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平均点:6.01点 | 書評数:1812件 |
No.1252 | 6点 | ヒポクラテスの誓い 中山七里 |
(2016/07/16 22:55登録) 2015年発表の連作短篇集。 ~浦和医大法医学教室に「試用期間」として入った研修医の栂野真琴。彼女を出迎えたのは偏屈物の法医学の権威、光崎教授と死体好きの外国人准教授キャシーだった。迫真の法医学ミステリー~ ①「生者と死者」=何だかE.クイーンの某長編を思い出させるタイトル。連作の初っ端ということで、キャラクターの紹介やら本作の流れが示される。一見すると泥酔の末凍死したとしか思えない死体なのだが・・・光崎は真実を看破する。 ②「加害者と被害者」=いつでも安全運転を行っていた男が起こした衝突事故。一見すると単なる交通事故にしか思えない事件なのだが、あるひとつの事実が光崎を解剖へと駆り立てる・・・ ③「監察医と法医学者」=競艇のレース中に突如起こった激突事故。被害者は頭部を損傷しており、明らかな事故だと思われたが・・・。でも、もしそうなら日常生活のなかで家族は気づくはずではないかと思うんだけど・・・ ④「母と娘」=病に犯されている真琴の親友と看病疲れが酷い母親・・・。快方に向かっていると思われた矢先、突如訪れた親友の死。法医学者としての姿勢を試されることになった真琴。こういう病気(?)があることは知らなかったな! ⑤「背約と誓約」=連作のシメとなる本編。真琴が以前担当だったひとりの少女が突然死に至る(また?)。一見すると腹膜炎としか思えなかったのだが、ある事実より真琴が疑問を持つ。そして判明する黒く重い事実と光崎の想い。 以上5編。 これは・・・すぐにでもドラマ化されそうだなと思ってたら、すでにWOWWOWで進行中とのこと。(やっぱり!!) 最近はやりだもんなぁー、この手のドラマ!(土曜ワイド劇場とかテレビ朝日が多そう) まぁ旨いもんですよ。作者も。 短篇、更には連作短編の要諦をよく理解して書かれていると思う。 でもそれこそが弱点かな。 既視感ありありだし、計算し尽くした感もちょっと鼻につく感じだ。 この「旨さ」はやっぱり素材の旨さというよりは、調味料や添加物の旨さのような気がする。 (よく分からん表現ですが・・・) ただ、旨いのは間違いないですから・・・お間違えなく。 (死因究明というと、どうしても海堂氏のバチスタシリーズを思い出してしまう。本作では只管解剖に拘っているが、同シリーズではAiの導入が声高に叫ばれていた。ふたりの主張は矛盾はしていないようだけど・・・) |
No.1251 | 5点 | どもりの主教 E・S・ガードナー |
(2016/07/16 22:54登録) 1936年発表。 お馴染みペリィ・メイスンシリーズの長編九作目に当たるのがコレ。 ~ペリィ・メイスンの事務所にやってきてシドニーの主教マロリイと名乗った男は“どもり”だった。男はどもりながら、彼の二十二年前の重過失致死事件の弁護を引き受けてくれるかと頼むのだった。相手は名にしおう百万長者のレンヴォルド家だった。興味を覚えたメイスンは、主教を帰すと私立探偵ドレイクに命じてすぐにホテルまで尾行させたたのだが・・・。結果はメイスンが案じたとおりだった。ホテルに戻った主教は、部屋で待ち伏せていた赤毛の娘に頭を殴られて気を失っていたのだ!~ 巻末解説者によると、本作はガードナーが最も脂の乗った頃の作品とのこと。 うーん。確かにそういう感触はある。 筆が乗っているというか、酔っているというか・・・(?) メイスンもデラ・ストリートも大はしゃぎに大はしゃぎだし・・・ でも正直なとこ、プロットが錯綜していてよく分からなかった、というのが本音。 “つかみ”はいいと思うんだよね メイスンが事件に引き込まれて、渦中に飛び込んでいくところまでは実にスムーズ。 ただ中盤からがイケない。 他の方も触れられてましたが、複雑にしすぎたために不自然というか無理矢理感がどうしても強くなってしまった。 動機も結局よく分からなかったし・・・ まぁシリーズファンにとっては、いつものようにメイスンが八面六臂の活躍をして、大団円に終わるのが堪えられないのだろう。 ファンでない私にとってはあまり楽しい時間とは言えなかったが・・・ しばらくは読まないかな・・・多分。 |
No.1250 | 4点 | 将棋殺人事件 竹本健治 |
(2016/07/16 22:52登録) 1981年発表。 「囲碁」「トランプ」と並び、牧場智久を探偵役とするゲームシリーズのひとつに数えられる作品。 ~駿河湾沖を震源とする大規模な地震が発生し、各地に被害をもたらすなか、土砂崩れの中から二つの屍体が発見された。六本木界隈に蔓延する奇妙な噂=「恐怖の問題」をなぞったかのような状況に興味を覚え、天才少年・牧場智久は噂の原型と発生源を調べ始めるのだが・・・。すべてが五里霧中の展開に眩暈を覚える異様な長編~ まさに蜃気楼のような作品だった。 つかめそうで、つかもうとするとするりと逃げていくような感覚・・・ いろいろな謎や奇妙な現象がそこかしこにばら蒔かれていて、普通のミステリーならば、ストーリーの進展に伴ってそれらが徐々に回収・整理されて、最終的には収束していく・・・ のだが、本作はそれがないまま進められていくのだ。 終章は「収束」というサブタイトルがつけられていて、探偵役(牧場ではなく須堂が看破するのだが・・・)が一応筋道立てた解決を示しはする。 示しはするのだけど・・・これって全然納得できないんですけど! この解法なら正直なんでもありだと思ってしまう。 まぁ本作にまっとうなミステリーの考え方を当て嵌めるのもどうかとは思うけど、私のような小市民的ミステリーファンにはモヤモヤ感しか残らないんだから仕方がない。 将棋、特に詰将棋に関する薀蓄はかなりのページを割かれている。 将棋に興味のない方にはツライ読書になる可能性が大なのでご注意を! 評価はなぁ・・・高くはできないな、当然。 (これだけの詰将棋なら芸術の域に達しているのは確か) |
