秋の花 円紫さんと私シリーズ |
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作家 | 北村薫 |
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出版日 | 1991年02月 |
平均点 | 7.35点 |
書評数 | 20人 |
No.20 | 7点 | 斎藤警部 | |
(2022/11/13 20:48登録) たった五文字、最後の「台詞」の沁み渡り具合、これに尽きる。。。。 文芸の薫り芬々の言葉選び、比喩、洞察やら煩悶、テーマ性で濃厚に濃密に埋め尽くされた、或る女子高生(主人公の後輩)の死の謎に向かう物語は、挙句いっけん手触りの合わないスーパーな探偵役により、シンプルな真相を呆気なく暴露される。ただ、真相に意外性は意外とあった。そしてその後、ラストシーンへと一歩一歩踏みしめながら至る、万感の生成り色の想いは、光り輝く浄化の真髄を見せてくれる。 教科書落書きのトリック?は、決して取って付けなわけでなく、優しい賑やかしのようなものか。読後振り返れば、これもやはりかけがえの無い癒しのパッチとなっていた。 |
No.19 | 5点 | ボナンザ | |
(2020/10/24 20:26登録) 意外にもあっけない真相ではあるが、そこに至るまでの情緒を味わうべき一作。 |
No.18 | 9点 | Tetchy | |
(2018/07/12 23:58登録) 人の死というのは押しなべて非常にショッキングな印象を与えるが、特に若い命が喪われるそれは殊更に人の心に響く。本書では3つも年が違い、中学、高校時代には一緒の学校にいることのなかった後輩の死が扱われるわけだが、それでも「私」にとって小学生時代に同じ登校班にいた記憶がいまだに鮮明であり、そして何よりも自分より若い子の死が心に響いてくる。 更に誰もが経験したであろう高校生活。だからこそ事件が起きた高校の描写は私を含めて読者をその時代へと引き戻してくれることだろう。特にテーマが文化祭と云うのが憎らしい。あの特別な時間は今なお記憶に鮮明に残っている。 本書はそんな雰囲気を纏って私の心に飛び込んでくるから、なんとも云えないノスタルジイに浸ってしまうのである。 本書に描かれる高校生活は何とも瑞々しく、読んでいる最中に何度も自身の思い出に浸らせられた。それは良き思い出もあれば、後悔を強いる悪い思い出もある。読中、何度自分のやらかしたことを思い出し、読む目を止めたことか。 さて日常の謎系のミステリにおいて初めて人の死が扱われたわけだが、だからと云ってそのスタンスはいつもと変わらない。 探偵役を務めながらも「私」はごく普通の女子大学生だ。だから探偵や警察のように事故の起きた現場、つまり津田真理子が墜落した場所へは怖くて行きたいと思わないし、身分を偽って学校を訪れ、ずかずかと人の心のテリトリーに分け入るわけでなく、あくまで自然体に接する。彼女は昔から知っている子の先輩として憔悴する和泉利恵を助けたいがために行動しているに過ぎないのだ。 秋は夏に青く茂った葉が色褪せ、散り行く季節である。そして木々たちは厳しい冬を迎える。しかしそんな秋にも咲く花はある。秋桜しかり、そして秋海棠もまた。 本書の題名となっている秋の花とは秋海棠を指す。その別名は断腸花と何とも通俗的な感じだが、人を思って泣く涙が落ちて咲く花と最後に円紫師匠から教えられる。 秋海棠の花言葉を調べてみた。片想い、親切、丁寧、可憐な人、繊細、恋の悩みと色々並ぶ中、最後にこうあった。 未熟。 高校生とは身体は大人に変化しながらも心はまだ大人と子供の狭間を行き交う頃だ。大人びた考えと仕草を備えながら、一方で大人になることを拒絶している、そんな不安定で未熟な人々。 この作品は是非とも高校生に読んでほしい。貴方たちの世界はまだまだ小さく、そして未来は無限に広がっていること、そして「生きる」とはどういうことかを知ってほしい。 若くして亡くなった津田真理子は明日を無くしただけだったのか?彼女が生きた証はあるのか?という問いに対する答えがここに書いてある。 ただ生きると云うだけでその人の言葉や表情、仕草が心に残るのだ、と。 そしてそれは真実だ。私には夭折した友人のことが今でも記憶に鮮明に残っている。 だから精一杯生きて青春を、人生を謳歌してほしい。苦いけれど哀しいけれど、本書は高校生たちに贈るこれからの人生への餞の物語だ。 |
