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平均点:6.00点 | 書評数:1859件 |
No.379 | 5点 | オーデュボンの祈り 伊坂幸太郎 |
(2010/12/22 23:25登録) 作者の処女長編作品。 第5回新潮ミステリークラブ賞受賞作。 ~コンビに強盗に失敗して逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸時代以来外界から遮断されている「荻島」には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、島の法律として殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無惨にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか。卓抜したイメージ力、洒脱な会話、気の利いた警句、抑えようのない才気がほとばしる・・・~ とにかく変な作品。 文庫版では、解説担当の評論家吉野氏が「たいへんシュールな作品」と述べていますが、つまりは読み手によって評価が大きく分かれる作品でしょう。 鎖国状態の島や未来が見えてしゃべれる「カカシ」など、およそ現実感のない独特の世界観・・・まさに「シュール」と言うべき感覚-- 個人的にいえば、この「シュール感」が今ひとつしっくりこなかったというのが正直な感想・・・ 結局、伊坂は何が言いたかったのか?(別にそんな難しい話ではないかもしれませんけど・・・) その辺りが汲み取れませんでした。 ただ、「伊坂幸太郎」という作家を知るには、本作はやはり「はずせない」作品なのは間違いなし。 ”合う””合わない”に関わらず、読むべきなのだろうとは思います。 |
No.378 | 6点 | 七度狐 大倉崇裕 |
(2010/12/17 23:39登録) 「季刊落語」の牧編集長と部下、間宮緑のコンビが活躍するシリーズ第2作。 古典落語の名作に纏わる殺人事件。 ~「静岡に行ってくれないかな」。北海道出張中の牧編集長から電話を受け、緑は単身杵槌村へ赴く。ここで名跡の後継者を決める口演会が開かれるのである。ところが、到着早々村は豪雨で孤立無援になり、関係者一同の緊張はいやがうえにも高まる。やがて後継者候補が1人ずつ見立て殺人の犠牲に・・・あらゆる事象が真相に奉仕する惑う事なき本格テイスト~ 静岡の山奥の村を舞台に、閉ざされたクローズド・サークルで起こる連続殺人、おまけに落語の古典の「見立て」など、本格物のガジェット満載の作品になっています。 「見立て」については、どうしてもその「必然性」を考えてしまうのですが、本作については、トリックや何かを隠蔽するために仕方なくという必然性ではなく、あくまで「動機」や「事件の背景・経緯」と深く関連したうえでの必然性・・・というわけで、まぁ納得はさせられます。 解決編のサプライズもなかなかのものなので、本来ならもっと高評価でもいいかもしれないのですが、個人的には「どうも評価しにくい」感じ・・・ 「落語」というものに全く親しんでないという理由もありますが、クローズドサークル物特有の緊張感とか衝撃が今ひとつ足りないのが原因かもしれませんね。 あと、周りはあの人の正体に本当に気づかなかったんですかねぇ? (落語に詳しければもっと楽しめるのかも・・・) |
No.377 | 5点 | 占い師はお昼寝中 倉知淳 |
(2010/12/17 23:28登録) ぐうたらな占い師、辰寅と従妹の美衣子コンビが活躍する短編集。 犯罪捜査ではなく、いわゆる「日常の謎」系の話。 ①「三度狐」=何とも軽~いお話。その程度、自分で考えても分かるんじゃない? ②「水溶霊」=まぁ、だいたい予想の付くオチ。 ③「写りたがりの幽霊」=これもまた軽~いお話。この程度、自分でもっと考えろ!(パートⅡ) ④「ゆきだるまロンド」=個人的には本作ベスト。まぁその程度の謎ですけど、中年男性の恥じらいを理解して欲しいものです。 ⑤「占い師は外出中」=辰寅が外出中で、美衣子が代わりに占いを・・・というお話。当然失敗しますけど・・・ ⑥「壁抜け大入道」=真相は当然そうなるよなぁ・・・という感想。 以上、全6編。 まぁ、個人的に言えば「好み」からははずれている作品。それなりの面白さ&うまさは十分あると思いますので、こういう手の作品がお好きな方は嵌るかもしれません。 |
