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ミステリの祭典

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平均点:6.01点 書評数:1812件

プロフィール| 書評

No.1232 4点 子どもの王様
殊能将之
(2016/05/23 23:03登録)
2003年発表。
小野不由美「くらのかみ」、島田荘司「透明人間の納屋」と並び、子供向けの講談社ミステリーランドの第一回配本として発表された作品。

~カエデか丘団地に住むショウタと親友のトモヤ。部屋に籠って本ばかり読んでいるトモヤの奇妙なつくり話が、ショウタの目の前で現実のものとなる。残酷な「子どもの王様」が現れたのだ! 怯える親友を守るため、ショウタがとった行動とは? つくり話の真相とは? 今は亡き作者が遺した傑作がついに!~

本作と全然関係ない話で恐縮ですが、
毎週日曜日の朝に放映している、いわゆる「平成仮面ライダー・シリーズ」。
シリーズも回を重ね、はや二十近く(合ってるか?)の作品が発表されている。
わたしは朝食をとりながら、子供が見ているTVを横目で見ているわけだが、これが実にきちんとしたプロットなのだ!

私自身が子供の頃に見ていた「昭和・・・」とは大違い!
前段には謎を提示しつつ、いかにも伏線めいたシーンが何箇所も嵌め込まれ、シリーズ終盤にはその伏線がきちんと回収されていく。
そして何より「世界観」がきちんと示されているのだ。
「これが果たして小学生に理解できているのか?」といつも横で疑問に思う私なのだが・・・

で、何が言いたいのかといいますと・・・
この「ミステリーランド」シリーズって、子供をターゲットにといいつつ、やっぱり大人を意識した作りにしなければならないと思うわけです。
子供だからプロットも適当でいいという訳では決してなく、子供でもある程度は理解でき、しかも大人も楽しめる。
むしろかなり高いハードルが要求されていると思う次第。

で、本作なのですが・・・その水準には程遠いのではないでしょうか。
島田荘司や麻耶雄嵩のシリーズ作品には唸らされたのだけど、本作は一枚も二枚も落ちると思う。
これを読んで子供たちがミステリーの面白さに目覚める・・・なんてことはないだろうなぁー
でもまあ、寡作の作者としては貴重&価値ある作品。


No.1231 6点 だれがコマドリを殺したのか?
イーデン・フィルポッツ
(2016/05/15 16:35登録)
1924年。ハリントン=ヘクスト名義で発表された長編。
創元推理文庫創刊当時、「誰が駒鳥を殺したか?」とのタイトルで発表され、長らく絶版となっていたものを今回新訳にて復刊。
(他の方も書いてますので今さらですが・・・)

~医師のノートン=べラムは、海岸の遊歩道で美貌の女性に出会い、一瞬にして心を奪われた。彼女の名はダイアナ。あだ名は“コマドリ”・・・。ノートンは踏み出しかけていた成功への道から外れることを決意し、燃え上がる恋の炎に身を投じる。それが予測不能な数奇な物語の始まりと知るよしもなく・・・。さながら美麗な万華鏡を覗くように、目まぐるしくその姿を変える事件の行き着く先は?~

『だれが殺したコック・ロビン』
というわけで、ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」でも有名なマザーグースの一節が、本作のモチーフとなっている。
(別に童謡殺人ではないが・・・)

作者の略歴や背景、作品の特徴や経緯などは戸川安宣氏の文庫版あとがきや、他の方の書評で詳しく書かれているので、重ねては書かない。
作者の代表作である「赤毛のレドメイン家」や「闇からの声」と比較しても、確かに本作はそれらに肩を並べるに値する出来ではある。
主人公ノートンとコマドリ、そして二人の近しい家族や友人。都合六人の男女がイギリス・フランスの田舎町を舞台に、愛憎渦巻く一大活劇を演じていく。
そう、まさに「愛憎」なのだ。
『可愛さ余って、憎さ百倍』
人間の感情は、時代や洋の東西を問わず一緒ということだろう。
この辺りを書かせると、作者はさすがに一流の腕前を発揮する。

野暮を承知でミステリー的な観点で見ると・・・
まぁ「○れ○○りトリック」は仕方ないかな、時代性を考えると。
このサイトで何回も書いたような気がするけど、人間の感覚ってそこまで鈍くないから、「○れ○○り」は正直あまり感心はしない。
でも本作の場合は、プロットの勝利だろう。
読者も「分かってて騙される」感があるのではないか?
一旦物語の世界に引き込まれると、ついつい作者のペースに巻き込まれてしまうのだろう。それだけの作品ということ。
(ところで探偵役のニコル=ハートはなぜ気付いたのだろうか? もしかして単なる勘?)


No.1230 4点 わたしたちが少女と呼ばれていた頃
石持浅海
(2016/05/15 16:34登録)
「扉は閉ざされたまま」「君が望む死に方」そして「彼女が追ってくる」に続く“碓水優佳シリーズ”四作目。
いずれも長編だった前三作と違い、本作は連作短篇となっているところがミソ。
そして、時代も遡って彼女が女子高生だった頃が舞台。

