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ミステリの祭典

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花窗玻璃 シャガールの黙示
芸術探偵シリーズ/改題『花窗玻璃 天使たちの殺意』

作家 深水黎一郎
出版日2009年09月
平均点6.70点
書評数10人

No.10 5点 nukkam
(2021/10/20 15:25登録)
(ネタバレなしです) 2009年発表の芸術探偵・神泉寺瞬一郎シリーズ第3作の本格派推理小説です。私はサブタイトルが「天使たちの殺意」に改題された河出文庫版(2015年)で読みました。本書の特徴は瞬一郎の手記で占められていることで、18歳だった瞬一郎のフランスのランスでの怪死事件の謎解きを描いています。瞬一郎の伯父の海埜警部補とのユーモア溢れる会話シーンはプロローグとⅠ章の終盤のみです。手記でまず目につくのは本来ならカナカタ表記になる外来語を全て漢字表記にしていることです。「花窗玻璃(ステンドグラス)」のようにルビは振ってあるし、最初の1回だけでなく用語が登場するたびに毎回ルビを振ってありますのでそれほど読みにくくはなかったです(電気六弦琴(エレキギター)には笑えたけど搖滾樂(ロックンロール)は理解不能でしたが)。何でそんな表記にしたかもちゃんと作中で瞬一郎に説明させて、読者からの反発対策もばっちり(笑)。動機が後出しの説明ですが使われたトリックはなかなか印象的で、わざわざランスを舞台にしている理由も単なる観光要素ではありませんでした。2つの事件の連続性については不満を抱く読者もいるかな。どうせなら瞬一郎と海埜の会話を最後にも挿入して締め括ってほしかったです。それにしても作者がフランス留学経験あるとはいえ、参考文献が全部フランス語というのは恐れ入りました。

No.9 5点 E-BANKER
(2016/08/14 10:43登録)
「エコール・ド・パリ殺人事件」「トスカの接吻」に続く“芸術探偵シリーズ”三作目。
当初は講談社より「花窗玻璃~シャガールの黙示」として発表されていたが、今回は河出文庫よりサブタイトルを変更して出版されたものを読了。
2009年発表。

~フランス・ランス大聖堂の南塔から男が転落、地上八十一,五メートルにある塔は密室状態で、警察は自殺と断定した。だが半年後、再び死者が・・・。被害者の共通点は死の直前、シャガールの花窗玻璃(ステンドグラス)を見ていたこと。ここは呪われている? 壮麗な建築と歴史に隠された事件の意外な結末とは何か・・・?~

『マルク・シャガール』・・・1887年ロシア(現ベラルーシ)生まれの画家。途中フランスに移り、エコール・ド・パリの一人としても知られる。別名「愛の画家」。1985年没。
『ランス大聖堂』・・・ランスはフランス北部シャンパーニュ地方の都市。人口約二十万人。歴代フランス国王の載冠式が行われることでも有名。ゴシック建築の代表作としても知られ、1991年にはユネスコ世界遺産として登録された。

以上、この程度の予備知識を持って読まないと、神泉寺瞬一郎から放たれる大量の蘊蓄にゲンナリしてしまうこと請け合い。
文庫版の見開きにはランス大聖堂の写真が挿入されていますが、確かに見事なものですなぁ・・・
(ケルンやミラノの大聖堂は実際に見たことあるけど、これは見てないからな)
ここに著名なシャガールのステンドグラスがあるわけですね・・・
シャガールってもっと昔の画家だと勘違いしてたけど、割と最近まで生きていたんだねぇ・・・(ウィキペディアには本田宗一郎と面談したエピソードが書かれている)
もしフランスに行く機会があれば是非とも見て、登らなくては・・・

えっ! 書評は?って・・・すっかり忘れてた。てっきりガイドブックかと・・・
でもこの密室トリックって・・・まさに島田荘司の影響バリバリって感じだよねぇ。
(実際、作者が島田氏に強い影響を受けているのは確かなのだが)
いくら強度があるからといって、人間のメンタルとしてこんな殺害方法選ばないだろう!
というのが素直な感想だけど、それを言っちゃあおしまい・・・だよな(表現が古い)
作中作にしているのも正直よく理解できなかった。(どうやら理由があるようですが)
でも作者がいろいろ考えてアイデアを投入しているのはいいことだと思います。

