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ミステリの祭典

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アデスタを吹く冷たい風

作家 トマス・フラナガン
出版日1961年07月
平均点6.54点
書評数13人

No.13 5点 メルカトル
(2024/07/25 22:23登録)
風が吹き荒さぶ中、闇を裂いてトラックがやってきた。運転する商人は葡萄酒を運んでいると主張する。だが職業軍人にして警察官のテナント少佐は、商人が銃の密輸人だと直感した。強制的に荷台を調べるが、銃は見つからずトラックは通過してゆく。次は必ず見つけて、武器の密輸入者は射殺する……謹厳実直の士、テナントがくだした結論は?「復刊希望アンケート」で二度No1に輝いた7篇収録の名短篇集、ついに初文庫化。
Amazon内容紹介より。

まず原文が多分下手。途中何を書いているのかよく解らず、心に響くものが一つもなかったというのが本音。そして最後の真相に、あーそうなのか(棒読み)と何の感慨もなく終了って感じで、どの短編もそんな調子でしたね。
そして訳も上手くない。難読漢字が続々、せめてルビを打って欲しかったです。長身痩躯を痩躯長身と書いてあるしなあ、内容がちっとも頭に入ってこない、この人こんな下手だったかなと思いました。『エクソシスト』を高校生位に読んだ時は普通に読めましたけどねえ。

評判の良い表題作を取り上げてみても、ショボいトリックに驚きを隠せません。現在なら絶対通用しないでしょう、こういうの。他にもパッとした意外性のあるトリックは見当たらず、ちょっとだけ読んだ事を後悔しました。というか、私には合わなかったのでしょう。年代を鑑みて5点としましたが、本来なら4点相当だと思います。

No.12 5点 nukkam
(2022/05/27 10:28登録)
(ネタバレなしです) 大学の教員が本職だった米国のトマス・フラナガン(1923-2002)のミステリー作品は「玉を懐いて罪あり」(「北イタリア物語」という邦題もあります)(1949年)から「もし君が陪審員なら」(1958年)までの7作の短編のみです。きちんと確認したわけではありませんが本国では雑誌掲載されたのみのようで、日本で1961年に出版されたハヤカワポケットブック版が世界初の短編集ではないでしょうか。架空の『共和国』を舞台にした4作のテナント少佐シリーズでは密輸トリックの謎解きの「アデスタを吹く冷たい風」(1952年)が有名ですがテナント少佐が自慢するほど「論理的な証明」とは思えず、トリックも平凡に感じました。密輸トリックとしては「国のしきたり」(1956年)の方が巧妙に感じます。非シリーズ作品の「玉を懐いて罪あり」はどんでん返しが印象的で、最後の一文はジョン・ディクスン・カーの某短編を連想させます。「もし君が陪審員なら」は謎解き議論(但し容疑者は1人だけ)がありますが最後は不気味な結末が用意されているところはクリスチアナ・ブランドの某作品に通じますね。推理説明があまり上手くないのが惜しいですが、意外性(犯人の正体とは限らない)の演出が効いた本格派推理小説が多いです。

No.11 6点 sophia
(2021/07/29 00:29登録)
訳が古臭くて大変読みにくかったです。まず本当にそれが大問題です。まあ面白かったと言えるのはテナント少佐の四編だけですかね。「アデスタを吹く冷たい風」と「国のしきたり」、「獅子のたてがみ」と「良心の問題」はそれぞれ発想が同じではありますが。そして解決がいつも唐突なので推理の過程をもっと描いてくれるとよかったです。「獅子のたてがみ」は状況に無理がありますよね。どうやったらそんな錯誤が生じるんでしょうか。

No.10 7点 斎藤警部
(2020/06/01 18:00登録)
謂わば金田一さんとは正反対の実力派問題解決職人。事件の真相だけ晒してサヨウナラなんて無意味な事はしませんし出来ません。 しかしだからと言って、仮に彼が老後の世界旅行でジャパンの八ツ墓村を訪れたとしたら、事が連続殺人に発展する前に真犯人を捕縛しただろうかと言うと。。。金田一さんとは全く別の視点から、しばらくは犯人のなすがままに放っておいたかも知れない。そんな危ない懐深さを覗かせる名探偵、それが下記4篇に登場する、地中海に面する東欧某国(地理的にはスロヴェニア、クロアチアあたり?)のテナント少佐なる警察官です。

アデスタを吹く冷たい風 The Cold Winds of Adesta
国の革命史に関わる密輸事件。妙に推理クイズっぽいセコさへの予感もチラツいたけど、最後までシブミは持ち堪えた。 7点