①「赤信号」=名門女子高・碩徳横浜高校に広がるジンクス。『あの交差点で赤信号で止まると、受験に失敗する』・・・。そんな根も葉もない(?)ジンクスに立ち向かう優佳なのであった・・・
②「夏休み」=高校三年の夏休み。受験勉強も大事だが、やっぱりコッチの方にも力はいるよなぁー、普通。
③「彼女の朝」=特進クラスの中でもトップの成績を独占する「デキル女子」。しかし彼女の秘密は深夜の深酒なのか・・・? ただし、優佳の視線は冷静そのもの。
④「握られた手」=クラスの中で異様に仲の良い女子二名。彼女たちの関係はやっぱり○○なのか? 「百合」って今でも使う言葉なのか? かなり違和感・・・
⑤「夢に向かって」=受験勉強そっちのけで漫画家への道をひた走る女子高生。でも代々医者の家系の宿命で医学部を受験しなければならないのだが・・・
⑥「災い転じて」=合格祈願で訪れた元旦の初詣。そこでの不慮の事故で大事な右腕を骨折してしまう女子。本番を一週間先に控えて落ち込んでいたはずの彼女が、なぜか急に元気になったのは?
⑦「優佳と、わたしの未来」=連作のオチとなる本編。単なるオチっていうか、①~⑥までの各編は⑦のためにあったというべきプロット。本作を通じての語り手であった上杉小春が優佳という人間の本性に気付くとき・・・

以上7編。
これ、気持ち悪くないか??
別にミステリーとして気持ち悪いって言ってるわけではなくて、いい年こいたおっさんが、女子高生どおしの会話を考えながら書いている姿を想像すると・・・
しかも、なんか出てくるキャラすべてがどうにも作り物っぽくて(当たり前なのだが・・・)、どうにも居心地悪い気分にさせられた。

プロットとしてもどうかなぁー
連作としてはよく練られているのかもしれないけど、短篇のひとつひとつは相当ユルイし薄味。
手頃な分量なのだが、どうにも手が進まなかった感じ。
このシリーズはやっぱり捻りの効いた倒叙の長編でこそ、ということなんだろう。
(⑦は「扉は閉ざされたまま」につながっていくという設定はなかなかニクイのだが・・・)


No.1229 8点 写楽 閉じた国の幻
島田荘司
(2016/05/15 16:33登録)
2010年に発表された作者初の本格歴史ミステリー。
これまで多くの学者や文化人が挑んできた「写楽の正体」について、大ミステリー作家となった作者が肉薄する(のか?)
新潮文庫版では上下分冊のボリューム。

~“世界三大肖像画家”とも称される写楽。彼は江戸時代を生きた。たったの十か月だけ・・・。その前も、その後も、彼が何者だったのか、誰も知らない。歴史すら、覚えていない。残ったのは、謎、謎、謎・・・。発見された肉筆画。埋もれていた日記。そして、浮かび上がる「真犯人」。元大学教授が突き止めた写楽の正体とは?? 構想二十年。美術史上最大の「迷宮事件」を解決へと導く、究極のミステリー小説~

どうだろうか?
文庫版の作者あとがきを読むと、「写楽の謎」に対する作者の並々ならぬ熱意が窺える。
確かに、これまで数多の評論家や学者、文化人や作家たちが魅了されてきた謎!
これだけ諸説が飛び交う謎。これが古代の話なら分かるが、ほんの二百数十年前の江戸時代の話なのだ!
これはまさに島田荘司がチャレンジするだけの大いなるミステリーといえる。

写楽の正体についての真偽は、本作を読了した後も正直なところよく分からない。
確かにこれまでの発想では解けない謎なのだから、突飛というか異なるアプローチをしていくしかないのは分かる。
解説を読んでも、かなり資料を綿密に調査したことが窺えるし、もしかしたら真相に迫っているのかもしれない。
(ウィキペディアを参照すると、直近ではどうも当初の「斎藤十郎兵衛」説に立ち戻っているようだが・・・)

読み物としての本作は作者らしい実に面白い小説に仕上がっていると思う。
いかにも島荘作品の登場人物らしい造形なのがどうかという感じはするが、こういう壮大なスケールの物語を紡げる才能というのは、やはり作者の真骨頂だろう。
長すぎるとか、江戸編はいるのかとか、いろいろとご意見はあるようだが、「これはこれでいいのだ」!!
個人的には近頃ないスピードで読み切ってしまった。
それだけ夢中にさせられたのだろうと思う。

「江戸」の姿を辿る・・・っていうと「火刑都市」や「奇想、天を動かす」、「網走発遥かなり」など初期の作品を思い出してしまった。
こういう話も作者の十八番だったんだよね。
やっぱり、良くも悪くも他の作家とはひと味も二味も違うなぁ・・・
(結局回転ドアの話は何が言いたかったのか、イマイチ不明)


No.1228 7点 依頼人は死んだ
若竹七海
(2016/05/05 21:55登録)
2000年発表の連作短篇集。
最近久しぶりに続編が発表された、女探偵「葉村晶シリーズ」の第一作目が本作。

①「濃紺の悪魔」=辞めたはずの探偵事務所から再雇用の話が・・・。結局フリーの立場で契約を結んだ晶が巻き込まれる事件。ある女性の警護が仕事なのだが、謎の人物にしてやられることに・・・
②「詩人の死」=夫に自殺された友人と共同生活をおくることになった晶。その夫は現代には珍しく“詩集の売れる”詩人だったのだが・・・。そこにはある事情が隠されていたわけです。
③「たぶん暑かったから」=これはもう、最後の一行が強烈なインパクトを残す一編と言うしかない! いやぁーこれはなかなか・・・
④「鉄格子の女」=ある作家&画家の書誌を作成する仕事を引き受けた晶が巻き込まれる事件。途中、ある一枚の不思議な絵が登場し、その絵に纏わる謎が本作の鍵となる。
⑤「アヴェ・マリア」=晶ではなく、同僚の探偵・水谷の視点で語られるのが異質な本編。なぜこういう設定となったのかは、終盤に判明するのだが・・・。何となく途中から察してはいたけど、まずまず旨いプロット。
⑥「依頼人は死んだ」=表題作となってはいるけど、それほど佳作というわけではない。
⑦「女探偵の夏休み」=②でも登場した友人みのりとともに三浦半島のリゾートホテルで夏休みを過ごすこととなった晶。で、やっぱり事件に遭遇する(?)というか、知らないうちに事件は解決していた(?) 作者の技が光る作品。
⑧「わたしの調査に手加減はない」=夢の理由を調べて欲しいという無理難題が今回の仕事。なのだが・・・ちょっと分かりにくいかな。
⑨「都合のいい地獄」=本作のみ単行本化に当たって書き下ろされた模様。①で登場した謎の人物が再び晶の前に現れる。しかも、周りの人物は彼のために・・・となってしまう! 結局そのからくりは謎のままでフェードアウト・・・。最後の一行は???

