| E-BANKERさんの登録情報 | |
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| 平均点:6.00点 | 書評数:1868件 |
| No.228 | 7点 | 陰の季節 横山秀夫 |
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(2010/04/30 21:23登録) D県警を舞台とした連作短編集。 粒ぞろいの作品集といっていいでしょう。 ①「陰の季節」: 警務課二渡警視が主人公。二渡は他の3作にも登場する本書のキーパーソンです。本作は、元刑事部長が天下り先を辞めない理由について、思わぬラストが控えています。 ②「地の声」: 監察課新堂警視が主人公。ラストの捻りが効いていてなかなか考えさせられます。 ③「黒い線」: 婦人警官にスポットライトが当てられます。女性から見ればこういうのは許せないのでしょうね。 ④「鞄」: 秘書課柘植警部が主人公。組織の中で勝ち上がる厳しさに慄然とさせられます。 普通の「警察小説」は現場の捜査官(刑事とか)を主人公として事件の解決を追っていくのに対して、本書は警察内部の抗争や組織の中の争いを扱っている点が大きく異なっており、そういう意味で「今までなかった警察小説」というべきなのかもしれません。(解説の北上氏も触れてますが・・・) |
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| No.227 | 5点 | 現金強奪計画―ダービーを狙え 西村京太郎 |
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(2010/04/30 21:06登録) スピード感のあるクライムノベル。 1人の青年を主人公に、7人の若者が日本ダービー売上金の強奪に挑みます。 綿密な作戦により、現金強奪計画が成功したかと思いきや、「そうは問屋が卸さない」とでも言うべき展開に・・・ 背景には70年代という時代性を引きずっている部分が見え、この時期の氏の作品らしさが窺えます。 ただ、「暗い」作品ではなく、ラストはまるで映画のワンシーンのような感じ・・・(ちょっと安易ですが) 蛇足ですが、氏の作品としては珍しいくらい「夜の営み」シーンが多いのも本書の特徴でしょうか。 |
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| No.226 | 7点 | 銀行仕置人 池井戸潤 |
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(2010/04/26 23:16登録) なにやら、故藤田まこと主演の時代劇のようなタイトルですが・・・ 作品の内容としては、主人公の銀行員が銀行の上層部に嵌められ左遷→→内部に味方を得て上層部の悪事をあばき、見事に仇を討つ・・・という展開。 作者の長編によくあるパターンです。 本作は、銀行内部の専門的な用語や職務内容に触れている部分が比較的多いため、一般の読者にはやや分かりくい所があるかもしれません。 ただ、プロットとしては銀行版の「勧善懲悪痛快娯楽作品」なので、肩の凝らない読みやすい作品に仕上がっているとは思います。 しかし、銀行って「ドロドロ」したところですね・・・氏の作品を読むとつくづく感じてしまいます。 |
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| No.225 | 6点 | 憎悪の化石 鮎川哲也 |
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(2010/04/26 23:08登録) 鬼貫警部シリーズの代表作の1つ。 本作品もやはり典型的な「アリバイ崩し」ものです。 2つのアリバイトリックが鬼貫によって崩されるわけですが、個人的には2つともちょっと違和感があります。 1つ目のトリックについては、鬼貫の解法こそ鮮やかですが、かなり偶然性に頼った方法のように感じます。 2つ目は時刻表頼みというか、「知識の有無」だけでトリックが成立している点でどうかなぁ・・・という感想。 ただ、トータルで見れば、読んでいて安心感を感じるほどの完成度の高い作品なのは確かだと思いますし、これぞ「鬼貫」物と言うべき作品という評価でいいでしょう。 |
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| No.224 | 7点 | 三つの棺 ジョン・ディクスン・カー |
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(2010/04/26 22:58登録) フェル博士の探偵譚。 言わずと知れた、作者を代表する「密室物」の大作。 ただ、本作品の評価は難しいですねぇ。 特に「密室」の構成については、実現性にどうしても疑問符がつくような気がしますし、トリックに使ったある道具についてもあまりに奇術的要素が強すぎる感じです。 ただ、そういう齟齬を補って余りある「謎」の面白さが本作品にはありますね。 同日に起こった2つの銃による殺人・・・見た目には「不可思議」としか言いようのない状況なのですが、それがフェル博士によって(まるで見てきたように)解き明かされる瞬間は、やはりカタルシスを感じます。 そういう意味で、本作は「密室物」というよりは、むしろ一種の「アリバイトリック」の方が素晴らしいと言えるかもしれません。 有名な「密室講義」は蛇足かもしれませんねぇ・・・ |