No.376 | 7点 | 灰の迷宮 島田荘司 |
(2010/12/17 23:13登録) 吉敷刑事シリーズ。 久々に再読。 ~新宿駅西口でバスが放火され、逃げ出した乗客の1人がタクシーに撥ねられ死亡。被害者・佐々木徳郎は、証券会社のエリート課長で、息子の大学受験の付き添いで鹿児島から上京中の出来事だった。警視庁捜査1課の吉敷刑事は、佐々木の不可解な行動や放火犯として逮捕した男の意外な告白から急遽鹿児島へ・・・アッと驚く犯人像とは?~ タイトルに「灰」がつけば、舞台は必ず鹿児島・・・というわけで、今回も鹿児島という街や人を降灰に絡めて切なく描いてます。 本作、世間的な評価よりも個人的には評価していて、たまたま吉敷刑事シリーズだから割と地味に映ってしまいますが、もし御手洗シリーズとして描かれていれば、もっと派手な展開で評価も違ってたんじゃないかという気がしてます。 それぐらい、ある意味「驚天動地」のトリックというか偶然の連続・・・あえて言うなら「風が吹けば桶屋がもうかる」という格言(?)が頭に浮かんでしまうような偶然(!)が生んだ事件・・・ ただ、ラストは感動的。「涙流れるままに」ほど仰々しくはないけれど、一人の女性の死に涙を流す吉敷刑事を思い浮かべて、何とも言えない気分にさせられます。 留井刑事もそうですが、作者の人物造形の旨さに唸らされる作品と言えそう。 |
No.375 | 8点 | 赤後家の殺人 カーター・ディクスン |
(2010/12/11 20:34登録) H.M物の第4作目。 創元文庫版では不気味な表紙が印象的・・・ ~その部屋で眠れば必ず毒死するという、血を吸う後家ギロチンの間で、またもや新しい犠牲者が出た。フランス革命当時の首斬り人一家の財宝を狙う企てに、H・M卿独特の推理が縦横にはたらく!~ 堅牢な密室や容疑者たちの完璧なアリバイ、血塗られた歴史に彩られた一家、怪奇趣味など、まさに「これぞカー!」と言うべきガジェット満載の作品です。 H.Mを悩ませることになる第1の殺人の毒殺方法については、推理のための材料に伏せられている部分があるため(被害者が○○へ行っていた)、やや不親切かなぁという気がします。 本作については、やはりフーダニットの解法の見事さを味わうべきだろうと思います。 手帳の件や動機についてなど、真犯人を特定できる伏線はきちんと張られてるので、ラストのH.Mの推理に十分なカタルシスを感じました。 途中、フランス革命時代に死刑執行役を務めた一家の歴史(ギロチンですね)などはドロドロした怪奇性も十分に味わえ、乱歩が本作を高く評価していたというのも何となく分かる気がします。 (後家部屋ってそもそも何?) |
No.374 | 5点 | アルバイト探偵(アイ) 大沢在昌 |
(2010/12/11 20:12登録) 謎の多い父親(?)の経営する私立探偵事務所の助手、冴木隆を主人公とするハードボイルド連作短編集。 ①「アルバイト・アイは高くつく」=TVドラマの刑事物みたいな展開。父親、涼介って何者?と思わされます。 ②「相続税は命で払え」=カッコいいタイトル! 高校生のくせに隆もなかなかスゴイ奴。 ③「海から来た行商人」=涼介の正体がほぼ判明。ストーリー的にはややご都合主義。 ④「セーラー服と設計図」=”機関銃”ではないけど、散弾銃は出てきます。(古い?) 以上4編。 この後、シリーズ物になる「アルバイト探偵」シリーズの第1弾。 「新宿鮫」シリーズのような硬質で重厚なハードボイルドに対し、六本木周辺を舞台にした本シリーズのような軽いタッチのハードボイルド、どちらも作者お得意の作風ですが、個人的には前者の方が好みですね。(六本木よりも新宿界隈の方がシンパシー感じますし・・・) 本作もちょっと型に嵌りすぎてる感がするんで、やや辛めの評価で・・・ |
No.373 | 7点 | 慟哭 貫井徳郎 |