以上9編。
これは想定外。予想以上に面白かった!
連作短篇としてもまとまってるし、一編ごとも短編らしいプロットや切れ味を感じる作品が多くて読み応えも十分。
晶のキャラクターもなかなか。
さすがに十年超えてシリーズ化していくだけのものはあると感じた。

敢えていうならハードボイルドになるかもしれないけど、ちょっと分類しにくい作品。
でもまぁこれなら続編も絶対読むだろう。
(個人的ベストは断然③で次点は⑤かな)


No.1227 5点 飛越
ディック・フランシス
(2016/05/05 21:54登録)
「本命」「度胸」「興奮」「大穴」のつぎは「飛越」・・・
というわけで、1966年に発表された長編五作目がコレ。
「飛越」とは、競馬の障害レースで馬が障害物を飛ぶことを言います。(念のため)

~競走馬の空輸請負業者の馬丁頭に身をやつしたヘンリイ伯爵は、奇妙なことに気付いた。前任者がふたりとも行方不明になり、空輸中の馬が時に異様な興奮を示す・・・。競走馬空輸をめぐり何か恐るべき企みが遂行されている! かくして絶対的に不利な状況のままヘンリイはひとり敢然と調査に乗り出した。しかし、行く手に待つのは、見えざる敵の非情な銃弾に他ならなかった!~

やや一本調子なプロットかなという印象。
紹介文のとおりで、競走馬の空輸業務に携わっていた主人公が、業務を遂行しているうちに違和感を覚え、独自の調査をしているうちに敵の反撃に遭う・・・
というのがかなり大まかな粗筋。
要はいつものD.フランシス作品ということなのだ。

終盤に入る前にあらかたの謎は解明され、それ以降は敵の手に落ちた主人公が命からがら逃げ出すまでの冒険譚が描かれる。
これもまぁー
終盤必ず主人公がピンチに陥って、読者はハラハラさせられるが、結局何とか助かる・・・
っていう作者お約束のプロットなわけです。
(でも今回のピンチはなかなかハードですが・・・)

本作が特別酷いプロットとは思わないけど、ちょっと粗いかなというところは気になった。
空輸の謎も結局100%解明されないままラストを迎えているし、いつにもまして冒険スリラー要素が濃かったと思う。
飛行機にえらく詳しいことについては、作者の経歴とのことで納得。
その代わり、本作は競馬場のシーンがほとんど登場しなかったのだが・・・
評価はうーん。高くはできないかな・・・
(イギリス人がいきなり一撃でイタリア人と恋に落ちるということはありえるのか?)


No.1226 5点 男たちは北へ
風間一輝
(2016/05/05 21:53登録)
1989年に発表された作者のデビュー長編。
風間氏は数冊の作品を出した後、1999年に没した“知る人ぞ知る”的な作家(なんだろう)。

~東京から青森まで・・・。緑まぶしい五月の国道四号線を完全装備の自転車でツーリングする中年グラフィック・デザイナー、桐沢風太郎。ひょんなことから自衛隊の陰謀騒ぎに巻き込まれ、特別隊に追跡されるはめになった! 道中で出会ったヒッチハイクの家出少年、桐沢、自衛隊の尾形三佐・・・。追う者と追われる者の対決、冒険とサスペンスをはらみつつ、男たちは北へ! 男たちのロマンを爽やかに描く傑作ロードノヴェル~

無骨で汗臭い男たちの物語。
本作をひとことで言い表すとしたらそんな感じか?
主人公である桐沢が東京を出発し国道四号線を北上、ゴールの青森駅を目指す行程がひたすら描かれるストーリー。
とにかく旅行記さながらに途中の街町の風景や名物までも織り込まれている。

いったいどういうジャンル?
ラストには何かミステリーっぽい仕掛けでもあるのか? などと考えていたのだが・・・
そんなことは考えてはいけないのだ!
とにかく男たちは北へ向かうのだ!
中年も少年も自衛隊員も、ひとりの男として成長するのだ!
読んでくうちに、何だかこっちの太ももも自転車のこぎ過ぎで痛くなってきたような気分(嘘です)。

自衛隊の陰謀云々はいったい何だったのか?
まるでコントのように茶々を入れるだけに終わったし、桐沢本人が言っているように、「最初から素直に返してって言えばいいのに・・・」ということに尽きるだろ!

