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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.528 8点 ギリシャ棺の秘密
エラリイ・クイーン
(2011/08/16 20:51登録)
国名シリーズ第4弾。
シリーズどころか、クイーン最大の長編として君臨する作品。創元版で読了。
~NYのど真ん中に残された古い墓地の地下室から発見された2つの死体。その謎を追うエラリーは、1度、2度、3度までも犯人に裏をかかれて苦汁をなめるが、ついに4度目、あざやかに背負い投げをくわせる。大学を出て間もないエラリーが、四面楚歌の中で読者に先んじて勝利を得ることはできるだろうか?~

いやぁー長かった。
ただ、長いなりに充実した読書になりました。
個人的に国名シリーズで1番最後に取っておいた本作(※単に長いので後回しにしてただけですが・・・)。
まずは期待通り、評判に違わぬ水準と言っていいでしょう。
ロジックの切れ味という点では、「フランス白粉」や「オランダ靴」の方に軍配が挙がるような気も気もしますが、フーダニットの妙やトライアル&エラーで、真実を積み重ねていく過程、真犯人とエラリーとの知恵比べ的な要素も加えるなど、総合力ではシリーズNO.1かもしれません。
巻末解説でも触れてますが、本作が発表された1932年は、他にも「X」や「Y」、そして「エジプト十字架」も発表されるなど、クイーンが信じられないほどの充実期を迎えている時期にも当たります。
敢えて弱点を挙げるなら、中盤がやや冗長になっているところと、これだけの登場人物を並べた割には、簡単なロジックで犯人像がすぐ少数に絞られてしまうところでしょうか。
ただ、それを補って余りある真犯人の衝撃!(まさかアイツがねぇ) これこそがやはりミステリーの醍醐味!
(発表順と異なり、時代的には本作がエラリー最初の事件に当たる。それだけに、推理&捜査手法がまだ固まっていない。それだけに、逆にエラリーに感情移入しやすくなってる感じ)


No.527 6点 犯罪小説家
雫井脩介
(2011/08/16 20:48登録)
作者らしいサスペンス作品。
久々に雫井作品を読了しました。
~新進作家・待居涼司の出世作「凍て鶴」に映画化の話が持ち上がった。監督・脚本に選ばれた奇才・小野川光は独自の理論を展開し、かつて世間を騒がせた自殺系サイト「落花の会」を主催していた木の瀬蓮美の伝説の死を映画に絡めようとする。一方、小野川に依頼されて蓮美の伝説の死の謎に迫り始めたライターの今泉知里は、事件の陰に待居に似た男の存在に気付き・・・~

正直、期待したほどではなかったかなという読後感。
代表作「火の粉」なんかもそうですが、作者の佳作であれば、終盤に向けてジワジワと高まっていく緊張感みたいなものがあるはず、だった・・・
やっぱり、「火の粉」などと比べると1枚2枚落ちるという印象なんですよね。
本作、メインの登場人物がほぼ3人に限られ、そのうちの2人が果たして、犯罪者なのかそうではないのかという疑惑が、消えては浮上、消えては浮上して、ラストはどうなるのか? みたいな期待感を抱いたわけですが、どうにも中途半端に終わったなという感じ。
自殺サイトでの掲示板のやり取りも、結構な字数を割いたほどではなかったかなっと・・・
というわけで、いろいろと不満を述べましたが、これも期待の裏返しというわけで、それほど悪い作品じゃないですよ。
(小野川の濃いキャラも結局看板倒れだったのか・・・?)


