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平均点:6.00点 | 書評数:1848件 |
No.1288 | 6点 | アルファルファ作戦 筒井康隆 |
(2016/11/08 22:22登録) 1976年に発表された作品集。 中公文庫版の「帯」によると、『永遠に前衛』・・・だそうである。(まぁ確かに) ①「アルファルファ作戦」=この老人だらけの世界観というのは、発表された時代からすると先取り感があるのかも。オチはそれほど旨いとは思わないんだけどね・・・。 ②「近所迷惑」=いわゆるパラレルワールド的な一編なのだが、そこは筒井康隆だけあって、普通の作品には収まらない。アメリカ大統領夫妻まで巻き込んで、時代をまたぐドタバタ劇が展開される。(巻末解説で曽野綾子氏も触れておられる“噛み合わない会話”がチョー面白い) ③「慶安大変記」=自宅の横にできた予備校にまつわるドタバタ劇。70年代だとこんな感じになるのかな・・・ ④「人口九千九百億」=人口があまりにも増えすぎた地球・・・っていうのもよくある設定かもしれないけど。一番笑ったのは、超スピードで動くエレベーター式トイレ。ウ○コが撒き散らされるだろ! ⑤「公共伏魔殿」=“外務省は伏魔殿”と言ったのは田中眞紀子だったか・・・(古いな)。本作の場合はNHKだが・・・ ⑥「旅」=これって桃太郎モチーフか?と思わせておいて、最後には「ああー西遊記」っていつの間にか変わってた! ⑦「一万二千粒の錠剤」=一錠飲んだら年齢が十歳若返るという夢の錠剤。それを巡って繰り広げられる醜い葛藤・・・。本当にあったらやっぱりこうなるんだろうね。 ⑧「懲戒の部屋」=いやぁー勘違いした女(特にオバサン)ほど手に負えないものはない、って男なら思うよね。 ⑨「色眼鏡の狂詩曲」=作者自らが登場する一編。 以上9編。 作者らしい「風刺魂」で溢れた作品が並んでいる。 最近いわゆる“SF”と呼称される作品を読む機会が増えてきたけど、読むたびに感じてしまう。 「SFってなに?」 我々の暮らす社会の規範や常識、価値観など(広義のね)とは異なる世界観で描かれる小説・・・ というような意味合いと捉えてはいるのだけど、なんかモヤモヤしてる。 まぁ結局面白ければそれでよいということで、本作もそれなりの面白さを備えた作品。 これでいいのだ。 (②がベストかな。④も割とストライク。あと⑧のオバサンどもの言葉に相当カチンとくる) |
No.1287 | 7点 | 死の殻 ニコラス・ブレイク |
(2016/11/08 22:20登録) 1936年発表。 「証拠の問題」に続いて発表された作者の第二長編が本作。 で、探偵役はナイジェル・ストレンジウェイズだ(長い!)。 ~ファーガス・オブライエンは空軍での人間業とは思えぬ戦績や数々の伝説的逸話から英国の空の英雄と讃えられていた。その彼の元に、復讐を誓う脅迫状が届けられた。殺害予告の日はクリスマス。私立探偵ナイジェル・ストレンジウェイズは彼の護衛を引き受けたものの、まんまと犯人に出し抜かれてしまう。事件の真相を探るナイジェルは、オブライエンの秘められた過去に辿り着くのだった。終幕で浮かび上がる悲劇的な復讐者の姿は、強く読者の胸に残るだろう・・・~ 十分に佳作と呼べる出来だと思う。 これがシリーズ二作目とするなら、やはり作者は只者ではないと言える。 何よりプロットの秀逸さが光る。 序盤~中盤まで、本作っていわゆる「雪密室」がメインテーマなのか? っていうふうに読み進めていた。 ナイジェルも警察もそこを中心に捜査してるし、いかにも黄金期の本作ミステリー追随って感じだなと思っていたのだ。 ただし、連続殺人事件に発展する終盤以降はテーマが一変。 被害者の過去に遡る動機&事件の背景探求がメインとなる。 そして何より、真犯人の○で収束したはずの後、終章こそが本作の白眉となる。 ナイジェルによって事件の反転した構図が語られるわけだ・・・(ネタバレっぽいが) これが実に見事に嵌っている。 伏線の妙というか、これはやはりミステリーとしてのクオリティの高さだろう。 ナイジェルの造形は確かに後の作品に比べて若いというか、溌剌という感じだ。 それもなかなか好感度が高い。 いかにも英国風ミステリーという味わいも本作では心地よかった。 |
No.1286 | 5点 | 赤い森 折原一 |