(2010/12/08 23:14登録) 作者の処女長編作。 作品そのものに大きな仕掛けが施された作品。 ~連続する幼女誘拐事件の捜査は行き詰まり、捜査一課長は世論と警察内部の批判を受けて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリア課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心を寄せる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ。幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを描破した鮮烈デビュー作~ 途中までは、「何でこのタイトル?」と思わされますが、ラストでは本当の意味を知ることに・・・ 連続幼女誘拐事件についての章と、黒魔術を崇拝する新興宗教にのめり込む一人の男についての章が交互に展開され、普通のミステリー好きならば、「なんか仕掛けがあるんだろうなぁ・・・」と思わずにはいられません。 まぁ、こういう反転型ワンアイデア物は最近多いですし、そういう意味では本作も「普通レベル」なんでしょうが・・・ ただ、読者を引き込む力はデビュー作から「本物」を十二分に感じさせます。結構重厚な作品なのに、読みにくさは一切なく、素直に作品世界に浸れる筆力は賞賛してよいでしょう。 ラストはちょっと尻切れ気味ですけど、これはこれで余韻のあるいい終わり方かもと思います。 これが「貫井作品」の初読でしたが、まずは期待どおりで、今後いろいろと他にも手を出していきそうです。 |
No.372 | 6点 | 解体諸因 西澤保彦 |
(2010/12/08 22:58登録) シリーズ探偵もあちこちで登場する短編集。 タイトルどおり全編でバラバラ殺人や首切り殺人が登場する猟奇的なストーリーでありながら、オドロオドロしさはいっさいなく、フーダニット&ホワイダニットに特化した作品集。 ①「解体迅速」=匠千暁が新聞&雑誌記事を頼りにバラバラ殺人を解決する。ただ、こんな理由でバラバラにする? ②「解体信条」=これも割りとトンデモない理由でバラバラにしちゃう。指まで切ってる時点でだいたい真相は分かりますが・・・ ③「解体昇降」=これは斬新!特に動機が! そこまでするか、普通? VHSとベータという単語も久しぶりに聞いた。 ④「解体譲渡」=エロ雑誌100冊の使い途がこれか? ⑤「解体守護」=どうでもいいような話。 ⑥「解体出途」=この中では割合普通。死体の使い途もよくあるやつ。 ⑦「解体肖像」=確かにこんな商売する奴いたなぁ・・・ ⑧「解体照応」=戯曲形式の連続首切り殺人事件。登場人物が次々登場し分かりづらいし、動機もどうかねぇ?(まぁあまり動機は考えなくてもいいんでしょうけど) ⑨「解体順路」=これまでの①~⑧の事件や登場人物を絡ませ、事件の背景を再構築したもの。面白い試みですが、なんか無理矢理感は残りますし、「こいつ誰だっけ?」と思ってしまう。 以上9編。 いろいろなアイデアを詰め込んでいて、作者の才能やサービス精神を感じることができます。推理クイズ的に捉えれば「面白い」という評価ですが、ちょっと薄っぺら感が気になったんでこのような評点としました。 |
No.371 | 6点 | 二重生活 折原一 |
(2010/12/04 19:14登録) 妻、新津きよみとの合作作品。 作品紹介では「重婚をテーマにした男女の息詰まる駆け引きをスリリングに描く・・・」とありますが、プロット的には完全にいつもの折原作品という感じです。 他の多くの叙述作品と同じく、本作も時間軸が巧妙にずらされていて、読者を幻惑するという手法。(叙述トリックの基本ですね) 当然、ラストではその”ズレ”がうまく回収されて解決!となるわけですが、うまく説明できない箇所がいくつか残ったままでスッキリしない! といういつもの読後感を感じてしまいます。(本作では、なぜ亜紀が私立探偵を雇って○○を調べさせたのかがよく分からない) ただ、「二重生活」というタイトルはうまい具合に「掛かって」ますね。そこは評価できます。 まぁ、せっかく新津さんとの合作なのですから、もう少し緊張感のあるスリリング感のある展開が欲しかったなぁ・・・ トータルにみて、水準級の面白さは十分ありだと思います。 |
