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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.559 7点 安達ヶ原の鬼密室
歌野晶午
(2011/10/10 16:13登録)
1つの長編作品と呼ぶべきか中短編集と呼ぶべきか迷う作品。
タイトル作を2つの小作品が挟み込むようにしていて、なかなか凝った作り。
①「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん」=まぁ前菜+デザートという位置付けでしょうか。最初読んだら、「こりゃなんの意味だ?」としか思えないでしょうけど・・・(よかったね、ナノレンジャー拾えて)
②「The Ripper with Edouard」=米国の小都市を舞台とした無差別殺人事件が一応のテーマですが・・・これも「何の関係があるの?」って最初思ってしまう。テーマは、高い木の上に吊り上げられた死体。
ラストにオチが用意されてますが、これ単独では「ふーん」という感想にしかならない。
③「安達ケ原の鬼密室」=表題作であり、あくまでも本作のメインはこれ。
~太平洋戦争中、疎開先で家出した梶原少年は疲れ果て倒れたところをある屋敷に運び込まれる。その夜、少年は窓から忍び入る「鬼」に遭遇してしまう。翌日から、虎の像の口にくわえられた死体をはじめ、屋敷内に7人もの死体が残された。50年の時を経て、"直観”探偵・八神が真相を解明する!~

これは普通の長編に十分できるプロットだと思うけどなぁ・・・
スタイル的には、どこか「占星術殺人事件」を思い起こさせるけど・・・(戦中の荒唐無稽な未解決事件だし)
途中挿入されている「密室の行水者」がモロにヒントになっているので、これを読めば、メインの謎もおのずと分かってしまう仕掛けなんでしょう。
動機やら、アレが「鬼」に見えるか?など、細かい部分はちょっと流しているなぁという印象。
一読者から見たら、「こんな変化球にしなくても・・・」と思ってしまいますが、作者からすると、「二番煎じ」感が気になったのかもしれないですね。
(だから、こんな凝ったスタイルにしたのか?)
トータルでは、なかなか楽しめたし、決して悪くない作品だとは思います。


No.558 6点 魔王
伊坂幸太郎
(2011/10/05 22:34登録)
表題作とそれから5年後のストーリー(「呼吸」)からなる作品。
他作品より若干「硬派」な印象がしましたが・・・
~会社員の安藤は弟の潤也と2人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて1人の男に近づいていった。何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語~

何となく考えさせられた。
表題作の主役・安藤(兄)も、「呼吸」の主役・潤也(弟)もある特殊能力を持ち、それを試しながら世の中に挑戦(?)していこうとする。
まぁ、特殊能力という設定自体、作者の十八番とするところですし、使い方がうまいですね。
兄の「腹話術」能力っていうのは、ともすると漫画チックになりそうなのに、「政治」とか「ファシズム」といったかなり硬派なテーマのせいで、ついつい読まされてしまいました。
(政治家に対する感情や思いっていうのは、まさにそのとおりだねぇ)
個人的には、潤也の特殊能力は相当羨ましい!
(夢の「単勝ころがし」がいつでもできる!)
ただ、ミステリーとは呼べない作品でしょうから、評価はこんなものかな。
ラストはちょっと中途半端なので、続編(「モダンタイムス」)に期待します。


No.557 6点 七人のおば
パット・マガー
(2011/10/05 22:33登録)
「被害者を捜せ!」に続く長編2作目。
本作でも独特のアイデアが光る作品でしょう。
~結婚して英国に渡ったサリーは、NYの友人からの手紙でおばが夫を毒殺し、自殺したことを知った。だが、彼女には七人ものおばがいるのに、手紙には肝心の名前が記されてなかったのだ。一体どのおばが? 気懸かりで眠れないサリーに夫のピーターは、おばたちについて語ってくれれば犯人と被害者の見当をつけようと請け負う。サリーはおばたちと暮らした7年間を回想するのだが・・・~

プロット&アイデアには感心させられる。
こういうパターンもありですよねぇ。
ただそんなことより、何よりもスゴイのは、「七人のおば」たちの強烈なキャラクター!
こんな女たち、絶対嫌だ! 女性の嫌な部分をすべて持っているといっても過言ではないおばが七人も・・・
とにかく、個性たっぷりに七人を書き分けた作者の筆力は賞賛に値する。

