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平均点:6.00点 | 書評数:1848件 |
No.1268 | 4点 | 21面相の暗号 伽古屋圭市 |
(2016/09/09 23:02登録) 2011年発表。 第八回の「このミステリーがすごい」大賞を受賞した作者が贈るノンシリーズ長編。 作家デビュー前はパチプロとして生計を立てていたという経歴が活かされている? ~裏ロム販売で稼いだ三千万円を仲間と山分けした卓郎と相棒の美女シエナ。ところが、すべて偽札だったことが発覚する。さらにありえない記番号の一万円札が紛れていることに気付いたふたりは、かい人21面相からの暗号だと確信し、謎解きを始める。とき同じくして、製菓会社「すぎしょう」に、自社製品への毒物混入停止と引き換えに五千万円を要求する脅迫電話がが掛かってきて・・・~ 『グリコ・森永事件』・・・いゃいや懐かしい。 ありましたねぇー 確かに当時は大騒ぎだった記憶があります。 本作を読んでみると、改めてスゴイ事件だったことが分かります。 劇場型犯罪の最たるもの。 そんなイメージを改めて強くした次第。 まだ小さかったので記憶は曖昧ですが、大阪府警を手玉にとった追跡劇なんかは頭の隅にこびりついていた・・・ “キツネ目の男”は結局実在したんですかねぇ? 事件の発端となった江崎グリコ社長の誘拐事件も、考えてみると、妙な感じがするしなぁ (世の中には事件に関していろいろな文献が出ているんだろうから、その気になればいろいろと知ることはできるのだろうけど) などなど、いろんなことを想像してしまった。 えっ!? 書評は・・・って?? すっかり忘れてた。 まっ、あまり褒められたものではありません。 プロットが十分練られないまま発表されてしまったということでしょう。 偽札の話も、暗号も、身代金受け渡しも、どれも中途半端なまま強制終了させてしまったようです。 短編は旨い作家なのにね・・・ |
No.1267 | 6点 | 貴婦人として死す カーター・ディクスン |
(2016/08/29 23:56登録) 1943年発表。 HM卿シリーズでいうと十四作目に当たる。カー中期の名作という評価も多いがさてどうか・・・ ~戦時下イギリスの片隅で一大醜聞が村人の耳目を集めた。俳優の卵と人妻が姿を消し、二日後に遺体となって打ち上げられたのだ。医師ルークは心中説を否定、二人は殺害されたと信じて犯人を捜すべく奮闘し、得られた情報を手記に綴っていく。やがて、警察に協力を要請されたヘンリ・メルベール卿とも行動をともにするが・・・。張り巡らした伏線を見事回収、本格趣味に満ちた巧緻な逸品~ パッと見は地味ながら、実は味わい深い作品・・・ 他の方も概ねこういう評価が多いが、やっぱり同様の感想を持った。 カーというとどうしても密室殺人を嚆矢としたトリックやオカルト趣味というところに目が行きがちになるが、中期の作品ともなると、そういう派手な衣装よりは、玄人受けしそうなミステリーらしいミステリーに矛先が向いてくる。 その中でも本作は出来のいい方なのだろう。 (巻末解説で山口雅也氏もえらく褒めています) 謎の中心は一見すると、断崖絶壁で急に消えた男女ふたりの足跡、というふうに見える。 他殺か自殺かという判断は思いのほか早く提示されるが、コイツが実はクセものなのだ。 終盤大詰めを迎えたところで、作品全体に仕掛けられた大いなる罠が発動される。 確かにまぁ伏線は張られているんだけど、そこは気付かないよなぁーっていうレベル。 こういう仕掛けをシレーっとやれる辺りがさすがに大作家といわれる所以だろうな。 HM卿は今回もお笑い全開! 電動車椅子を操るだけでも抱腹絶倒なのに(?)、街中を巻き込み、更なる混乱の渦を生み出していくことに・・・ 本作では本当に脇役というべき存在で、最後の最後でようやく卿の推理が開陳されるのだ。 ということで、評価としては水準以上という感じかな。 ただ、他の佳作との比較ではちょっと落ちるのは否めないだろう。 |
No.1266 | 6点 | 予知夢 東野圭吾 |
(2016/08/29 23:55登録) 「探偵ガリレオ」に続く湯川学=ガリレオシリーズ第二弾。 今回も超常現象を科学的にロジカルに解明(?)できるのか? 単行本は2000年の発表。 ①「夢想る」=“ゆめみる”と読むらしい。幼い頃から自分の運命の人と思い続けてきた女性、森崎礼美。その女性が実在すると知った男性は夜部屋に押し入るのだが・・・。まぁ現実的な解決を付けるとしたらこうなるだろうなという真相。確かに猟銃については旨いなと思った。 ②「霊視る」=“みえる”と読むらしい。別の場所で殺されたはずの女性を、ほぼ同じ時刻に別の場所で見てしまう現象・・・。これも幾多の怪異現象をロジカルに解き明かせばこうなるよなという真相。逆説とも言える解法はやはりさすがだ。 ③「騒霊ぐ」=“さわぐ”と読むらしい。失踪した夫を探して欲しいという依頼を受けた草薙刑事。ある問題の一軒家を見張ることとなったふたりは思わぬ現象=ポルターガイストを体験することに! この解法が一番苦しいかな。科学的に正しいのかよく分かりませんが・・・(そういうこともあるということなんだろうな)。 ④「絞殺る」=“しめる”と読むらしい。これは実にガリレオシリーズらしいトリック。工場が出てきた時点でそういう系のトリックなんだろうなという予想はついたけど、門外漢の私には湯川の説明がよく分かりませんでした・・・。 ⑤「予知る」=“しる”と読むらしい(クドい?)。不倫相手が向かいの家で首吊り自殺を図った場面を目撃することになった男。実はその女性は三日前にも首吊り自殺をするところを別の人物から見られていた!?という強烈な謎。これもロジカルに解き明かせばこうなるよなという真相なのだが、とにかく旨いね。 以上5編。 今回は「オカルトとミステリーを融合すればこうなりました」というテーマで貫かれている。 一見すると超常現象なのだが、これとあれとなにかが組み合わさったため、こうなってしまったのです・・・ と、こういう展開なのだ。 こんなふうに書くと、単なる偶然の連続かと思われそうだが、そうではない。 割とあからさまに伏線やヒントが示されていて、読者が推理していくことは十分に可能な作りとなっている。 (何かしらの専門知識は出てくるけど・・・) 前作と比べてスケールという点では見劣るけど、ミステリー的な出来では一歩前進という感じかな。 とにかく読みやすくて、サクサク頁が進むこと請け合い! (個人的ベストは①or②かな。⑤も捨て難い) |
No.1265 | 7点 | 凍える牙 乃南アサ |
(2016/08/29 23:54登録) 1996年に発表され、その年の直木賞を受賞した作者の代表作。 女性刑事・音道貴子を主人公とするシリーズ第一作にも当たる。 ~深夜のファミリーレストランで突如男の身体が炎上した! 遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年刑事・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は一体何なのか? 野獣との対決の時が次第に近づいていた・・・。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的な共感を集めた直木賞受賞作~ さすがに権威ある賞を受賞しただけのことはある作品だ。 圧倒的な筆力と何とも言えない熱量を感じさせる。 他の方も書かれているが、特に終盤、雪が釣り続く首都高速での追跡シーンは実に映像的でもあり、何ともいえない高貴で静謐な雰囲気を持つ名シーンだと思う。 そして貴子の女性刑事としての葛藤、闘い、そして昇華。 確かにこれはいわゆる女流ハードボイルドに連なる作品のひとつ。 (刑事の活躍や警察内部を描く警察小説的な見方もあるだろうが) 事件は衆人環視の中での大火災から幕を開ける。 かなりのインパクトを与えながら読者を惹きつける序盤。そして徐々に人智を超えた野獣の存在が明らかになってくる中盤。 ストーリーテリングもなかなかのものだ。 そして後半はとにかく野獣=ウルフドックの圧倒的な存在感に尽きる。 (思わずネットでウルフドックについて調べてみたけど、全然知らなかった。こんな動物がいるなんて・・・) ミステリー的には最後まで捻りはないし、事件の構図も中途であっさりバラしてしまうなど、特段見るべきところはない。 でもまぁ本作ではそんなことは関係ないのかもしれない。 日々迷い続ける生き物である「人間」と、何の迷いもなくただ只管己の道を行く「ウルフドック」・・・ そのコントラストも作者の描きたかったことなのだろうか? 長さを感じず久々に一気読みしてしまうほど没頭してしまった。 |
No.1264 | 5点 | 盤上の夜 宮内悠介 |
(2016/08/21 18:44登録) 単行本は2012年の発表。 表題作は第一回の創元SF短編賞 山田正紀賞を受賞した作者デビュー作でもある。 すべて「盤上」=ボードゲームをモチーフとした六篇で構成される作品集。 ①「盤上の夜」=“囲碁”を題材とした表題作。四肢を失った美貌の女流棋士と、彼女の手足となってサポートする男性棋士。囲碁の世界でも人間VSコンピュータというのはよく話題になりますが、さて本編では? ②「人間の王」=“チェッカー”を題材としているのだが、寡聞にしてチェッカーという存在を知らなかった私。てっきりチェスのことだと思ってたけど、違うゲームなのね。双方が最善を尽くした場合、必ず引き分けとなることが証明された・・・ってそんなのありか? ③「清められた卓」=“麻雀”が題材となる本編。四人のプレイヤーが各自独特のキャラクターを持っているのが面白い。しかも新興宗教の女性教祖や小学生が参加する最強戦って・・・ありえる? 麻雀ファンには堪えられない展開&台詞。 ④「象を飛ばした王子」=古代インド発祥の“チャトランガ”(=将棋のルーツのようなものか?)が題材。あのブッダの子供が主役として登場するのだが、隣の強国に攻め込まれる寸前という悩ましい状況。で、彼のとった行動とは? ⑤「千年の虚空」=“将棋”が題材。ある兄弟とひとりの奔放な女性による奇妙な共同生活。その中で生まれる愛憎渦巻くエピソードの数々・・・。結局将棋の場面はほとんどなし。 ⑥「原爆の局」=再び①の世界&人物が描かれる最終話。ちょうど広島に原爆が落とされた日に行われていた囲碁の本因坊戦。そして、それを再現するかのようにアメリカの砂漠で行われている一局・・・結構シュールだ。 以上6編。 前評判が高いので、一体どんな佳作かと思って読んだわけだが・・・ うーん。正直なところ、良さが分からなかった。 で、そもそもこれってSFなんでしょうか? SFってなに?という疑問が次々に湧いてきた。 個人的には次作となる「ヨハネスブルクの天使たち」の世界観が実に良かっただけに、本作の世界観が合わなかったとしか言いようがない。 でもまぁこれがデビュー作だとしたら、確かにスゴイ作家だと言えるのかもしれない。 読者の評価云々とはちょっと違う次元の作品という感じにはなった。 私が読み手としてまだまだ未熟ということなのだろう。 |
