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ミステリの祭典

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海外ミステリ・ハンドブック
早川書房編集部・編

作家 事典・ガイド
出版日2015年08月
平均点4.67点
書評数3人

No.3 5点 Tetchy
(2016/09/25 23:23登録)
1991年に早川書房にて編まれた『ミステリ・ハンドブック』は今でも私の必携の書である。その『ミステリ・ハンドブック』を21世紀になった今、新たな1冊を作ろうと企画され編まれたのが本書。実に25年ぶりの刷新である。

本書はランキング形式を排し、カテゴリ別で作品をチョイする形式になっている。いわゆる目利きによるガイドブックだ。
私はこれはこれでいいとは思う。なぜなら最近行われた週刊文春のオールタイムベスト選出も27年前のランキングと上位はほとんど変わらなかったからだ。やはり初期の読書の黄金体験というのはそれぞれの脳裏に鮮烈に印象に残すからいわゆる名作からミステリの世界に入るとその驚きと面白さが常に煌びやかな原初体験として残るからだ。従って今回の早川書房の編集方針には感心したのだが、開巻してすぐに紹介されたのが『シャーロック・ホームズの冒険』であったのにはガクリとするとともに苦笑してしまった。

さて本書ではカテゴリ別にミステリが紹介されていると述べたが、その内容は以下の通り。
「キャラ立ち」、「クラシック」、「ヒーローorアンチ・ヒーロー」、「楽しい殺人」、「相棒物」、「北欧ミステリ」、「英米圏以外」、「エンタメ・スリラー」、「イヤミス」、「新世代」。
上掲の中でやはり特筆すべきは「北欧ミステリ」のカテゴリだろう。昨今の北欧系諸国の作品紹介は実に活発になり、しかもそのほとんどがレベルが高く、年間ベストランキング上位に選出されているが、とうとうガイドブックで一ジャンルを築くまでにもなった。数年前ならば「英米圏以外」で一括りにされていたであろうが、やはり既に認知されてきたということか。しかもそのきっかけを作った『ミレニアム三部作』は「キャラ立ち」にカテゴライズされており、それを除いてもカテゴリーを埋めることが出来るほど成熟していることだろう。
また「イヤミス」がカテゴリーとして別に掲げられていることも興味深い。昔は悪女物とかファム・ファタール物、奇妙な味、鬼畜系などと表現を変えて紹介されてきた作品がこのカテゴリーで集約されている。このジャンルが以後何年続くのか解らないが、数年後にまた紐解いてみて死語となっているか否かを確認するのも一興かもしれない。

ただ今回はカテゴリー別にしたことでH書房作品ばかりが挙げられたのは実に恣意的に感じた。特に多いのがアガサ・クリスティ。4作も収録されている。kanamoriさんもおっしゃっているように3割が他者の作品であることを多いとみるか少ないとみるかは読者次第であろう。私はやはり少ないと感じる。老舗ミステリ出版社であるからその歴史ゆえに出版点数は多いのは解っているが、やはり4割は割くべきだろう。またウィンズロウがニック・ケアリーシリーズや『犬の力』でなくなぜ『ボビーZ~』なのかとかキングがなぜ『グリーン・マイル』なのかとか色々気になるところはあるのだが。

この作品紹介以外にはエッセイが2編と評論が7編続く。しかしそのうち本書のための書下ろしは有栖川氏のエッセイ1編のみで他は全てミステリマガジンで収録されたものの採録であり、瀬戸川氏のジェイムズ評論は『ミステリ・ハンドブック』からの再録である。新たなハンドブックを作ろうと意気込んだ割にはなんとも竜頭蛇尾のガイドブックかと落胆するのもおかしくないだろう。
特別座談会、ジャンル別評論、零れた名作、復刊希望の名作・傑作などもっとミステリを活性化するような企画はあるだろうに、自社の作品を主に紹介し、自社の雑誌の掲載記事を載せて自画自賛している手前味噌感が実に下らなく感じた。
『海外SFハンドブック』の感想にも書いたが、最近の出版社には本当に読みたくなるガイドブックの作り方を知らないのではないだろうか。特にH書房は自社の売上向上のためにやらされているような感じを受けてしまう。本書の約2倍の分量がある『新・冒険スパイ小説ハンドブック』に充実ぶりを期待しよう。

No.2 4点 kanamori
(2015/09/04 19:08登録)
「ミステリ・ハンドブック」(1991年)の四半世紀ぶりの新版と謳っていますが、本書はそれとは全くの別物になっていて、残念ながらコンセプトや編集方針に対して疑問と不満を感じる内容でした。

10のカテゴリーを”ジャンル別”ではなく、キャラ立ち、相棒もの、イヤミス、北欧ミステリなど、かなり思い切った区分けにしたのは分からなくはありません。若い読者を中心に”翻訳ミステリ離れ”が叫ばれる昨今、トレンディな項目で目を惹こうということだと思います。しかし、この恣意的な項目の分類では、たとえ入門ガイドだといえども、十年後まで手元に置き参考にしたい読書ガイドになっているとは思えないのです。「ハンドブック」という限りは系統立てたもの想像していました。往年の翻訳ミステリ読者の嗜好とはズレた近年の〈ミステリ・マガジン〉と同種の迷走ぶりを感じます。
また、作品の選定にも疑問があります。ざっと見たところ100作品の内なんと7割が自社のH書房から出版された作品なのです。そのうちアガサ・クリスティが4作品(なにせ、H書房のドル箱作家だからw)、セイヤーズは最も入門に適さないと思われる「忙しい蜜月旅行」(なにせ、他のセイヤーズは創元だからw)、”北欧ミステリ”では、さほど話題にあがらない作家がチラホラ(なにせ、全部HM文庫だから)等々。
作品選定には杉江松恋氏ら外部の4人が関わっているようですが、それは一種のアリバイ作りだったかと勘ぐってしまう。”編集部が討議のうえ新たな作品を加え.....”というのが曲者なのです。
とはいえ、「文句を言うなら買ってから言え」ともいいますから、書店でチラ見しただけではあまり辛い点数は付けられないのですがw(⇐買ってないのかよ!)

No.1 5点 蟷螂の斧
(2015/08/22 17:28登録)
「おわりに」により~『・・・本書の「海外ミステリ・ハンドブックガイド100」は、≪ミステリマガジン≫二〇一五年五月号・七月号の座談会企画<『新ミステリ・ハンドブック』を作ろう!>で出席者の方々に挙げていただいた作品をベースに、編集部が討議のうえ新たな作品を加え、100冊としたものです。・・・』~ということで、読者アンケートを集計した前回の「ミステリ・ハンドブック(1991年版)との継続性はありません。またカテゴリー別も前回のカテゴリーとは別物となっています。ちなみに、新カテゴリーは<キャラ、クラシック、ヒーロー、楽しい殺人、相棒物、北欧、英米圏外、エンタメ、イヤミス、新世代>夫々から10冊選出されています。自分としては、「密室もの」「クローズド・サークルもの」「アリバイトリックもの」「叙述もの」などのカテゴリー別が欲しかった(笑)。「もはや1大ジャンル・北欧ミステリ」で紹介されている10冊のうち、本サイトで評価されているのが2冊のみで、8冊は未登録または未評価です。よって、初心者向けとは言い難いですね。

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