ただ、ミステリーとしてはそれほど評価できないような気がしました。
フーダニットについても、サプライズ感は小さいですし、「あの人物」についての不自然さは普通気付くだろう!
(ミスリードかとも思いましたが、それがすんなり真相だったとは・・・)
回想部分も正直長すぎるし、謎解きに関係のある箇所の割合が小さすぎるのは否めない。
ということで、面白さは感じながらも、評価としてはこんなもんかなぁ。


No.556 7点 狐火の家
貴志祐介
(2011/10/05 22:32登録)
作者唯一の本格長編ミステリー「硝子のハンマー」に続く、防犯探偵シリーズ第2弾。
セキュリテイ会社社長且つ犯罪者(?)でもある榎本と、美人弁護士・純子とのコンビが「密室」の謎に挑む。
①「狐火の家」=田舎にある古い日本家屋で起こった密室殺人、って書くと、何だか「本陣殺人事件」を思い起こさせますが、そんなに精巧(?)な密室ではありません。1箇所だけ空いていた窓がどういう意味を持っていたのかが事件の鍵に・・・
②「黒い牙」=これは「何とも言えない」・・・ある意味相当グロい作品。気味の悪いある生き物と、その生き物を愛でるマニアの間で起こる殺人事件。これってやっぱり「遠隔殺人」になるんでしょうね。しかし、このトリックを実行できる「犯人」には恐れ入る。
③「盤端の迷宮」=鍵どころかチェーンまで掛かったホテルの部屋での密室殺人。これが一番本当の「密室」らしい作品でしょうか。将棋界の裏側で起こっている問題(本当?)を絡ませ、真犯人&被害者の心理から発生した「密室」・・・なかなか面白い作品。
④「犬のみぞ知る」=これは、作者らしからぬバカミス! ただ笑うしかないオチとキャラクター。こんな作品も書けるんですねぇ。
以上4編。
本シリーズらしく、すべて「密室殺人」を扱った作品集。
ただ、「密室」とはいっても「硝子のハンマー」のように「ハウダニット」に拘った堅牢な「密室」というよりは、「ホワイダニット」に焦点を当て「密室」を構成するに至った過程に拘っている印象。
榎本&純子のコンビもすっかり板についていて、こんな軽いタッチの作品も楽しませてくれる作者の力量に改めて感服しました。
こういうホラー以外の作品もたまには出してほしいね。
(②は個人的にとにかくグロかった。夢に出てきそう!)


No.555 8点 さむけ
ロス・マクドナルド
(2011/09/28 21:37登録)
ゾロ目555番目の書評は、作者というかハードボイルドの代表作とも言える本作で。
私立探偵リュウ・アーチャーが独特の「渋さ」で、複雑な人間関係を切り裂きます。
~実直そうな青年アレックスは、茫然自失の状態だった。新婚旅行の初日に新妻のドリーが失踪したというのだ。私立探偵アーチャーは見るに見かねて調査を開始した。ほどなく、ドリーの居所はつかめたが、彼女は夫の許へ帰るつもりはないという。数日後アレックスを尋ねたアーチャーが見たものは、裂けたブラウスを身にまとい、血まみれの両手を振りかざし狂乱するドリーの姿だった。ハードボイルドの新境地を拓いた巨匠畢生の大作~

さすがに読み継がれるべき大作という感想ですねぇ。
物語は、序盤~中盤はドリー&アレックスを中心に進みますが、何となく先が見えないじれったい感覚。
中盤以降、隠された過去の殺人事件が明るみに出てからは、事件の構図が一変し、スピーディーな展開に。
徐々にスポットライトが当てられる1人の人物・・・コイツの立ち位置がなかなか分からなかったなぁ。
ロイの周りを何人もの女性の姿が見え隠れするが、実際の登場人物とイマイチ噛み合わないと思ってるうちに、終盤へ。
そして、ラスト1頁の「衝撃!」。
確かに、これは本格ミステリー顔負けの「大ドンデン返し」という奴でしょう。
犯人像は終盤以降明らかにされてましたけど、まさか「アイツ」がねぇ・・・今回は完全にヤラレた。

他の方の書評にもありますが、アーチャーの造形は、例えばF.マーロウなどとは違っていて、後者が「動」とすれば、「静」というイメージ。
(もちろん、行動力は他のハードボイルド探偵に負けないですが・・・)
自身の考えや想いに拘りながら、あくまでも愚直に真実を追究するアーチャーの姿は、やはりカッコイイ。
本作を読了した後は、多くの方が、まさにタイトルどおり「さむけ」を感じるんじゃないかな?


