笑ってジグソー、殺してパズル 更科ニッキシリーズ |
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作家 | 平石貴樹 |
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出版日 | 1984年08月 |
平均点 | 4.67点 |
書評数 | 6人 |
No.6 | 4点 | おっさん | |
(2020/04/11 17:11登録) ――アハハハッ、習作ね! オシマイ。 嘘です、もう少し続けます <(_ _)> 近作『潮首岬に郭公の鳴く』(2019)の評判がいい、アメリカ文学研究者にして作家・平石貴樹の長編デビュー作を、今回、創元推理文庫版で読了しました。 じつは、初読です 。 1984年に集英社から出た単行本は、当時、スルーしてしまったんですよねえ。帯の、珍しい高木彬光の推薦文(「これは完全な純粋本格推理小説である」云々)に気を惹かれ、当時、書店でいったん手には取ったんですよ。でも、導入部にちょっと目を通しただけで、棚に戻してしまった。探偵役(ヒロイン)のお気楽な言動(「――だってあたし、とびっきりの殺人事件をゼッタイ待ってるんですもん」)と、その安直な設定紹介(跳び級でアメリカの大学を卒業した帰国子女ですって、キャッ、でもって二十一歳で、法務省特別調査室の調査官なんですって……アハハッ!)に、駄目だこりゃ、となったわけです。ブンガク方面のかたの、手すさびの“本格ミステリごっこ”にはつきあえないや、とか思ったりして、まあ、こちらも生意気でしたねw その悪印象のせいで、マニア間で評判になった2作目『だれもがポオを愛していた』(1985)すら、読むのをずっと後回しにしてしまいました。 集英社文庫になってから目を通した、その『だれポオ』は、確かに面白かったのですよ。幸福な、趣味の本格の金字塔という感じで。でも同時に、この作者はこの一作があれば充分だよなあ、とも思ってしまった。少なくとも、ミステリ作家としてプロでやっていく(いける)人ではないだろうし、この「幻の名作」の作者として、マニアの記憶に残り、懐かしく想い出され、語り継がれていけばいい、と。嫌な読者ですねww まさか後年、その平石センセイが不死鳥のように甦るとはwww で、あらためて再会した、更科丹希(さらしな・にき)嬢、通称ニッキに対する印象は、後述するとして、本書のミステリとしての評価を、まず述べておきます。 「読者への挑戦状」つきの、ガチの論理小説として、解明のプロセスは細部までよく考えられていますが、トリック(最後の事件のアレ)に縛られすぎて、犯人側の計画に無理があります。その方法でうまく○○は作れても、状況が不自然すぎて、とても××には見えません。警察に「方法」を問題にされたら、露見は時間の問題でしょう。 探偵役が、「動機」に囚われず論理的思考だけで謎を解くという、その姿勢はいい。しかし、作者まで犯人の「動機」を軽視したら、いけません。「動機」は、あらためて言うまでも無く、そのトリックを採用した動機を含むのです。 連続する事件で、なぜ必ず現場にジグソーパズルのピースが撒き散らされていたのか? という、魅力的なホワイダニットも、結局、その不自然なハウダニットに収斂してしまう。 そして、もうひとつ大きな問題が。 フェアプレイが大切な挑戦小説でありながら、本書はアンフェアだと、筆者は考えます。作中の犯人が、目的を達成するために施した、ある偽装工作に関して、ニッキは謎解き場面で「ともかく可能性はあるんだとすると、あとは論理の問題になります」と発言していますが……おおかたの読者は、そんな「可能性」があるとは考えないでしょう。だって、舞台はクローズド・サークルじゃない、普通に警察が介入し、司法解剖もおこなわれているんですから。あとになって、「とにかく可能性としては否定できない」と言われても、モヤモヤが残りますよ。 そんなアンフェア感を増大させているのが、叙述の問題。本書を執筆するにあたり、平石センセイが「作者の視点」を採用したのは、失敗です。といって悪ければ、文章表現によりいっそうの配慮が必要だった。 ユーモア・タッチの警察捜査小説のなかに、異物としてのキュートな「名探偵」が同居している小説ですから、個人的には、その「名探偵」に振り回される若い藤谷刑事の視点で、そのボヤキ語りで進行させていれば――アハハッ、涼宮ハルヒとキョンよオ――少なくとも彼の認識の誤りは「アンフェア」とは言えなくなくなった、と思うのですが、どんなものか。 さて、ニッキ嬢の件。 作者としては、“ニッキー・ポーターの冒険” 的なノリで作った、好みのタイプのキャラクターかも知れませんが、傍目にはイヤな女ですよ。その点に関して、書き手がどこまで自覚的なのかな。 そもそも「法務省特別調査室の調査官」って何? なんで刑事と一緒に捜査現場に行くの? もしかしたら、刊行にいたらなかった、シリーズのエピソードゼロの長編があって、そこでそのへんの設定がくわしく語られていたのかもしれません。本書の導入部は、あきらかに前作の続き、みたいなノリではじまっていますから。 いずれにしても、本書のニッキは、まわりの大人にチヤホヤされているだけで、読者にその魅力が伝わってくる造形はされていません。 唯一、筆者が彼女に心動かされたのは、事件の悲しく残酷な真相に到達したさい、藤谷刑事に思わず「……ちっとも嬉しくないんだ」「……ちっとも嬉しくないんだよオ」と心情を吐露する場面でした。書き割りのキャラに、一瞬、生命が宿ります。でも、そのあとはまた、もとの“殺人事件大好き女”に戻ってしまうんですね。 このあとの『だれもがポオを愛していた』が傑作だから、目をつぶりますけど、ニッキは、性格改造しないかぎり、賽の河原の石積みを続けざるをえない不憫なお嬢さんというのが、筆者の偽らざる感想です。 ブランクを経て執筆を再開した作者が、彼女のシリーズを中断(?)しているのも、そのへんが関係しているのかなあ。 |
