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ミステリの祭典

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髑髏城
アンリ・バンコランシリーズ

作家 ジョン・ディクスン・カー
出版日1957年01月
平均点5.43点
書評数14人

No.14 7点 虫暮部
(2022/01/05 14:34登録)
 事件の様相について、その構成要素を鑑みればもっと迫力があってもおかしくないのだが、どうも紗が掛かったようなぼんやりしたイメージしか持てない。
 これは半分以上が伝聞として語られるせいではないか。それとも私の読み方が下手なのか。
 それが解決編に至って一気に持ち直す。
 アルンハイム男爵が解き明かす因縁は、ミステリ的な捻りには乏しいがストレートにガツンと来た。と言うか、これは冒険小説的復讐譚で、男爵のパートは “解決編(結)” ではなく “転” なんだね。でも気分的にはバンコランのパートはいっそ無くても良かった。

No.13 6点 レッドキング
(2019/12/19 23:54登録)
怪探偵対決・・かたや「サリーちゃんパパ」魔王風貌アンリ・バンコラン、こなたナチと言うよりファシスト党隠れ幹部風ジークムント・フォン・アルンハイム男爵(実にいいなあ、この名前)
ライン河岸に聳えるドクロまんまの古城、髑髏城。伝説の魔術師の怪死、奇怪な名優の焼殺事件。隠し扉に抜け道、怪しさ満載の容疑者たち。ホラーとドタバタ、ロマンスとマザーグース童謡のごった煮。映画絵画超えて蝋人形館紙芝居レベルの高さにまで達したケレン味。これこそジョン・ディクスン・カーの・・・と言うよりミステリ本来の醍醐味。
惜しいことに、カーにとって最も大事な不可能犯罪がないけど大目に見ちゃう。

No.12 6点 弾十六
(2019/07/25 06:27登録)
JDC/CDファン評価★★★★☆
バンコラン第3作。1931年出版。創元文庫の新訳で読みました。この訳者さん、サキの白水社版新訳の人だ!と遅ればせながら思い出しました。登場人物紹介が原著通りなのが良いですね。(英米の紹介文句はたいていこんな感じ。全部そうしてくれれば良いのに…)
この作品はとても無理筋な設定&解決で不満点はたくさんあるけど、ぶっ壊れた感じがJDCらしくて良い!パズルのピースも結構上手く構成されてます。なにか異常な感じが全体を貫いていて、二大名探偵の鍔迫り合い、という子供じみた趣向もいかにもなJDC風味。でも城の構造はもっと凝りまくって欲しかったですね。あっそうそう、呑んだくれ大会が出てくるのも好きです。
以下、トリビア。原文は入手出来ませんでした。
銃は「モーゼルのごつい軍用拳銃」が登場。「ソフトポイント弾」が使われてます。当時のモーゼル軍用拳銃と言えばC96(Model 1896, 馬族の拳銃で有名)ですね。ただし弾丸「モーゼル三二五口径」は、床井先生の弾薬事典にも出てこないので、おそらく書き間違い。試験的な8.15mm Mauser弾(.320インチ)の可能性ありか?(市場に出回ってないような弾丸なので多分違う。) 通常は7.63x25mmマゥザー(.30 Mauser)弾使用。C96の連射式は1932年以降なので、ここに登場してるのは単発式です。
作中時間は1930年5月20日、火曜日と明記。前作の3年後です。
p15 現職は金で買った… 道楽が嵩じて(金の力で)仕事に直しただけだろう: バンコランの地位は自分の趣味のため買い取ったものだという。バンコランは反論してないので事実らしい。
p93 「作家なんです」: ジェフ マールは作家という設定だったっけ?
p94 1909年のワールドシリーズを全試合この目で見たんだからね。ワイルド ビルがパイレーツを向こうに回して投げた年さ。: Pittsburgh Pirates対Detroit Tigers、1909年10月8日〜10月16日。Wild Bill Donovanはシリーズ1勝1敗、最終戦の負け投手。
p95 タイムズ紙のクロスワードパズル: The Times crossword first began to titillate and torment readers on February 1 1930. とタイムズ紙(ロンドン)のホームページにありました。
p100 スロットマシン… 1ペニー入れたら: 英国消費者物価指数基準(1930/2019)で64.82倍、現在価値36円。
p151 『城を戴くドラッケンフェルズの断崖絶壁、睨みおろすはうねり狂うラインの河水』: 何かの引用。
p168 『黄金の川の王様』でばらばらに飛んでった男の手足: The king of the Golden River(1851) by John Ruskin(初版挿絵Richard Doyle(!)) 英国童話。私は読んだことなし。
p193 [ポーカー] 賭けの上限は五マルクね。: 1マルク(Reichsmark)は金基準(1930)で0.049ポンド、上記の換算で64.82倍。5マルクは現在価値2138円。
p209 探偵小説は好きなの。登場人物が絶対に悪態をつかなくて、シカゴのギャングが声を張り上げて、『ああ、神よ!』とかなんとか: ここで揶揄されてるのは何でしょうね。(ハードボイルド派が出版社の自主規制で結構お上品だったことを指してるのかな?)
p226 ある本のくだり「かく申す我は底なし穴の王者アパドンゆえ、たとい身は破滅しようとも他の者にかかって想念蘇り、その手にて速やかに鉄槌下しおき、炎雷導き、死神の奇々怪々たる六道までを照らしださん…」: 訳注なしなので有名作なんでしょうね。教養が無いので知らず。
p231 五ドル賭けるわ!: 米国消費者物価指数基準(1930/2019)で15.34倍、現在価値8262円。
p239 『やってしまった』(訳注: マクベス第二幕第二場、王殺しの後のマクベスのセリフ): I have done the deed.

