kanamoriさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:5.89点 | 書評数:2426件 |
No.2306 | 7点 | 髑髏の檻 ジャック・カーリイ |
(2015/08/18 20:08登録) 長期休暇を取ってケンタッキー山中でひとり大自然を満喫していたカーソン刑事は、携帯電話に女性の声で事件発生の知らせを受ける。訝りながら現場の空き家に向かったカーソンが発見したものは、世にも異様な工作を施された惨殺死体だった----------。 アラバマ州モビール市警察のカーソン・ライダー刑事を主人公とするシリーズの第7作。(ひとつ前の6作目はシリーズ番外編のようで未訳になっています)。 相棒のハリーと離れてカーソンの単独行動となるのは、ニューヨークが舞台だった「ブラッド・ブラザー」と同様ですが、今作ではケンタッキーの渓谷、大自然を背景に猟奇的な連続殺人を描いているのが目を引きます。 地元の保安官や州警察にFBI捜査官が加わり、捜査の主導権争いとなるのはまあ定番と言えますが、そのなかの地元警察の女性刑事チェリーの男前すぎる言動がいい味を出していて萌えますねw また、カーソンの実兄で天才的殺人鬼ジェレミーの意外な登場と、それに関連するお茶目な仕掛けには驚くより笑ってしまいました。やはりこのシリーズはジェレミーが出てきて捜査を引っ掻き回す展開になると面白さが増すように思います。 本格ミステリというよりスリラー要素が勝っているように思いますが、今作も期待を裏切らない出来栄えという評価。ちなみに、犯行を告知する謎の記号”=(8)=”の意味については、カーソンより先に気付きました。 |
No.2305 | 5点 | 怪盗グリフィン対ラトヴィッジ機関 法月綸太郎 |
(2015/08/16 00:04登録) ”あるべきものを、あるべき場所に”、を信条とする怪盗グリフィンの今回のターゲットは、伝説的SF作家P・K・トロッターの未発表原稿「多世界の猫」。ところが、持ち主の大学教授に接触をはかるも、猫のぬいぐるみを着た謎のグループに襲われ、原稿を奪われてしまう----------。 怪盗グリフィン・シリーズの第2弾。 回収を依頼された原稿を巡って、謎の集団やCIA、ペンタゴンなどの組織が絡む謀略ものの冒険スリラーというのが基本プロットなんですが、なにせ題材がフィリップ・K・ディックをモデルにしたSF作家による架空の量子理論SF小説なので、有名な思考実験”シュレーディンガーの猫”のパラドックスをはじめ、波動関数の収縮、多世界解釈やら、量子コンピューターなどの難解な最先端科学ネタが満載、かなりハードSF寄りの作品になっています。謀略スリラーとして読んでいても着地点はもろにSFなので、ミステリを期待すると残念な読後感になってしまいます。最後に飛び出す”トンデモ系”のネタは『ノックス・マシン』に通じるテイストを感じました。 ロダンの「考える人」像にあるイタズラ書きが、ブルース・リーの名セりフ”Don't think, Feel!”(©「燃えよドラゴン」)なんてギャグが出てくるように、作者の稚気と遊び心を楽しむべき作品といえそうです。 |
No.2304 | 6点 | 網にかかった男 パトリック・クェンティン |
(2015/08/14 18:08登録) 都会での仕事を辞めて田舎で絵画の制作にとりくむジョン・ハミルトンだったが、虚栄心が強い妻リンダは、そんなジョンに対し強い不満を抱えていた。やがて、アル中のリンダは、夫による虐待という虚言を周りの人々に吹聴し、突如失踪してしまう--------。 晩年のパトQ(ウィーラー単独)がこだわり続けた”悪女もの”テーマのサスペンスです。 周りの住民のみならず、警察からも妻リンダ殺害の容疑をかけられたジョンは、隠れ場所に身を隠し容疑を晴らそうとするという、前半の展開は新味に乏しく、ありきたりのサスペンスという感は否めません。