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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.539 6点 ミステリアス学園
鯨統一郎
(2011/09/02 22:41登録)
作者が描く「ミステリー初心者」のためのミステリー入門書。
驚きと脱力の連作短編集。
①「本格ミステリの定義」=冒頭から、本格ファンvs本格嫌いが対決! そんな中、ミステリー研究会の学生が死亡する。真相は何と・・・
②「トリック」=仲間由紀恵&阿部寛ではない。いきなり、①が作中作であることが分かる。そしてまた殺人が・・・
③「嵐の山荘」=本格物の定番「嵐の山荘」が実現。そしてやっぱり起こる殺人事件・・・②も作中作であることも判明。
④「密室講義」=亜矢花の唱える「密室」の分類は新鮮。
⑤「アリバイ講義」=こちらも新たな「アリバイトリック」分類が面白い。そして、本作の仕掛けも徐々に分かってくる・・・
⑥「ダイイング・メッセージ講義」=ついに2人しかいなくなったミステリー研究会。ダイイング・メッセージかぁ・・・あまり好きじゃないなぁ。
⑦「意外な犯人」=これは「意外」っていうか、訳が分からん! 
以上7編。
いやはや、こんなこと考える作者には、ある意味敬服します。
トータルでいえば、「メタ・ミステリー」って言えるんでしょうか?
作中にはいろんなミステリー作家や作品が出てくるので、初心者にとっては有益かもしれませんねぇ。
「こんな訳の分からん作品があってもいいじゃない」っていう評価。


No.538 7点 チョコレートゲーム
岡嶋二人
(2011/09/02 22:39登録)
作者初期の代表作の1つ。
日本推理作家協会賞受賞作。
~学校という荒野を行く、恐るべき中学生群像。名門・秋川学園大付属中学3年A組の生徒が次々に惨殺される。連続殺人の原因として、百万円単位の金が絡んだチョコレートゲームが浮かび上がる。息子を失った1人の父親の孤独な闘いを辿るショッキング・サスペンス~

短い作品ですが、よくまとまってるし十分楽しめた。
今からざっと25年前の作品ですから、中学校と中学生を取り巻く環境が若干違ってる気はしますが・・・(今だったら、こんな無責任な学校や教師、モンスターペアレンツから猛攻撃に遭いそう!)
でも、まぁ「実は、影からこの人物が糸を引いてました」という手練手管はウマイ。
中学生が次々と殺されるというショッキングな展開のなかで、子供に無関心だった父親が、息子を信じ続け、ついには真相を見つけるというのが唯一の救いになってる。
(こういう所が、母親と父親の愛情の違いなんだろうね)
正直、トリックはショボいですが、トータルでは好評価の1冊。
(これを読んでると、J○Aのテラ銭がいかに高いのかがよく分かる・・・でも嵌るよねぇー)


No.537 5点 ジーヴズの事件簿 才気縦横の巻
P・G・ウッドハウス
(2011/08/27 19:50登録)
スーパー執事・ジーブズが活躍する作品集。
サブタイトルは「才智縦横の巻」。
①「ジーブズの初仕事」=スーパー執事・ジーブズの登場。最初から能力全開。
②「ジーブズの春」=主人公・バーティの親友・ビンゴ=リトルが登場。リトルが好きになった女性をめぐって、バーティとジーブズが活躍(?)する。
③「ロヴィルの怪事件」=怪事件というほどではない。バーティが恐れるアガサ叔母をめぐって事件が発生。
④「ジーブズとグロソップ一家」=またまたリトルが妙な女性を好きになって、2人が一肌脱ぐという展開に・・・
⑤「ジーブズと駆け出し俳優」=今回の舞台はロンドンではなく、NY。アガサ叔母からお達しを受け、預かった男性をめぐって事件発生。
⑥「同志ビンゴ」=今回のビンゴ=リトルの行動も意味不明(!) 懲りない奴だねぇ・・・
⑦「バーティ君の変心」=有名人と勘違いされたバーティが、なぜか女学校の教壇に立つハメに・・・
以上7編。
ミステリーというよりは、まぁイギリス版「ユーモア小説集」というべきでしょう。
ただ、正直、舶来のユーモアはよく分からん(!)
読みやすいのが唯一の救いでしょうか。
(ジーブズよりも、ビンゴ=リトルのキャラがかなり面白くて印象に残る・・・)