No.554 6点 陰獣
江戸川乱歩
(2011/09/28 21:36登録)
角川ホラー文庫版で読了。
乱歩中期の傑作と評される作品ですが・・・
①「陰獣」=探偵作家の寒川に資産家夫人・静子が助けを求めてきた。捨てた男から脅迫状が届いたというのだが、差出人は探偵小説家の大江春泥。静子の美しさと春泥への興味で寒川はできるだけの助力を約束するが、春泥の行方は掴めない。そんなある日、静子の夫の変死体が発見された~

乱歩の匂いが濃厚に漂う作品だなぁ。
乱歩らしい世界観とロジックが微妙な具合に融合していて、その辺のミックス加減が本作の「高評価」を生んでいるのでしょう。
「大江春泥」と「平田一郎」。謎の2人の人物をめぐって、寒川の頭の中で、様々なストーリーが形作られる・・・
静子の造形も何とも乱歩らしい。
(乱歩好きなら、堪えられない作品なのでしょう)

②「蟲」=これはミステリーというか、軽いホラーでしょう。「虫」ではなく、「蟲」としたタイトルが言い得て妙。
前半~終盤はどうでもよくって、ラスト1頁にすべてが集約されてます。


No.553 7点
麻耶雄嵩
(2011/09/28 21:35登録)
今や本格ミステリーの雄とも言える作者の第7長編。
考え抜かれた技巧の数々が込められた秀作(?)
~オカルトスポット探検サークルの学生6人は京都山間部の黒いレンガ屋敷「ファイヤフライ館」に肝試しに来た。ここは10年前、作曲家の加賀蛍司が演奏家6人を殺した場所。そして半年前、1人の女性メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されている。そんな中での4日間の合宿。ふざけ合う仲間たち。嵐の山荘での第1の殺人はすぐに起こった~

これは、「長所」と「短所」が入り混じった作品。
他の方の書評どおり、叙述トリックについてはかなり「レベルが高い」(分かりにくいとも言える・・・)
特にいわゆる「○別誤認」については、正直面食らった!
(なんで、そんなことに平戸が驚くのかって)
まさか、読者には最初から明かしていて、作中の人物には分かっていないとはねぇ。
「視点」の件は最初から違和感がかなりあったので、誰もが「何かある」と気付いたはず。
いずれにしても、結構作者の技巧は高レベルで、読み手の力量を問われる作品なのでしょう。

いわゆる典型的なクローズド・サークルもので、これぞ「新本格」とでもいうべき雰囲気。
埋め込まれた技巧や伏線はそれなりに見事なのですが、何となく、詰め込みすぎて消化し切れてないという気がするのも事実。
この辺は好みの問題かもしれません。
(「人物が描けてない」なんて無粋なことはいいませんが、どうしても上すべり感があるんですよねぇ・・・)


No.552 6点 溺れる人魚
島田荘司
(2011/09/24 21:55登録)
ミタライ・シリーズの作品集。
ウプサラ大学の同僚・ハインリッヒ視点もあり、いかにも最近の「ミタライ」もの。
①「溺れる人魚」=舞台はリスボン。そして、テーマは「精神医学」。ただし、殺人事件のトリックは何ともアナログなもの・・・。市電が「単線、単線」とクドイほど書かれてるので、当然何かあるとは思いましたが、まさかこんなトリックとは! (でも行ってみたいねぇ、リスボン)
②「人魚兵器」=舞台はデンマーク~ポーランド。「人魚」と言えば美女というイメージですが・・・ここに登場する人魚は何とも醜悪。ナチス・ドイツ絡みの話ではトンデモない「兵器」がよく出てくるよなぁ。こんなことを本気で実験していたとは、まさに「狂気」。
③「耳の光る児」=舞台はロシア・クリミア地方。「タタール人」のルーツを辿るうちに、チンギス・ハーンが統一した「モンゴル帝国」へ行き着く。作者あとがきにも書かれてますが、確かにモンゴル帝国の謎というのも相当魅力的だよねぇ。(そういや、ジンギスカン=源義経説なんてのもあったなぁ)
④「海と毒薬」=どうしても遠藤周作の同タイトル作を思い浮かべますが、当然それを踏まえています。本作だけは、「人魚」やウプサラ大と全く関連なし。1人の不幸な女性が「異邦の騎士」を読んで勇気付けられるというストーリー。(何で、これを加えたの?)
以上4編。

