home

ミステリの祭典

login
まさむねさんの登録情報
平均点:5.87点 書評数:1230件

プロフィール| 書評

No.630 5点 その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ
吉永南央
(2016/12/03 13:32登録)
 コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を経営するおばあちゃん・お草さんシリーズの第2弾。
 こう書くと、何となく「おばあちゃんが日常の謎を…」と想像させがちですが、いやいや、中身は結構シビアです。「小蔵屋」のライバル店による嫌がらせや詐欺まがいの不動産売買などなど、決して「ほのぼの感」に包まれているものでもない。(まぁ、おばあちゃんが主人公だからほのぼのしてると想像するのは、私の勝手な思い込みにすぎないのですが。)
 なお、前作は純粋な短編集でしたが、本作は連作短編として捉えるべきでしょう。ミステリとしては弱いので、この点数に。


No.629 6点 黒龍荘の惨劇
岡田秀文
(2016/11/27 18:37登録)
 名探偵月輪シリーズ第2弾。
 邸内での連続殺人、わらべ唄見立ての首なし死体、全員が何かを隠していそうな登場人物等々、盛り沢山の内容です。明治という舞台設定とはいえ、さすがに警察も見落とさないのでは…といった点が無いわけではないのですが、ド直球の投げっぷりには拍手を送りたい。
 ちなみに、前作「伊藤博文邸の怪事件」を未読の状態で読み進めましたけれども、特段の支障はございませんでした。なお、伊藤博文、山縣有朋と、歴史上の人物が登場しますが、本書だけでいえば、正直このお二人が登場する意義はあまりございません。前作からの繋がり上、また、明治という舞台設定上でご登場いただいているといったところでしょうか。歴史小説的な要素が薄い分、本格度は相当濃い目に仕上がっています。
 そのうち、このシリーズの前作や最新作(短編集)も読んでみようかな。


No.628 7点 グリーン車の子供(創元推理文庫版)
戸板康二
(2016/11/20 12:58登録)
 老優「中村雅楽」シリーズの短編18作品を収録。小泉喜美子氏・佐野洋氏・巽昌章氏・日下三蔵氏のそれぞれの解説も楽しい。
 ベストは、やはり名短編の誉れ高い表題作でしょう。日本推理作家協会賞に短編部門が誕生し、初の受賞作がこの「グリーン車の子供」だったのですね。勉強不足で知りませんでした…。いったい何が謎なのか、何が事件なのか、そのこと自体が不透明な中、しっとりとした語り口で物語は進行し、綺麗に着地します。まさに、短編のお手本といった見事な作品であります。
 ただし、個人的には、作品の本質とは直接関係しないものの、「新幹線こだま号」に結構な違和感を持ちつつ読了したのも事実。佐野氏の解説でコトの顛末を知ったわけですが、このことも含めて、記憶に残る作品となりそうです。


No.627 2点 ティファニーで昼食を ランチ刑事の事件簿
七尾与史
(2016/11/20 12:33登録)
 約220ページという薄さだが、内容はもっと薄い。正直、これはダメだな。褒めるべき点が見当たらない…。
 「グルメ警察ミステリー」と謳っているので、しょーがなく警察小説に分類してみたけれど、なんだかなーって感じ。作者は一体何をしたかったのだろう。残念すぎる。


No.626 5点 なくし物をお探しの方は二番線へ 鉄道員・夏目壮太の奮闘
二宮敦人
(2016/11/17 22:10登録)
 私鉄・蛍川鉄道の藤乃沢駅(もちろん実在しない)を舞台としたシリーズ第2弾。
 様々な要素を組み合わせてはいるのですが、正直、まぁ甘っちょろい面が多々あることは否めません。うーん、うまく言えないのですけれども、登場人物的にも、ミステリ的にも甘っちょろさが目に付くのですよねぇ。単に私がおじさんだからか?
 とは言え、サラサラと読みやすく、読後感は悪くありません。仕事でお疲れの際など、サラッと読みたい気分の時にはいいかもしれない。総合的に判断し、この点数で。


No.625 5点 萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ
吉永南央
(2016/11/13 22:31登録)
 65歳にして、雑貨屋を建て替え、コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を出したおばあちゃん・杉浦草さんを中心とした物語集。御年数えで76歳という設定であります。
 正直、短編ごとに一定の反転はあるものの、ミステリーと言ってよいものか迷うところです。必ずしも草さんが探偵役を務めているものでもないですしね。
 しかし、「老い」や人生の「負い」を、綺麗事ではなく真正面から捉えているため、ご都合主義的な側面をさほど気にさせず、物語として読ませる作品であるとは思います。主人公の草さんは勿論のこと、脇を固める面々、特に小蔵屋唯一の従業員である久実さんが魅力的だったので、続編も読んでみようかな。