No.1263 | 5点 | 鐘楼の蝙蝠 E・C・R・ロラック |
(2016/08/21 18:42登録) 1937年発表。 全部で四十七編からなるマクドナルド主席警部登場作品のうちのひとつがコレ。 作者の作品は「悪魔と警視庁」に続いて二作目だが、女流作家というのは今回初めて気付いた・・・ ~作家ブルース・アトルトンはドブレットと名乗る怪人物に執拗につきまとわれていた。彼の身を案じた友人の頼みで記者グレンヴィルは、ドブレットの住む荒れ果てた建物<鐘楼>を突き止めるが、戸口に現れた髭と眼鏡の男に追い払われてしまう。翌日、無人となった建物に入り込んだ彼は、地下室でブルースのスーツケースを発見する。一方、パリへ旅立ったはずのブルースはそのまま消息を絶っていた。通報を受けた警察が建物の調査に乗り出すと、壁の中から首と両手を切断された死体が・・・~ 最初に書いたとおり、ロラックの作品も二作目なのだが、なにかちょっと惜しいような、なにか足りないような・・・ そんな気にさせられる作品だった。 紹介文を読んでいると、まさに本格ミステリー黄金期、猟奇的でおどろおどろしい、まるでカーのような雰囲気を想像してしまうのだが、実際には軽さというか、悪く言うと「薄さ」を感じさせる作品。 「どこが薄いのか?」 と問われれば、「全て」ということになるかな・・・ 怪人物やら首のない死体やら、いかにもファンが喜びそうな材料が序盤から示されているのだが、それが疑似餌なのは明らか。 それはそれでいいんだけど、どうにもそれらすべてが必要性というか必然性のないものばかりに思えるのだ。 結局、真犯人っていったい誰をスケープゴートにしたかったのか? (それが怪人物っていうなら、あまりにお粗末だろうし・・・) などなど どうにも“ファンにウケそうな材料を取り揃えました!”感がありすぎて、それが「薄さ」に繋がっているのだろう。 ラストのサプライズも予定調和というレベル。 ちょっと辛口すぎるかもしれないけど、四十七編も続いたということは、人気のあったシリーズなんだろうな・・・ もしかして読み方が悪いのか? |
No.1262 | 6点 | 仮面同窓会 雫井脩介 |
(2016/08/21 18:41登録) 2014年発表のノンシリーズ。 年一作ペースという寡作の作者が贈る“変格”ミステリー(?) ~青春の思い出を語り合うだけのはずだった・・・。同窓会で再会した洋輔ら四人は、旧交を温め合ううちに、かつての体罰教師への仕返しを思いつく。計画どおり暴行し置き去りにするが、教師はなぜか別の場所で溺死体で発見された。犯人は俺たちの中にいる? 互への不信が募るなか、仲間のひとりが殺されて・・・。衝撃のラストに二度騙される長編ミステリー~ 途中までは外面でいえば、立派なフーダニット・ミステリー でも、単純な”いわゆる”本格ミステリーでは終わらなかった・・・ このラストを嫌う読者はいるだろうなぁー 世界観が一変するわけだから・・・ 実に企みに満ちた作品なのは間違いない。 同窓会への誘いの場面で始まる静かな序章・・・のはずが、すでにここから読者は驚かされることになる。 それまで主人公・洋輔の三人称視点で進んできた物語に、突然死んだはずの「兄」が闖入!その「兄」と意識の中で会話を始めてしまうのだ。 いわゆる二重人格?って思ってると、突然視点が一人称に変わったりするパートも登場! これって・・・どういう仕掛けが施されているのか、と読者は考えざるを得ない。 紹介文で触れられている「二度騙される」っていう惹句。 一度目は恐らく「兄」の正体のことだな(ネタバレ気味だが・・・) でもこれは・・・ちょっと腰砕けっていうか、疑似餌なのだろう。 で問題は二度目の方。 救いがないよなぁ・・・。まぁそもそも単なる「犯人当て小説」を書こうと思ってないのだろうから、このオチでいいのかもしれない。 一筋縄ではいかないプロット、これこそが作者らしいミステリー(ということにしておこう)。 評価は・・・ビミョウだな。 |
No.1261 | 5点 | 花窗玻璃 シャガールの黙示 深水黎一郎 |
(2016/08/14 10:43登録) 「エコール・ド・パリ殺人事件」「トスカの接吻」に続く“芸術探偵シリーズ”三作目。 当初は講談社より「花窗玻璃~シャガールの黙示」として発表されていたが、今回は河出文庫よりサブタイトルを変更して出版されたものを読了。 2009年発表。 ~フランス・ランス大聖堂の南塔から男が転落、地上八十一,五メートルにある塔は密室状態で、警察は自殺と断定した。だが半年後、再び死者が・・・。被害者の共通点は死の直前、シャガールの花窗玻璃(ステンドグラス)を見ていたこと。ここは呪われている? 壮麗な建築と歴史に隠された事件の意外な結末とは何か・・・?~ 『マルク・シャガール』・・・1887年ロシア(現ベラルーシ)生まれの画家。途中フランスに移り、エコール・ド・パリの一人としても知られる。別名「愛の画家」。1985年没。 『ランス大聖堂』・・・ランスはフランス北部シャンパーニュ地方の都市。人口約二十万人。歴代フランス国王の載冠式が行われることでも有名。