No.1249 | 7点 | 女王国の城 有栖川有栖 |
(2016/07/08 23:09登録) 「双頭の悪魔」(1992)以来、久し振りの江神&学生・アリスシリーズ第四弾。 およそ十五年の歳月を経て発表された本作は文庫版で上下分冊の大容量! 第八回の本格ミステリー大賞にも輝いた、2007年発表の大長編。 ~舞台は目覚しい成長を遂げる宗教団体「人類協会」の聖地・神倉。大学に姿を見せない部長を案じて、推理小説研究会の後輩アリスは江神二郎の下宿を訪れる。室内には神倉に向かったと思しき痕跡。アリスとマリア、そして望月・織田までもが同調し、四人は木曽路を浸走ることに。「城」と呼ばれる総本部で江神の安否は確認できたものの、思いがけず殺人事件に遭遇。外界との接触を拒まれ囚われの身となった一行は決死の脱出と真相究明を試みるが、その間にも事件は続発する・・・~ いやぁー結構長かった!! 他の多くの方も触れているけど、これは確かに「無駄に」長いという表現が当たってるようにも思えた。 特に中盤! 直接本筋には関係のない脇道がかなり多い! 四人の脱出劇も、いくらエンタメ的趣向とはいえ、ここまでのボリュームが必要かと言いたくなってしまう。 (結局、尻つぼみに終わってしまうんだもんねぇ・・・) 「双頭の悪魔」や「孤島パズル」との比較を書評上で書かれている方も多いけど、「うーーん」確かに、まとまりとかストーリーテリングという観点からなら前二作の方に軍配を上げたくなる。 という訳でまずは否定的な意見から・・・ で、本筋なのだが、 さすがに真相解明でのロジックはよく練られている。特に「銃」に関するロジックは秀逸。 ①「銃声」がアリバイトリックと密接に絡む点、②厳重なクローズド・サークル内への銃の持ち込まれ方、③過去の事件と現在の事件との関連性、などなど伏線が見事なまでに回収されていく手腕は、作者の集大成といっても過言ではないだろう。 十数名を超える容疑者から真犯人が消去法で炙り出されていくカタルシス! これこそが本格ミステリーの醍醐味に違いない。 「宗教団体」や「城」という舞台も単なるこけおどしではなく、必要性はあったんだなと終章で納得(一応)。 ということで、シリーズファンにはやはり堪えられない読書だったんだろう。 ただ、冷静な目線で見ると、やっぱり前二作よりは劣るという評価は変えられない。 次作がシリーズラストということで、期待せずにはいられないよね・・・やっぱり! |
No.1248 | 7点 | 十日間の不思議 エラリイ・クイーン |
(2016/07/08 23:08登録) 「災厄の町」「フォックス家の殺人」に続く、架空の街・ライツヴィルを舞台としたシリーズ三作目。 1948年発表の大作。 ~血まみれの姿でクイーンのもとを訪れた旧友のハワードは、家を出てから十九日間完全に記憶を失っていたという。無意識のうちに殺人を犯したかもしれないので、ライツヴィルへ同行してほしいと彼はエラリイに懇願した。しかし、エラリイが着くのも待たず、不吉な事件は幕を開けた。正体不明の男から二万五千ドルでハワードの秘密を買えという脅迫電話がかかってきたのだ! 三たびライツヴィルで起こった怪事件の真相とは?~ 確かに、これは賛否両論に分かれるだろうし、読み手を選ぶ作品だろうと感じる。 クイーンといえば何といっても初期の「国名シリーズ」と思われる方にとって、本作は何とも形容のし難い作品なのだと思う。 脅迫事件こそ割と早い段階で起こるものの、殺人事件は終盤に差し掛かったことにようやく発生。 おまけにその犯人は明明白白な状況・・・といった具合。 これではロジックもトリックもあったものではない。 他の諸作に比べても著しく少ない登場人物。 エラリイ以外にはほぼ四人の登場人物だけにスポットライトが当てられるのだから、人間ドラマ的な色合いが濃くなるのは必然だろう。 そして本作のプロットの中心or根幹ともなるのが、終章の「十日目」。 エラリイの推理で一旦終結したはずの事件が、更なる奥深い暗黒を見せる刹那。 これは重い! あまりに重い真相だ。 ラストも何とも悲劇的だし、救いがない。 ハヤカワ文庫版の鮎川御大の解説に関しては、他の方も触れているとおりなのだが・・・ (ネタバレはご愛嬌か?) クイーンらしからぬアンフェアな表現に対して辛辣な評価をしているをはじめ、本作が氏の好みでないであろうことが、筆致の端々に表れているのが興味深い。本作と宗教の関連についても慧眼。 そういうわけで評価は難しいな・・・ 正直、最初は「なんじゃこりゃ?」っていう感想だったのだが、結構後からジワジワきた作品だった。 並みの作家がこんなプロットで書いたら、まず読めたものではないだろうし、それだけ作者の力量が卓越しているということなのだろう。 好みか?と聞かれれば、決してそうではないんだけどね。 |
No.1247 | 4点 | タルト・タタンの夢 近藤史恵 |