獅子のたてがみ The Lion's Mane
スパイ容疑で、テナントの部下により射殺された医師。。途中から晒される大きな逆説には読者の悪い心を刺激しワクワクさせるものがあるが、最後に明かされる小さな逆説は、、ちょィとギャフンな劣化版ブラウン神父が唐突にお茶を濁したみたいで、どうかなあ。でも真相自体はちょっと凄い、怖いんだ。 6点

良心の問題 The Point of Honor
これぞ逆説。 4篇中では抜群のミステリ深度を感じます。ナチスの亡霊に絡んだ、動機不明の殺人案件がハードに躍動。 8点

国のしきたり The Customs of the Country
奥行きのある密輸トリック顛末に起因し、急襲する激しい暴力と、表裏一体の爽やかな後輩指導、そのシーン展開に打たれる一篇。 “その夜はじめて、テナントは腹の底から、ほがらかな笑い声を立てた。そして、手をのばして、バドランの太い猪首をたたきながら、「大尉」といった。「きみも相当、のみこみのわるい男だな。」” 7点

4篇どれを取っても、テナントと複雑な思いで相対する人物の心理描写が際立っています。 テナントの目的は真相を暴く事には無い、では何処にそれがあるかと言うと、、、 国のため、とは言い切れない。 国への反逆でもない。 人民のため、と言うのはおそらく違う。 自らの保身のため、、もあるだろうがその分量は控えめか。(単純に目的は正義と言ってしまっていいのかも?) 革命前は王政側の大佐で革命後も”党員”ではない片脚義足の強面の狼。 こんな激渋設定の探偵が捌く事件が、時々(ミステリ文脈的に)安易な道に迷いかける微妙さも少しあるが、、とにかく退屈とは無縁の面白さ。‘幻の名作’みたく喧伝されるのを受けて気張って読むことも無いと思うけど、シリーズがこの4作しか無いというのは、相当に惜しまれる!!(パスティーシュでいいから、誰か引き継いで書いてる人いないのか。。) 

以下3篇はノン・シリーズ

もし君が陪審員なら Suppose You Were on the Jury
落語調の掛け合いで進む小噺。 個人的にはグッと来ないダール流儀のオチだが、好きな人も多いでしょう。 6点

うまくいったようだわね This will Do Nicely
同じ小噺ならこっちが味わい深い。 「わたしがこのひとを殺したのも、やはりそういったところに、理由があるのよ」 6点

玉を懐いて罪あり The Fine Italian Hand
これは。。。。沁みる。 ブラウン神父の衣鉢をしっかり継いだ、偉大なる歴史小品。乱暴なようで繊細な外交の駆け引きにも、あの聾唖者尋問の名シーンにも、とにかく痺れました。。 蟷螂の斧さんが伏字で疑問を呈せられた部分、気付きませんでしたが仰る通り。まして相手もあった事ですし。。(実は相手はいなかった可能性も有り?!だとしたら。。) とは言え相手は地域の独裁者、あらゆる可能性は闇の中なのでしょう。。。 最後の大オチは、、全く気付かなかった!!(笑!) 8点

No.9 5点 makomako
(2019/08/11 08:24登録)
 有栖川有栖氏密室大図鑑(これはなかなか凄いですよ。密室の謎解きかなと思って読まなかったのですが、密室の提示まででネタは割っていません。)で推奨されていたので読んでみました。
 このサイトの評価も高いようですが、残念ながら私にはもう一つでした。主人公のテナント少佐があまり好みではないからかもしれません。何作も読んでいくとそこそこ嫌いではなくなるのですが。初めの「アでスタを吹く冷たい風」ではちょっといやなやつといった印象でした。
 コアなミステリ好きの方なら面白く読めたものと思います。文学的な感動や人間としてのお話をを求めるならダメなんでしょう。
 なお密室大図鑑で紹介の作品はテナントものではないのです。大図鑑のように謎だけ提示されたときには実に不思議でしたが--。まあこんなもんでしょうね。

No.8 6点 弾十六
(2018/11/10 03:36登録)
テナントものだけなら7点。ハヤカワ文庫で読了。
なぜテナントものが発表順に並べられていないのか、よくわからないのですが… 是非、発表順に読んでいただきたいと思いました。(アデスタ-良心-獅子-しきたりの順)
テナントものも「玉」も異常な状況が効果的、でもファンタジーとして楽しむべき作品群だと思います。いずれもバクチ要素が強く、現実世界では成立し難いのではと感じました。(なので現代ものは精彩を欠いている感じです)
「玉」p272であっさり間違いと切り捨てられている「14世紀」は架空のイタリア語原文のクァトロチェント(1400年代)を英訳したらうっかり間違えたテイで…という作者のお遊びかも。「陪審員」p209「高性能のライフル猟銃」は本当は「高速の狩猟用ライフル弾」かな?とちょっと疑っています。(原文未参照。宇野先生で銃器関係の怪訳を見たことがあります…)