リンダの病的な悪女ぶりは強烈な印象を残しますが、主人公の心情描写は(ちょっと構図が似てなくもない)フィルポッツの「だれコマ」などと比べても、深みに欠けステロタイプの域に止まっています。 しかし、隠れ場所で身動きが出来ないジョンに代わって、知り合いの近所の子供たち5人を使い調査させるという、中盤以降の展開はちょっとユニークで面白いです。その中のひとりの幼女が、ある事に嫉妬してジョンの居所を密告しそうになるところなど、事情が理解できない子供ならではのサスペンスといえます。 謎解きやどんでん返しの妙味は乏しいものの、サスペンスとしてはまずまずの出来栄えと言えるのでは。 |
No.2303 | 6点 | 柳生十兵衛秘剣考 水月之抄 高井忍 |
(2015/08/12 22:52登録) 男装の女武芸者・毛利玄達と柳生十兵衛との腐れ縁コンビが、廻国修行の途上で遭遇した”剣客と剣の流派”にまつわる3つの謎を解いていく、本格ミステリと剣豪小説を合体させた連作短編集の第2弾。 「一刀流”夢想剣”」は、柳生新陰流とともに将軍家のもうひとつの御流儀である小野派一刀流の宗家・伊東一刀斎の秘密を題材にしている。”小金ヶ原の戦い”などの背景となる史実に疎いためもあって、この”意外な正体”がいまいちピンとこない。 「新陰流”水月”」は、密室状況の湯場での剣豪の変死事件という不可能犯罪もの。ハウダニット以上に、その時代を反映した凄まじい動機が印象に残る。文句なしに編中の私的ベスト作品。 「二階堂流”心の一方”」は、幻術を思わせる兵法”心の一方”の謎の使い手を巡って、異端信仰もからむ伝奇時代小説風の作品。玄達の女性ならではの推理というところがミソで、この秘密は十兵衛には謎解けない。 収録3編いずれもが実在の武芸者などの史実に基づきストーリーが構成されているので、その知識があればもっと楽しめたと思える。どちらかというと時代小説フアンのほうがフィットするかもしれない。 |
No.2302 | 7点 | 悪魔の羽根 ミネット・ウォルターズ |
(2015/08/11 00:00登録) ロイター通信社の女性記者コニーは、取材先のバグダッドで元傭兵の英国人に遭遇し、拉致監禁されてしまう。その男マッケンジーは、2年前にアフリカの地で少女5人を殺害した真犯人だと彼女が疑っていた人物だった。コニーは3日後に無傷で解放されたが、なぜか監禁事件の証言を拒否、英国に帰国しドーセット州の農村に一軒家を借り隠れ住むという行動をとる----------。 小説の主題や物語の本筋が途中まで読んでもなかなか掴み難いミステリです。 あらすじ紹介からは、”サイコパスVSヒロイン”という定型の構図のサスペンスと受け取られかねない(実際、そのような展開にもなります)が、読者の予想を裏切り、コニーの一人称で語られる物語は、バートン・ハウスというコニーが借り住む古屋敷の所有関係者と近隣住民の軋轢、人間模様が中心となります。その中でも、古屋敷の使用人の家系で、農場主の女性ジェスとコニーの一風変わった信頼関係が終盤の急展開の伏線となっているのですが、本筋からずれていくように見える中盤は、別々の2つ小説を一緒に読んている感じで、戸惑ったり退屈を覚えるかもしれません。 しかし、心理サスペンスから本格ミステリ風に変貌し主題が見えてくる終盤はやはり圧巻と言えるでしょう。ネタバレぎみにはなりますが、主人公=被害者=容疑者(真犯人?)=探偵役という趣向はもとより、ある人物の明示されない処理など、読書会などで語り合いたい要素が多い作品です。 |
No.2301 | 6点 | 九十九本の妖刀 大河内常平 |