(2016/07/08 23:06登録) 2003年より不定期に「ミステリーズ」誌で連載されたものをまとめた作品集。 下町にあるフレンチレストラン“ビストロ・パ・マル”を舞台に繰り広げられる日常の謎とは・・・? いかにも東京創元社らしい連作短篇集。 ①「タルト・タタンの夢」=“タルト・タタン”とはその名のとおり「リンゴのタルト」、いわゆる焼菓子。女性歌劇団(宝塚っぽい感じ)で人気の男役の女性をめぐる鞘当に店が巻き込まれることに・・・ ②「ロニョン・ド・ボーの決意」=“ロニョン・ド・ボー”とは子牛の腎臓をいろいろと加工した(!?)料理(かなり手間のかかるやつらしい)。愛人の地位から抜け出そうとした女性がシェフ三舟とぶつかることに・・・ ③「ガレッド・デ・ロアの秘密」=“ガレッド・デ・ロア”はフランスではキリスト教のお祭りで食べられるお菓子。中にフェーブという陶器の人形を入れ、切り分けたときそのフェーブに当たった人が王様になれるという風習がある(とのこと)。いつも三舟を助ける志村と妻・麻美、そしてガレッド・デ・ロアをめぐる物語が・・・ ④「オッソ・イラティをめぐる不和」=“オッソ・イラティ”とは仏・バスク地方で食されるハード・チーズのこと。突然妻に出て行かれた夫に降りかかる、ハード・チーズとブルーベリージャムの謎とは? ⑤「理不尽な酔っ払い」=ここにきて何とも勇ましいタイトルが登場。ビストロの近所で和菓子屋を営む主人が高校生時代に遭遇した不思議な事件がテーマ。でもアレをアアしたら、色が変わらないのだろうか? ⑥「ぬけがらのカスレ」=“カスレ”はフランスではメジャーな料理らしい(詳しく書くと長いので割愛!)。今回は、フランスにいた頃の恋人とカスレにまつわる思い出をシェフ三舟が解き明かす一編。 ⑦「割り切れないチョコレート」=“チョコレート”とは・・・って、おいおいそりゃ誰でも分かるよ! 今回は客として訪れた新進気鋭のショコラ・ティエをめぐる物語。でもこの推理って本当か?? かなり適当な気がするのは私だけだろうか? 以上7編。 フレンチにはまったく疎い私なので、いい勉強になりました。 たまには仕事の帰りにうまいビストロに寄って、ワインでも開けてこようかな・・・何て思ってしまいました。 それにしてもデセールもうまそう!! って、本筋はどうなの!!って聞かれそうですが・・・ まぁいいじゃないですか。そんなことは。 結局、シェフ三舟のちょっとばかり鋭い予想でしかないのですから・・・ |
No.1246 | 5点 | ディーン牧師の事件簿 ハル・ホワイト |
(2016/06/25 21:54登録) 2008年発表。 作者の処女作品にして、引退した牧師・サディアス=ディーンを探偵役とした連作短篇集。 “不可能犯罪てんこ盛り”ってどっかで聞いたセリフだな・・・ ①「足跡のない連続殺人」=一家を襲う連続殺人鬼。しかも、殺人現場はすべて足跡のない密室状況! っていう設定なんだけど、密室の解法が今ひとつ目に浮かばないのが難点。真犯人の特性を使っているのが旨いと取るかは非常に微妙。いずれにしろ短編で使うプロットではない。 ②「四階から消えた狙撃者」=ディーン牧師の目の前で、向かい側の建物から狙撃された男。犯人は一見すると仲違いしていた恋人のようだが、その恋人も死体で見つかって・・・という展開。不可能趣味も化けの皮を一つ一つ剥がすとこうなる、という解法はいいのだが、そもそもこういう設定時代にかなり無理がある。フーダニットはもはや自明。 ③「不吉なカリブ海クルーズ」=これも②と同種のプロットの応用。不可能状況を一つ一つ積み重ねました、っていう奴。つまりは「なんでこんなことやるの?」という感想になる。フーダニットはもはや自明。 ④「聖餐式の予告殺人」=これはなかなか旨いと素直に思った一編。毒殺トリックはよくある手といえばそうなのだが、シンプルなだけにうまく嵌っているし、他編のような無理矢理感がないのが良い。真犯人の悪意に憤る牧師の姿も好ましい。フーダニットは自明だが・・・ ⑤「血の気の多い密室」=またしても密室なのだが、これは果たしてトリックと呼べるのか? 堂々と真犯人が鍵を締めたのだから・・・(ネタバレ?) 窓の鍵の締め方もかなり大雑把。 ⑥「ガレージ密室の謎」=これはバカミス? まさかアレをアソコに入れて死亡推定時刻をごまかすなんて・・・。いやはや、その発想はある意味スゴイ。これまたフーダニットは自明。密室は添え物。 以上6編。 他の方が指摘しているように、本作を読んでるとE.Dホックの「サム・ホーソーン」シリーズを想起せざるを得ない。 (これだけ密室、密室って不可能趣味を煽るんだから) でも完成度からするとホックには遠く及ばない気がする。 何しろ設定の無理矢理感が強すぎ。、まぁ仕方の無いことだけども、ここまでトリックのためのトリックという風合いが出ると、どうしても鼻についてしまうのだ。 でも心意気自体は買いたいかな。そうやってフォローしておこう。 (ベストはシンプル・イズ・ベストの④) |
No.1245 | 6点 | 月は幽咽のデバイス 森博嗣 |