自転車好きの方ならこういう冒険譚に心躍るんだろうなぁー
最近ならロードバイクっていうんですか、昔と違って坂道を登るのもだいぶ楽になってきてるっていいますし・・・
でも無理だなぁ。野宿なんてイヤだし・・・


No.1225 7点 共犯者
松本清張
(2016/04/29 14:05登録)
新潮社より数冊出されている作者の短編集のひとつ。
ミステリー色の濃いものから薄いものまでバラエティに富んだ作品が並んだ印象だが・・・

①「共犯者」=表題作だけあってなかなかの良作。過去の罪が暴かれることを恐れた主人公が、共犯者の存在に怯えて取った行動から思わぬ破綻が生じる・・・。名短編「顔」などとも共通するプロット。
②「恐喝者」=共犯者の次は恐喝者ということで・・・。これも人間の醜さというか、エゴイズムがラストに因果応報という形で清算されるというプロット。余韻をひく佳作。
③「愛と空白の共謀」=愛する夫を亡くした妻の陥穽とそれに取り入るひとりの男。地上波の二時間サスペンスのようなミステリー・ロマンス風なのだが、やっぱり冷静になるのは最後には女性なんだね。
④「発作」=何というか、うまくいかなくなると、とことんうまくいかなくなる・・・ということか。会社での閑職というのは男のプライドには響くんだろうな・・・。こういう「発作」を起こさないように気を付けよう!
⑤「青春の彷徨」=心中しようと阿蘇山中に入って思いとどまり、次は耶馬溪に入って思いとどまり・・・。旧題の「死神」の方がいいと思うのだが。
⑥「点」=「点と線」ではなく単に「点」。暗く貧しい時代に心まで貧しくなる・・・ということかな。他の短編でも似たようなテイストの作品をよく見かける。
⑦「潜在光景」=う~ん。結構重いけど、実に旨い作品だと思う。特にラストの反転というか切り返しは名人芸だろう。子供の目を気にしながら愛を重ね合う二人・・・そこに潜在光景を思い浮かべる男。何とも言えない余韻が残る。
⑧「剥製」=動物の鳴き真似名人と過去の栄光を忘れられない文豪。「剥製」はもちろんシンボライズとしての存在。
⑨「典雅な姉弟」=今ひとつ主題がよく分からなかった。アリバイトリックはかなり小粒だが・・・
⑩「距離の女囚」=父親の横暴で愛する夫と引き離された妻は・・・。

以上10編。
さすがの筆力を感じる作品が並ぶ好短篇集。
巻末解説で権田萬治氏が「松本清張の短編の魅力は何よりも人生の一断面を切り取る鮮やかな小説技法にある・・・」と指摘されてますが、まさにそのとおりでしょう。
知らず知らずのうちに、読者は作品世界に飲み込まれてしまい、主人公たちの人生の一場面に立ち会っているかのような錯覚を覚える・・・。
大げさにいえば、そんな感覚になる。
いずれにしても低い評価はできないと思う。
(①⑤は評判どおり。②や③もなかなか)


No.1224 5点 予告殺人
アガサ・クリスティー
(2016/04/29 14:04登録)
1950年発表の長編。
ミス・マープルものの長編としては、「動く指」に続いて五作目に当たる作品。
原題は“A Murder is Announced”ということで、「予告(または発表)された殺人」という方がピンとくる(と思う)。

~その朝、新聞の広告欄を目にした町の人々は驚きの声をあげた。「・・・殺人お知らせ申し上げます。12月29日金曜日、午後6時30分より・・・」 いたずらなのか? 悪ふざけなのか? しかし、それは正真正銘の殺人予告だった。時計の針が予告された午後6時30分を指したとき、銃声が響きわたる! 大胆不敵な殺人事件にミス・マープルが挑む~

やっぱりマープルものとは相性が悪い・・・
そう再認識させられた本作。
タイトルや紹介文からすると、かなり派手で大掛かり且つドラマティック、っていうイメージを持ってしまうし、そこに期待感を抱く。
でもそこはマープルものですから・・・
今回はいつものセント・メアリーミードからは離れているけど、相変わらず田園風景広がる英国の田舎町が舞台なわけです。

最初の銃撃事件こそ目を引くものの、その後は尻つぼみ気味。
これはやっぱり「龍頭蛇尾」と書かれても致し方ないだろう。
フーダニットについてもクリスティの典型ともいえる奴で、かなり分かりやすい部類。
ということで、高い評価はつけられないという感じになる。

・・・などと辛口の評価をしてますが、
旨いのは旨いですよ!
それは何といってもクリスティですから!
読者をミスリードさせる手腕は天下一品。
大勢の登場人物を用意し、ひとりひとりをうまい具合に配置させてるなぁーと改めて感心。

でもやっぱりクリスティはポワロものが断然面白いという結論に今回も落ち着いた次第。
(マープルの良作にはまだ出会えていない・・・)


No.1223 5点 空白の殺意
中町信
(2016/04/29 14:03登録)
1980年に「高校野球殺人事件」のタイトルで刊行されていたものを改題して出された本作。
「模倣の殺意」に始まる「~殺意」シリーズの一冊として読了。
(単なる復刊のはずが・・・うまいこと嵌りましたなぁー)

~高崎市内の川土手で私立高校にかよう女子高生の扼殺死体が発見される。その二日後、今度は同校の女性教師が謎めいた遺書を残して自殺する。そして行方不明だった野球部監督の毒殺死体が発見されるに及んで、俄然事件の背後に甲子園行を目指して熾烈な争いを繰り広げている学校同士の醜い争いがあぶり出されてくる・・・~

うーん。
いわゆる「~殺意」シリーズの中では落ちるかなという印象にはなる。
作者あとがきでも、本作がカーの「皇帝のかぎ煙草入れ」に触発されて書かれたことに触れているけど、全くピンとこなかったというのが本音。

確かに作者らしい凝ったプロットにはなっている。
事件の進展とともに徐々に混迷してくる連続殺人事件が、真の探偵役となる被害者の妹のちょっとした体験から、ドミノ倒しのようにガラガラと崩れていくカタルシス。
「裏側から舞台を見ると、事件の真の構図はこうだった!」っていう奴だ。
アリバイトリックについては後出し感があるけど、よく読んでみると細かく伏線が張られていたのが分かる。
その辺りはさすがということだろう。
(プロット倒れになる危険性もあったと思うが・・・)

動機はなぁー
正直、それでそこまでやるか? という気がしないでもない。
でもそれが親心ということだろう。
シリーズ他作品との比較で評点はこんなもの。
(作者って野球のことはあまり知らなかったんじゃないかな?)


