HORNETさんの登録情報 | |
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平均点:6.32点 | 書評数:1148件 |
No.1128 | 6点 | 禁忌の子 山口未桜 |
(2024/12/29 19:52登録) 救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。第34回鮎川哲也賞受賞作。 <ネタバレ注意> 搬送され、死亡した男性が自分と瓜二つだった、という不可解で衝撃的な冒頭は非常に魅力的。その後、不妊治療専門クリニックにたどり着き、「すべてを話す」と約束した院長がその約束の日に死んでいた…と、読ませる展開が続くのだが、一方で主人公・武田と「キュウキュウ十二」の関係はそこでうっすら見えてきてはしまう。その後は、その「答え合わせ」を進めていくようなところもあって、謎がどんどん深まっていくという展開とは違った。 ただ最後にとんでもないどんでん返しがあり…さすがに予想外ではあったし、唸るものがあった。 |
No.1127 | 8点 | イッツ・ダ・ボム 井上先斗 |
(2024/12/29 19:39登録) 「日本のバンクシー」と耳目を集めるグラフィティライター界の新鋭・ブラックロータス。公共物を破壊しないスマートな手法で鮮やかにメッセージを伝えるこの人物の正体、そして真の思惑とは。(第1部 オン・ザ・ストリート) 20年近くストリートに立っているグラフィティライター・TEEL(テエル)。ある晩、HEDと名乗る、イカしたステッカーを街中にボムってい青年と出会う。二人は意気投合し、ともに夜の街に出るようになるがある日、HEDはTEELに〝宣戦布告〟を突き付ける―。(第2部 イッツ・ダ・ボム) グラフィティライター界という、これまでにない舞台を題材とした物語が単純に興味深く非常に面白かった。特に、第1部を踏まえた第2部がグッと引き寄せる感じで、登場するグラフィティライターの美学も含めたミステリは読ませるものがあった。200ページほどの一冊で、まさに一気読みできてしまう。面白かった。 |
No.1126 | 8点 | 身代りの女 シャロン・ボルトン |
(2024/12/29 19:28登録) 卒業を間近にしたパブリック・スクールの優等生6人。悪ノリした「肝試し」で泥酔して道路を逆走、母娘3人の命を奪う大事故を起こしてしまう。パニックになる仲間たちに、「私が罪をかぶる」と申し出たメーガン。20年後、刑期を務めた彼女が、国会議員、辣腕弁護士と、いまや成功した人生を享受している5人の前に姿を現す。メーガンは、彼らに何を求めているのか―自己保身に戦々恐々とする5人と、真意の読めないメーガンの言動とが交錯していく先には……一気読み必至のサスペンス 将来を嘱望される優等生たちの裏の顔、悪ノリで始まった罪が、その後の人生を苛む。出所してきたメーガンの真意が読めない中、次々と仲間が不幸に遭っていく…これぞ、サスペンス。物語の枠組みも、展開も非常に私好みで引き込まれた。 「今面白いサスペンスは?」と誰かに言われたら、真っ先に薦めたい一冊かも。 |
No.1125 | 5点 | バーニング・ダンサー 阿津川辰海 |
(2024/12/29 19:10登録) 2年前のある日、隕石が落下し、この世に百人の異能力者──「コトダマ遣い」が誕生した。彼らは「燃やす」「放つ」「伝える」「硬くなる」など、それぞれに異なる能力を持つ。必然、能力を悪用する犯罪者が現れ、警視庁に「公安部公安第五課 コトダマ犯罪調査課」が立ち上げられる。ある事件により相棒を失い、捜査一課を追われた、自身も「コトダマ遣い」である刑事・永嶺スバルはそのメンバーとして召集される。就任早々、全身の血液が沸騰した死体と、炭化するほど燃やされた死体という、異様な事件が勃発する― 異能力者「コトダマ遣い」の犯罪者に、同じく「コトダマ遣い」のメンバーが対峙する…下手するとアニメのような物語設定だが、そこはさすが作者、ミステリとしての線は外さずに物語を仕組んでいる。 特殊設定ミステリとして標準的に面白いが、設定された異能力の範囲や限界が最初にはっきりしていない感じもあって、後になって「実はこういうことも可能」と後付けされるような印象もややあった。 ラストの真相も、はっきりそうだと分かっていたとまでは言わないが、どんでん返すならまぁ、きっとそうだろう…という意味でうっすら見えていた感じはあったかも。 |