No.526 5点 キリオン・スレイの生活と推理
都筑道夫
(2011/08/16 20:46登録)
アメリカ人の詩人、キリオン・スレイを探偵役としたシリーズ。
本作も作者の提唱する「トリックよりもロジック」を実践した作品集。
①「最初の?」="なぜ自殺にみせかけられる犯罪を他殺にしたのか”というのがテーマ。まずはプロットが分かりにくい。今回は凶器(銃)の所在が問題となりまずが、真相はちょっと唐突。
②「第二の?」="なぜ悪魔のいない日本で黒弥撤を行うのか”がテーマ。若い女性が怪しい性儀式に巻き込まれますが、スレイ氏の目には黒弥撤が別の儀式に見えていた。これも今ひとつピンとこない。
③「第三の?」="なぜ完璧なアリバイを容疑者が否定したのか”がテーマ。これはいかにもありそうなプロット。
④「第四の?」="なぜ殺人現場が死体もろとも消失したのか”がテーマ。居直り強盗が殺人を犯したはずの家から死体が消え、被害者の家族も殺人を否定する・・・一見すると魅力的な謎なのですが、被害者家族の背景を調査すれば簡単にからくりが判明してしまうのでは?
⑤「第五の?」="なぜ密室から凶器だけが消えたのか”がテーマ。これもやや喰い足りない。大掛かりなトリックは作者の好みでないのは分かりますが、こんなロジックでは「ふーん」としか言えない。
⑥「最後の?」="なぜ幽霊は朝飯を食ったのか”が最後のテーマ。すでに死亡推定時刻を過ぎているのに、被害者が朝食を食べるのを目撃されていた・・・ということですが、まぁこういう真相になっちゃいますよねぇー。
以上6編。
感想を言うなら「喰い足りない」の一言。
謎の設定そのものは悪くないのですが、オチが面白みに欠ける印象だし、そもそもプロットに魅力を感じないのが痛い。
都筑氏の作品ということで、期待して読んでると期待を裏切られるかも・・・
(敢えて選べば③か④かなぁ・・・)


No.525 5点 雲をつかむ死
アガサ・クリスティー
(2011/08/12 23:58登録)
ポワロ登場作でいえば10番目の作品。
大昔にジュブナイル版で読んで以来、超久々に再読。
~パリからロンドンに向かう定期旅客機が英仏海峡にさしかかったとき、機内に蜂が飛び回り始めた。乗客の1人が蜂を始末したが、最後部席には老婦人の変死体が。そして、その首には蜂の毒針で刺されたような痕跡が残っていた! 大空を飛ぶ飛行機という密閉空間で起きた異様な事件にポワロの推理は?~

他の佳作に比べると、確かに1枚落ちる作品と言わざるを得ないかなぁ・・・
飛行機の機内というほぼ完璧なクローズド・サークル。どれもいわくありげな乗客(容疑者)が12名も登場。毒蛇の毒による毒殺・・・
など、事件設定は実に魅力的なんですがねぇー。
ポワロが最終章で指摘する真犯人と殺害の手口、そして動機。
「動機」についてはまぁ納得できます。(読者には推理不能だとは思いますが)
問題はやはり殺害の手口でしょうか。
ある乗客の「持ち物」が問題になるのですが、これはかなり疑問符ですねぇ・・・
(ネタバレかもしれませんが)この「持ち物」だけで、ある人物になりすますのは相当に困難(ていうか、普通気付くよ!)。
全体的には好感の持てる作品だけに、非常に残念!


No.524 5点 舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵
歌野晶午
(2011/08/12 23:56登録)
母親のいない11歳の少女、舞田ひとみとのちょっとした会話から事件解決の糸口を得る。
主人公はひとみの叔父で刑事の舞田歳三。
①「黒こげおばあさん、殺したのはだあれ?」=吝嗇家で金貸しの老婆が殺された。当然ながら、容疑者候補は多数にのぼるが・・・真相はひとみの言葉から逆転の発想で生まれる。
②「金、銀、ダイヤモンド、ザックザク」=①の事件の焼け跡から純金の延べ棒が発見された途端に殺人事件が発生。しかも、被害者・容疑者とも子供!
これも真相は逆転の発想から。
③「いいおじさん、わるいおじさん」=夜中、公園でスケボーに興じる若者に注意をした市会議員が殺された。容疑者は何と、②の事件の関係者。これまた逆転の発想が真相へ導く。
④「いいおじさん? わるいおじさん?」=③の事件の被害者が今度の事件の関係者に・・・でも、まさかこんなものがあんなことのために使われていたなんて、まさに「わるいおじさん」でしょう。
⑤「トカゲは見ていた知っていた」=歳三のトンデモない姉が登場。パーティーの席上での毒殺が今回の謎。ちょっと動機が弱い気がしてならない。
⑥「そのひとみに映るもの」=ひとみの本当の母親とは? というのが今回の裏のテーマ。事件そのものはちょっと無理矢理感があると思うが・・・
以上6編。
①~④は前の事件の関係者が、次の事件に絡んでくるという展開で、連作短編らしく最後に大きな仕掛けがあるのかと思いきや、何もなくスルー。
その辺りが一番の不満点。
どれも短編らしく、ちょっとした逆転の発想から真相へというパターンで、それはそれでいいのですが、どれもインパクトには欠けますねぇ・・・
ひとみのキャラも今ひとつ伝わってこなかったなぁ。
(どれがよかったというものはなし。毒のない歌野はやっぱりつまらない!)


