文生さんの登録情報
平均点:5.85点 書評数:489件

プロフィール| 書評

No.449 8点 ぼくは化け物きみは怪物
白井智之
(2024/09/22 13:45登録)
前作の『エレファントヘッド』は本格ミステリの極北とでもいうべき傑作ではあったものの、あまりにもマニア度が高すぎてついていけない部分がありました。その点、本作は十分に尖っていながらも間口もそこそこ広くて個人的にはいい塩梅でした。5つの短編は特殊設定&多重解決といつもの白井作品であると同時に、1作ごとに趣向が凝っていて読み応えは十分です。
著者ならではのエログロ趣味をミステリの仕掛けとして活用しつくした「奈々子の中で死んだ男」も良いですが、なんといっても圧巻なのは多重解決の新機軸を編み出した「天使と怪物」でしょう。予言と多重解決を結び付けたところが慧眼です。
また、稀代の洗脳犯であるお婆さんと侵略宇宙人との対決を描いた「大きな手の悪魔」も着想がユニークで面白い。


No.448 5点 ササッサ谷の怪―コナン・ドイル奇譚集
アーサー・コナン・ドイル
(2024/09/22 11:38登録)
デビュー短編を含めた14篇収録のコナン・ドイルのマイナー作品集。
幽霊屋敷マニアの主人公が自分の屋敷にも幽霊がほしくて胡散臭い男に幽霊を斡旋してもらう「幽霊選び ゴアズソープ屋敷の幽霊」が英国人の気質を皮肉たっぷりに描いており、面白い。巨大怪獣のような食虫植物が出てくる「アメリカ人の話」もなかなか。しかし、さすがに全体的な古臭さは否めないところ。


No.447 3点 わが一高時代の犯罪
高木彬光
(2024/09/22 09:47登録)
ストーリーは可もなく不可もなくといった感じですが、表題作の人間消失トリックにはただただ脱力しました。


No.446 2点 ネコソギラジカル
西尾維新
(2024/09/22 09:42登録)
戯言シリーズ最終話
『クビキリサイクル』『クビキリロマンチスト』の第1弾第2弾の頃にみられた本格ミステリとしての面白さは微塵もなくなっています。
代わりに世界の終わりを賭けて戦いが繰り広げるバトルものになっているのですが、なんのためにどのように闘っているのか、文章を読んでも皆目見当がつきません。スケール感のない中二バトルはただただ退屈でした。


No.445 5点 マークスの山
高村薫
(2024/09/22 09:28登録)
犯人像や一枚岩ではない警察組織の描き方は臨場感があってよかったのですが、そうした描写に力点が置かれすぎていて、肝心の事件や捜査そのものにミステリ的な面白みをさほど感じられませんでした。大変な力作とは思うものの、自分の嗜好とは今一つかみ合わなかった作品です。


No.444 4点 シンデレラの罠
セバスチアン・ジャプリゾ
(2024/09/22 09:02登録)
本格ミステリ至上主義者だった学生の頃、

ー史上空前のトリック!
「私は事件の探偵であり、証人であり、被害者であり、そのうえ犯人でもあるのです」

という有名な煽り文句にワクワクしながら読んでがっかりした作品です。サスペンス小説も楽しめるようになった今なら評価も変わるのかもしれませんが、フレンチミステリ特有のスタイリッシュなノリはやはり合わないような気がします。


No.443 6点 フェイク・マッスル
日野瑛太郎
(2024/09/16 11:08登録)
あまり一般的でない職業を紹介しつつ、事件の謎を解いていくという、久しぶりの王道的乱歩賞作品といった感じ
若手の落ちこぼれ編集者が疑惑のトレーニングジムに潜入取材を敢行するというメインの話はとぼけたユーモアが効いていてなかなか読ませます。
一方で、女性視点から語られるサブエピソードは(ミステリー要素を高めるために挿入されたものだと思われますが)途中からオチがみえみえでなかった方がよかったという感じ。
この辺りもかつての乱歩賞あるあるパターンで懐かしささえおぼえます。総合的にみればエンタメとしては十分に楽しい作品でした。


No.442 5点 名探偵の有害性
桜庭一樹
(2024/09/08 09:53登録)
桜庭一樹久しぶりのミステリー作品です。
ストーリーは、50歳になったかつての名探偵と助手がYouTubeチャンネルで弾劾されたのをきっかけに過去の事件を振り返る旅に出るというもので、90年代に起きた事件を回想形式で一つ一つ紹介していく連作ミステリの形をとっています。
一見、新本格のようですが本格ミステリとしてはあまり面白くありません。名探偵を時代の徒花として描いているいるせいか、中途半端にリアルで推理もトリックもパッとしないものばかりなのです。
本作はむしろ名探偵という存在を通して世代間ギャップについて語る社会派ミステリーの側面が強い気がします。その着眼点はなかなか面白いのですが、ただそれを語るのにわざわざ名探偵を持ち出す必要あったの?という気がしないでもありません。あと、50歳のコンビが妙に可愛らしく描かれているのは現代ならではで、時代の変化を感じます。


