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平均点:6.00点 | 書評数:1859件 |
No.419 | 6点 | 化人幻戯 江戸川乱歩 |
(2011/02/18 20:54登録) 明智小五郎登場の著名作。 稀代の名探偵も50歳を過ぎ、トレードマークのモジャモジャ頭にも白髪が増えて・・・ということで作者後期の作品になります。 ~庄司武彦は元公爵大河原義明の秘書役を務めることになった。大河原家に出入りする2人の青年、姫田と村越の間には険悪な空気が流れていた。熱海にある別荘に出掛けた大河原夫妻と武彦は、断崖から転落する姫田の姿を目撃。姫田は果たして殺されたのだろうか?~ 戦前の通俗小説、スリラーと呼ばれた作品に比べると、「密室」や「アリバイ」など、本作は完全に「本格ミステリー」の体裁をとっています。 アリバイトリックは「見せ方」に老練さを感じました。読者の前に「完全なアリバイ(不在証明)」が呈示されるわけですから、なかなか挑戦的だとも言えますね。 ただ、その解法はちょっといただけない・・・特に、第2の殺人の方はどうですかねぇ? 時代が時代だとは言え、かなり偶然性に頼った危なっかしいトリックとしか思えません。 他の方の書評と同じですが、ハウダニットとしてもちょっと喰い足りない・・・ 逆に言えば、それだけ真犯人のキャラが強烈ということで、こういうキャラクターを書かせたらさすがに「うまい」ですよねぇ。 この作品は最後に明かされる「ホワイダニット」だけが見所といってもいいかもしれません。 (「カマキリ」の例えがなかなかグロい。本書のタイトルも実に意味深です) |
No.418 | 6点 | 猿丸幻視行 井沢元彦 |
(2011/02/18 20:51登録) 第26回江戸川乱歩賞受賞作。 本作は、高橋克彦「写楽殺人事件」など、その後続いた「歴史ミステリー」受賞作の先駆的な作品。新装版で読了。 ~「いろは歌」に隠された千年の秘密とは? 猿丸太夫、百人一首にも登場する伝説の歌人の正体は? 友人の死の謎を解き明かす若き日の折口信夫の前に意外な事実が姿を現す~ 「なかなかの力作」というのが読了後の感想。歴史ミステリーも嫌いな分野ではないですし、井沢氏の著書は「逆説の日本史シリーズ」で十二分に接してますから、氏の歴史観や考え方がスムーズに頭に入ってきました。 「柿本人麻呂」という人物は、歴史上でもなかなか興味深い研究対象なのでしょう。(江戸時代から名だたる歴史家が研究しているわけですから・・・) 特に古代日本史においては、「貴族の怨霊信仰」がキーワードになるというのが、「逆説シリーズ」でも繰り返し主張されてる点ですし、その考え方が本作でもかいま見えますね。(菅原道真や崇徳上皇などが代表的) まぁ、「歴史」そのものが大いなるミステリーそのものなのですから、これがつまらないわけはありません。 ただし、それ以外の純ミステリーとしてはあまり見るべきところはなく、「付け足し」のような扱いなので、評点としてはこの程度。 「歴史好き」の方ならば、1度は読んでみる価値は有りだと思います。 猿丸村での殺人事件のトリックは綾辻の某作品を思い出してしまいました。(本作の方が先ですけど・・・) (これと「占星術殺人事件」が同時に応募されてた訳ですから、相当ハイレベルな争いだったんでしょうねぇ・・・) |
No.417 | 4点 | 四つの署名 アーサー・コナン・ドイル |