(2016/06/25 21:53登録) 「黒猫の三角」「人形式モナリザ」に続くVシリーズの第三弾。 2000年発表の長編。 ~薔薇屋敷或いは月夜邸と呼ばれているその屋敷には、オオカミ男が出るという奇妙な噂があった。瀬在丸紅子たちが出席したパーティーの最中、衣服も引き裂かれた凄惨な死体が、オーディオ・ルームで発見された。現場は内側から施錠された密室で、床一面に血が飛散していた。紅子が看破した事件の意外な真相とは?~ これまた強烈な“変化球”本格ミステリーである。 当然ながら、作品ごとの出来不出来や若干のレベル差はあるけど、ここまで引き出しの多い作家は非常に稀だと思う。 今回もやはり登場する「密室」。 ただし、これがクセもの! そして、密室の謎に添えられた“こぼれた水”の謎がまたクセものである。 読み返してみると、案外分かりやすいヒントが散りばめられているなぁーと気付く。 例えば、床の凹み然り、現場に落ちていた“毛”然り・・・ ただし、真相がここまでアクロバティックなものだとはなかなか踏み込めなかった。 (終章までで何となく方向性は勘付いていたが・・・) 紅子の解説はまるで中学校の化学(理科か?)の授業のようだった。 前から思ってたけど、このVシリーズって、このレギュラーメンバー全員登場させる意味はあるのか? 少なくとも小鳥遊や香具山のサイドストーリーなどはいらないなぁと思ってしまうのだが・・・ 相変わらず保呂草は胡散臭いし、紅子VS夕夏の争いもしつこく書かれてるし・・・ 何か、本筋部分は今回かなり薄味というか、少量だったように思うのは私だけだろうか? それでもまぁ十分水準級での評価できる。 なかなか真似できないアイデアだしね。 |
No.1244 | 4点 | 盗作・高校殺人事件 辻真先 |
(2016/06/25 21:52登録) 「仮題・中学殺人事件」に続く、“スーパー&ポテト”シリーズの二作目。 今回も前作に引き続き“凝った”プロットが仕掛けられている模様。 1976年発表。 ~新宿駅の九番線ホームで電車を待っていた牧薩次の後ろで鈍い爆音とともに売店から黒煙があがった。パニック状態になった群衆は階段に殺到し、折り重なって転落した。病院に担ぎ込まれた薩次は同室の若い被害者ふたりと意気投合し、その中のひとり、三原恭助の実家の温泉旅館にそれぞれのカップルで出掛けることになった。だが、そこで密室殺人事件に巻き込まれることになる・・・~ 刊行当時、本作の帯に謳われていたのは、 『作者は、被害者です。作者は、犯人です。作者は、探偵です。この作品はそんな推理小説です』という言葉。 前作(「仮題・中学殺人事件」)では、読者=犯人という趣向に取り組んだ作者だったが、今回は更に難度が増したこととなる。 ただ、正直言って前作のトリック&プロットもかなり微妙だったし、無理矢理感たっぷりだった。 (読者=犯人というと、深水黎一郎の「ウルチモ・トルッコ・・・」の方が数段マシだった気が・・・) で、本作なのだが・・・予想どおりの微妙さ。 タイトルからして堂々と「盗作」と謳っているし、途中の「幕間」パートで「作中作」っぽい仕掛けが見え隠れしている。 残りページが少なくなるなか、いったいこれをどんな具合に収束させるかという不安がよぎるのだが・・・ 「なんじゃこりゃ?」というラストに突入することになる。 ちょっと表現しづらいけど、「分かりにくいし、小手先」という感じか? 密室トリックも二種類登場するけど、同様に「分かりにくいし、小手先」。 ちょっと辛い評価をしてしまっているけど、時代性も含めれば致し方ないのかも。 こういう“凝った”仕掛けにチャレンジすること自体を評価すべきなのだろう。 でも、面白いか面白くないかという二者択一なら、「面白くない」方に軍配を上げざるを得ない。 (実家がスーパーを経営しているからあだ名が「スーパー」って・・・安易すぎだろ!) |
No.1243 | 8点 | 縞模様の霊柩車 ロス・マクドナルド |
(2016/06/19 18:04登録) 1962年発表。 作者十六番目の長編にして、もちろんリュウ・アーチャー登場作品。 ~幼くして実母に捨てられたハリエットは、いつか孤独で放縦な性格を身につけた女性になっていた。そして、二十五歳になり五十万ドルにのぼる叔母の遺産を自由にできる今となっては、誰も彼女の行動を抑えられなかった。そんな彼女が突然、メキシコから得体の知れない男を連れ帰った。財産目当てのプレイボーイか? 彼女の父と義母の不安は募った。男の身元調査を依頼されたアーチャーは、早速調査を開始した。しかし、車をとばす道中で行き交わした縞模様の霊柩車は、アーチャーの眼にただならぬ悲劇の前兆として映った!~ これは想像以上の傑作だった。 他の方も触れているように、本作は作者の代表作として名高い二作品(「ウィチャリー家の女」と「さむけ」)のちょうど間に挟まって発表された作品。 どうしてもロス・マクというと、かの二作品が有名すぎて、本作はコアなファン以外は“知る人ぞ知る”といった程度になってしまう。 でもまぁよく考えれば、まさに作者の絶頂期とも言える時期なんだよね。 アーチャーの造形やキャラクターも定着し、プロットも十分に練り込まれている。 これなら作者の「ベスト3」と呼んでも差し支えないだろう。 で、肝心の中身なのだが・・・ 正直なところ、中盤まではちょっとかったるいというか、方向性の定まらないような展開でやきもきさせられる。 ところが、“ボタンの取れたコート”という重要な証拠物件が発見される終盤以降は一転。 事件の構図は突然読者の前にくっきりと浮かび上がってくるのだ。 更には、「コイツって悪人だよなぁ・・・」と読者に思わせといて、最後にひっくり返しと悲劇が待ち受けるラスト。 うーん。やっぱりさすがとしか言いようがない。 何より、本作は登場人物ひとりひとりの書き込みが素晴らしい。 ハリエットやマークといった主要な登場人物以外の脇役でさえ、何とも言えない“渋み”を備えて描かれている。 それもこれもリュウ・アーチャーという探偵の存在に負うところなのだろうけど、何とも物悲しい、切々としたストーリーに実に嵌っている。 高評価せざるを得ないよなぁ・・・ (「縞模様の霊柩車」を乗り回す若者って・・・どんな奴?) |