No.536 3点 失踪トロピカル
七尾与史
(2011/08/27 19:48登録)
「このミステリーがすごい大賞」の隠し玉作品として出版された前作、「死亡フラグが立ちました」に続く長編第2作目。
前作とはうって変わって、サスペンス作品。
~迷子の親探しに行ったまま、奈美が戻ってこない、誘拐か? 旅行先で国分は青ざめた。空港や観光街で撮ったビデオに映る、奈美に視線を這わす男。予感は確信に変わる。国分は奈美の兄マモル、私立探偵の蓮見と手分けして捜し始めた。事件の糸口をつかんだ蓮見は2人に連絡をとろうとするが・・・。蓮見の行方、マモルの決意、国分に迫る影、奈美の生死は? 息つく間もないシーンの連続!~

「読むんじゃなかった・・・」というのが正直な感想。
まさか、こんなストーリーとは・・・
前作が、東川篤哉を彷彿させるようなギャグミステリーだったし、今回も前作と同じようなふざけた(?)表紙だったから、同じようなテイストかと思ってました。
これが大違い。
巻末の作者あとがきを読むと、もともとはこんなサスペンス風味の作品を多く書いていたとのこと・・・そうだったのか。
行方不明になった女性を捜すため、本作の舞台であるタイ・バンコクの街をさまよい歩く3人が、闇の組織に関わったため、恐ろしいショーに遭遇する・・・という
ストーリーですが、このショーがむご過ぎる。何しろ、生きながらにして人間が解体されるショーですから・・・
ただ、息つく間もないという展開の割には、今ひとつ緊張感が伝わってこないというか、盛り上げ方が拙いし、平板な印象が拭えない。
ラストも救いのないまま、中途半端に切れてます。
というわけで、お勧めできない作品という評価ですね。
(中盤、グロいシーンが続くので、そういうのが苦手な方は読まない方が賢明でしょう。)


No.535 9点 カラスの親指
道尾秀介
(2011/08/27 19:47登録)
作者の最高傑作との呼び声も高い作品。
本の帯コメント(道尾秀介の真骨頂がここに!)どおりでしょう。
~人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年2人組。ある日、彼らの生活に1人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を賭け、彼らが企てた大計画とは? 息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして、感動の結末~

ただ一言、「面白かった!」
久々にこんな痛快かつすっきりとした騙され感を味わわせていただきました。
そうですかぁ、伏線はきっちり張られてたんですよね。
それでいて、見事なまでの逆転劇!
巻末解説では、「騙し」ではなく「マジック」だと評してましたが、まさにこの言葉(マジック)が言いえて妙。
たった一言で世界が反転する「痛快」は、やはり作者の非凡さを表しているのでしょう。

キャラも1人1人効いてます。
ラストはすべての伏線を回収したうえで、何だか「じーん」とするような感動までプラス。
とにかく、作者のファンならずとも手に取って読んで欲しい佳作です。
(貫太郎もいいが、やっぱりテツさん・・・ヤラレたなぁ・・・)