No.17 | 7点 | まさむね | |
(2017/06/18 22:04登録) シリーズ三作目で、初の長編作品であります。ミステリという側面よりもむしろ、物語全体の「深み」に脱帽です。 特に、円紫師匠の最終盤のセリフ「許すことは出来そうにありません。ただ~」、そして、津田さんの母親が円紫師匠に語った最後のセリフが印象深いですね。 |
No.16 | 6点 | 青い車 | |
(2016/10/17 23:04登録) 円紫師匠の活躍は控えめですし、長篇にしては薄い本ですが、不思議と充足感が得られます。一応ミステリーらしい謎はあるものの、その奥に論理では割り切れない人間の情が隠れているところに、普段好んでいるジャンルとは別格の感慨が味わえました。読むごとにこのシリーズへの愛着が増していっています。 |
No.15 | 7点 | あい | |
(2010/09/07 04:30登録) このシリーズは内容関係なく読みたくなる。ただこの作品は他の作品と違って、シリアスな展開で不思議な感じがした。 |
No.14 | 7点 | vivi | |
(2009/10/21 02:58登録) いわゆる謎解きミステリとしての迫力は、 確かに弱い気がするのですが、 物語としての厚みが非常に魅力的な作品です。 密室状態だった、殺人なのか? WHO,HOW,WHY・・・そんなことを考えるのに、 罪悪感を覚えるような感じにもなりました。 ミステリ界には、こういう作品があってもいいと思いました。 |
No.13 | 6点 | 白い風 | |
(2009/09/06 22:36登録) 前作もそうですが、この作家のミステリの祭典での評価が難しいです。 人物の著し方や物語の美しさは言うことはありません。 ラストも素晴らしいと思います。 ただ、ミステリとしての採点なるとビミョウですね。 ミステリ以外の描写がいいだけに、ミステリを読んだと云う感動より純文学を読んだという印象です。 だから、前作同様、ちょっと辛目の評価になっています。 |
No.12 | 6点 | マニア | |
(2008/01/05 01:18登録) とにかく悲しい物語。 いつも、いつまでも一緒だと思ってた友達の突然の死と、それが原因で自らも精神を病んでしまった女子高生。 そして、その影に横切る謎の数々が、悲しい結末に向かって集結していく流れは秀逸。 ミステリとしては平凡だけど、物語としては面白い。 |
No.11 | 9点 | ざき | |
(2005/02/21 15:21登録) 事件の謎解きは単純だがぞくりとさせられる。伏線の消化も上手い。 しかし一番素晴らしいのは最後の場面の「救い」だろう。真理子の母と利恵の無言のやりとりがなんとも言えない。なんというか、うまく言えないが素晴らしい。 |
No.10 | 10点 | 北浦透 | |
(2004/11/12 16:53登録) どこに行くのでも一緒だった二人。その一人が不慮の死を遂げたとき、もう一人もまた、精神の死に襲われる・・・。 なんて悲しい事件。しかし、同じ《悲しい》といっても、『盤上の敵』のような《辛さ》はない。「私」や円紫師匠ら、登場人物がみな優しいから。だから、この物語は救われる。この物語に本格ミステリの妙が取り入れられているのは、現代の奇跡だと思う。 『空飛ぶ馬』、そして『夜の蝉』を読んでから、この作品に取り組んでほしい。そして期間があいてもいいので、二度読んでみるといいかもしれない。素晴らしい物語として心に残るだろうから。 |
