべて本作の強烈な個性であり、意図的にそのように書かれたであろうことは百も承知。
ただ問題なのは、面白くないのである。
著者の博識は手放し・無条件で認めるが、衒学を詰め込めば面白い作品になる訳ではない。
本作の場合は、あまりにも膨大な衒学が却って犯行の全体像やプロセスの理解を妨げており、主客転倒していると言わざるを得ない。
いわばミステリの骨格を持った難解極まるファンタジー小説であり、ミステリ読みにとっては、何とか読み切ったという徒労感だけが残る作品。
繰り返しになるが、本作の強烈な個性とその存在意義は認め、敬意を払うものの、面白い作品とは断じて言えず、この評価が相応しいと判断


No.178 7点 新参者
東野圭吾
(2015/07/21 17:51登録)
ミステリとしての核は小さいものの、舞台設定も含めた構想力の高さと、ストーリーテリングの妙が際立っている。
後半の短編はやや見劣りするが、作品全体として高水準を維持しているのは間違いない。
しかし、著者の力量の高さを認めるが故に、グリグリの本格で勝負してもらいたい気持ちは強い。


No.177 5点 少女
湊かなえ
(2015/07/16 18:59登録)
一人称中心のスタイルをふまえて評価しても、描写が表層的で浅く、前作より大きく見劣りすると言わざるを得ない。
フィクションである以上、ご都合主義的な偶然の多発はある程度受け入れるのだが、あまりにもキレイにまとめすぎて、作品の余白や余韻に乏しく、認知症・自殺・援助交際といった題材の既視感と相まって安っぽい印象が拭えない。
4点にすることも考えたが、それほど批判的スタンスに立つべき作品でもないと再考しこの評価


No.176 4点 奇偶
山口雅也
(2015/07/15 15:02登録)
あまりにも強烈な偶然が続発する中、落とし処を危ぶみながら読んでいたが、量子力学・心理学で衒学まみれにしておいて笑止千万の結論。
立ち位置としてはバカミスというべきで、期待されるアンチミステリの領域には達していない。
であれば、こんなにやたら思わせぶりな大長編にするのではなく、もっと簡潔にキレ味よく結論に達するべき。
ミステリとしてはさらに低い評価が相応しいが、結論に至るプロセスと読み応えを買ってこの評価


No.175 6点 告白
湊かなえ
(2015/07/13 16:45登録)
日本語がこなれていない箇所が散見されるが、構想力の高さは確かで、第2章以降の存在により作品に深みが増しているとの意見には同感。
一方、主人公の境遇には同情するものの、その報復の仕方には到底共感できるところがなく、読後感は至って悪い


No.174 8点 あした天気にしておくれ
岡嶋二人
(2015/07/09 14:41登録)
誘拐事件と相性のよい倒叙形式を採用しつつ、事件に捻りを加えてフーダニットに仕立てあげたプロットが実に巧妙。
そのうえ、誘拐モノの最大の急所である身代金の奪取を巡るメイントリックが強烈。
ある仕掛けを利用し、かつ全額の回収を諦めることによって、2つの絶対的な不確実性を排除した奇想は、その合理性と完璧なフィージビリティの点で素晴らしくエレガント。
私はコアな競馬ファンであるため、途中で仕掛けの大半を看破したが、それでも執筆当時のシステム上の欠陥を利用したディテールはさすがに見抜くことができず。
“人さらいの岡嶋”の評価に相応しい傑作


No.173 6点 陰獣
江戸川乱歩
(2015/07/07 16:34登録)
独特の世界観が高評価の理由であろうが、犯行の非合理性やフィージビリティの低さを犯行動機だけで説明しようとする論理性の低さが強く引っ掛かる。
著者の作風が自分にあっていないということだと理解


No.172 6点 放課後はミステリーとともに
東川篤哉
(2015/07/07 16:33登録)
「ディナー」以上にエキセントリックなユーモアが暴走気味で、本格度の高い作風とのギャップを感じる。
キャラクター造形にしても、探偵が固定されていない不安定さもあり、「ディナー」の2人には遠く及ばない。
ベストは「霧ヶ峰涼の逆襲」で断然。
僅かな仕掛けから意外性あふれる真相を導き出しており、極めてレベルの高いパズラー。
準ベストは「霧ヶ峰涼の屈辱」。
それ以外はトリックこそ大胆であるものの、偶然の産物やフィージビリティに難がある作品ばかりで、前2作とのレベル差が大きく、この評価


No.171 6点 江神二郎の洞察
有栖川有栖
(2015/07/02 18:40登録)
“日常の謎”を取りあげたコンパクトな作品でありながら、強固な先入観を打破し鮮やかな真相に導いた「ハードロック・ラバーズ・オンリー」のカタルシスが断然。
「除夜を歩く」は作品部分よりも評論部分の方がはるかに秀逸で、トリックに関する悪魔の証明問題が非常に含蓄に富んでいる。
ただ、この2作を除けばミステリとしてはやや小粒と言わざるを得ず、この評価

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