No.534 7点 つきまとわれて
今邑彩
(2011/08/23 22:11登録)
ノンシリーズの連作短編集。
作品中の登場人物の1人が、次の作品の主人公になるという凝った構成になってます。
①「おまえが犯人だ」=なかなか面白い。2度ひっくり返されるとさすがにうならされる。そして、ラストには更なる毒が・・・
②「帰り花」=①の登場人物が主役。出て行ったまま帰ってこない実の母親が、庭に埋められているのではないか?・・・ブルブル!
③「つきまとわれて」=②の主役の妻が今回の主役。「つきまとっている」のは本当は誰なのか? っていうこと。
④「六月の花嫁」=③の登場人物が主役。今回のプロットは分かりやすかった。途中で真相は予想がつく。
⑤「吾子の肖像」=④の登場人物が主役。ある「絵画」とその画家をめぐる謎。これも途中で予想がついた。
⑥「お告げ」=⑤の登場人物が主役。夜中に突然、お告げをしてくるマンションの住人の謎。真相はなかなか気が利いてる。でも、こんな奴、ホントに嫌だな!
⑦「逢ふを待つ間に」=⑥の登場人物が主役。ネット上の仮想家族ゲームをめぐる、ちょっとしんみりする話。こんなゲーム、本当にあるのかな?
⑧「生霊」=⑦の登場人物が主役。そして、これが何と②につながっていく・・・
以上8編。
短編らしい「切れと味わい」のある作品が多く、出来のいい短編集といっていいでしょう。
単なる「短編集」に留まらず、登場人物を共有化させるなど、読者を「ニヤリ」とさせる仕掛けもよい。
まずは、期待どおりの1冊でした。
(①~④まではなかなか面白かった。後半はやや落ちる)


No.533 5点 いたって明解な殺人
グラント・ジャーキンス
(2011/08/23 22:08登録)
米新人作家による法廷&心理サスペンス。
作者はアトランタ在住で、知的障害者の権利保護運動に携わってきた人物(らしい)。
~頭を割られた妻の無惨な死体・・・その傍らには暴力壁のある知的障害の息子、クリスタルの灰皿。現場を発見した夫・アダムの茫然自失ぶりを見れば犯人は明らかなはずだった。担当するのはかつて検事補を辞職し、今は屈辱的な立場で検察に身をおくレオ。捜査が進むにつれ、明らかになる捩れた家族愛と封印された過去のタブー~

まぁ水準レベルの作品でしょうか。
若干、既視感のあるストーリーとプロットで、映画などでよく見る手合いです。(実際映画化されるようです)
前半は、子供を設けて幸せだったはずの家庭が、子供の知的障害を理由に、いびつに捩れていく過程が描かれ、そしてついに殺人が起こる。
後半は一転して法廷での場面が続き、
そして、お約束のようにどんでん返しが・・・
よく練られてる作品だとは思いますが、サプライズ感や刺激を求めるのならば、不満を感じるかもしれません。
ただ、処女作品ということを考えれば、十分に及第点は付けられるでしょう。
(ラスト、もう一捻りあればなぁー)


No.532 6点 放課後
東野圭吾
(2011/08/23 22:06登録)
当代一の流行(ミステリー)作家となった作者のデビュー作。
第31回の乱歩賞受賞作でもあります。
~校内の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。先生を2人だけの旅行に誘う問題児、頭脳明晰の美少女・剣道部の主将、先生をナンパするアーチェリー部の主将・・・と犯人候補は続々と登場する。そして、運動会の仮装行列で第2の殺人が起こる!~

巨匠「東野圭吾」とはいえ、さすがに「若さ」を感じる作品だなぁという感想。
(もちろん、並みの作家ではないことはよく分かりますが・・・)
加賀シリーズなどでは、見事なストーリーテラー振りと緻密なプロットでスイスイ読ませますが、当然とはいえ、そこまでのレベルには至ってない。
本作の「核」は密室トリックと動機でしょう。
密室トリックは、正直弱すぎる。アーチェリーは全くの門外漢ですが、果たして「アレ」は「アレ」の代用品になり得るのでしょうか?
「捨てトリック」の方がよほど実現性が高い。(もちろん、アリバイとの絡みがあったことは認めるとして・・・)
「動機」はどうですかねぇー
まぁ、真の動機が明らかになったときは、「エーッ!」というような軽い衝撃がありましたが、作者が主人公・前島に語らせる「女子高生特有の動機」という奴も連続殺人を画策するほどのものではないような気がしてなりません。
そして、ラストに用意されたもう1つのサプライズ!
これにはヤラレました。個人的には、あの人物が本筋の真相に絡んでくるのか?と予想していただけに、逆の意味で驚かされた。