(2015/08/08 18:32登録) 日下三蔵編「ミステリ珍本全集」の7巻目(第2期の第1回配本作品)。 「九十九本の妖刀」「餓鬼の館」の長編2本に、密室ミステリの隠れた名作「安房国住広正」ほか7編の短編が併録されています。刀剣の蒐集、鑑定家としても知られる作者らしく、収録作はいずれも刀剣がらみのややマニアックなラインナップになっています。 表題作の「九十九本の妖刀」は、東北の山間で旅芸人一座のストリップ嬢2人が何者かに拉致されるという発端から、エロ・グロ、猟奇的な場面が横溢する伝奇ミステリの怪作。噂にたがわぬ異様な内容ながら、文章、構成とも意外としっかりしていて楽しんで読めました。 「餓鬼の館」は、新しく赴任した水戸の陸軍師団長の一家が、広大な屋敷の中に棲みつく怪異に対峙するといった怪奇ミステリ。刀鍛冶〇〇の末裔とか、女性ばかりを拉致する謎の集団など、基本プロットは「九十九本の妖刀」となんとなく似ている気がする。 「安房国住広正」は、密室状況の刀鍛冶場の控えの間で、刀匠の弟子が不審死するという内容のガチな本格ミステリ。ディクスン・カーを髣髴とさせる雰囲気と、(推理クイズ本にも採られた)密室トリックが印象に残る不可能犯罪ものの傑作短編です。 そのほかの短編は「妖刀記」「刀匠」はじめ、刀鍛冶そのものを素材にした奇譚や犯罪小説で、ちょっとマニアック過ぎる感じがしました。 |
No.2300 | 5点 | 誰かの家 三津田信三 |
(2015/08/08 00:06登録) 『赫眼』『ついてくるもの』と同系統のホラー短編集の3作目。雑誌「メフィスト」に2012~14年に発表された6編が収録されています。 今回は、すべてミステリ(謎解き)の成分がない純粋な怪奇譚で揃えていますが、率直に言うと前2作ほどは楽しめなかった。とりわけ、「つれていくもの」「あとあとさん」「ドールハウスの怪」などは、これまでの作品の焼き直しのようなネタで、マンネリ感は否めない。ホラー小説の性格上、話の落としどころがある程度透けて見えてしまうのはやむを得ないとはいえ、もう少しヒネリがあっても良かったのではと思えた。また、作者のホラー好きが高じて、本筋に入る前の薀蓄じみた前口上が徒に長くなっているのが気になった。 作者が知り合いから怪異話を聞くという構成のものが多いなかで、三津田自身が怪異に見舞われる「湯治場の客」がまずまずと思える出来栄えで編中の個人的ベスト。総毛立つようなサプライズを味わえる某シーンがなかなか忘れがたい。次点は、丑の刻参りを逆の視点で描いて恐怖を駆り立てる「御塚様参り」あたり。 |
No.2299 | 5点 | 猫入りチョコレート事件 藤野恵美 |
(2015/08/06 19:44登録) 弱小タウン誌のアルバイト編集員・真島は、取材先の”猫カフェ”で密室から従業ネコが消えた事件に遭遇する。そんな貴島の前に現れたのは、チャイナドレス姿の謎めいた美女。書道家の胡蝶と名乗る彼女は、中国の思想家”老子”の言葉を引用し、たちどころに謎を解いていく--------。 ”日常の謎”を扱った軽い語り口の連作ミステリ。 「店でいちばんかわいい猫」では、密室状況から消えた猫の謎、「幻の特製蕎麦」では、地元出身の文豪が愛したソバ屋はどっちか?、「ヒーローの研究」では、強奪された一億円の行方、「猫入りチョコレート事件」では、お菓子のオマケに付いている猫のフィギアを巡る騒動など5編を収録していますが、いずれも伏線が分かりやすいため、謎解きという点では全く歯応えがありません。いわゆる”ユルミス”ですね。また、老子の引用が事件の真相を示唆しているという作者の狙いがいまひとつわかりずらく効果を上げていない感じがします。 胡蝶の周りに出没する敵の正体や、街から猫が消えていく謎など、連作を通した伏線が、本書で回収されないまま終わってしまったのは肩透かしというか........。つまりは、続編の「老子収集狂事件」も読んでください、ということなんでしょうけど。 |
No.2298 | 6点 | 八番目の小人 ロス・トーマス |
