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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1121件

プロフィール| 書評

No.1101 6点 コメンテーター
奥田英朗
(2024/09/10 21:39登録)
 このシリーズが出るの17年ぶりなんだそうな。初読が早くなかったから、そんなに間が空いていたとは知らなかった。

 伊良部のとぼけっぷり(天然)と、看護師マユミのケミストリーはますます勢いを増し、シリーズの魅力健在。こちらも「お気楽な読み物」として読めるから、十分に楽しい。
 タイトル作「コメンテーター」はじめ、どの作品も昨今の世相を映しながら、コメディタッチの中にその世相への皮肉が込められているようで思わず二ヤリ。「ラジオ体操第2」で主人公がする妄想なんかは、多くの人が経験したことがあるのでは?
 デイトレーダーで大儲けした若者に、伊良部&マユミがたかろうとする「うっかり億万長者」などは、収入で人生の価値を測り、それでもってマウントを取り合おうとする昨今の世情に一石を投じているようで…
 これからも、「リバー」のようなガチから、「家族」シリーズや本シリーズのようなほんわかまで、筆者の幅広い筆力で楽しませてほしい。


No.1100 8点 黒い糸
染井為人
(2024/09/10 21:23登録)
 結婚相談所で働くシングルマザー・平山亜紀は、顧客とのトラブル後、無言電話などの嫌がらせに苦しめられている。同じ時期に、息子・小太郎が通う小学校で、同級生の女子が行方不明になる事件が。身の回りで続く不穏な出来事に不安を抱きながら生活する亜紀だったが、小学校ではさらに事件が続き―。いったい、亜紀の周りでは何が起きているのか?

 初めて作者の作品を読んだが……これは読ませるなぁ。地に足の着いた現実的な描写の地続きに、非現実的な話が立ち上がっている。作者の筆の上手さであろう、それらが突飛なものに感じられず、自然に入って来る。
 一部予想が当たりつつも、要の部分の真相にはやはりやられた。その「どんでん返し」の場面の描き方もよく、背筋がブルっとするような持っていき方だった。
 とても楽しめた。


No.1099 7点 あんたを殺したかった
ペトロニーユ・ロスタニャ
(2024/09/10 21:13登録)
24歳の女性・ローラが警察に「男を殺した」と自首してきた。ヴェルサイユ警察の警視・ダミアンら捜査班は、ローラの証言をもとに捜査を始める。ところが、どこにも遺体が見つからないどころか、事件の形跡らしきものもない。いったい、彼女の言っていることは本当なのか、それとも何か企みがあるのか―

 殺人事件の犯人という者が自首してきたのに、その痕跡が見当たらない。物語スタートの謎としては上々。要所要所で挿入される、ローラ視点で描かれる章がうまく読者の想像を掻き立て、リーダビリティも〇。よく考えられ、構成された良作だと思う。素直に面白かった。
 いわゆる、「一気読み必至」の一作かな。


No.1098 7点 日本扇の謎
有栖川有栖
(2024/09/10 20:59登録)
記憶をなくした青年が京都の海岸で発見された。身元を示す手がかりとなるのは持っていた扇だけ。そこから「武光颯一」という名が分かり、実家に帰った青年だったが、その後しばらくしてその家で密室殺人事件が起こる。いったい事件の背景には何があるのか―臨床犯罪学者・火村英生と助手の有栖川有栖は、いつものコンビネーションで謎の解明に向かうが……

 息つく間もなく次々と殺人が起こったり、物語が急展開したり、なんていう凝った仕掛けもなく、起きた事件を淡々と、地道に捜査する至ってオーソドックスな基本形のフーダニットなのに…なぜこんなに読ませる?この作家を私がイチオシで好きなのも、変化球だらけの昨今のミステリ界で、構えずに落ち着いてストレートな「本格」を楽しめるからなのだろうと思う。

<ネタバレ>
 密室の謎は、現実的であると同時に拍子抜け。とはいえ、物語の核はあまりそこになく、記憶喪失の青年・颯一の真実や、武光家の内実にあるため、そのことによる失望は特にない。最後の真相まで読んで、やはり出色のトリックや仕掛けがあるわけではないのだが…優れた筆者の文章と、物語全体を覆う謎めいた雰囲気に満足できる。
 冒頭で颯一を発見した女性教師が、もう少し物語に絡んでくるのかとも思ったのだが…そこがやや肩透かしを食った点。
 とはいえ、3,500円の「愛蔵版」を買ったものの、(ファンだからというのが大きいが)満足できた。