もはや、通常のミステリーという「器」からは大きくはみ出している印象。
確かにどの作品(④は除く)にも「謎」は呈示されるが、その解法は、医学や科学的知識抜きでは到達できないもの(だいぶ平易に咀嚼されてはいますが)。
ただ、何と言うか、並みの作家とは「レベル」が違うという感じ。
トリックがどうとか、プロットがどうとかいうレベルではもはやないのでしょう。
相変わらず、読者を(強引に)惹き込むパワーは健在だし、最後には「ホロリ」とさせられたり、「いろいろ考えさせられたり」・・・なすがまま。

でもねぇー、やっぱり、ファンとしては、昔の若き頃の「御手洗潔」(ミタライではない)の活躍が読みたいんですよ!
荒唐無稽でもいい。石岡とのコンビで、最後には何だか「ジーン」とさせられる御手洗の活躍、書いてくれませんかねぇー。


No.551 6点 鍵孔のない扉
鮎川哲也
(2011/09/24 21:53登録)
鬼貫警部シリーズの長編。
同シリーズらしく、巧緻なアリバイ崩しが主眼の作品です。
~徹頭徹尾、謎に満ちた長編。声楽家で野生的な美貌を持つ久美子と、その夫で伴奏ピアニストを勤める冴えない男・重之。この音楽家夫妻に生じた愛情の亀裂を発端に殺人事件が発生した。被害者は久美子の浮気相手と思われる放送作家だった。事件は華やかな芸能界の裏面に展開。犯人確実と目された重之の容疑が晴れると、捜査は混迷の一途を辿る。やがて、犯人は大胆にも第2の殺人を予告してきた・・・~

まさに「これぞ、鬼貫警部シリーズ」とでも言いたくなる作品。
作者が「あとがき」でも触れているとおり、真犯人は作品中盤でほぼ確定し、あとは如何に堅牢なアリバイを崩すのかに移る。
どの作品でもそうですが、とにかく見せ方がうまい。
本作では「被害者の靴」が、真犯人の仕掛けた欺瞞を解く「鍵」になっており、ここが判明すればあとはスルスルと解けることに・・・
「電話」については、時代を感じさせますねぇ。
(特に、天○と天○の違いなんて、ニクイねぇー。だからこその舞台設定!)
ただ、密室(とは言えないかな?)については拍子抜け。
あれだけ鍵の構造について講釈をたれたのですから、もう少し凝ったトリックかと思いきや・・・(あれとはねぇ)

まぁ、初心者でも中毒者でも安心して読める作品というのが鮎川ミステリーの良さでしょう。
(今回は「時刻表」は出てこないので、その方面が苦手な方も気軽に読めるのでは?)


No.550 7点 火刑法廷
ジョン・ディクスン・カー
(2011/09/24 21:51登録)
550冊目の書評は、カーの中でも1,2を争う秀作と名高い本作で。
シリーズ探偵であるフェル博士やアンリ・バンコランは登場しませんが、作者らしいオカルティズム溢れる独特の雰囲気を持つ作品。
~広大な敷地を有するデスパード家の当主が急死した。その夜、当主の寝室で目撃されたのは古風な衣装をまとった婦人の姿だった。その婦人は壁を通り抜けて消えてしまう・・・! 伯父の死に毒殺の疑いを持ったマークは、友人の手を借りて埋葬された遺体の発掘を試みる。だが、密閉された地下の霊廟から遺体は跡形もなく消え失せていたのだ。消える人影、死体消失、毒殺魔の伝説。不気味な雰囲気を孕んで展開するミステリーの1級品~