(2011/02/18 20:48登録) シャーロック・ホームズ作品。 「緋色の研究」に続く2作目の長編。 退屈にまかせてコカインを注射するホームズの姿が書かれる冒頭のシーンから始まるストーリー。(この辺り、昔読んだジュブナイル版では当然カットされてました) そんな中、依頼主(モースタン嬢)から、インドの財宝にまつわる事件の話が舞い込み、早速ホームズは事件解決に乗り出す。 ストーリーとしては、「推理小説」と言うよりは「冒険小説」と言った方がしっくりくる感じです。ホームズの推理もあまり目立たず、途中からは、如何にして犯人グループを捕らえるかというアクション部分に重きを置かれてます。 殺人事件についても、窓やドアには鍵がかかっており、「密室か?」と思ってると、屋根裏部屋から侵入可能なのがすぐに判明するなど、「謎解きもの」としてはかなり中途半端な印象。 犯人逮捕以降、動機や経緯が語られるのは「緋色の研究」と同じパターンを踏襲してます。(「緋色」ほどは長くないですが・・・) まぁ、ミステリーの歴史的価値という以外では誉めるのが難しいですねぇ。仕方ないかな? (本作でワトソンが依頼主の女性と結婚するエピソードが有名。完全に「一目ぼれ」だったんですねぇ。) |
No.416 | 5点 | 蜃気楼の殺人 折原一 |
(2011/02/18 20:45登録) 旧タイトル「奥能登殺人行」でノン・シリーズの1冊。 当時流行していたトラベルミステリーをベースに、叙述トリックを融合した「意欲的(?)」な作品。 ~銀婚式を迎えた野々村夫婦は、新婚旅行の思い出を辿るように能登半島へと旅立つ。だが夫は殺され、妻は失踪。両親の足跡を追いかける一人娘の主人公万里子は、25年前の2人がもう1組の男女と接触していたことを知る。過去と現在が錯綜する折原マジックが炸裂!~といった粗筋。 う~ん。中途半端なんですよねぇ・・・初期は作者も何作かトラベルミステリー風味の作品を発表してますが、この手のミステリーにはお決まりのアリバイトリックではなく、得意の叙述トリックを合わせたら、「きっと面白いに違いない!」と思ったんでしょうか? 「残念」。狙いどおりにはいきませんでした。何しろ、途中でネタがバレバレ。伏線の貼り方が拙なすぎです。 何しろ、ごく最初に○○が同じ人物が登場し、よく分からないうちにフェードアウトするんですから、「何かあるな」と気付かずにはいられませんでした。 これを最後にトラベルミステリーは書かなくなりましたから、作者もこの融合は失敗という判断だったのでしょう。 (能登半島の名所がいろいろ出てきますので、その辺りに土地勘のある方にとってはシンパシーを感じるかもしれません) |
No.415 | 5点 | 顔のない男 北森鴻 |
(2011/02/12 21:02登録) 「顔のない男」という異名が付けられた被害者、空木精作を巡って展開されるストーリー。 連作短編集というべきか長編というべきか迷うような作り。(正解は連作短編集なのでしょうけど・・・) ~多摩川沿いの公園で、全身を骨折した惨殺死体が発見される。空木精作は周辺の住民と接点も交友関係もない男だった。原口と又吉、2人の刑事は空木の自宅で一冊の大学ノートを発見する。ノートを調査するうち、2人は次々に新たな事件に遭遇。空木とは一体何者なのか?~ 非常に魅力的なプロットだと思いつつ読んでいきました。 「謎の男」を捜査する過程で、次々と事実が明らかになり、それがなお一層事件を複雑にしていく・・・これをうまくまとめれば、たいへんよくできた「連作集」ということになるのですけども・・・ いかんせん、ラストがよくない。オチがこれでは、途中のプロットがいくら魅力的でもねぇ・・・ もう1つ言えば、犯罪者側がここまで事件を複雑化する目的・意図が今ひとつ不明。他の方の書評にもありますが、登場人物がかなり入り組んでいるので理解&整理するのにかなり苦労させられました。 (途中、三軒茶屋のビアバーが登場しますが、これはやはり「香菜里屋」のようです。どうせなら、マスター工藤にも登場してもらいたかったなぁ) |
No.414 | 6点 | 愛国殺人 アガサ・クリスティー |
