虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.20点 | 書評数:2060件 |
No.1900 | 5点 | そして誰かがいなくなる 下村敦史 |
(2025/02/07 12:37登録) “ミステリなら殺人が起きそうな館ですね” みたいな台詞はもう百万回読んだぞ。その手の “登場人物がミステリ愛好家でミステリっぽい事件のミステリっぽさを意識している物語” としては、ごくパターン通りでしかも地味。今時のキャラは “ミステリなら殺人が起きそうな館ですね、とミステリに登場する招待客なら言うところですね” と言わなきゃ。 せめてこれ、“御津島磨朱李” 名義で出せなかったんだろうか。 “ソレってアレのパクりじゃん” とか我々はフツーに言うし、余程のケースでないとそんな騒ぎにはならないよね。作家はナーヴァスなのだろうか。盗作云々については、あまり具体的に記述していないせいもあるが、そこまでの大問題だとは思えない。故にホワイについての違和感が残った。 本棚の写真が興味深い。ぼやけているが、何となく判別可能な題名やレーベルもあり。どの程度意図的なんだろうか。 |
No.1899 | 6点 | そして誰かいなくなった 夏樹静子 |
(2025/02/07 12:36登録) 本歌取りはネタバレを内包するので、ことミステリに於いては如何なものか。 とは言うものの、固いこと言わずにファンの為のお楽しみ企画ってことで良いんじゃないの、なんて気持になる程度には、上手く描かれていて面白かった。まぁ元ネタはミステリ界の課題図書みたいなものだし。 犯人の心情として、動機の切実さの割りに、犯行の演出で結構楽しんでない? (架空の)罪状がワルの悪行自慢みたいだったり、死に方が限界にチャレンジするみたいだったり。TVに出ていた有名人の設定とか、必要? しかしこれは同時に、心情として、そうして無理にでも気持を揚げておかないと二進も三進も行かない程、しんどかったんだろうなぁ、とも解釈出来る。作者はどういう心算だったんだろうか。 |
No.1898 | 8点 | そして二人だけになった 森博嗣 |
(2025/02/07 12:36登録) 本作は、講談社ノベルスの一連の森ミステリィの上位数作に匹敵する傑作。ラストを除けば。 矛盾する二つの真相を無理矢理重ね合わせた、量子論的結末? 勅使河原潤と言うキャラクターに関する二つの行く末を、どちらも捨てられなかったか。物語作家としては明らかに甘えだが、エピローグで言い切っているように “そうしたかったからそうした” のであり、その結果射殺されても否やは無かったのだろう。まぁ死んで償う程ではない。 JDCのアレ、それとも麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』と比較すべきか。ただ、その問題点を除くとミステリとして非常に魅力的であるだけに、無理が痛々しい。 盲目のフリをする描写には、教えられること多し。 |
No.1897 | 7点 | そして誰もいなくなるのか 小松立人 |
(2025/02/07 12:35登録) 良い意味で食べ易い一品。一つのアイデアを誠実に展開して、掌に収まる範囲で綺麗に纏めていると思う。犯人の失言にはすぐ気付いたが、成程そこで振り返ると幾つも伏線が見えて来る。私にはちょうど良い難易度で気持良く頷けた。終わらせ方も良い。 |
No.1896 | 6点 | そして犯人(ホシ)もいなくなった 司城志朗 |
(2025/02/07 12:34登録) “他殺競走” と言うアイデアが、概ね台詞で説明されるだけなのがあまりにも勿体無い。もっと作品の中心に据えて、一喜一憂する賭博者を直接描写する場面を増やせばいいのに。叙述トリックを上手く使えば、あの事後従犯が本当に配当金稼ぎの為に殺したかのようにミスリード出来たのでは。 |
No.1895 | 8点 | 翼とざして 山田正紀 |
(2025/01/31 13:05登録) 記憶喪失は “安易” でコレならOK? と突っ込みたくもなるが、山田正紀ミステリにしては自家中毒を起こさず走り切った。まぁ “アイデンティティの揺らぎ” は何度も使ってるネタだから、たまにはビシッと決めないと。犯人の気持にはグッと来たね。最大の謎はサブタイトル? |
No.1894 | 7点 | スメラミシング 小川哲 |