確かに、これは評価に迷う作品。
本筋での大きな謎は2つ。
「部屋の壁の中に消えた婦人の謎」と、「密室(霊廟)から忽然と消えた死体の謎」。
2つ目の謎の解法はなかなかのもの。細かく時間的な齟齬を読者に突いてくるあたり小憎らしい。まさに「困難は分割せよ」だね。
それに対して、1つ目の奴はねぇ。「これしかない」といえばそうなんでしょうが・・・(「薄明かり」だったというのが伏線なのは分かる)
問題の部屋の見取り図すらないというのはちょっと不親切でしょう(これは作者でなく、版元の問題?)
ブランヴィリエ公爵夫人という伝説の毒殺魔の影をちらつかせるなど、得意のオカルティズムは他作品よりも濃密で、いい味出していると感じます。

そして、問題の最終章のどんでん返し。
これを「是」とするか「否」とするのか・・・それほどインパクト孕んだラスト。
個人的には「微妙」ですねぇ。ミステリー的には、なくても特に問題ないように思えますが、これがあることで、数あるカーの作品中でも別格の扱いとされてきたのでしょうし、それを思えば「価値」を認めない訳にはいかないでしょう。
というわけで、トータルの評価としては、読む価値は十分認められる「佳作」ということでいいのでは。
(実にカーらしい作品なのは間違いなし)


No.549 6点 巻きぞえ
新津きよみ
(2011/09/17 00:07登録)
「デイリーサスペンスの女王」(って初めて聞いた)、新津女史の短編集。
すべて「死体」から始まる珠玉の心理サスペンスです。
①「第一発見者」=都会だけでなく、誰でも死体の第1発見者になんてなりたくないものです。登場する2人の女性って、結局つながりはないってこと?
②「巻きぞえ」=飛び降り自殺する女性に、偶然「当たり」死んでしまった男。こんな「巻きぞえ」なんて嫌だ! でも、これが偶然ではなかったっていうラストの反転がブラック。
③「反対運動」=最後には、我慢してきた女性の「怖さ」がヒシヒシと伝わる。
④「行旅死亡人」=旅先等で身元不明のまま死んでしまった人のことを指すらしい。血のつながりって何なのか、考えさせられる話。
⑤「二番目の妻」=テーマは夫婦間の腎臓移植。自分の臓器を配偶者に提供するなんて、究極の「愛」の印なのでしょうか?
⑥「ひき逃げ」=子供同様に可愛がっていた子犬を轢き逃げされた女性、そして轢いてしまった側の女性が2人。どうせなら、ラストもう少しブラック寄りでもよかったんじゃない?
⑦「解剖実習」=死体からの「語り」っていうのが斬新。そして、これまた何とも言えない偶然の血のつながりがあったなんて・・・皮肉だねぇー
以上7編。
ミステリーとしてはどうかと思いますが、どの作品も短編らしい切れ味のあるプロットや仕掛けで、なかなかの力作。
ちょっとした女性心理なんていうのは、やっぱり女流作家ならではでしょうね。
気になったのは、反対に、夫のキャラがちょっと紋切り型のような・・・
(どれも水準級の作品。敢えて言うなら②か④)


No.548 8点 幽霊の2/3
ヘレン・マクロイ
(2011/09/17 00:06登録)
精神科医ウィリング博士を探偵役とする作者の第15長編。
女流作家らしい丁寧な筆致が心地よい。
~人気作家エイモス・コットルを主賓に迎えたパーティーが、雪深いコネチカット州にある出版社社長の邸宅で開かれた。腹に一物あるらしき人々が集まる中、余興として催されたゲーム「幽霊の2/3」の最中に、当のエイモスが毒を飲んで絶命してしまう。招待客の1人、精神科医のウィリング博士は、警察に協力して関係者から事情を聞いて回るが、そこで次々と意外な事実が明らかになる。果たして真相は?~

これはさすがの面白さ。
本筋の毒殺事件のトリックや真犯人そのものは、それほどたいしたものではない。
本作は、むしろ主人公かつ被害者である、エイモスという人物そのものの謎にスポットライトを当て、周りの怪しげな人物を含めた謎に深みをもたらしてる感じ。
探偵役であるウィリング博士が行き着いた真相そのものは、ミステリーとしての奇抜さはともかく、プロットの妙は十分に堪能させてもらいました。
まぁ、うまいですよねぇー
当時の出版業界の裏側も垣間見えるようで、その辺も興味深く読ませていただきました。
まずは、安心してお勧めできる佳作という評価でしょう。
(ヴィーラって、悲しい女だねぇ。 まっ、自業自得だけど・・・)


