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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1938件

プロフィール| 書評

No.1738 4点 鍾乳洞美女殺人事件
南里征典
(2024/06/27 12:26登録)
 キャラクターはそれなりに立っている気がする。しかしこんなに芝居がかった脅迫劇を計画するか? 多分に読者の視線を意識した演出であって、例えば犯人がもっと愉快犯なら許容出来たかも知れない。


No.1737 8点 盤上の敵
北村薫
(2024/06/22 12:39登録)
 結局自己保身じゃないかと言う印象を避けるには相応のやむにやまれぬ事情が求められ、すると “傷付けられた人” が必要になる。状況のヘヴィさは単なる飾りではなく、騙しの構造上必然的なものである。しかも、この物語の奥にこんな痛快なトリックが潜んでいるとはなかなか思わないから、目晦ましとしても機能している。
 そう考えて納得はしているものの、あの人物の “弱さ” には苛立ちを覚えた。と正直に書いておこう。


No.1736 7点 兎は薄氷に駆ける
貴志祐介
(2024/06/22 12:38登録)
 被告人の狙いがそうなら、読者にとって最も意外な展開はこうかな? と考えた真相が的中した。でもそうやって先の読めているプロットを面白くスラスラ読ませる筆力はたいしたものである。
 自分が被告席に座っていたら、とも考えた。きっと余計な揚げ足を取って心証を悪化させるに違いない。一番笑ったのはここ。

 “被告人には偽証罪が適用されないことをご存じですか?”

 はい、たった今あなたが教えてくれたので知っています、と答えちゃいそう。


No.1735 5点 ミステリーズ
山口雅也
(2024/06/22 12:37登録)
 これは、ミステリではないから『ミステリーズ』と名付けたのか。言ったもん勝ち的な、アンディ・ウォーホルのスープ缶とかマルセル・デュシャンの泉みたいなものか。変に大上段に構えず普通の短編集として読めば、幾つか非常に面白いものも含まれているのだけれど、トータルなコンセプトが成功しているとは思えない。


No.1734 5点 悪霊島
横溝正史
(2024/06/22 12:37登録)
 おぉう、このプロローグ。この短さなのに、心を鷲摑みにされた。
 ところが後が続かず。話の本筋もなかなか進まず。まことに自烈体。
 ラスト4分の1でようやく面白くなる。コレやれるなら最初からやってよ。
 しかし思えば、このおどろおどろは犯人サイドのごく一部で共有されていたに過ぎないわけで、物語全体が黒々と染まらないのも仕方が無い。
 いや、仕方が無いのは作者がとても素直な書き方をしているからで、このプロット、今時の若手なら視点の転換や叙述トリックを駆使して全編スリリングに仕上げられるんじゃないだろうか。

 ところで、プロローグを録音した “テープレコーダー” って何だろう。
 本作は雑誌連載が1979年(78年末?)開始だが、作中の時代設定は1967年。その時期に普及していたのは、オープンリールテープ。一箇所、“カセット” と言う文言が使われているのは作者のミスだと思うがどうだろうか?


No.1733 5点 複製症候群
西澤保彦
(2024/06/22 12:36登録)
 〈ストロー〉はどこかで川と交差しているわけだから、溺れて流されたサトル1号がいずれ接触してコピーが生まれる筈。水中に生み出されたコピーは直後、流れに煽られてまた〈ストロー〉に触れてしまう可能性が高い。するとコピーのコピーが生じ、それがまた〈ストロー〉に触れてしまう。と言う風に多重コピーが繰り返されそう。
 と言うのが伏線になると思ったんだけどなぁ。

 結局、人間のコピーは、生じたらすぐ殺しておくのが正解だろう。と言うか誰かがその結論に辿り着くのを期待していた。
 ミステリではなくパニックSFだと思えばまぁ許容出来るか。


No.1732 7点 愛と髑髏と
皆川博子
(2024/06/14 12:59登録)
 幻想的な犯罪的な短編集。理屈で割り切れない機微をロジカルに(?)描いているものが幾つか。割り切れないまま描いているものが幾つか。“判らなさを楽しむ” にはあまりにも人間が生々しいので、“何故そうなる?” と口走ってしまう私。修行が足りません。


