化石の城 |
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作家 | 山田正紀 |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 虫暮部 | |
(2022/01/16 12:01登録) これは作者初の “明確なSF要素を含まない長編” だ。 ところが山田青年はあとがきにこう綴っている。 “ぼくはSF作家を志す者だ。なぜ他の小説をではなく、SFを選んだのかという理由のひとつに、諸先輩の誰もが口にされることだが、その間口の広さがある。(中略)ぼくの独断にすぎないかもしれないが、すでに日本においては、SFを小説の一ジャンルと考えるのは正確でないような気がする。頭のなかで繰り返したあるシミュレーションを、小説にとりいれるテクニック、あるいはそれに伴う「思想」のような気がするのだ。 ――というわけで、この『化石の城』は現代史をテーマにしたSFである。” これは、山田正紀を読み解く上で、なかなか重要かつ親切な告白ではないか。 デビュー作で星雲賞を受賞し、立て続けに傑作SF長編を発表、一躍SF界の寵児となるかと思ったらアクション小説へも手を伸ばした。それはそれで面白いのだが、“初期作品のようなSFを(初期のうちに)もっと書いて欲しかった” 私にしてみれば “何故そっちへ行った!?” との疑問を拭い去ることが出来ずにいた。てっきり出版社主導の “売る為の路線” として書いたのかな~と邪推していたのだが、しかし本人としてはそこまでの区別は無かったと言うことだろうか。 超自然現象の有無とかにこだわらず、本作から『宿命の女』や『人喰いの時代』を経て『ミステリ・オペラ』あたりに辿り着くものが “現代史SFと言う思想” だとすれば、山田正紀のミステリが何故いつもミステリとして何か欠けているように感じられるのかの説明になるような気がする。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/08/30 16:35登録) (ネタバレなし~ただし途中一部、少しデンジャラス) 1968年5月上旬。ド・ゴール政権に反対する学生運動「五月革命(五月危機)」の運気が高まるパリで、日本の企業「紀伊建設」の社員で20代後半の瀬川峻は、天才青年建築家トニー・バチェラーの訪日を求める。瀬川と紀伊建設は大阪万博に向けて大きなプロジェクトを構想し、そのために先にバチェラーと契約したが、なぜか彼は態度を急変させてパリに残りたがっていた。そんななか、瀬川は訳ありの元友人・池田灘夫と6年ぶりに再会した。不穏な空気の中で思わぬ事件が続発し、やがて瀬川はパリの地下に、あのフランツ・カフカが書いた「城」のモデルが実在する!? と知る。 最初の元版(1976年1月。二見書房のサラブレッドブックス)以来、なぜか一度も再版も電子化もされない、山田正紀の初期長編。 古書価は高い時には余裕で5ケタ行ったりするが、運が良ければヤフオクで500円で買えることもある。 評者は1970~80年代にその元版しかない本作を300円の古書で購入していたが、一方で大昔の「SRマンスリー」の短評で、本作の内容がパリの五月革命に深く関連すると聞き及んでおり、現代史にあんまり強くない自分には、ちょっと敷居が高そうだということで、長らく(ウン十年も)放っておいた。 それから歳月が経過し、まあ21世紀の現代ならwebもあるし、わからないことならネット検索で大方の概要は教えてもらえるだろうと、しばらく前から、書庫の中から取り出しておいた。 で、ようやっと昨夜、読んだが、……いや、期待以上にリーダビリティは高く、予想以上に面白い。 読む前はSFかと思っていたが、「城」の伝説にからむ伝奇性の部分以外は非日常要素は希薄。 ほとんど巻き込まれ型のサスペンススリラー(冒険小説の一種)で、さらに言えば、青春のいちばん最後の時期にオトシマエをつける若者たちの情念の物語でもある。 巻末には、この時点で初めて「あとがき」を書いた、と語る作者・山田正紀自身の述懐が掲載されているが、本作の執筆の契機(のようなもの)の一つになったのは、あのフォーサイスの『ジャッカルの日』だそうである。同作を読んでトータルとしては評価する作者は、ドキュメント部分の要素に感銘はしたものの、フィクション部分は存外につまらないと豪語。そういった一種のアンチテーゼ的な立場で、本作を執筆したようである。 (だからド・ゴール政権末期の「五月革命」のパリの物語になっている。) 五月革命にカフカの『城』ネタを組み合わせ、さらに当時の国際政治情勢(特に……)までを絡ませてストーリーを紡ぎあげた、若い作者の筆の勢いは、前述のように21世紀のいま読んでも歯ごたえがあった。 キャラクターシフトにしても、大学時代からの屈託を今なお抱えあう主人公・瀬川と元友人・池田の関係性も良いが、物語にかかわりあう主要キャラたちがそれぞれ記号的な造形を逃れて、一定以上の存在感を抱かせる。 何より、状況や事態の振幅に翻弄されながらも、夢と明日の希望にしがみつく(それは実にいろいろな形だが)劇中人物ひとりひとりの素描が良い。 で…… 【以下、ちょっとネタバレ?】 これは初期山田作品のなかでも上位の方……と思いながら、終盤のヤマ場に向かったが……ああ、そうか、(この時期の)山田正紀だったんだよね……この作品。 賛否両論はあるだろうが、やってほしくなかったなあ、この作品に限ってはあのパターン。 いや、トラウマ的にショックを受けた、同じ作者のあの作品のラストがまた甦ってきたよ。 ただまあ読み終えて一晩眠って少し頭が冷えてみると、この結末はそれなりの意味はないでもない……とは思えたりもする。 非常に60~70年代の時代っぽいクロージングだし。 ただまあ一方で、このラストを書き終えた際の作者の妙な表情が頭に浮かぶようで、ソコはどうも。まあこちらの思ったこととはまるで違う、悲痛な面持ちで魂を削るようにコレを書いていたのかもしれんが。だったら何も言えないね。 【以上でネタバレ解除】 読了した直後、就寝までの数時間での評点は6点。 ひと晩、明けた現在では7点。 面白さと熱さ、ときめきの部分だけ抽出したら、8点。 |