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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1208 6点 椿姫を見ませんか
森雅裕
(2022/05/20 14:55登録)
 自意識過剰な芸術科の学生達のキャラクターは上手く描かれている。ミステリとしてはさほどでもないかと思いつつ読み進んだが、ラストの “椿姫” 本番の場面はスリリング。ここだけで評価三割増しだ。諸々の事件の要因について、“そんな物の為に何人も死んだのか!” と言う虚しさとか嘆きとかが作中にもう少しあっても良かったのでは。
 再読。水墨画の場面は泡坂妻夫作品だと記憶違いしていた。


No.1207 5点 日曜の夜は出たくない
倉知淳
(2022/05/20 14:54登録)
 ♪日曜の夜は出たくない/日曜の夜は外に出たくない/死体になりたくない(「かなしいずぼん」たま)
 と言うのが表題の元ネタ。
 このシリーズも最初はなかなか鋭かったなぁと再認識。猫丸先輩のキャラクターが鼻に付かないし、ユーモアが意想外のところに潜んでいてちゃんと笑える。

 但し「生首幽霊」は何か変だ。
 ネタバレするけれど、バラバラ殺人を決行した主犯男と共犯女。この共犯女の役割は何か(“殺す際に手足を押さえる” 等の作中言及されていない事柄は考えないものとする)?
 ①被害者を部屋に引き止め、酔った被害者が騒がぬように、殺す頃合いまで監視する。これは “被害者と親しい同性” でないと難しい。②主犯男が死体切断をしている間に、切り取った部分を車に運ぶ。――これだけ。
 ②は主犯男一人でも出来るよね。そして①→被害者を部屋に引き止めて殺したのは、犯行現場を警察に誤認させる為だ。犯行現場を誤認させたかったのは、共犯女のアリバイ工作の為だ。
 すると、“アリバイ工作の為に共犯女を引き入れ、共犯女の為にアリバイ工作をする” と言うおかしな状況になって来る。共犯女って必要?
 主犯男は自身のアリバイは確保していない。それは “被害者とのつながりは水面下のものだから、それを辿って自分に捜査の手が伸びることはない” と高をくくっていたから。ならばトリックを弄さずに通り魔的に殺して逃げるのが最も安全なのである。
 作者のミスの仕方が寧ろ面白かったりして。

 「空中散歩者の最期」について。アレは数値のミスであって、だから大目に見ると言うわけではないが、それを以てしてアイデア自体が不可と言う程でもないと私は思う。


No.1206 7点 凍える島
近藤史恵
(2022/05/15 11:55登録)
 語り手の不安定な部分と物語の流れがリンクしているのは大きな強み。生活感の薄い人物ばかり集めたのも、駄目な大人達が駄目な大人達であるが故に起こってしまった事件と言う感じで、だからこそ動機が説得力を持ち、巧みな選択だと私は思う。


No.1205 7点 貴族探偵
麻耶雄嵩
(2022/05/15 11:54登録)
 再読だが、内容をすっかり忘れていた。おかげで(特に「こうもり」を)丸々楽しめて嬉しかった。忘れっぽいのはステキなことです、そうじゃないですか。
 「加速度円舞曲」で、或る手掛かりに関する情報が犯人の口からもたらされている。嘘を吐いてバレたらアウトだから仕方ない。真相を踏まえて読み返すと、自ら首を絞めざるを得ない皮肉さがポイントの一つなのに、作者はサラッと書いちゃってるな~。


No.1204 6点 陰獣
江戸川乱歩
(2022/05/15 11:53登録)
 割と普通、だと思ったら最後にやられた。
 と言う筋立てはいいんだけど、人物描写はどうなんだろう。Aが実はBだったと言われて、“成程、確かにそんな感じだ” とは思えなかった。理詰めで可能性を示されただけって感じ。あの人の匂やかな言動から私がそこをもっと読み取るべきだったか。
 水死人を突き刺した意外な凶器には驚いた。


No.1203 5点 腰ぬけ連盟
レックス・スタウト
(2022/05/15 11:52登録)
 幾つか名場面は確かにあるのに、それらをつなぐ部分が文字通りツナギの役目しか果たしていない。作品の性格を考えれば、そこからもっとユーモアを汲み取れて然るべきだと思うが、私が鈍いのか。
 ネロ・ウルフは依存症のようにビールを空ける。アーチーがミルクばかり飲むのは何らかのキャラクター付けなのか、当時の米国の普通の食習慣なのか(“何か飲みますか” “ではミルクを” って人、現代日本にはあまりいないと思う)。