No.370 | 8点 | バイバイ、エンジェル 笠井潔 |
(2010/12/04 18:59登録) 記念すべき、矢吹駆シリーズの第1弾。 まだ島田荘司デビュー前の70年代後半、このように重厚かつ高貴な本格推理小説が出版されていたことは、素直に驚くべきことではないかと・・・ 作風は好き嫌いがはっきり分かれるかもしれません。 冬のパリという舞台設定が醸し出す陰鬱な作風、現象学という小難しい哲学、不遜かつクールすぎる探偵矢吹駆、当然ながら登場人物は駆以外全員フランス人(名前がなかなか覚えられない!)、クソ生意気なナディア・・・など読者を遠ざけそうな条件が目白押し。 (個人的にはそんなことは気になりませんでしたが・・・) 本作の主題は「なぜ真犯人は被害者の首を切ったか」ということになりますが、他の本格物でよく出てくる「首切りの理論」を一蹴し、独自の解法を試みる矢吹駆の推理は一読の価値十分と断言できます。(他のロジックも心地よい) 動機や事件背景など、当時の欧州の政治的事情に踏み込んでいるので、その辺りに疎い方は若干分かりにくいかもしれません。 とにかく、久しぶりにこんな「鬱陶しい」くらいな「ド本格」の作品に触れたことを感謝します。 |
No.369 | 6点 | 検察側の証人 アガサ・クリスティー |
(2010/12/04 18:42登録) クリスティの戯曲集の中では最も有名かつ秀作。 シンプルかつ短く、たいへん読みやすい作品と言えます。 他の方の書評では、ラストのどんでん返しが高評価の要因のようです。 確かに、それまでの事件の構図を一変させるラストは、「さすが!」と唸らせるものがありますし、戯曲らしく実に舞台栄えしそうな展開だと思います。 ただ、あのミスリード(あるいは変○)は普通気付かないですかねぇ? 舞台ではどのように処理されたのか気になるところです。 評価は若干辛めかもしれません。 気に入った方は、本書と小泉喜美子女史の「弁護側の証人」を読み比べてみるのも一興かと思います。 |
No.368 | 6点 | ハッピーエンドにさよならを 歌野晶午 |
(2010/11/29 23:19登録) すべてバッドエンドで終わる作品を並べた短編集。 まさにタイトルどおり、「ハッピーエンドは許さない!」強い意思を感じました。 ①「おねえちゃん」=やや唐突に暗闇に突き落とされた感じ。そこまでしなくても、理奈ちゃん・・・ ②「サクラチル」=実に歌野らしい・・・今は学歴じゃないですよ!幹久さん・・・ ③「消された15番」=狂った女性ほど怖いものはないという話。でも、こういうこと割とありますよねぇ、臨時ニュースとか・・・ ④「死面」=ブラックな話をサラリと書いている感じ。そんなに怖くはないですけど・・・ ⑤「防疫」=またもや狂った女性の話。夫がかわいそう。よく我慢してるよなぁ・・・ ⑥「玉川上死」=うーん。救われない話。そんな奴ら、殺す値打ちもないよ! 秋山君! ⑦「殺人休暇」=それだけいろんな物もらったんならそれくらい我慢しなよ! 理恵さん! ⑧「尊厳、死」=何がその人の「尊厳」なのかという話。ラストは軽いオチが・・・予想の範囲内。 以上8編+ショートショート3編あり。 全編後味の悪い作品ばかりですが、もうワンパンチ欲しいなぁというのが正直な感想でしょうか。 まぁ、でも作者らしい捻りの効いた作品集ですし、一読して決して損はないでしょう。 |
No.367 | 5点 | びっくり館の殺人 綾辻行人 |
(2010/11/29 23:04登録) ミステリーランドで読む「館」シリーズ。 ジュブナイル向けとはいえ、綾辻色を出して「ライトホラー」とでも名付けたくなるような雰囲気。 古屋敷老人の腹話術も、書き方次第ではかなり不気味な味わいになりそうなんですけど、そこは少年少女向けにやや抑え気味に表現されてます。 肝心のミステリー部分については、一応「密室殺人」ですが、実は密室ではなかったというオチ・・・ ラストももう一捻り欲しいところですけど、まぁそれも欲張りなのかもしれません。 全体的には、大人の鑑賞に堪えるにはやや不満が残る印象で、何も「中村青司」まで出さなくても良かったかな?と思っちゃいます。 あぁ、「奇面館」が待ち遠しい・・・ |