(2011/02/12 21:00登録) エルキュール・ポワロ作品のNO.19 いつもより多めの登場人物ですが、この登場人物の中に「欺瞞」が仕掛けられている・・・ ~憂鬱な歯医者での治療を終えて一息ついたポワロのもとに、当の歯科医が自殺したとの連絡が入る。しかし、自殺の兆候を示すものは何もなく、本当に自殺なのか、それとも巧妙に仕掛けられた殺人なのか? マザーグースの調べにのって起こる連続殺人事件の果てに辿り着いたポワロの推理とは?~ ということですが、マザーグースは特に本筋とは関係なし。 実にクリスティらしい作品だなというのが読後の感想ですね。「動機」の謎から始まった自殺(殺人)事件が第2・第3と連続し、さらに複雑化していくうち、作者の術中に見事嵌っていく・・・そんな感じです。 動機も「顔をつぶされた死体」も、ミスリードするために読者に示された「手品のタネ」なんですよねぇ・・・まぁ普通騙されます。 ポワロの推理により、事件の構図がガラッと一変させられるラストのカタルシスが本作の白眉でしょう。 ポワロ物も中期に入ると、派手な展開よりは緻密な構成とでも表現すべき作品が多くなりますが、本作もその例に漏れず、円熟した作者の手技を堪能できる作品だと思います。ただ、ちょっと中盤ダレるのでそこがやや不満かな。 (タイトルの「愛国」っていうのはやっぱり違和感がある。けど、二重のミスリードになってるので、そういう意味ではうまいタイトル?) |
No.413 | 7点 | 影踏み 横山秀夫 |
(2011/02/12 20:59登録) 「ノビカベ」の異名を持つノビ師、真壁を主人公とした連作短編集。 いつもの警察小説とは一味違い、犯罪者視点でのプロットが逆に新鮮な作品。 ①「消息」=真壁が逮捕されるきっかけとなった事件関係者である美貌の人妻を巡って物語はスタートします。 ②「刻印」=真壁の少年時代の友人、刑事の吉川が殺害される事件が発生。そこにも例の人妻が関係し・・・最終的には意外な真犯人が明らかになります。聖職者も一皮向けば・・・ですね。 ③「抱擁」=真壁の恋人とその友人。見かけとは裏腹な人間模様。人間の心って一筋縄ではいかないものですね・・・ ④「業火」=市内で次々と泥棒が襲撃されていく中、ついには真壁にも魔の手が・・・瀕死の重傷を負っても病院を飛び出す真壁は不死身? ⑤「使途」=真壁が獄中で知り合った男から頼まれた「代打サンタクロース役」。人物関係を探っていくうちに、謎が深まって・・・ラストは「いい話」でまとまる。 ⑥「遺言」=ある犯罪者の死。なぜか真壁に残された遺言の謎。犯罪者の親子に果たして愛はあったのか? ⑦「行方」=またも真壁の恋人を巡って事件が発生。昔、ある事件で双子の弟を失った真壁の前に、もう1組の双子が現れ・・・これもやや意外なラスト。 以上7編。 どの作品でも高レベルな横山短編集。この作品も例外ではありませんでした。 警察視点のストーリーの場合、組織のしがらみや人間関係の難しさなどをベースにしたプロットが目立ちますが、本作の場合は「真壁」という特異なキャラが存分に生かされてます。 ということで、いつものとおり「読んで決して損のない」横山の短編集という評価でいいと思います。 (これを読むと、犯罪者と警察って決して「水と油」ではなく、ある種同じカテゴリーに属する存在なのがよく分かる・・・) |
No.412 | 6点 | あした天気にしておくれ 岡嶋二人 |
(2011/02/08 23:16登録) 作者の第二長編。 出版順では乱歩賞受賞作「焦茶色のパステル」が先ですが、執筆順では本作の方が先のため、実質的には処女長編というべき作品のようです。 競馬界を舞台にしたミステリーの傑作。北海道の牧場で3億2千万もの値が付いた1頭のサラブレットが誘拐され、2億円の身代金が要求される。衆人環視の中、思いもよらぬ方法で大金が奪われるが・・・というのが大まかな粗筋。(「傑作」は帯のことばですが、ちょっと言いすぎかな?) 「焦茶色」に続いて、競馬界を舞台にしたミステリーであり、しかも今回は作者得意の誘拐もの。(馬が誘拐されるというのも珍しいですけど) まずは、プロットがうまいですね。一種の倒叙形式ではじまり、犯人(?)側の視点から事件が書かれるわけですが、途中から思いもよらぬ邪魔が入ってきてさぁどうなる? 