(2015/08/04 00:02登録) 第二次大戦後のドイツ。元OSS大尉ジャクソンは、小人のルーマニア人と組んで、一攫千金を目当てに、戦時中に行方不明になったユダヤ人富豪の息子クルトを捜しだそうとする。しかし、そのクルトは米英ソ三国の情報部が追う凄腕の暗殺者だった--------。 シリーズ・キャラクターが出てこない単発物のクライム・ノヴェル。 主人公は、戦後定職につかずドイツで放蕩の日々を送っていた元OSS(戦略事務局)大尉ジャクソンと、小人のルーマニア人で小悪党のプルスカーリュの二人。 ロス・トーマスの小説の魅力は、なんといっても登場人物のひとクセもふたクセもある個性的なキャラクター造形にあります。本書では、胡散臭い小悪党でありながら、何故か憎めない小人のプルスカーリュが特徴的ですが、それぞれの思惑で殺し屋クルトを追う各国の諜報部員ら、その他の脇役も十分魅力的に描かれています。 物語は終始、嘘と裏切りが飛び交うコンゲーム的な展開ながら、それでもロス・トーマスにしては基本プロットがストレートなので読みやすいほうだと思います。ラストでどんでん返しを仕掛けてきそうなところも、割りとあっさりした終わり方なのは好みの分かれるところかもしれませんが。 |
No.2297 | 6点 | キングレオの冒険 円居挽 |
(2015/08/02 11:34登録) 京都の日本探偵公社に所属する超人探偵、”キングレオ”こと天親獅子丸と、従兄弟で推理作家志望の助手・大河のコンビが、”現代の悪”が仕掛けた謎とトリックに挑む連作ミステリ。 コミック雑誌を思わせる紙質と装丁で、手を出すのを躊躇わせるかもしれませんが、(内容的にもそういうノリが感じられなくはないものの)意外とまともなパズラー連作でもあるので、安心してお買い求めくださいw 「赤髪連盟」「踊る人形」「まだらの紐」など、各編いずれもシャーロック・ホームズ譚をモチーフに、それらを擬える事件になっているのが面白く、”正典”を読んでいればより面白さが増すと思います。 助手・大河のミステリ小説新人賞応募と違法賭博のからくりが繋がる「赤影連盟」、麻薬取引の意外な暗号手法が独創的な「踊る人魚」、正典というよりカーター・ディクスンのある作品の変奏曲のような「なんたらの紐」など、トリックと伏線の妙でそれなりに楽しめました。 個人的ベストは、大河の妹の恋人・城坂論語の殺人容疑を巡って、伝説の老探偵と対決する中編の最終話。 ルヴォワール・シリーズの作者らしい読み応えのある推理バトルがなかなか圧巻です。 |
No.2296 | 6点 | 風花島殺人事件 下村明 |
(2015/07/30 18:36登録) 大分県の離島・風花島に住む家族を捨てて、別府で若い愛人と暮らしていた元網元の花紋鶴吉が失踪した。愛人の糸代からの依頼を受けた私立探偵・葉山は、調査をするうちに、時を同じくして鶴吉の正妻が風花島沖の海上で殺害死体で発見されたことを知る--------。 「本格ミステリ・フラッシュバック」からのセレクト。というよりも、ほとんど無名だった作品にもかかわらず、ミステリ研究家の山前譲氏が「必読本格推理30編」に選んだことで一部で話題になった昭和36年初出の作品です。今回復刊された日下三蔵編の「ミステリ珍本全集」第8巻で読みました。 同じ大分県沖の離島が舞台ということで、読む人によっては「十角館の殺人」を連想させたり、また複雑な家系の網元一家からか、”地味な「獄門島」”などとも言われたりしているようですが、”孤島での連続殺人”という設定は同じでも、当然ながらプロット、作風ともに全く違います。もともとが大衆小説を多く書いていた人だけあって、文章が手慣れており読みやすいのが良点です。そのぶん全般的に通俗的な感じは否めないのですが。 本格ミステリとして見て、メイントリックはそれほど独創性があるとは言えないものの、台風の襲来という設定を活かしたトリックは悪くはなく、伏線の張り方もまずまずだと思います。ただ、解決編が意外とあっさりしていたのが残念ですね。あと、珍本全集の月報にある山前譲氏の「お詫び、あるいは言い訳」というエッセイが愉しい。(なにも、そこまで卑屈にならなくてもいいのにw)。 |
No.2295 | 5点 | 薫子さんには奇なる解を 大槻一翔 |