No.8 9点 tider-tiger
(2016/01/28 21:01登録)
エコパリ、トスカより一つ上に到達した作品であり、深水氏の最初の頂点かなと考えています。
本筋の事件やトリックは及第点といったところだと思いますが、一枚絵を描き終えたらもう一枚の絵が姿を現す息を呑むような構成が美し過ぎる。その構成が縛りとなっておりますが、それを跳ね除けての大技には感服しました。天使の正体もいい。伏線も巧みに張り巡らされており、作者の美学、言葉への拘りも好印象。そのうえ遊び心も満載。中でもさりげなく仕込まれた限りなくどうでもいい叙述トリックには笑いました。そして、自分もベアトリーチェの肖像は真珠の耳飾りの少女よりいいと思います。
瑕疵ではありませんが、個人的には大聖堂にあまり興味がないことと動機がちょっといけすかないことがマイナスポイントでしょうか。
大ヒット作は難しくとも、確実にファンがつく作家でしょう。
専業ではないことですし、はまる人は大いに讃え、ダメな人はさようならと、こういう作風で突き進めば良いのではないかと思います。てか、そうあって欲しい。
ただ、作者本人が「イヤなら読むな」なんてことを言ってはいけません。
※追記 深水先生ご本人が「イヤなら読むな」などと言った事実はありません。誤解を招く懼れあると気付いたため念のため追記いたします。

No.7 6点 名探偵ジャパン
(2015/11/04 11:51登録)
河出文庫から、「花窗玻璃 天使たちの殺意 」というタイトルで改題、加筆修正されたもので読了。
「あの『最後のトリック』の作者による何とか」みたいな帯が掛かっており、「またぞろ何か仕掛けが?」と思い構えて読んだが、ごくオーソドックスなミステリだった。
本編の半分近くは芸術、聖堂に関する蘊蓄。特に読む必要はないが、作者の語り口がうまいのか、飽きることなく読ませられる。面倒な方は、「事件の舞台となった聖堂だけ、左右の塔の高さが揃っている」という蘊蓄だけ憶えていればいいです。(なにげにネタバレっぽい)
幻想的、芸術的でハイソサエティな作風に似合わない、豪快で力業なトリックは、かえってギャップ萌え(?)しました。
作中の探偵の言葉で、「言語文化が衰えていくのを食い止めるのも作家、言語学者の使命」みたいな台詞があり、なるほどそうだな、と思った。一般の人たちが言葉の楽な言い回しや、簡略化、誤用による意味の変化などに慣れていくのは仕方ないが、言葉を商売道具とする作家までもがそれに倣ってしまっては駄目だ、ということだ。

No.6 8点
(2013/05/20 11:40登録)
謎解きの対象は、ランス大聖堂の南塔屋上からの男の転落死と、その後やはり大聖堂で起きた浮浪者の謎の死。二人の共通点は、死の前にシャガールのステンドグラスを見ていたこと。

薀蓄満載で、カタカナ語句をすべてルビ付き漢字で表記した作中作は、なぜか読みにくくはなかった。むしろスムーズに読むことができ、そのせいもあってか、自ら謎解きを試みることなく解決編へと突入してしまっていた。
ともすれば、くどすぎる薀蓄や凝った文章を見て嫌味なやつ、独善的なやつ、なんて思うものだが、まったくそんなことはなかった。本作品と本作者を、かなり好意的に見ることができた。
結局、トリックがよかったからなのか。いやそれだけではないはず。とにかく、かなり異端に見えて、実は(個人的好みにもとづく)正統派本格ミステリーであり、(個人的好みにもとづく)調和のとれた非の打ち所のない作品でもあった。
伏線は申し分なし。舞台設定や小道具の多くがトリックや謎解きに結びついているのはほんとうに素晴らしい。それに、「読者が被害者」も遊び心があっていい。