No.1124 | 4点 | 牢獄学舎の殺人 未完図書委員会の事件簿 市川憂人 |
(2024/12/07 20:59登録) マリア&漣のシリーズをはじめ、作者の作品は好きなんだが…これはハマらなかった。 <ネタバレ> 殺人の指南本と目されている本の、事件の様相を描く描写を細かに観察していく中で推理を進めていくのだが…細かすぎてついていけない。人物の言動を詳らかにしながら「…するつもりだったら、こんな行動はしないはず」「そもそも…したいのなら、こんなことをする必要はない」など… 論理的と言えばそうなのだろうが、ロジックが細かすぎて途中でついていく気力が失せてしまった。 だいたい、「配本師」による事件は日本全国で起きているということなのに、ピンポイントでこの学校に「未完図書委員」の杠が来ていることの説明もないし、実際にそこで事件が起きることについてもそう。事件のからくりに関しては細かく仕組まれている割には、そういう物語の設定・大枠の部分で不自然さがあり、なんだかちぐはぐな感じがした。 |
No.1123 | 5点 | 吸血蛾 横溝正史 |
(2024/12/07 20:41登録) 蛾が添えられた死体、嚙み切られた乳房、衆人注目の中での殺人発覚…など、見映えのある展開が続き飽きさせないのだが、ファッションデザイナーという華やかな舞台設定により、横溝氏の代表作のような陰惨さがイマイチ感じられず。金田一もかなりの終盤まで動く気配がなく、お呼びがかかってからも次々と人が殺されているにも関わらず傍観しているような感じで。 <ネタバレ> 最後の最後に一応金田一の推理が真相を射当てるのだが…まぁ真犯人はミステリに読み慣れた読者なら十分予想の範疇。 しかし時代とはいえ、これだけひとつのデザイナー事務所で殺人が続いているのに、犯人がいつもスルスルと現場に入れてしまうのは…まぁやっぱり時代なのかな。 |
No.1122 | 7点 | ほんとうの名前は教えない アシュリィ・エルストン |
(2024/11/28 23:11登録) 冒頭から”エヴィ”を名乗る主人公は、実は正体を偽って対象を調査する闇組織に属する女性。今回結婚を約束するまで近づいた男性ライアンも調査対象者。ところが任務を遂行するエヴィの前に、自分の本名”ルッカ”を名乗る、自分そっくりの女性が現れる。彼女も「組織」の人間なのか?だとしてもなぜ自分の前に?エヴィが疑念にとらわれる中、事態は次々に急展開し― 結婚を見据えた幸せなカップルのような冒頭の物語が、あれよあれよと姿を変えていく。実は”エヴィ”の調査対象であった、婚約者のライアンにも後ろ暗いところがあり、さらには自分の本名”ルッカ”を名乗る女性も、自分に仕掛けられた刺客だった。いったい”エヴィ”のボスは何を企み、そして誰なのか―?「現在」と”エヴィ”のこれまでの様子が描かれた過去が交互に描かれる章立ての中、常に動き続ける展開から目が離せない。 読み進めるにつれて、ミステリを嗜んでいる皆さんならボスの正体は見当がついてくるとは思う(私もそうだったし)。が、それを踏まえても物語の行く先への興味は尽きないリーダビリティがある。 面白かった。 |
No.1121 | 6点 | 歌人探偵定家 百人一首推理抄 羽生飛鳥 |
(2024/11/17 16:07登録) 源平合戦が終結した平安末期。平家一門の生き残りである平保盛は、亡き父・頼盛が守り抜いた一族の暮らしを絶えさせぬよう、静かに暮らすことを心掛けていた。だが都は盗みや殺しが横行する荒んだ日々。そんなある日、和歌が添えられた女のバラバラ死体が発見される。偶然その場に巡り合った保盛は、和歌をこよなく愛する朋友・藤原定家とともに、その真相解明に乗り出すことになる― 「平家物語推理抄」シリーズの続編という位置づけであろう、頼盛の息子・保盛をワトソン役とし、当代きっての歌人・藤原定家を探偵役とした連作短編。殺された遺体に添えられるなど、何らかの形で百人一首に収録された和歌が絡んでおり、事件の概要を描く段は「上の句」、解決編を「下の句」として組み立てた構成はなかなかに洒落ている。時代風俗や政治背景も巧みにちりばめられ、歴史ミステリ期待の新人といえる出来栄えは、前作以降も変わらないと感じる。 1話目「くもがくれにし よはのつきかな」3話目「からくれなゐに みづくくるとは」が個人的にはよかった。いにしえの古都が舞台となっているので、科学的な緻密さは当然弱いが、その時代なりのロジックが考えられていてそれもまた面白い。 ただ定家のキャラがラノベ風にぶっ飛んでて、前シリーズのような歴史ものの重厚さは薄れた。定家のセリフにやたらと「・・・っ!」が多用されるのは少し煩かったかな。 |
