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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1188 6点 断罪のネバーモア
市川憂人
(2022/04/26 13:18登録)
 色々頑張っているのは判る。ただ、細かい部品が多過ぎて、組み立てた時に、全体のフォルムに驚くのと、細部の巧緻さを愛でるのと、両立しがたい感じ? 作品の欠点ではなく、あくまで私とはちょっと合わなかったと言うことで。
 最後に出て来る犯人の毒を吐くキャラクターは良かった。


No.1187 6点 模像殺人事件
佐々木俊介
(2022/04/26 13:17登録)
 長らく疎遠だった親類なり知人なりに再会した時、相手を見分けられるか? 入れ替わっていたら気付くか? 本作では、入れ替わりが成立している反面、“気付かないのはおかしい” と言うロジックが推理に採用されていて二重基準っぽい(アンフェアだとは言わないが)。
 骨格は悪くないが書き方で損をしていると思う。整理するところはして。横溝正史ばりの展開の中に “モバイル接続” とか出て来るのはやはり興醒め。冒頭を読み返すと味わい深い。

 “ホワットダニット” は変な言い方だね。 whodunit の who が what に変わっただけだから “何がやったか” の意味でしかない。“ホワッツダン(what's done)”とでも言うべき、と言うかあんな台詞はいらん。


No.1186 7点 魔術師
山田正紀
(2022/04/23 12:49登録)
 神獣聖戦シリーズは作者本人による『神狩り』のリメイクみたいなものだと思う。デビュー時より語彙が増えた分、虚構性の切迫感も増強されている。“鉱脈を掘りあてたかもしれない” とのコメントや『神狩り2 リッパー』との共通性もむべなるかな。但しキャラクター造形も相変わらずなのである。


No.1185 7点 NかMか
アガサ・クリスティー
(2022/04/23 12:48登録)
 誘拐事件の真相が判ってみれば、知らなかったとはいえ残酷な成り行きに皆で手を貸してしまったんだな~、と言う点が最大のインパクト。
 主にタペンスのせいでふわふわした漫画的なイメージ(悪い意味ではない)。背景の政治的設定とかよく判らないがどうでもいい。登場人物は多いけど意外に混乱せず読めた。


No.1184 6点 アルファ系衛星の氏族たち
フィリップ・K・ディック
(2022/04/23 12:47登録)
 シミュラクラの事故に見せかけて人を殺せないか、と言うアイザック・アシモフばりのSFミステリ的テーマが示されて心が躍る。が、あっさり脇に追いやられ(まぁその手の緻密さはディックは苦手そうだし)、B級スパイ・スリラーのパロディみたいな流れになって残念。
 アルファ系衛星の氏族たちは出自を鑑みると結構まともじゃないか、と思うのは、精神疾患に関する私のステレオタイプな理解の方が寧ろ偏見だからだろう。粘菌のキャラクターがナイス。


No.1183 6点 一九八四年
ジョージ・オーウェル
(2022/04/23 12:46登録)
 作者は訴える “こういう社会はひどいね!”。
 私は応える “そんなの判っとるわ!”。

 普遍的な価値観に則った小説は、しばしばその価値観に過剰に寄り掛かっている気がしない? いや、必ずしも “普遍的” ではないのかな。現代日本の或る程度標準的な立ち位置で読む限りに於いて、と言うことで。
 大雑把な言い方だが、社会の悪い部分なんて似通っているものだから、それを描けば、あとはちょっとした運次第でタイムレスな作品として高評価されるのではないか。
 意地悪く言えば、それは作家にとって “楽な道” だと私は思ってしまうのだ。

 本作は、ディストピア小説としてはあまり飛躍が無くて普通(アングッドな意味で)。作者の物凄い想像力による予言の書、とか言う感じではない。
 途中で長々と挿入されるゴールドスタイン哲学の妙な説得力には要注目。統治して転向させる為の様々な手法もアナログで楽しい。あれじゃ責める側も大変だ。


No.1182 5点 気まぐれスターダスト
星新一
(2022/04/23 12:45登録)
 ジュヴナイルは別として、一貫した “時代性の無さ” が、まさに星新一。初出情報が無いのは手抜きだな~と思っていたが、読むうちにどうでもよくなった。中には “えっ、星新一がコレを?” な短編もあって、逆説的に “星新一とは何か” を照らし出しているあたり興味深い。土着的ホラーになりそうなのをサラッとまとめた「珍しい客」が私には印象的だった。
 しかし物凄く面白い作品集と言うわけではまぁない。【星】の【屑】とは言い得て妙。いや、逆かな。最低ラインがコレって凄い、と言うべき?