No.366 | 7点 | 検察捜査 中嶋博行 |
(2010/11/27 23:28登録) 第40回江戸川乱歩賞受賞作。 作者は現役の弁護士(当時?)で、弁護士業界をはじめ、検察・裁判所といった法曹界の裏側、薀蓄を興味深く知ることができます。 主人公は美人検察官というわけで、権力欲や名誉欲に凝り固まった法曹界の「悪や膿」に立ち向かっていくキャラとしては、こういう「美しいヒロイン」が確かに適してますね。 ざっと15年前の作品ですから、はたして今の状況と合致しているのかは分かりませんが、検察システムの問題や弁護士のギルド制(?)などについては「これでいいのか?」と考えずにはいられません。 法廷物の作品は他にもいろいろありますが、法曹界そのものをミステリーの舞台とする作品はあまりないと思いますし、処女作とは思えないほど高いクオリティ・・・ 是非他の作品も読んでみたいなという気持ちにさせられました。 |
No.365 | 8点 | 毒入りチョコレート事件 アントニイ・バークリー |
(2010/11/27 23:15登録) 巨匠バークリーの名作。 シェリンガムをはじめ、「犯罪研究会」メンバーが「毒入りチョコレート事件」に対して、それぞれの推理を披露していく展開が面白い作品。 6名の会員の推理が1つずつ披露されるわけですが、展開的には徐々に真相に迫っていくのかなぁ・・・と思ってると、結局最後まで「真相」ははっきりせずという流れ・・・ そこはバークリーの考え方というか皮肉のわけで、結局”真相なんて作者の匙加減一つじゃないか!”ということなんですよね・・・ ということは、「後は読者で考えて!」というスタイルも有りかなと思ってしまいました。 個人的にはシェリンガムの推理に惹かれたんですが、チタウィックの推理もやはり捨てがたい。(皆さんそう思うのかもしれませんが・・・) 本作も海外ミステリー黄金期の一作として、必読の書という評価でいいと思います。 |
No.364 | 8点 | 臨場 横山秀夫 |
(2010/11/27 23:03登録) 別名「クライシス・クライシ」の異名をもつ倉石検視官を軸として展開される連作短編集。 まさしく「横山短編集!」とでも言うべき良質の作品が目白押しの一冊。 ①「赤い名刺」=倉石の部下、一之瀬の狼狽振りや心の動きが身に染みます。 ②「眼前の密室」=個人的に本作ベスト。作者得意のマスコミネタを絡ませ、最後は意外な犯人と意外な動機が判明する展開。たいへん面白い。 ③「鉢植えの女」=エリート刑事、高嶋課長と倉石のガチンコ対決。もちろん勝者は・・・ ④「餞(はなむけ)」=横山流”心温まる話”。ラストがまたグッときます。 ⑤「声」=映像化が似合いそうな作品。真相はかなりブラック・・・こういう女性は確かにいるんでしょうね。 ⑥「真夜中の調書」=子を想う親の心・・・ですね。 ⑦「黒星」=パーフェクトを誇った倉石が始めて付けた「黒星」・・・女性警察官を主人公にする話も作者の得意技。 ⑧「十七年蝉」=17年ごとに発生する蝉の異常発生・・・倉石の優しさを感じさせる一作。 以上8編。 いやぁ、ホントうまくて面白いですねぇ・・・ 短い作品の中で、登場人物ひとりひとりのキャラをきっちり書き分ける筆力やラストの余韻・・・「短編の名手」という形容詞は作者に捧げたいですね。 |
No.363 | 6点 | 名探偵の肖像 二階堂黎人 |
(2010/11/23 19:02登録) 他作品の有名探偵を主人公にしたパロディ短編とJ・Dカーについての対談、おまけにカーの全作品短評を付けた珍しい作品。 ①「ルパンの慈善」=もちろんM・ルブラン「怪盗ルパン」シリーズのパロディ。雰囲気は出てますが・・・ ②「風邪の証言」=鬼貫警部と丹那刑事のコンビが登場。なぜか「読者への挑戦」まで挿入されてますが・・・ ③「ネクロポリスの男」=A・アシモフ風のSFパロディ。 ④「素人カースケの世紀の対決」=これは一体なに? 何がしたいのか言いたいのか、さっぱり分かりません。 ⑤「赤死荘の殺人」=H.M登場のパロディ作ということで、一番力は入ってますが、脱力感たっぷりの真相。 ⑥『地上最大のカー問答』=芦辺拓氏とのカー作品に関するマニアックな対談。そこまでカーに思い入れがない身にとってはそれほど共感できない・・・(芦辺氏は割りと冷静に対応してますけど) ⑦『J・Dカーの全作品を論じる』=あくまでも作者の目線で見た評価ですが、全作品の短評が付いているので、割合参考になりそうです。(名作の中では「皇帝のかぎ煙草入れ」を評価していないというのがやや驚き!) 以上5編+2 全編にわたって二階堂テイスト満載で、氏の趣向や考え方がよく分かります。 |
