日本扇の謎 作家アリス&火村シリーズ |
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作家 | 有栖川有栖 |
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出版日 | 2024年08月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 7点 | 虫暮部 | |
(2024/10/31 12:43登録) (ネタバレあり)離れの明かりについて。“ほとんど無意識で電気を消してしまった(だろう)” と言う意見と “すぐ戻ってくるつもりでいたはずなので消灯はしない(=明かりをどうするかは意識的に判断している)” と言う意見が謎解きロジック内で混在している。 前者の推測を認めるなら、後者だって場を離れる時間と関係無く無意識に消した可能性がある。二重基準っぽいのでは。 次男で “颯一”。絶対伏線だと思ったんだけど。まぁ私の知人でも似たようなケースが実在するしね……。 さて本題。脳は何処まで行ってもブラック・ボックスなのである。或る時点で記憶があるからといって、その後の別の時点で記憶が保たれているとは限らない。 何故なら、自動車に撥ねられかけて転倒したから。仮にあの部分がアリスの筆による作中作だったとしても、別れてから見付かるまでに空白の時間帯があるのは確かだ。その間に本当に記憶を失った可能性を否定することは出来ない。 人は “記憶を失くした” と言う嘘を何処までも吐き通すことが出来る。それは裏返すと、本当に記憶を失くしていても “嘘ではない” と客観的に証明は出来ない、と言うことでもある。 つまりこれはちょっとしたリドル・ストーリーで、“嘘ではなかった” と言う一条の希望を作者が残してくれたんじゃないだろうか。 |
No.2 | 7点 | 文生 | |
(2024/09/22 14:18登録) 本格ミステリとしては非常に地味な作品です。 驚くようなトリックも息をのむどんでん返しもありません。 現場は一応密室なのですが、密室ものを期待していると間違いなくがっかりします。 かといって名作『双頭の悪魔』のような華麗なロジックを堪能できるかといえば、それほどでもない。 しかし、それでも小説に力があり、ぐいぐいと読ませるのはさすがです。 まず、記憶喪失の男がある町に現れる冒頭のシーンから読ませますし、事件が起きてからも捜査のプロセスや火村&有栖の掛け合いが魅力的で飽きさせません。 そして、大きな仕掛けやどんでん返しがなくても、巧みなミスディレクションによって読者の目をそらし、予想外の真相に着地させる手管は見事です。ベテランならではの味と深みのある佳品だといえるのではないでしょうか。 |
No.1 | 7点 | HORNET | |
(2024/09/10 20:59登録) 記憶をなくした青年が京都の海岸で発見された。身元を示す手がかりとなるのは持っていた扇だけ。そこから「武光颯一」という名が分かり、実家に帰った青年だったが、その後しばらくしてその家で密室殺人事件が起こる。いったい事件の背景には何があるのか―臨床犯罪学者・火村英生と助手の有栖川有栖は、いつものコンビネーションで謎の解明に向かうが…… 息つく間もなく次々と殺人が起こったり、物語が急展開したり、なんていう凝った仕掛けもなく、起きた事件を淡々と、地道に捜査する至ってオーソドックスな基本形のフーダニットなのに…なぜこんなに読ませる?この作家を私がイチオシで好きなのも、変化球だらけの昨今のミステリ界で、構えずに落ち着いてストレートな「本格」を楽しめるからなのだろうと思う。 <ネタバレ> 密室の謎は、現実的であると同時に拍子抜け。とはいえ、物語の核はあまりそこになく、記憶喪失の青年・颯一の真実や、武光家の内実にあるため、そのことによる失望は特にない。最後の真相まで読んで、やはり出色のトリックや仕掛けがあるわけではないのだが…優れた筆者の文章と、物語全体を覆う謎めいた雰囲気に満足できる。 冒頭で颯一を発見した女性教師が、もう少し物語に絡んでくるのかとも思ったのだが…そこがやや肩透かしを食った点。 とはいえ、3,500円の「愛蔵版」を買ったものの、(ファンだからというのが大きいが)満足できた。 |