| HORNETさんの登録情報 | |
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| 平均点:6.32点 | 書評数:1187件 |
| No.1167 | 8点 | 9人はなぜ殺される ピーター・スワンソン |
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(2025/08/30 23:10登録) アメリカ各地の、何のつながりもない9人に、自分を含む9つの名前だけが記されたリストが郵送された。不気味に感じて気にする者もいれば、意味が分からず捨ててしまう者も。だがその後、リストにあったホテル経営者の老人が溺死。翌日、ランニング中の男性が射殺された。自身もリストを受け取ったFBI捜査官のジェシカは、捜査を始める。いったい、9人には何かつながりがあるのか?犯人の目的は? クローズドサークルの状況ではないものの、つながりの分からない、挙げられたメンバーが一人一人殺されていく様は「そして誰もいなくなった」さながら。それは作品でもそのことが扱われ、要所要所で「テン・リトル・インディアンズ」がアイテムとして登場する。 特に奇抜な仕掛けがある作品ではないが、「この9人はなんなのだ?どんなミッシング・リンクが隠されているのか?」とワクワクしながら読み進めてしまうリーダビリティがある。近年サスペンスの一角を担う作家として存在を確かにしてきている作者だが、期待を裏切ることのないクオリティ。 |
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| No.1166 | 6点 | ヒポクラテスの困惑 中山七里 |
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(2025/08/30 22:44登録) 2020年4月。新型コロナウイルスが猛威を振るう中、一人の女性が埼玉県警の古手川を訪ねる。彼女は、オンライン通販の創設者で現代の富豪、そして前日にコロナ感染症で急逝した萱場啓一郎の姪だという。大金を払って秘密裡に未承認ワクチンを接種していた啓一郎がコロナで死ぬはずはない、本当の死因を調べてほしいと頼まれた古手川は、浦和医大法医学教室に解剖を依頼。光崎教授が見出したのは、偽ワクチンによる毒殺の可能性だった――。(「BOOK」データベースより) 研修医・真琴、准教授・キャシー、埼玉県警捜査一課刑事・古手川による軽妙で辛辣なやりとりの面白さは相変わらず。安定して楽しめる。 コロナ禍が一定の落ち着きをみた今読んだため、ちょっと前の世情を思い返すような感覚だった。「偽ワクチン」をばらまいている犯人を追うという点ではミステリだが、どちらかというと作者お得意の、下衆な大衆性を描くという色のほうが強かった。 |
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| No.1165 | 6点 | ババヤガの夜 王谷晶 |
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(2025/08/30 22:05登録) 新大久保のアパートで暮らす新道依子は、バイト帰りに暴力団員ともめ、こてんぱんに叩きのめした。が、結局相手に拉致され暴力団会長の一人娘・尚子の護衛を無理やりに引き受けさせられる。尚子は大学に通う毎日を過ごしているが、いずれは他の暴力団組長に嫁ぐことになっているという。粗野で暴力的な依子を蔑む尚子だったが、次第に心を開くようになり…… 活劇的でバイオレンスな場面が多く描かれ、非常にテンポがよく、文庫で200ページほど、2時間ほどで読めてしまう。振り切った主人公・依子のキャラクターが小気味よく、はじめは鼻についた尚子のイメージも次第に変化し、特殊な環境で結ばれた女子2人の関係が面白く描かれている。 ミステリらしい仕掛けもまずまず面白いが、途中から気づいたかな。 面白くはあるが、ダガー賞といえば「ストーンサークルの殺人」など、厚みのある本格ミステリの名作に与えられる格のある賞なので、違和感はあったが、最優秀長編賞ではなく、翻訳部門での受賞らしい。 |
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| No.1164 | 6点 | 魔女の館の殺人 三日市零 |