No.1120 | 5点 | 幽霊男 横溝正史 |
(2024/11/16 22:00登録) 全体的に多分に劇場的で、しかも舞台が都会、ヌードモデルなどの風俗的味付けから乱歩作品のような雰囲気をまとっている。 派手な奇怪さが前面に出ていて、退屈はしないのだが、物語全体のプロットが結果的に複雑すぎた感は否めない。幽霊男の出現、関与についての偶然も、都合よすぎで出来過ぎだし・・・ 金田一耕助シリーズの凡作として楽しめればよいのかな、という感想。 |
No.1119 | 8点 | サリー・ダイヤモンドの数奇な人生 リズ・ニュージェント |
(2024/11/16 21:48登録) 町はずれで父と2人で孤立して過ごす43歳の"変わり者"サリーには6歳までの記憶がない。ある日父が病気で亡くなり、言いつけどおり遺体を焼却炉で焼いたところ、警察が駆けつけて大騒ぎに。マスコミが殺到する中、サリーは父が残した手紙を開く。そこにはサリー自身が知らなかった、凄惨な事件の記録が記されていた― 凄惨な幼少期を過ごしたことにより、パーソナリティ障害を抱えているサリー。「適応障害を抱えているから、不適切なことを言ってしまう」と自分で相手に説明しながら、社会に順応しようと努力を重ねている姿をいじらしく感じてしまい、とても好感がもてる。一方物語は、現在と交互に章立てされてサリーの幼少期に起きた誘拐・監禁事件のストーリーが並行して描かれる。サリーの母親であるデニース・ノートンがコナー・ギアリーという男に誘拐され、監禁される中でサリーを産んだ。実はその前にデニースは男の子も産んでおり、その子・ピーターは父コナーに大事に育てられていた。ピーターを一人称として描かれる過去の章により次第に物語の輪郭を明らかにしていく展開は妙で、非常に面白かった。 唯一不満なのは…玉虫色のラスト。ここまで来たのなら…着地点を明確に描いてほしかったなぁ。 |
No.1118 | 6点 | 少女マクベス 降田天 |
(2024/11/16 21:17登録) 演劇界の人材育成をめざす超名門校「百花演劇学校」。その制作科に籍を置く結城さやかは万年2番手、トップは誰もが認める孤高の天才、設楽了だった。が、その了は学校一番の晴れ舞台・定期公演での舞台「百獣のマクベス」上演中に命を落とす。翌年、了の友人であったという新入生、藤代貴水が入学。彼女は皆の前で設楽了の死の真相を調べる」と言い放った。なぜか、貴水と共に事件の真相解明に乗り出すことになった さやか― 演劇に身を賭した少女たちの、ある意味閉鎖された価値観の中でのストーリー。貴水とさやかが関係する生徒たちにあたって真相を探っていく過程で、一人一人の秘密が暴かれていく展開は退屈ではなかったが、遅々とした進み方に多少ストレスを感じた。 登場人物が分かりやすく限られているため、ストーリーを追っていくぶんには理解しやすかったが、同時に真犯人の予想もしやすくはあった。そこそこの分量だが、すらすらと読んでいける展開ではある。ただ、この作者は他作品で自分としては評価が高く、期待が高くなっていたのだが、出色の出来、とまではいかなかったかな。 しかし、天賦の才能とか、生まれもった別格な存在、なんてホントにあるのかなぁ。実体験がないから懐疑的。 |
No.1117 | 7点 | ぼくは化け物きみは怪物 白井智之 |
(2024/11/04 19:55登録) <ネタバレ含む> 「最初の事件」…タイトルに込められた真の意味がラストに分かる。といっても私は、それと物語冒頭とが結びつくまでに少し時間を要した。 「大きな手の悪魔」…トリックのためとはいえ、読み手が好感をもっているであろう登場人物を、あっさり殺してしまう作者の無情さは相変わらず。まぁ慣れたけど。 「奈々子の中で死んだ男」…令和の現代では倫理的に支障があるような表現の数々、作者らしい色の一編。 「モーティリアンの手首」…モーティリアンなるものが何なのか、作者の作風や西暦から早々に想像がつく。地層に散在する化石からの推理は、確かに論理的ではあるが…そこまで考えるものでもないのでは? 「天使と怪物」…本短編集ではこれが出色の出来であろう。「名探偵のいけにえ」以来、作者のカードの一つにもなってきている「多重解決もの」だが、その面白さを中短編で堪能できる。またラストがなかなかに切ない余韻を残すもので…これは秀逸な一編だった。 |