(2025/01/31 13:04登録) こんな意味不明な表題を掲げて、強気だこと。全6編。どれも濃度は高い。が、必ずしも高ければ良いってものでもないなぁ。そこも含めての作風ではあるが、量と質のバランスが取れているのは「ちょっとした奇跡」くらい。ちょっと変わったボーイ・(スライトリー・)ミーツ・ガールでコレは絶妙。予想したオチそのままだったが、それでもグッと来た。 表題作はもっとじっくり、長編でもいいくらい。“ソムリエ” 呼ばわりには噎せるほど笑った。 「神についての方程式」で語られるアカデミックな諸々は事実? 勉強になりました。でもそれなら、小説の半分が学術書からの引用ってことだろうか。実は私、時々この人の文章に “中身があるのに実際以上に舌先三寸に見せたがっている” ような印象を受ける。物語の語り手、が読む記事、の中の講演、と言うマトリョーシカ構造も、内容を冗談めかす為の方便ではないだろうか。 |
No.1893 | 5点 | リア王 ウィリアム・シェイクスピア |
(2025/01/31 13:03登録) これは悲劇なのだろうか。勢いで三女を勘当して権力を手放す王。権力者は何を考えているか判らないくらいの方が権威が高まったりもするが、この人は単なるコドモである。引っ込みが付かなくなっただけで、綸言汗の如くとばかりにそれを押し通すから結果として戦争まで起きる。 権力システム自体が悲劇を起こし易い構造を内包していると言う喜劇、だろうか。とばっちりで追放されたり目を抉られたり家臣はつらいよ。リア王よりグロスター伯の悲劇。 |
No.1892 | 6点 | アクナーテン アガサ・クリスティー |
(2025/01/31 13:01登録) これは作者の趣味なのだろうか、結構リラックスして自由にポリティカル・ロマンの翼を広げた印象を受けた。台詞を通して現代社会に物申す、みたいな部分はまぁいいや。 知識が無い私にしてみれば、古代エジプトなんて或る意味で異世界みたいなものだから、『レーエンデ国物語』みたいな心算で楽しんだ。 友人たるホルエムヘブの存在感がやや薄いせいで、最後の決別の場面は必要以上に大仰な感じだ。前提として強固な関係性があってこそ、ああやって “引導を渡す” みたいな形が映えるのだけれど。アクナーテンに接する時は一歩引いていたから判りにくかったか。 アクナーテンが吟ずる詩はどうなんだろう。“格調高さ” って却ってビミョーな感じになることがあるし、へぼ詩人が得々と自己陶酔している喜劇にも見える。 訳文については、どういう基準で考えるべきか。古代の王宮だから儀礼的で品位ある言葉遣いなのはもっともだ。ただ、耳で聞いたときに意味が捉えづらそうな語彙(横溢、閑暇、咆哮……)がたまに現われるのは配慮が足りない。“読む戯曲” だと割り切れば無問題だけど……。 |
No.1891 | 4点 | 闇に消えた男 フリーライター・新城誠の事件簿 深木章子 |
(2025/01/31 13:00登録) 主人公のフリーライターがどういう経緯で事件調査を引き受けることになったのか。そして最終的に指摘される犯人。両者を見比べると、どうもおかしな話になって来る。 その立場で状況的に何の対処もしないわけには行かなかった、と言うことかも知れない。でも作中でその点についての言及が皆無。まぁ読者にしてみれば、説明されたって不自然さは否めないわけで、やはり役割分担による登場人物の配置が良くないのでは。 例えば、探偵役が警察官や(当該事件を報道する為の)マスコミ関係のような、否応無しに外部から押しかけて来る圧力なら、この問題は発生しなかったと思う。 |
No.1890 | 6点 | 鹽津城 飛浩隆 |
(2025/01/24 12:12登録) 全6編。判り易い大文字のSFではない。一般的な意味でのストーリーテラーとは違う――そういう自己の作風(が認知された状況)にちょっと胡坐をかいてないかな~? しっかりオチに着地させる姿勢があまり見られないのだ。厳しく言えば “物語” になっているのは「流下の日」だけ(“嘘を書いてもアンフェアにならないトリック” と言うSFミステリ?)。「未の木」は始まりかけたところで断ち切ってしまった。 あとは幾つかの “場面” の羅列に留まっていると思う。但し、決してつまらない場面ではなく、特に表題作は魅力的。だからこそしっかり長編に展開させて欲しかった。1960年生の作者は自分の “残り時間” を意識しているようで、短編志向なのだろうか? 尚、作中の大ヒット漫画が現実の某作を連想させる点は、物凄く安っぽく感じられて惜しい。 |
No.1889 | 8点 | ねじれた家 アガサ・クリスティー |