No.523 6点 夏、19歳の肖像
島田荘司
(2011/08/12 23:54登録)
初期のノン・シリーズ作品。
新装版で超久々に再読。
~バイク事故で入院中の青年が、病室の窓から目撃した「谷間の家」の恐るべき光景。密かに思いを寄せる憧れの女性は、父親を刺殺し、工事現場に埋めたのか? 退院後、青年はある行動を開始する。青春の苦い彷徨、その果てに待ち受ける衝撃の結末!~

苦いレモンでも齧ったかのような、切ないラブストーリー。
やっぱり、男って奴は薄幸そうな美人には弱いってことだよなぁ・・・
ラスト前、敵のアジト(!)へバイクで勇ましく突っ込んでいく姿は、名作「異邦の騎士」で石岡を助けにきた御手洗を彷彿させます。
ミステリー部分は付け足しのようなもので、結末も見え見えなのでほとんど関係なし。
まぁ、こういう「純愛もの」が好きな方にはたまらないのかもしれません。
(新装版のあとがきでは、島田氏自身、作品のエネルギーの大きさを感じ、若き日の自身を羨ましいとの表現があり、なんだかその感想が本作のすべてを表しているような気がします。
さすがに、ここまで円熟してしまった現在の島田氏には、こんな荒削りな作品は書けないでしょうから・・・)


No.522 6点 シャーロック・ホームズの帰還
アーサー・コナン・ドイル
(2011/08/05 23:30登録)
「冒険」「思い出(回想)」に続くシャーロック・ホームズシリーズの作品集第3弾。
ライヘンバッハの谷底で死んだはずのホームズ氏が奇跡の生還を果たし、いつもの名調子で謎を解く。
①「空き家の冒険」=復活を果たしたホームズが、ライヘンバッハからの経緯を語る場面が興味深い。
②「踊る人形」=ポーの名作「黄金虫」の焼き直し作品。でも、こんな象形文字、書くのが大変でしょうに・・・
③「美しき自転車乗り」=やはり犯罪はお金と美人の周りで起こるわけで・・・
④「プライオリ学校」=新潮文庫版の巻末解説によると、状況証拠として取り上げられた自転車のタイヤ痕については作者の勘違いとのこと。
⑤「黒ピーター」=小粒だが、ホームズ短編の典型的作品だと思う。
⑥「犯人は二人」=人の弱みに付け込んで大金を強請り取る大悪人に対し、ホームズとワトスンの取った行動は?
⑦「六つのナポレオン」=有名作品の1つ。昔ジュブナイルで読んだときは、なかなか「鮮やか」と思いましたが、さすがに今読むと色褪せる・・・
⑧「金縁の鼻眼鏡」=これも有名作品。思わせぶりに殺人の舞台となった屋敷の見取り図なんかが挿入されてますが・・・ラストは??
⑨「アベ農園」=結婚したお相手がどうしようもない人物だった・・・というのはホームズものでよくある設定。
⑩「第二の汚点」=本来⑨で終わるはずが、読者のリクエストに押されて追加したのが本作。なんだか「盗まれた手紙」の逆バージョンのようなプロット。
以上10編。
本来は13編から成る作品集ですが、新潮文庫版では3編は未収録。
作品のレベル的には玉石混交という感じでしょうか。
名作「冒険」収録作にも劣らないような作品もある一方、惰性で書かれたような作品もある、っていうところ。
ポーの作品にヒントを得た二番煎じ的作品もありますが、まぁ一読には十分耐え得る作品集という評価はできそう。
(やっぱり⑦がいいかな。②の象形文字はかなり面白い!)