ゴシック建築の代表作としても知られ、1991年にはユネスコ世界遺産として登録された。 以上、この程度の予備知識を持って読まないと、神泉寺瞬一郎から放たれる大量の蘊蓄にゲンナリしてしまうこと請け合い。 文庫版の見開きにはランス大聖堂の写真が挿入されていますが、確かに見事なものですなぁ・・・ (ケルンやミラノの大聖堂は実際に見たことあるけど、これは見てないからな) ここに著名なシャガールのステンドグラスがあるわけですね・・・ シャガールってもっと昔の画家だと勘違いしてたけど、割と最近まで生きていたんだねぇ・・・(ウィキペディアには本田宗一郎と面談したエピソードが書かれている) もしフランスに行く機会があれば是非とも見て、登らなくては・・・ えっ! 書評は?って・・・すっかり忘れてた。てっきりガイドブックかと・・・ でもこの密室トリックって・・・まさに島田荘司の影響バリバリって感じだよねぇ。 (実際、作者が島田氏に強い影響を受けているのは確かなのだが) いくら強度があるからといって、人間のメンタルとしてこんな殺害方法選ばないだろう! というのが素直な感想だけど、それを言っちゃあおしまい・・・だよな(表現が古い) 作中作にしているのも正直よく理解できなかった。(どうやら理由があるようですが) でも作者がいろいろ考えてアイデアを投入しているのはいいことだと思います。 |
No.1260 | 7点 | 人影花 今邑彩 |
(2016/08/14 10:42登録) 2014年、作者の死後に発表された短編集。 これまでどの作品集にも収録されたことのないものを集めた記念碑的作品。 ①「私に似た人」=“間違い電話”をプロットの軸に置いた作品はたまに見かけるが、その中でも出来の良い方だと思う。ほんのちょっとした出来心が思わぬ方向に・・・だけで終われば普通の作品だが、ラストは作者らしいオチに。 ②「神の目」=いわゆるストーカー犯罪がプロットになった一編。ごく普通に終わるかと思われた矢先に示されるサプライズ・・・まさに短編の見本というやつだ。登場する探偵コンビもなかなかいい味出してる。 ③「疵」=これも一見して軽いホラーかと思いきや、ラストは見事な反転にヤラレタ・・・っていう感じになる作品。まぁ作者の作品を読みなれていれば大凡の予想はつくかもしれないが・・・ ④「人影花」=タイトルは「椿」の別名のこと。椿という花はそこにいる人の数だけ花を咲かせるという言い伝えがあるという・・・。妹夫婦の仲に危険の萌芽を感じた兄が恐ろしい予感にかられたとき・・・ ⑤「ペシミスト」=気の利いたショート・ショート。 ⑥「もういいかい・・・」=気の利いたショート・ショートその2。でもこちらはホラー風味。 ⑦「鳥の巣」=これは実に作者っぽい一編。鳥の化身とも思える女の姿にゾッーと思ってるうちに、更なるサプライズなラストを迎える・・・(こういうオチなのね) ⑧「返してください」=これも反転の効いた作品なのだが、ちょっとパンチ不足気味。 ⑨「いつまで」=ホラー版「ちょっといい話」・・・っていう感じ。 以上9編。 実に達者だ。前述したとおりだけど、作者らしさが良く出た作品集。 ホラーという調味料をうまい具合に絡ませながら、サプライズ&反転というパンチの効いた後味を出す・・・ 料理で表現すればまさにそんな感じ。 こんな佳作が今まで未収録だったこと自体、作者の力量を表しているのではないか? 返す返すも若くしての逝去が惜しまれる。 まだ多少未読作品が残ってるので、順次手に取っていくつもり。 (ベストは⑦かな。次点が①or②。ショート・ショートの2編も実によい) |
No.1259 | 6点 | 12番目のカード ジェフリー・ディーヴァー |
(2016/08/14 10:41登録) 「魔術師」に続くリンカーン・ライムシリーズの第六作。 時空を超えた事件にライム、アメリア・サックスらがどのように挑むのか? 2005年発表の作品。 ~NYはハーレムの高校に通う十六歳のジェニーヴァが、博物館で何者かに襲われそうになるが、機転を利かせて難を逃れる。現場にはレイプのための道具に、一枚のタロットカードが残されていた・・・。単純な強姦未遂事件と思い捜査をはじめたライムとサックスだったが、その後にも執拗に少女を付け狙う犯人に何か別の動機があることに気付くのだが・・・~ 今回もやはり「ドンデン返し」の連続が楽しめる佳作・・・という評価。 ただし、いつものようにフーダニット或いは“意外な真犯人”という方向性は薄い。 (もちろん、意外感はあるのだが) その代わりとして読者に仕掛けられたのは、「動機」に関するミス・ディレクション。 紹介文にも書かれているとおり、殺し屋が執拗に付け狙うのはひとりの黒人の少女。 ライムの科学捜査はこれまでどおり、ビシバシと真犯人に迫っていくのだが、最後まで解き明かされなかったのが「なぜこの少女が狙われるのか」・・・というわけなのだ。 確かに、今回はいつも以上に「動機」の謎にフォーカスさせられながら読み進めてきた。 レイプ、大規模窃盗、テロリズム・・・とつぎつぎに“いかにも”という動機が明かされるのだが、どうもそれが「餌」にしか思えない展開。 「本当の動機はなんだ?」と疑問を抱き続けているうち、終章でようやく判明する真の構図、そして真のからくり。 なるほど・・・だからこその「時空を超えた」プロットというわけか・・・ (でもさすがにこれは日本人には理解できないよなぁ) 毎回印象的な真犯人、殺し屋が登場する本シリーズ。けど、今回はちょっと地味め。 (ボイドの正体に関するミス・ディレクションはなかなか秀逸) いつもはアメリアのピンチシーンにドキドキするけど、今回はそれもあまりなくて、ピンチ・フェチ(?)の方には不満かもしれない。 でもまあシリーズも六作目ともなると、多少の変化球は仕方ない。 本作はすげぇー変化球というよりは、多少横に曲がる“スライダー”とでも表現すべき作品か。 その分、やや物足りないと感じる方は多いかもね。 私個人的にはそれなりの満足感という読後感。 |