(2016/11/08 22:18登録) 2010年に発表された長編、と言うべきか、“ツギハギ”作品と言うべきか・・・ 「黒い森」という作品が先行して発表されているが、直接的なつながりはない。 ~「あの家で何が起こったのか、実際のところ誰も知らないんだ・・・」。樹海の入口に立つ民宿の主人は、客の反応を窺いながら満足げにうなずいた。森の奥深くにある山荘で起こったとされる一家惨殺事件。その真相を知ろうと足を踏み入れた者が遺した「遭難記」。謎に惹かれ、また新たな若者が森の奥へと招かれた・・・。迷いと惑い、恐怖が錯綜する驚愕のダークミステリー~ 本作は祥伝社の400円文庫として刊行された「樹海伝説~騙しの森へ」と「鬼頭家の惨劇~忌まわしき森へ」の二作をそれぞれ章立てとし、新たな書き下ろしである「第三章」を加えてひとつなぎとした形式。 「樹海」をめぐるリドルストーリーという共通項はあるものの、どうだろうな・・・やっぱり無理矢理つなげた感は否めないかな。 「盛り上げ方」はいかにも折原っぽい。 一見して狂った人物や、実は狂っている人物が次から次へと主人公たちを恐怖に追い込んでいく。 読者の期待もそれに従っていやがうえにも高まっていく・・・ これでミステリー的に納得感のあるオチが付けられれば「良作」という評価になるのだけど、本作ではそのようなオチは用意されていなかった。 これをリドルストーリーとして好意的に捉えるか、「なんじゃこりゃ? オチがないじゃん!」って捉えるかは読み手次第。 (まぁ一応オチらしきものはあるのだが・・・) 折原ファンの私としては、「まぁこれも折原らしいかな・・・」というような感想になる。 これだけの作品数を誇る作家なのだから、全作品が素晴らしいということにはならないだろう。 まずまず、という評価でいいのではないか? かなり甘めですが・・・ (文庫版のP.403~406がツボ! 相当こわい) |
No.1285 | 6点 | セブン殺人事件 笹沢左保 |
(2016/10/27 22:17登録) 1980年発表の連作短篇集。 ~新宿淀橋署の宮本刑事部長と本庁から来た佐々木警部補。年齢も容貌も経歴も好対照のふたりは、その名前から「宮本武蔵と佐々木小次郎」に例えられれるライバルどおし。そんな異色の凸凹コンビが七つの難事件に挑む~ ①「日本刀殺人事件」=成金で日本刀収集が趣味の男がその日本刀で惨殺される事件が舞台。仲の悪い息子という格好の容疑者がいるのだが、鉄壁のアリバイがあって・・・という展開。一見すると動かない事実の裏に実は・・・というよくある展開。 ②「日曜日殺人事件」=今で言う“W不倫”状態の男女。その女の亭主が殺される事件が発生。これもアリバイが問題となるのだが、それよりも“釣り合いの取れない夫婦”の問題がクローズアップされて・・・。 ③「美容師殺人事件」=元高校野球のスター選手。だがプロ入り後は鳴かず飛ばずの投手・・・。そんな男に千載一遇のチャンスが到来! しかし付き合っていた美容師の女性が自宅で不慮の死を遂げる。これは・・・最初から予想できた結末。 ④「結婚式殺人事件」=結婚式会場のホテルに逃げ込んだ凶悪犯。しかし、警察が踏み込んだホテルから彼は忽然と消え失せる。しかも別人の死体を残して・・・。本作で唯一「密室」がテーマとなる作品なのだが、トリックそのものはどうってことない。 ⑤「山百合殺人事件」=宮本刑事が拘った現場に残された「山百合」がテーマとなる一編。最後にはまさかの真犯人が詳らかにされるのだが・・・。 ⑥「用心棒殺人事件」=芸能人である両親の子供にして目立たない普通の人間として育った娘。彼女がある事件をきっかけにスポットライトを浴びたとき、事件の幕が開けられた・・・。これも何というか逆説的。 ⑦「放火魔殺人事件」=決まった日に新宿区内で発生する放火事件。しかも犯人から警察へ予告までしてくるというオマケ付き。偶然ある女性と知り合ったふたりの刑事はある事実に気づくのだが・・・。これも哀しい真相だな。 以上7編。 本作も書店で派手なポップ付きで平積みされていた作品。 なのだが、それほどでもなかったかなというのが正直な感想。 面白くないわけではないんだけど、至って普通の作品集といった感じだ。 (いい意味でオーソドックス、とフォローしておく) どの作品もそれなりに意外な結末が用意されているし、駄作と評すべきものはなかった。 それが作者の力量というやつだろう。 宮本=佐々木の絡み合いも、妙に安定感があるというか。まるで長年読み継いできたシリーズという雰囲気。 (個人的には④がベストかな。次点は⑥。あとは横並びという感じ) |
No.1284 | 5点 | 人の死に行く道 ロス・マクドナルド |