No.1222 6点 ラスト・ワルツ
柳広司
(2016/04/19 21:28登録)
結城中佐率いるスパイ組織「D機関」の活躍を描く好評シリーズ。
「ジョーカーゲーム」「ダブルジョーカー」「パラダイス・ロスト」につづく第四弾。
なのだが、タイトルからしてこれで打ち止め・・・っていうわけじゃないようね・・・

①「ワルキューレ」=独ソ不可侵条約が締結され、日本とドイツの関係が怪しくなってきた時局が背景。ベルリンの映画撮影所内で起こるスパイゲームがテーマなのだが、いったい何重の騙し合いが演じられているのか? 現実と虚構の格差に付いていくのがやっと、っていう感じだ。
②「舞踏会の夜」=奔放に生きてきた侯爵家の三女が唯一ときめいたのは、暴漢たちから救い出してくれた礼装の紳士・・・。ということで、舞踏会ごとに男の姿を追い求める女性なんていうと主題はなに?と思ってしまうのだが、そこはやはりスパイが出てくるわけで・・・。結局礼装の紳士の正体はアノ人なんだよね。
③「パンドラ」=文庫版では書き下ろしの本作が追加編入されているのがお得。D機関とは若干のつながりしかないのだが、ロンドンで起こった密室殺人事件がテーマ。本作中では異色の本格ミステリー(?)
④「アジア・エクスプレス」=往年の鉄道ファンには垂涎の存在ともいえる満鉄の「超特急・あじあ号」を舞台に起きるスパイゲーム。久しぶりに登場した瀬戸の活躍が満喫できる一編。原点回帰したかのようなオーソドックスなスパイ小説。

以上4編。
さすがにシリーズ化、映画化までされただけのことはある。
それだけの安定感というか、劣化しない秀逸なプロットの面白さを感じる四編。
今回は、日独伊三国同盟~独ソ不可侵条約といった大戦前の緊張感高まる時代という舞台設定も効いている。

相変わらず影で存在感を見せつける結城中佐がスゴイ。
作者もいいキャラクター創ったよなぁー
シリーズは是非続けて欲しい。続編に期待!
(どれもなかなかの水準だが、敢えていえば原点回帰の④かな)


No.1221 5点 フレンチ警部と毒蛇の謎
F・W・クロフツ
(2016/04/19 21:27登録)
クロフツ最後の未訳作品として話題となった本作。
1938年発表で作者として二十二番目の長編となる作品。
原題は“Antidote to Venom”ということで日本語訳すれば『解毒剤』ということかな?

~サリッジは英国第二の動物園で園長を務めている。申し分ない地位に就いてはいるが、博打で首は回らず、夫婦仲は崩壊寸前、ふと愛人に走る始末で老い先短い叔母の財産に起死回生の望みを託す。その叔母がいよいよ他界し、遺言状の検認がすめば晴れて遺産が手に入ると思いきや・・・。目算の狂ったサリッジは、悪事に加担する道を選ぶ。良心の呵責を別にすれば事はうまく運んでいた。フレンチという主席警部が横槍を入れるまでは・・・~

作品中の殆どが動物園長を務めるサリッジの視点で書かれており、フレンチ視点の章は数えるほど。
要は倒叙形式のミステリーということなのだが・・・
中盤までは彼が犯罪に手を染めるまでの過程が順に語られるとともに、伏線めいた材料がいろいろと撒かれていく。
彼と彼を犯罪に巻き込んだ共犯者の目論見が見事にはまり、検死審問で事故死という結論が出るが、フレンチ警部が登場するや否や、あっという間に形勢逆転。ふたりの夢は泡のように消えてしまう・・・

粗筋を短くまとめるとこんな感じ。
計画がうまくいき、まとまった金が手に入ったことで、幸せをつかむはずだったはずのサリッジが、被害者となった老学者の影と罪の意識に悩まされ、徐々に追い込まれていくさま。
この辺りが本作の読みどころとなるのだろうが、印象的なラストと相俟って、作者の宗教観みたいなものが表れている。
倒叙形式というと、犯罪者たる主人公の心といかにシンクロできるかが面白さの鍵となるのだろうけど、作者はさすがにその辺りのツボは心得ている。

ただ「クロイドン」と比べると、やっぱり弱いかな。
他の方も書かれているとおり、本作の場合、主人公=実行犯ではないため、探偵役(=フレンチ)に自らが考え抜いたトリックを崩されるというカタルシスを味わえないことで、そこがどうしても弱くなっているのだと思う。
毒蛇をトリックと絡めてうまい具合に使っているのは感心したんだけど、犯罪計画を崩していく過程もちょっと安直かなと思うし、その辺のプロットがもう少し練られていたら、もう一段面白い作品になったのだろうと感じる。
評価としては可もなく不可もなくというところ。
(こういう男の心情ってイギリス人も日本人も一緒なんだなぁ・・・憐れ!)