No.1097 4点 白薔薇殺人事件
クリスティン・ペリン
(2024/08/31 22:39登録)
ミステリ作家志望のアニーは、離れた村に住む資産家の大叔母の家を訪れた。16歳の時に占い師に「殺される」と告げられ、それを信じ続けていた大叔母は、訪れたときに本当に何者かに殺されてしまった。「犯人を指摘したものに遺産を授ける」という大叔母の遺言にも動かされ、犯人探しに挑むアニー。そこでは、60年前に起きた、大叔母の友人の失踪事件が絡んできて―

 明かされる最後の真相にはまずまずの仕掛けを感じるものの、何せ登場人物が多く、関係が複雑、しかも必要以上に長い。
 一番腑に落ちないのは、事件捜査に前のめりに乗り出しているアニーなのに、大叔母フランシスの日記をはじめに全部読んでしまわないこと。物語の構成上、大叔母の日記と現在を交互に進行させたいのは分かるが、いくらでもやりようはあったはず。
 「まだ全部読めていないが…」って、読めよ!と思った。


No.1096 9点 青の炎
貴志祐介
(2024/08/25 18:51登録)
 これは…名作。
 殺意を抱くほどどうしようもない元継父、母と妹を守るためにその実行を決意した悲壮な思い。高校生ながらに優れた頭脳を駆使して計画する完全犯罪、不審な様子に気付いて心配する親友、彼女。倒叙モノのミステリとしても、若者の苦悩と葛藤を描く物語としても、出色の一作ではないか。


<ネタバレ>
 だからこそラストはあまりにも切ない。
 結局は衝突せずに…という結末を、多くの読者が切実に望むのではないだろうか…


No.1095 8点 モルグ館の客人
マーティン・エドワーズ
(2024/08/25 18:44登録)
 女探偵レイチェル・サヴァナクに助けを求めてきた男が、レイチェルの忠告を無視した結果殺害された。実は男には、他者にりすまして生きていた犯罪者の疑いがあった。犯罪学者のレオノーラ・ドーベルは著書の中でそのことを指摘し、他にも無罪として終わったいくつかの殺人事件に嫌疑を投げかけていた。レオノーラが、嫌疑をかける容疑者たちを一堂に館のパーティに招く。そのパーティにはレイチェルも招かれたのだが、そこで殺人事件に直面する―

 レイチェル・サヴァナクシリーズの第2弾。第一作では、レイチェルが善なのか、悪なのか―という非常に特異な面白さがあったのだが、当然これは一作目にしか使えないネタ。よって本作は正面からの本格ミステリ勝負ということになる。
 葬儀列車に乗り込む男を止めようとするレイチェル、という場面から物語が始まり、謎めいた始まり方は分かるのだが、何が何だかよく分からない話をしばらく読み続けることになり、物語の枠組みを理解するのにだいぶ時間(ぺージ数)を要する。謎めく魅力と分かりにくさは表裏一体だと感じる。
 作品紹介では、犯罪学者・レオノーラの館に犯罪容疑者が集う話が中心のように書かれているが、実際にその館に集う場面は物語のかなり後半。各事件の内容や背景を読み解いていく前半から中盤はそれはそれで読み応えがあったが、やや複雑で冗長だった感もある。
 真犯人の出しどころは、なかなか読者の盲点をついていて成功しているのではないかと思う。伏線がかなり丁寧にちりばめられていて、なんと巻末には「手がかり探し」として逐一その説明がなされているが、正直一文一文そこまで注意を凝らして読んでいたらもたないなぁ…
 面白かった!


No.1094 8点 籠の中のふたり
薬丸岳
(2024/08/25 18:07登録)
 父親を亡くしたばかりの弁護士・村瀬快彦は傷害致死事件を起こした従兄弟の蓮見亮介の身元引受人となり、釈放後に二人は川越の家で暮らし始める。小学6年生のときに母親が自殺し、それ以来、他人と深く関わるのを避けてきた快彦だったが、明るくてお調子者の亮介と交流することで人として成長していく。だが、ある日、母が結婚する前に父親の安彦に送った手紙を見つけ、衝撃の事実を知る。母は結婚前に快彦を妊娠していて、快彦に知られてはならない秘密を抱えていた。そして、出生の秘密は亮介の傷害致死事件とも繋がっていく。二人は全ての過去と罪を受け入れ、本当の友達になれるのか――。(出版社紹介より)