(2016/10/27 22:16登録) 1951年発表。 作者の第七長編であり、リュウ・アーチャー登場作としては「魔のプール」に次ぐ四作目に当たる作品。 原題は“The Way Some People Die” ~キャリイが姿を消したのはクリスマスの数日前だった。一通のクリスマスカードを送ってきたきり連絡を絶って二か月・・・。今その母親からの依頼で捜索を開始したアーチャーの胸にはすぐに思い当たることがあった。娘は看護婦だった。そして、彼女が最後に看護したのが重傷を負って病院に担ぎこまれたギャングの仲間だったのだ・・・。果たして娘はある名うてのギャングとともに姿を消していた。しかし、ふたりの行方を追うアーチャーの前にはまったく別の男の死体が待ち受けていた!事態は予期せぬ展開を見せ僅かな糸口は絶たれたかに見えたが・・・~ やっぱり初期作品っぽさが残る作品だなという感じ。 名作「さむけ」や「ウィチャリー家の女」が発表された絶頂期の雰囲気&アーチャーの造形とは少し異なる印象だ。 今回の主役はかなりの美女として描かれているキャリイ・ローレンスその人。 物語は彼女を中心に動き、彼女が通った後には都合五人の男の死が残ることとなる・・・ ニヒルな探偵リュウ・アーチャーでさえも、彼女の魅力には抗いがたいのか、事あるごとに彼女に関わろうとしているように見える。 やっぱり、ハードボイルドの世界には美女が似合うね。 金も暴力も権力も、結局は美しい女性がいてこそのもの、というのは古今東西を問わず共通ということだろう。 プロットはちょっと錯綜していて、アーチャーの捜査行が描かれる中盤は、何だかよく分からない展開になる。 麻薬の動きを探って、LAやサンフランシスコ、リノなど西海岸の街を彷徨っているうちに、いつの間にか終盤に突入といった具合。 ラストの収束ぶりは他の方の書評どおりで、一応明快なんだけど、個人的にはモヤモヤ感が残ってしまった。 絶頂期の作品では暴力と距離を置いているように思えたアーチャーも、本作ではエンジン全開。ギャングたちと殴り合いを演じて見えたりする。 その辺りが若気の至りというか、初期作品の熱量を感じて、かえって微笑ましく見えるのは私だけだろうか。 でもまあやっぱり、代表作との比較ではかなり落ちるという評価に落ち着いてしまうかな・・・ (男ってやっぱりバカだね) |
No.1283 | 3点 | 複製症候群 西澤保彦 |
(2016/10/27 22:15登録) 1997年発表のノンシリーズ長編。 作者得意の“SF的超特殊設定”ミステリーに当たる(?)作品。 ~兄へのコンプレックス。大学受験。恋愛・・・。進学校に通う下石貴樹にとって人生の最大の問題とはそういうことだった。突如、空から降りてきた七色に輝く光の幕が人生を一変させるまでは・・・。触れた者を複製してしまう七色の幕に密閉された空間で起こる連続殺人。極限状態で少年たちが経験する身も凍る悪夢とは?~ 『何だこりゃ!』、『What is This?』 そういう感想しか出てこなかった読後・・・ これまでも「七回死んだ男」や「人格転移の殺人」、「瞬間移動死体」など、常識ではありえない超特殊設定を駆使した作者の作品に触れてきたけど、本作はそれを超える問題作。 ・・・っていうか、これ面白いか? 定められたルールに則って人間が複製されてしまう設定。確かにそれがうまい具合というか、妙な方向に進んでいくプロットは作者一流の手腕だろう。 でも結局最後まで何がプロットの肝なのかはっきりしなかったし、これまでの諸作品では見られた、終章の「なるほど感」がまったくなかったような気がする。 ラストも同じく『何じゃこりゃ?』 このオチはないのではないか? SFとしてもミステリーとしても読者を満足させる水準にはないように思える。 などと、どうしても辛口評価するほかない作品だった。 なんか、無理矢理特殊設定を想像しました、っていうことなのかと邪推したくなる。 残念ながら「読む価値なし」という評価しかできない。 |
No.1282 | 6点 | 夢・出逢い・魔性 森博嗣 |
(2016/10/16 00:05登録) 数えてVシリーズも四作目となった本作。 舞台はいつもの“那古野”ではなく、東京・渋谷というのが異質かも。 2000年発表。 ~二十年前に死んだ恋人の夢に怯えていたN放送のプロデューサーが殺害された。犯行時、響いた炸裂音はひとつ。だが、遺体にはふたつの弾痕があった。番組出演のためテレビ局にいた小鳥遊練無は、事件の核心に位置するアイドルの少女と行方不明に・・・。繊細な心の揺らぎと瀬在丸紅子の論理的な推理が際立つシリーズ第四作!~ これはまた・・・不思議な雰囲気を纏った作品だ。 読了した後、何となく頭に浮かんだのは「ボーダレス」という単語或いはフレーズ。 いつもの舞台である那古野を飛び出し、日本の中心・東京で事件に巻き込まれるところも、何となくボーダレス。 今回は小鳥遊のある特徴が事件の核心に繋がるのだが、男とか女とか性別を超えたところにあるボーダレス(・・・ってネタバレしてるような・・・) 真犯人がプロデューサー殺害に至る経緯というか動機についても、オイオイそんなことあるのかい?っていう意味で、ボーダレス(動機になりうるかどうかの境界ということ)だなと感じた。 今回のフーダニットもまたブッ飛んでいる。 「そんなとこから出してきたか!」とでも表現したくなるような存在なのだ。 作者らしく、事件の舞台は密室なのだが、密室構成のトリックはもはや二の次というか、あまり深い意図はない。 銃声と弾痕の差異の謎についても、実にアッサリ片付けられている。 密室や不可解現象の謎の構築に拘ったS&Mシリーズとは、やはりミステリーに対するアプローチの違いを感じてしまう。 どちらが好みかと問われると「前シリーズ」と答えてしまいそうだが、Vシリーズのスゴさも徐々に気付いてきたように思える。 今まで脇役扱いだった小鳥遊と香具山にスポットライトを当てた本作。 その代わりというか、保呂草の“おとなしさ”が不気味に感じた次第。次作に期待ということか? (でも一番のサプライズは稲沢の正体だったりする。これって、あれだけの意味でよかったのか??) |