No.521 6点 虚像の砦
真山仁
(2011/08/05 23:27登録)
「ハゲタカ」シリーズで有名な作者が、テレビ業界の内幕に鋭く切り込んだ作品。
タイトルは「メディアのとりで」と読ませる。
~中東で日本人が誘拐された。その情報をいち早く得た民法PTBディレクター・風見は、他局に先んじて放送しようと動き出すが、予想外の抵抗を受ける。一方、バラエティ番組の敏腕プロデューサー・黒岩は、次第に視聴率に縛られ自分を見失っていった。2人の苦悩と葛藤を通じて、巨大メディアの内実を暴く~

こういう企業小説を書かせたらうまいですねぇ。
TV局という、一般人には分かりにくい世界の内側や、TV局を監督する総務省の役人、そして圧力をかけようとする政治家・・・
それぞれの登場人物たちが自身の職務や利益、その他諸々のために行動する姿がリアリティ十分に描かれてます。
(まぁ、現実に起こった事件をモデルにしてますので、読むほうにも分かりやすい)
中盤以降の大きな陰謀をめぐった虚虚実実の駆け引き、そしてラストで1つの決着がつく。
まぁ、TVというかメディアの善悪論というのは昔からよく言われてる題材ですが、いろいろ考えさせられました。
(視聴者にも責任があるということでしょうけど・・・)
何よりも、登場人物が生き生きと書かれてるのがいいですね。
(風見のように、善は善、悪は悪と筋を通せる企業人になれたらなぁ・・・結構難しい!)


No.520 5点 ロートレック荘事件
筒井康隆
(2011/08/05 23:26登録)
国産SF小説の大家、筒井康隆による珍しいミステリー。
題名だけみると、「館」もののように見えますが・・・
~夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘が集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかにみえたのだが・・・2発の銃声が惨劇の始まりを告げた。1人また1人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か、アリバイを持たぬ者は、動機は?~

微かな記憶によれば、本書は発刊当時、かなり売れて話題になったはず。
以来気になりながらも未読でしたが、今回やっと読了しましたが・・・
「たいしたことはない」というのが正直な感想ですね。
これでは、最初から「仕掛け」があまりに"見え見え”でしょ!
まっ、要は「叙述系」のトリックなわけですが、ただ、これはあまりにも不自然すぎる。
もともとミステリー作家ではない作者ですから、技巧云々を指摘するのは間違いなのかもしれませんが、叙述トリックとしては決して誉められるレベルではないでしょう。
最後の真犯人の独白もちょっと冗長すぎるし、そこまで解説してもらうほどのトリックではない。
まぁ、お手軽に読める分量なのが唯一の長所でしょうか。
(大作家を貶しすぎたかな?)


No.519 6点 プレイバック
レイモンド・チャンドラー
(2011/07/30 01:01登録)
作者最後の作品。
名作「長いお別れ」から4年半の沈黙を経て、久々にマーロウ登場です。
~女の尾行を依頼されたマーロウは、ロサンゼルス駅に着いた列車の中にその女の姿を見つけた。だが、駅構内で派手な服装の男と言葉を交わすや、女の態度は一変した。明らかに女は男に脅迫されているらしい。男は影のようにその女について回った。そして2人を追うマーロウを待つ1つの死とは?~

チャンドラー最後の作品ということを考えれば、何となく感慨深い作品のように思ってしまう。
事件そのものは、マーロウが突然事件に巻き込まれ、関係者の美人とすぐに深い仲になったりしながら、事件全体の構図&謎を解き明かす・・・
ということで、まぁいつもの調子のように思える。
ただ、巻末解説で触れられているとおり、これまでとはやや異なったテイストがあるのも事実のようです。
今回、ベッドシーンが多いという指摘もありますが、やっぱりマーロウはカッコいいですよ。
本作の舞台となるサンディエゴもチャンドラーやマーロウの世界観によくマッチしてます。
レベル的にはそれほど高い評価にはなりませんが、古き良きハードボイルドを味わいたい方にはお勧め!
(有名な台詞『・・・やさしくなかったら、生きている価値がない』・・・シビれるねぇ)