No.362 | 6点 | 退職刑事2 都筑道夫 |
(2010/11/23 18:47登録) 作者の代表的シリーズ第2弾。 今回も現役刑事である息子の話だけで事件を解決してしまう「脅威の退職刑事」が大活躍!しますが、途中の2編は息子以外の人物の話を聞いて・・・という点でやや変化を付けてます。 ①「遺書の意匠」=絶対に自殺しそうにない人物が自殺するのか? その理由は? という趣向。 ②「遅れてきた犯人」=短編向きのプロット。要は時間差の問題で・・・物事は見る角度で違って見えるということですね ③「銀の爪切り鋏」=なぜ片手の指の爪だけを切ったのか? 想像力の勝利ですねぇ・・・ ④「四十分間の女」=この短編集では一番の有名作。実際の事件を下敷きにして創作したそうですが、普通の想像力では真相に至らないでしょうね。 ⑤「浴槽の花嫁」=パート1でも同じようなプロットが出てきましたが、確かに「意外性」はあるんですよねぇ・・・ ⑥「真冬のビキニ」=真冬の海で、どうしてビキニ姿になったのか? 謎そのものは魅力的。 ⑦「扉のない密室」=これも謎そのものはたいへん魅力的ですが・・・真相はちょっと残念な感じ。 以上7編。 前作同様、「安楽椅子型探偵物」として水準以上の出来だとは思いますが、ロジックというよりは想像力の問題のような気がするのも事実。 いずれにしても秀作がそろった前作よりはやや落ちるかなという印象です。 |
No.361 | 5点 | バスカヴィル家の犬 アーサー・コナン・ドイル |
(2010/11/20 23:12登録) ホームズ物の4長編(「緋色の研究」「四つの署名」「恐怖の谷」)のうちの1つ。その中では一番の有名作? 私のホームズ初体験も、ご他聞に漏れず、小学校時代に図書館で借りた本作でした。 あれから何十年かぶりに、創元推理文庫で再読することに・・・ まぁ歴史的な作品に対して、今さらトリックがどうとか、プロットがどうとか論じるべきではないかもしれませんね。 他の方の書評にもありましたが、「短編」のような切れ味あるプロットを味わうというよりは、謎の魔犬やホームズの意外な登場など、サスペンス的な展開を楽しむべきなのだと思います。 読者にとっては推理できるような材料が提示されないので、ワトソンの慌てぶりやホームズの超人的な推理などをひたすら追っていくしかありません。 まぁ、評価としてはどうしても「短編」諸作よりは落ちるかなということになっちゃいますね。 |
No.360 | 6点 | 終着駅殺人事件 西村京太郎 |
(2010/11/20 22:39登録) 光文社のミリオンセラーシリーズの復刻版で超久々に再読。 日本推理協会賞受賞作であり、氏のトラベルミステリーの到達点と言うべき作品。 お馴染みの名コンビ、十津川警部と亀井刑事の2人が連続殺人事件を捜査、解決していくわけですが、特に今回は事件の舞台が「青森」というわけで、亀井刑事が主役級の活躍振り。(亀井刑事って、「青森」や「東北」という言葉を聞くと、条件反射のように「なつかしい顔」になるように書かれてます) トラベルミステリーとしては、まだ3作目(「寝台特急殺人事件」「夜間飛行殺人事件」の次)の本作ですが、上野・青森間を走る寝台特急「ゆうづる」(当時)をメインに据え、安定感たっぷりの展開。連続殺人の「動機」の謎についても、ダイニングメッセージに絡めて、うまく処理しています。 ただ、「アリバイトリック」や「密室トリック」はやや脱力感を感じるレベルのものですし、トラベルミステリー以前の氏の作品レベルに比べれば、決して誉められるものではないでしょう。 こういう作品を読んでいると、新幹線のない時代の「鉄道」に憧れますね。(今や「ブルートレイン」すらほぼ全滅しちゃいましたから・・・) |