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(2025/08/30 21:34登録) 大学2年生の柏木詩文と進藤理人は、ルームメイトであり親友、そして揃って「脱出ゲーム」マニア。冴えた頭脳で謎を解く詩文と、一度見たことは覚えている「映像記憶」の特技を持つ理人のコンビで、様々なイベントに参加して力を発揮していた。ある時2人は、脱出ゲーム専用施設のプレオープンイベントに抽選で当たり、参加することに。当選者だけが集う特別イベント「魔女の館の殺人」は、順次提示される謎を解いていって48時間以内に館の脱出コードを突き止めるというゲームだった。 脱出ゲームという舞台設定は現代らしさを感じさせるものの、あるメンバーが館に集って、そこで連続殺人が起きるという構成は手垢のついた王道パターン。まぁ、それが好きなんだけど(笑) 登場人物の行動の齟齬を細かく突き詰めたり、意味ありげなフリをちりばめたりと、いろいろ策が講じてあるが、押しなべて平均作といった感じ。理詰めで推理を進める詩文と、映像記憶という特殊な能力を持つ理人2人の大学生コンビというキャラ設定は面白かったが、出色の目新しさはない。 ベタベタの本格ミステリを読む、という楽しさは十分に味わえた。 |
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| No.1163 | 7点 | 逃亡者は北へ向かう 柚月裕子 |
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(2025/07/06 19:04登録) 時は2011年3月、東日本大震災が起きた福島県。母を亡くし、天涯孤独の身で工場に勤務していた折に、不運から警察に拘留され、震災の混乱の中誤って人を殺めてしまった真柴亮。震災で幼い娘が行方不明となるが、事件捜査のために娘を捜すこともままならず、親族に責められ続ける さつき東署刑事第一課の警部補・陣内康介。震災で妻と親を亡くしつつ、幼い一人息子だけが見つからず、生存を信じて探し続ける漁師・村木圭祐。三者それぞれの切実な生き様が、震災後の混乱の中切り結ばれ、それぞれに昇華していく― あまりに理不尽を強いられた真柴亮の人生に、同情と憤りを禁じ得ない。が、不可抗力ながらも殺人を犯してしまったという事実に、警察として立ち向かう刑事・陣内の怒りと苦悩にも、最愛の我が子の命を思う村木の心にも共感する。 天災という、誰も抗えないという意味ではこれもまた「理不尽」な不幸を突然負わされ、心が乱れたまま毎日を乗り越えていくしかない、人生の切実さを著者らしい筆致で描いた作品。 読み応えがあった。 |
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| No.1162 | 7点 | 嘘か真言か 五十嵐律人 |
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(2025/07/06 18:36登録) 裁判官に任官して3年目の日向由衣は、念願がかなって志波地方裁判所の刑事部に配属されるも、先輩となる紀伊真言(まこと)の裁判を傍聴するばかりで、一向に裁判官席に座らせてもらえない。紀伊には、無感情に有罪判決を宣告する、との悪評とともに「被告人の嘘が見抜ける」との噂があった。そんな由衣に、部長から「紀伊真言が嘘を見抜けるか見抜け」との課題が出される。不満と焦りを感じながらも、紀伊の裁判に立ち会う中で、由衣は様々なことを考え、学んでいく。 現役弁護士の作者らしい、法廷を舞台にしたリーガルミステリー。闇バイトや無戸籍など、現代に即したリアルな題材において、確かな法的知識が分かりやすく描かれているのも興味深く面白い。 ラストはちょっと面映ゆくなるようなクサい大団円ぶりだけど、心地よい物語の終着である。 面白かった。 |
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| No.1161 | 6点 | 隣人を疑うなかれ 織守きょうや |