 訳文で気になったところ。原文に当たりました。
 問題の作家の『悪魔は最後の人をさらう(Devil Take the Hindmost)』と言う書名。これは “早い者勝ち” みたいな意味の諺で、take が原型なのは命令文だからで、従って訳はちょっと間違い。
 13章(HM文庫版192ページ)。“燕を掘ったあとの穴” とは? 原文を見ると turnip =蕪、を掘ったあとの穴。
 18章(284ページ)。“栗鼠のシチュー” は squirrel stew で、間違いではなさそう。検索していたら “米大統領某氏の好物だった” なんて記事も。美食?
 そして原文では判らないこと。Chapin の発音はチャピンでいいのか? 洋楽リスナーならメアリー・チェイピン・カーペンターの名が浮かぶところ。まぁ固有名詞だからね……。


No.1202 5点 紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪
歌田年
(2022/05/15 11:51登録)
 ミステリとしてはたいしたものではない。ただ全体的に妙な前向きさが感じられ、しかもそれがプラスに作用している。面白さとは別の部分でそれなりの好感度だ。薀蓄小説としての説明的な記述は下手ではなく、ソレを維持したままもう少し味わいを出せれば、と期待したい。移植についての説明には少々変なところがある。


No.1201 8点 ヒッキーヒッキーシェイク
津原泰水
(2022/05/09 11:50登録)
 読者を小器用に引っ張る手管が、“小手先” と言う感じではなく、小説としての好感度は悪くない。描かれるのは謎のプロジェクトに関わる思春期的な群像劇。
 但し緻密さよりも個々のパーツの美味しさ重視。ラストでも収斂より発散を志向しており、こういう小説観では、〈ルピナス探偵団〉シリーズのような、形式としてのミステリには向かないよな~と変に納得。


No.1200 7点 捜査線上の夕映え
有栖川有栖
(2022/05/09 11:49登録)
 地味な事件を味わい深く書いている。事件そのものより後半の旅行記の方が印象に残っていたりして。動機に関わる心情に説得力がある。
 こういう “偶然の再会” は好きじゃないけど(もしかしてソレが無いと事件は解決出来なかった?)、そういうもの全部込みでの地道な捜査の物語でパズラーの枠組みを適度に壊すのは面白い。


No.1199 7点 名探偵の証明
市川哲也
(2022/05/09 11:48登録)
 事件全体が “名探偵” の存在を前提に構築された広義の “作り物”でラストにひっくり返す。またこのパターンで来たか(マイナス)、ってなもんで驚きは無かった。それはそれとして良く出来ている(プラス)とは思う。
 基本的には好きなタイプ。その上でプラスとマイナスが拮抗。
 殺人犯が “近付くと自殺するぞ” と牽制するのは有効なのか?


No.1198 4点 一寸法師
江戸川乱歩
(2022/05/09 11:47登録)
 確かに江戸川乱歩の世界、ではあるが、それ以上の突出したものは感じられない。何より肝心の一寸法師と事件との関わり方が “アレッ、そんなもん?” て感じでがっかり。


No.1197 6点 パノラマ島奇談
江戸川乱歩
(2022/05/09 11:47登録)
 妻は島に閉じ込めれば済むのであって、殺す必要は無かったよね。その点にどうしても譲れない状況や心情がきちんと設定されていると良かった。
 パノラマ島の様相は盛り過ぎで胃もたれする。モテキ神輿? なんて思っちゃ駄目だよ私。


No.1196 6点 シャーロック・ホームズの事件簿
アーサー・コナン・ドイル
(2022/05/03 12:22登録)
 ミステリとして「ソア橋の怪事件」、奇譚として「ライオンのたてがみ」「覆面の下宿人」、ユーモアSFとして「這う男」が良い。

 と言うことで、コナン・ドイルによるシャーロック・ホームズ譚を一通り再読。私にはこのシリーズ、チャック・ベリーのように思えた。
 1.強烈なキャラクター性と先駆者ゆえの有利なポジションによって、後進に直接間接の大きな影響を誇る。
 2.引き出しは決して多くはなく、しばしば使い回しが見受けられる。
 3.原典よりかっこいいカヴァー・ヴァージョンが多数存在する。