No.624 5点 大癋見警部の事件簿リターンズ
深水黎一郎
(2016/11/08 22:09登録)
 サブタイトルにあるとおり、今回は芸術探偵・神泉寺瞬一郎が登場しますが、正統的メインキャラクターである自分はイメージを崩さないために、このシリーズには登場するべきではないのでは…と自問しながら登場する姿がちょっと可笑しい。
 前作がメタ要素満載バカミスであったのに対して、本作は芸術ウンチク満載バカミスといったところ。美術にも音楽にも疎いワタクシとしては、前作の方が楽しめたかな。ちなみに、大癋見警部と芸術探偵が直接争ったりするわけではありませんのであしからず。


No.623 7点 頼子のために
法月綸太郎
(2016/11/08 21:18登録)
 作者にとって最初の転機を迎えた作品との評価が一般的なようです。確かに、「密閉教室」や「雪密室」とは相当にトーンが異なっていて(すみません「誰彼」は未読でして…)、ある意味では新鮮味を、一方では多少の戸惑いも感じつつ、読了いたしました。
 皆様のおっしゃるとおり、後味は何とも言えない苦みが残りますが、非常に読ませる作品ではあることは確か。でも、探偵・法月綸太郎の行動は、いくら何でもやり過ぎではないかと。これって罪にはならないのか。
 ちなみに、個人的には、法月氏の作品は長編であれ短編であれ、ガチガチ本格系統の方が好きだけれども、「それだけではない」力があるからこそ、傑作が生まれていくわけで、その意味でもこの作品は「最初の転機」と言えるのかな。


No.622 5点 一番線に謎が到着します 若き鉄道員・夏目壮太の日常
二宮敦人
(2016/11/01 18:17登録)
 架空の私鉄「蛍川鉄道」藤乃沢駅を舞台とした連作短編。
 探偵役を務める主人公は駅員の夏目壮太。彼を含め、彼を取り巻く同僚のキャラもよく、軽いタッチでスイスイと読み進められます。
 謎自体は、正直、判りやすかったのですが、「ちょっとイイ話」に弱いワタクシとしては、結構楽しめましたね。鉄道員って何かいいな、と思わせてくれます。(実際はどうか分からないけれども)
 続編もあるようなので、そのうち読んでみようかな。


No.621 5点 凍りのくじら
辻村深月
(2016/10/30 20:05登録)
 長らく、我が家で積読状態になっていたこの作品。先日、富山県を訪れる機会があり「高岡市 藤子・F・不二雄ふるさとギャラリー」を拝見してきたので、これ幸いとばかりに手にした次第です。
 と、いうのもこの作品、「ドラえもん愛」が溢れておりまして、各章のタイトルもドラえもんの道具名に統一されております。ドラえもんの名場面も種々登場し、かなり懐かしい気持ちにさせてくれます。つまりは、読者がドラえもんワールドを知っている前提で書かれているのですが、知らない方は極めて少ないでしょうからねぇ。
 ちなみに、この作者の描くダメ男というのは、他の作品でも感じたのですが、かなり的を得ているというか、鋭いところを突いています。いるいる、こういうタイプといったところ。
 ミステリーとは言い難いけれども、まぁ、読書としては楽しめたかな。


No.620 9点 双頭の悪魔
有栖川有栖
(2016/10/23 22:10登録)
 読者への挑戦を3段構えで配置する贅沢さ(?)ですが、それはそれで意義のあることで、極めて純度の高いフーダニットの傑作と言うべきでしょう。

 豪雨で孤立した木更村には江神とマリア、対岸の夏森村にはアリスら英都大学推理研の面々、その両村で殺人事件が…という、絶妙な設定。個人的には、木更村における江神の役回りも勿論良いのだけれども、夏森村でアリスたちがディスカッションしながら真相に迫る過程が実に楽しかったですね。
 ちょっと気になる点がない訳ではないのですが、このサイトでの評価が高いことは、素直に首肯できます。


No.619 5点 北乃杜高校探偵部
乾くるみ
(2016/10/13 22:58登録)
 京都府宇治市にある名門高校を舞台とした連作短編集。タイトルどおり、5人(男子3+女子2)の仲間たちが「探偵」として謎解きをする…という、極めて典型的な学園青春ミステリー。
 作者らしくなく(?)サラッとしているというか何というか、まぁ、良く言えば爽やかだし、別の言い方をすれば当たり障りがなさ過ぎるかな…という印象。ミステリー度もそんなに高くないですし,肩透かし感が残る短編も正直あります。
 とはいえ、自分の高校時代にシンクロするところもあり、読み心地も悪くなかったので、この点数にしておきましょう。