というわけで、作家・東野圭吾を知るためには、いろんな意味で欠かせない1冊のような気はしました。
(はぁー、女子高の運動会かぁー、体験してみてぇ・・・)


No.531 7点 五番目のコード
D・M・ディヴァイン
(2011/08/20 17:00登録)
人気の英国パズラー作家、ディヴァインの第6長編。
今回も実にリーダビリティーの高い作品に仕上がってます。
~スコットランドの地方都市で、帰宅途中の女性教師が何者かに襲われ、殺されかけた。この事件を発端に、街では連続して殺人事件が起こる。現場に残された棺のカードの意味とは? 新聞記者ビールドは、警察から事件への関与を疑われながらも犯人を追う。街を震撼させる謎の殺人鬼の正体と恐るべき真相
とは?~

いつもながら、実にうまい作家です。
何より読みやすい。それゆえか、すぐに作品世界に引き込まれます。
本作は、いわゆる「ミッシング・リンク」を取り扱った作品という評価ですが、その範囲はかなり限定的で、むしろちょっと広めの「クローズド・サークル」ものという方が正確かもしれません。
真犯人指摘については、かなり終盤まで引っ張りますが、サプライズ感はそれ程ではない。
あと、探偵役の主人公が真犯人に気付くきっかけというのが、「○○○らしくない行動をとった」というところだけというのが、かなり弱い気はする・・・
まっ、でも伏線は丁寧に張られてますし、連続殺人事件の王道をいく作品とは言えるでしょう。
やっぱり「本格もの」はこうでないとね!
(さすがに「このミス」1位だけのことはあるでしょう)


No.530 8点 異人たちの館
折原一
(2011/08/20 16:59登録)
折原叙述作品の1つの完成型といってよい作品ではないでしょうか。
久々に再読。
~富士の樹海で失踪した息子・小松原淳の伝記を書いて欲しい。売れない作家・島崎に舞いこんだゴーストライターの仕事・・・。依頼人の広大な館で、資料の山と格闘するうちに島崎の周囲で不穏な出来事が起こり始める。この一家にはまだまだ秘密がありそうだ。5つの文体で書き分けられた折原叙述ミステリーの最高峰!~

やはり作者の「代表作」といえるでしょう。
看板に偽りなしで、それまでに培った作者の叙述テクニックが惜しげもなく挿入されてます。
折原作品といえば、日記やら手記やら、作中作などを使い分けて読者を煙に巻いていきますが、本作では『地の文+インタビュー形式の挿話』をメインとして、そこにモノローグやら作中作が織り込まれ、徐々に騙されていくことに・・・
冒頭から「異人」を巡って不可思議な事件が起こり、メタミステリー的な雰囲気になりますが、ラストでは一応すべてが解決に導かれます。
まぁ、「脂の乗り切った」頃の作品ですねぇー
これでもかという勢いで叙述トリックを仕掛けられ、作品自体に何ともいえないエネルギーを感じさせられました。
本作が、「沈黙の教室」や「~者シリーズ」など作者の代表作の基盤になっているように思えますし、長いですが十分読み応えのある作品ではないかと思います。
(モノローグはちょっとズルイよねぇー。その共通項には気付かなかった・・・)


No.529 6点 幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート
倉知淳
(2011/08/20 16:57登録)
猫丸先輩シリーズ。
サブタイトル(「猫丸先輩のアルバイト探偵ノート」)どおり、猫丸先輩がアルバイト先で様々な事件に巻き込まれます。
(っていうか、積極的に飛び込んでいく)
①「猫の目事件」=猫の品評会会場が舞台。子供だましの密室が舞台。真相も子供だましみたいなやつ。
②「寝ていてください」=学生時代によく聞いた「割のいいバイト」の1つ・・・それが新薬の治験バイト。しかし、このオチはなぁ・・・脱力感を覚える。
③「幻獣遁走曲」=幻の生き物「アカマダラタガマモドキ」を探すバイトって・・・(何だその動物!) オチはなかなか心温まるもの。
④「たたかえ、よりきり仮面」=今回のバイト先はデパートの屋上でのヒーローショウ。猫丸先輩が着ぐるみ着て、大活躍。これはもう大爆笑・・・特に、怪人!
「スーパーマルエー北船橋店を乗っ取る」悪の怪人って・・・
⑤「トレジャーハント・トラップ・トリップ」=取り放題の松茸ってスゴイ! ただ、このオチはいくらなでもヒドイんじゃない?
以上5編。
まぁ、いつもどおりの「猫丸先輩シリーズ」です。
いわゆる「日常の謎」系ではありますが、真相はどれも脱力系・・・
ただ、何となく許して受け入れてしまうのが、本シリーズと作者のスゴイところかもしれません。
(どれも似たようなものだが、あえていえばやっぱり④かな。大爆笑必死!)