No.547 4点 笑ってジグソー、殺してパズル
平石貴樹
(2011/09/17 00:05登録)
名探偵更科ニッキの初登場作品。
動機無視、ロジックに徹した純粋パズラー。
~国際ジグソーパズル連盟日本支部長を務める興津華子の死の床は、肩書きに相応しくジグソーパズルのピースで彩られていた。三興グループの実質的オーナーである彼女の死から数日、夫栄太郎が同じ部屋で殺され、現場には夫人の時と同様、パズルのピースが多数散らばっていた。捜査に伴って多額の遺産や系列会社のデータ捏造に絡む背後関係が浮かび、容疑者が絞り込まれるなか、程なく第3の殺人が起きる!~

うーん。期待して読んだだけに、正直ガッカリ。
紹介文読んだら期待しちゃいますよねぇー、本格ファンなら。
現場見取り図や怪しげな遺留物、ワケありそうな資産家一族など、魅力的なギミックは詰まっているのですが・・・
如何ともしがいたいほどの、上っすべり感。
しかも、名探偵ニッキのキャラがあまりにも魅力に乏しい!
いくらロジックに徹しているからといっても、「小説」としてこれではヒドイのではないか?
これなら、推理クイズの方が時間を浪費しない分、まだ救いがある。
辛口の書評になりましたが、期待していただけにその反動が大きいということで・・・
(「誰もがポオを・・・」は果たしてどうなのか?)


No.546 6点 裁きの終った日
赤川次郎
(2011/09/11 15:01登録)
大御所・赤川次郎初期のノンシリーズ長編。
大金持ちの旧家を舞台に起こる連続殺人事件の不可思議な謎とは?
~大富豪が殺された。高名な犯罪研究家が事件を解明しようとしたその時、犯人と名乗り出た娘婿はナイフで研究家の心臓を一突きに! この事件を皮切りに一族をめぐる企みは動き出す。失脚工作、浮気の復讐・・・さまざまな思惑や打算が渦巻くなか、詳細を黙秘する娘婿は果たして犯人なのか?~

作者らしからぬシリアスな雰囲気の作品。
本筋は紹介文のとおり、大富豪である老女の殺人事件であり、自首した男が本当に真犯人なのか、という謎。
そこに、大富豪一家の人間たち、そしてその周辺の人々のさまざまな欲望が絡み合い、複雑な味わいになっている。
トータルでみても、なかなか面白いと思いましたね。
まぁ、視点の人物がつぎつぎと変わっていくため、ちょっと落ち着かない印象になっているのが玉に瑕でしょうか。
ラストもある意味では印象的かもしれませんが、サプライズというほどでもない。
そこら辺り、ややプロットのアラかもしれませんが、シリーズもの以外でもこのような佳作を残している点はうれしい限りです。
もう一捻りあれば、言うことなしなのですが・・・


No.545 6点 フレンチ警視最初の事件
F・W・クロフツ
(2011/09/11 14:59登録)
フレンチが警視に昇進(メデタイ!)して最初に手掛けた事件。
最近東京創元社から出た新訳版で読了。
~愛しいフランクの言葉に操られて詐欺に手を染めたダルシーは、張本人のフランクがある貴族の個人秘書に納まり体よくダルシーのもとを去ってからも、良心の咎める行為を止められずにいた。そんなある日、フランクの雇い主が亡くなったと報じる新聞記事にダルシーの目は釘付けになった。フランクは何て運がいいんだろう。これは偶然だろうか。一方、検死審問で自殺と評決された事件の再審査が始まり、フレンチが出馬を要請された~

クロフツ作品の1つの「典型」とも言える作品でしょう。
中盤まではフレンチが登場せず、ある事件に巻き込まれる主人公の視点で、事件の概要や展開が描写されていく。
事件がのっぴきならない段階まで進展したところで、やっとフレンチが登場。捜査を開始するやいなや、加速度的に事件のからくりが解明されていく・・・
本作もまさにこの「流れ」そのもの。
ただ、本作はそれ以外のプロットがやや変わっていて、そこは面白かった。
普通なら、『(事件に巻き込まれた)主人公』⇒『フレンチ』という流れだが、本作はとある理由のため、『主人公』⇒『著名な法律家』⇒『私立探偵』と『フレンチ』
とかなり複雑な構成になっているのだ。
ただ、フーダニットにしろハウダニットにしろ、やや中途半端な感は拭えない。
特に、自殺に見せかけた他殺の仕組みがちょっと分かりにくいところが難点。
というわけで、初期の佳作に比べれば、1枚落ちる作品という評価にしかならない。