 従弟・亮介が居酒屋で起こした傷害致死事件の真相、亮介と、快彦の父・安彦との約束、快彦と元カノ・織江の行く末―など、複線的に進行するそれぞれのストーリーがどれも目を離せず、興趣が尽きない展開。謎解きとしての興趣はもちろんだが、亮介に心を解かれ、次第に変容していく快彦の人間的成長や、そのことにより距離が縮まっていく二人の様子がヒューマンドラマとして非常に魅力的。着地点の読後感もよく、非常に充実した読書体験だった。


No.1093 5点 三角形の第四辺
エラリイ・クイーン
(2024/08/13 20:29登録)
 大実業家・アシュトン・マッケルの息子デインは、父親の信じられない秘密を知ってしまった。それは、同じアパートメントのペントハウスに住む有名服飾デザイナー、シーラ・グレイと道ならぬ仲になっていたことだ。義憤に駆られたデインは、シーラに接触するが、あろうことかデイン自身もシーラに恋してしまう。そしてある日真実を問い詰めようとしたデインは、興奮するうちにシーラの首を絞めてしまった。危うく正気を取り戻したデインは手を放し、シーラは助かるのだが、デインが立ち去ったすぐ後に、シーラは何者かによって銃殺されてしまった―

 父子が絡んだ男女問題のストーリー、それなりに面白かった。問題は、シーラを殺害した真犯人は誰か、という本作の核だが・・・。デザイナーという職業をうまく題材にして、関わった男性たちを辿るという仕掛けはまずまずだったと思う。ただ、それを経たうえでの最後の真相(いわゆるどんでん返し)はちゃちな仕掛けだったと言わざるを得ないかも。それだったら、どんでん返しなく当初の解決の方がよかったような気もしてしまった。


No.1092 8点 ぼくの家族はみんな誰かを殺してる
ベンジャミン・スティーヴンソン
(2024/08/13 20:14登録)
 アーネスト・カミンガムは3年前、兄のマイケルの殺人を警察に告発した。マイケルが刑務所から出所する日、叔母の呼びかけにより冬のスキーリゾート地にて親族皆でマイケルを迎えることに。「警察に兄を売った裏切者」と、冷たいあしらいを受けるアーネスト。複雑な雰囲気で兄の到着を待つ中、リゾート地内で身元不詳の男の死体が発見された―

 猟奇的なストーリーを想像させるタイトルだが、物語はそのような様相ではなかった。犯罪者の家族として世間から冷たい目で見られている一族が、新たな殺人事件に遭遇する中で、3年前の事件の真相に近づいていく。非常にしっかりした作りの本格的「フーダニット」で、物語の背景が複雑なきらいはあるものの、往年の本格好きには好まれるのでは。
 冒頭に主人公が兄・マイケルの罪を目撃したシーンが描かれ、その回想を踏まえたうえで現在が描かれていくという手法はもう馴染みだが、リゾート地で起きた殺人事件との結びつきがまるで見えず、前半はストレスになるかも。だが、後半、殺人が続いていく中で少しずつ事件の輪郭が見えてくるあたりからは、非常に面白い怒涛の展開だった。
 とても楽しめた。


No.1091 8点 法廷占拠 爆弾2
呉勝浩
(2024/08/13 19:53登録)
 史上最悪の爆弾魔スズキタゴサクの裁判中、爆弾被害者遺族として裁判を傍聴していた柴咲奏多が突如暴挙に出て、銃を片手に法廷を占拠した。「ただちに死刑囚の死刑を執行せよ。ひとりの処刑につき、ひとりの人質を解放します」。被害者遺族であり、スズキタゴサクを憎む立場であるはずの柴咲の目的は何なのか?90人以上の人質をたてに、警察と犯人たちの息詰まる攻防が始まる―

 物語冒頭に、前作「爆弾」の事件で被害者となった柴咲奏多の現況が描かれるが、それがその後の展開に直で結び付かないことで、俄然ミステリとしての魅力が高まる。生活に困窮し、一発逆転の金策を狙うような言いぶりだった柴咲が、なぜ法廷を占拠し、顔も名前も晒し、死刑囚の死刑執行などを要求しているのか?それがスズキタゴサクの裁判で行われているのには何の意図があるのか?どれほどの仕組みと作者の企みがこのあと展開されるのか、と思うと、ページを繰る手が止まらなかった。
<ネタバレ>
 目的の異なるもの同士が手を組むという仕掛けと、その成り立ち方に非現実的な感じは否めなかったものの、類家とスズキタゴサクの手の読み合いや、最終的な犯人の動機解明部分などは、読み応えがあって非常に面白かった。ある意味前作とまったく違う舞台に切り替えながらも、「続編」とするにふさわしい内容になっており、期待に背かない出来栄えだと感じた。