既視感があると言えばあるのですが、読者にとっては作者の手のひらで遊ばれてる感じが心地よい・・・ メインプロットは、競馬に詳しい人ならば、正確ではなくてもある程度は予想のつくものだとは思います。(私も気付いた) 「あとがき」でも触れてるとおり、舞台となった昭和56年当時では、こういった初歩的なやり方も想定できる時代だったのでしょう。 全体的な評価としては、「まあまあの面白さ」という感じでしょうか。もう一捻りあっても良かったかなというのが正直な感想。 (今思えば、この頃の馬券は単純だったんですよねぇ・・・今や、馬単・ワイド・三連複に三連単、おまけに、5レースの1着馬を当てる5連単も近々発売されるとか・・・ 1レースの1着馬さえ当てられない奴が、5レースも当てらるわけないだろ!) |
No.411 | 5点 | 四つの終止符 西村京太郎 |
(2011/02/08 23:13登録) 作者初期のノン・シリーズ。 昭和40年代前半という時代を反映してか、「社会派」という形容詞がピッタリの作品となっています。 下町のおもちゃ工場で働く佐々木晋一は聾者だった。ある日、心臓病で寝たきりの母親が怪死する。栄養剤から砒素が検出されたとき、容疑は晋一に集中した。すべてが不利な状況で彼は獄中で憤死し、無実を信じた一人のホステスも後を追う。彼をハメたのは一体誰か? いやぁ・・・読んでて何とも「暗~い」気持ちになりました。 まだまだ日本が貧しかった頃、しかも不治の病を抱えた母親をもつ聾者・・いろいろと考えさせられますね。 途中、聾学校の教師の口から語られる「聾者の真実」が特に重い・・・「耳が聞こえない」ということは「目が見えない」ことよりもつらいことなのだという事実は健常者ではなかなか気付けないことでしょう。 作者の社会派ミステリーといえば、乱歩賞を受賞した「天使の傷跡」が有名ですが、本作も隠れた名作としてもう少し評価されてもいいかと思います。 ただ、ミステリーそのものの出来としては評価しにくいんですよねぇ・・・ というわけで、高い評点をつけるのはちょっと難しいなぁというのが正直な感想になっちゃいます。 (意味深な「タイトル」ですが、まさに、このタイトルどおりの内容) |
No.410 | 7点 | ジャンピング・ジェニイ アントニイ・バークリー |
(2011/02/08 23:11登録) ロジャー・シャリンガムシリーズ。 バークリーらしい皮肉に満ちた作品に仕上がってます。 ~屋上の絞首台に吊るされた藁製の縛り首の女・・・小説家ストラトン主催の「殺人者と犠牲者」パーティーの悪趣味な余興であった。シェリンガムは有名な殺人者に仮装した招待客の中の嫌われ者、主催者の妹・イーナに注目する。そして宴が終る頃、絞首台には人形の代わりに、本物の死体が吊るされていた!~ という粗筋なのですが、ここから名探偵?にあるまじき、シェリンガムの迷走が始まります。 他の方の書評にもありますが、警察に真相を悟られないため、普通の名探偵とはまさに逆のベクトルで行動するなど、他のミステリーでは考えられないプロット! 「ある致命的な事実」を隠蔽し、警察をミスリードするため、「ああでもない」「こうでもない」と迷い続けるシェリンガムのキャラは、頼りなくもまぁ微笑ましく映るのですが・・・ 「結局本筋はどうしたんだ?」 と思っているうちに、ラスト1行で見事にオチが付いて、何か良質な「コント」でも見せられたような気にさせられました。 巻末の解説で、「バークリーの入門編として最適」とありますが、その評価が正鵠を得ているような気がします。 個人的な好みからどうかと聞かれれば、決して「ドストライク」とは言えませんが、重厚な本格物に飽きたら、変化球としてこういうのを読んでみるのもありだなぁという感じですかねぇ・・・ (被害者は本当に嫌なヤツですが、シャリンガムが「殺されて当然」と言ってるのは「オイオイ!」と突っ込みたくなります) |
No.409 | 7点 | 煙の殺意 泡坂妻夫 |