No.1181 6点 フランケンシュタイン
メアリ・シェリー
(2022/04/16 12:25登録)
 イメージと全然違うな! これは見た目が醜いと言うだけで差別された者の哀話。

 意外や怪物のヴィジュアルについての記述は僅かしかない。“身の丈八フィート”で “均衡を欠いた姿”だけど “髪は黒くつややかに伸び、歯は真珠のように真っ白” だって。包帯を巻いたり釘が刺さったりの記述はありません。あとはひたすら醜い醜い醜い、だから、中身も恐ろしい怪物に違いない、と決め付けられた。
 同じことが小説の外でも起こっている。実は彼、頭は冴えていて饒舌だし、本質的には素直だし、運動神経も抜群。ところが、総身に知恵が回りかねみたいな、コミュニケーション不全のメタファーみたいなキャラクターが、二次創作三次創作で捏造されてしまった。

 つまり怪物は小説の中でも外でも、“醜い大男” に相応しい(と思われがちな)内面だと誤解されたのである。因みにそこまで暴れまくり殺しまくったわけでもない。
 “判り易い表層的なイメージが、正しい情報よりも、如何に一人歩きするか” と言う作中のテーマを見事に実世界でも体現してみせた。天晴れである。風評に囚われていた私は伏して怪物に許しを請わねばならない。

 小説としては、真ん中あたりに位置する怪物の自分語りがめっちゃ面白い。その前後は、物語成立の手続きをきちんきちんと踏んでいるところが堅苦しい。ここにもっとメリハリがあればなぁ。夫の詩を引用しているのは御愛嬌。


No.1180 6点 モーツァルトは子守唄を歌わない
森雅裕
(2022/04/16 12:25登録)
 クラシック音楽には詳しくないので小説として読んでも楽しめる。ポップ・ミュージックだと突っ込みどころが多くてそうは行かないんだよね。
 ユーモアのタイプとしても好みだし、見せ場の連続でだれずに読めたが、さて振り返ってみると物語はふにゃふにゃしている。特に、注目されると差し障りがあるなら「子守唄」を握り潰せばいいのに、そうせずに別名義で出版させた、と言うくだりが腑に落ちない。


No.1179 6点 法廷遊戯
五十嵐律人
(2022/04/16 12:24登録)
 上手く出来ているのは判るが、私にとって法律論はメイン・ディッシュにならないな~と思った。頭いい人の一人称形式は匙加減が難しい? その内面が反映されている筈の地の文からはそこまで優秀なものが読み取れない。背伸びしながら喋っている感じ。何でも屋のキャラクターはナイス。


No.1178 6点 鬼女の鱗
泡坂妻夫
(2022/04/16 12:24登録)
 泡坂妻夫の時代物は、以前読んだ時にまるで楽しめなかったので途中で止めてしまった。此度再び手に取ってそれなりの味わいを感じられたのは “これは同作者の現代ミステリとは別物” と割り切ったおかげか。とはいえ「江戸桜小紋」の真相が亜愛一郎シリーズみたいで一番良かった、と思ってしまうあたり修行が足りんな~。


No.1177 6点 家守
歌野晶午
(2022/04/16 12:23登録)
 「人形師の家で」、ラストの台詞のような事情があるなら、共犯者を呼び出す必要は無いよね。
 「転居先不明」、偶然をどこまで許容するかは悩ましいところだが、人を殺した夜に偶然もう一人の人殺しがやって来た? うーむ……。