No.1090 7点 明智恭介の奔走
今村昌弘
(2024/08/13 19:34登録)
 大学のコスプレ研究部に侵入していた窃盗犯。ところがその窃盗犯は何者かに襲われ、のびてしまった。本人は何も盗んでいないという。果たして真の窃盗犯は?(最初でも最後でもない事件)ある朝、前夜泥酔して帰った明智が目覚めると、何故かズボンをはいていた状態ながらパンツだけが引き裂かれて玄関付近に放置されていた。一体その真相は?(泥酔肌着引き裂き事件)神紅大学ミステリ愛好会会長・明智恭介が、唯一の会員である葉村譲と共に日常の謎解きに挑む、ユーモラスながら本格的な連作短編集。

 いわゆる「日常の謎」レベルの不可解事案を、でこぼこコンピ(?)が滑稽かつ快活なやりとりで解決していく。本編「〇〇荘の殺人」では、第一作で死んでしまった明智恭介をフィーチャーしたスピンオフは、愛読者としては嬉しい。出色の傑作ということはないが、一つ一つ本格ミステリとしてきちんと立てつけられていて、十分に面白い。本編の次作にも自然、期待が高まる。


No.1089 8点 あなたに聞いて貰いたい七つの殺人
信国遥
(2024/07/15 16:21登録)
 年若い女性ばかりを残酷な手口で殺害し、その様子をインターネットラジオで実況中継する「ラジオマーダー」。その正体を一緒に突きとめようと、しがない探偵・鶴舞に依頼してきたジャーナリストのライラは、対抗して「ラジオディテクティブ」を始めることを提案する。かくして、殺人者VS探偵の戦いが、ラジオを介して公開で行われることになった。前代未聞の展開の中、少しずつ真相に迫りつつある2人だったが―
 劇場型犯罪VS劇場型捜査。派手な舞台設定だが、本作の真骨頂はそんな作品の外観だけではない。しがない探偵・鶴舞に事件の真相解明を持ち掛けてきたジャーナリスト・桜通ライラの真意は何なのか?彼女は本当に味方なのか?そして、ラジオマーダーを名乗る犯人の目的は?・・・などなど、飽きさせることなく提示されていく謎と動的な展開に、引き込まれるように読み進められた。
 なかなかの驚愕のラスト、ちょっと飛躍的な展開ではあるにせよ、読み物として十分魅力的な一冊だと感じた。


No.1088 10点 地雷グリコ
青崎有吾
(2024/07/15 16:13登録)
 勝負事にやたらと強い女子高生・射守矢 真兎(いもりや・まと)。学園祭の場所取りをかけ、お馴染みの階段ジャンケンゲーム「グリコ」をアレンジした勝負に挑んだり(「地雷グリコ」)、かるた部の雪辱を晴らすため、百人一首絵札の神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。お気楽ちゃらんぽらんキャラなのに、次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは――本格頭脳バトル短編小説、全5篇。
 殺人のない「日常の謎」系連作短編集ながら、「本格ミステリ大賞」「日本推理作家協会賞」受賞も納得の傑作。ゲームの駆け引き、水面下にある緻密な計算、ひょうひょうとした主人公・真兎の立ち振る舞い、本当に面白かった!
 作品によってややこしさは多少あるものの、よくこんな「+αゲーム」のネタを考えるなぁ、と素直に脱帽。特に一編目「地雷グリコ」と四編目「だるまさんがかぞえた」がよかった。
 読者の好みによって評価は分かれるかもしれないが、私は断然「好き」なほう。副次的なストーリーとして展開される、真兎と絵空、鉱田の物語の着地点も心地よく、十分に満足した。


No.1087 4点 ハートの4
エラリイ・クイーン
(2024/07/15 16:05登録)
 絶大な人気を誇るハリウッドの名俳優と大女優、そしてその息子と娘が、不可思議なトランプの犯罪予告に悩まされた末、事件に巻き込まれていく。当初、ハリウッド映画の創作に携わる予定で滞在していたエラリーが、探偵役として事件の解決に乗り出す。

 いうまでもなく初期の国名シリーズの作風とは一線を画し、華々しく騒々しい雰囲気が作品を満たしている。トランプによる犯罪予告という劇場的な要素がさらにそれを盛り立てているものの、ただそういう演出以上の役割は果たしていない。そもそも犯罪者の心理に立った時に、この犯罪予告は何も利することがなく、かえって手がかりを与えているだけのように感じるが・・・