No.1281 | 5点 | 赤髯王の呪い ポール・アルテ |
(2016/10/16 00:04登録) 1995年発表。 ツイスト博士シリーズ第一作とされている「第四の扉」刊行以前に私家版として発表された幻のデビュー作。 表題作のほか、シリーズ唯一の短編を三作収録の豪華版(?) ①「赤髭王の呪い」=~1948年ロンドン。エチエンヌは故郷アルザス在住の兄から届いた手紙に驚愕する。ある晩、兄が密室状態の物置小屋の中を窓から覗いてみると、16年前“赤髭王ごっこ”をしたために呪いで殺されたドイツ人の少女エヴァの姿があったというのだ。エチエンヌは友人から紹介されたツイスト博士に当時の状況を語り始めるが・・・~ 何となく看板倒れで終わったような作品だった。オカルト&不可能趣味の多くは単なるこけおどしとして扱われ、まっとうなトリックはほとんどなかったような感じ。フーダニットも実に分かりやすい。最初から「もしかして・・・」と感じていたとおりの真相だった。やっぱりこれはシリーズ開始前の「周作」という扱いでよいのではないか。 ②「死者は真夜中に踊る」=これも正直たいしたことはないんだけど、ラストだけはなかなか気が利いてる。その分①よりもむしろ短編らしくて好ましく感じた。玉がそんなうまい具合に作動するのかは甚だ疑問だけど・・・ ③「ローレライの叫び声」=絶世の美女にして、男たちを狂わせるライン川の妖精“ローレライ”・・・。ラストはなぜこれで解決したのかよく分からなかったのだが・・・。「孔雀の羽」って結局何だったのか?? 当方の理解力不足なのか? ④「コニャック殺人事件」=コニャックとはフランスの都市。もちろん名物は「コニャック」。一応密室殺人事件がテーマで、密室内に毒物がどうやって持ち込まれたのかが最大の謎となる。青酸をこのように使っても人って死ぬのね、・・・死ぬのか? 以上4編。 もともとカーの影響を受け、不可能&オカルト趣味が特徴のシリーズだけど、本作もその色が濃く出た作品となっている。 ただし、本家取りとはいかず、スケールも緻密さもかなり劣後していると言わざるを得ない。 まぁ①でも書いたけど、これでは「習作」というか、アマチュア作品と呼ばれても仕方ないだろう。 ただし、短編三作はそれなりにまとまってはいる。 短いなりに、魅力的な謎の提示⇒切れ味の片鱗を感じるラスト、という雰囲気もある。 そういう意味では貴重な作品かもしれない。 (ベストは②かな。①は高く評価できない) |
No.1280 | 3点 | まほろ市の殺人 春 倉知淳 |
(2016/10/16 00:03登録) 倉知淳(春)・我孫子武丸(夏)・麻耶雄嵩(秋)・有栖川有栖(冬)の四人が架空の街・真幌市を舞台に競演したシリーズ。 祥伝社から「幻想都市の四季」と銘打って発表された企画もの。 2002年発表。 ~「人を殺したかもしれない・・・」。真幌市の春の風物詩「浦戸颪」が吹き荒れた翌朝、美波はカノコから電話を受けた。七階の部屋を覗いていた男をモップでベランダから突き落としてしまったというのだ。ところが、地上には何の痕跡もなかった。翌日、警察が鑑識を連れどやどやとやって来た。なんと、カノコが突き落とした男は、それ以前に殺され、真幌川に捨てられていたのだ!~ う~ん。 このシリーズの字数制限、分量は明らかに失敗。 短編でもない長編でもない、いわゆる「中編」というべきページ数なのだが、中途半端感がもろに出ている。 作者もその辺の処理に困ったのか、短編らしい切れ味もなければ、長編ほど練られたプロットもなく・・・という感じ。 紹介文のとおり、「死んだはずの男が、ベランダから覗き見し、二度も殺されてしまった」というのが本作の謎というか、もうこれ一本槍にストーリーは進んでいく。 しかもバラバラ殺人とくれば、もうそこは、例の島田荘司が得意なヤツだろうな・・・と思うよな、普通。 (バラバラの頭部がこうなって、腕がこうなって・・・ってね) ただ、さすがに倉知淳はそんなありきたりの解法を許してはくれなかった! でも、その代わりの真相がコレか?!! 「なんじゃこりゃ」である。 この光景というか風景って・・・ありえないほどシュールだろう! これではミステリーというか、タチの悪い童話。 これを発表した作者というか、発表させた出版社には恐れ入りました。 私が責任者なら、担当者呼び出してコッ酷く叱りつけてやるけどね。 |
