カラマーゾフの妹 |
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作家 | 高野史緒 |
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出版日 | 2012年08月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | mozart | |
(2023/09/11 11:35登録) 残念なことに「前任者」の作品を読んでいないため(作中にあらすじはしっかり書いてあり、別途ネット等でこの大作の概要については予習してあったのですが)ここで明らかにされた「真相」に対する驚きとかカタルシスをあまり感じられませんでした。 やはりミステリー愛好者といえども読書家の常識として「世界の十大小説」には眼を通しておくべきなのかも。 |
No.2 | 8点 | tider-tiger | |
(2015/11/15 14:06登録) 十三年前にカラマーゾフ一家で起きた父親殺し。被害者の次男であるイワン・カラマーゾフが特別捜査官となって故郷(殺人の現場)に帰って来た。事件の真相を解き明かすために。 未完に終わってしまった『カラマーゾフの兄弟』の続編? です。原典では犯人が明示されていなくて、また、他にも未消化な部分が散見されるため、それらを統合し、筋の通った解決編を提示する試みです。 出版当時から読んでみたい、でも読みたくないと思っていた作品でした。 ようやく入手、ほぼ一気読み。 ※以後、原典は兄弟 本作は妹と表記します。 兄弟はプロットの骨格はミステリであるにも拘わらず、ミステリ以外の部分があまりにも強烈なのでミステリとして読む人はあまりいない。構成が下手糞で好き勝手に話を膨らませていくものだから長大、しかし、無駄ではない。滅茶苦茶面白い。そんな作品の続編を原稿用紙五百枚かそこらで書かなければならないわけですから、さぞや大変だったことでしょう。 妹は兄弟の美味しい部分がずいぶん削ぎ落されておりますが、変な色気を出さずにミステリとしてまとめたのは潔い(さすがに近代文学の金字塔とまで言われる大審問官の章には触れざるを得なかったようですが)。 ミステリとしての『カラマーゾフの兄弟』に一つの解決を与えることには成功していると思います。 兄弟に思い入れがある人ほど楽しめるともいえるし、この作品を嫌悪するともいえる。否定的な見解があることは作者も覚悟していたはず。私も不満な点はたくさんありました。でも、良い点だってたくさんあるのです。 文章 達者だと思います。ただ、説明と描写のバランスが悪く、重苦しいと感じる方もいるかも。自分は兄弟(江川訳 原訳)と比較してしまったので軽く感じましたが。 プロット 発想と度胸はいい。カラマーゾフの続編なんて、思いついてもそうそう書けるもんじゃない。兄弟から不審な点を抽出して地道に捜査していくのはなかなかいい。ただ、説明が多く、展開がまどろっこしい部分あり。兄弟既読の方は少々うるさく感じたのでは。 構成 兄弟は滅茶苦茶。妹はきちんと整理されている。 人物造型 登場人物たちの魅力が兄弟よりも薄れているのは否めませんが、登場人物を恣意的に改変はしていないと考えます。改変を思わせる個所もそれなりの根拠はあると思われます。細かな部分では、あ、イワンだ! アリョーシャっぽい反応だなあ、などと頷ける部分がけっこうありました。 ただ、全体的に説明過多。人物はやはり説明ではなく描写すべきだとは思いました。 以下ネタバレあります。 妙に浮いているSFというかなんというかな展開についてはムジカ マキーナ(著者のデビュー作)で免疫がついていたので、「またやりやがったな(笑)」という感じでした。 上で触れた登場人物の改変についてですが、近年ではありふれたサイコ系のネタがいくつか使われている。これにウンザリさせられる方もおりましょうが、実は兄弟の中にこれを示唆する部分があるのです。 この真犯人を私は兄弟を読んでいた時点ですでに病的だと感じていました。 イワンはもっとわかりやすく病的でした。 妹の作者は人物像を改変したのではなく、兄弟から仄かに匂うそれを汲み取ったに過ぎないと考えます。 兄弟を読んでいる人は真犯人に驚き、信じたくないと感じることでしょう。だが、読んでいない人は別に意外だとも思わないのではないかと。むしろもっとも怪しい奴が犯人でしたと。 真犯人が明らかになるシーン、拍子抜けする人もいたことと思いますが、自分はエピローグも含めて凄いラストだと思いました。特に真犯人が自分の犯行を認めた時の言葉。 「だって誰も…… 痺れました。この真犯人はこういうことを言ってもおかしくない。また、この言葉は兄弟の読者に対して投げかけられているとも取れます。いやあ、いい。 いろいろな面で原典のファンからすると許せない作品なのかもしれない。ですが、自分は評価します。 |
No.1 | 8点 | 蟷螂の斧 | |
(2015/06/23 13:32登録) 第58回江戸川乱歩賞受賞作。ドストエフスキー氏は「カラマーゾフの兄弟」の第2部(13年後の物語)を書くことなく、亡くなりました。その続編である第2部をミステリーとして著者が描いたものです。この大胆さに拍手(満点)を送りたいですね。原作(第1部)では、明確な犯人は描かれておらず、当然第2部で明かされるのでは?と予想されていたわけです。しかし、残されている資料は少なく、続編では兄弟の○男がテロリストになるという筋書きのみがあったようです。本作は、原作の伏線(現場情況、供述、アリバイ、言動など)を紐とき、真犯人を浮かびあがらせるというものです。その点は成功していると思います。原作のあらすじ(これが実に面白い)が挿入されていますので、読んでいなくても「本作」のみで十分楽しめます。乱歩賞選者の東野圭吾氏も「原典は読んでいない。」とのことでした。 |