蟷螂の斧さんの登録情報 | |
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平均点:6.10点 | 書評数:1693件 |
No.773 | 4点 | 道化の死 ナイオ・マーシュ |
(2015/07/04 08:10登録) 黄金期の4代女流作家とのことで手に取りましたが、全体的に単調であり、読むのに時間がかかってしまいました。本作と似た「ジェゼベルの死」(評価4)と同様、舞台や道具が頭に入ってきませんでした(苦笑)。この手の作品は配置図や道具の絵がないと分かりにくい?。まあ、あったら逆にすぐトリックがばれてしまう恐れもあるが・・・。○○像が好みでないのでこの評価。 |
No.772 | 7点 | はなれわざ クリスチアナ・ブランド |
(2015/06/29 17:56登録) 裏表紙より~『休暇をすごすため、イタリア周遊ツアーに参加したスコットランド・ヤードの名警部コックリル。だが、事件が彼を放っておかなかった。景勝で知られる孤島で一行のひとりが何者かに殺された。地元警察の捜査に不安を感じたコックリルは自ら調査に乗り出すが、容疑者であるツアーの面々は、女性推理作家やデザイナー、隻腕の元ピアニストなど一癖ある連中ばかり…ミステリ史上に輝く大胆なトリックで名高い、著者の代表作』~ 著者と相性があまり良くなかったのですが、本作は楽しめました。「緑は危険(5点)」「ジェゼベルの死(4点)」の2作とも、場面・人物がイメージしにくかったという印象が強いです。本作は”浜辺の図(事件発生時の各容疑者の位置)”が挿入され、人物像も個性豊かに描かれており頭に入ってきました。刑事が、容疑者全員のアリバイを証明している点がミソですね。恋愛が絡んだ物語には高得点をつける傾向があることに、自分自身気が付きました(笑)。真相にはかなりの無理があるのでは?と思わせないことが、著者にとっての「はなれわざ」なのでしょうか。物語自体は、クリスティ氏の「白昼の悪魔」(1941)を連想しました。 |
No.771 | 5点 | もう年はとれない ダニエル・フリードマン |
(2015/06/26 19:07登録) 主人公のキャラクターからして、もう少しドタバタ調でもよかったのでは?という思いです。つまり、ハードボイルド系の主人公がただ年をとってしまっだけの物語という印象しか残らなかった。残念。 |
No.770 | 7点 | 高木家の惨劇 角田喜久雄 |
(2015/06/24 15:21登録) あらすじ~『青年が喫茶店で飲物に蜘蛛が入っていると騒ぎ出した。隣の席にいた男は、青年が蜘蛛を飲物に入れるところを目撃した。青年は何の目的で?・・・。 同時刻に高木家の当主・孝平が自宅で射殺された。容疑者は少数の人間に絞られた。誰もが強い動機を持っている。しかし、全員に確固としたアリバイが存在する・・・。』~ 「本陣」「不連続」「獄門島」「刺青」(1946~1948)に並ぶ名作とのことで拝読。知名度は前記4作と比べると劣っているようですが、予想以上に楽しめました。心理的トリックと、被害者の生前の意図が本書の読みどころですね。 |
No.769 | 8点 | カラマーゾフの妹 高野史緒 |
(2015/06/23 13:32登録) 第58回江戸川乱歩賞受賞作。ドストエフスキー氏は「カラマーゾフの兄弟」の第2部(13年後の物語)を書くことなく、亡くなりました。その続編である第2部をミステリーとして著者が描いたものです。この大胆さに拍手(満点)を送りたいですね。原作(第1部)では、明確な犯人は描かれておらず、当然第2部で明かされるのでは?と予想されていたわけです。しかし、残されている資料は少なく、続編では兄弟の○男がテロリストになるという筋書きのみがあったようです。本作は、原作の伏線(現場情況、供述、アリバイ、言動など)を紐とき、真犯人を浮かびあがらせるというものです。その点は成功していると思います。原作のあらすじ(これが実に面白い)が挿入されていますので、読んでいなくても「本作」のみで十分楽しめます。乱歩賞選者の東野圭吾氏も「原典は読んでいない。」とのことでした。 |