(2015/07/28 18:36登録) 大分の私立大学に通う”僕”こと桐生は、密室状況の付属図書館から消えた本の謎を解くことで、美人司書の薫子さんと知り合う。推理作家を目指す薫子さんにネタを提供するため、”僕”は新たな謎を探し求める--------。 タイトルの女性主人公の名前を見ただけで、大体どういうタイプのミステリか想像が出来ると思いますが、ライトノベルの”日常の謎”をテーマにした連作短編集です。栞子さん、櫻子さん、薫子さん、ヨリ子さん(←だれ?w)...........清楚で純日本風のヒロイン名というのが当世ラノベ界の流行りなのか? 当連作は、謎解きがミステリ小説を書くためのネタ捜しになっている点がポイントで、「真相がつまらなければ、桐生くんの考えた奇なる解を教えて」と薫子さんが言うように、探偵役に求められているのが、真相というより”面白い解答”であるところがユニークです。収録作のなかでは、同じ時刻に2つの離れた場所に現れる男の謎を扱った「Xを求めて」が私的ベストで、多重解決的な謎解き過程が面白いと思えた。 ただ、突如豹変する薫子さんのキャラ設定はいただけない。よほどのマゾ男性でないと、このキャラクターについて行くのは難しいのでは。 |
No.2294 | 6点 | 完璧な殺人 リレー長編 |
(2015/07/26 10:02登録) 大金持ちの妻の浮気を知ったティムは、彼女を殺害し浮気相手の男を犯人に仕立て上げるという”芸術的で完璧な殺人”を夢想し、5人の著名なミステリ作家に、完全犯罪計画の立案を依頼することに--------。 ティムの要請に応じて完全犯罪のコンサルタントになる英米の著名なミステリ作家とは、ローレンス・ブロック、ピーター・ラヴゼイ、サラ・コードウェル、トニイ・ヒラーマン、ドナルド・E・ウェストレイクの5人。よくもまあ、こんな色物企画に参画したなあと思える巨匠、実力派作家ばかりですw それぞれが手紙で計画案を伝えてくる前半は リレーミステリというより完全犯罪の競作といった趣きですが、後半は一転、楽屋落ちのジョークを交えながら、作家間でお互いの殺人プランをけなし合う、罵倒合戦となるのが面白いです。ほんと作家という人種は、プライド高く、皮肉屋でめんどくさい連中だw ただ、すべて手紙文のやり取りのみで構成されていて、作家たちの直接の絡みがないので、いまいち盛り上がりに欠ける感じもする。どうせなら別のテーマで、各作家が創造したシリーズ・キャラクターを共演させたらもっと面白くなったかもしれない。泥棒バーニイとドートマンダーの掛け合いとか、ダイヤモンド警視とリープホーン警部補にテイマー教授の推理合戦、なんて想像するだけで楽しそう。 |
No.2293 | 6点 | 交換殺人はいかが? 深木章子 |
(2015/07/24 21:50登録) 推理作家志望の小学6年生・樹来(じゅらい)は、元刑事の祖父から過去に関わった怪事件の話を聞き出すや、「そんなことじゃないと思うんだけどなあ」と、独自の推理を披露する---------。 安楽椅子探偵モノの連作短編集。 樹来(じゅらい)のリクエストに応える形で、収録6編はそれぞれミステリにお馴染みのテーマ------密室、幽霊、ダイイングメッセージ、交換殺人、双子、童謡殺人を扱っていて、作者の長編とはちょっとテイストが異なる本格パズラー志向が強い連作です。 個人的ベストは表題作の「交換殺人はいかが?」で、交換殺人という手垢のついた趣向をヒネリにヒネッたプロットによって意外な構図を捻出しています。 旧家を舞台に2組の双子の男女が殺人事件に絡む「ふたりはひとり」も、複数のミスディレクションが効果的な考え抜かれた良作。双子なら当然アッチ系のトリックということになるのですが.....。 そのほかでは、納得感のあるダイイングメッセージもの「犯人は私だ!」、バカミス系の密室トリックもの「天空のらせん階段」がまずまずと思える出来栄えかと。 |