No.1731 7点 渋谷一夜物語(シブヤンナイト)
山田正紀
(2024/06/14 12:58登録)
 発表順ではない作品配列がなかなか効いているんじゃないか。サスペンスから少しずつ捩れて条理が失われ、徐々に足場がズレて行く感覚で意識がキーンと冷えるようだった。“幕間” で一旦リセットしたのが異化効果と言えなくもない。平均値の高さ故に却って突出して目立つ作品は無いが、「死体は逆流する」の “動機” が出色と言うか何と言うか。


No.1730 7点 垂里冴子のお見合いと推理
山口雅也
(2024/06/14 12:56登録)
小説のユーモアとはしばしばメタ的なものになりがちだと思う。例えば “垂里冴子” なるネーミングにしてもストレートに笑えるわけではなく “そういう洒落ですよ” と言う作者の意図を読者が共有することで成立しているのである。
 本作をユーモアの側面から見ると、その辺の匙加減はやや甘いけれど、“共有” へ読者を誘う居心地の良い雰囲気作りに長けておりそこに救われている。中でも冬の章の類友エピソードが良い。
 まぁその割に深刻な真相ばかりだが……。


No.1729 6点 浴槽で発見された手記
スタニスワフ・レム
(2024/06/14 12:56登録)
 積み重なる不条理劇は、体制批判である、社会風刺である、世界そのものの隠喩である、スパイ合戦そのものが一歩引いて見れば無意味な道化芝居である。そりゃあ判るよ。でもあまり安易にそうやって済ませて何でもアリに堕するのも考えもので、手綱は相応に締めておく必要もあるなぁと私は少々反省したのだ。作家を甘やかしてはいけない。

 本作は、ナンセンスのヴァリエーションが増えたのと、不条理さが徐々にグレード・アップして行く構成のおかげで、『捜査』よりは読み進めるハードルが低い。静と動のバランスで読ませるセンスも良い。作者も学習したんだと思う。
 しかしラストをきちんと纏めていないので、形式を模倣しただけ、思わせ振りに答えをチラつかせただけ、と言う疑惑も拭えないのである。


No.1728 5点 仮面舞踏会
横溝正史
(2024/06/14 12:55登録)
 横溝マナーを排して “普通の” ミステリを書こうとしたような作品。強烈な個性はマンネリズムと紙一重なわけで、違うことをやりたい気持は判る。分厚くて展開が地味、なのにスイスイ読めたのは流石の筆力。
 しかし、“これもまた良し” とならないのが表現の残酷なところ。本作を読んで、やはり横溝はおどろおどろの表層こそが本質(変な言い方だけど)なのだと改めて思った。読者を怖がらせようと言う意志が無いと、ここまで半平みたいにフヤフヤした歯応えになるなんて。


No.1727 8点 VR浮遊館の謎ー探偵AIのリアル・ディープラーニング
早坂吝
(2024/06/07 13:18登録)
 こいつは参った。ダミー推理に誘導されて “見破ったり” と鼻を高くした途端に本命で撃沈。割と細かいネタまで拾えた心算だったのに、それが皆フェイクだとは……ただ、妙にのんきなラスト・シーン。ゲーム性のイメージが強過ぎて、実際に人死にが出ていることが忘れ去られちゃってない?


No.1726 6点 ぼくらの世界
栗本薫
(2024/06/07 13:18登録)
 私は、全てをメタ化しかねない “狂言芝居” は本格原理主義者にとって寧ろ鬼門じゃないかと思うのだ(→探偵役がマッチポンプではない証明が出来ない)。だから全ての始まり、あの人がああいう計画を立てた、と言うことがどうも腑に落ちない。
 “ぼくら” のモラトリアムの終わりに、人の “業” の事件を重ね合わせたのも、ちょっとズレている気がする。確かに薫くんは当事者だけど、信とヤスは時系列的に重複するだけの別エピソードって感じで、エピローグが浮いてるじゃないか。