No.544 5点 共犯マジック
北森鴻
(2011/09/11 14:57登録)
北森鴻といえば「連作短編」というわけで、本作もその例にもれない連作形式の作品。
占った人が必ず不幸になるという伝説の書「フォーチュンブック」を軸に展開される事件の連鎖。
①「原点」=学生運動華やかな頃が舞台。タイトルどおり、この先の不幸な出来事の原点とも言える事件が起こる。
②「それからの貌」=500円硬貨が初めて世に出た年、早速偽造硬貨が出回る。そして、1人の女性が捜査線上に浮かぶが・・・その女性は本編の主人公である新聞記者の元恋人だった。(ホテルニュージャパンの火災なんて、20代の方には分からないだろうな・・・)
③「羽化の季節」=1枚の油絵を見た男が突然膝まずいて涙を流す・・・そこには、過去の忌まわしい事件が! そして、ここにも「フォーチュンブック」の影がつきまとう。
④「封印迷宮」=②の主人公だった新聞記者が再度登場。そして、懐かしい「グリコ森永事件」(知ってる?)。謎の男「サクラダ」の正体は実は「アイツ」。
⑤「さよなら神様」=④まできて、連作の意図が垣間見えてきたと思ったところで、今までの流れからやや浮いているのがこの⑤。ただ、最後になって⑤の意味が分かる仕掛け。
⑥「六人の謡える乙子」=ここでまたしても新顔の登場人物。埋められた彫刻作品の謎とは?
⑦「共犯マジック」=ついに、ここまで断片的に語られてきたストーリーがつながる! しかし、こんな大掛かりな話だったとはねぇー。
以上7編。
いやぁ、想像以上に大掛かりなプロットだった。
まさか、戦後の著名事件の数々(「グリコ森永」や「3億円事件」、ついには「帝銀事件」までも・・・)がつながっていたとは!
作者の連作テクニックがあればこそでしょう。
ただ、ちょっと上っすべりしているような気がしないでもない。(ここまで事件がつながってるなんて、正直荒唐無稽な感は否めない)
風呂敷を広げすぎたかな?


No.543 7点 プリズム
貫井徳郎
(2011/09/06 22:42登録)
いわゆる「多重解決型」を狙ったミステリー。
1つの殺人事件を連作形式で綴るのが特徴的な作品。
~小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。傍らには彼女の命を奪ったアンティーク時計が。事故の線も考えられたが、状況は殺人を物語っていた。ガラス切りを使って外された窓のロック、睡眠薬が混入されたチョコレート・・・平凡だったはずの女性教師の殴殺事件は予測不能の展開を見せる~

①「虚飾の仮面」=第1話は教え子の小学生たちの推理。その結果は、意外な犯人へ辿りつく。
②「仮面の裏側」=第2話の探偵役は①で犯人と目された人物。天真爛漫で誰からも愛された人物と思われた被害者に、実は意外な面があることが判明。
そして、①とは違う人物を真犯人とする結果に・・・
③「裏側の感情」=今度は②で犯人と目された人物が探偵役に。またしても、被害者の違う一面が分かり、そして意外な人物が被害者と関わっていたことが分かる。最終的には違う人物を真犯人として指摘する。
④「感情の虚飾」=③で真犯人と考えられた人物が主役。最後に辿りついた結論はかなり意外なものに。

「多重解決」といえば、当然「毒チョコ」が有名ですし、本作の「作者あとがき」でも「毒チョコ」を意識している旨が書かれてます。
まぁ、好みは分かれるかもしれませんが、個人的には面白いと思いますね。
本サイトの「毒チョコ」の書評でも書きましたが、ミステリー作品の真相なんて、作者の匙加減1つですから、こういった実験精神溢れる作品があっても何ら構わないと思いますね。
「プリズム」というタイトルには、「多重解決」という以外にも、被害者の人物像そのものが見る人(生徒や友人、恋人など)によって多面的に変わって見えるという意味も含んでいるのが印象的。
「連作形式」というプロットも嵌っていると思います。
トータルでは、一気読みできる佳作という評価。