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| No.223 | 7点 | 北列車連殺行 阿井渉介 |
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(2010/04/22 20:43登録) 牛深警部(本作ではまだ警部補)の列車シリーズ第1弾。 松島刑事とのコンビも本作からです。 列車シリーズは鉄道に絡めた「不可能状況」の連続がウリのシリーズですが、その点ではあまり高いレベルとは言えないでしょう。 中学時代の同級生連続殺人事件に「竹取物語」のストーリーを絡め、一種の「見立て殺人」的要素も取り入れていますが、残念ながら「怨恨」以外に見立ての必然性はありません。 ただ、雰囲気が好きなんですよねぇ。牛深のキャラクター造形の影響かもしれませんが、読後の余韻が非常に強く残ります。 |
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| No.222 | 6点 | 日曜の夜は出たくない 倉知淳 |
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(2010/04/22 20:35登録) 作者の処女短編集。 猫丸先輩シリーズ。 ①「空中散歩者の最期」: 真相で出てきた図を見ても、今ひとつ納得できなかったんですけど・・・ ②「海に棲む河童」: 趣向は面白い。しかし、猫丸先輩は神出鬼没ですねぇ・・・ ③「163人の目撃者」: 短編らしい作品。この中では割と正統派な作品。 ④「生首幽霊」: タイトルは恐ろしいが、謎自体はやや陳腐な感じ。取り違えはすぐに気付くと思うのですが・・・ ⑤「日曜の夜は出たくない」: 恋人が実は殺人者? というよくある趣向。あまり感心はしない。 というわけで本編7作はまあまあという水準。 ただ、この作品のハイライトはこの後の「オマケ」・・・ でもさすがにそれは気付かないよなぁ・・・ それに気付く人がもしいるなら素直に尊敬します。 |
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| No.221 | 6点 | 後鳥羽伝説殺人事件 内田康夫 |
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(2010/04/22 20:24登録) 作者の長編第3弾は、十津川警部と並ぶ2時間サスペンスドラマ御用達探偵、浅見光彦の初登場作品。 ただ、広島県北で起こった事件の当初は、地元警察の部長刑事が探偵役であり、頭の固い県警の上司とぶつかりながら、自分の推理を信じ捜査を進める・・・ということで、信濃のコロンボ(浅見と並ぶ内田作品の主人公)のような展開です。 ただ、最終的には浅見がほぼ独力であっさり解決してしまいますが、最近の作品にはない「ロジック」が多少は感じられます。(ミエミエですが意外な犯人と言えますし・・・) 後鳥羽上皇の伝説については、軽くさわる程度ですので、その辺りは期待しない方がいいでしょう。 |
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| No.220 | 6点 | Zの悲劇 エラリイ・クイーン |
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(2010/04/22 20:13登録) ドルリーレーン4部作の第3弾。 名作「Xの悲劇」「Yの悲劇」から10年後が舞台であり、レーンは70歳を過ぎすっかり老境に入ってしまい、盟友サム警視は警察を退職し、私立探偵として活躍中・・・ この作品、他の方の書評どおり、読み所はラストシーン。意外な真犯人指摘まで、レーンの怒涛のような「消去法的推理手法」が披露されます。 確かに、この消去法を成立させるための伏線は見事ですし、本シリーズのレベルの高さを感じます。 ただ、途中の展開がちょっとまだるっこしいというか、今ひとつ緊張感に欠けるような部分が気になり、こんな評価になりました。(別にペイシェンスのせいではないと思うんですが・・・) |
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| No.219 | 8点 | Pの密室 島田荘司 |
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(2010/04/16 21:52登録) 御手洗潔の幼年期・少年期の事件を扱った中篇2作で構成されてます。 ①「鈴蘭事件」:御手洗が幼稚園児の頃の事件。まさに「驚異の幼稚園児」です。道化役を演じる馬屋川刑事が何とも哀れで切ない感じ。 ②「Pの密室」: 御手洗、小学生時代の事件。まさに「驚異の小学生」です。殺人事件の舞台となる被害者の一風変わった家については、平面図がふんだんに挿入してあり、いかにも島田色を感じさせます。 直角三角形が出てきた時点で「・・・の定理」については思いつきますが、事件当初の謎の多さはやはり氏の大きな魅力でしょう。本作は密室トリックこそ陳腐ですが、謎の構成とそれを解き明かす御手洗のロジックに惹かれました。 まぁ、御手洗の神格化やあまりにもキャラクター要素が強くなってしまうのは嫌ですが・・・ |
