home

ミステリの祭典

login
七人のおば
別邦題『怖るべき娘達』

作家 パット・マガー
出版日1950年01月
平均点6.82点
書評数11人

No.11 5点 ことは
(2020/10/18 01:13登録)
ドメスティック・サスペンスとでもいえばいいのか。登場人物たちの人間関係でじっくりよませます。
メインの趣向の「殺人者の正体」については、なるほどと思いましたが、どうも琴線にひびかない。
良く出来てるんだけど、なぜだろう? なにかが好みと違うのでしょう。

No.10 8点 人並由真
(2020/06/27 05:12登録)
(ネタバレなし)
 評者は長編ミステリを読む際にはまず100%、私製の登場人物一覧表を作りながら読み進めていく。
 大抵の翻訳作品の場合は巻頭に既成の登場人物リストがあるので、まずそれをB5~A4の白紙に転記し、そこに各キャラの作中情報を補遺、さらに元のリストにない登場人物の名前と情報も適宜に足していく。大体このスタイルで読み進める。

 しかし本作の場合は、創元文庫版の巻頭に掲示された、あまりにも面倒くさそうな<七人のおばとその関係者の続柄図>を一目見てゲンナリ。ここからいつもの私製の人物一覧表を作らなければならないのか、と気が重くなった(……)。
 それで結局はこういう場合の対応として、その関係図そのものを拡大コピーし、周囲に白身を設けたそのコピーの余白を使って、各キャラの情報を書き足していった。これでなんとかなった。

 さてそうやって一応の可能な限りの準備を済ませて、ページをめくる。
 序盤の設定部分こそ実に簡素に済まされるが、本筋の回想によるストーリーが転がり始め、特に本作の最大級のトリックスターといえる六女ドリスが物語の表に出てくると、もうストーリーに弾みがついて止まらない。
 1940年代当時のアメリカ上流家庭、その上の中クラスの下世話な内紛を覗き込むモノクロ映画に接するような独特の味わいも加味され、やや厚めの物語をほぼ一息に読んでしまった。
 ちなみに、前述した、面倒くさげな、少なくない数の主要登場人物は適度にストーリー上に配置され、それぞれのキャラクターも相応に語られている。
 際立って魅力的な人物造形というのは特にいないのだが、話の進行につれて頭のなかに各キャラの明確なイメージが次第に組み上がっていく感覚は、結構、快感だ。

 それでもってミステリとしての最後のまとめかたは確かに破格といえるが、それはこういう趣向と流れの作品である以上、穏当なところであろう。
 主人公サリーとピーターが結論を出したあとで、小説叙述の視点を変えて2章くらい費やし、黄金期クイーン風の論証・検証を行ったら、それはそれで豪快ではあろうが、一歩間違えればシラけるだけとなる。
 少なくとも評者は、この端正で余韻のある、そして人間の愚かさと切なさ(さらにはある意味での、人間らしいバイタリティ)を語る真相に納得した。うん、名作の定評に相応しい。

 思えば大昔に古書店で当時の稀覯本だった『怖るべき娘達』版も購入したのだが、結局は創元文庫版の新訳が出るまで(出てからも)読まずに今まで放っておいた(汗)。現時点ではその『怖るべき』版も家の中のどっかに行ってしまってすぐ出てこない(汗×2)が、もしアレをウン十年前に購入してすぐ読んでいたら、どうなっていただろう? 
 とはいえこの作品は、オッサンになってから読んだ方が確実に楽しめそうな内容ではあるが。

 旧訳は延原謙の仕事だから多分けっこう良かっただろうとは思うが、創元版の大村美根子の新訳もとても読みやすかった。あまり意識していなかった翻訳家だけれど、改めて、うまい、と思った。238ページのテッシーとドリスのいがみ合いの場面なんか深町眞理子ばりの躍動感で、感銘ゆえの溜息が出た。
 本作の評価には、この翻訳の良さも大きく貢献しているでしょう。 