No.2292 | 7点 | 薔薇の輪 クリスチアナ・ブランド |
(2015/07/22 12:34登録) 女優エステラの絶大な人気は、ウェールズの農場に別れて暮らす障害児の一人娘との交流を綴った新聞連載のエッセイに支えられていた。しかし、米国で服役中の危険人物の夫が特赦で出所し、死ぬ前に娘に会いたいと言ってきたことから、その山間の農場を舞台に悲劇が起きる--------。 作者晩年の1977年に別名義で発表された長編ミステリ。「猫とねずみ」以来、なんと27年ぶりにチャッキー警部が再登場するシリーズの第2作です。 前作「猫とねずみ」は、女性編集者のカティンカをヒロインとしたゴシック風サスペンスで、チャッキー警部は脇役のような感じでしたが、今作ではチャッキーが探偵役の堂々とした謎解きもの、本格ミステリになっています。 文庫オビの「すべては驚愕の結末のために」というキャッチコピーは、やや大げさに煽り過ぎという感があって、真相は驚天動地というようなものではありません。中核の謎は、フーダニットと併せて、消えたエステラの娘”スウィートハート”の消息ということになるのですが、その生死のみならず、そもそも娘は実在するのか?という疑問を含め、あらゆる可能性が検討される。限られた容疑者たちの嘘と真実が入り混じった証言にチャッキーが翻弄され、立てる仮説が三度四度と覆される展開が面白く、ブランド流本格に衰えは感じられません。 ちなみに、本書の中で個人的な一番のサプライズは、チャッキー警部の奥さんが登場するシーンでしたw |
No.2291 | 6点 | 救済のゲーム 河合莞爾 |
(2015/07/20 12:26登録) 全米オープンの開催を2日後に控えたゴルフコースの18番グリーン上で、胴体をピンフラッグで串刺しされた死体が発見される。かつて騎兵隊長が”神の木”の怒りにふれ串刺しされたというインディアン伝承に見立てた殺人なのか?日系三世の破天荒な天才ゴルファー・ジャックが謎解きに挑む---------。 本格的なゴルフ・ミステリの力作だと思います。作者のセールスポイントである”島荘風の奇想トリック”という点ではやや物足りなさがあるものの、ミステリ要素を除いたゴルフ小説というエンタメとして読んでも十分に面白く、2段組み360ページの長尺を感じさせないリーダビリティがあります。「プロゴルファー猿」などの漫画を思わせる非現実的なスーパーショットの演出は好みの分かれるところかもしれませんが。 謎解きミステリとしては、事件の隠された動機がわりと分かり易いと思わせて、どんでん返しを仕掛けてくるミスリードがなかなか巧妙で、ジャックの経歴を活かした心理分析にも納得感があります。 ジャックとキャディのティムとの名コンビの登場がこれ一冊限りというのは勿体ない。ぜひ続編を出してもらいたいものですね。 |
No.2290 | 6点 | ドーヴァー5/奮闘 ジョイス・ポーター |
(2015/07/18 12:50登録) ウィブリー家による寝室用便器の製造販売の成功によって発展した田舎町ポットウィンクルで、そのウィブリー家の一人娘で主婦のシンシアが撲殺された。こんな厄介な事件はロンドン警視庁に任せるにかぎる......だが、やって来たのは不機嫌そうなドーヴァー警部と部下のマグレガーのコンビだった--------。 お馴染み史上最低のお下劣男、ドーヴァー警部シリーズの5作目。 誰からも恨みをかっていない平凡な若い主婦が被害者で、犯人捜しよりも動機捜しがメインとなっている。 なにせ、ドーヴァーは「妻殺しの下手人は亭主に決まっておる」(←よく考えればアタリマエの迷セリフ?)と決め付け、早々に夫を逮捕してしまいますから、フーダニットの興味は最初からありませんw 舞台が”便器の町”ポットウィンクルということで、いつもにまして”トイレネタ”が多い下品なユーモアは好みの分かれるところで、中盤の展開にやや中だるみを感じるところもあるものの、ブラック・ユーモアが漂うオチは本書でも健在です。ただ、シリーズものゆえの”お約束”ネタとして楽しめる部分が多いので、それをマンネリと感じる読者がいるかもしれません。 |