No.768 | 6点 | ミステリとしての『カラマーゾフの兄弟』 評論・エッセイ |
(2015/06/21 20:19登録) 著者の「カラマーゾフの妹」を読む前に、「カラマーゾフの兄弟」本編を読もうかとも思いましたが、5冊もありあきらめました(苦笑)。本書は、「カラマーゾフの兄弟」をミステリーの面から捉えたものです。殺人事件(父親殺し)に係るあらすじがあるので本編を読んでいなくとも大丈夫ですね。なお、真打は真犯人の考察です。証言と供述が、犯行現場と一致していないことより、真犯人がいるのでは?というものです。60ページと短いので非常に読み易く楽しめました。 |
No.767 | 5点 | バスカヴィル家の犬 アーサー・コナン・ドイル |
(2015/06/20 16:28登録) (東西ミステリー47位)海外著名ミステリ作家のお気に入りベスト10でも26人中6名が本作を選出しています。歴史的意義のある作品であることは理解できるのですが、面白いか?と問われると、評価に困る作品ですね(苦笑)。解説(島田荘司氏)によれば、「著者にとっては、最新科学の情報を作品に組み入れていくことが必要であったが、ロマン派冒険作家の意識から脱しきれなかった(要約)」らしい。そこへゆくと、ジェフリー・ディーヴァ―氏は凄いのかな?。 |
No.766 | 5点 | 緋色の研究 アーサー・コナン・ドイル |
(2015/06/17 16:55登録) 世界ミステリー史的なものに興味を持ち始め、ミステリー黄金期やそれ以前の主だった作品を順次読み始めたところです。ドイル氏の作品では「緋色の研究」(1887)「バスカヴィル家の犬」(1902)を選びました。ホームズものについては、子供の頃読んでいないので、こだわりとか思い入れなどがありません。また短編もあまり好みでないので、手にすることがありませんでした。既読は「冒険」①と「事件簿」➁の2冊のみです。①は東西ベスト3位という人気は本当?、②はソア橋の本邦作品への影響調査という意図からのものでした。本作はホームズおよびミステリーを広めた最初の1冊という位置づけでの読書です。印象としては、やはり著者は短編向きなのかな?ということですね。動機を2部で語り、あえて長編にしたといった感じです。気になった(違和感)のは宗教は別として、犬の毒見シーンとホームズが変装を見抜けなかった点(一般人が気がつかないことを見抜く能力をもって、それはないでしょう!?(笑))です。島田荘司氏の作品に本書の構成パターンが良く使われていることが分かり勉強になりました。 |
No.765 | 7点 | ルルージュ事件 エミール・ガボリオ |
(2015/06/16 15:26登録) 1866年にフランスでミステリー初の長編である「本作」が発表され、一方ソビエトで「罪と罰」が発表されています。その後、ミステリーが両国においてではなく、英米で発展していったことが何か不思議な気がします。本作はフランス流エスプリが各所(当然ラストも)で効いている作品で楽しめました。登場人物の夫々の恋が語られているのも楽しいですね(従前の「抄訳」ではこのあたりがカットされたのかも?)。探偵タバレの役回りが、「トレント最後の事件」(1913)のトレントに引継ぎされたように感じました。当時のフランスにおいて、冤罪に関する意識が相当強いということが、本書から伺えました。 |
No.764 | 4点 | 人生の阿呆 木々高太郎 |
(2015/06/14 13:15登録) 物語は主人公の人生(祖母の溺愛から脱出し、元恋人との愛の挫折を乗り越えて・・・)と事件(毒入り・射殺)を組み合わせたものですが、どちらも中途半端な感じを受けました。恋愛小説風部分も物足りないし、事件も淡々と語られるだけで盛り上がりに欠けるものでした。犯人像は意外かも?。自序における著者の探偵小説に対する意気込みだけは強いものを感じましたが・・・。 |
No.763 | 6点 | ジキル博士とハイド氏 ロバート・ルイス・スティーヴンソン |
(2015/06/11 18:38登録) 「ジキルとハイド」(新潮文庫2015版)で拝読。本版でも裏表紙および解説にて、完全にネタバレしています。意味不明です!!!。100%の人がこの話を知っているということ???(苦笑)。 「私は純粋な喜びだけのために罪を犯した初めての男だ。」正にその通りかもしれません。強く印象に残るフレーズです。 |