 ところで、冒頭でミステリ6作のネタバレ予告をしているが、本当に問題なのは筒井康隆『大いなる助走』である。結末の展開をバラしてるんだもん。


No.1725 8点 ぼくらの気持
栗本薫
(2024/06/07 13:17登録)
 “行きあたりばったりの犯行” と言う設定の恩恵に作者も甘えたか、少々雑な真相ではある。状況証拠ばかりで、あの人を教唆者=主犯であると断じるには弱くない? “誰が何をどこまで知っているか” は重要な視点だが、情報がどこでどう伝わるか網羅するのは困難で、客観的な扱いの難しさも無視出来ないと思う。
 しかし人物と時代風俗の描写はグンバツ。サブカルのC調なフィーバーと表裏一体たるナウなヤングの普遍的青春の蹉跌がビューティフル。


No.1724 6点 雀蜂
貴志祐介
(2024/06/07 13:16登録)
 楽しめた。一言のボケも無いのに全編がスラップスティックな喜劇。緊迫すればする程に可笑しさは募る。と言うのが作者の意図で、ラストは無くても良かったオマケじゃないかなぁ。


No.1723 5点 六月六日生まれの天使
愛川晶
(2024/06/07 13:16登録)
 記憶喪失を題材にすると此処は何処私は誰と言った手続きにどうしても一定の紙幅を取られてしまうので似通った印象になりがち。きちんとしたルールに基づく症状の現われ方は、人間と言うよりAIが誤作動しているようだ。
 真相はさほどの驚きでもなく、どんな話でも一部を隠して語ればこの程度の不可解さにはなるよなぁ、と言ったら意地悪に過ぎるだろうか。
 性描写はカタログみたいであまりエロくない。


No.1722 6点 羅刹国通信
津原泰水
(2024/05/31 15:15登録)
 遺作ではなく、比較的初期に雑誌連載された長編が初単行本化。作者による加筆訂正は行われていないよう。幻視文学と言うか犯罪小説と言うか “罪の意識” 小説。
 解釈がどうのと言う以前に、灼熱の異界が強烈。墨井先生も危うげで目を惹かれる。放置したままのエピソードもあって、結末はこれで良いと思うが、寧ろ中盤に入るべきもう一山が行方知れずになっている感じ。その意味でやはり未完。


No.1721 6点 時計じかけのオレンジ
アントニイ・バージェス
(2024/05/31 15:14登録)
 この主人公には同情や共感が毛ほども抱けない。“体制の犠牲者” みたいな側面を加味しても尚、自業自得だと思う。
 第3部4章、ミリセントにぶちのめされて、助けを求めた先で更に皮肉な再会があり、困惑の状況に絡め取られる。私は “そうか、こういう形で袋小路に追い詰めることこそ作者の狙いだったのか” と胸を躍らせたのだが、御都合主義的な流れで解放されてしまった。えー、そんなんでいいの?
 幻の最終章の是非など些細な問題で、その前、第3部6章の生ぬるさが大問題。主人公が全身不随になって、口述筆記で書かれた回想がこの本、と言う叙述トリックなら良かったのに。


No.1720 5点 捜査
スタニスワフ・レム
(2024/05/31 15:13登録)
 警察小説と言うか “警察(の)小説”。捜査内容ではなくその外枠をウダウダ描くコンセプトは良いが、描かれる内容がさほどでもないので前半で飽きてしまった。作者に思索的なイメージがあるので深読みしたくなるらしいが、イヤイヤこれは “脱線だけする物語” と言うメタ的ユーモアによってミステリの形式主義を揶揄しているんでしょ。


No.1719 5点 光源氏殺人事件
皆川博子
(2024/05/31 15:12登録)
 “オブセッション” なるアイデアは光る。しかし物語の奥の方に折り込み過ぎ。なかなか表面に出て来ないので、それに対するアクションと併せて最後にドバッと説明する形になってしまった。せめて物語中盤で明かさないと、驚きをしみじみ味わう暇も無い。
 しかも謎解きが非常に駆け足なので、作者にとっては “推理小説形式にすれば多少は売れるから” と言う、恋愛模様を書く為の方便に過ぎないのではないか、と思ってしまった。

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