No.1242 | 5点 | 残り全部バケーション 伊坂幸太郎 |
(2016/06/19 18:03登録) 2008年以降、段階的に発表されてきた物語に書き下ろしを加えて発表された作品。 溝口と岡田という魅力的な“裏稼業コンビ”が大活躍(?)する連作短篇集。 ①「残り全部バケーション」=離婚が決定した夫婦と娘の元にもたらされた一通のメール。それが風変わりなドライブの始まりだった・・・ということで、すでに読者は伊坂ワールドへ誘われることになる。 ②「タキオン作戦」=二番目にして連作中最も重要(かもしれない)エピソードが描かれる本編。父親に虐待されている少年を助けるために岡田の取った行動と、それに纏わる溝口やら他の面々のエトセトラ、etc・・・。タイムマシーンの話題も登場して何となくSFっぽい作りにはなっている。 ③「検問」=冒頭からまずは「おやぁ?」という疑問が浮かぶ展開。溝口のパートナーが岡田から謎の男“太田”にチェンジされている! でもそこのところの説明は一切なく、物語は進んでいく。警官が検問で見逃した理由は結局なんだったの? ④「小さな兵隊」=一転して岡田の少年時代が描かれる本編。岡田の友人である「ボク」視点で物語は進行していくのだが、岡田よりもボクの周辺の人物の方が面白いのはどうか? ⑤「飛べても8分」=単行本化に当たって書き下ろされた一編。ということは、連作のオチがつけられるのだろうと思いながら読み進めていくわけなのだが・・・。溝口の“謀ごと”はかなり大雑把だし、ラストも唐突に終了。 以上5編。 相変わらずの“伊坂ワールド”で、安定感抜群という感じだ。 溝口&岡田のキャラもなかなか良い。 本作はちょっと不満かな・・・ もちろん旨いのだが、ちょっと小手先が目立つというか、締め切りに追われて脱稿しました感が強い。 悪く言えば、これまで出てきたキャラクターを焼き直して、プロットを若干いじって登場させました・・・とも思えるし、「ラッシュライフ」やら「グラスホッパー」やら「陽気なギャング・・・」なんかのエッセンスを混ぜましたという印象が拭えないのだ。 (あくまでも印象ですが・・・) 確かに軽~い読書には適しているかもしれないが、あまり期待すると裏切られるよ。 でもまぁ繰り返し書くけど、この人天才だと思う。 |
No.1241 | 5点 | 微笑む人 貫井徳郎 |
(2016/06/19 18:01登録) 2012年発表。ノンシリーズの長編。 個人的に久々に作者の作品を手に取った・・・ということで、どうでしょうか?(何が?) ~エリート銀行員の仁藤俊実が、「本が増えて家が手狭になった」という理由で妻子を殺害。小説家の「私」は、事件をノンフィクションにまとめるべく取材を始めた。「いい人」と評される仁藤だが、過去に遡るとその周辺で不審死を遂げた人物が他にもいることが判明し・・・。戦慄のラストに驚愕必至! ミステリーの常識を超えた衝撃作!~ 作者の“狙い”は結局何だったんだろうか? ラストまで読了し、そう思わずにはいられなかった。 ネタバレみたいになるけど、本作にはいわゆる「解決編」はない。 紹介文のとおり、序盤から読者には魅力的な謎が提示されるのだが、最後まで明確な回答は示されず、あろうことか終盤になってさらに謎が積み重ねられて、そのまま終了してしまうのだ! 確かに「ミステリーの常識を超えた」作品なのかもしれないが、やっぱり何とも言えない残尿感は残ってしまった(汚い表現で申し訳ない!)。 プロットとしては特に目新しいものではない。 ノンフィクションライターがサイコっぽい犯罪者の跡を追いかけていくうちに更なる犯罪の影が・・・なんていうと、個人的には折原の「~者シリーズ」を思い出してしまう。 叙述的な仕掛けを企図するともろに被りそうだし、ホワイダニットをメインにするほど面白いネタではないし・・・ というわけで出てきたのが本作なのだろうか? こういう系統のプロットは嫌いでないだけに、もう少しやり方があったんじゃないかと思ってしまう。 ミステリーファンの哀しい性(さが)で、ドンデン返しを期待しすぎるのもいけないのかもしれない。 これはこれで余韻というか、何とも言えない残尿感を楽しむべきなのだろう。 でもあまり高い評価にはならないな。 |
No.1240 | 5点 | 魔術師を探せ! ランドル・ギャレット |
(2016/06/10 22:15登録) ~英仏帝国による統治が長く続き、科学的魔術が発達した世界。たぐいまれな推理力を持つ捜査官ダーシー卿と上級魔術師ショーンは彼らでないと解決できない特殊な事件の捜査に当たっていた。架空の欧州を舞台にした名作本格ミステリー~ というわけで、1964~65年にかけ、長編「魔術師が多すぎる」に先んじて書かれた連作短篇。 ①「その眼は見た」=このなかで一番本格ミステリーっぽい作品がコレだろう。ラストは意外な真犯人が指摘されるというプロットなのだが、捜査過程にショーンの「魔術」が使われるというのが本シリーズの特徴。 ②「シェルブールの呪い」=他の方も書かれているとおり、謎解きミステリーというよりは“スパイ謀略もの”に近い作品になっている。帝国VSポーランド王国という図式が本シリーズを貫く背景ということで、特に終盤はサスペンス感のある展開。 ③「青い死体」=亡くなった侯爵を収めるはずだった棺を開けてみると、すでに死体が入っていた。しかも、その体は全身青く染まっていた・・・という幕開けが印象的な三作目。途中まではダーシーとショーンコンビの捜査がテンポよく進んでいくのだが、途中からちょっとややこしくなってきて、分かりにくい展開になったような・・・ 以上3編。 冒頭の紹介文のとおり、本作は『魔術が使われる世界』という特殊な舞台設定が特徴。 時代設定としては、てっきり中世なのだろうと思っていたけど、文中には1960年代という表記があるため何か違和感を覚えてしまう。 で、問題の「魔術」なのだが、確かに捜査過程や犯罪の一要素として出てくることは出てくるのだが・・・ あまり関係ないかな? それがトリックやロジックに有機的に関わっているということではないし、極論すれば“単なる舞台設定or世界観”ということになる。 個人的に好みかと問われると、「かなり微妙・・・」という感じ。 (続編としての長編を読めば、また評価も違ってくるかもしれないが・・・) たまには毛色の変わった作品を読みたいという向きにはいいのかもしれない。 (「折れた竜骨」とは確かに世界観が似ている・・・かな?) |
No.1239 | 8点 | 奇面館の殺人 綾辻行人 |
(2016/06/10 22:14登録) 「暗黒館」(2004)以来、久々の「館シリーズ」(番外編的な「びっくり館」を除く)ということで、ファン待望の作品だったに違いない。 全十作を予定している(らしい)シリーズもついに九作目。 2012年発表の大作をようやく今回読了。 (別にもったいぶったわけでもないんですけど・・・) ~奇面館主人・影山逸史が主催する奇妙な集い。招待された客人たちは、全員奇面館に伝わる「鍵のかかる仮面」で顔を隠さなければならないのだ。季節はずれの大雪で館が孤立するなか、<奇面の間>で勃発する血みどろの惨劇。発見された死体からは何故か、頭部と両手の指が消えていた! 大人気「館シリーズ」待望の新作~ これはファンには堪えられない作品だろうなぁ・・・ 特に前作(「暗黒館」)がああいうファンタジックというか、えらく重い作品だっただけに、今回遊び心というか、いい意味で“軽く”、「パズラー」に徹したプロットはまさに原点回帰という言葉が相応しい。 作者あとがきにもそういうニュアンスの言葉が書かれていて、齢五十歳を超え、円熟期に入ったともいえる作者でも、こんな“若々しい”作品が書けるんだなぁと改めて感心した次第。 で中味なのだが・・・ 謎の中心は、探偵役の鹿谷が途中で指摘するように、①仮面に施錠がされたこと、②被害者の首&指切り、③関係者全員が睡眠薬で眠らされたこと、の三点。 ③については「館」シリーズならではの解法であり、最初からニヤリ。①②は有機的に繋がっているのだが、「被害者の入れ替わり」という当然想定される仕掛けを逆手に取った解法がニクイ!(ネタバレっぽいが・・・) 恐らく②に関する仕掛けから本作のプロットが広がっていったのだろうと推察するけど、こういうことを考えていく過程こそが、ミステリー作家としての醍醐味なんだろうな。 これが作り物っぽいと言う方に本作は合わないし、ここは徹底的に作者の遊び心に付き合うべきだろう。 エピローグの蛇足感については、他の方もいろいろと触れられているけど、設定の無理矢理感を少しでも和らげるための「オチ」ということなのかな? こんな奴が日本に○人もいるのか、という大いなる疑問はさておき、2016年の現在でこういう作品を楽しめることに敬意を表したい。 いよいよ次作がラストとなるのか? はたまた・・・? 評価はこんなもんだろう。 |
No.1238 | 6点 | 死者は黄泉が得る 西澤保彦 |
(2016/06/10 22:13登録) 1997年発表のノン・シリーズ長編。 作者としては八番目の長編作品となる本作は、お得意の特殊設定下のSF本格ミステリー(?) ~死者を蘇らせる装置のある謎の館。そこには“生ける屍”と化した女性たちが、生前の記憶をいっさい失ったまま、仲間を増やしながら生活していた。一方、その隣町では、美女をめぐる不可解な連続殺人事件が・・・。犯人の狙いとは? そして事件と生ける屍たちの関係とは? 意外なラストは他言無用、奇手妙手を尽くした本格ミステリー~ やっぱり変な作家だな!・・・って思ってしまった。 「七回死んだ男」や「人格転移の殺人」、「瞬間移動死体」などと同様、現実にはありえない超特殊設定状況での謎解きプロットの本作。 本作では「生前」と「死後」のパートが交互に語られていく展開。 そこには当然、作者の強烈な「仕掛け」が企図されている。 ただ、分かりにくいよなぁ・・・ 特に「死後」のパートは、ラストの種明かしまで、何を表しているのか、何を言いたいのか、さっぱり分からないまま進行していく。 もちろん終章では本作の「からくり」が開陳され、読者も「なるほど」と思うようにはなっているけど・・・ ここまで大掛かりで、超特殊設定が必要なのかどうかは正直よく分からん! これを面白いと思うか、なんじゃこりゃと思うかは、もはや読み手次第だろう。 個人的にはどうかって? 「まぁ、ありかな・・・」っていう感じ。 本作は山口雅也氏の「生ける屍の死」へのオマージュとして書かれた作品。 作者あとがきには、「生ける屍・・・」へのただならぬ敬意が触れられているが、作者なりの「生ける屍」が本作ということなのだろう。 どちらが上ということもないけど、本作の場合、殺人事件のトリックorロジックに「生ける屍」がダイレクトにはつながっていない点が弱いかなとは思った。 でも、まぁいいんじゃない。こんなブッ飛んだプロットをひねり出せるのも一つの才能に違いない。 ラスト一行も“気が効いてる”。 (J.Dカーの「死者はよみがえる」とは特段関係なし) |