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(2025/07/06 18:04登録) 神奈川県山北町で起きた女子高生殺人事件。千葉県のアパートに住む漫画家・土屋萌亜は、その女子高生を事件直前に見かけたことに気付き、事件ライター・小崎涼太にそのことを話す。すると、しばらくして萌亜は失踪。小崎は、萌亜の向かいのマンション住む姉・今立晶にそのことを相談し、状況から、マンションの住人に犯人がいるのでは…?と疑い、調べ始める。死体はない、証拠もない、だけど不安が拭えない。マンションに"殺人犯”はいるのか、いるとしたら"誰"なのか― いかにも怪しげな登場人物の様相を振りまき、さまざまな想像(推理)を掻き立てさせる展開。よってリーダビリティは高く、どんどんと読み進められる。 こういう展開なら、たぶんコイツだな…と思って読んでいたが、さらにその上をいく仕掛けだった。ただご都合主義が過ぎる、と感じる読者もいるかもしれない。 それは否めないところはあるが、予想通りよりはよかった。 |
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| No.1160 | 7点 | 逃亡犯とゆびきり 櫛木理宇 |
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(2025/07/06 17:29登録) フリーライターの世良未散は、エロやお笑い記事で糊口をしのぎながらも、いずれは硬質な社会派ルポを書くことをめざしていた。そんな未散のもとに「女子中学生墜落死事件」の執筆依頼が。「あたしは117人に殺された」という遺書を残して転落死した15歳の少女。深まる謎に翻弄されていた未散に、高校時代の親友から連絡が入る。それは、4人の男女を殺害した容疑で指名手配中の古沢福子からのものだった……。 事件の真相を追うルポライターに、指名手配で逃走中の親友から連絡が入り、そのアドバイスが真相解明を導く、という連作短編集。一話一話の謎解きもしっかりと面白く、そのうえで「指名手配犯と連絡を取っている」という、ルポライターとして垂涎のネタを抱えていることに心が揺れる主人公の物語も面白かった。 |
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| No.1159 | 7点 | 死蝋の匣 櫛木理宇 |
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(2025/05/31 11:35登録) 女性の一人暮らしの部屋の屋根裏に潜んで生活する人物が描かれることから、物語が始まる。そこから一転して本編は、元家裁調査官・白石と、その妹の恋人・県警捜査一課 和井田刑事による殺人事件捜査の話に。その後も要所要所で挿入される「屋根裏の住人」の話を頭の隅に置きながら、最終的に本編とどう結びついていくのか、想像を巡らせながら読んでいく。 芸能事務所の男女殺害事件と、女子中学生5人殺傷事件の容疑者が同一らしいことが分かり、その容疑者が絞られてくるが、それをそのまま受け入れるほどこちら(読者)は単純ではない。案の定― なかなかの目くらましで、最終的には面白かった。が、ミステリを多く読んでいれば予想の範疇ではあったか。とはいえ、魅力は謎解きオンリーではない一作ではあるので、自分としては満足した。 |
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| No.1158 | 7点 | 影と踊る日 神護かずみ |
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(2025/05/31 11:14登録) 新潟県警生活安全部の女性巡査部長・鈴山澪は、テレビ番組の特殊詐欺被害コーナーに出演するなど、県警の広告塔として活躍していた。そんなある日、以前認知症の高齢女性を助けたことで表彰を受けた、澪も懇意にしていた青年が行方不明に。心配な澪が独自で捜査をしていくと、隠されていた青年の過去が次第に見えてきて― 行方不明となった沢田一平を追うストーリー、テレビで共演していた高齢女性とのストーリー、裏で不審な動きを見せマル暴刑事・桑島のストーリー、澪の親友・舞とのストーリーと、話がかなり枝分かれして進んでいくので、今何を追っているのか、混乱してしまうこともあった。 後半から各ピースが次第に一つの形を成していくので、全貌が見えてくると理解も整理されたし、ある意味予測もついた。広範囲な仕掛けもきれいに収束されるさまはなかなかで、読後の満足度は高かった。 |
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| No.1157 | 8点 | 私があなたを殺すとき S・J・ショート |