No.528 8点 ギリシャ棺の秘密
エラリイ・クイーン
(2011/08/16 20:51登録)
国名シリーズ第4弾。
シリーズどころか、クイーン最大の長編として君臨する作品。創元版で読了。
~NYのど真ん中に残された古い墓地の地下室から発見された2つの死体。その謎を追うエラリーは、1度、2度、3度までも犯人に裏をかかれて苦汁をなめるが、ついに4度目、あざやかに背負い投げをくわせる。大学を出て間もないエラリーが、四面楚歌の中で読者に先んじて勝利を得ることはできるだろうか?~

いやぁー長かった。
ただ、長いなりに充実した読書になりました。
個人的に国名シリーズで1番最後に取っておいた本作(※単に長いので後回しにしてただけですが・・・)。
まずは期待通り、評判に違わぬ水準と言っていいでしょう。
ロジックの切れ味という点では、「フランス白粉」や「オランダ靴」の方に軍配が挙がるような気も気もしますが、フーダニットの妙やトライアル&エラーで、真実を積み重ねていく過程、真犯人とエラリーとの知恵比べ的な要素も加えるなど、総合力ではシリーズNO.1かもしれません。
巻末解説でも触れてますが、本作が発表された1932年は、他にも「X」や「Y」、そして「エジプト十字架」も発表されるなど、クイーンが信じられないほどの充実期を迎えている時期にも当たります。
敢えて弱点を挙げるなら、中盤がやや冗長になっているところと、これだけの登場人物を並べた割には、簡単なロジックで犯人像がすぐ少数に絞られてしまうところでしょうか。
ただ、それを補って余りある真犯人の衝撃!(まさかアイツがねぇ) これこそがやはりミステリーの醍醐味!
(発表順と異なり、時代的には本作がエラリー最初の事件に当たる。それだけに、推理&捜査手法がまだ固まっていない。それだけに、逆にエラリーに感情移入しやすくなってる感じ)


No.527 6点 犯罪小説家
雫井脩介
(2011/08/16 20:48登録)
作者らしいサスペンス作品。
久々に雫井作品を読了しました。
~新進作家・待居涼司の出世作「凍て鶴」に映画化の話が持ち上がった。監督・脚本に選ばれた奇才・小野川光は独自の理論を展開し、かつて世間を騒がせた自殺系サイト「落花の会」を主催していた木の瀬蓮美の伝説の死を映画に絡めようとする。一方、小野川に依頼されて蓮美の伝説の死の謎に迫り始めたライターの今泉知里は、事件の陰に待居に似た男の存在に気付き・・・~

正直、期待したほどではなかったかなという読後感。
代表作「火の粉」なんかもそうですが、作者の佳作であれば、終盤に向けてジワジワと高まっていく緊張感みたいなものがあるはず、だった・・・
やっぱり、「火の粉」などと比べると1枚2枚落ちるという印象なんですよね。
本作、メインの登場人物がほぼ3人に限られ、そのうちの2人が果たして、犯罪者なのかそうではないのかという疑惑が、消えては浮上、消えては浮上して、ラストはどうなるのか? みたいな期待感を抱いたわけですが、どうにも中途半端に終わったなという感じ。
自殺サイトでの掲示板のやり取りも、結構な字数を割いたほどではなかったかなっと・・・
というわけで、いろいろと不満を述べましたが、これも期待の裏返しというわけで、それほど悪い作品じゃないですよ。
(小野川の濃いキャラも結局看板倒れだったのか・・・?)