(2011/02/05 17:21登録) ノン・シリーズの短編集。 「これぞ泡坂の短編!」とでも言うべき、一味違う作品群を味わわせてもらいました。 ①「赤の追想」=「うーん。評価しづらい作品」という感じ。泡坂作品に期待する方向性と違っているのは間違いない。 ②「花山訪雪図」=名画に仕掛けられた作者の企みが、ある殺人事件を解明するきっかけになる・・・何となく既視感のあるプロットではあります。ただ、よくできている作品なのは間違いない。 ③「紳士の園」=「スワン鍋」に笑っているうちに、最後の仕掛けにビックリさせられる。近衛のキャラクターは何とも魅力的! ④「閏の花嫁」=手紙交換によるストーリー展開というのがいい味出してる。オチはちょっとブラックですけど、「毬子を○○る」ということですよねぇ・・・ ⑤「煙の殺意」=プロットは斬新。でも、さすがに「ここまでする奴はいないだろう!」と思わずにはいられません。まぁ、でも面白い。 ⑥「狐の面」=本筋よりも、山伏が人を騙す手口・テクニックの方が面白かった。さすが、奇術師です。 ⑦「歯と胴」=これもブラックですけど、かなり面白い。変形の倒叙形式といえばいいんでしょうか? ラストのオチもうまい! ⑧「開橋式次第」=本筋はちょっと誉められないが、こんな一家いたら面白いだろうなぁ・・・ 以上8編。 作者の短編集としては、「亜愛一郎シリーズ」が有名ですが、ノンシリーズの本書も十二分に作者のテクニックやロジックを楽しませてくれます。 捻じ曲がった人間の心が、捻じ曲がった犯罪を生み出すということなのでしょうね。 (個人的に⑦がベスト。③や⑤も水準以上。) |
No.408 | 6点 | 奇岩城 モーリス・ルブラン |
(2011/02/05 17:18登録) 言わずと知れたアルセーヌ・ルパン物の代表作の1つ。 大昔にジュブナイル版で読んだ記憶が微かにありましが・・・今回再読。 ~レイモンドが放った一弾は、見事に逃走しようとする賊を撃ち倒した。ところが、重傷を負ったはずの賊が煙のごとく消え失せた。しかも屋敷から盗まれたものは何一つなかった。この奇怪な謎を解き明かしたのは、まだ高校生のイジドール少年。しかも、彼は事件の首魁をかのアルセーヌ・ルパンだと看破した。かくして怪盗対少年探偵の熾烈な頭脳戦の幕は切って落とされた!~ 物語の舞台がフランス国内を点々とし、最終的にはフランス王朝に伝わる宝に纏わる謎解きがメインとなっています。 ルパンに相対するのは、現役高校生のボードルレ少年。ルパンと対決する中で、父親を誘拐されるという事態に巻き込まれならがらも、けなげに探偵役を務め上げます。 それに比べて、シャーロック・ホームズの扱いときたら・・・ 依頼を受け、ロンドンからフランスへ到着する前に、ガニマール警部とともにルパン一味に捕らえられ、船でアフリカ大陸を一周させられる始末・・・ (これを読んで、イギリス国民は怒っただろうなぁ・・・) ただ、読みにくさは如何ともし難い・・・。今回読んだ新潮文庫版の翻訳者は「堀口大学」氏。 というわけで、非常に文学的で高尚な表現になっているんでしょうが、それが個人的には合わない! 海外物は翻訳次第というのは仕方ないところですね。 (あと、フランス国内の地名が頻繁に出てくるので、地図などを1枚付けていただければ、非常に親切かと・・・) |
No.407 | 5点 | フィッシュストーリー 伊坂幸太郎 |