No.1258 | 5点 | その死者の名は エリザベス・フェラーズ |
(2016/07/31 22:13登録) トビー&ジョージのコンビが活躍するシリーズの第一弾。 (作者というと「猿来たりなば」という印象しかなかったのだが・・・) 1940年の発表。 ~深夜、人を轢いてしまったと警察署に女性が飛び込んできた。死んだ男は泥酔して道の真ん中で寝込んでしまったらしい。土地のものではないと見当はつくものの、顔は潰れていてどこの誰だか分からない。ただ奇妙なことに、この男どの酒場にも寄った様子がなく、酒壜も持っていなかった。そこで、酒壜探しを命じられた若い巡査が涙ぐましい捜索を続けていると、勝手にそれを手伝い始めた男がふたり。その名をトビーとジョージといった・・・~ プロットとしては悪くないと思う。 轢いた犯人は明白である代わりに、死者が誰だか分からない。 中途で恐らくこの人物ということは判明するのだが、事件そのものが徐々に混迷していく・・・ という展開。 トビー&ジョージのコンビも名探偵というよりは、事件をかき回していく役割も担っている感じ。 言われてみれば簡単な真相を、もって回ったように複雑化しているきらいはある。 そこが本作の不満点に繋がっているのだろう。 (最終的には死者の名前というよりは、純粋なフーダニットで終わっているもんね) シリーズ一作目ということで、作者も手探りで書いていた面もあったのかな。 登場人物の造形も今ひとつ頭に入ってこなかった。 でもまぁそれほど悪くはないと思う。 (どこがどうという理由は思い付かないのだが・・・) どうも煮え切らない書評でスミマセン・・・ |
No.1257 | 6点 | 恐怖の金曜日 西村京太郎 |
(2016/07/31 22:11登録) 1982年発表の長編。 もはや超お馴染みの“十津川警部・亀井刑事”コンビが大活躍するシリーズ作品。 最近角川文庫にて復刊されたため早速読了。 ~金曜日の深夜、二週続けて若い女性の殺人事件が発生した。残された手掛かりから犯人の血液型はB型と判明。十津川警部の指揮のもと、刑事たちは地道な捜査を続けていた。そんななか、捜査本部に<9月19日 金曜日の男>とだけ便箋に書かれた封書が届き・・・当日は何もなく夜が更けたかに思えたが、翌早朝、電話が鳴り響いた。若い女性を恐怖のどん底へ落とし込んだ姿なき犯人とは?~ 一種のミッシング・リンクをテーマにしたサスペンス・ミステリー。 こういう手の作品は作者の得意技でもある。 巻末解説の山前氏も書かれているが、「夜行列車殺人事件」や「殺人列車への招待」など、なぜ犯人がこういう犯罪を犯すのか分からないという命題のほか、警察宛の挑戦状がプロットの軸の一つになっている例も結構多い。 やっぱり、十津川警部を始めとする警察機構VS犯人という図式を取る以上、クローズドな環境はありえないわけで、こういう広域捜査に適したプロットが選択される。 本作では「日焼け跡の残った若い女性」がミッシング・リンクをつなぐ材料として浮かび上がってくる。 当然ながら、なぜそれがミッシング・リンクをつなぐのかが最も重要な謎・・・というわけだ。 最終的に浮かび上がる犯人像については、十津川があれだけ悩んでてそれかよ、もう少し早く気付けよ! って突っ込みを入れたくなるものではあるのだが、最後までうまくまとめているなという感想にはなった。 まぁ辛口な見方をすれば、いつもと同じじゃないかと言えなくもない。 相変わらず亀井刑事は地道な捜査を続けるし、三上刑事部長はマスコミに弱いし、若手刑事はミスをするし、十津川は煮え切らないし・・・ それでも読まされてしまうこの安定感。 やっぱりトラベルミステリーよりも、こういったタイムリミットサスペンス的なプロットが一番作者の良さが出ると思う。 (今回は少し違うけど・・・) 書籍や地上波でもう嫌というほど作品が発表されていても、尚且つ毎月のように新作や復刊がされる事実。これだけでも、作者の偉大さが分かるってことだろう。 |
No.1256 | 7点 | ストロボ 真保裕一 |