 ところで最初に、文中での重要なはずの固有名詞を書かずに、サリーに事件を伝える手紙を送ってきた元学友のヘレン。最後まであくまで枕詞みたいな役回りだったけれど、ある意味で彼女はオールタイムのミステリ史上、最高のH.I.B.K.的なキャラだよね? もし、もうちょっと、あと一手、きちんとやっていたら、この作品はありえなかった、という意味で(笑)。

No.9 6点 レッドキング
(2018/10/05 21:55登録)
七人のおばの中から犯人を見つけるフーダニット と見せかけた〇〇〇を見つけるフーダニット すげえなこのおば達 みんな違ってみんな凄い

No.8 6点 パンやん
(2016/07/05 08:00登録)
ひねりの効いた変化球型ミステリーで、翻訳も気にならない評判にたがわぬ面白さ。キャラの描き分け、その心情、感情の揺さぶりは素晴らしく、ミステリーの部分はどうでもよくなってきて、いつしか女の恐さに戦く事になる。独身男子に読ませてはいけない、『怖るべき娘達』。

No.7 8点 tider-tiger
(2015/09/21 12:10登録)
少なくとも私はこういう形式のミステリは他に読んだことがありません。真似する人が少ない理由は事件そのものを書くことができないため、ミステリとしては興醒めになってしまう可能性が高く、そのうえ(書き手から見て)難易度が高いからだと思われます。
ピーターはサリーの長い回想から「殺人を犯したと考えられるおばさんは一人しかいない」と結論します。ですが、あの回想から他のおばさんが殺人を犯していないと断言するのは無理がある。そして、あのおばが殺人を犯したんじゃないかと推定はできても、断定できないと思うのです。なんかミステリとしてはスッキリしない。でも、あのおばが夫を殺したということで腑には落ちる。この作品の場合はこれで充分だと思います。
探偵役のピーターと読者はサリーからの情報を共有しています。普通のミステリはフェアな手段で読者と探偵が情報を共有しないよう工夫を凝らし得るのですが、この形式ではそれをやるのは完全にアンフェア。
なので、犯人はこいつだと断定できるように書くと、読者に犯人がバレバレになってしまいます。
斬新で難易度が高いこの形式を成立させただけでも評価されていい作品では?

この話では語り手は信頼できるし公平でなくてはいけません。サリーは基本的にはどのおばに対してもニュートラルな態度であり、自分の意見を差し挟まず、好悪もほとんど出しません。これを守らないとグチャグチャになりますから。もちろん、どのおばも同じくらいの比重で扱います。サリーにはどの話が幹でどの話が枝かもわかっていないわけだし、そもそも枝を払ったら幹が丸見え。幹の割に枝が多過ぎるのは作品の形式上仕方のないことだと思います。
この枝を読ませるものに仕立て上げないと作品の評価も当然下がるわけで、作者は余計な苦労を背負いこみつつ頑張りました。

他の方も指摘されているようにキャラの書き分けが素晴らしい。七人のおばが七様の問題と個性を抱えている。彼女たちにそれぞれ物語を与えて、なおかつ散漫さを最小限に抑え、いや、もう作者は頑張りました。私は評価します。


No.6 6点 蟷螂の斧
(2015/07/07 22:05登録)
「おばが夫を毒殺し自殺した」との手紙を受け取り、サリーは自分には殺人者の血が流れているのでは?と疑心暗鬼になる。サリーには母方のおば1名(母の姉=直系)と母の義姉妹となるおば6名がいる。義姉妹方の母の血であれば流れていないことになる。おばの名前は、翌日に新聞で確認することは可能なので、その疑心暗鬼が本物語の取っ掛かりとなっている。疑心暗鬼になる必要性はあまりないのでは?とつまらないことが頭にこびりついてしまった(苦笑)。全体的にはメロドラマであり、ミステリーとしてはワンポイントのみの評価となってしまう。