No.7 8点 tider-tiger
(2017/08/05 12:31登録)
地中海に面した架空の独裁国家を舞台にしたテナント少佐ものは設定をうまく生かしてミステリを構築、物語性、ミステリ性ともに満足のいく四編でした。固めな文章、訳が古めかしいのもこの世界観と調和していて味わいとなっています。雰囲気は表題作がタイトル含めて最高ですが、アイデアとしては四作目の『国のしきたり』が好きです。現実にここまで遠回しなことをするものかと些かの疑問はあるものの、古典の応用トリックに設定と人物をうまく絡めて、さらには物語性も付加されて文句なし。
続くノンシリーズの二篇はまあまあ。
『もし君が陪審員なら』は奇妙な味の短編としてうまくまとまっていると思います。
『うまくいったようだわね』は友人の弁護士が加害者に最初から協力的でありましたが、その理由がよくわからないのが大きな瑕疵だと思います。そこを気にする話ではないのもかもしれませんが。
ここまで読んだ感想は「すべてテナント少佐もので固めてくれれば良かったのになあ」だったのですが、最後の『王を懐いて罪あり』が傑作だと思いました。これはテナント少佐ものと対抗しうる一篇。ラスト一行はゾクッときました。ミステリとして粗はあるかもしれませんが、こういったことが歴史の一幕として本当にあったのではなかろうかと、故に……そんな風に思いを馳せてしまいました。
ミステリ要素のみなら6~7点だと思いますが、設定や文体(好き嫌いが分かれそうではありますが)がミステリ部分と良い相互作用をもたらしています。

※私はポケミス版を持っているのですが、『王を懐いて~』は最初の頁の訳註がネタバレになっています。文庫版がどうなっているのかは? 
気を付けて下さい。自分は華麗に読み飛ばしていたので無傷でした。

No.6 7点 E-BANKER
(2016/07/30 22:01登録)
シリーズもの四篇にノンシリーズ三篇を加えた早川オリジナルの作品集。
読者の「復刊希望アンケート」で堂々二度もNO.1に輝いた名短篇集(とのこと)で期待大。

①「アデスタを吹く冷たい風」=表題作らしい格調と短編らしい“切れ味”を感じる佳作。①~④までは「共和国」のテナント少佐を探偵役とするシリーズ。銃の密輸を取り締まる国境の緊張感と意外な隠し場所が判明するラストがなかなか鮮やか。
②「獅子のたてがみ」=将軍(ジェネラル)も一目おく男・モレル大佐の殺人事件をめぐる一編。いわゆる「操り殺人」がテーマなのだが、これまたラストに判明する“ある事実(真実?)”が相当鮮やか! 遠くからなら分からないよね・・・(今だったら近くからでも分からないかもしれないけど・・・)
③「良心の問題」=シリーズ四篇のなかでは一番目立たない作品かな。あまり頭に残らず。
④「国のしきたり」=①に続いてまたまた国境での密輸取り締まりが舞台。任務に忠実でどのような密輸品でも見つけると豪語する取締り官に対し、テナント少佐の鋭い観察眼が光る。プロットは①と同系統。
⑤「もし君が陪審員なら」=⑤~⑦はノンシリーズ。これは・・・いわゆる「最後の一撃が炸裂!」的な作品。もちろん暗喩なのだけど、当然読者はそう想像してしまう。
⑥「うまくいったようだわね」=これも⑤同様に「最後の一撃」が鮮やかなプロット。女性にさんざん振り回される知人の弁護士がなかなか憐れ・・・。
⑦「王を懐いて罪あり」=中世の北イタリアを舞台とした作品。いわゆる密室殺人&密室盗難が取り扱われているのだが(作者は意識してなかったとのことですが・・・)、これもラストに意外な真相が判明するのがニクい。

以上7編。
確かにこれは「冠」に相応しい作品集。
前半のシリーズは、地中海沿岸にあると思われる「共和国」が舞台だけど、無国籍感が漂っていて独特の世界観。
独特の世界へ読者を引きずりこみつつ、ミステリー的には人間の心理の死角をついた意外な真相という短編ミステリーらしいプロットなのが実に心憎い。
ノンシリーズも作者の達者な腕前が遺憾なく発揮されている。