No.526 5点 キリオン・スレイの生活と推理
都筑道夫
(2011/08/16 20:46登録)
アメリカ人の詩人、キリオン・スレイを探偵役としたシリーズ。
本作も作者の提唱する「トリックよりもロジック」を実践した作品集。
①「最初の?」="なぜ自殺にみせかけられる犯罪を他殺にしたのか”というのがテーマ。まずはプロットが分かりにくい。今回は凶器(銃)の所在が問題となりまずが、真相はちょっと唐突。
②「第二の?」="なぜ悪魔のいない日本で黒弥撤を行うのか”がテーマ。若い女性が怪しい性儀式に巻き込まれますが、スレイ氏の目には黒弥撤が別の儀式に見えていた。これも今ひとつピンとこない。
③「第三の?」="なぜ完璧なアリバイを容疑者が否定したのか”がテーマ。これはいかにもありそうなプロット。
④「第四の?」="なぜ殺人現場が死体もろとも消失したのか”がテーマ。居直り強盗が殺人を犯したはずの家から死体が消え、被害者の家族も殺人を否定する・・・一見すると魅力的な謎なのですが、被害者家族の背景を調査すれば簡単にからくりが判明してしまうのでは?
⑤「第五の?」="なぜ密室から凶器だけが消えたのか”がテーマ。これもやや喰い足りない。大掛かりなトリックは作者の好みでないのは分かりますが、こんなロジックでは「ふーん」としか言えない。
⑥「最後の?」="なぜ幽霊は朝飯を食ったのか”が最後のテーマ。すでに死亡推定時刻を過ぎているのに、被害者が朝食を食べるのを目撃されていた・・・ということですが、まぁこういう真相になっちゃいますよねぇー。
以上6編。
感想を言うなら「喰い足りない」の一言。
謎の設定そのものは悪くないのですが、オチが面白みに欠ける印象だし、そもそもプロットに魅力を感じないのが痛い。
都筑氏の作品ということで、期待して読んでると期待を裏切られるかも・・・
(敢えて選べば③か④かなぁ・・・)


No.525 5点 雲をつかむ死
アガサ・クリスティー
(2011/08/12 23:58登録)
ポワロ登場作でいえば10番目の作品。
大昔にジュブナイル版で読んで以来、超久々に再読。
~パリからロンドンに向かう定期旅客機が英仏海峡にさしかかったとき、機内に蜂が飛び回り始めた。乗客の1人が蜂を始末したが、最後部席には老婦人の変死体が。そして、その首には蜂の毒針で刺されたような痕跡が残っていた! 大空を飛ぶ飛行機という密閉空間で起きた異様な事件にポワロの推理は?~

他の佳作に比べると、確かに1枚落ちる作品と言わざるを得ないかなぁ・・・
飛行機の機内というほぼ完璧なクローズド・サークル。どれもいわくありげな乗客(容疑者)が12名も登場。毒蛇の毒による毒殺・・・
など、事件設定は実に魅力的なんですがねぇー。
ポワロが最終章で指摘する真犯人と殺害の手口、そして動機。
「動機」についてはまぁ納得できます。(読者には推理不能だとは思いますが)
問題はやはり殺害の手口でしょうか。
ある乗客の「持ち物」が問題になるのですが、これはかなり疑問符ですねぇ・・・
(ネタバレかもしれませんが)この「持ち物」だけで、ある人物になりすますのは相当に困難(ていうか、普通気付くよ!)。
全体的には好感の持てる作品だけに、非常に残念!