 <ネタバレあり>
 物語中では事件の「動機」解明が真相解明の大きなカギとされているが、偏屈な老人、トーランド・スチュアートの遺言状をエラリイが見つけたときから、動機は完全に察しが付く。そしてそれはいたって俗的な動機であり、意外なものでもない。また、その動機で考えたとき、真犯人とは別にもう一人、強い動機をもつ者がいると思うのだが、それについて推理が一切めぐらされていないのも不思議(タイとボニーの結婚に最も難を示す者)。
 全体的に、必要以上に長く、読み進めるにつれてダレてしまう感じだった。


No.1086 4点 真鍮の家
エラリイ・クイーン
(2024/07/15 15:41登録)
貴金属商の資産家、ヘンドリック老人が、お互いに面識もない6人に、自分の遺産を譲りたいと提案し、一堂に呼び寄せた。そのうちの一人は新婚のクイーン警視の妻・ジェシイ。大いに猜疑心を抱えながらも招待に応じたクイーン夫妻だったが、ヘンドリック老人が何者かに襲われる―

 手垢のついた、というかある意味定番の舞台設定。それなりに雰囲気も作られていて、前半はなかなか面白かったのだが、今回の探偵役・クイーン警視のやきもきする立ち回りと、次第にメインになって来る「真鍮はどこに?」の謎にイマイチ興趣が乗らず、後半は惰性で読むような気分になってしまった。
 事件のからくりもそれなりに工夫を凝らしてはあると思うが…もってまわった解決への道のりに、ちょっと疲れてしまう感じだった。


No.1085 6点 ガール
奥田英朗
(2024/06/16 20:14登録)
 総じて、30代の女性の様々な生き様を絶妙に描いた短編集。
 夫より収入の多い女性課長、独身のまま30代を迎えた働く女性、バツイチ子持ちのシングルマザー、超イケメン新入社員の教育係を仰せつかった女性職員…。
 さまざまな立場から、「30代」という年代にある女性の心理、葛藤を詳らかにし、それぞれに強く生きていく姿をハートフルに描いた良作短編集。
 女性読者に支持されそう。
 楽しめた。


No.1084 5点 彼女がその名を知らない鳥たち
沼田まほかる
(2024/06/16 20:06登録)
 あまりに感情に任せた主人公・北原十和子の生き様に、呆れや反発を感じながら読み進める。そんな十和子のわがままを無条件に許容し受け入れる陣治にも、何だか嫌悪を感じながら、それでも作者特有の複雑な心理描写の巧みさに魅入って読み進めてしまう。
 十和子が疑いを抱いている、「黒崎殺し」の真相がミステリとしての核だが、それについては…それほど驚天動地の結末という感もなかった。
 独特な世界観に、高く評価する向きもあるようだが、自分としては「まぁ楽しめた」。


No.1083 8点 七つの会議
池井戸潤
(2024/06/16 19:58登録)
 第一話では、営業部の出世争いと派閥のような話で始まりながら、短編を重ねるうちに巨大な不正隠ぺいの話へと展開していく。それを、各話で主要人物を設定し、それぞれに読ませる良質な短編に作り上げながら進めているのが素晴らしい。非常に高い作者の力量を感じる。
 奇しくも、自動車業界での不正がニュースで取りざたされている中で読んだので、それもいい具合に読み進める促進剤になった。
 企業の体質を題材にして描くのは作者の十八番といったところか。
 先日行った古フォンフェアで手にして購入したのだが、いい買い物をしたと満足できた。


No.1082 6点 署長シンドローム
今野敏
(2024/06/16 19:51登録)
 「隠蔽捜査」シリーズの竜崎伸也の後に、大森署に赴任したキャリアは、絶世の美貌を誇る藍本小百合。原理原則に基づきブレない「竜崎哲学」に感じ入り、尊敬の念を抱いていた副署長・貝沼は、新署長はどんな人物なのか、不安を抱いて仕えるが…。そんな貝沼の不安をよそに、武器密輸の摘発案件が舞い込み、大森署が捜査の前線本部に。大きな事案を抱え、新署長・藍本小百合の手腕が試される―

 男性社会の警察において、幹部たちを腑抜けにする美貌の署長とか、瞬間記憶能力を持つ新任刑事の山田とか、本筋「隠蔽捜査シリーズ」よりはややエンタメ寄りな雰囲気。
 薬物銃器対策課の馬渕課長と、厚労省麻取りの黒沢がものすごい嫌な奴で、その2人の不毛な口論を客観的に楽しんでいる貝沼の様子が面白い。最終的には各面々が能力を発揮し、大捕り物を無事完遂する大団円。
 一気に読めるし、楽しいエンタメ警察小説。

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