高品質な作品集という評価でよいだろう。
(個人的にはやはり①がベストということになるかな)

No.5 6点 あびびび
(2016/06/03 01:34登録)
希有な短編集。それもミステリファンから文庫出版を要望されたものと聞いた。しかし、自分には合わなかったなあ。テナント少佐は魅力的ではあるが、こういう設定はあまり好きではない。

自分は根が単純であり、いろいろ考えずにサプライズを味わいたい俗物。要するに、思考力が足りないのだと思う。

No.4 7点 ボナンザ
(2016/04/26 21:49登録)
文庫化されたので読んでみたが、これは確かに傑作揃いである。
早川にはこの調子で高値がついている傑作群を復刊して欲しい。

No.3 8点 mini
(2015/06/05 09:54登録)
昨日4日に早川文庫からジェイムズ・ヤッフェ『ママは何でも知っている』とトマス・フラナガン『アデスタを吹く冷たい風』が刊行された
いずれも旧ポケミスからの文庫化で、要望が多かったであろうに、これまで早川が文庫化を見送っていた短編集である、今まで文庫版しか読まない主義の読者にも読まれるような日が来るとはねえ

トマス・フラナガンは短編だけの作家と言ってもよく、元々がEOMMの年次コンテストで受賞デビューし主な活躍の舞台も同誌である
そのデビュー作が「玉を懐いて罪あり」で、作者は書いている時には密室ものとして書いたわけではなく結果的に密室状態になっている事にも気付かなかったという逸話が有る、真偽は不明だが
私はこの短編だけは他のアンソロジーで既読だったがその時の題名は「北イタリア物語」で、歴史的時代背景を考えるとこっちの題名の方が良いと思うのはkanamoriさんに同感

メインのテナント少佐もの4編は本格派謎解きパズラーだが、戒厳令下の軍事独裁政権の架空国家を舞台にしている
その為、探偵役が能天気に捜査推理していれば良いわけじゃなく、様々な制約の中で思い悩みながら、切れ味鋭い推理と状況へ対処が異様な迫力を持って描写され、単なるパズルではない深味と魅力が有る
テナント少佐ものが4編しかないのは本当に惜しい
一方ノンシリーズ短編には歴史ミステリでも架空国家が舞台でもない現代的なクライムノベルも有り、本来は書こうと思えば何でも書ける作家だったのかも知れない

ところでヤッフェ『ママ』とフラナガン『アデスタ』の両短編集には共通点が有るのだが皆様御存知だろうか?、それは日本オリジナル編集だという点である(ただし『ママ』の方は後でアメリカ本国でも短編集化された)
フラナガンの短編群が纏まった形で読める日本の読者は幸せだと思うよホント

No.2 7点 蟷螂の斧
(2013/07/09 16:32登録)
7編の短編集。「獅子のたてがみ」テナント少佐の権謀術策が見事で、一番のお気に入り。表題作は、武器を葡萄酒の樽に如何に隠すかということで、ちょっとクイズぽい感じがしてしまいましたね。サスペンス風の2作は、ダ-ルっぽい感じがして好みの作品でした。処女作の「玉を懐いて罪あり」も権謀術策が見事なのですが、設定に問題があるように思います。○固○が○○であったら、役に立つのか?という疑問です・・・。余談ですが、表題作を読んで、映画「サンタ・ビットリアの秘密」(アンソニー・クイーン)を思い起こしました。こちらは、ドイツ軍から葡萄酒を没収されないように如何に隠すかという話です。ミステリーではありませんが・・・。

No.1 8点 kanamori
(2010/04/08 18:56登録)
早川書房の復刊希望投票で創刊45周年、50周年度と連続して第1位に輝いたミステリ短編集です。
某軍事国家の憲兵・テナント少佐ものの連作4編と単発もの3作が収録されていますが、いずれも格調高い文体と意外性を追求したミステリ趣向に溢れた傑作作品集だと思いました。
テナント少佐ものでは、武器密輸の意外な抜け道が意表を突く表題作や、少佐の人物造形が最後の逆転に結びつく「獅子のたてがみ」が読ませます。
単発ものでは、歴史ミステリ「玉を懐いて罪あり」が抜群の出来。15世紀イタリアの密室状況の城内からの秘宝の消失を扱っていますが、警護の聾唖者への尋問など圧倒的な迫力を感じました。密室ものアンソロジーでは「北イタリア物語」のタイトルで収録されていて、そのタイトルの方が好みです。

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