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ミステリの祭典

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幻坂

作家 有栖川有栖
出版日2013年04月
平均点6.50点
書評数6人

No.6 8点 虫暮部
(2023/01/06 11:25登録)
 読みながら六回泣いた。泣けば良いってもんじゃないけど。作中から引用すれば、ここにあるのはまさしく “道理を抜きにした確信” の嵐。自由な翼を手にした如くハズレ無しの作品集。有栖川有栖がミステリを選んでしまったことで、日本は優秀なホラー作家を一人失っていたんだな~。

No.5 5点 パメル
(2021/12/13 09:15登録)
大阪に実際ある「坂」を舞台にした7編の怪談と時代ものの怪談2編の9編からなる短編集。この世のならぬものとの出逢いを郷愁と叙情あふれる筆致で描き出している。
「清水坂」死の報せに不吉ながらも美しいものを重ねた怪談の様式美が際立つ。
「愛染坂」作家を目指した二人を穿つ女の死に、男の心情の揺らぎと郷愁が幽玄の再開を引き寄せる。
「源聖寺坂」とある別荘での幽霊騒ぎに、探偵が怪異の存在を前提にした転倒推理が素晴らしい。
「口縄坂」この世ならぬ世界への一線を越えてしまったがゆえの脱怪談式幕引きがおぞけを誘う。
「真言坂」幽霊との出逢いと感動的な別れを綴った美しすぎる恋愛譚。
「天神坂」幽霊と歴史ものをまじえたトークが極上のセラピーへと転じる。
「逢坂」視たくてもみることが出来ないあるものとの邂逅を感動的筆致で綴る。
「枯野」俳人の死にまつわる怪異の出来事。
「夕陽庵」重厚な歴史もので締めくくる。
怪談といってもおぞましい話はなく、どちらかというと幻想的で歴史を織り交ぜながら、切なさや無常感が漂う作品が多い。
帯の惹句にある通り、「ジェントル・ゴーストストーリー」であり本格ミステリを期待していると肩透かしを食らうでしょう。ただ「源聖寺坂」は本格ミステリらしい仕掛けの切れと転倒が味わえる。怪異の存在を前提としたからこその黒幕の存在と隠されていた真相が明かされた時の反転に驚かされる。

No.4 6点 まさむね
(2019/03/09 23:36登録)
 怪談話ではあるのでしょうが、怖いというよりも、むしろホロっとさせられる短編が多かったですね。抒情的な筆致もあって、自然に引き込まれました。
 何より、舞台となった「天王寺七坂」を歩いてみたくなりましたね。そのうち、この短編集を片手に訪れてみたいと思います。

No.3 7点 ボンボン
(2016/08/06 00:02登録)
天王寺七坂を舞台にした美しい怪談9話。この七坂は、火村シリーズの作家アリスが住んでいることでお馴染み(?)の大阪の夕陽丘に実在する。
短い物語のどれにも坂にまつわる風物や歴史などが丁寧に織り込まれ、ギュッと胸を絞られる良作ばかり。漫画っぽいものから重厚な歴史ものまで、一話一話趣向が見事に違っている。
(ネタバレあり)
抒情的な物語が進むなかで一瞬だけぴりっと異界を感じる話。あからさまにベッタリと怖い化け物話。死にゆくこと生きていくことを考えさせるもの。
そしてなんと、のちに心霊探偵シリーズになる濱地健三郎探偵が活躍する話が2話入っている。ちょっとだけ「本格」っぽいことを言ってみたりするので可笑しい。
また、火村シリーズの『朱色の研究』に出てくる「日想観」も歴史的背景として重要な要素に。
一話挙げると、芥川龍之介の『枯野抄』の裏バージョンである『枯野』がいい(賛否が分かれた作者の某作品への返し技が効いていて溜飲が下がる)。

No.2 7点 makomako
(2016/03/27 13:14登録)
 有栖川氏の作品なので当然本格物と思ってネット購入したのですが、この作品集は本格ミステリーではありませんでした。だからといってよくなかったわけではなく、むしろ作者の大阪に対する愛情やそこはかとない美しさがあり、満足でした。
 ちょうど大阪へ出張しているときでしたので、時間を作って坂と天王寺へ行ってきました。最近流行となりつつある真田幸村の戦死したところにたつ神社もありました。
 なるほど。大阪にもこんなしっとりしたところがあるんだ。

No.1 6点 白い風
(2013/05/29 22:49登録)
大阪にあるそれぞれの坂にまつわる9編の短編集ですね。
鎌倉・江戸時代の物から現代の大阪を扱った物まで多彩でしたね。
松尾芭蕉の最期を扱った「枯野」が面白かった。

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