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(2025/05/31 10:46登録) 20代で夫を亡くした妻たちの集まり“ヤング・ウィドウズ・クラブ”。暮らしぶりも性格も違う3人は毎週必ず会い、多くを乗り越えてきた。それでも言えない秘密はある。アドリアナは婚約し、カイリーは酒が原因で失業、イザベルは顔の傷の報復を誓っている。そして誰もが夫の死の真相をひた隠していた。やがて年若いハンナが仲間になった頃、不審な出来事が起き始め…。過去と秘密が交錯するとき誰かが殺されるー(「BOOK」データベースより) 物語は“ヤング・ウィドウズ・クラブ”の3人に年の若い新メンバー、ハンナが加わって、それぞれの視点から語られていく。アドリアナの婚約に関わる話を核としながらも、各メンバーの過去が少しずつ見えていく中で、それぞれのストーリーが近づいていく感じがする。そして終末で見事に全貌が明らかにされる仕組みになっている。 ミステリの要素のみならず、男に傷付けられ、翻弄される女性たちの絆を描いた一作として読み応えがある。女性同士の微妙な距離感や確執があるように見えながらも、その本当の関係が示されるラストは心地よいものだった。 満足のいく一冊だった。 |
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| No.1156 | 7点 | 復讐の準備が整いました 桜井美奈 |
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(2025/05/17 18:27登録) 高校の漫画研究会のたった一人の部員兼部長の小野川葵。そこに新入生の由利が入部してくる。やっとできた後輩に喜ぶ葵だったが、由利が過去に漫画賞に入選していたのを隠していることを知る。その事実に嫉妬と羨望を抱いてしまう葵。そんな二人の関係は、歌舞伎町のビルから女子高生が転落した事故を境に大きく歪み始めて…。 <ネタバレ> タイトルから、後半あたりから復讐に向かうストーリーが展開されていく、クライム風の作品かと想像していたが、一向にその気配がなく、予想していた作風と違った。 前半にあった”リリ”の話と共にラストに一気に回収されるということは理解し、どんな着地点なのか予想を立てながら読むのはそれなりに面白かった。ミステリの経験値から、読者を相手に仕掛けるトリックとその内容はだんだんと想像がついてくるものの、物語としての結末がどうなるかは分からない部分があり、そういう意味では最後まで楽しめた。 ラストも心地よい着地で、全体的に楽しめた。 |
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| No.1155 | 6点 | 絵馬と脅迫状 久坂部羊 |
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(2025/05/17 17:52登録) ●「爪の伸びた遺体」…学生時代に自殺した親友と瓜二つの男が、新人医師として自分のもとで働き始めた。以後、不可解な事件が頻発する。彼は誰なのか? ●「闇の論文」…大学病院の助教授・山際が指導する研究員が、がんに関する画期的な研究結果を出した。しかし、論文提出は認められないという。なぜなのか? ●「悪いのはわたしか」…メディアにも露出し、著書もベストセラーという女性精神科医のもとに「二度と人前に出られなくしてやる」と届いた脅迫状。いったい誰が? ●「絵馬」…科学のみを信じ、信仰を馬鹿にしていた内科医が、病院の近所にある神社の絵馬を誤って割ってしまった。すると、わが身に次々悲劇が降りかかる。 ●「貢献の病」…野尻は、ベテラン作家・今城榮太郎の秘書。今城の作家としての評価に陰りが見えてきたことを知った野尻を悩ませる新たな問題が… ●「リアル若返りの泉」…ある時から突如として薄くなっていた髪が増え始め、若返った元教員・泉宗一の数奇な体験 主に医療を舞台とした短編集だが、「貢献の病」や「リアル若返りの泉」など、その範疇にないものもある。それぞれに小ぶりな出来ではあるが、まぁ面白い。「闇の論文」は、ミステリというより社会小説的。 人間の欲や迷いを上手く滑稽に描いているという点で、「絵馬」と「リアル若返りの泉」」がよかった。 |
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| No.1154 | 6点 | ゆうずどの結末 滝川さり |