No.5 | 4点 | E-BANKER | |
(2011/09/17 00:05登録) 名探偵更科ニッキの初登場作品。 動機無視、ロジックに徹した純粋パズラー。 ~国際ジグソーパズル連盟日本支部長を務める興津華子の死の床は、肩書きに相応しくジグソーパズルのピースで彩られていた。三興グループの実質的オーナーである彼女の死から数日、夫栄太郎が同じ部屋で殺され、現場には夫人の時と同様、パズルのピースが多数散らばっていた。捜査に伴って多額の遺産や系列会社のデータ捏造に絡む背後関係が浮かび、容疑者が絞り込まれるなか、程なく第3の殺人が起きる!~ うーん。期待して読んだだけに、正直ガッカリ。 紹介文読んだら期待しちゃいますよねぇー、本格ファンなら。 現場見取り図や怪しげな遺留物、ワケありそうな資産家一族など、魅力的なギミックは詰まっているのですが・・・ 如何ともしがいたいほどの、上っすべり感。 しかも、名探偵ニッキのキャラがあまりにも魅力に乏しい! いくらロジックに徹しているからといっても、「小説」としてこれではヒドイのではないか? これなら、推理クイズの方が時間を浪費しない分、まだ救いがある。 辛口の書評になりましたが、期待していただけにその反動が大きいということで・・・ (「誰もがポオを・・・」は果たしてどうなのか?) |
No.4 | 3点 | Tetchy | |
(2011/08/14 20:38登録) 実業家の邸宅で起こる3つの殺人事件。現場は全て同じ部屋でしかもジグソーパズルがばら撒かれていたというシチュエーションが一緒というのが本書の事件。作者は各章及び犯行現場の見取り図をそれぞれパズルのピースに見立て、102片のピースが出揃った時点で読者への挑戦状を提示する。久々にトリックとロジックに特化した本格ミステリを読んだ。 このシリーズ探偵更科丹希の性格には反感を覚えずにはいられない。殺人事件の謎解きが好きだという点は甘受してもいいが、事件の捜査の過程で人の秘密を暴いてバラすのが好きだと云ったり、犯人の仕業、例えば今回の事件では殺人現場にジグソーパズルがばら撒かれていることに意味がないと嫌だと云ったり、ましてや謎解きの材料がもっと集まるために誰かもう一人死なないかな、などと人の命を軽視する考えを示すに至っては、例え才色兼備であっても、こんな探偵なんかには助けてもらいたくない!と思わざるを得ない。 確かに純粋な作者と読者との推理ゲームに徹する姿勢はいいとは思うが、それを極端に演出する為に探偵役の性格を上記のように設定するのはいかがなものか。そしてやはり推理小説は小説であるから、理のみならず情にも訴えかけるが故に驚愕のトリックやロジックもまた読者の心の底にまで印象が残るのでは、と個人的な見解だ。 「小説を読むことは人生が一度しかないことへの抗議だと思います」 という名言を残したのは北村薫氏だが、この言葉が表すように心に何か残るものがなければ小説ではないのだと私は思う。自分には起きない出来事を知りたいから、疑似体験したいからこそ人は物語を書き、読むのだ。だからパズルだけでは今の時代では認められないのではないだろうか? しかしシリンダー錠に鍵かけるのに、あんな仕掛けはいらないだろう。ただ単純にボタン押して出れば鍵がかかるだけじゃないか。それとも私が何か勘違いしているのだろうか? |
No.3 | 7点 | 江守森江 | |
(2009/05/24 04:07登録) 作品のタイトルの如く人間が描けていない事はご愛嬌と笑い飛ばせる。 本格ミステリ不遇時代に読者挑戦物でガチガチの本格を書いたスピリットに乾杯。 解決編の長さも多目にみて欲しい。 でも、一部マニアにだけでも認められて良かった。 |
No.2 | 6点 | ロビン | |
(2008/11/17 01:10登録) 「動機ばかりさがしてちゃダメですよ」という女探偵ニッキの一言で始まる本書。『ポオ』でクイーン張りのロジックに酔わせていただいた作者の長編ミステリ一作目。 ジグゾーパズル連盟の大富豪の夫人部長が殺され、現場にはバラバラにされたジグゾーパズルがばら撒かれていた。事件は連続殺人となり、全ての現場で同じようにパズルがばら撒かれていた。さらには密室殺人も! と、ここまできたら本格ファンの気持ちはそそられまくりで、判別できない登場人物や、魅力のない物語展開も、純粋なるパズラー故にと我慢して受け入れて解決編を楽しみにしてきた。のに、それなのに、残念。 確かに動機なんか度外視して論理のみで解決しちゃうんだけど、どれも新鮮味がなく、読んでいても全くドキドキさせられなかった。ここらへんは演出次第なのかもしれないけれど、もっとアクロバットな、意外性のあるロジックを希望。 |
No.1 | 4点 | こもと | |
(2007/10/26 21:33登録) 確かに、純粋な本格推理小説ではあるのですが。 でも、残念ながら・・・作品に華が感じられない。 人物の多さに反して、個性に関する描写がないので、どうしてもストーリーに入り込めなかった。 それは、主要人物ですら、登場人物一覧表のページを何度も開いて確認してしまうことに、如実に表れている気がする。 主要登場人物の名前同士で、ジグソーパズルを組んでいる点を考えると、もう少し人物像が自然に浮かんできても良さそうなものなんだけどな。 |