No.1116 | 5点 | 玩具修理者 小林泰三 |
(2024/11/02 20:41登録) 小林先生が58歳という若さで早逝してもうすぐはや4年。古本フェアでそのデビュー作である本作を見つけ、思わず買った。 <ネタバレ> デビュー作である表題作は、正体不明の「玩具修理者」なる者が、修理依頼で持ち込まれたものをバラバラに解体して組みなおすというお話。修理依頼は生き物にまで及び、行きついた先は…人間の解体。描かれている状況とは裏腹に淡々と進められる描写は、いかにもホラーらしさがある。語り手の正体が分かるラストが物語の真骨頂。だが、そこから翻ってみると、語り手の話し方は不自然では…?とも。 2編目「酔歩する男」のほうが紙幅を割く中短編。いわゆるタイムトラベラーものだが、空想科学の学説的説明がちょっとややこしい。こちらもラストに一作目同様の種明かしがあるが、こちらはほぼ予想していた通りという感じだった。 自分としてはどちらも小粒な印象ではあるが、久しぶりにホラーを読むとやはり面白い。 |
No.1115 | 6点 | 成瀬は信じた道をいく 宮島未奈 |
(2024/11/01 22:04登録) 前作から時は進み、高3で大学受験をして、離れた地でそれぞれの大学に進学する成瀬あかりと島崎みゆき。地元に残り京都大学に進学したあかりだったが、超一流大学の学生になっても変人ぶりは相変わらずだった。 本作では2人が離れ、大学生となった時期へと物語が展開される。そのうち「コンビーフはうまい」から登場する、成瀬と共に「びわ湖大津観光大使」となった篠原かれんがよかった。はじめは、大使になるための「自分売り」に余念がない、キラキラ系のいけすかないタイプかと思っていたが、意外にも成瀬に馴染み、やがては従来の親友・島崎みゆみを嫉妬させるほどになる。 今風キャラクターのかれんと、今風から一線を画しているあかりとが、屈託なく関係を築いていく様は、何だかよかったなぁ。 |
No.1114 | 6点 | 成瀬は天下を取りにいく 宮島未奈 |
(2024/11/01 21:49登録) この作品が本サイトで扱われているとは… タイトルの何だか清々しい(?)感じに惹かれて読んだが、まずまず期待に沿う面白さだった。まぁ、主人公・成瀬あかりのキャラがすべてという作品ではあるが、表紙絵からも想像する作品への期待がそもそもそんな感じなので、自分は満足した。 極めて優秀な頭脳でありながらまぁ「変人」の成瀬に、いつも寄り添っている島崎 みゆきとの友情感もよい。特にラストの「ときめき江州音頭」では、マイペースに突き進む成瀬に従っている常人の島崎みゆき、という構図だったものが、成瀬の人並みで素直な感情が露になることでほっこりした気持ちになる。 そういう意味で、連作としての構成もなかなかだった。 |
No.1113 | 6点 | ウォッチメイカーの罠 ジェフリー・ディーヴァー |
(2024/10/31 22:47登録) 高層ビルの建設現場で突然、大型クレーンが制御不能になり倒壊した。コムナルカ・プロジェクトと名乗る犯人から、都市開発計画を中止する要求があり、中止せねば事故は続くとの犯行声明が。捜査を依頼されたリンカーン・ライムは、微細証拠の分析と推論から恐るべき結論にたどり着く。「犯人は、ウォッチメイカーだ―」…長きに渡って対峙してきた科学捜査の天才と稀代の犯罪者が、ついに決着の時を迎える― 裏の裏まで読み通して、犯罪を計画・遂行するウォッチメイカーことチャールズ・ヘイルと、その裏の裏まで読み解くライム。因縁の2人の最後の対決は、ビル上にそびえる大型クレーンの倒壊という、今までにない舞台設定で魅力的に始まった。ライムの仲間たちが抱える別件の事件捜査が同時進行で進み、やがては交差していく展開も最近の本シリーズではお馴染み。相変わらず退屈さを感じさせない展開で、前半は引き込まれて読み進められた。 だが、「ライムとウォッチメイカーの最終対決」ということで腕によりをかけすぎたか、後半に行くにつれて事件(物語)の構造があまりにも複雑に。お決まりの「どんでん返しに次ぐどんでん返し」の二重三重構造も、真犯人(事件の黒幕)の意外性は確かにあったが、動機がなんだったのか、イマイチしっくりと理解できていない。 作中では、ライムが自身の後継者にロナルド・プラスキーを指名する件があった。今後は主人公を変えて第2シリーズのようになっていくのだろうか。興味深い。 |