(2011/02/05 17:16登録) ノン・シリーズの短編集。 "いかにも伊坂らしい”作品が並んでいるのがウレシイかぎりですが・・・ ①「動物園のエンジン」=デビュー作「オーデュポンの祈り」の次に発表された作品。(「オーデュポン」の主人公、伊藤もゲストで登場) 動物園を解雇された男が、マンション建設反対運動に参加する理由とは? 最後に「叙述トリック!?」が炸裂します。 ②「サクリファイス」=伊坂作品の名脇役、黒澤が主人公。何だかありそうで、絶対にない話。「何もそこまで考えなくても・・・」という気がしましたけどねぇ・・・ ③「フィッシュ・ストーリー」=『ほら話』という意味だそうです。都合、40年間に渡る壮大なストーリーのはずですけど、そんな重さは微塵も感じさせないフワフワ感たっぷりの文章。伊坂らしいね。 ④「ポテチ」=これは黒澤が脇で登場。「尾崎って結局誰だよぉ!!」と思いつつ読み進めていくと、最後に種明かしがありました。最後は伊坂らしからぬ爽快さを感じさせる終わり方。 以上4編。 いつもどおりの「伊坂節」ですが、他作品に比べるとやや落ちるかなという印象。 まずは短編から伊坂を始めようと思っている読者にとっては、逆にとっつきやすいかもしれません。 (個人的には①がベスト。ラストのオチは綾辻の「どんどん橋おちた」を思い出してしまいました。) |
No.406 | 8点 | どちらかが彼女を殺した 東野圭吾 |
(2011/01/30 22:32登録) 加賀恭一郎シリーズの第3弾。 練馬署勤務時代の加賀刑事が描かれます。 ~最愛の妹が偽装を施され殺害された。愛知県警豊橋署に勤務する兄・和泉康正は独自の現場検証の結果、容疑者を2人に絞り込む。1人は妹の親友。もう1人はかつての恋人。妹の復讐に燃え、真犯人に肉薄する兄。その前に立ちはだかる練馬署・加賀刑事。殺したのは「男」か「女」か、究極の推理!~ なかなか評価の分かれる作品のようですね。 で、個人的には「たいへん良くできてるミステリー」だなという評価。 本作を「究極のフーダニット」と見ると、ラストの「企み」がアンフェアとかもどかしさにつながるのかもしれません。 伏線がこれでもかと張られてるわけですから、読者としては、それを1つ1つ拾わされ、結局真犯人の名前が明かされないわけですから、「なんで?」と思うのもまぁ分からなくはないですね。 ただ、その作り込みがハンパなく精密にできてます。そういう意味では、再読して伏線をすべて確認していくべき作品なのかもしれません。(あまり楽しくはないかもしれませんけど・・・) 真犯人-和泉-加賀という三者の関係性も絶妙。「犯人探し」と「倒叙形式」の融合というわけで、作者にとってはかなり難しさもあったのでは? などと思ってしまいます。 というわけで、どちらかというと「面白い」と言うよりは、「感心!」ということでの評価。 (文庫版巻末の「推理の手引き」は必須ですね。これがないと本作が成り立たない) |
No.405 | 6点 | 夜歩く 横溝正史 |
(2011/01/30 22:18登録) 金田一耕助シリーズ。 他の有名作品に埋もれがちですが、横溝作品のガジェットをこれでもかと詰め込んだ作品の一つ。 ~古神家の令嬢八千代に舞いこんだ「我、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と男の写真は陰惨な殺人事件の発端だった。卓抜なトリックで推理小説の限界に挑んだ作品~ まず、例の「アクロイド殺し」との関連性云々についてですが、個人的にはあまり気になりませんでした。 確かに、唐突にネタバレが行われるので、一瞬「エッ?」という感覚には陥りますが、読み慣れたファンが素直に読んでいれば、ミステリー的に真犯人足り得る人物は相当限定されるはずですし、まぁ想定の範囲内と言えなくもありません。 次に「首切り」についてですが、当然ながら「被害者は本当は誰なのか?」という魅力的な謎を構成させるための条件になっているわけです。 ただ、本作については、ここがかなりシンプルなトリックのため、あまり効果的ではなかったかなと・・・ 加えて気になったのは、「指紋」が全く無視されていること。この時代でも指紋捜査は存在してますよね?(もちろん、現在ならDNA鑑定等もあり、孤島や嵐の山荘でない限り首切りトリック自体不可能ではありますが) トータルでみて、非常によく練られた作品という評価でいいとは思うのですが、個人的な期待感にはやや達しなかったということで、こんな評点になっちゃいました。 (変人たちの間で渦巻く愛憎劇というのが、まさに「横溝!」という感じですよねぇ) |