No.542 6点 猫は知っていた
仁木悦子
(2011/09/06 22:36登録)
仁木兄弟シリーズの第1作目であり、江戸川乱歩賞受賞作。
ポプラ社からの復刻版で読了。
~時は昭和、植物学専攻の兄・雄太郎と、音大生の妹・悦子が引っ越した下宿先の医院で起こる連続殺人事件。現場に出没するかわいい黒猫は何を見たのか? ひとクセある住人たちを相手に、推理マニアの凸凹兄弟探偵が事件の真相に迫ることに。鮮やかな謎解きとユーモラスな語り口で一大ブームを巻き起こした作品~

確かに読み継がれるべき作品。
前半~中盤にかけては、いろいろな伏線を作中に仕掛けていて、本格ミステリー好きにはたまらない展開。
現場の遺留品や登場人物が偶然耳にした会話の切れ端などが、いかにも意味ありげに読者の脳を刺激するのが心地よい。
そして、ストーリーが進むにつれて、明らかに1人の人物を浮き上がらせていくミスリードも憎い。
トータルでみても、女流作家らしくたいへん丁寧なプロット&筆致だと思います。
ただ、逆に言えば、中盤はちょっとゴチャゴチャしすぎたかなという気も少し・・・
本筋に関係のない伏線も撒かれていたり、窓からの目線の問題もそれほど真相に直結していないのでは?
「動機」はどうなんだろう? 正直、これで連続殺人やるか?という気がしないではない。
など、気になった点もありましたが、トータルではさすがの1冊という評価。
(猫のトリックもどうかなぁー。結構、プロバビリティの犯罪っぽい危うさがある)


No.541 4点 検屍官
パトリシア・コーンウェル
(2011/09/06 22:35登録)
検屍官シリーズの第1弾。
いわゆる人気シリーズ(?)ということでちょっと期待して読み始めましたが・・・
~襲われた女性たちはみな、残虐な姿で辱められ、絞め殺されていた。バージニアの州都・リッチモンドに荒れ狂った連続殺人に街中が震えあがっていた。犯人検挙どころか警察は振り回されっぱなしなのだ。最新の技術を駆使して捜査に加わっている美人検屍官・ケイにもついに魔の手が・・・~

正直期待はずれ。
何より筆致のリズムが悪い。
これも処女作のせいでしょうか?
殺人事件そのものよりも、主人公であるケイ・スカーペッタ周辺の人物描写に終始している感があって、何とももどかしい感じ。
(もちろん、「意外な犯人」へのミスリードの狙いは分かるが・・・)
結局、盛り上げといてオチ(真相)もショボイので、中盤の冗長さが目立つ結果になっている。
まぁ、シリーズ中には面白い作品もあるそうなので、機会があれば今後も読んでみるかもね。
(ブックオフで売れ残っているのも分かる気がする・・・)


No.540 5点 誰の死体?
ドロシー・L・セイヤーズ
(2011/09/02 22:42登録)
貴族探偵ピーター・ウィムジイ卿が活躍する長編第1作目。
作者は英国ではクリスティと並び称される女流ミステリー作家。
~実直な建築家の住むフラットの浴室に、ある朝見知らぬ男の死体が出現した。場所柄男は素っ裸で、身に着けているものといえば金縁の鼻眼鏡と金鎖のみ。いったいこれは誰の死体なのか? 折しも姿形の酷似した金融界の名士が前夜謎の失踪を遂げたことが判明したが、どうも同一人物ではないようなのだが
・・・~

今ひとつ面白さが分からなかった。
登場人物が多くて、特に中盤は書かれている場面がどうも頭にスッと入ってこなかったなぁー
後半~真相解明までは、まずまず納得のいくものなのは間違いない。
ラスト、真犯人の手記もなかなかの味わい。
ただなぁ・・・どうにもインパクトは感じなかった。
ウィムジイ卿のキャラ自体はよいと思うし、シリーズキャラクターとなる周辺の登場人物もよい造形。
今回は読み方が悪かった気もするので、別作品を味わってみるか!

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