No.618 6点 言霊たちの夜
深水黎一郎
(2016/10/12 20:35登録)
 4編で構成される、「日本語」をテーマにした短編集。全てとある一夜の出来事で、各話に緩やかな繋がりを持たせています。
 まず、第一話「漢は黙って勘違い」が笑えます。アンジャッシュのコント的な面白さも。
 第二話「ビバ日本語!」は、笑わせてもらいながら、結構他言語の勉強にもなったりして興味深い。
 第三話「鬼八先生のワープロ」は、もう、バカバカしさ全開。でも嫌いじゃない。
 最終話「情緒過多涙腺刺激性言語免疫不全症候群」は、主人公の主張自体はよく分かるので、結末としては可哀想だったかな。
 いずれの作品もミステリとは言い難いのでこの点数にしますが、笑いの中にも、言語に対する作者の造詣の深さが垣間見えますし、結構読み得な印象を受けましたね。


No.617 4点 裁く眼
我孫子武丸
(2016/10/08 12:05登録)
 「法廷画家」を主人公に据えた点が、まずは新鮮。そして、連続殺人疑惑がかかる美人被告等の法廷内のストーリー、さらに自分も含めた法廷画家への殺傷事件等々の法廷外のストーリーが組み合わさった上で次々と展開され、終盤前まで期待感が相当に高まったわけです。姪っ子の蘭花ちゃんをはじめとした、主人公の周辺人物のキャラも魅力的ですし、読み心地も良いです。裁判員裁判の勉強にもなります。
 しかしながら、結論としてはいかがなものかと。結構な肩透かし感でしたねぇ。何か、凄く勿体ないような気がしましたねぇ。


No.616 5点 挑戦者たち
法月綸太郎
(2016/10/08 10:22登録)
 皆様大好き(?)な、「読者への挑戦」が99連発掲載されています。
 「こんな『読者への挑戦』はイヤだ!」をはじめ、楽しいといえば楽しい(ものもある)のですが、どうなんだろう、遊び心あり過ぎじゃないのか?という気がしないでもありません。まぁ、これはこれで良しとしても、そろそろど真ん中のパスラーを書いてほしいなぁ。


No.615 5点 メビウスの殺人
我孫子武丸
(2016/10/01 19:03登録)
 シリーズ第3弾。
 「8」、「0」とそれぞれの面白さがあったのですが、この作品はちょっと微妙な印象。本作執筆中に 「殺戮にいたる病」 のプロットが浮かんだとのことで、確かに、背景自体は三作品中最大と言えるのかもしれませんが、活かし方が中途半端といった印象を受けました。とても読みやすい作品ではあるのですが。
 三兄妹や木下刑事のキャラに加え、鬼島麗子刑事の登場による展開も使えそうなので、是非続編を読みたいのだけれど、可能性はないのかなぁ。


No.614 5点 四季 春
森博嗣
(2016/09/29 20:21登録)
 幼少期の真賀田四季が描かれております。タイトルからして想像がつきますが、四季押しがスゴイ。こんな5歳児いるか?…等々、もはやSFと分類したいくらいで、個人的には結構引き気味でしたね。ミステリとしての味付けはあるけれども、S&Mシリーズ及びVシリーズの読者限定の作品と言ってもいいんじゃないかな。作者の作品世界への嗜好度によって、評価は大きく変わりそうです。


No.613 7点 何もかも憂鬱な夜に
中村文則
(2016/09/25 11:40登録)
 正直、ミステリーではありません。
 ミステリー的な謎らしき事項、正確に言えば、ミステリーであれば何らかの解明を期待するであろう事項は、複数提示されるのですが、最後まで特段明かされることはなく、読者の解釈に委ねられています。と、いうか、ミステリーとして読もうとした自分がちょっとおバカってことですね。
 よって、このサイトに書き込むべきか否か迷ったのですが、現にミステリーに属すべき作品も書いている作家で今後の期待も大きいし、何よりもこの作品が心に響いたので、皆様の参考のためにも、思い切って投稿いたします。


No.612 7点 鬼畜の家
深木章子
(2016/09/24 12:25登録)
 法律知識に裏打ちされた安定感、そして人生経験の豊富さを感じずにはいられない人物描写。長年弁護士を務められた作者ならではと言えるのですが、決して法律的なガチガチ文体ではなく、リーダビリティも高いです。60歳を超えたデビュー作ですので、単なる「デビュー作」ということで比較してよいものか、迷うところではありますが、若手には難しいであろう、青春小説では表しようのない人間の感情が滲み出ていて、この点では段違いの感があります。
 全体構成や仕掛け自体は、決して目新しいものではないのですが、潜在能力の高さを感じることができます。(60歳を超えた人生の先輩に対して大変僭越な言い回しですが。)島田荘司氏も解説で述べておりましたが、法曹界など、社会の役割を勤勉に支え続けてこられた方々が、退職後にミステリー界でもう一役担う時代になっているのかもしれません。


No.611 5点 作家小説
有栖川有栖
(2016/09/19 00:11登録)
 このサイトで採点するとなると、なかなかに微妙なのですが、ファンとしては悪くないかな。正直、文庫版解説にある「奇妙な味」とまで評せるかは別として、第一話の「書く機械」と最終話の「夢物語」は印象に残ったかな。

1230中の書評を表示しています 601 - 620