No.404 | 7点 | 孔雀の羽根 カーター・ディクスン |
(2011/01/28 22:05登録) H.M卿の探偵譚第6作。 「孔雀の羽根」とは、殺人現場に残された肩掛け(?)の柄のこと・・・ ~2年前と同じ予告状を受け、警察はその空き家を厳重に監視していた。銃声を聞いて踏み込んだ刑事が見たものは、若い男の死体、孔雀模様のテーブル掛けと10客のティーカップ。何もかもが2年前の事件とよく似ていた。そのうえ、現場に出入りした者は被害者以外にはいないのだ。この怪事件をH.Mは32の手掛かりを指摘して推理する~ やはり本作のメインは第1の殺人での「準密室」。 警官や関係者など複数の目が光るなかで、被害者が2発の銃弾を浴びて死亡する。しかしながら、犯人の姿はなかった・・・何て魅力的な謎でしょうか! ただ、トリック自体はちょっと微妙・・・拳銃の仕組みはまぁいいとして、2発目はああいうことでいいんでしょうか? かなり乱暴なやり方のような気はしました。 その代わり「至近距離からの発射」については、「さすがカー」と言うべきで、HMのロジックに唸らされる結果に・・・ 最終章、HMが32もの手掛かりを明示して、事件の推理を懇切丁寧に行ってくれてます。これだけでも本作を読む価値はありでしょう。 確かに中盤はややダレますし、動機や関係者の動きに疑問符が付く部分もありますが、そこを考慮に入れても佳作という評価でいいと思います。 (「秘密結社」なんていう本筋に無関係の話を削ってれば、スッキリしたのにね。でもそれがカーということなんでしょう) |
No.403 | 6点 | 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題 法月綸太郎 |
(2011/01/28 21:45登録) 法月綸太郎シリーズの短編集。 相変わらず「短編はウマイ!」 ①「ギリシャ羊の秘密」=「要は漢字の読み方かよっ!」という感じ。タイトルは当然E.クイーンの名作のもじりですが、どっかカブってますかねぇ? ②「六人の女王の問題」=途中出てくる「6クイーンの問題」は面白かった。要はそうゆうパズルなんだね。 ③「ゼウスの息子たち」=ふたご座の話らしいネタ。読者をミスリードさせる手練手管は「流石!」と思わせます。 ④「ヒュドラ第十の首」=これもミスリードさせる手口ですが、ここまで単純化させられると、だいたい予想はつきますねぇ・・・ ⑤「鏡の中のライオン」=あまりパッとしない作品。 ⑥「冥府に囚われた娘」=これも今ひとつな感じ。ちょっとネタが尽きたか? 以上6編。 十二星座の順に、星座にちなんだ短編を書くという趣向は非常に面白いと思いますし、ギリシャ神話に少し詳しくなったような気がします。 ただ、他の方と同様、これまでの短編集に比べれば一枚落ちるかなぁという感想になっちゃいますねぇ・・・ (個人的には③がベスト。①⑤⑥辺りはやや落ちる印象) |
No.402 | 6点 | 違法弁護 中嶋博行 |
(2011/01/28 21:29登録) 現役弁護士でもある作者の第2長編。 乱歩賞受賞作「検察捜査」に続いて、またも法曹界の内幕に鋭く切れ込んでいくという内容です。 ~横浜本牧ふ頭の倉庫外で警官が射殺された。女性初の経営弁護士(パートナー)を目指し、ロー・ファームに勤務する弁護士・水島は、貿易会社の法的危機管理を担当するうち、巨大な陰謀に気付く。「依頼人」は古ぼけた倉庫に何を保管していたのか?~ 前作は「検察官」にスポットライトを当てていましたが、今回は「弁護士」が主役。ここに刑事警察や公安警察を絡ませながら、お互いのプライドやエゴやその他諸々を戦わせるといった内容・・・ 一応、連続殺人事件の謎解きがメインとはなりますが、裏に経済犯罪が絡んでいるので、倒産法制や債権法関連の用語がたびたび登場し、この辺に予備知識のない読者は少々分かりにくいかもしれません。 ただ、プロットの中心は勧善懲悪(!) 最後には悪い奴らが一網打尽にされるというごく単純なオチに収斂されるので、その辺りがスッキリすると言えばスッキリしますし、物足りないと言えば物足りないといった読後感なんですよねぇ・・・ まぁ、トータルでは「可もなく不可もなく」というところでしょうか。 (なんかモヤモヤした書評になってしまいましたが、決して駄作ではありません。) |