No.1220 5点 仮面病棟
知念実希人
(2016/04/19 21:26登録)
2014年発表。
2011年の「福山ばらのまちミステリー文学新人賞」受賞の作者が贈る五作目の作品。
作者は現役の医師(よく書ける時間あるよなぁー)。

~療養型病院に強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求した。事件に巻き込まれた外科医・速水秀悟は女を治療し、脱出を試みるうち、病院に隠された秘密を知る・・・。閉ざされた病院で繰り広げられる究極の心理戦。そして迎える衝撃の結末とは? 現役医師が描く一気読み必至の本格ミステリー×医療サスペンス~

「怒涛のドンデン返し!」という惹句を付けるほどか?
と問われると、それほどではないと答えるしかない。
新聞の欄外広告でしつこいほど宣伝されていた本作なので、とりあえず読んでみるかと手に取った次第なのだけど・・・
まぁ結果は予想通りだった。

“病院に隠された秘密”については、犯人籠城が始まった瞬間から大凡の察しはついてしまう。
でもこれは恐らく作者の「撒き餌」なのだろう。
本来のポイントはラストに判明する真実・・・のはず。
でもこれも・・・かなり予想の範疇。
他の方もご指摘のとおりなのだが、少しでもミステリー好きを名乗る方なら気付くに違いない程度のサプライズ。

書き方もまだまだ稚拙さが目立つ。
イタズラに長くするのが良いとは思わないけど、前半からあまりにもトントン拍子でことが進みすぎ!
読者はもはや見え見えの決まった道筋を辿っていくだけ・・・という感じになってしまう。
主人公の速水医師もなぁ・・・結構イタイ奴になってるし。

ということで版元がここまで大々的に宣伝するほどのものではないという評価に落ち着いてしまう。
次作に期待!
(解説の法月綸太郎が指摘しているのは、東野圭吾の「仮面○○殺人事件」の影響ってことだろうな・・・)


No.1219 6点 生ける屍の死
山口雅也
(2016/04/13 20:31登録)
1989年発表。
作者のデビュー長編であるとともに、ミステリー史上に残るエポック・メイキング的作品となった一冊。
前々から読もう読もうと思っていた作品を、今回やっと読了したのだが・・・

~米・ニューイングランドの片田舎で死者が相次いでよみがえった! この怪現象のなか、霊園経営者一族のうえに殺人者の魔の手が迫る! 死んだはずの人間が生き返ってくる状況下で展開される殺人劇の必然性とは何なのか? 自らも死者となったことを隠しつつ事件を追うパンク探偵グリンは、肉体が崩壊するまでに真相を手に入れることができるのか? 作者会心の長編第一作~

なるほど・・・こういうプロットだったのか・・・
ようやく作品が終わりに近づいたところで、作者の大いなる企みに気付かされた!
そんな感覚。

とにかく終盤までは、「(作者は)一体何が言いたいのか?」全然分からない感じだったのだ。
死んでも死なない(?)という超特殊な設定下で起こる連続殺人事件。
ましてや探偵さえも死人なのだから・・・
この冗談のような設定にも意味はあったのだ!

でもまぁよくも理屈付けできたよなぁー
あくまでも「死者が死者でない」という特殊設定だからこそのロジック&トリック。
動機もまさかそんな遠大なものだとは・・・

でも長いよなぁ・・・
正直なところ、中盤はかなりキツイ!
かなり多めの登場人物だし、似たような名前が多いし・・・途切れとぎれで読んでると、何がなんだか分からなくなってくる。
でも、特殊設定のミステリーという意味ではエポックメイクなのは間違いない。
本作にカタストロフィを味わう読者もいることだろう(いるか?)
評価はこんなもの。


No.1218 7点 ママは何でも知っている
ジェームズ・ヤッフェ
(2016/04/13 20:30登録)
1952年より《EQMM》誌に断続的に発表された作品を本邦でまとめた連作短篇集。
ユダヤ系アメリカ人の「ブロンクスのママ」を探偵役とするシリーズ。
「安楽椅子型探偵」の代表例という評価は今さらという感じですが・・・

①「ママは何でも知っている」=シリーズの端緒を飾る一編。息子が持ち込んだのは、場末の二流ホテルで起こった娼婦の殺人事件。“被害者の女がルージュをひいていなかった”という事実から、ママは意外な真相を暴き出す! アリバイは結局あまり関係なし。
②「ママは賭ける」=あるレストランで起こった毒殺事件。被害者が飲んだスープに毒を入れるチャンスがあったのは、あるひとりの人物だけなのだが・・・ママは別の人物を指摘する。人の心理に基づいたひと捻りが秀逸な一編。
③「ママの春」=夫に死に別れたママに、やもめの上司を紹介しようよする息子。そんな微笑ましい光景から始まる一編なのだが、これもある人物の心理に関してのママの推理が面白い。確かにこういう「見栄」って誰もが持ってる心理なのだろう・・・
④「ママが泣いた」=父親に死なれた子供が親代わりとしたのは父親の弟。その弟が子供に突き落とされ死んでしま・・・ったかに思えた事件。事件が起こる前に子供が結んでいった父親にまつわるモノに推理のヒントが隠されていた。
⑤「ママは祈る」=最愛の妻に死なれ、大学教授の職も追われた男に掛けられた殺人の嫌疑。状況証拠は男に圧倒的に不利なのだが、ママは息子の話をもとに意外な犯人を指摘する。
⑥「ママ、アリアを唱う」=オペラマニアの男性ふたりの間で起こった殺人事件。これも②と同様、あるひとりの人物しか毒を入れることができなかったという状況がテーマの作品。こちらの方がプロットとしては上。
⑦「ママと呪いのミンクコート」=手放したくなかったミンクのコートには前の持ち主の怨念が籠っていた?としか思えない事件が起こる。当たり前として捉えている事実・事象を疑ってかかるのが本作に共通するプロット。
⑧「ママは憶えている」=ラストは死に別れたママの夫にまつわる過去の事件がテーマ。過去の事件の顛末を語るうちに、現在進行形の事件までも解決してしまう。ユダヤ教やユダヤ人に詳しければ、真相は自ずと導き出される。

