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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1853件

プロフィール| 書評

No.873 7点 肉食屋敷
小林泰三
(2021/01/04 11:47登録)
 作者曰く“怪獣小説、西部劇、サイコスリラー、ミステリーというバラエティーに富んだ構成”の短編集。確かにその通り。なんだけど、それゆえにこそ、通底する普遍的な小林泰三テイストが剥き出しになっている、とも言える。執拗な書き込みと笑ってしまう変態的怪奇趣味。ぬめっ、とした感じ。好きな色は赤と黒。
 1編選ぶなら私は「ジャンク」。素敵に吐き気がしそうな世界設定だ。


No.872 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は十一月に消えた
太田紫織
(2021/01/04 11:43登録)
 第壱骨。伏線等がミステリっぽくなっていていいね。
 第参骨。物語の広げ方が“正統派ミステリを謳っていないが故の強み”って感じでいいね。
 使えるものは何でも使おうと作者が腹を括ったような雰囲気だ。


No.871 7点 玩具修理者
小林泰三
(2020/12/27 13:31登録)
 第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞の表題作。詳細な描写を執拗に重ねて気持悪さを醸し出す技は既に出来上がっている。フィニッシュも鮮やかに決まった。但し、今振り返ると、同作者の初期短編群の中で突出したものと言うわけではないと思う。

 併録の中編「酔歩する男」。以前読んだ時と比べ格段に面白く理解出来た。いや、あの時読んだのは本当にこの本だっただろうか? 勿論、そうでないとしたら私が勘違いしただけのことなのだ。


No.870 8点 螺旋の底
深木章子
(2020/12/27 13:30登録)
 うわっ、全然気付かなかった。スカッと騙され気分爽快。
 
 ……で済めば良かったんだが。同作者の後年の某作って本書の焼き直しじゃない? 私は逆順で読んじゃったけど。本書の方が圧倒的に上。


No.869 7点 闇に香る嘘
下村敦史
(2020/12/27 13:26登録)
 中心の謎に対する真相の設定や、学習内容を物語として立ち上げる力量は見事。

 しかし、ひねくれた事を言うと、この手の題材は感想の方向性を暗黙のうちに押し付けられていないか? ハードボイルドやサイコ・キラーもので悪役のファンになるのは個人の自由だし、少年法や安楽死には賛否両論あって良いが、本作について“その時は日本政府も仕方なかったんだよ”と擁護するのは許容範囲外、怒りと悲しみを必ず共有せよ! みたいな不文律がない? その意味で作者にとっては安全牌だな~と思ってしまう。


No.868 7点 絶叫城殺人事件
有栖川有栖
(2020/12/27 13:23登録)
 作者は表題作と「雪華楼殺人事件」でミステリの悪魔を召喚してしまった。こうやられたら黙るしかない。ジーザス。
 ところが「壺中庵殺人事件」の“壺”は変。自殺に偽装する為のトリックで不自然な自殺体を作っては本末転倒だ。と言う見解が作中でも語られるが、そうまでして使う程の効果的なギミックだとは思えなかった。


No.867 5点 建築史探偵の事件簿 新説・世界七不思議
蒼井碧
(2020/12/27 13:23登録)
 こじつけによる机上の遊びにせよ、作者が頑張ったのは、まぁ判る。注目すべきは“それなら主人は何のために死んだのです”と言う部分の論旨で、私は初めて読むパターンだ。


No.866 7点 涼宮ハルヒの憂鬱
谷川流
(2020/12/24 15:43登録)
 うわーごめん見縊ってたよ。ちゃんとした話じゃないか。前半はともかく矢庭にSF化する後半の風呂敷の広げ方! ヒット・シリーズになっちゃったせいで読むのがちょいと恥ずかしいのが最大の弱点。
 ただ、この手の文体でも作家ごとの個性の差はある。某氏や某氏に比べるとツボに嵌まるポイントが少ないし、軽妙さの演出が却って鼻に付く部分があるなぁ。


No.865 8点 新本格魔法少女りすか 2
西尾維新
(2020/12/24 15:42登録)
 魔法と言う理の掛け合いで勝負するシーンは、戯言シリーズのバトルより随分読み応えがある。ルールの設定が所詮は作者の掌の上なのだから、都合良く展開可能な弱点を持つ魔法を考えただけ、かもしれないが私にとっては想定外の論理で“その手があったか”と驚かされた。免疫が無いせい?


No.864 6点 ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ扉子と空白の時
三上延
(2020/12/24 15:38登録)
 事件よりも横溝正史談義の方が面白かった。二人が友達になるシーンは泣けるね。横溝ファン小学生断固支持。夫婦が敬語で会話するところもキャラクターが出ていると思う。
 しかし、栞子さんも落ち着いちゃったし、“それなりに穏やかな世界”の安定路線が出来上がっているので、良くも悪くも“前作と同じ”である。もっと思い切った悪意を捩じ込んでもいいのでは? それともこのシリーズはもう、ゴールした後ゆったり走るウィニング・ランだと考えるべきか。


No.863 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 雨と九月と君の嘘
太田紫織
(2020/12/24 15:37登録)
 第壱骨。目的がアレで、オカルト・ネタを絡めるのは有効だろうか? 結構な賭けでは。
 第弐骨。説得力のある話なだけに、余計なことを解き明かさなくとも、と言う気持になった。
 ラストで出し抜けに変節したかのようなことを言う櫻子さんの揺らぎがいい感じ。


No.862 6点 第四間氷期
安部公房
(2020/12/24 15:36登録)
 予言機械によって殺人事件の真相を摑もうとの試みが、次々と意外な方向へ展開し、展開し過ぎ、円環は完結しない。その時々の思い付きで支離滅裂に雑誌連載する、と言う実験だったんじゃないかとさえ思う唐突さ。個々のエピソードはみなあくまで“手段”だったのだろう。最終章の少年の情景は美しい。
 しかし、機械の予言があそこまで詳細に亘るものなら、“作品途中の任意の時点から記述内容が丸ごと予言の文言に摩り替わっていた”と言う叙述トリック的解釈も成立する? その不確かさこそが“目的”?