No.1176 8点 マザー・マーダー
矢樹純
(2022/04/13 12:42登録)
 相変わらず、生活感のある悪意や欠点のある人物を描くのが抜群に上手い。腹の底に残る読後感の適度な重さ。神経の行き届いた見せ方と隠し方。第三話の二人の意外な転身がナイス。
 但し、その出来の良さが皮肉にも作品の限界になっている感がある。このハードウェアではこれ以上のソフトウェアを走らせられないと言うか。飽和状態を突破して大傑作を物するには、現状維持以上の一歩が必要なのではないか。


No.1175 7点 そして名探偵は生まれた
歌野晶午
(2022/04/13 12:41登録)
 表題作と「夏の雪、冬のサンバ」の密室トリックは、同じもののヴァリエーション。更にそれを作中作(映画)でも暗示している。
 つまりこれは『安達ヶ原の鬼密室』と同じ仕掛けで、但しあちらではそのことを明示したのに対して、こちらでは “どーだ、分散させたら気付かないだろ” と言いたげ。『安達ヶ原の鬼密室』で叩かれた意趣返し?


No.1174 7点 名探偵 木更津悠也
麻耶雄嵩
(2022/04/13 12:41登録)
 本書の主人公達がこだわるような、“探偵” ではなく “名探偵” と言う概念は、日本語独特のものだろうか。単なる good とか famous とは違う感じだよね。中国語ならアリ? ガラパゴス的に拗らせて進化した “名探偵” と付き合えるのは日本語人の特権かも。
 「禁区」の手掛かりが秀逸だと思う。


No.1173 7点 ルピナス探偵団の憂愁
津原泰水
(2022/04/13 12:40登録)
 シリーズ前巻でも思ったが、謎の解きほぐし方が上手くない。
 ○○の理由は?→××だから! と言う割とシンプルな軸を設定しておきながら、その周りに色々絡み付かせるせいで、ズバッと決めて欲しい話なのに説明がくだくだしくなってしまうのだと思う。ミステリ要素以外の部分は高評価出来るんだけどな~。


No.1172 6点 倒錯のロンド
折原一
(2022/04/13 12:39登録)
 ミステリに於いて、種明かしを如何にストレス無く読めるか、は重要であって、特に叙述トリックは基本的に探偵役が解説出来ないわけで、作者の筆力も読者の理解力も問われる。本作はその点で今一つ。オチにオチを重ねたのも煩わしい。問題編は面白かったけどね。今一つなのは私か?
 ウィリアム・アイリッシュ作品のタイトル借用は、“偶然の一致” に説得力を与える方便であると同時に、“そういう海外作品のタイトルのパクりってよくあるよね~” と皮肉としても機能していると思う。


No.1171 5点 聖シュテファン寺院の鐘の音は
荒巻義雄
(2022/04/06 15:06登録)
 『白き日旅立てば不死』の続編。
 『異邦人』と『不思議の国のアリス』を無理矢理接木したような作品。特に後半は、世界構築が逸脱しつつ加速する一方、物語の展開はゆったりしており、絶妙な静謐さを感じさせるものの、これでは続編の意味があまり無いのではないか。その意味の無さこそがこの作品世界の意味なのだと言う気もするが、もう少し速やかに収めても良かった。


No.1170 4点 日光霊ラインの謎を追え!
荒巻義雄
(2022/04/06 15:05登録)
 随分無理が感じられる真相も、ニューヨークとかポストモダンとかいってないで、“一族の血の歴史” みたいなおどろおどろしい、もしくは幻想的な書き方なら、伝説との絡みも含めてもっと説得力を得られたのではないか。と言うか、“伝奇” と “ミステリ” の世界観をミスマッチなまま上手く重ねることを意図しているような気がするが、成功していない。


No.1169 5点 九度目の十八歳を迎えた君と
浅倉秋成
(2022/04/06 15:04登録)
 不思議な設定はあっさり許容出来たし、最後に色々嵌まって行く様は巧みで心地良かったが、何か今一つ乗り切れなかった。歳のせいかな。絶妙と言うか大胆なタイトル。

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