以上8編。
巻末解説で法月氏が触れているとおり、本作は「隅の老人」や「黒蜘蛛後家会」など著名な安楽椅子型探偵シリーズにひけをとらない名シリーズ。
それより、個人的にはどうしても都筑氏の「退職刑事」シリーズを想起してしまう。
(子供である刑事が探偵役である親に事件の内容語るというのが丸カブりだものね)

①~⑧のいずれもこの人物しか犯人たる人はいないという状況下で、ママは警察の推理を反証し、真相を導き出すというプロット。
特別トリッキーでも切れ味が鋭いわけでもないが、とにかく安定感抜群!
動機や事件の背景をとおして、人の弱さや痛みを訴え、弱者の気持ちに寄り添うという姿勢が窺えるのもよい。
評判どおりの佳作という評価で間違いなし。
(毒殺を扱った②と⑥が個人的に双璧。①も意外によい)


No.1217 4点 ノエル: -a story of stories-
道尾秀介
(2016/04/13 20:29登録)
2012年発表のノンシリーズ長編。
三つの物語が紡ぎ出す独特の旋律・・・といった雰囲気の作品。

~孤独と暴力に耐える日々のなか、級友の弥生から絵本作りに誘われた中学生の圭介。妹の誕生に複雑な思いを抱きつつ、主人公と会話するように童話の続きを書き始める小学生の莉子。妻に先立たれ、生きる意味を見失いながらボランティアで読み聞かせをする元教師の与沢。三人が紡いだ自分だけの<物語>は、哀しい現実を飛び越えていく・・・。最高の技巧に驚愕必至、傑作長編ミステリー~

紹介文には長編とうたっているが、世界観を共有しつつ緩やかにつながった三つのストーリーから成り立っている。
いわゆる連作短篇といっても差し支えない構成。
紹介文にはミステリーとうたっているが、これは本当にミステリーなのか?
どう読んでもファンタジー小説としか取れなかったのだが・・・
(謎の提示もなく、何かを解き明かしたわけでもなく、サスペンス的な展開もないのだから・・・)

まぁそれは置いといて・・・
本作で作者は何を言いたかったのか、何を伝えたかったのか?
「生きる喜び」なのか「人生というものの素晴らしさ、不思議さ」なのか?
哀しい現実に耐えている三人の主人公が、自分が創造した物語をとおして、確かな“何か”を得ていく・・・
う~ん
どうもありきたりのような気がしてならんなぁ・・・
三人ともそれほど不幸じゃないし、最終的にはハッピーになってるし・・・
やっぱり中途半端だ。

作者のことだから、当然うまくまとめているのだけど、正直なところ消化不良気味。
もう少し捻りや奥行きのある作品かと思っていたのだが・・・
やや期待はずれ。


No.1216 5点 そして医師も死す
D・M・ディヴァイン
(2016/04/02 00:35登録)
1962年発表。
「兄の殺人者」に続いて発表された作者の第二長編。
原題は“doctor also die”とそのまんま・・・

~診療所の共同経営者ヘンダーソンが不慮の死を遂げて二か月がたった。医師のターナーは、その死が過失によるものではなく、何者かが仕組んで事故に見せかけた可能性を市長のハケットから指摘される。もし他殺であるなら、かなり緻密に練られた犯行と思われた。ヘンダーソンに恨みや嫌悪を抱く者は少なくなかったが、機会と動機を兼ね備えた者は自ずと限られてくる。未亡人ともども最有力の容疑者と目されたターナーは独自の調査を始める・・・~

いつものディヴァイン節だが・・・
名作の誉れ高い前作(「兄の殺人者」)や後の著作に比べると、出来としてはイマイチかな、と感じた。
ごく限られた世界(いわゆるクローズド・サークルだな)で展開する物語、奇をてらったトリックや複雑なプロットは全くないシンプルな謎解き、類まれなる人物描写の技・・・etc
本作でも作者の強みはいかんなく発揮されてはいる。

されてはいるのだが、何ともまだるっこしい・・・
主人公のアラン・ターナーがこれまたとびっきりの優柔不断ぶり。
二人の美女に挟まれて、行ったり来たりしながら、事件の調査にも真剣になったり、投げ出したり・・・
と思うと、残り二十頁ほどになってようやく真相に思い当たるのだ。
確かに「論理の穴」をめぐる推理は旨いし、それなりの納得性はある。
あるのだけど・・・今さらそれに気付くか? という気がしてしまうのは私だけだろうか?

解説の大矢氏も書いているとおり、非常にトラディショナルな純英国風ミステリー。
こういう奴が好きな人には堪らないのかもしれない。
個人的にディヴァイン自体は決して嫌いではないのだが、本作はあまり評価できなかった。
(皮肉の効いたラストがやや印象に残った・・・)


No.1215 6点 玉村警部補の災難
海堂尊
(2016/04/02 00:34登録)
「ナイチンゲールの沈黙」などに登場した警察庁の“デジタル・ハウンドドック(電子猟犬)”こと加納警視正と、警視正にこき使われる哀れな中年刑事・玉村警部補のコンビが贈る連作短篇集。
要は、最近はやりの「スピンオフ」ってやつだ。
2012年発表。