No.861 7点 郵便配達は二度ベルを鳴らす
ジェームス・ケイン
(2020/12/18 13:31登録)
 えっ、郵便配達夫と不倫する話じゃないの?

 ――まぁ貴方、一体どこから部屋に入って来たの?
 ――おぉマダム、何を隠そう僕は透明人間なんですよ!
 みたいなのを期待していたのに……。

 それはともかく。この手の作品のパターンが定まる以前に、手探りで話を導いて、作者自身がびっくりしているような瑞々しさを感じた。
 裁判の茶番ぶりは笑っていいところ? コーラが意気込んで食堂経営に乗り出すところが可笑しい。(見当は付くけれど)アンモニア・コークって何?


No.860 7点 同姓同名
下村敦史
(2020/12/18 13:30登録)
 おぉ社会派だ。且つミステリとしてのエンタテインする味わいもしっかり取り込んで、作者はなかなか健闘したと思う。因みに、私の本名で検索を試みると、BL小説のキャラクターがまずヒットするんだよね……。

 一つ気になった点:誹謗中傷する側の行動や文言が、かなり判り易く馬鹿っぽい紋切り型になっている。それはつまり“読者が読みたがる範囲内の仮想敵”と言う作者の演出なのかなぁ、それがあの程度のものだと思われるのはあまり面白くないなぁ。現実に流用されないように、歯応えのある罵詈讒謗は自粛しているのだろうか。


No.859 5点 同姓同名
新津きよみ
(2020/12/18 13:29登録)
 同姓同名と言う要素にさほどの必然性は感じられず、単に紛らわしいだけ。
 悪いのは殺した男であって逃げた女ではない。
 銀座で財布を忘れた女と、4ヵ月後に横浜で再会――斯様な偶然が話の中心に据えられているのは如何なものか。このエピソードがあってこそ女の身許を探れたわけで、御都合主義だと言わざるを得ない。


No.858 5点 消人屋敷の殺人
深木章子
(2020/12/18 13:28登録)
 それぞれのパーツを鑑みると私の好きなタイプの筈だが、何故かあまり惹かれなかった。トリックの使い方の問題、ってことだろうか?

 ネタバレっぽいけど気になった点。
 ・作中人物の台詞にあるように“招待状がニセモノである以上、(荒天でなければ)すぐに追い返されるだけ”と言う件が、結局曖昧なままになっている。
 ・Hが別人の振りをしてSと対面する場面がある。当然これはSがHの顔を知らないことが条件。SとHの職業からして、Hがそのことを確信出来る根拠は無い。言い訳の余地はあるけど、そこも含めて作中でフォローすべきだったのでは。


No.857 6点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 骨と石榴と夏休み
太田紫織
(2020/12/18 13:27登録)
 ライトとはいえ、いやしくもミステリなら悪意が埋まっているほうが面白い。ってことで第壱骨は物足りなかった。
 第弐骨。櫻子さんかっこいい。
 第参骨。設定の割に東藤一族の面々はとても普通な感じ。その中に、妹が自殺しても尚あのスタンス、と言う告白がサラッと書かれていて効く効く。


No.856 7点 海を見る人
小林泰三
(2020/12/11 12:08登録)
 本書は小林泰三のブライト・サイドだと思っていたけど、決してリリカルなだけの作品集ではないし、視覚的な想像を膨らませるとなかなかシュールかつグロテスクだし、こりゃあ表紙を飾る鶴田謙二のイラストに騙されていたわ(いいじゃないの幸せならば)。
 どれも面白いが、以前読んだ時と比べると結構“普通”な印象。変な世界の話はいっぱい読んだからね。


No.855 5点
エラリイ・クイーン
(2020/12/11 12:06登録)
 天才的な女たらしが、引っ掛けた女を共犯にする、との設定なら、共犯者は幾らでもどこからでも調達出来る筈なのに、閉じられた人間関係・限られた容疑者の中だけで話が進行する不自然さにイライラした。出来が良いとは言えないが、テンポ良く進むのが救い。
 ハヤカワ文庫版の表紙はなかなかやってくれるぜ。大胆なネタバレでグッジョブ。


No.854 8点 バトル・ロワイアル
高見広春
(2020/12/11 12:05登録)
 強引な引力を備えた話だ。バトル開始と同時に“他者の信義に期待する平和主義者=愚か者”と言う価値観に思考がシフト。殺人欲が刺激される。
 体力の無い私としては、前半は隠れて漁夫の利狙いか。一か八かで山火事を起こすのはどうだろう。機動性や脚の保護を考慮するとスカートは不利だから、女の子は死体から奪ってでもズボンに穿き換えるべきでは?
 文庫版解説では色々もっともらしい事が述べられているけれど、“中学生がガンガン殺し合う娯楽作品”と言う表層通りの読み方でもいいと思う。或る種の過剰さに意義があるとはいえ、1クラス分の人数を書き切るとは、作者も良く頑張った。

 あの彼がのべつ幕なしに煙草を吸っているでしょ。煙草の臭いは人の存在を示す重大な目印になって危険なのに。でもニコチン依存症になっちゃうと、そういう冷静な判断が出来ないらしい。
 山中に隠れた犯人が、警察の山狩りからは逃げおおせたのに、ニコチン切れに耐えられず煙草を買いに町に出て御用――と言う事例が実際にあったそうな。依存症って怖いね。

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