No.1195 5点 バラバの方を
飛鳥部勝則
(2022/05/03 12:20登録)
 ムード良しキャラクター良し。印象的な台詞や場面が幾つもある。抽象的な動機や、それとは対照的なタブローの形而下的メッセージも可笑しく、かなり好き。しかし。
 計画的犯行であり、犯人は必要な道具類を予めホームセンターで購入している。それなのにアレだけは現地調達で、それが(唯一の?)手掛かりとなって犯人確定。
 と言う不自然さは私にとって無視出来ない瑕疵で、評価を大幅に下げざるを得ない。


No.1194 5点 安楽探偵
小林泰三
(2022/05/03 12:19登録)
 Lazy Detective ――どういうことだろう。明らかにこの連作短編のうち幾つかは、作中で示された真相とは別の真相が仄めかされている。しかし最終話に至ってもその “真の真相” が語られることはないままだ。
 確かに “読者に対して親切に書かないことが読者に対する親切” みたいな芸風の人ではあるが、一体何があったのだろうか。

 考えられる可能性は以下の通り。
 1.ものぐさな作者は最後まで説明するのが面倒になった。
 2.“真の真相” が某国の機密に関わっていた為、最終話を差し替えられた。
 3.この問題点への対処法によって読者を選別している。選ばれた読者は泰三の国へ迎え入れられ幸せに暮らせると言う。


No.1193 5点 魔王城殺人事件
歌野晶午
(2022/05/03 12:17登録)
 今にも子供が戻って来るかもしれない状況でデジカメに偽装工作、と言うのはサーヴィス精神が過剰かな?
 机に刻みこまれていた“19845150OU812” は知名度がどの程度あるんだろう。VHのアルバム・タイトルですよ。


No.1192 3点 猟人日記
戸川昌子
(2022/05/03 12:14登録)
 何か変だ。
 ネタバレするけれども、ドンファン本田一郎が罠に掛けられ有罪判決、二審の弁護士が調べ直すと、背後に怪しい人物が浮かび、しかしそれはダミー犯人で真犯人は別にいた、と言う話。
 さてそれでは、ダミー犯人は誰に対するカムフラージュなのか?
 
 警察の見解は “殺人犯=本田一郎” で、ダミー犯人を認識すらしていない。
 素直に読めば、冤罪だと信じて調べる人間が現れ、血液型の関係者に辿り着くことまで見越して、予め彼に対するミスディレクションとして背後にホクロの女をちらつかせたことになる。でもその結果、弁護士は “この事件には裏がある” と思ったのだから本末転倒である。それだとまるで “本田一郎に濡れ衣を着せる計画を露見させて、その犯人としてホクロの女を警察に差し出すこと” が真犯人の真の目的だったみたいだ。
 記述に曖昧な部分があり、それも含めた好意的な解釈として、“復讐の動機を持ったこの女が羨しくなり、果ては私がこの女になり変ったらと考えはじめていた” と書かれているように、真犯人の思い込みによる精神的融合、カムフラージュではなく変身願望の発露、みたいな考え方も可能だが、それならそこをもっと読者に強調すべきでやはり苦しい。

 だからこう言うしかない。本作では、読者のメタ視線に対する偽装工作を真犯人が非メタなまま行っている。
 読者が “冤罪” を前提に読み進めることを利用した、意図的な引っ掛け――だったら面白いけど、それは無いよね。作者のミスだ。


No.1191 8点 殺戮にいたる病
我孫子武丸
(2022/04/26 13:20登録)
 気持悪い! グッジョブ!
 些細なことだが、途中から協力する記者に特別な動機付けが無く、作者にとっての作劇上便利な手駒に過ぎない点はバランスが悪い。いつの間にか消えちゃってるし。実はこの本が彼の書いたルポって設定? それは無いか。


No.1190 7点 妖都
津原泰水
(2022/04/26 13:20登録)
 拡散しつつ収斂して、めまぐるしく点と点をつなぐスピード感。毒を脳の隙間にねじ込むような語り口。出番の少ない人物でもキャラクターは濃厚。ただ、ラストがな~。いくら作者本人が“終わりきっちゃっている”つもりでも、これでは単にピリオドの打ち方を知らなかっ


No.1189 7点 ゼロ時間へ
アガサ・クリスティー
(2022/04/26 13:19登録)
 レディ・トレシリアンなる古い考え方の石頭キャラが、ACの手に掛かるとそこそこの好感度と共に読めてしまうのが不思議。
 3章の8。トマス・ロイドがバトル警視に仄めかす “考えられる唯一の人物には、あの殺人を実行するのは不可能だった” って誰のこと? そしてその後、警視がテッド・ラティマーについて語るが、いつ彼のことをそんな風に知った?
 計画の概要とか偽の手掛かりとかEQみたい。

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