バンコランものは意外と音楽が大活躍。以下、登場する音楽関係を単純列挙。(調査が面倒くさくなりました… もし原文を入手できたら調べます。)
p13 オーケストラは(…)おしとやかな“リゼット”、笑顔の“ミニョネット”、愛嬌者の“シュゼット”をそれぞれの調べにのせて… : 「訳者あとがき」によるとp60の『ラブ・パレード』の歌詞に出てくる文句だという。
p30 『ローレライの歌』
p41 メヌエットだかなんだかの『アマリリス』
p60 ミュージックホール御用達の歌謡曲『ラブ・パレード』: 調べつかず。
p76 チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲第2楽章『カンツォネッタ』
p152 『ミンストレル楽団 英国王を歌う』を合唱
p182 クリスマスキャロルでいう「名にしおうグリーンランドの山々」から「アフリカの陽光たたえたる泉水」と夢見がちに表現された場所まで、世にあまねく歌われてきた歌だ!
p198 ブラームスの『ハンガリー舞曲第五番』
p217 あらしもさんざんくるだろう(訳注: 英国の童謡『行け行け船よ』Sailing, Sailing(1880)の一節)
p220 「そうれ、将軍は殊勲十字賞(クロワドゲール)をもらったぜ、パーレヴー」合唱は将軍の下馬評を説き、アルマンティエール(訳注: WWI)の多芸多才なお嬢さんによる驚天動地の武勇伝を、情感こめて披露した。
p221 「美しく青きドナウ」
p222 『ラインの守り』(訳注: 戦前ドイツの準国歌)
p223 ベルギー国歌『ブラバンドの歌』
p226 「ゆうべは酔っぱらっちゃった!もう飲めなければ迎え酒、今夜はとことん酔っぱらおう!」ピアノの一団が歌っている…
p230 きちんと調子を取った歌…「麗しのメアリ オブ アーガイル」
p277『ユモレスク』: ドヴォルザーク作。

No.11 7点 斎藤警部
(2019/03/20 01:59登録)
名犯人、名探偵、名真相、名解決。。の全てが●●●!! トリックがどうとかの話じゃないとは思うけど、空さんもご指摘の、あの指紋の手掛かりの機微にはしびれましたわ。バンコランにさっぱス魅力を感ズないオイラだが、あのなんとか男爵は好きだ。HM卿の代わりと見做してしまいそうだった。爽やかなエンディングも良し。老眼でイソベル・ドオネイがイッペイ・シノヅカに見えちまった。

ところでクリスティ再読さんと同じく私も本作、世界大ロマン全集の旧訳(抄訳らしですな)で読みました、とは言え往時リアルタイムではなく近所の古本屋で見つけたカバー無し百円本ですが。巻末目録キャッチコピー最後の太字『家中で一生楽しめる大ロマン全集』にはクスッと笑いながらも時代の電気を感じてシビれます。

大ロマン全集に併録の「目に見えぬ短剣」「もう一人の絞刑吏」も折角なので久しぶりに再読してみました。やはり「絞刑吏」の締め方(絞首刑だけに)は味わい深い。(初読時知らなかった)浜尾四郎の短篇を彷彿とさせる。真相の尻すぼみ感が痛い「短剣」さえ怪奇ロマンの雰囲気で充実。流石です。