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(2025/05/17 17:23登録) 大学生の菊池斗真はサークルの同級生の投身自殺を目撃する。その死から数日後、菊池は同じサークルに所属する先輩の日下部から、表紙にいくつかの赤黒い染みがある本を手渡される。それは、自殺した同級生が死の瞬間に持っていた小説らしい。「ゆうずど」というタイトルの小説は角川ホラー文庫から刊行されているごく普通のホラー小説だったが、今度はそれをよんだ先輩の日下部が翌週に自殺をしてしまう。気味が悪くなった菊池は、小説「ゆうずど」を何度も捨てるが、なぜかいつも手元に戻って来る。そして挟まれているしおりが、日を追うごとに勝手に進んでいくのだ――。 「呪いの〇〇」的な、ホラーの典型ともいえる枠組みの物語。日を追うごとに「しおり」が勝手に進んでいくという死への時限設定もパターンではある。が、やはり臨場的で面白い。さらに呪いを回避するために主人公・菊池が打った一手というのが、ホラーらしいラストを飾っておりなかなかのもの。 良い意味で、標準的なホラーの一作。 |
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| No.1153 | 7点 | 魔者 小林由香 |
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(2025/04/15 23:11登録) 週刊誌の記者である今井柊志は少年時代、兄が高校生をリンチして殺人を犯した。そんな柊志を守ってくれていた姉・小代子は、事件の翌月にトラックにひかれて死んだ。以来、加害者家族であることを隠して過ごしていた柊志だったが、ある日、雨宮世夜という作家が書いた小説を読み衝撃を受ける。そこには、柊志と亡き姉・小代子だけが知っている、事件のことが描かれていたのだ―同じ頃、柊志の職場に「今井柊志は人殺しの弟」という脅迫めいた電話がかかってくるようになる。いったい誰が、何の目的で過去を暴こうとしているのか― 犯罪被害者、加害者を題材に、その苦悩や内実を描くのはこの作者の十八番。今回もまた、加害者家族を主役に据えながら、過去の事件の真相を探るストーリーとなっている。柊志の兄が殺したのは、姉・小代子の親友、梨七の弟。無二の親友に弟を殺された梨七の苦悩、悲しい断絶。小代子の死が本当に事故だったのか、という謎も加わり、読み応えのあるストーリーになっている。 運命の交差ができすぎている感はあるものの、それゆえに面白い物語となっているので、それを純粋に楽しんだ。 |
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| No.1152 | 6点 | 難問の多い料理店 結城真一郎 |
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(2025/04/15 22:22登録) "ビーバーイーツ"の配達員が注文を受けて向かったレストランには、超イケメンのオーナーシェフが。シェフは、商品の配達だけでなく「お願いがあるんだけど…」と怪しげな依頼を提案してくる。どうやらこのレストランは、メニューの注文を符丁にして調査依頼を請け負う影の探偵社らしい。―「空き室に届き続ける置き配」「謎の言葉を残して火災現場に飛び込んだ女」「指のない轢死体」…不可思議状況を鮮やかに解決する、"シェフ探偵"の連作短編集。 各短編で提示される謎がどれも魅力的で、一話一話のリーダビリティが高い。人死にの事件もありながら、そのリドルストーリーは日常の謎風。ただ断片的な情報から真相を看破する展開はかなり飛躍があり、読者は当て推量はできるものの推理は無理かな。 奇抜なメニューを注文することで暗号的に探偵と依頼者がつながるという設定だが、それは物語の色付けになっているだけで謎解きに影響はない。そう考えると、このような物語設定に必ずしもする必要はなかったような… |
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| No.1151 | 7点 | われら闇より天を見る クリス・ウィタカー |
