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ミステリの祭典

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誘拐殺人事件

作家 S・S・ヴァン・ダイン
出版日1956年12月
平均点4.29点
書評数7人

No.7 5点 虫暮部
(2023/01/12 12:05登録)
 木に登って見張り(10章)。
 振り子運動が止まるまで一時間、ゴム栓が乾くまで一時間半、と根拠が非常に薄弱な推論(12章)。
 等、ヴァンスとマーカムの言動が “趣味の捜査ごっこ” って感じ。かと思えば三人殺しは何か有耶無耶になりそう。これは作者の公権力に対する批判的な反骨精神の表れなのである。多分。

 兄の義妹に対する隠れた(隠せてない)恋情を考えると、事件への対応は難しいところ。弟に対する情は当然あり、死んでいれば良いと思う程に非情なキャラクターではないだろうし、そんな態度を彼女に見せるわけには行かないが、チラリと心をかすめて困ったりもしてそう。
 読み返すと(ヴァン・ダインにしては)そのへんちゃんと解釈可能な書き方になっていると言えなくもなかったり。

No.6 3点 レッドキング
(2020/11/20 22:55登録)
資産家のろくでなし次男の身代金誘拐事件。あまりにも明白な「狂言」誘拐の証拠群に一人疑義を唱え、「偽装」狂言誘拐の殺人事件と指摘するファイロ・ヴァンス。これまた分かり安い犯人で・・けして「グリーン家」「ガーデン」みたいに容疑者キャラからして分かり安いって言うのではないが、かれらと同じ事やらかして実に分かり安くて。
※本格のキモが密室殺人ならハードボイルドのそれは行方不明(誘拐)てことで、ここではヴァンスもチョビッと「ハードボイルド」して・・軽く3人射殺しちゃった。
※ヴァンスの「今ならワーグナーの二幕に間に合う」てセリフに思わずニヤり。

No.5 4点 クリスティ再読
(2020/05/10 21:44登録)
ミステリライターは言うまでもなく、表現者にとって「ハッタリ」って重要なものだと評者は思うんだ。「ハッタリも実力のうち」ってね。本作はヴァンスも自信なさげだし、アレクサンドライトと紫水晶についてウンチクしだすけど、すぐにやめちゃう。作者がヴァンスに飽きてきたような、テンションの低さを感じるんだが.....まあペダントリやウンチクも、自分に自信があるからできることで、全体に自信喪失している雰囲気が濃厚。
まあこんな状況で、面白い謎解きとか期待しちゃ、いけない。実際売り上げが低下してきて、対ハリウッドでも強いことは言えなくなり、逆に「銃撃戦でも入れてみたら?」とか言われてやってみた、というところだろう。本作の売り上げ低迷で、ヴァン・ダインもシリーズの主導権を失って、ハリウッドからの企画ベースでしか本が書けないようになってしまう...そりゃ、やる気なくすよね。

個人的にはスニトキンに一杯飲ませるシーンが何か好き。子供の頃にヴァン・ダイン読んで、刑事たちの名前も一生懸命覚えたのが懐かしい。スニトキン、エメリー、バーク、ヘネッシー、ギルフォイル...キャラ描写とか下手だから、名前だけのキャラなんだけど、チョイ役でシリーズ中繰り返し繰り返し登場するから、愛着もでる(苦笑)。国際色豊かな名前に、移民社会を感じるよ。そういうと、本作中国人がでてきて、井上勇訳が昔のことで結構差別的。この人国策通信社の偉いさんだったんだけどねえ...

No.4 4点 ボナンザ
(2019/01/20 10:01登録)
悪いわけではないが、目新しいところも感じられない凡作。

No.3 6点 青い車
(2017/02/24 18:46登録)
 9作目の『ガーデン』までならともかく、この『誘拐』以降は大方の人から「駄作ばかり」と言われがちで、本作の発表当時の評判も散々だったとのことです。しかし、僕はそれほど酷い出来とは思わない、それどころか結構好きです。プロットは常套的といば常套的で、ヴァンス独特の推理も見られないなど難点は多いものの、作者の新たな路線を打ち出そうという苦心の跡である、誘拐殺人を扱ったユニークさは素直に面白いと言えます。とりわけ、ヒース部長が『ベンスン』の頃とは比べものにらないほど魅力的になっているのが感じられる銃撃戦のくだりがツボでした。というわけで、個人的には少なくともこの10作目までは読んで損はないと主張したいです。

No.2 4点 nukkam
(2016/06/09 17:44登録)
(ネタバレなしです) 1936年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第10作ですが、サスペンス小説に流れやすい誘拐と本格派推理小説の謎解きを組み合わせようとする努力は評価したいものの、彼の作風に合わないハードボイルド小説要素まで織り込もうとしたのは失敗だったと思います。もともとこのシリーズは知識教養を豊富に織り込み、スリラー系が主流だった当時のミステリーとは一線を画していたことが成功要因だったと思いますが本書はそういったイメージと微妙に乖離していて、とはいえ通俗というほど開き直ってもいないので中途半端な作品に感じます。当時の評価も散々だったようです。駄作とまでは言わないまでも、後期のヴァン・ダインはレベルダウンしてしまったと言われても仕方のない出来だと思います。

No.1 4点
(2010/07/12 20:57登録)
一般的な評価では、ヴァン・ダインの中でも『グレイシー・アレン殺人事件』と最低作の座を争う作品です。しかし、久々に読み返してみると、前半は意外に楽しめました。
怪しげなところがずいぶんある誘拐事件に始まり、中盤の身代金の受け渡しから第2の誘拐事件と、緊迫感は感じられませんが、気楽に読んでいける話になっています。ヴァンスの薀蓄披露もほとんどありません。ヴァン・ダインは重厚じゃないと駄目という人には、当然不満でしょうが。
プロの犯罪者が登場して、後半の機関銃掃射、最後の銃撃戦など、ハードボイルドからの影響で新機軸を狙ったのでしょうが、真相の意外性ではハメットより平凡です。
決して誉められた出来ではありませんが、駄作というほどでもないと思いますので、この点数。

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