No.518 6点 アヒルと鴨のコインロッカー
伊坂幸太郎
(2011/07/30 01:00登録)
大ヒットした長編「重力ピエロ」に続く第5長編作品。
本作もやはり、伊坂らしい台詞まわしが特徴的な吉川英治文学新人賞受賞作。
~引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的はたった1冊の広辞苑! そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだった!~

なかなか評価の難しい作品ですねぇ・・・
正直、中盤までは読むのが多少苦痛になるようなまだるっこしい展開。
伊坂らしい独特かつ軽妙な語り口だけが目立ち、どうということのない話が続いているだけのように思えてしまう。
それでも、さすがに終盤に入ると、そこまでの伏線がきれいに回収されていく手口を満喫させてもらえます。
「カットバック」もうまく使ってますよねぇー。
こういう書き方をされると、とにかく読み進めていくしかないという気にさせられる。
これで、「もしオチがしょうもなかったら承知しねぇぞ」と思ってしまいますが、まずは及第点といった評価でしょうか。
ただ、コアなミステリーファンにはウケない気がします。
(ブータン人って、そんなに日本人に似てましたっけ?)


No.517 3点 花曇り
赤井三尋
(2011/07/30 00:58登録)
乱歩賞受賞作「翳りゆく夏」に続く作品集。
普通の短編+ショートショートという組み合わせですが、ミステリー色はやや薄くなっています。
①「老猿の改心」=金庫破りの名人「老猿」が仕事中に見つかり、あろうことか金庫の中に閉じ込められる! 結果は如何に?
②「クリーンスタッフの憧憬」=TV局に勤めるアルバイトの清掃員の話。いわゆる「ちょっといい話」という奴ですが、あまりにステレオタイプ。
③「三十年後」=昔の悪ガキトリオの1人が30年後に・・・というよくあるプロット。最後にはお決まりのオチかと思いきや、なかなかブラックに・・・
④「青の告白」=2,30年前のプロットのような気がする。プロの作家としてはどうか?
⑤「花曇り」=戦前~戦後にかけての囲碁界が舞台。まぁ、いい話ではあるが、オチも「ふーん」程度。
あとはショート・ショート作品(「遊園地の一齣」「紙ヒコーキの一齣」「アリバイの一齣」「善意の一齣」「誘拐の一齣」)
以上5編+α。
はっきりいって、低レベルの作品集。
正直ミステリーとは呼べませんし、プロットがあまりにも古臭いのでは?
巻末解説ではソツなく誉めてますが、個人的には誉めるところが思い浮かばない・・・
まぁ、買ってまで読むほどではないという評価。
(全体的に渋すぎる作風・・・せめてもう少し起伏が欲しい)


No.516 6点 町長選挙
奥田英朗
(2011/07/24 15:46登録)
絶好調の「ドクター伊良部シリーズ」第3弾。
今回は実在の人物がモデルにされてます。(しかも相当分かりやすい!)
①「オーナー」=人気球団「東京グレート・パワーズ」のオーナー田辺満雄、通称「ナベマン(!)」が今回のクランケ。この老練な人物ですら、伊良部のマイペースとアホパワーの前には負けてしまう・・・でも、「老害」ってのは絶対ありますね。
②「アンポンマン」=アンポンマンこと、某IT企業の風雲児・安保貴明が主人公。超効率的な思考で世間をアッと言わせ続ける安保が悩まされるのは「ひらがな健忘症」(!) パソコンでのローマ字変換に親しんでしまった方にとっては「ギクッ!」とするかも・・・
③「カリスマ稼業」=40代にして美貌を保ち続ける女優、白木カオル(!)が主人公。まぁ、女優っていうのは多かれ少なかれ、陰ではこういう努力をしているんでしょうし、プロ意識が高いということだから、決して悪いことじゃないと思いますけどね・・・もう少し「自然に」ということなんですかね。
④「町長選挙」=選挙戦を前に真っ二つに住民が割れている町、「千寿島」が舞台。公然と札束が乱れ飛ぶ激しい選挙戦に伊良部がなぜか巻き込まれていきます・・・でも、やっぱり最後は何とも心温まる光景になる。
以上4編。
相変わらず「うまい」ねぇ。
①~③はモデル丸分かりで皮肉一杯ですけど、何か問題出なかったんですかねぇ?(特に③)
まぁ、いろいろ皮肉を言いながらも、最後には「ホロッ」とさせられるので、読後感はいつでもいいんですけど・・・
結局、この伊良部シリーズ共通のテーマは、「あまり肩肘張らず、見栄も張らず、自然体でいこうよ!」ということなのでしょう。
でも、伊良部の真似なんて絶対できない!
(前作、前々作と比べるとやや落ちる印象。やっぱり④が面白い。)