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| No.218 | 6点 | 密室の鍵貸します 東川篤哉 |
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(2010/04/16 21:34登録) 作者の処女長編作。 烏賊川市シリーズの第1作目。 タイトルからは「密室トリックもの」が想像されますが、実際は”凝ったアリバイトリックもの”という方がしっくりきます。 メイントリックについては、まさにアイデアの勝利という感じで、よくある趣向には違いないですけど作者なりの味付けに惹かれます。 ただ、動機や2つ目殺人?はどうですかねぇ・・・ちょっとムリヤリ感が強かったので、そこら辺がデビュー作っぽい部分かもしれません。 有栖川氏の推薦文「ストライクゾーンからストライクゾーンへ鋭く曲がるシュート」というコピーはなかなか「言い得て妙」だと思います。 |
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| No.217 | 5点 | 雪密室 法月綸太郎 |
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(2010/04/16 21:20登録) 氏の長編2作目にして、探偵、法月綸太郎の初登場作品。 今さらながら再読しました。 「う~ん」・・・やっぱりパッとしない印象ですねぇ。 作中でも堂々と触れているとおり、「白い僧院の謎」の本歌取りを狙った作品なのでしょうが、やはりこの段階では作家としての2人の力量(またはオーラ?)には格段の差があるとしか言えません。 トリックも言われてみると成立するのは分かりますけど、特に驚きのないのが致命傷です。 ただ、最近やや影が薄くなっている法月警視の渋い魅力をふんだんに味わえるのが本作の大きな魅力かもしれません(?) |
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| No.216 | 5点 | マンション殺人 西村京太郎 |
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(2010/04/16 21:10登録) 初期~中期頃の作品。 初期作品に割と登場する田島刑事と吉牟田刑事が探偵役として登場します。(メインは田島刑事ですが) どちらかというと、動機探しというかややミッシングリンクに近いテーマを取り扱っています。 全く別の場所で起こった2件の殺人事件・・・共通点は新築の分譲マンションという殺害現場と似通った殺害方法・・・で、やっぱり同一犯でしたという展開。 東京都心のマンションが何と2千万円台(!)という頃の話ですし、今よりも「家を持つ」ことが庶民の夢だった時代です。 だからこその動機ですし、全体としては2時間物のテレビドラマに相応しいようなレベル・・・という印象です。 |
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| No.215 | 7点 | マギル卿最後の旅 F・W・クロフツ |
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(2010/04/08 20:28登録) フレンチ警部物の代表作の1つと言っていいでしょう。 まさに、これぞ「クロフツ流アリバイ崩し」というべき作品です。 特に今回は、舞台がロンドン~スコットランド~北アイルランドにまたがっているため、鉄道・自動車・船という3つの交通手段をフルに利用したアリバイトリックになっています。 話の進展はいかにも「フレンチ警部物」・・・フレンチが容疑者1人1人のアリバイを丹念に調べ、一旦はすべての容疑者にアリバイ成立! かと思いきや、一筋の光明が!・・・という展開です。 まぁ、こんな筋立てが嫌いな人には退屈かもしれませんが、私は好きなので・・・ |
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| No.214 | 5点 | 被告A 折原一 |
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(2010/04/08 20:20登録) 早川書房刊ですが、ノンシリーズの一作。 構成はまぁいつもの「折原ワールド」で、2人の視点が如何にも関係ありげに交互に書かれ、ラストで「実は・・・」という展開。 作品のプロットは、東野圭吾のある有名作品と同種のものですが、出来映えはあちらが数段上のように感じます。 今回は割りと登場人物がマトモな分だけつまらない印象になってしまい、やっぱり氏の作品には「異常な」とか「狂った」人物が出てきた方が、迫力というか面白みが増すような気がしてなりません。 オチもよく分からないしなぁ・・・ |