No.441 5点 死んだ石井の大群
金子玲介
(2024/08/25 13:26登録)
白い大きな部屋に監禁された333人の石井たちが生き残りをかけてゲームを始めるというデスゲームものです。ゲーム自体は、カイジとか嘘喰いみたいな駆け引き要素は隠し味程度で、実にあっさりとしています。その代わり、女子供でも容赦なく死んでいくえげつなさは悪くありません。ただまあ、読む前から薄々気がついてはいたけれど、これを本格的なデスゲームものだと思って読むと間違いなく失望します。
以下ネタバレ










一言でいうと本作は多重人格ものです。人格が333人に分裂した石井が本来の自分を取り戻すまでの物語。話としてはそれなりに面白かったけれど、とっくにカビが生えている多重人格オチはそろそろ勘弁してもらいたいものです










No.440 4点 僕は■■が書けない 朽無村の怪談会
阿泉来堂
(2024/08/19 10:27登録)
ミステリー作家志望のホラー作家がとある怪談会に参加し、一見怪異の仕業に見える事件を推理して真相を見破っていくというホラーミステリーです。しかし、語られる怪談がどれもハリウッドのホラー映画並みに派手な展開なので静かにたちのぼってくるゾッとする恐怖を味わうといった怪談ならではの赴きはありません。個人的にはそこが不満。しかも、伏線が割とあからさまなのでオチが最初から見えてしまっていてミステリーとしても楽しめませんでした。まずもって主人公の設定からしてオチはあれしかないだろうという。第一の事件における被害者に関する錯誤もヒントが分かりやすすぎてむしろ、引っかかる奴がいるのかというレベル。


No.439 7点 法廷占拠 爆弾2
呉勝浩
(2024/08/17 16:46登録)
最初から最後までサスペンスに満ちた展開が続く物語は文句なしの面白さです。ただ、1作目におけるスズキタゴサクというキャラのインパクトやどんでん返しの衝撃と比べてしまうとどうしても見劣りがしてしまいます。とはいえ、今後も続いていきそうな気配があるのでシリーズものの2作目と考えれば十分すぎる出来ではあります。


No.438 6点 白薔薇殺人事件
クリスティン・ペリン
(2024/08/03 10:52登録)
16歳だった1965年に占い師から「お前はいつか殺される」と言い放たれて以来、ずっと何も起きなかったのに今になって何者かに殺害されてしまうというつかみは悪くありません。しかも、自分が殺されることを織り込み済みだった彼女の遺言状には「一週間以内に犯人の正体を暴けば、全財産を譲る」と書かれていたために犯人探しゲームの様相を呈してくるという流れも楽しい。ただ、犯人当てミステリーの大傑作と謳っている割にこれといった仕掛けやロジックが用意されていなかったのにはがっかり。ストーリーは十分に楽しめたものの、本格ミステリとしては物足りなさを感じてしまいました。


No.437 5点 夜の挽歌 鮎川哲也短編クロニクル1969~1976
鮎川哲也
(2024/07/26 10:06登録)
倒叙ミステリーメインの短編集。さりげない描写をオチに持っていく手管はさすがの上手さだとは思うものの、なんだか似たようなパターンが多くて単調に感じました。いくつかあったアリバイ崩しものも今ひとつ。50代の作品だということもあって力の衰えを感じます。個人的ベストは不可能犯罪の謎を凝ったプロットで描いた「地階ボイラー室」。


No.436 6点 グッド・バッド・ガール
アリス・フィーニー
(2024/07/20 09:15登録)
ロンドンのケアホームに勤務する娘とそこに入居している80歳の老女との年齢差を越えた友情を軸に、2組の母娘の関係を(ケアホームでの殺人事件を絡めながら)掘り下げていくサスペンス小説です。
小刻みに視点を変えながら4人の関係が徐々に明らかになっていく展開はなかなかに読ませます。キャラクター的には外見が若い娘にしか見えないチャップマン警部が魅力的です。フィーニーの作品にしては後味も良くて全体的に悪くない作品だとは思います。ただ、期待していたどんでん返しが『彼と彼女の衝撃の瞬間 』などと比べると大したことがなくてその辺は残念かな。