(2025/01/24 12:12登録) 語り手は、ねじれた家へ何をしに行ったのか。公か私か曖昧なスタンスで、事件に介入、と言う程のこともせず、その場にいて会話をしていた人。邪魔、ではないけど妙に気持悪かったなぁずっと。 それぞれキャラが立った関係者が噛み合ったり合わなかったりするが、書き方が説明的。将棋の盤面を見るようだ。一人称記述だから仕方がない? 例えば倒産社長の人柄を妻が滔々と語る。確かにああいう説明無しで自分があそこまで深く読み取れた自信は無い。しかし作者にはもう少し直接的な説明は控えて、言動から読み取るチャンスを読者に与えて欲しかった。曲解したっていいじゃない。 そして、犯人と語り手の遣り取りを読み返すと、八百屋お七じゃないけど、犯人は語り手に対して或る意味で “いいところを見せたい” 思いで追加の犯行を重ねたのではないか、と言う気がするのだ。 すると最初の疑問が再び頭をよぎる。今度はメタ的な意味で。 またはこうも考えられる。語り手にとって、ねじれた家の一族は未来の身内なわけだから、後顧の憂い無き着地が望ましい。副総監だって立場は同じだ。火の粉を避ける為に息子を送り込んで事態を収拾させた? 全くの部外者の犯行なら言うこと無しだがそうは行かず、しかし比較的穏便な形(あの人は “義理” だしね)で決着していると思う。語り手との会話が無意識のうちにあの行動を後押ししたのかも。実は操りテーマ? |
No.1888 | 6点 | 救国ゲーム 結城真一郎 |
(2025/01/24 12:11登録) これは確かに高い、しかし細い柱で不規則に組まれたスカスカの塔だ。強い風が吹くと揺らいで怖い。 事の真相や細かい手掛かりの示し方や事件の構図の転換や、色々と良く出来ているが。 “彼女” は、残虐場面を公開したりドローン攻撃のデモンストレーションをしたりしたわけではない。口だけである。不動産業界の回し者にも見える。それでそんなに影響力を得られるのか。 事件の舞台が “館” とかではなく “地域” であり相応の面積があるわけで、人や物の動きや出入りをそこまでキッチリ把握可能とは思えない。“雪の上に痕跡が無い” と言われても信頼し切れない(ミステリだからそういう探索に見落としが無いのは暗黙の諒解だけど)。 新しいテクノロジーを題材にしているが、性能がどこまでアリなのかビミョーでは。例えば、ドローンのアレは現行の機体で可能なのだろうか。一方、動画の撮影場所を云々しているけれど、現時点で充分可能な “丸ごとAIで合成した” との可能性には触れていない。 等々、全体として、謎を謎として成立させるのに都合の良い部分だけピック・アップしているような感じ。館モノとか、限定的な雰囲気の話ならいいが、世界を広げてしまうとそういうチマチマしたことを問題に出来るだけの緻密な視点が持てなく(持っても意味が無く)なるように思う。 終盤、まるで知恵比べ勝負みたいな雰囲気だけど――殺人のトリックを暴いても事態が収束するわけではなく、もっと現実的な対処が重要なのに、何故謎解きに集中してるの? 逆から言えば、テロ予告をしているのだから、“コイツが犯人だ” とロックオンされたら、“トリックが解けていない” と言っても犯人を守る壁にはならないんじゃない? と疑問だった。 |
No.1887 | 6点 | スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ 森川智喜 |
(2025/01/24 12:10登録) 前半の特に2話目が面白かった。手掛かりの出し方とか。 この世界観ならではの論理バトル、故に差別化は為されているし、そういう変則性は好きなタイプの筈、なんだけど、読者にとって設定の上限が曖昧なので、驚いて良いのか何なのか判らないところもあった。 あと、鏡の機能の設定がブレていると思う。“質問” ではない文言(“音量をあげて!” とか)にも反応してない? このルールは厳しくしないと面白さが殺がれる。 |
No.1886 | 5点 | ふたり、幸村 山田正紀 |
(2025/01/24 12:09登録) 告白するが、“真田信繁と真田雪村は別人だったと言う話” と言われてもピンと来なかった。歴史には弱いんです。 伝奇ものとしても写実的な歴史ものとしても中途半端。別人説だけを歴史の流れの中に投げ込んで、無理無く融合させる為に敢えて深入りは避けた、と言う感じ。 “子役と動物には勝てぬ” とか言うそうで、馬のキャラクターが良し。第三章、神鷹の視点を利用した飛躍もスリリングだった。邪推するならこれが『屍人の時代』の元ネタになったのかも。 あ、ここにもシェイクスピアが……。 |