No.1112 | 7点 | 貸しボート十三号 横溝正史 |
(2024/10/14 21:39登録) 「湖泥」 とある農村で、村一番の器量よしとされ、村の良家のせがれと結婚が決まっていた娘がお祭りの晩に殺された。北神家と西神家という、確執ある村の両家という舞台設定は横溝作品のテンプレート。祭りの夜の不可解な逢引きや手紙など、雰囲気を盛り立てる道具立てはまずまず。それなりによかったのだが、動機が…抽象的かな 「貸しボート十三号」 表題作。公園の水辺に浮かんだボートに男女の死体。何と、2人とも首を切断されかけたままの状態、ボート内は血の海。表紙絵のイメージも頭に浮かび、おどろおどろしさ満点。大学のボート部を舞台に、男女の愛憎劇が展開される。一番の謎「切断されかけ」たままの首の意味に対する答えとしては、まずまずだったように思う。 「堕ちたる天女」 白昼、トラックの荷台から道路に落ちた石膏像。その中に、人の死体が塗りこめられていた。事件関係者はストリッパー界隈の人々。そこに同性愛の様相も絡んできて、いかにも乱歩・正史時代の作品っぽかった。 各話とも、横溝正史作品のイメージに沿う劇場的な話で、満足した。 ちなみに、本作の表紙絵はどうしても、湖底に女の顔が浮かんでいるバージョンが欲しかったのだが、手に入れることができてうれしい。 |
No.1111 | 7点 | 死はすぐそばに アンソニー・ホロヴィッツ |
(2024/10/14 21:10登録) 門と塀で囲われた中に、6軒の家が集う高級住宅地、リヴァービュー・クロース。そこに最近越してきた、騒音や傍若無人な振る舞いで住民に疎んじられていた男性が、クロスボウでのどを射抜かれて殺された。我慢を重ねてきた住民全員に動機があるこの難事件の捜査に、警察から招かれた探偵ホーソーン。事件はホロヴィッツとホーソーンが知り合う前の5年前、相棒はダドリーという元警察官だった。事件を解決した、というホーソーンに過去を聞き出し、小説にまとめようとするホロヴィッツ。 裕福な層が集う高級住宅街で、住民トラブルが殺人にまで発展するという舞台設定は目新しくはないものの、興味深いストーリーではある。相変わらずホーソーンの煙に巻く物言いが読者をじりじりさせるものの、それが謎を高めていく魅力でもある。 今回は、ホロヴィッツも一人独自に動き、事件関係者へ話を聞きに行くなどするが、その過程で真犯人をあっさり明かされてしまう。当然その結論そのままであるはずがないので、より物語が深まっていく展開となり面白かった。 ホーソーン自身の過去がシリーズを通しての謎として描かれているが、本作ではそちらについての進展も今まで以上にあり、上手く構成されていた。 <ネタバレ> 真犯人の意外性はなかなかだったが、密室殺人やアリバイトリックといった、犯罪の手法に関する部分については、現代的技術のツールを多用しており、ちょっと拍子抜けだったかも。 作中で、ホロヴィッツが「最高の密室ミステリは日本から生まれている」と受戒する部分があり、島壮「斜め屋敷の犯罪」と正史「本陣殺人事件」を絶賛しているくだりは、なんだか嬉しかった。 |
No.1110 | 6点 | 悪魔の降誕祭 横溝正史 |
(2024/10/05 22:57登録) 近々殺人が起こるのではないか…と危惧して金田一のもとを訪れた女性が、事務所で殺害されていた。殺されていたのは、近頃売り出し中のジャズシンガーのマネージャーだった。やがて、そのジャズシンガーが開くクリスマスパーティーで、さらなる悲劇が起こる(表題作) 2件目の、ジャズシンガーのパーティでの殺人事件解明が物語のメイン。密室ではないものの、なかなか不可解状況での殺人で、その真相もなかなか興味深いものだった。併せて収録されている2編もまずまずの仕上がりで、個人的には特に「霧の山荘」がよかった。 とはいえ、「霧の山荘」。私立探偵が、遺体を発見しておきながら、即通報もせずに懇意の警部とともに秘密にしておくなんて……しかもそれを捜査本部に明かしたときに、咎められもしないなんて……ありえないよね |
No.1109 | 5点 | 仮面城 横溝正史 |
(2024/10/05 22:48登録) ジュヴナイルということで、少年探偵団張りの活劇要素が強い。表題作などは、まさにそう。現実離れした、いかにも小中学生向けの過剰に動的な展開で、ミステリや推理を楽しむというよりは少年向けのスリラー小説といった感じ。 決して悪いわけではないが、そういうことで評価はこのぐらい。 |