No.515 7点 すべてがFになる
森博嗣
(2011/07/24 15:44登録)
第1回メフィスト賞受賞作にして、S&Mシリーズの第1作目。
記念碑的作品に相応しく、本格ミステリーのギミックをたっぷりと詰め込んだ大作です。
~孤島のハイテク研究所で少女時代から完全に隔離された生活をおくる天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウェディングドレスを身にまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川と西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む~

久し振りに再読。
森作品は、当初S&Mシリーズをノベルズで刊行のたび読んでいましたが、何か肌に合わないような気がして途中で完全に脱落してました。
やっぱり本作は別格のような気がしますね。デビュー作とはとても思えない。
ミステリー的な視点で見れば、密室トリック(と言えるか?)はやや反則気味ですし(これなら何でもありになってしまう)、「動機」もはっきり言って意味不明。
フーダニットかハウダニットかどちらかにもう少し拘って、深掘りしても良かったかなというのが個人的感想。
ただ、当時はこういう設定自体が目新しかったでしょうし、「新しい形の本格ミステリー」という表現が確かに当て嵌まるのだと思います。
というわけで、再読してみると、S&Mシリーズをもう1度おさらいしてみるのもいいかもという気が・・・
(私みたいなコテコテの文系人間には、やっぱり犀川のような考え方に反発を覚えるんでしょうか・・・それが肌に合わないと感じるのかな?)


No.514 5点 仮面荘の怪事件
カーター・ディクスン
(2011/07/24 15:43登録)
H.M卿登場作品。
他の方の書評どおり、元ネタはフェル博士ものの短編のようです。
~ロンドン郊外の広壮な邸宅「仮面荘」。ある夜、不審な物音に屋敷の者たちが駆けつけると、名画の前に覆面をした男が瀕死の状態で倒れていた。その正体は何と屋敷の現当主であるスタナップ氏その人だった! なぜ自分の屋敷に泥棒に入る必要があったのか、そして彼を刺したのはいったい誰か?~

1940年代に入ると、カーの作風に変化が見られ、初期~中期の怪奇・オカルト趣味が薄れ、リアリティを重視する方向に変わっていきます。
本作もその例に洩れず、カーらしいオドロオドロしさ全くなし。むしろ、H・M卿が狂言回しのような役どころを演じていて、笑いさえ誘います。
本作のメインテーマは、「なぜ自分の家に泥棒に入る必要があったのか」という謎。
真相については、ちょっと頭を捻れば辿り着けるようなものかなぁとは思います。
物証などについても、割とあからさまに伏線が張られているので、ストレートすぎる解決にやや拍子抜けはするかもしれません。
「血」の件については、確かにちょっと不自然でしょうねぇ。
「赤いオリ」なんていう表現も出てきますが、それってどう見ても「血」にしか見えないんじゃない?(しかも見たのが現職の刑事ですから・・・)
まぁ、全盛期の作品に比べれば1枚も2枚も落ちるというのが正直な感想。
(H・M卿がインド人の奇術師に見えるなんて・・・ホントか?)