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| No.213 | 7点 | 動機 横山秀夫 |
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(2010/04/08 20:12登録) いかにも作者らしい短編集。 全4作とも水準以上の出来映えだと思います。 ①「動機」:警察手帳大量盗難事件の動機は何か? 主人公の苦悩と、対峙する一人のベテラン警官の静かな対決が心に残ります。 ②「逆転の夏」:秀作。最後のオチが効いています。人間の弱さが憐みを誘います。 ③「ネタ元」:作者らしくマスコミが舞台。ミステリーとは呼べませんが・・・ ④「密室の人」:途中でオチに気付いた点がやや割引。 他にも秀作が多いので、こんな評点になりました。 |
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| No.212 | 5点 | 水車館の殺人 綾辻行人 |
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(2010/04/02 21:53登録) 「館」シリーズ第2弾。 今さら再読してみました。 まぁ、メインのトリックについては言わずもがなというところでしょうか・・・「ゴム仮面の男」が出てくる時点である程度の想定はしてしまいます。 ただ、初読の際は粗さばかりが目に付いたという印象が残っていたのですが、今回再読してみて、思ったよりは「すっきり」した作品だなぁという気になりました。 ただ、いくら無関心でも、さすがに「執事」は気付くだろう!と思わずにはいられません。 |
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| No.211 | 6点 | 御手洗潔のメロディ 島田荘司 |
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(2010/04/02 21:45登録) 御手洗潔シリーズの短編集。 ①「IgE」:一見して全く関係がないと思われた2つの事件が、御手洗の天才的頭脳によってつながる・・・という筋。本作では一番マシ。ホームズ物っぽい雰囲気。 ②「Sivad Selim」:ミステリーではない。石岡の悲しいほどの小市民ぶりが涙を誘う?作品。 ③「ボストン幽霊絵画事件」:御手洗のボストン留学時代の事件。まぁ水準級というところ。 ④「さらば遠い輝き」:ミステリーではない。御手洗の近況を語る内容。 全体としては、御手洗の超人ぶりを見せ付けられるような作品。あまり感心はしませんが・・・ |
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| No.210 | 7点 | 九尾の猫 エラリイ・クイーン |
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(2010/04/02 21:36登録) いわゆる「ミッシング・リンク」をテーマとした古典の代表作。 一見して全く関係がないと思われた多数の被害者をつなぐ”見えない輪”をエラリーが独特の嗅覚で探り当てます。 ただ、割と早い段階でこの「リンク」が判明してしまうところが玉に瑕。読者としては、もうちょっと終盤まで引っ張ってもらって、ラストで鮮やかに解決!という方がスッキリすると思うんですが・・・ 確かに、ラストでもう一捻りが控えているので、不満一辺倒ではないんですけどねぇ・・・ 動機はちょっと安直かなぁと思ってしまいます。 不満の多い書評ですが、それは期待の裏返しということで、良作なのは間違いないでしょう。 |
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| No.209 | 3点 | 帝銀村の殺人 篠田秀幸 |
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(2010/03/26 20:57登録) 名探偵、弥生原公彦探偵譚の第5弾。 氏の作品は、多くが「過去作品(主に横溝)へのオマージュ+戦後の未解決事件の考察」という形式です。 本作は、タイトル通り「帝銀事件」の再考察をベースとしていますが、オマージュの方はあまり感じませんでした。(一応、作者によれば「病院坂」と「本陣」らしいですが・・・) もちろん、「帝銀事件」自体、謎に満ちた不可思議な事件であり、その推理自体は面白いことは面白いんですが、これは別に作者本人の力量ではなく、過去の同種の研究書のつなぎ合わせであり、本人の考えを若干付け加えた程度、という印象が拭えません。 現代の事件については、動機が全くもって納得できません。特に、帝銀事件を模した大量毒殺事件の動機は「それはないだろう・・・」という気持ちにさせること請け合いです。 まぁ、一言でいえば「凡作」なのですが、「帝銀事件」を知るという価値だけはあるでしょう。 |
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