No.762 | 5点 | ミステリイ・カクテル(推理小説トリックのすべて) 事典・ガイド |
(2015/06/10 15:01登録) 本文より~『本書「ミステリイ・カクテル」は、江戸川乱歩の「類別トリック集成」におおむね準拠して、数多いトリックのなかから代表的なものを抜きだし、その作品例を要約してのべ、各々の概念をときあかし、かつ同種のトリックをふくむ代表作を列挙し、全篇を読みものとしてまとめてみたものである。』~ 乱歩氏の「類別トリック集成」は同氏にとっても満足のいくものではなかったらしい。私には、どうもピンとくるものがなく、使い勝手が非常に悪い。本書は、乱歩氏に準拠しているとは知らず読んでしまったので、あまり効果的な内容とは言えませんでした。また、短編の例が多いことも私にはなじめないところがありました。なお、トリックに関する先駆的な作品が数点判明したことは役に立ちました。先駆的作品を読むことも楽しみの一つなので・・・。 現在、考えていることは、「トリック別ベスト5」的なものを自分なりに作ってみたいということです。やはり6W1Hに基づき分類するのがいいのかなあ?と思っています。大分類を犯人・被害者・アリバイ(時間・場所)・犯行目的・動機・方法(密室・毒殺)+叙述等とし、そこから中分類くらいまでの項目で抑えるような感じですね。いつになるか分かりませんが、書評で”本書は「意外な犯人像」のマイベスト3となりました”などと記載できればと思っています。 |
No.761 | 9点 | トレント最後の事件 E・C・ベントリー |
(2015/06/09 10:32登録) 江戸川乱歩氏が選んだ「黄金期のベスト10」のラスト1冊として拝読。マイ評価は下記のとおりとなりました。 当サイト平均点 マイ評価 1位「赤毛のレドメイン家」 6.10 5 2位「黄色い部屋の謎」 6.48 7 3位「僧正殺人事件」 6.55 5 4位「Yの悲劇」 8.14 8 5位「トレント最後の事件」 5.00 9 6位「アクロイド殺し」 8.15 10 7位「帽子収集狂事件」 6.20 5 8位「赤い館の秘密」 5.79 6 9位「樽」 7.08 6 10位「ナイン・テイラーズ」 6.20 8 本作がこのサイトでは低評価なのに驚き!(笑)。現在風に言えば「アンチ・ミステリー」として書かれたもののようです。ベントリー氏いわく「これが探偵小説というより、むしろ探偵小説を揶揄したものであることは、あまり気づかれなかったようだ」とあります。つまり、いままでの短編小説(ドイル氏など)に登場した超人的な探偵ではなく、人間味のある探偵を描きたかったようです。恋と事件の真相で苦悩する姿など、その意味では多いに成功していると思います。歴史的評価が高いことが、充分うなずける1冊です。「最後の事件」とした皮肉も効いていますし、物語の展開(二転三転)も当時としては中々のものであると思います。最後の行「この秘宴の勘定を、あなたに払っていただくことにします」は、大のお気に入りになりそうです。 (追記)海外著名ミステリ作家26名のお気に入りの作品でレジナルド・ヒル氏(英作家)ピーター・ストラウブ氏・ジャック・バーザン氏(米作家)の3名が本作をベスト10に選出しておりホッとしています。 |
No.760 | 6点 | 樽 F・W・クロフツ |
(2015/06/08 08:26登録) 本作と「スタイルズ荘の怪事件」(クリスティ氏)が1920年の発表であり、判り易く本格ミステリー黄金期の幕開けとする説もあるみたいです。乱歩氏による黄金期ベスト10の「トレント最後の事件」(1913)からが通説か?。本作から影響を受けたとされる「黒いトランク」(1956鮎川哲也氏)のトランクの動きと同様、樽の動きが頭に入ってきませんでした(苦笑)。地道な捜査活動(アリバイ崩し)の原点的な作品であることを評価したいと思います。 有栖川有栖氏の解説には~そういえば鮎川は、「『樽』私見」というエッセイで、最初に『樽』を読んだ時は「こんな退屈で無味乾燥な推理小説はない」と辟易したのに、後日ページをめくっているうちに「本文にミスのあることを発見した」のがきっかけで、粗探しするごとく読み返すうちに、「この小説の途方もない面白さに開眼」したと書いていた。~とあります。退屈とは感じませんでしたが・・・(笑)。なお、ミスにも触れています。 |