No.1885 | 7点 | マクベス ウィリアム・シェイクスピア |
(2025/01/18 14:08登録) 倒叙ミステリ? 操りテーマ? 意外なことに、君主殺しも隠蔽工作(護衛に血を塗り付ける&殺して口封じ)も直接は演じられず、台詞で語られるのみ。故に叙述トリックも疑われるところだ。前半は結構ドキドキ。 しかし、後半のメインは軍隊の至って順当な進軍状況であって、魔女の預言の引っ掛けと言うネタはあるものの、閉幕の為に然るべき処理を進めただけ、な感じも否めない。 興味深いのはマクベス夫人で、この人は預言を直接聞いたわけじゃないんだよね。伝聞情報を元にあれだけ押せ押せで行ける思い込みの強さ。SNSで陰謀論とかを拡散しそうな、非常に危ういキャラクターである。 驚いたのは軍隊も登場する物理的スケールの大きさ、そして場面転換のめまぐるしさ。第五幕第六場なんて台詞が三つしかない。作者は映画化を想定して書いたのではないだろうか。 第三幕第四場、バンクォーの亡霊の場面は喜劇が巧みにサスペンスを高めている。後ろ後ろ! ドリフより350年以上早い。 |
No.1884 | 3点 | 海浜の午後 アガサ・クリスティー |
(2025/01/18 14:07登録) ネタバレあり。 「患者」が面白い。妙な機械が登場してクリスティっぽくないが、その点こそ作者の茶目っ気? 戯曲だからこういうリアリティの無さもアリだ。 戯曲では名前を省略する書き方は普通にあるので、アンフェアでも不自然でもない。戯曲であることを利用した或る種の叙述トリックである。 しかし、心情に矛盾があると役者は演じられない。本作はどうやって上演したんだろう? “B” は犯人を炙り出す罠であるから、本当に犯人を意味するメッセージではなくフェイクである。それを知っている筈の警部と医師が “つまるところだれなんです?” とか言って議論するのはおかしい。 (因みに、その議論の流れで “犯人に知られてはならない事柄” にも言及しているので、“犯人に聞かせる為の演技” との解釈は成立しない。) また、警部が最後の台詞で語る “証拠” によって、ロジックとしては弱いが一応犯人を推測出来ており、そこに “B” の件は不要である。 犯人の条件が “B” で、真相が明らかになった時に、そうかこの人も “B” だった、と驚けるなら美しいが、実際には “条件” ではなく単なる偶然みたいなものだ。 つまりこれ、罠ではなく、動けないフリではなく、あの電気装置を介したやりとりは本物で、被害者は犯人を知っているが、フェイクでないメッセージとして “B” 一文字しか伝えられなかった――とするべきではなかっただろうか。嗚呼勿体無い。 |
No.1883 | 6点 | 満天キャンプの謎解きツアー かつてのトム・ソーヤたちへ 高野結史 |
(2025/01/18 14:06登録) “謎” 以外の追加素材で読ませるミステリとして、わざとらしさがあまり無く好印象。物語の水面下にも相応の背景が感じられるところが良かった。 “死体が見つかりにくい理由” は意外な盲点(笑)。一方、第三話は、ああいう書き方をしたらああいう真相なのは見当が付いてしまう。ミステリの犯人の条件は、まず “登場人物であること” だからね。 |
No.1882 | 6点 | キッド・ピストルズの慢心 山口雅也 |
(2025/01/18 14:06登録) このシリーズは、英米ミステリ黄金期に対する憧憬を、パラレル英国と言う変化球を使って成立させているわけで、直球勝負を上手く回避するそのコンセプトだけで満足しちゃったのか、物凄いトリックやロジックは出て来ない。“敢えてこういう風に書くやり方もある” と言う注釈が通用する範囲内、との条件付きで良く出来てはいるが、海外コンプレックスに縛られて発想の自由が制限されているようにも感じてしまうのだ。 |
No.1881 | 5点 | サブウェイ 山田正紀 |
(2025/01/18 14:05登録) 幾つかのエピソードが並ぶが、パズルのピースのように上手く嵌まり合うことは無く、残念ながら雰囲気だけで終わってしまった。 地下鉄駅で死者に会える云々の都市伝説を、登場人物が皆かなり本気で信じているようなのが異様。既に片足突っ込んでいる者ばかり何故か集まる世界観が怖い、とは言える。物語ではなくそういう空気の “絵” だね。 |