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(2025/04/09 23:35登録) カリフォルニア州の海沿いの町に住む少女・ダッチェスは、幼い弟と母とで暮らす母子家庭の子。母親は30年前に、同級生の手により妹が命を落としたという暗い過去をもつ。生活も言動な不安定な母親を、自称「無法者」のダッチェスは支え、懸命に生きていたが、ある日、そんな母親の命もまた奪われ―。苛烈な運命に翻弄される少女と、彼女を取り巻く大人たちの悩める人生を描いた一作。 ミステリとしての主題の謎は、ダッチェスの母・スターの死の真相だが、物語は謎解き一辺倒ではなく、むしろケープ・ヘイヴンに住む人たちの人生模様から、生きるとは、家族とは何かを描くことにも重きが置かれている。そうした物語としても、十分に面白い。 とはいえ事件の真相に迫るミステリとしてのストーリーもしっかりしており、ラストに明かされる真相にはそれなりに驚かされた。 厚みのある一作だが、読むに飽きない。 楽しめた。 |
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| No.1150 | 7点 | 魂婚心中 芦沢央 |
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(2025/04/09 22:53登録) もしも死後結婚のマッチングアプリがあったら? ベストセラー作家が贈るSFミステリ傑作集 死後結婚用マッチングアプリ「KonKon」が普及した社会で、推しのアイドルの秘密のKonKonアカウントを見つけてしまい感情爆発した社会人女性がとんでもない凶行へと驀進してしまう表題作のほか、この現実とちょっとだけ異なる世界の謎と関係性の物語、全六篇!(出版社より) 死後結婚「魂婚」のマッチングを斡旋するアプリが存在する世の中―「魂婚心中」。犯した罪業の履歴が管理され、死後の行き先が決められる世の中―「閻魔帳 SEO」。誰かに殺意を抱かれたらそれを察知し、逆に相手を死に至らしめる能力をもつ者―「九月某日の誓い」 など、SF設定のミステリ短編を集めた作品集。 著者には珍しいSFモノながら、工夫を凝らした一編一編にはやはり作者の力量を感じた。素直に面白い。 読み易いし、よかった。 |
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| No.1149 | 5点 | 悪魔の家 横溝正史 |
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(2025/04/09 22:38登録) 由利麟太郎シリーズ、と登録したが、実際はシリーズ内に登場する新聞記者・三津木俊助を主役とした話が多い、いわばスピンオフのような短編集。 「広告面の女」…謎の新聞広告から始まる冒頭は魅力十分。が、本筋は子爵家を題材にしたまぁスタンダードな横溝作品。 「悪魔の家」…表題作。良くも悪くも平均作。 「一週間」…非常に短い一編だが、新聞記者の矜持を描く側面もあり、面白かった。 「薔薇王」…よくできた短編。ラストは戦時中の哀惜も相まってなかなか。 「黒衣の人」「嵐の道化師」…由利先生登場作品。全体を覆う謎めいた雰囲気は氏の作品らしさが顕著。まぁ平均作。 「湖畔」…タイトルがいかにもな感じ。不可解な老紳士の言動の真相は想像通り。でも楽しめた。 「横溝正史」の作品群から探して書評しようと思ったが、なかったので登録したが…ホントかな?二重登録してたらごめんなさい。 |
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| No.1148 | 6点 | 災厄 永嶋恵美 |
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(2025/03/22 23:39登録) 冒頭から、感覚が壊れてしまっている高校生の妊婦惨殺シーン。衝撃的な始まりから、物語は少年の弁護を妊婦の夫が務めるという展開に。残酷な罪を犯した少年の弁護をする弁護士には、筋違いの誹謗中傷がいくが、その妻が妊婦とあってはなおさら。話の主軸はどちらかというとその妻を取り巻く状況のほうに移っていく。 この話が書かれたのは15年以上前だが、今でもそんな社会の風潮は変わらないどころか、インターネットの発達により増しているよう。だから今読んでもリアル感は損なわれず、十分に面白かった。 |
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