No.5 6点 E-BANKER
(2011/10/05 22:33登録)
「被害者を捜せ!」に続く長編2作目。
本作でも独特のアイデアが光る作品でしょう。
~結婚して英国に渡ったサリーは、NYの友人からの手紙でおばが夫を毒殺し、自殺したことを知った。だが、彼女には七人ものおばがいるのに、手紙には肝心の名前が記されてなかったのだ。一体どのおばが? 気懸かりで眠れないサリーに夫のピーターは、おばたちについて語ってくれれば犯人と被害者の見当をつけようと請け負う。サリーはおばたちと暮らした7年間を回想するのだが・・・~

プロット&アイデアには感心させられる。
こういうパターンもありですよねぇ。
ただそんなことより、何よりもスゴイのは、「七人のおば」たちの強烈なキャラクター!
こんな女たち、絶対嫌だ! 女性の嫌な部分をすべて持っているといっても過言ではないおばが七人も・・・
とにかく、個性たっぷりに七人を書き分けた作者の筆力は賞賛に値する。

ただ、ミステリーとしてはそれほど評価できないような気がしました。
フーダニットについても、サプライズ感は小さいですし、「あの人物」についての不自然さは普通気付くだろう!
(ミスリードかとも思いましたが、それがすんなり真相だったとは・・・)
回想部分も正直長すぎるし、謎解きに関係のある箇所の割合が小さすぎるのは否めない。
ということで、面白さは感じながらも、評価としてはこんなもんかなぁ。

No.4 7点 kanamori
(2010/09/29 18:03登録)
「被害者を捜せ!」と同趣向で”被害者当て”ミステリに再度挑んだ傑作です(犯人も不明ですが「夫殺し」と明記されているので、被害者が分かれば犯人も分かる)。
不完全な情報から過去の思い出を回想して、誰が殺されたかを模索する構成は前作と同じですが、本書の読みどころは、おば達の人物造形の絶妙な書き別けでしょう。被害者当ての興味と併せて過去のエピソード自体が楽しめる。
冒頭の友人からの手紙のあるミスリードが意外な真相に寄与している点も巧いと思いました。

No.3 8点 nukkam
(2009/06/05 14:59登録)
(ネタバレなしです) 1947年発表のマガーの第2作で、「被害者を探せ!」(1946年)と共にマガーの代表作とされる被害者当て本格派推理小説です(犯人当てでもあります)。この2作は雰囲気が大きく異なっていて、「被害者を探せ!」はクリスティーに通じるような洗練された語り口とゲーム感覚あふれる推理合戦の楽しさが、本書はどげとげしい人間関係が醸しだす重苦しさが特徴です。日本人読者の間ではどちらかといえば本書の方が評価が高いというのはエラリー・クイーンの「Xの悲劇」(1932年)と「Yの悲劇」(1932年)で、暗い作風の後者の方が人気が高いのと似ていますね。いやー、しかしこのどろどろした人間関係といったら!どの夫婦もみんな一発触発、誰が人殺しになっても全然おかしくない。女性作家だからここまで恐い書き方ができるのかな(あっ差別的コメントかも)。私は何度でも再読できる「被害者を探せ!」(1946年)の方が好きなんですが...。

No.2 7点 ElderMizuho
(2008/05/26 19:00登録)
終盤近くまでこんな回想でどうやって犯人を探り当てるんだ?むしろ話が混乱してるだけでは・・と思わせながら
ロジックがしっかりしており最後に犯人と被害者を探り当てる過程には思わず唸らされました。
が、問題点を挙げるとすれば囮が多すぎることでしょうか
七人もいるのに結局のところ本線絡みは2、3人ですから
一つ一つの話自体にはそれほど魅力を感じなかったので・・
本線が非常に良かっただけにそこが本当に残念

No.1 8点 こう
(2008/05/06 22:48登録)
 被害者を探せを発展させた被害者と犯人を探す傑作。第二次大戦直後の作品ですが読みやすくマガー最高傑作だと思います。アイデアの勝利でしょう。

11レコード表示中です 書評