No.513 4点 耳すます部屋
折原一
(2011/07/20 21:44登録)
お得意の叙述トリックにホラーテイストを若干加えた作品集。
作者のファンとして知られる女優の池波志乃が巻末解説を書いてます。
①「耳すます部屋」=ごく単純な叙述というか、単なる引っ掛け。しかもあまり怖くない。
②「五重像」=幼い頃に遭った事件を後々思い出すという、よくあるプロット。
③「のぞいた顔」=他の長編にも同様のアイデアが使われてます。
④「真夏の誘拐者」=今回は、「これ」と同様のプロットが目立つ。
⑤「肝だめし」=長編「異人たちの館」の作中作で使われた作品。出来もイマイチ。
⑥「眠れない夜のために」=雑誌の「読者相談コーナー」を使ったプロットは折原でも始めて読んだ。そこだけは面白い。
⑦「Mの犯罪」=Mとは宮崎勤のことらしいですが・・・
⑧「誤解」=どっちが殺人者で、どっちが被害者で・・・というプロット。ラストは唐突。
⑨「鬼」=これも③と同様、他作品に使われたもの。
⑩「目撃者」=まぁ叙述トリックといえばそうだけど・・・
以上10編。
中途半端で正直駄作が多い短編集という印象。
他の作品からの転用や、後々長編作品に転用されたプロットなども目立ち、「とりあえず」書きましたというような印象。
折原の場合、当然長編の方がいいわけですが、それにしてもこれはちょっとねぇ・・・
(特にお勧めはなし。敢えて言えば・・・やっぱりないなぁ)


No.512 8点 百万ドルをとり返せ!
ジェフリー・アーチャー
(2011/07/20 21:42登録)
コン・ゲーム小説の傑作と評される1作。
処女長編とは思えないほどの出来栄え。
~大物詐欺師で富豪のメトカーフの策略により、北海油田の幽霊会社の株を買わされ、合計百万ドルを巻き上げられた4人の男たち。天才的数学博士を中心に医者・画商・貴族が専門を生かしたプランを持ち寄り頭脳の限りを尽くして展開する痛快無比の奪回作戦。果たして、百万ドルは取り返せるのか? 新機軸のエンターテイメントとして話題を呼ぶコン・ゲーム小説の傑作~

いやぁーこれはかなり面白かった。
「シンプル・イズ・ベスト」とも言うべき単純さと、スピーディーな展開にすっかり嵌まってしまいました。
メトカーフという男も、自身は「負け知らずの男」のはずなのですが、4人が仕掛けた罠に面白いように掛かっていくんですねぇ・・・
3人目までそういう流れが続いた後、「なんかイマイチ盛り上がりに欠けるなぁ」と思ってきた矢先に、「大仕掛け」が炸裂する!
これには正直やられました。
ラストもなかなか小粋なエンディング。読後感も実に爽快でした。
頭を真っ白にして、何も考えずに読むのがお勧めの1冊。
(「詐欺」については実に初歩的な手口。よくこんな単純なやつに引っ掛かったな・・・)


No.511 6点 水の迷宮
石持浅海
(2011/07/20 21:40登録)
「アイルランドの薔薇」「月の扉」に続く第3長編。
氏の作品らしく、特殊設定下での脅迫&殺人事件がテーマ。
~3年前に不慮の死を遂げた水族館職員の命日にその事件は起きた。羽田国際環境水族館に届いた1通のメールは、展示生物への攻撃を予言するものだった。姿なき犯人の狙いは何か。そして、自衛策を講じる職員たちの努力を嘲笑うかのように殺人事件が起きた。すべての謎が解き明かされたとき、胸打つ感動が読者を襲う!~

氏の初期作品らしくて、好感の持てる作品というのが読後の感想。
確かに「甘い」かもしれませんし、ラストはあまりにも「作りもの」っぽさが目立ち、安手のドラマを見ているような感覚にはさせられますが・・・
ただ、前2作や他の作品でも感じたことですが、日常の世界ではあまり知ることのできない、こういう特殊設定を持ってこられ、登場人物たちの会話や心の動きを見せられながら、ついつい作者の「手練手管」に引っ掛かっているような気にさせられるのも事実。
今回の「水族館」という舞台もなかなかよく練られていると思います。(薀蓄も楽しい)
まぁ、プロローグからして伏線があからさまなので、事件全体の構図がやや分かりやすいのと、殺人の動機が相当弱いとういか理解不能に近いのが割引ですかねぇー
トータルで見れば、十分楽しめる作品だとは思いますし、水準級+αといったところでしょう。
(実際、片山の「夢」は実現可能なのでしょうか? 実現したらかなりスゴイことになるでしょうけど・・・)