No.759 | 6点 | 赤い館の秘密 A・A・ミルン |
(2015/06/06 20:56登録) 1921年の作品なので、トリックの古さ云々より、私的には先駆的であるかどうかの方に興味があります。トリックは、黄金期の前(1890年代~1910年代)の短篇時代の作品にあるのかもしれません。「黄色い部屋の謎」のガストン・ルルー氏、「不連続殺人事件」の坂口安吾氏に引き続く、”まさか、この作家がミステリーを?”の1冊でした。ワトソン役のビルの存在が際立っていました。 |
No.758 | 5点 | 帽子収集狂事件 ジョン・ディクスン・カー |
(2015/06/03 09:20登録) 乱歩氏のいう「『密室』以上の不可能興味が創案されている」ということは、本トリックが先駆的であったということでしょう。その点は評価したいと思います。著者らしさがないという点では、オカルト趣味に興味のない私にとっては逆に良かったですね。減点対象は、①地図があっても判りにくい物語、➁ランポールの存在意義がない、③偶然によるトリック(作為的であれば、もっと高評価なのですが、物語の結末から云えば無理ですね)。ロンドンの霧のようにモヤモヤ感が残ってしまいました。 |
No.757 | 6点 | 二重螺旋の誘拐 喜多喜久 |
(2015/06/01 08:08登録) 本来であれば、もっと高評価としても良いかなと思いますが・・・う~ん微妙(苦笑)。少し欲張ってしまったことにより、サプライズが分散し弱まってしまったようですね。二重螺旋というアイデアが良かっただけに、あるトリック(一人称の物語)一点集中の方がインパクトが強かったかも。作風がやや軽めのため、誘拐ものとしての緊迫感が希薄であったことが残念な点です。 |
No.756 | 5点 | 矢の家 A・E・W・メイスン |
(2015/05/31 11:21登録) 裏表紙より~『ジャンヌ=マリー・ハーロウ夫人がなくなって、その遺産は養女のベティに残されることになった。ところが、夫人の義弟ワベルスキーなる怪人物が登場して、恐喝に失敗するや、ベティが夫人を毒殺したのだと警察へ告発した。孤立無援の少女ベティはハーロウ家の顧問弁護士に救いを求め、いっぽう、パリ警視庁からはアノー探偵が現地に急行する。執拗な悪念をいだく犯人と、これに対する探偵の火花を散らす心理闘争は本書の圧巻で、犯罪心理小説の変型としても、サスペンスの横溢している点では類例のすくない傑作!』 本作(1924)は「グリーン家殺人事件(1928)」の先駆け的な作品であるとのことで手にしたものです。あるプロットやディテールで共通項は7~8点ありますね。そのうちの特徴的な3点が「Yの悲劇(1933)」へと引き継がれていました。もっとも3作品とも受ける印象は全く違っています。なお、ヴァン・ダイン氏は本書をベスト7に選びリスペクトしていますので、影響を受けていたことが覗えますね。内容的には、本来フーダニットであるはずですが、裏表紙の「犯人」と探偵の心理戦とあるように、どちらかといえば倒叙的な面が強い。つまり、犯人がバレバレ?(まあ2人のうちどちらかですから~苦笑)。 本作にはその後の「十戒」や「二十則」(1928)で指摘されているような項目が3点ほどありますので、現在視点で読むのは相応しくなく、黄金時代の過渡的な作品として捉えた方が良いのかも。 |