No.1279 | 8点 | 陸王 池井戸潤 |
(2016/10/08 22:04登録) 池井戸潤の最新作。 名付けて『陸王』・・・って「民王」の続編かと思ったら、全く違うお話でした。 ハードカバーで600頁弱という分量にもかかわらず、数時間で読了するという快挙! ~埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」。日々、資金繰りに頭を抱える四代目社長の宮沢紘一は、会社存続のためにある新規事業を思い立つ。これまで培った足袋製造の技術を活かして「裸足感覚」を追求したランニングシューズの開発はできないだろうか? 世界的スポーツブランドとの熾烈な競争、資金難、素材探し、開発力不足・・・。従業員二十名の地方零細企業が伝統と情熱、そして仲間の強い結びつきで一世一代の大勝負に打って出る!~ これは・・・ある意味、作者の「集大成」とも言える作品なのではないか? 読後の印象としては、『(「下町ロケット」+「ルーズヴェルト・ゲーム」)÷2』とでも表現すればよいか。 まぁ悪く言えば、二番煎じであるし、いつものとおり勧善懲悪であるし、予定調和であるし、途中は山あり谷ありだけど最後はお決まりのハッピーエンドであるし、相変わらず銀行員は悪者だし・・・ということになる。 でもなんでだろう。 それでも「読ませてしまう」熱量が確かに存在するのだ、作品の中に! これまでも再三再四同じようなことを書いてる気もするのだが、作者の作品には「なぜ働くのか」というものを超えて、「仕事とはなにか」或いは「働くとはどういうことなのか」、更に「幸せとはなんなのか」・・・あらゆる命題が読者に突きつけられているのだ。 私にはこれを単なるエンターテイメントとは受け取れない。 作品世界に浸りながら、自分自身の現状や仕事へのスタンス、これまでの人生やこれからの生き方・・・そうした様々なもので頭の中が渦巻いてしまう。 読了後しばらくして、これって「スポ魂(スポ根?)」だなって唐突に気付いた。 登場人物たちは根性丸出し、どんな苦難にあっても諦めることなく、逞しく前へ進んでいく。最初は斜に構えてたヤツもだんだんイイ奴に変わっていく・・・ いつの間にかスゴイ作家になったもんです。 でもこれが「集大成」と感じるということは、次も同じような話を書いたら、さすがに「エッー」って思うということではないか。 そういう意味では、作者もツライかもね。 (まったくミステリー書評ではない点、ご容赦ください) |
No.1278 | 7点 | ミンコット荘に死す レオ・ブルース |
(2016/10/08 22:01登録) 1956年発表。 キャロラス・ディーンを探偵役とするシリーズ三作目。 原題は“Dead for a Ducat”(これは『ハムレット』の逸話から取られているとのこと) ~十一月の深夜。歴史教師のキャロラスは、ミンコット荘の主人レディー・マーガレット・ピップフォードから電話を受ける。娘婿のダリルが銃で自殺したらしい。至急来てくれないかというのだ。早速駆けつけたキャロラスは、ベッドの上に血まみれで横たわるダリルの遺体と対面する。警察は自殺と判断するが、そう考えるにはいくつか不可解な点があることにキャロラスは気付いていた・・・。名探偵キャロラス・ディーン再び登場。緻密な細部と大胆なトリック。これぞ英国本格の真骨頂!~ この頃の作品らしい、非常に端正な本格ミステリー、という感じがした。 良くも悪くもオーソドックスな英国本格と言えそう。 事件関係者(らしい)人物が多めで、何となくてごちゃごちゃしている印象を与えているが、謎解きのプロットそのものはシンプルというか、実に納得性のあるものだと思う。 巻末解説者が本作について、「レトリックに頼ったもので、論理的完璧性はない」と辛口評価をしているけど、伏線はふんだんに張られているし、途中でピンとくる読者も多いのではないか? こういう大掛かりなプロットで攻めるなら、殺人事件や背景に神秘性やら不可能趣味やら、その他派手な装飾を施す作家もいるだろうけど、サラっとまとめているのもそれはそれで良いと感じた。 「犯人足り得る七つの資格」という条件を持ち出し、キャロラスが真犯人を炙り出す終章の緊張感もなかなか。 (ただまぁ、ミスリード足り得る人物がいなさすぎという欠点はあるが・・・) 他の方も指摘されいるとおり、本作の仕掛けは前例があり、個人的にもどこかでお目にかかったような気はする。 でも、まずまず高評価したい作品。 “スゲエ変化球や高めの釣り球ばかり見てきたら、たまには130キロ台でもいいから、ストライクゾーンにコントロールされたストレートを見たい”・・・という感じか? (分かりにくい表現で申し訳ない) ビーフ巡査部長シリーズは未読なので、機会があれば手に取ってもいいかな。 |