(2016/07/31 22:10登録) ~走った。ひたすらに走り続けた。いつしか写真家としてのキャリアと名声を手にしていた。情熱あふれた時代が過ぎ去った今、喜多川はゆっくりと記憶のフィルムを巻き戻す。愛し合った女性カメラマンを失った四十代。先輩たちと腕を競い合った三十代。病床の少女の撮影で成長を遂げた二十代・・・夢を追いかけた季節が蘇る~ 2000年発表。 ①「遺影-50歳」=ベテランカメラマンの喜多川に母親の撮影を依頼に来た娘。訪ねてみると、母親は病床にあり撮影は明らかに遺影だった・・・。喜多川の過去を知るという女性そのものが本編の謎。なぜ彼女は喜多川に頼んできたのか? ②「暗室-42歳」=かつて愛し合った美貌の女性カメラマン。袂を分かち合った彼女が挑んだのは、世界の高峰での危険な撮影だった。彼女の名誉を守るため、喜多川と盟友・仁科は暗室へこもる。そして、喜多川の妻の行動が・・・。女性って・・・そうなんだな・・・ ③「ストロボ-37歳」=かつての師匠・黒部と久しぶりに再会した喜多川。しかし、黒部はもはや過去の男だった。かつての自身と黒部との関係が、今現在の喜多川と弟子の関係にシンクロするとき・・・。親の心、子知らずではないが、師匠の心、弟子知らずってことかな。 ④「一瞬-31歳」=カメラマンとしてようやく独り立ち始めた喜多川。そんなとき、ある雑誌社の取材で美貌のライターと出会う。彼女の心を振り向かせるため、喜多川はひとりの病床の少女と向き合うことに・・・。これも先輩・守口がいい味出してる! でも女って・・・ ⑤「卒業写真-22歳」=世は学生運動華やかなりし頃、という時代設定。大学の写真学科に在籍していた喜多川は、ひとりの友人と仲良くなる。しかし彼は学生運動の渦中へ自ら進んでいくことに・・・。何ともノスタルジックな話だな・・・ 以上5編。 お分かりのとおり、本作は現在から過去へ遡る形式。 全編、喜多川光司というカメラマンを主人公としているが、ひとつひとつの話は独立する連作短編の形をとっている。 あとがきで作者も触れているが、全編にある種の謎が設定されてあり、ミステリーとしてもよくできている。 しかし何より、なんとも“いい話”なのだ。 っていうか、正直こんな人生うらやましい! 刺激に満ち溢れ、栄光と挫折を繰り返す人生。それでも天賦の才能を抱えているからこそ、前向きにチャレンジできる・・・ 登場する女性もなんとも魅力的。 男って所詮、どれだけいい女に巡り会えるかで人生が決まるのかもしれない・・・そんな思いにさせられた。 (やっぱり、二十代の頃っていいよなぁ・・・。若いけど、可能性に溢れてて・・・ってジジイか!) |
No.1255 | 5点 | 毒薬の輪舞 泡坂妻夫 |
(2016/07/30 22:02登録) 「死者の輪舞」に続く、「~輪舞シリーズ」の二作目がコレ。 警視庁特殊犯罪捜査課刑事・海方が探偵役を務めるのは前作と同様。1990年発表。 ~青銅色の鐘楼を屋根にいただく精神病院に続発する奇怪な毒殺事件。自称“億万長者”、拒食症の少女、休日神経症のサラリーマンなどなど・・・果たして殺人鬼は誰なのか? 患者なのか? それとも医師なのか? 病人を装って姿なき犯人の行方を追う警視庁の名物刑事・海方の活躍。全編、毒薬の謎に彩られた蠱惑的ミステリー~ 何とも独特の雰囲気or作品世界を纏った作品。 これが「泡坂らしい」と言われればそうなのかもしれないが、これが“初泡坂”という読者がいたら、何とも可哀想な気がする。 そんな感想。 精神病院という舞台設定で、登場する患者は全員一癖も二癖もある奇妙な人物ばかり。 探偵役の海方やその相棒までもが捻れた人物を装っているという作品世界だから、当然中途は何がなんだか分からないような展開が続いていく。 各章のタイトルも毒薬の名前で統一されているけど、それがプロットと絡んでいるかというと、そうでもないのだ。 毒殺事件も起こってるんだか、起こってないんだがよく分からん! って思っているうちにようやく発生するひとつの毒殺事件が事件解決の契機となる。 さすがに終章の「反転」(という表現でいいのか?)はうまくやられた感は残った。 まぁ予定調和と言えなくもないんだけど、だからこその舞台設定だなーという気にはさせられた。 この辺りはさすがの手練手管。 評価としてはどうかなぁ・・・ スイスイ読めるといえばそうなのだが、五里霧中のまま読まされている感がありすぎてどうも消化不良だった。 これを高評価するのは無理だな。 (前作は未読なので、一応気になる・・・) |
No.1254 | 7点 | アデスタを吹く冷たい風 トマス・フラナガン |
(2016/07/30 22:01登録) シリーズもの四篇にノンシリーズ三篇を加えた早川オリジナルの作品集。 読者の「復刊希望アンケート」で堂々二度もNO.1に輝いた名短篇集(とのこと)で期待大。 ①「アデスタを吹く冷たい風」=表題作らしい格調と短編らしい“切れ味”を感じる佳作。①~④までは「共和国」のテナント少佐を探偵役とするシリーズ。銃の密輸を取り締まる国境の緊張感と意外な隠し場所が判明するラストがなかなか鮮やか。 ②「獅子のたてがみ」=将軍(ジェネラル)も一目おく男・モレル大佐の殺人事件をめぐる一編。いわゆる「操り殺人」がテーマなのだが、これまたラストに判明する“ある事実(真実?)”が相当鮮やか! 遠くからなら分からないよね・・・(今だったら近くからでも分からないかもしれないけど・・・) ③「良心の問題」=シリーズ四篇のなかでは一番目立たない作品かな。あまり頭に残らず。 ④「国のしきたり」=①に続いてまたまた国境での密輸取り締まりが舞台。任務に忠実でどのような密輸品でも見つけると豪語する取締り官に対し、テナント少佐の鋭い観察眼が光る。プロットは①と同系統。 ⑤「もし君が陪審員なら」=⑤~⑦はノンシリーズ。これは・・・いわゆる「最後の一撃が炸裂!」的な作品。もちろん暗喩なのだけど、当然読者はそう想像してしまう。 ⑥「うまくいったようだわね」=これも⑤同様に「最後の一撃」が鮮やかなプロット。女性にさんざん振り回される知人の弁護士がなかなか憐れ・・・。 ⑦「王を懐いて罪あり」=中世の北イタリアを舞台とした作品。いわゆる密室殺人&密室盗難が取り扱われているのだが(作者は意識してなかったとのことですが・・・)、これもラストに意外な真相が判明するのがニクい。 以上7編。 確かにこれは「冠」に相応しい作品集。 前半のシリーズは、地中海沿岸にあると思われる「共和国」が舞台だけど、無国籍感が漂っていて独特の世界観。 独特の世界へ読者を引きずりこみつつ、ミステリー的には人間の心理の死角をついた意外な真相という短編ミステリーらしいプロットなのが実に心憎い。 ノンシリーズも作者の達者な腕前が遺憾なく発揮されている。 高品質な作品集という評価でよいだろう。 (個人的にはやはり①がベストということになるかな) |