No.1237 | 6点 | 死者の長い列 ローレンス・ブロック |
(2016/06/04 20:09登録) 1994年発表。 マット・スカダーシリーズも重ねて第十二作目の長編ということなる。 原題“A Long Line of Dead Men” ~年に一度、秘密の会を催す男たちの集まり「三十一人の会」。はるか昔より会員の代替わりを繰り返しながら、現在の顔ぶれになったのは1961年。だが、それから三十二年後、メンバーの半数が相次いでこの世を去っていた。あまりに死亡率が高いことに不審を抱いた会員の依頼を受け、スカダーは調査を始めるが・・・。NYに暮らす都市生活者の孤独を描きながら、本格推理の要素を盛り込んだ傑作長編ミステリー~ 本作の特徴は紹介文のとおりで、ハードボイルドと本格ミステリーの融合・・・ということになる。 まず謎の提示が実に魅力的。 ある集団の半数以上が、実に長い年月をかけて死に至っている。ある者は事故で、ある者は自殺で、またある者は殺されて・・・ こんな大掛かりなプロットをいったいどのように収束させていくのだろうか? そこに期待は高まった! ただし、本格ミステリーと書いてはみたが、パズラー小説のように伏線がそこかしこに撒かれているわけではない。 フーダニットは唐突だし、真犯人にも正直なところ「こいつ誰だっけ?」と思う方が大半ではないか? そういう意味では、やはり今回も本シリーズらしく、作品の風合いというか、何とも言えない香気を楽しむべきなのだろう。 特に「動機」はなかなかぶっ飛んでいる。 っていうか、やっぱり私の小市民的価値観では理解不能だ。 人間ってこんなことで、ここまで長期間に亘る事件を企図するものなのだろうか? 我慢強さだけで言えば、あらゆるミステリーの犯人中最高レベルとも言えそう。 (最後はなかなか憐れだが・・・) まっでも、相変わらず安定感抜群のシリーズ。 今回、スカダーはついにエレインと結婚することとなる。 齢五十五にして、妙齢かつ才気溢れる妻を娶るとは・・・男として最高かもしれない。 実に羨ましい限り! 悔しいから評価は下げてやる!! (冗談) |
No.1236 | 5点 | ノックス・マシン 法月綸太郎 |
(2016/06/04 20:07登録) 2013年度の「このミス」第一位にも輝いた短篇集。 本格ミステリーをこよなく愛する(?)作者が書いたSF寄りの四篇(ということでいいのか?) ①「ノックス・マシン」=ノックスとは言うまでもなく、「ノックスの十戒」で有名なロナルド・A・ノックスなのだが、十戒の五番目『探偵小説には、中国人を登場させてはならない』とタイムトラベルを組み合わせた(?)サイケデリックなプロット。まっ、作者ほどのミステリー狂にしかできないお遊び・・・というところ。 ②「引き立て役倶楽部の陰謀」=ワトスン、ヘイスティングス、アーチー、ヴァン・ダインなど、お馴染みの引き立て役が一堂に会し、クリスティの「そして誰もいなくなった」に異議を唱える・・・という遊び心満載の一編。これも実にマニア向けというか、何ていうか・・・。読者を選ぶよなぁ・・・ ③「バベルの牢獄」=これは完全にSFなのだが・・・で、いったい何が言いたいのか?っていう感想にしかならない。でもこういう感想がそもそもおかしいのだろうな。 ④「論理蒸発-ノックス・マシン2」=①の続編。今度はE.クイーン国名シリーズ一の問題作「シャム双生児の謎」に『読者への挑戦』が挿入されていなかったこととタイムトラベルを組み合わせた(?)サイケデリックなプロット。これもまた作者のクイーン愛が爆発!とでも言いたくなる。 以上4編。 で、結局何が言いたいの? 以上書評終了! (でもいいのだけど)何がなんだか分からないうちに読了したわけなのだが・・・ これを「このミス」一位に押した方は本当にこれを理解したのだろうか? 「遊び心満載」なのはよく分かるんだけど・・・ 作者のノン・シリーズ作品集って割とこういう実験的なヤツが目につくよね・・・ こういう作品を出版させる版元もまずまずエライのかもしれない。 コレはこれでよしとしよう! |
No.1235 | 6点 | Rommy 歌野晶午 |
(2016/06/04 20:06登録) 1995年発表のノンシリーズ長編。 作者の作品としては、「信濃譲二シリーズ」終了後の充電期間を経て発表されたターニング・ポイントとしての位置付け(だそうです)。 当初の~そして歌声はのこった~からサブタイトルが変更された新装版で読了。 ~人気絶頂の歌手Rommy(ロミー)が、絞殺死体となって発見された。Rommyの音楽に惚れ込み、支え続けた中村がとる奇妙な行動の意味は? 一瞬目を離したすきに、Rommyの死体は何者かに切り刻まれ、奇妙な装飾が施されていた・・・。いったい誰が何のために? 天才歌手に隠された驚愕の真相とはなにか?~ 初期作品で読み残していた本作をようやく読了したわけなのだが・・・ なるほど これは“ターニング・ポイント”という表現が相応しいかもしれない。 明らかに「・・・家の殺人」のド本格とは違う肌触りのミステリー。 いかにも新本格というプロットで、若書きが目立った前三作と比べるとミステリー作家としての成長が窺える作品だろう。 