No.755 | 9点 | グリーン家殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2015/05/27 10:13登録) 国内外の作品に多大な影響を与えた古典の名作(1928)。国内では「殺人鬼1931」「黒死館殺人事件1934」「本陣殺人事件1946」「犬神家の一族1951」、海外では「Yの悲劇1933」「そして誰もいなくなった1939」などへの影響。最近では、影響とは言えないが、十角館でのヴァンの登場やガリレオの口癖「実に面白い」など(これは探偵ヴァンスの口癖)。 本作は、「東西ミステリーベスト100(1985版)」で22位にランクインしていたが、「同2012版」ではランク外となってしまっている。もはや歴史的価値さえも評価されなくなってきたのか?・・・。本作に対抗?して書かれたとされる「Yの悲劇」は相変わらず人気が高いのだが。しかし、ヴァン・ダインもエラリー・クインも英米では全く人気がないのは残念なこと。「史上最高の推理小説100冊」(英1990)、「史上最高のミステリー小説100冊}(米1995)では2人のランクイン作品はゼロです(涙)。 本作を高評価とするのは歴史的意義(館もの、連続殺人など)はもちろんですが、犯人設定の巧みさですね。序盤でかなりヒントを与え、犯人であろうと予想される人物を中盤で犯人ではないのでは?と覆す方法(現在では常套手段となっている)。前に読んでいるので、なんとなく犯人は見当がついていたのですが、それでも迷わされました(苦笑)。事件を絵になぞらえ「この絵には『狂った同族主義』という題をつける」などと表現したりし、美術への造詣が深いところを垣間見せています。この辺の薀蓄は趣味と一致していたので許せる!(笑)。 トリックについては、『予審判事便覧』(ハンス・グロス)~実際に起こった事件集~からとっている。この方法はフェアでリスペクトしたい。なお、コナン・ドイルの短編「○○橋」もこの便覧を参考にしている。 二人の評論を見つけたので参考に。「・・・最上級の作家と見られるのはアガサ・クリスチイ、次にヴァン・ダイン、次にクイーンというような順で、クリスチイは諸作概して全部フェアであり、ヴァン・ダインでは「グリーン家」が頭抜けており、クイーンでは「Yの悲劇」が彼の作なら(江戸川氏からおうかがいした)これは探偵小説史の最高峰たる名作だ。・・・」(坂口安吾氏) 「・・・『Yの悲劇』『ブラウン神父の童心』『グリーン家殺人事件』『曲った蝶番』『毒入りチョコレート事件』これらの五作品はすべて、私が中学生の時に読んだものだ。ミステリを読むのが面白くてならなかった蜜月時代のなつかしさが、選択の際にいくらか影響していることは否定しはしない。だけど、どの作品もまぎれもなく傑作である。・・・」(有栖川有栖氏) |
No.754 | 4点 | 谷崎潤一郎 犯罪小説集 谷崎潤一郎 |
(2015/05/25 09:06登録) 日本ミステリー小説史(堀啓子氏)に『谷崎は、<明治期の涙香>から<大正末期の乱歩>まで間隙を埋めた存在とされ、「探偵小説の中興の祖」とも呼ばれているのである。』とありましたので、手にしてみました。 『途上』(1920)は”プロバビリティの犯罪”(直接手を下さず、何らかの仕掛けで死ぬ確率を高め、結果的に死に至らせしめる)として、江戸川乱歩氏により評価されたようです。しかし、ミステリーとして面白いかと問われれば、つまらないと答えるしかないし、その後発展したわけでもない。本作の内容は証言のある事象以外は、探偵の根拠のない推論でしかなく、納得性に欠けますね。偶然性や蓋然性については主人公の言う通り「論理的遊戯」であるしかないと思いました。 『私』(1921)は「アクロイド」と比較されているようですが、「アクロイド」はトリックであり『私』はトリックではありませんので、先駆性云々の対象とはならないような気がします。もしトリックと捉えるならば、アンフェアでかつ瑕疵があることになりますね。「潤一郎ラビリンス」の解説者千葉俊二氏によれば、「話法という小説的な技法への関心によって書かれたとの印象が強く、後年の谷崎が『痴人の愛』『卍』などの一人称告白体の小説によって新境地を切り拓いたということを考え合わせれば、むしろその点において論じられるべき作品だろう」が的を得ていると思います。著者本人も探偵小説扱いされることを嫌っていた節もありますし、本人の趣旨と違うところで乱歩氏や後世の人に評価されてしまっているという気がします。 時代的な面からすれば、私的には芥川龍之介氏の「藪の中」(1921)の方がよっぽどミステリーらしいと思うのですが・・・。 |