No.10 5点 クリスティ再読
(2019/01/23 20:51登録)
評者本作最初に読んだのはね、世界大ロマン全集だったよ...この創元のシリーズは、創元推理文庫の原型の一つなんだよね。本格は世界推理小説全集の寄与度が高いけども、「怪奇と冒険」はこっちメインである。とはいえ本格でも「月長石」と本作が世界大ロマン出身、ということになるわけでね。本作は改訳したけども、ここらへん1950年代後半の訳なんだから「怪奇と冒険」枠ももう少し改訳すれば...と思うあたりだが、ミステリ以上に名物な訳が多いから文句出そうだね。
本作はそういう出自に違わない内容、といえばその通り。カーでもバンコラン物は、ミステリ風味の怪奇ロマン、という風に割り切って楽しむべきなんだと思うよ。そうしてみれば、髑髏城での晩餐会とか雰囲気絶佳で、いいじゃないか。こういう豪奢でしかし神経質なパーティの雰囲気が、評者は好きだなぁ。映画館でふと居眠りして筋の分からなくなった洋画のパーティシーンを見ているかのような、悪夢的な佳さがある。それにしても雷鳴、鳴りすぎだよ(苦笑)。
パズラーとしてはどうこう言うものでもない。が、本作の狙ったあたりであるはずの

奇(くす)しき禍(まが)うた、歌うローレライ....

といったドイツ・ロマン派の教養主義テイストも、いささか遠くなって来たわけだから、本作のオモムキも今の読者にどれほど伝わるものなのかしら。

ちょっと追記:世界大ロマン全集には評者とてもお世話になったので、少しだけ考察してまとめとしよう。この全集(1956-59)は、創元文庫の原型を作っているのと同時に、ルヴェルなど一部のテキストは戦前の「新青年」に載った翻訳から来ているし、「血と砂」「とらんぷ譚」と戦前の有名映画の原作物が多数収録されるなど、戦前の翻訳小説の文化と、創元文庫のクラシックスとして定着した戦後とを結ぶ重要なシリーズだったと思うのだよ。「新青年」趣味の残照を手軽に味わえる貴重な機会なのである。古本屋だと比較的手に入りやすいものが多いので、古臭い、と敬遠せずに戦前~戦後をつなぐ重要な鎖の輪と思って読んで頂きたい。ミステリ、というのも戦前のモボの多岐にわたる趣味の分野から成長していったものなので、ミステリのクラシックの理解にも大きく役立つと評者は感じる。

No.9 4点 makomako
(2017/10/01 14:40登録)
 この作品は読むのにとても時間がかかった。すぐ眠くなってしまうのです。怪奇趣味と古いお城のお話は嫌いではないはずなのに、この作品では読むのがちょっとつらかった。
 トリックも話の内容も現代となってはいかにも古臭く、今まで読んだカーの作品よりだいぶん落ちるように思えました。

No.8 6点 nukkam
(2016/08/19 14:54登録)
(ネタバレなしです) 1931年発表のバンコランシリーズ第3作はライン河にそびえる古城、その名も髑髏城を舞台にした怪事件を扱い、ドイツの名探偵フォン・アルンハイム男爵との探偵競争を織り込んだ本格派推理小説です。この設定の妙だけでもどんな物語になるのだろうとわくわくする本格派好き読者も少なくないと思いますが、「夜歩く」(1930年)や「絞首台の謎」(1931年)と比べると謎を盛り上げる演出が弱く謎解きも意外と小ぢんまりした印象を受けます。二階堂黎人が「人狼城の恐怖」(1998年)を、加賀美雅之が「双月城の惨劇」(2002年)を書いたのは本書に微妙な物足りなさを感じてもっと舞台設定を活かした派手な作品を自分で書いてみようとしたのではと推測したくなります。私は本書を先に読んでそこそこ楽しめたのですが、二階堂作品や加賀美作品を先に読んでから本書を読んだ読者には凡作に映ってしまうかもしれません。

No.7 4点 mini
(2015/12/02 09:57登録)
先日に創元文庫から「髑髏城」の新訳版が刊行された、初期のバンコランもののシリーズ第3作目である、藤原編集室の企画のようだ
旧訳は古かったからね、新訳も遅かったくらいで当然でしょうね
シリーズ全5作の内、バンコランもので既読なのは第1~3作目までだけなので、私の書評はアテにならないんだけどね(苦笑)

髑髏城ってのはそういう形状の城ってだけで、雰囲気の盛り上げに寄与している以外は謎解き上の重要な意味は無い
その代わりベタなくらい所謂本格のガジェット満載で、いかにも二階堂とかが好きそうな舞台設定だぁ(大笑)
パリ、ロンドンといった都市が舞台だった前2作から大きく舞台設定を変えた
しかし私はクローズドサークルとか館ものが嫌いな性格で、こうした人里離れた怪しげな館みたいなタイプの舞台設定に全く興味を惹かれない読者なので、はっきり言って私には「髑髏城」に舞台設定上の加点要素は一切無い、いやむしろ原点対象(笑)
本格派的視点で見ても真相はつまらないし、何より大らかさとユーモアの欠片も無いのがカーらしくない