プロットの根幹はある大技の「叙述系トリック」(という表現でいいのか?) この隠された大技が判明するラスト・・・すべてがガラガラと崩れていくカタストロフィを味わうことになる。 約二十年前の作品だし、まぁ今となっては分かりやすいネタと見る向きもあるかもしれないが、ひとつのミステリーを精緻に組み上げていくプロットとしてはよく出来ている部類だろう。 現在と過去を行きつ戻りつする構成の妙や、手記や歌詞などを駆使するなど、作者の持てるアイデアを詰め込んだ感もなかなか良いと思う。 ちょっと引っ張りすぎかなという気がするのが気がかりではあるが・・・ 中盤の冗長さを嫌がる方もいるかもしれない。 でもまずは水準以上の評価はできる。 実験的な作品でもあったと思うのだが、本作で自信を得た作者が、次作以降更なる飛躍を遂げたのだろうな・・・ (業界人の描写、書き方がちょっと陳腐かな・・・) |
No.1234 | 8点 | 歌うダイアモンド ヘレン・マクロイ |
(2016/05/23 23:06登録) ベイジル・ウィリング博士が登場する二編を含めた作者の傑作集。 SFなど本格ミステリーの範疇に収まらない作品をはじめ、実にヴァラエティに富んだ構成。 (原書にはない中編を併録。やるね、東京創元社!) ①「東洋趣味(シノワズリ)」=「EQMM」誌でも高い評価を得た短篇。世界大戦前の中国というキナ臭い舞台設定がまずは嵌っているし、何となく小粋な作品に仕上がっている。 ②「Q通り十番地」=SF分類の一作目。人工的な食物で覆われた時代に、本物の「食物」を超高値で提供するモグリの店・・・。その店で繰り広げられる会話がテーマなのだが、なかなか面白いよ。 ③「八月の黄昏に」=SFのテーマ&プロットとしては“ありがち”なタイムトラベルもの。でもまずは旨いよね・・・。オチもきれいに付いている。 ④「カーテンの向こう側」=これも短篇らしい切れ味を感じる一編。他の作品にも言えることだけど、終盤までの盛り上げ方とラストの落としどころがとにかく旨い。 ⑤「ところかわれば」=これは・・・とにかく“ニヤニヤ”させられるというか、何ともいえない感覚の作品。分類としては勿論SFになるんだろうけど、個人的には全盛期(?)の「アンジャッシュ」のコントを思い出してしまった。 ⑥「鏡もて見るごとく」=これは代表作「暗い鏡の中に」の原型となった短篇。確かに短編の方がエッセンスが凝縮されていて、純粋な謎解きとしては上のように感じる。(まっ、これは好みの問題でしょうけど) ⑦「歌うダイアモンド」=⑥とこれはウィリング博士が登場する本格ミステリーなのだが、まさかあの有名なトリック&プロットが使われているとは思わなかった! 時代的にはク○○ス○ィの方が古いよな・・・ ⑧「風のない場所」=これは・・・実に味わい深い作品。いらないものをできる限り削ぎ落としました・・・って感じか。それだけに読者は考えさせられることになる。 ⑨「人生はいつも残酷」=本作がボーナストラック。過去に罪を被った曰くつきの町に帰ってきた主人公を巡る愛憎劇がテーマ。なのだが、ラストは見事な反転というか、これが動機(!?)っていう感じにさせられる。 以上9編。 これはもう「さすが!」というべき作品だろう。 文庫版あとがきで千街晶之氏も作者の短篇巧者ぶりに触れているけど、まさにその通り。 特にSFは意外だったけれど、意外や意外、むしろ本格物よりもよくできている感じすらする。 いずれにしても、これは「傑作短篇集」という評価がピッタリ! 作者の才能&力量に脱帽・・・という評価でよいのではないか。 (個人的にはやっぱり⑤がダントツ。他も粒ぞろいの作品が並んでいる) |
No.1233 | 7点 | この闇と光 服部まゆみ |
(2016/05/23 23:04登録) 2001年に発表された長編。 長短合わせた作品が二十篇のみという作者は2007年に夭折・・・ ~森の奥に囚われた盲目の王女・レイア姫は、父王の愛と美しいドレスや花、物語に囲まれて育てられた・・・はずだった。ある日、そのすべてが奪われ、混乱の中で明らかになったのは恐るべき事実で・・・。今まで信じていた世界そのものが、すべて虚構だったのか? 随所に張り巡らされた緻密な伏線と、予測不可能な本当の真相。幻想と現実が混ざり合い、迎えた衝撃の結末とは?~ なるほど・・・こういう作品だったのかと唸らされた次第。 最近、書店でかなり大げさなポップ(「○○店員がチョーお勧め!」みたいなヤツ)をつけて平積みされていたから、気になってはいたのだけど・・・ 純粋なミステリーと呼ぶには抵抗があるけど、これはこれで十分な謎とサプライズを備えた作品だろう。 文庫版解説の皆川博子氏は、本作について『・・・作品が放つただならぬ香気』と表現されている。 確かに、行間からにじみ出ているのは「香気」と表現すべき「気」なのかもしれない。 少なくとも、第一章だけを読んでいると、単なるファンタジーとしか思えない。 それがジワジワと反転していく刹那。 (一瞬にして反転するのではなく、読者に少しずつネタばらししながら反転させていくのがニクイ) 途中からいったいどういうオチ?という目線だったんだけど・・・ まぁこれはこれでいいんだと思う。 手練のミステリー好きならば、更なる大技、サプライズを求める向きもあるかもしれないが、それはそれで下品になるのかも。 現実と虚構の混ぜ具合も“ちょうどいい”と思う。 ということで、ひとことで言えば「よくできた作品」という評価。 さすがに直木賞候補になっただけのことはある。 それだけの雰囲気を持った作品。 |