No.2289 | 6点 | 高座の上の密室 愛川晶 |
(2015/07/16 18:40登録) ”神楽坂謎ばなし”シリーズの2作目。教科書出版会社に勤めているアラサーのヒロイン・希美子が、ひょんなことから寄席「神楽坂倶楽部」へ席亭(支配人)代理として出向することに。慣れない役職に戸惑い、様ざまなトラブルにも見舞われながら、周囲の手助けもあって成長していく--------というのがシリーズのあらすじ。 やや薄味の落語ミステリという感じだった前作ですが、今回は噺家(落語)ではなく、手妻(奇術)と太神楽(曲芸)という、いわゆる”色物”芸人を扱った演芸ミステリになっています。中篇2編ともに人情ドラマと謎解きの趣向が巧く融合しており、面白かったです。 「高座の上の密室」では、衆人環視の舞台上の葛籠の中から幼女が消失するという二重密室の謎を扱っている。葛籠抜けのトリックの図解や演芸場の見取り図がほしいところですが、そのハウダニットよりも、前半部に張られた伏線とその回収の妙が読みどころかもしれない。 「鈴虫と朝顔」は、なぜ太神楽芸人は昇進試験で決められた芸を演じなかったのか?というホワイダニットが主軸。演芸場のしきたりと色物芸という伏線を活かした真相はなかなかのもの。落語だとこの設定を活かせられないからね。 |
No.2288 | 5点 | ワシントン・スクエアの謎 ハリー・スティーヴン・キーラー |
(2015/07/14 18:44登録) うっかりミスで紛失した約束手形を回収するためシカゴにやってきたハーリング青年は、ワシントン・スクエア近くの廃屋内で、女性用帽子の留ピンが右目に刺さった男の死体を発見する。その留ピンは偶然出会った女性トルーデルのものと判るが、この殺人事件の裏には、偽札騒動や宝石の盗難事件が絡んでいて---------。 ”史上最低の探偵小説家”という呼び声もあるキーラーが1933年に出した長編ミステリ。通俗スリラー風の展開ながら、終盤に「ちょっと待った!」として”読者への挑戦”が挿入されているのが目を引きます。 殊能将之氏のブログをはじめ巷の評判では、”怪作”とか”トンデモ本”ということだったので覚悟して読み出したのですが、主要登場人物の”偶然の出会い”を多用するご都合主義的な展開には苦笑を禁じえないものの、テンポのいいストーリー展開で、それなりに楽しめます.......途中までは。 でもねぇ、さすがにこの解決編はいかんでしょうwww 真犯人や殺人トリックに繋がるような伏線はいったいどこに? 読者への挑戦状にある「公明正大なる提案」とは何だったのか!--------さすがに版元もこのままではまずいと思ったのか、気を効かせて装丁部分にある工夫をしてはいるのですが.....。 |
No.2287 | 6点 | 松谷警部と三ノ輪の鏡 平石貴樹 |
(2015/07/12 14:58登録) 元プロゴルファー横手が撲殺された事件を担当する松谷警部の捜査班は、ゴルフ場経営や融資に携わる周辺人物の相次ぐ変死が事件に関連するとみて、失踪した経理部長の行方を追う。巡査部長に昇進した白石似愛は、殺害現場の些細な疑問点から推理を巡らすが--------。 松谷警部&白石巡査シリーズの第3弾。 初期作の純粋パズラー「だれポオ」の頃と比べると、主人公が刑事ということもあって、本格ミステリというより物語の大半が捜査小説といっていいシリーズですが、本書ではますますその様相が強まっているように思います。そのぶん登場人物が容疑者から端役にいたるまでキャラが立っていて、特に今作では所轄の三ノ輪署の新米巡査がいい味を出しています。 とはいっても、最終章の直前で、白石イアイが伏線や手掛かりをひとつひとつ取り上げて繰り出す推理の開陳シーンは読み応え有り、作者の本格ミステリに対するこだわりを感じさせてくれます。 |