No.524 5点 舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵
歌野晶午
(2011/08/12 23:56登録)
母親のいない11歳の少女、舞田ひとみとのちょっとした会話から事件解決の糸口を得る。
主人公はひとみの叔父で刑事の舞田歳三。
①「黒こげおばあさん、殺したのはだあれ?」=吝嗇家で金貸しの老婆が殺された。当然ながら、容疑者候補は多数にのぼるが・・・真相はひとみの言葉から逆転の発想で生まれる。
②「金、銀、ダイヤモンド、ザックザク」=①の事件の焼け跡から純金の延べ棒が発見された途端に殺人事件が発生。しかも、被害者・容疑者とも子供!
これも真相は逆転の発想から。
③「いいおじさん、わるいおじさん」=夜中、公園でスケボーに興じる若者に注意をした市会議員が殺された。容疑者は何と、②の事件の関係者。これまた逆転の発想が真相へ導く。
④「いいおじさん? わるいおじさん?」=③の事件の被害者が今度の事件の関係者に・・・でも、まさかこんなものがあんなことのために使われていたなんて、まさに「わるいおじさん」でしょう。
⑤「トカゲは見ていた知っていた」=歳三のトンデモない姉が登場。パーティーの席上での毒殺が今回の謎。ちょっと動機が弱い気がしてならない。
⑥「そのひとみに映るもの」=ひとみの本当の母親とは? というのが今回の裏のテーマ。事件そのものはちょっと無理矢理感があると思うが・・・
以上6編。
①~④は前の事件の関係者が、次の事件に絡んでくるという展開で、連作短編らしく最後に大きな仕掛けがあるのかと思いきや、何もなくスルー。
その辺りが一番の不満点。
どれも短編らしく、ちょっとした逆転の発想から真相へというパターンで、それはそれでいいのですが、どれもインパクトには欠けますねぇ・・・
ひとみのキャラも今ひとつ伝わってこなかったなぁ。
(どれがよかったというものはなし。毒のない歌野はやっぱりつまらない!)


No.523 6点 夏、19歳の肖像
島田荘司
(2011/08/12 23:54登録)
初期のノン・シリーズ作品。
新装版で超久々に再読。
~バイク事故で入院中の青年が、病室の窓から目撃した「谷間の家」の恐るべき光景。密かに思いを寄せる憧れの女性は、父親を刺殺し、工事現場に埋めたのか? 退院後、青年はある行動を開始する。青春の苦い彷徨、その果てに待ち受ける衝撃の結末!~

苦いレモンでも齧ったかのような、切ないラブストーリー。
やっぱり、男って奴は薄幸そうな美人には弱いってことだよなぁ・・・
ラスト前、敵のアジト(!)へバイクで勇ましく突っ込んでいく姿は、名作「異邦の騎士」で石岡を助けにきた御手洗を彷彿させます。
ミステリー部分は付け足しのようなもので、結末も見え見えなのでほとんど関係なし。
まぁ、こういう「純愛もの」が好きな方にはたまらないのかもしれません。
(新装版のあとがきでは、島田氏自身、作品のエネルギーの大きさを感じ、若き日の自身を羨ましいとの表現があり、なんだかその感想が本作のすべてを表しているような気がします。
さすがに、ここまで円熟してしまった現在の島田氏には、こんな荒削りな作品は書けないでしょうから・・・)