No.1277 | 6点 | 屍人の時代 山田正紀 |
(2016/10/08 22:00登録) 「人喰いの時代」の続編的位置付けでよいのだろうか? ~戦後の北海道を放浪する謎の名探偵“呪師霊太郎”・・・時を経てなお姿を現す不思議な探偵が遭遇した四つの不可思議な事件とその解決を描く。本来発売されることはなかった幻の作品~ なんと文庫書き下ろしで登場! ①「神獣の時代」=北海道のとある漁村(?)が舞台となる第一話。四編のなかでは一番ミステリーらしい仕上がりになっている。雪と氷に閉ざされた孤島で起こった足跡のない殺人がテーマなのだから・・・。こう書くと本格ファンなら「オオッ!」と喜びそうだが、最終的な黒幕として登場する○○には唖然とさせられる! ②「零戦の時代」=短編というより中編というべき分量の第二話。舞台は太平洋戦争中の海軍。海軍随一と呼ばれた零戦乗りの男の死をめぐる謎なのだが・・・。戦後四十年という時を経た後、呪師から驚くべき真相が示される。何となく連城の花葬シリーズを連想させる作品だった。 ③「啄木の時代」=啄木とは当然歌人の石川啄木のこと。函館~東京での彼の生活をめぐる物語と、もうひとり、日活の全盛時代に登場した“第三の男”こと赤木圭一郎。なんの関連もないこの二人に関連して過去の事件の真相が語られる。啄木の逸話は本当の話なのかな? ④「少年の時代」=啄木の次は宮沢賢治というわけで、彼の作品世界が事件に投影される一編。そして登場する怪盗「怪人二十文銭」(すごいネーミングだ)。なんとなく物悲しさが漂う最終話。 以上4編。 前作(「人喰いの時代」)はもう少しミステリー色が濃かったと思うが、本作は一応ミステリーとしての体裁は整っているものの、より幻想的というか、何とも掴みどころのない作品世界となっている。 まずはこの世界観が合わなければ、ちょっと苦痛な読書になるかもしれない。 (途中、一体何が起こっているのか掴めないような感じ・・・だ) 時代設定も明治~平成という長尺なのだが、呪師霊太郎はいつでもどこでも神出鬼没。どうやら年も取らないよう。 今回は呪師が前面に出るというよりは、脇役として最後の最後で登場というパターンが多い。 ここまで変わった本格ミステリーも珍しい。 でも最後には何とも言えない余韻を残すのはさすがというべきか。 |
No.1276 | 6点 | 貴族探偵対女探偵 麻耶雄嵩 |
(2016/09/27 21:53登録) 「あなたが推理するのではないのですか?」「まさか。どうして私がそんな面倒なことを?」 ・・・でお馴染み(!?)の貴族探偵シリーズの作品集第二弾。 今回も使用人たちが大活躍・・・するのか? ①「白きを見れば」=探偵役は執事の山本が務める。完全なCC内で発生する殺人事件。後の作品に比べれば実にオーソドックスな一編と言える。ロジックをこね回しているとも言えるが・・・ ②「色に出てにけり」=探偵役は料理人の高橋が務める。金持ちの別荘で起こる殺人事件。真顔で三股をかけるお嬢様など、相変わらずブッ飛んだキャラクターが登場。真相は割と分かりやすいと思うが・・・ ③「むべ山風を」=探偵役はメイドの田中が務める。大学の研究室が舞台。アリバイと上座が犯人特定の鍵となるのだが、ティーカップのロジックは分かりにくい。 ④「幣もとりあへず」=新潟県の山奥。座敷わらしを模した“いづな様”が出ると噂の旅館が事件の舞台。そして探偵役は運転手の佐藤が務める。これもアリバイとある仕掛けが犯人特定の鍵となるのだが、確かに真相には一瞬アッと思わされる。「そう来たか!」って。 ⑤「なほあまりある」=愛媛県と高知県の県境の海上に浮かぶ小島・亀来島が舞台。登場人物が揃う一夜にして発生した連続殺人事件。これも怪しげな手掛かりが満載なのだが・・・。そして今回の探偵役はなんと・・・! そう来たか! 以上5編。 いやいやこれは実に企みに満ちた連作短篇集だ。 前作は「貴族探偵」という突飛な存在こそあるものの、ミステリーの骨組みそのものは正統派っていう気がしたが、本作は骨組みも何だか捻じ曲がっているように思えた。 でもこれは確信犯! 「遊び」と「本気」の境界線で読者を煙に巻く作者の腕前はさすがの一言だ。 あくまで前座でしかない高徳愛香ってなに? という気はするけど、そこはご愛嬌ってヤツだろう。 ロジックそのものは“ロジックのためのロジック”なのがちょっとキツイけど、まぁそこは作者の遊び心に付き合ってやろう・・・って感じ。 ということで、「負けるな高徳愛香」。以上! |
No.1275 | 5点 | 大あたり殺人事件 クレイグ・ライス |