No.1253 | 6点 | ビッグボーナス ハセベバクシンオー |
(2016/07/30 21:59登録) 2004年発表。 第二回の「このミス」大賞優秀賞受賞の長編作品。 ~犯罪小説に新たな金字塔! パチスロメーカーで企画開発をしていた主人公・東は、今は攻略情報を売る超やり手の営業マン。軽妙な爆裂トークでガセネタの攻略法をパチスロ中毒者へ売りつけ、大金をふんだくっている。やがて、そんな彼の周囲で不穏な空気が流れ始める・・・。パチスロ・ノワールという新ジャンルを切り開いた「このミス」大賞優秀賞受賞作!~ ありがちといえばありがちなクライムノベル・・・という感じか。 一般社会からドロップアウトし、裏社会に手を染めつつ生きている主人公。順調に商売をしていた矢先に、徐々に周囲からキナ臭い雰囲気が立ち込めてくる。そしてやがて訪れるメルトダウン・・・ といったようなプロット&ストーリー。 誰もがどこかで触れたことのあるヤツではないか? (個人的には真保裕一の「奪取」とどうしても印象がカブってしまった) 別につまらないわけではない。 スピード感溢れる展開と意外性のある終盤、ラストのカタストロフィなどなど この手の小説を読みたいファン心理は十分捉えてはいる。 残念ながら個人的にパチスロに嵌った経験がないので、途中の薀蓄があまり理解できなかったのだが、パチスロ好きなら更に面白く読めたのだろう。 まっでも、巻末解説でも書かれてるけど、ちょっと“型にはめすぎ”っていうのが本作最大の弱点かな。 この感じだと、今いちヒットしなかった日本映画の原作っていうのが、本作に最もフィットする表現に思えた。 デビュー作品だし、あまり高いレベルを期待するほうがそもそも間違っているといえばそのとおりなのだが・・・ ちょっと辛口かな? (全然関係ないですが、私は昔サクラバクシンオーが大好きでした・・・) |
No.1252 | 6点 | ヒポクラテスの誓い 中山七里 |
(2016/07/16 22:55登録) 2015年発表の連作短篇集。 ~浦和医大法医学教室に「試用期間」として入った研修医の栂野真琴。彼女を出迎えたのは偏屈物の法医学の権威、光崎教授と死体好きの外国人准教授キャシーだった。迫真の法医学ミステリー~ ①「生者と死者」=何だかE.クイーンの某長編を思い出させるタイトル。連作の初っ端ということで、キャラクターの紹介やら本作の流れが示される。一見すると泥酔の末凍死したとしか思えない死体なのだが・・・光崎は真実を看破する。 ②「加害者と被害者」=いつでも安全運転を行っていた男が起こした衝突事故。一見すると単なる交通事故にしか思えない事件なのだが、あるひとつの事実が光崎を解剖へと駆り立てる・・・ ③「監察医と法医学者」=競艇のレース中に突如起こった激突事故。被害者は頭部を損傷しており、明らかな事故だと思われたが・・・。でも、もしそうなら日常生活のなかで家族は気づくはずではないかと思うんだけど・・・ ④「母と娘」=病に犯されている真琴の親友と看病疲れが酷い母親・・・。快方に向かっていると思われた矢先、突如訪れた親友の死。法医学者としての姿勢を試されることになった真琴。こういう病気(?)があることは知らなかったな! ⑤「背約と誓約」=連作のシメとなる本編。真琴が以前担当だったひとりの少女が突然死に至る(また?)。一見すると腹膜炎としか思えなかったのだが、ある事実より真琴が疑問を持つ。そして判明する黒く重い事実と光崎の想い。 以上5編。 これは・・・すぐにでもドラマ化されそうだなと思ってたら、すでにWOWWOWで進行中とのこと。(やっぱり!!) 最近はやりだもんなぁー、この手のドラマ!(土曜ワイド劇場とかテレビ朝日が多そう) まぁ旨いもんですよ。作者も。 短篇、更には連作短編の要諦をよく理解して書かれていると思う。 でもそれこそが弱点かな。 既視感ありありだし、計算し尽くした感もちょっと鼻につく感じだ。 この「旨さ」はやっぱり素材の旨さというよりは、調味料や添加物の旨さのような気がする。 (よく分からん表現ですが・・・) ただ、旨いのは間違いないですから・・・お間違えなく。 (死因究明というと、どうしても海堂氏のバチスタシリーズを思い出してしまう。本作では只管解剖に拘っているが、同シリーズではAiの導入が声高に叫ばれていた。ふたりの主張は矛盾はしていないようだけど・・・) |
No.1251 | 5点 | どもりの主教 E・S・ガードナー |