No.435 4点 密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック
鴨崎暖炉
(2024/07/15 09:18登録)
シリーズ第3弾の本作は、昭和密室八傑による8つの密室トリックに多重解決の趣向、そしてなんといっても、最後に明かされる壮大すぎるトリックといった具合に、今まで以上にアイディアがぎゅうぎゅうに詰め込まれていました。それだけに、一つ一つが練り込み不足でアイディアを垂れ流しているようにしか思えないのが残念です。最後の大トリックにしてもイメージの壮大さに反し、使われ方がなんだかみみっちくてバカミス的な魅力が全く伝わってきませんでした。それに、一見奇抜な動機もミステリオタ的にはむしろ凡庸で読んでいてうんざりしてきます。

あとは、今までも指摘してきた、「使う意味がないと蔑まれてきた密室トリック」「密室トリックが解明できなければ被告は無罪という判決に日本中が騒然とした」「日本ではそれまで密室殺人は起きたことがない」といったミステリーに関する一連の言説の雑さについてですが、今回は「社会派の作家に密室トリックは考えられない」というセリフが引っ掛かりました。森村誠一とか読んだことがないのかと。

とはいえ、アイディアや発想には光るものがあるだけに、それらをもっと練り込んで完成度が高まっていくことを期待しつつ、今後も作品を追っていきたいと思います。


No.434 7点 明智恭介の奔走
今村昌弘
(2024/07/09 06:04登録)
時系列的には『屍人荘の殺人』以前の話で、主な舞台は神紅大学。そこで起きるちょっとした事件に自称名探偵の明智恭介と助手の葉村譲が挑む剣崎比留子シリーズの番外編です。
本作の面白さのポイントなんといっても明智恭介のキャラクター性にあります。重度なミステリーオタクでトラブルメーカー。迷走しつつも完全なポンコツというわけではなく、たまに見せる鋭い推理と見当違いの暴走を繰り返しながら徐々に真相に近付いていく姿が魅力的です。葉村譲との掛け合いも面白く、優秀すぎるために(出ずっぱりだとすぐに事件が解決してしまうので)途中で行方不明になったり、閉じ込められたりする剣崎比留子よりも探偵としての面白みという点では上かもしれません。
ミステリーとしてもよくできており、5つの短編はどれも高水準。特に大学生らしいノリが楽しい「泥酔肌着引き裂き事件」が個人的にお気に入り。逆に、明智が大学の1回生時における興信所でのアルバイトの様子を描き、唯一葉村の登場しない「手紙ばら撒きハイツ事件」はいつもとノリが違うためか、他のエピソードと比べるとイマイチに感じました。


No.433 7点 奇岩館の殺人
高野結史
(2024/07/01 20:24登録)
被害者役として雇われたバイトを犯人役が殺害して、富裕層のゲストに探偵役を楽しんでもらうリアルミステリーゲーム。
そのカラクリに気が付いた主人公がなんとか殺されるのを回避しようとし、また、運営側もアクシデント続出のイベントを完遂すべく場当たり的な対応に追われるという悪戦苦闘ぶりが楽しい。一方で、本格ミステリとしては最後にちょっとしたどんでん返しはあるものの、そこまで凝った仕掛けがあるわけではありません。しかし、ブラックユーモアを散りばめたクローズドサークルミステリーのパロディとしては十分に面白い作品でした。


No.432 4点 推理大戦
似鳥鶏
(2024/06/23 19:42登録)
個性豊かな名探偵たちが特殊能力を活かしてそれぞれ別の難事件を解決していく前半の展開は結構ワクワクしました。しかし、彼らが集結して共通の事件の解決を競い合う後半になると途端につまらなくなります。展開の都合上、名探偵たちはポンコツと化し、肝心のトリックも凡庸そのもの。前半が面白かっただけにガッカリ感も大きかったです。


No.431 8点 永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした
南海遊
(2024/06/07 07:01登録)
若き貴族の主人公が妹の死を回避するために魔女の力を借りて過去に戻るも、何度繰り返しても妹が殺されるのを阻止できないという、西澤保彦の『七回死んだ男』に似たプロットの作品です。とはいえ、真相自体は『七回死んだ男』とは全くの別物であり、しかも、先行作に負けず劣らず意外性に富んでいるのが素晴らしい。加えて、2つの密室殺人もなかなか凝っており、サブトリックとしては十分満足できるものでした。殺人現場の詳細な見取り図が用意されているのもうれしいところで、探偵趣味を存分に味わえる傑作だといえます。


No.430 4点 迷宮の扉
横溝正史
(2024/06/05 05:29登録)
ジュブナイル作品だとは知らずに読んだので物足りなさを覚えました。
ストーリーや謎解きはそれなりにまとまっているものの、横溝ワールドを期待していた身としては大いに肩透かし。物語には外連味の欠片も感じられず、トリックもジュブナイルということを抜きにして考えれば凡庸そのもの。とはいえ、小学生高学年あたりがミステリーの入門書として読むのであればおすすめです。

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