①「東京都二十三区内外殺人事件」=東京都と神奈川県の境界線付近で発見された不審な死体をめぐるお話。日本においては正確に機能している監察医制度が東京二十三区にしかないという、作者が従来より主張している内容がテーマ。白鳥とふたりして○○をエッチラオッチラ運ぶ田口の姿を想像すると可笑しい・・・
②「青空迷宮」=桜宮のサクラTVの名物番組で起こった殺人事件。巨大迷路という密室の中で誰も殺せたはずのないところに死体が・・・っていうと実にまともなミステリーっぽいが、本当にミステリーなのである。ロジックで犯人を追い詰める加納が強烈。
③「四兆七千億分の一の憂鬱」=DNA鑑定がテーマの作品なのだが、この数字はDNA鑑定で同じ型が登場する可能性を表している(とのこと)。これも完璧と思えたトリックを無理矢理崩す加納と、それに付き合わされる玉村が強烈。
④「エナメルの証言」=やくざの焼死体なら、歯型さえ一致すれば解剖されない・・・という司法の悪癖を付いた問題作!っていう感じか。これも「死因不明社会」に警鐘を鳴らす作者らしい作品と言える。まるでアーティストのような“坊や”のキャラがなかなか良い。

以上4編。
何だかはしゃぎ過ぎのような作品集。
いつものように「桜宮サーガ」の登場人物たちが大暴れするのだが、今回は主に「死因」にスポットを当てた作品が並んでいる。
そして数々の事件の捜査に当たるのが、デジタル・ハウンドドック=加納警視正!
(普通警視正は直接捜査に当たらないよなぁー)

相変わらず独特のリズム感ある展開とプロットで読者をグイグイ引っ張る。
はしゃいではいるものの、時折専門的な話を出し、単なるエンタメ小説ではないことを主張する。
旨いもんです。
小粋な短篇集いっちょ上がり!!・・・っていう感じかな。
(ベストは①だろうが、④も捨て難い)


No.1214 6点 その鏡は嘘をつく
薬丸岳
(2016/04/02 00:33登録)
連作短篇集「刑事のまなざし」に登場した東池袋署・夏目刑事。
忌まわしい過去を持ちながら、刑事として人間として真正面から事件と対峙する男。
そんな夏目刑事を探偵役とした初の、そして続編としての長編作品。
2013年発表。

~鏡ばかりの部屋で発見されたエリート医師の遺体。自殺とされたその死を、切れ者と評判の検事・志藤は他殺と疑う。その頃、東池袋署の刑事・夏目は同日現場近くで起こった不可解な集団暴行事件を調べていた。事件の鍵を握るのは未来を捨てた青年と予備校の女性講師。人間の心の奥底に光を当てる、作者ならではのミステリー~

実に作者らしいテーマの作品。
デビュー作「天使のナイフ」以来、事件の背景や動機に拘った作品を上梓し続けている作者だが、本作でも重いテーマをぶつけてきた。
“医師となる宿命を背負った若者たち”の苦悩と痛み・・・これこそが本作で提示された「現実」。
他人を命を預かるという重い責任を負うのが医師という職業のはずなのだが、現実はさにあらず・・・ということなのだろう。

冒頭から複数のストーリーラインが進行していく展開。
主役である夏目のほかに、本作ではもうひとりエリート検事の志藤が登場し、ふたりの捜査が別々に触れられる。
それらがどう絡み合っていくのかがプロットの主軸。
殺人事件と暴行事件、三人の予備校生と女性講師、冤罪の痴漢事件・・・
ばらばらに見えた幾つもの事実がひとつに収斂していくとともに、目を背けたくなるような背徳の事実が浮かび上がってくるのだ。
この辺りは作者の十八番ともいえる技だろう。

すでに地上波ドラマ化もされた本シリーズ。
それはやはり夏目の魅力に負うところが大きい。
本作と同時期に連作短篇集「刑事の約束」も発表されており、そちらも手に取る予定。
出来としては正直なところ前作のほうが上だと思うが、こちらも読み応えはあり。
(被害者の行動はかなりちぐはぐで理解し難いのと思うのだが・・・)


No.1213 4点 マーチ博士の四人の息子
ブリジット・オベール
(2016/03/22 21:32登録)
1992年発表。
作者はフランスの女流作家で、本作を含めて四作の長編小説を著している。
で、本作がデビュー作に当たる(とのこと)。

~医者のマーチ博士の広壮な館に住みこむメイドのジニーは、ある日たいへんな日記を発見した。書き手は生まれながらの殺人狂で、幼い頃から快楽のための殺人を繰り返してきたと告白していた。そして自分はマーチ博士の四人の息子・・・クラーク、ジャック、マーク、スターク、の中のひとりであり、殺人の衝動は強まるばかりであると! フランスの新星オベールのトリッキーなデビュー作~

前々から気になっていた作品を読了したわけだが・・・
紹介文ほど魅力的な作品ではなかった。
そんな読後感。

全編つうじて、『殺人鬼』と称する男(=マーチ博士の四人の息子のうちのひとり)とメイドのジニーが書き付けを通してやりとりするという展開。
「書き付け」や「手紙」ベースのミステリーというと、どうしても叙述系のトリックが仕掛けられているのだろうという先入観になってしまう。
そういった目線で読みすすめたわけなのだが・・・

如何せん途中の展開がまだるっこし過ぎ!!
ふたりのやり取りを通じて徐々にサスペンス感を盛り上げてるのだろうとは思うが、ここまで重ねられるとちょっとゲンナリ。
ラストの“ひっくり返し”はなかなか綺麗に決まっているだけに、そこが惜しいという感想になる。
ただ、「帯」のコメント(「驚愕保証のサプライズ・ミステリ!!」)は煽り過ぎだろう。
正直、そこまでではない。

ということで、書店で本作を手にして買おうか迷ってるのなら・・・あまりお勧めはしません。
(でもまぁそれは個人的な感想ですから・・・。人それぞれだとは思います)

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