No.510 7点 殺す者と殺される者
ヘレン・マクロイ
(2011/07/16 00:12登録)
作者といえば、精神分析学者ウィリング博士シリーズが有名ですが、本作はノンシリーズの1作。
円熟期の上質サスペンス。
~遺産を相続し、不慮の事故から回復したのを契機に職を辞し、亡母の故郷へと移住したハリー・ディーン。人妻となった想い人と再会し、新生活を始めた彼の身辺で異変が続発する。消えた運転免許証、差出人不明の手紙、謎の徘徊者・・・そして、ついには痛ましい事件が起こった。この町で何が起きているのか?~

なるほど! 確かにこれは上質なミステリーです。
メインの「仕掛け」については、今となっては、残念ながら相応のインパクトしか与えられないかなと思いますが、さすがにうまいですね。
特に「時間軸」については気付きませんでしたし、数々の伏線をあからさまに晒しているのもニクイ・・・
精神医療でいうと、これって、重度の「統○○○症」ということなんですよねぇ?
ある日突然、天と地がひっくり返るような「事実」に気付かされる主人公ハリー(もしくはヘンリー)の心の揺れ具合も本作の特徴の1つでしょう。
新聞記事で終わるラストも、かなりの余韻を読者に響かせます。
まずは、読んで損のない1冊と言えるでしょう。
(男って、昔好きだった女性をなかなか忘れられないよねぇ・・・なぜだろう?)


No.509 7点 メイン・ディッシュ
北森鴻
(2011/07/16 00:11登録)
小劇団「紅神楽」の主演女優・紅林ユリエ(愛称、ネコ)を主人公とするノン・シリーズ。
作者得意の連作短編集です。
①「アペリティフ」=連作のプロローグ。
②「ストレンジ・テイスト」=ユリエを中心として、ミケさんや小杉といった主要人物が登場。相変わらず数々の料理のレシピが出てきて、食欲をそそられる。
③「アリバイ・レシピ」=ユリエを中心とするストーリーと並行するもう1つのストーリー。5人の同級生に纏わる過去の忌まわしい事件についての謎が語られる。
④「キッチンマジック」=ミケさんがかつて通ったラーメンの名店の味を再現。しかし、かつての名店の味は変わっていた・・・そして、ミケさんの謎も深まる。
⑤「バッドテイストトレイン」=これは、もう1つのストーリー。グルメ作品(?)としては珍しくテーマは「駅弁」。そして、ミケさんと5人の同級生との間に何かのつながりがあることが分かる・・・
⑥「マイオールドビターズ」=世にも美味な地ビールが登場!(呑んでみたい) 劇団をたった1人で鑑賞する老資産家の正体とは? そして、ミケさんが突然の失踪。
⑦「バレンタインチャーハン」=いわゆる「黄金のチャーハン」!(ご飯パラパラのやつ) レシピは意外に簡単なんですねぇ・・・
⑧「ボトル"ダミー”」=深まるミケさんと5人の同級生の謎。ミケさんの正体はやっぱり・・・
⑨「サプライジングエッグ」=ついに、過去の事件の謎&からくりが判明。なるほど、そういうことでしたか。
⑩「メイン・ディッシュ」=タイトルに反して「おまけ」のような話。
以上10編+特別料理(!)
さすがにうまいです。作者には「連作短編の魔術師」の称号を進呈!
現在と過去の事件をうまい具合にミックスして、途中には「叙述」という香辛料を混ぜ、絶妙のコース料理に仕上げられてます。
そして、例の如く、うまそうな料理の数々! ミステリーとしては薄味かもしれませんが、見事な後味を残す1品だと思います。

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