(2016/09/27 21:52登録) 1941年発表のマローン弁護士シリーズ。 前作「大はずれ殺人事件」の続編的位置付けの作品。 原題は“The Right Muder”。小泉喜美子訳。 ~『大はずれ殺人事件』で見当違いの殺人を探り当ててしまったジェークとヘレンは、新婚旅行でバミューダへ。一方、残されたマローンは大晦日だというのに、酒場でひとりグラスを重ねるだけ・・・。そんなとき、ドアを開けて入ってきたひとりの男はマローンの名をつぶやくと床にくずおれ息絶えてしまった。果たしてこれこそが社交界の花形モーナが予告した殺人なのか? 洒落た笑いを誘うユーモア本格ミステリーの傑作~ クレイグ・ライスは本作が初読みだった・・・ 本作の前に「大はずれ」があることは分かっていたけど、「まぁいいか」と思って先に読了してしまった。 別段ネタバレがあるとかではないので気にする必要はないのだけど、やっぱり発表順に読んだほうがベターだろうな まっ、それはともかく本筋なのだが・・・ 終盤までは事件の概要までもが曖昧模糊として進んでいく感じ。 ふたりの死者がどちらも正体不明の“チューズデー”なる人物ということが判明。この辺りが事件全体を貫く大きな鍵となるのだが、探偵役のマローンも犯人に振り回されて、なかなか事件の筋が見えてこないのだ。 「これ大丈夫か?」と心配になるほどの混乱ぶりなのだが、終章の解決編はなかなか鮮やか。 チューズデイ氏の謎もきれいに解き明かされ、動機・背景もクリアになりめでたしめでたし・・・ といきたいところだが、これって結構後出しが多くないか? 動機に直結する、ある登場人物の秘密についても、それまで全く触れられてなかった気がするけどなぁー さっきは「鮮やか」と書いたけど、「唐突」と紙一重のようなものだろう。 この辺は改善の余地があるように思えた。(って今さら改善できるわけないが・・・) 評価としては水準級ということでよいだろう。 (それにしてもマローンは飲み過ぎではないか?) |
No.1274 | 5点 | 松谷警部と目黒の雨 平石貴樹 |
(2016/09/27 21:51登録) 作者というと「笑ってジグゾー、殺してパズル」「だれもがポーを愛していた」しか思い浮かばなかった。 いずれも硬質というか、ある意味“無機質”なミステリーという印象だったが、本作の表紙を見ていると全然イメージが重ならない・・・ 2013年発表のシリーズ第一弾。 ~目黒本町のマンションで殺害された小西のぞみの身辺を調べていくと、武蔵学院大学アメフト部「ボアーズ」との関連が浮上、更にはボアーズの仲間内でこの五年で複数の死者が出ていることが判明した。これらは繋がっているのか? 松谷警部は白石巡査らと捜査に当たるが、関係者のアリバイはほぼ成立し、動機らしきものも見当たらない。過去の事件は不可解な点を残しながらも既決事項となっている。白石巡査は地道に捜査を進め、ついに犯人が分かったと宣言するが・・・~ 冒頭で触れた二作と比べて、えらく普通のミステリーだな、というのが第一印象。 最大のテーマはアリバイ崩しを絡めたフーダニット、でいいのだろうか。 真犯人候補は最初から「ボアーズ」のメンバー内に限定されてるし、いかにも伏線っぽい材料があちこちに投げ出されている。 (ミステリー好きなら嫌でも気付くだろう・・・) これって良く言えばフェアな本格ミステリーということなのだが、それよりも、個人的には書き始めたばかりの新人作家のような印象を持ってしまった。 別にうまくないわけではないのだ。 ていうか、きれいにまとめている。 「動機は無関係」で有名だった更科ニッキの生みの親らしく、それこそ取って付けたような動機なのだが、それ以外は消去法で真犯人が炙りだし可能な純正ミステリーに仕上がっている。 でもなぁー、あまりにも「トゲ」がないというか、丸め過ぎた感が強いのではないか? (拙い表現ですが・・・) それもこれも作者に対する期待の裏返しということ。 もう少しトンがったミステリーを期待したいところだけど、年齢から考えても難しいかな。 でもまぁーこれはこれで悪くはない。安定感という観点からは。 (ラストでタイトルの意味が判明。なるほど・・・そういうロジックだったのね) |
No.1273 | 6点 | アンドロイドは電気羊の夢を見るか? フィリップ・K・ディック |
