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ミステリの祭典

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魔物が書いた理屈っぽいラヴレター

作家 林泰広
出版日2022年09月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 虫暮部
(2022/12/01 12:20登録)
 類型に嵌まらないような工夫はあるし、内容のエッセンスも悪くないが、どうしても安物感が拭えない。とは言え、軽く読み流せる娯楽作品が悪いわけでは全く無いしね。文章に深みが無いのは “理屈っぽい手紙” との設定に合わせたのだろう、と好意的に(意地悪く?)考えておこうか。

 ※表紙イラストが見取り図?

No.1 6点 人並由真
(2022/10/23 16:28登録)
(ネタバレなし)
「君」こと女性名探偵と、その助手である「僕」は異国で殺人鬼と戦う。死闘の結果、敵の毒で危険な状態となった名探偵に特殊な治療を施すべく、「僕」は日本に連れ帰ろうとする。しかし政情の不安定から帰国は困難。「僕」たちは知り合った篤志の者の協力で、 16世紀からの伝説が残る古城に一時的に身を隠した。だがそこは、数百年の時を経て不死の魔物が棲む場であった。
 
 祝! 復活、『見えない精霊』林泰広の新たな著作三冊目。
 評者はカムバック後の二冊目の作品で長編『オレだけ~』は購入したまま、まだ読んでないので(汗)、これが『精霊』以来の久々の林長編作品となる(まあ『精霊』にしても、評者はリアルタイムで読んだ訳ではなかったが)。

 劇中に実際に魔物が登場。ダークファンタジーものの要素と、この作品世界独自の魔法の法則性を推理のロジックの基盤とし、その双方を読者に突きつける、一種の特殊設定パズラー。

 視認される現象の錯覚性(これはネタバレではなく、中盤で前提となる)なども組み合わせた推理の展開と、その流れに絡み合う事態そのものの意外性の組み合わせの妙は、林泰広、またひとつミステリ作家としての奥行きを広げた、という感がある(二冊目の長編を読んでないで、この物言いはちょっとアレかも・汗)。
 平明な文章、閉鎖空間でのストーリーの進行などもあって、リーダビリティはかなり高いが、一方で実質的な探偵役「僕」の思考は、数世紀前の歴史上の魔物がらみの事態にまで及ぶので、そこら辺がほんのちょっとだけややこしいかも。(まあ新本格パズラーの変化球ものとしては、フツーともいえるか?)
 
 弱点は作者の世界と推理の作りこみは感じるものの、そのため説明が理に落ちすぎて謎解きミステリとしてのカタルシスが希薄になってしまったこと。そういう読み方をしてはいけないのだと思いつつも、これだけ本作固有の魔法のロジックを積み重ねられると、受け手側は最後の方は黙って説明を聞くばかりという感じであった(汗・涙)。
 あと、やや特殊な舞台装置なので、城内(城郭の跡)の見取り図を掲載して欲しかった気も……。

 (中略)なオチを含めて、最後までいっきに読ませて、うなずきながら本を閉じられる感覚はあるが、一方で作者に振り回されたまま終わった印象めいた部分もなくはない。たぶん評価は、そこをどうとるか。

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