(2016/07/16 22:54登録) 1936年発表。 お馴染みペリィ・メイスンシリーズの長編九作目に当たるのがコレ。 ~ペリィ・メイスンの事務所にやってきてシドニーの主教マロリイと名乗った男は“どもり”だった。男はどもりながら、彼の二十二年前の重過失致死事件の弁護を引き受けてくれるかと頼むのだった。相手は名にしおう百万長者のレンヴォルド家だった。興味を覚えたメイスンは、主教を帰すと私立探偵ドレイクに命じてすぐにホテルまで尾行させたたのだが・・・。結果はメイスンが案じたとおりだった。ホテルに戻った主教は、部屋で待ち伏せていた赤毛の娘に頭を殴られて気を失っていたのだ!~ 巻末解説者によると、本作はガードナーが最も脂の乗った頃の作品とのこと。 うーん。確かにそういう感触はある。 筆が乗っているというか、酔っているというか・・・(?) メイスンもデラ・ストリートも大はしゃぎに大はしゃぎだし・・・ でも正直なとこ、プロットが錯綜していてよく分からなかった、というのが本音。 “つかみ”はいいと思うんだよね メイスンが事件に引き込まれて、渦中に飛び込んでいくところまでは実にスムーズ。 ただ中盤からがイケない。 他の方も触れられてましたが、複雑にしすぎたために不自然というか無理矢理感がどうしても強くなってしまった。 動機も結局よく分からなかったし・・・ まぁシリーズファンにとっては、いつものようにメイスンが八面六臂の活躍をして、大団円に終わるのが堪えられないのだろう。 ファンでない私にとってはあまり楽しい時間とは言えなかったが・・・ しばらくは読まないかな・・・多分。 |
No.1250 | 4点 | 将棋殺人事件 竹本健治 |
(2016/07/16 22:52登録) 1981年発表。 「囲碁」「トランプ」と並び、牧場智久を探偵役とするゲームシリーズのひとつに数えられる作品。 ~駿河湾沖を震源とする大規模な地震が発生し、各地に被害をもたらすなか、土砂崩れの中から二つの屍体が発見された。六本木界隈に蔓延する奇妙な噂=「恐怖の問題」をなぞったかのような状況に興味を覚え、天才少年・牧場智久は噂の原型と発生源を調べ始めるのだが・・・。すべてが五里霧中の展開に眩暈を覚える異様な長編~ まさに蜃気楼のような作品だった。 つかめそうで、つかもうとするとするりと逃げていくような感覚・・・ いろいろな謎や奇妙な現象がそこかしこにばら蒔かれていて、普通のミステリーならば、ストーリーの進展に伴ってそれらが徐々に回収・整理されて、最終的には収束していく・・・ のだが、本作はそれがないまま進められていくのだ。 終章は「収束」というサブタイトルがつけられていて、探偵役(牧場ではなく須堂が看破するのだが・・・)が一応筋道立てた解決を示しはする。 示しはするのだけど・・・これって全然納得できないんですけど! この解法なら正直なんでもありだと思ってしまう。 まぁ本作にまっとうなミステリーの考え方を当て嵌めるのもどうかとは思うけど、私のような小市民的ミステリーファンにはモヤモヤ感しか残らないんだから仕方がない。 将棋、特に詰将棋に関する薀蓄はかなりのページを割かれている。 将棋に興味のない方にはツライ読書になる可能性が大なのでご注意を! 評価はなぁ・・・高くはできないな、当然。 (これだけの詰将棋なら芸術の域に達しているのは確か) |
No.1249 | 7点 | 女王国の城 有栖川有栖 |
(2016/07/08 23:09登録) 「双頭の悪魔」(1992)以来、久し振りの江神&学生・アリスシリーズ第四弾。 およそ十五年の歳月を経て発表された本作は文庫版で上下分冊の大容量! 第八回の本格ミステリー大賞にも輝いた、2007年発表の大長編。 ~舞台は目覚しい成長を遂げる宗教団体「人類協会」の聖地・神倉。大学に姿を見せない部長を案じて、推理小説研究会の後輩アリスは江神二郎の下宿を訪れる。室内には神倉に向かったと思しき痕跡。アリスとマリア、そして望月・織田までもが同調し、四人は木曽路を浸走ることに。「城」と呼ばれる総本部で江神の安否は確認できたものの、思いがけず殺人事件に遭遇。外界との接触を拒まれ囚われの身となった一行は決死の脱出と真相究明を試みるが、その間にも事件は続発する・・・~ いやぁー結構長かった!! 他の多くの方も触れているけど、これは確かに「無駄に」長いという表現が当たってるようにも思えた。 特に中盤! 直接本筋には関係のない脇道がかなり多い! 四人の脱出劇も、いくらエンタメ的趣向とはいえ、ここまでのボリュームが必要かと言いたくなってしまう。 (結局、尻つぼみに終わってしまうんだもんねぇ・・・) 「双頭の悪魔」や「孤島パズル」との比較を書評上で書かれている方も多いけど、「うーーん」確かに、まとまりとかストーリーテリングという観点からなら前二作の方に軍配を上げたくなる。 という訳でまずは否定的な意見から・・・ で、本筋なのだが、 さすがに真相解明でのロジックはよく練られている。特に「銃」に関するロジックは秀逸。 ①「銃声」がアリバイトリックと密接に絡む点、②厳重なクローズド・サークル内への銃の持ち込まれ方、③過去の事件と現在の事件との関連性、などなど伏線が見事なまでに回収されていく手腕は、作者の集大成といっても過言ではないだろう。 十数名を超える容疑者から真犯人が消去法で炙り出されていくカタルシス! これこそが本格ミステリーの醍醐味に違いない。 「宗教団体」や「城」という舞台も単なるこけおどしではなく、必要性はあったんだなと終章で納得(一応)。 ということで、シリーズファンにはやはり堪えられない読書だったんだろう。 ただ、冷静な目線で見ると、やっぱり前二作よりは劣るという評価は変えられない。 次作がシリーズラストということで、期待せずにはいられないよね・・・やっぱり! |