No.401 | 7点 | ロシア幽霊軍艦事件 島田荘司 |
(2011/01/24 23:35登録) 御手洗潔シリーズ。 1枚の「写真」から始まる歴史に埋もれた謎がスゴイ。 ~箱根のホテルに飾られていた1枚の古い写真。そこには、芦ノ湖に浮かぶ帝政ロシアの軍艦が写っていた。その軍艦は嵐の夜に突如として現れ、軍人たちが降りると忽然と姿を消してしまったというのだ。山間の湖にどうやって軍艦が姿を現せるというのか。御手洗はこの不可解な謎に挑むことになるのだが・・・~ 本作は殺人事件を手掛けるいつものシリーズ作ではなく、ロマノフ王朝最後の皇帝、ニコライ2世の娘「アナスタシア」と芦ノ湖に突如出現した「幽霊軍艦」を巡る、大いなる「歴史ミステリー」・・・ ただ、アナスタシアと軍艦の謎については、御手洗があっさりと解決してしまいます。 途中の脳科学関係の話は、いかにも島田氏らしい展開ですし、ドイツ製の○○○についてはいつもの「豪腕ぶり」を堪能させられます。(豪腕というか荒唐無稽というかは微妙だが・・・) 読んでるうちに、どこまでが史実でどこまでがフィクションなのか境界が分かりにくく感じるのですが、巻末の解説で作者自身がその境界について説明してくれてるので、その辺は理解できました。 私自身、ロシア革命とロマノフ王朝の謎については、他の文献等で多少かじったことがあるのですが、まさに歴史の「光と闇」を感じさせるテーマではあります。レーニン側から見る歴史とロマノフ側から見る歴史では180度違って見えるわけで、授業で学ぶ歴史がいかに不十分なものかを改めて感じさせられました。 (昨年の「写楽」もそうですが、島田氏の「歴史ミステリー」もなかなか面白いです。やっぱりスゴイ作家ですねぇー) |
No.400 | 8点 | オランダ靴の秘密 エラリイ・クイーン |
(2011/01/24 23:15登録) 400冊目の書評は「パズラー推理小説の完成型」とも言える本作品で。(創元文庫解説の法月氏は『犯人当てロジック小説の理想型』という評価をしてます) 国名シリーズ第3弾。 ~オランダ記念病院の手術室では、今まさに重要な手術が執り行われようとしていた。患者は病院の創設者であるドーン氏で、応急手術を必要としていた。ところが、何か様子がおかしい。手術台の上の老婦人はすでに息を引き取っていたのだ。控え室では生きていた患者が、いつどうやって殺されたのか。推理するエラリーを嘲笑うかのように第2の殺人が起こる!~ さすがに、エラリーの探偵ぶりも大分落ち着いてきた印象を与えます。 さて、本作の”ウリ”はもちろん「真犯人特定のロジック」ですが、「靴」にしろ「絆創膏」にしろ確かにエラリーの考え方は分かるし、特に靴の敷革の件については決定的とも言えるでしょう・・・ ただ、ロジック自体のレベルとしては、評判ほどではないかなぁーというのが率直な感想。 (第2の殺人は特にそう感じる) これならば、「X」や「Z」の方に軍配を上げたくなります。 あと、「登場人物表」に出てくる人の数が異様に多い! 本筋とあまり関係ない人物も入ってる(カダヒーとか)ので、もう少し削ってもいいんじゃないかと思ってしまいます。 ということで、割と辛口評価になってしまいましたが、これは「期待の裏返し」という奴で、普通に判断すれば十分に高レベルなミステリーと呼べるでしょう。 病院や医療関係の描写もかなり正確に書かれてるので、その辺りの取材力も感じることができる良作です。 (個人的には、「エジプト」>「オランダ」ですかねぇ・・・) |