No.522 6点 シャーロック・ホームズの帰還
アーサー・コナン・ドイル
(2011/08/05 23:30登録)
「冒険」「思い出(回想)」に続くシャーロック・ホームズシリーズの作品集第3弾。
ライヘンバッハの谷底で死んだはずのホームズ氏が奇跡の生還を果たし、いつもの名調子で謎を解く。
①「空き家の冒険」=復活を果たしたホームズが、ライヘンバッハからの経緯を語る場面が興味深い。
②「踊る人形」=ポーの名作「黄金虫」の焼き直し作品。でも、こんな象形文字、書くのが大変でしょうに・・・
③「美しき自転車乗り」=やはり犯罪はお金と美人の周りで起こるわけで・・・
④「プライオリ学校」=新潮文庫版の巻末解説によると、状況証拠として取り上げられた自転車のタイヤ痕については作者の勘違いとのこと。
⑤「黒ピーター」=小粒だが、ホームズ短編の典型的作品だと思う。
⑥「犯人は二人」=人の弱みに付け込んで大金を強請り取る大悪人に対し、ホームズとワトスンの取った行動は?
⑦「六つのナポレオン」=有名作品の1つ。昔ジュブナイルで読んだときは、なかなか「鮮やか」と思いましたが、さすがに今読むと色褪せる・・・
⑧「金縁の鼻眼鏡」=これも有名作品。思わせぶりに殺人の舞台となった屋敷の見取り図なんかが挿入されてますが・・・ラストは??
⑨「アベ農園」=結婚したお相手がどうしようもない人物だった・・・というのはホームズものでよくある設定。
⑩「第二の汚点」=本来⑨で終わるはずが、読者のリクエストに押されて追加したのが本作。なんだか「盗まれた手紙」の逆バージョンのようなプロット。
以上10編。
本来は13編から成る作品集ですが、新潮文庫版では3編は未収録。
作品のレベル的には玉石混交という感じでしょうか。
名作「冒険」収録作にも劣らないような作品もある一方、惰性で書かれたような作品もある、っていうところ。
ポーの作品にヒントを得た二番煎じ的作品もありますが、まぁ一読には十分耐え得る作品集という評価はできそう。
(やっぱり⑦がいいかな。②の象形文字はかなり面白い!)


No.521 6点 虚像の砦
真山仁
(2011/08/05 23:27登録)
「ハゲタカ」シリーズで有名な作者が、テレビ業界の内幕に鋭く切り込んだ作品。
タイトルは「メディアのとりで」と読ませる。
~中東で日本人が誘拐された。その情報をいち早く得た民法PTBディレクター・風見は、他局に先んじて放送しようと動き出すが、予想外の抵抗を受ける。一方、バラエティ番組の敏腕プロデューサー・黒岩は、次第に視聴率に縛られ自分を見失っていった。2人の苦悩と葛藤を通じて、巨大メディアの内実を暴く~

こういう企業小説を書かせたらうまいですねぇ。
TV局という、一般人には分かりにくい世界の内側や、TV局を監督する総務省の役人、そして圧力をかけようとする政治家・・・
それぞれの登場人物たちが自身の職務や利益、その他諸々のために行動する姿がリアリティ十分に描かれてます。
(まぁ、現実に起こった事件をモデルにしてますので、読むほうにも分かりやすい)
中盤以降の大きな陰謀をめぐった虚虚実実の駆け引き、そしてラストで1つの決着がつく。
まぁ、TVというかメディアの善悪論というのは昔からよく言われてる題材ですが、いろいろ考えさせられました。
(視聴者にも責任があるということでしょうけど・・・)
何よりも、登場人物が生き生きと書かれてるのがいいですね。
(風見のように、善は善、悪は悪と筋を通せる企業人になれたらなぁ・・・結構難しい!)


No.520 5点 ロートレック荘事件
筒井康隆
(2011/08/05 23:26登録)
国産SF小説の大家、筒井康隆による珍しいミステリー。
題名だけみると、「館」もののように見えますが・・・
~夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘が集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかにみえたのだが・・・2発の銃声が惨劇の始まりを告げた。1人また1人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か、アリバイを持たぬ者は、動機は?~

微かな記憶によれば、本書は発刊当時、かなり売れて話題になったはず。
以来気になりながらも未読でしたが、今回やっと読了しましたが・・・
「たいしたことはない」というのが正直な感想ですね。
これでは、最初から「仕掛け」があまりに"見え見え”でしょ!
まっ、要は「叙述系」のトリックなわけですが、ただ、これはあまりにも不自然すぎる。
もともとミステリー作家ではない作者ですから、技巧云々を指摘するのは間違いなのかもしれませんが、叙述トリックとしては決して誉められるレベルではないでしょう。
最後の真犯人の独白もちょっと冗長すぎるし、そこまで解説してもらうほどのトリックではない。
まぁ、お手軽に読める分量なのが唯一の長所でしょうか。
(大作家を貶しすぎたかな?)

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