とこう書くと駄作みたいな評価なんだが、好意的に見るとこの作品、カーが大好きだった冒険ロマン精神は発揮されているんじゃないかなぁ
本格派として見たら駄作だが、例えば真相の一部などは世界大ロマン全集だよな(中笑)
ライバルのドイツ側の探偵役アルンハイム男爵の登場も、もしこれがフェル博士ものだったらあまり効果的とは思えないが、バンコランなのでまぁいいんじゃないかな、逆に男爵が居なかったらそれこそつまらない普通の本格になってただろうし
フェル博士の名を出したついでに言うと、「夜歩く」や「絞首台の謎」などはフェル博士ものでも通用した話なので、冒険ロマンだと割り切れば「髑髏城」はバンコランで合っているのかも
ドタバタも特徴の1つではあるカーだが、フェル博士もので冒険ロマン風の話をやるとちょっとチグハグ感が有るんだよね

まぁそんなわけで、本格派としては3点、冒険ロマンだと割り切れば5~6点、間を取って4点にした次第
雰囲気作りなどははいかにもなカーなのだけれど、総合的見地だとカーらしいんだからしくないんだか判断に迷う(小笑)

No.6 5点 ボナンザ
(2014/12/19 00:10登録)
インパクトと設定で初期カーらしさが存分に味わえる佳作。
ただ、それを支えるだけのトリックとは言い難く、これ以降の代表作と比べると見劣りしてしまう。

No.5 5点 E-BANKER
(2011/04/05 22:50登録)
アンリ・バンコランシリーズの3作目。
ガチガチの本格好きの読者が泣いて喜ぶような設定&仕掛けで一杯の作品。
~ライン河畔に聳える古城、髑髏城。その城主であった稀代の魔術師が謎の死をとげてから十数年。今また現在の城主が火だるまになって城壁から転落する事件が起きた。この謎に挑むのは、ベルリン警察のフォン・アルンハイム男爵と宿命のライバル、アンリ・バンコラン~

この紹介文を読めば、期待せずにはいられませんよねぇ・・・
河畔に聳え立つ2つの謎多き古城、不審な死を遂げた魔術師、火だるまで落下する死体、独仏2人の名探偵対決・・・etc
いったいどんなオチを付けてくれるのかという期待を一心に読み進めましたが、結論は「裏切られた」の一言。
もったいぶって、こんな大層な設定を持ち出すほどのトリック&プロットではありませんでした。ロジックが薄弱すぎ。
名探偵対決も意味あるんですかねぇ?
本作にインスパイアされ書かれた、加賀美雅之の「双月城の惨劇」や二階堂の「人狼城の恐怖」のインパクトがあまりにも大きいため、悪い部分だけが目立ってしまったところもあるかもしれません。
まぁ、カー&ガチガチ本格好きの方ならいいけど、それ以外の方にはちょっと・・・っていう評価です。
(バンコランものは初読ですが、やっぱり中期以降の良作の比ではない感じ・・・)

No.4 5点 kanamori
(2010/07/01 19:12登録)
予審判事バンコランものの第3弾。
舞台がライン湖畔の古城とか名探偵同士の推理合戦など、怪奇趣向とともに冒険ロマンの色彩が強い作品です。
結末の男爵の扱いについては少々不満がありますが、そこそこ楽しめました。

No.3 6点
(2009/03/07 14:33登録)
論理性という点では、フォン・アルンハイム男爵が間違っていることを示す手がかりは確かにありますし、特に指紋の問題はその時代ならではの着眼点だと感心しました。
しかし、本作の魅力は何と言っても、火に包まれた被害者が城壁から墜落する印象的な情景から始まる、ゴシック・ロマンを思わせるトーンでしょう。秘密の通路が出てくるなどとここで書いても、全然ネタばらしにはならないようなスタイルの作品です。

No.2 4点 Tetchy
(2008/11/30 00:57登録)
確かに犯人は解らなかった。
カー特有の怪奇趣味が横溢してもいる。
秘密の通路も今回は多めに見よう。
が、しかしそれら全てをもってしても、こちらの知的好奇心をそそらなかった。

メイルジャア失踪のトリックの真相は荒唐無稽すぎる。
××は万能じゃないんだぜ。

No.1 6点 ロビン
(2008/10/24 23:58登録)
髑髏の形に似た古城で起こる事件。被害者は全身を炎に包まれて城壁から転落する。バンコランとライバル役の探偵が真相をめぐって対決するという構造。
怪奇趣味は満載。だけどなんかいまいち。事件自体は食指を動かされるものだけに、探偵対決もお決まりな感じに終わり、高みには届いていない。初期のバンコランシリーズはこれも含めて二作しか読んだことはないが、どちらも不満足。初期はだいたいこんなものなのかなぁ。

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