ちょっと褒めすぎ?
あえて難を挙げるなら、登場人物のうちのアノ人がキーパーソンではなかったことが物足りないということぐらいか。
『楽園のカンヴァス』でピカソ絡みのミステリーを読み(ただしピカソは脇役)、本作ではシャガール絡みのものを読んだ。
ピカソ、シャガールとくれば、つぎはミロかな。

No.5 4点 蟷螂の斧
(2011/10/27 08:45登録)
題名に魅かれましたが、ランス大聖堂についての講義とカタカナを漢字で表記することが主で、ミステリーは付け足しのような気がしました。二つの謎の死もバラバラで、ミステリー度の点からは?マークがつきます。動機も最近の海外ミステリーで多く扱われるもので、あまり好きではありません。

No.4 8点 abc1
(2011/01/09 16:14登録)
字面を含めた文章が美しく、大トリックも炸裂していたので普通に面白かった。裏の構成とか関係なしに読んで充分傑作の部類に入ると思う。

No.3 5点 江守森江
(2010/07/10 12:43登録)
※要注意!
ネタバレ御免!
後半早々に明かされる「読者を被害者」にする作中作の読み辛い試みで隠蔽した毒殺?トリック。
賭博漫画・カイジの鉄骨渡り&高木彬光「わが一高時代の犯罪」の合わせ技な密室状況下での転落死トリック。
さらには犯人の動機まで、本格ミステリ部分は(伏線とその回収が上手い分より一層)小粒な寄せ集め作品としか思えなかった。
一方で、題材の好き嫌いは別にして芸術論と蘊蓄は相変わらず読ませる。
しかし、この作品の肝は結末後の遺品の走り書きから、読者が副題「シャガールの黙示」に込められた作者の意図(構図と事件を絡めた作者自身の縛り)に到達するかどうか?だろう。
#「本格ミステリー・ワールド2010」の自作解説で「気付かれなければ半年後にでもネットで公表するつもりだった(イジワルより独り善がりで不親切)が、早々とネット書評に書き込まれた」と語っていた#
マニア受けしそうな試行で、実際に一部では絶賛されているが、裏の意図に気付いても何ら楽しさは増さなかった。
私的にはメタな部分での単なる作者の自己満足としか思えずゲンナリした。
気付かずスルーした読者は次に手が出なくなる(一般読者には意図も含めた自作解説を袋綴じで付す親切心が必要)
前作の書評でも書いた大成(大衆受け)を阻む欠点が色濃く出ている。
国語や文学の勉強でミステリを読んでいる訳ではないので、読み巧者である事を求められたら楽しさは減じる。

No.2 7点 makomako
(2010/03/22 10:40登録)
 作者らしい斬新なトリックときちんとした伏線がちりばめられたなかなかのお話。当て字の感じがやたら多くこれがこの話のひとつの要素でもあるが気を入れてまともに読んでいると作者が意図した?読者が被害者となりかねない。私だけかもしれないが欧米の名前を漢字で書いてそれをルビで読むとどうも印象が残りにくく、登場人物が多くないのにどの人物だったかがよく分からなくなって時々読み返す必要があった(これも作者の狙いかもしれない)。
 作者はヨーロッパの芸術や文化に深い教養と理解があるようで今回は教会がテーマ。前作のイタリアオペラよりはまだましだが教会は苦手のほう。ヨーロッパを回るとどの国にも町ごとに自慢の教会があり、途方もない労力をかけて建てた陰鬱でごてごての(失礼!)ところへ必ず案内される。キリスト教徒でない私などは日本の寺院のほうがはるかに美しく見えるのだが。作者のようなヨーロッパに対する理解の深い人にはやはり特別なものなのだろう。教会の話と分かりにくい文章が減点だがそれでも楽しませるだけの力量には感服。

No.1 10点 yoshi
(2010/02/01 14:19登録)
独特の美しい文章に酔いしれながら読了しました。大技の
トリックも面白かったし、証拠もフェアに呈示されていることに感心しました(個人的には天使の正体がツボでした)。
純粋にミステリとしても8点くらいつけられると思いましたが、その後書評サイトをめぐってみて愕然。そんな趣向が隠されていたとは・・・。脱帽です。

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