No.9 | 6点 | 884 | |
(2004/01/26 22:53登録) 三年の冬に先のこととして就職活動を語ってるあたりに時代を感じます(挨拶 前2作が連作短編集だったのにかわり、長編になっております。なかなか円紫さんの合いの手が入らずしっくり来ませんでした。ここまでひっぱっておいてかっさらわれると、おいしいところだけ持ってかれているような気がしないでもないですね。 |
No.8 | 6点 | ギザじゅう | |
(2003/12/17 00:20登録) 長編だったり、事件がおこったりと今までと違った趣き。 発端、調査、そして名探偵(円紫師匠)の登場で丁寧に伏線も張られ、トリックもありとオーソドックスな形に近い。 しかし、謎が解かれたあとにどうするかという北村(節)で一人の女の子の再生を願う話はかくも美しい。 |
No.7 | 9点 | alchera | |
(2002/06/25 20:32登録) 前に書いてある方がいいたいこともわかるつもりですが、これを「救いのない話」と呼んでしまうのは違和感があります。 「誰も悪くないのに起こってしまう悲しい物語」ではありましょうが、それだけではなく。「我輩は猫である」が猫の生活だけを書いている話ではないように。 人生の残酷さという言葉は使い古されてはいますが、そういうものは確かに存在している。それは認識しなければならないこと。でもそれだけが全てだと思ってはいけないということ。そういう話だと思います。 話としては、フロベールを読んでない私には読みにくいところがあったり、円紫さんのバランスがちょっと悪いかなと思ったりもしますが、ここまでうつくしく繊細にものごとを描けることは、なんて素晴らしい。 「泣くために読む」という作品群とは全く違った意味で泣けて仕方ありません。北村氏の作品はプリズムのようなもので(という比喩も手垢がついていますが)人によって響く場面が違うのでしょう。それは作品の持つ厚み。やっぱり感覚の優れた書き手だと思います。 (ミステリというカテゴリーが辛い・・・) |
No.6 | 3点 | セブン | |
(2002/04/22 22:03登録) (ネタバレ) これは救いの無い物語であり、救いの無い小説は書いて欲しくはないのです。「悪意のない行為が引き起こす殺人」程悲しいものはありません。作品の評価以前の問題で評価しているみたいですが、悪意票ではありません。 トリック(?)は樹下太郎の代表作の一つに同じものがあります。 |
No.5 | 10点 | かまやん | |
(2001/11/04 22:40登録) 今までの読書の中、こんなに悲しい事件に出会った事は無い。 切ないけど、厳しいけど、その中にある優しさや人間の持つ真の強さに、救われた作品です。 うまく言えないけど…本当に好き。大好き。 |
No.4 | 10点 | 小太郎 | |
(2001/09/19 13:36登録) 推理小説=推理クイズだと思っている方には勧めない。 推理小説にも感動が必要だと思うなら、こんなに素晴らしい作品は滅多にないと思います。 文句なしの10点 |
No.3 | 9点 | ぽん | |
(2001/08/12 01:03登録) わたしシリーズの中で長篇で、人が死んでしまうという、なんだか北村さんらしくない作品かなと思ったんですが、その『人の死』を優しく厳粛に書いている姿勢はやはり素晴らしい作品だと思いました。 |
No.2 | 7点 | pon | |
(2001/07/24 03:44登録) 前二作に比べ、長篇であるにも関わらずミステリ色が薄い。しかし、それが良かった。ある程度、人間を書き込まないと、このシリーズはただの人情話に堕してしまう。ただ泣くだけなら、山本周五郎で十分だ。 |
No.1 | 8点 | Take | |
(2001/06/24 11:22登録) とても悲しい物語だが、最後の結末ですこしほっとしました。 |