(2016/09/18 19:58登録) 1968年に発表された伝説的SF作品。 ハリソン・フォード主演「ブレードランナー」の元ネタとなったことでも著名。 ~第三次世界大戦後、放射能灰に汚された地球では、生きている動物を所有することが地位の象徴となっていた。人工の電気羊しか持っていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた<奴隷>アンドロイド八人の首に掛けられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りを始めた! 現代SFの旗手ディックが斬新な着想と華麗な筆致を用いて描き上げためくるめく白日夢の世界!~ 正直なところ、作者の狙いやテーマを理解できたのかは全く不明。 ・・・っていう感じだ。 訳者の浅倉氏は、作者のテーマは「現実の探求」と「物質的世界の背後に隠れた真実の発見」とあとがきで書かれている。 ??? もともとSFはそんなに読んできてないし、作者の独特すぎる世界観もスッと頭に入ってこなかった。 アンドロイドVS人間というと、SFでは割と普遍的なテーマではないかと思うけれど、本作では両者の境界線がたいへんビミョーに書かれている。 アンドロイドかどうかを判定するテストが出てくるのだが、人間と思っていた人物が実はアンドロイドだったり、その逆もあったり、途中では主人公まで自身がアンドロイドではないかと疑心暗鬼になったりして・・・などなど、とにかくグラグラしているのだ。 そしてもうひとつの象徴が「動物たち」。 本物の動物と電気製の動物。 見た目にそれほどの差異はないのだが、人々は本物の動物を手に入れるため、危険な仕事にも手を染めていく・・・ これは物質的社会への警鐘なのか? はたまた単なるエンターテイメントの追求なのか? 終章。大枚をはたいて購入した“天然のヤギ”を死なせてしまった主人公に訪れる一匹の醜い動物。 これまでも実は・・・だったなんて!作者も人が悪いよ。 本当は再読したほうがいいんだろうなぁー。 (でも、あまり気が進まないかも・・・) |
No.1272 | 6点 | 小さな異邦人 連城三紀彦 |
(2016/09/18 19:56登録) 2000年以降に雑誌「オール讀物」誌に掲載された作品をまとめた短篇集。 惜しまれつつ亡くなってしまった作者の遺作のひとつとなった本作。 文庫落ちを機に読了。 ①「指飾り」=不本意にも別れを告げられた元妻と思いを寄せられる同僚の間で揺れる中年男性。「指飾り」とはもちろん結婚指輪のことだが、ある街角のバーを舞台に三人、いや四人の関係が微妙に動いていく・・・ ②「無人駅」=新潟・六日町の街、そして駅を舞台に起きるあるひと晩の物語。まさに一編の映画のような話なのだが、ラストも何とも言えない余韻を残す。 ③「蘭が枯れるまで」=これは非常にミステリー色が濃い作品。「交換殺人」というと多くの作家が手を変え品を変え取り組んできたテーマだが、連城にかかるとこういう風になる・・・。実にトリッキーだ! ④「冬薔薇」=何とも言えない“重さ”を感じる一編。女性心理というか深層というか、こういうヤツを書かせるととにかく天才的な技量を発揮する。 ⑤「風の誤算」=これも実に連城っぽい作品だ。何が連城っぽいのかと問われると困るのだが、「何なんだこれは?」と思わせながら、ついつい引き込まれて、最後は手練手管で丸め込まれる感覚とでもいうべきか・・・。水島課長のキャラクターも秀逸。 ⑥「白雨」=どうも世評の非常に高い作品のようだが、個人的には合わなかった。こんな回りくどい復讐というか、意趣返しをやる人間ってどういう心してるんだ? ⑦「さい涯てまで」=浮気旅行を重ねるひと組の男女。これってやっぱり中年男性の永遠の憧れだと思う・・・(実感)。それほど技巧のある作品ではない。 ⑧「小さな異邦人」=ひとりの少女目線で書かれているのが珍しい表題作。「誘拐」というと、「人間動物園」や「造花の蜜」などの傑作がすぐに思い浮かぶけど、それに比べれば「あまり・・・」というレベル。まぁ短編だし仕方ないか。 以上8編。 さすがに晩年の作品だけあって、ちょっとパワーダウンしたような作品が多いように思えた。 逆に言えば、それまでの作品が凄すぎただけで、本作も十分に水準以上なのは間違いないけれど・・・ しかしまぁ・・・男女の機微っていうか、こういうテーマで書かせると達者だよなー 人間の感情、心情こそがミステリーの原点ということを考えさせられる作品だった。 こういう作品を読めなくなるということが残念でならない。 偉大な作家だと再認識した次第。 (ベストは③かな。⑥や⑧は世評ほどはいいと思えなかった) |
No.1271 | 4点 | 霧の旗 松本清張 |
(2016/09/18 19:55登録) 1961年発表。 過去に数回映像化されている作品らしいが・・・一度も見てはいない ~殺人容疑で捕らえられ、死刑の判決を受けた兄の無罪を信じて、柳田桐子は九州から上京した。彼女は有名な弁護士・大塚欽三に調査を依頼するが、すげなく断られる。兄は汚名を着たまま獄死し、桐子の大塚弁護士に対する執拗な復讐が始まる・・・。それぞれに影の部分を持ち、孤絶化した時代に生きる現代人にとって法と裁判制度とはなにかと問うた野心作~ うーん。 こりゃどう考えても「逆恨み」だな。 何のあてもなく上京して、弁護を断られたからといって、弁護士に復讐心を燃やす・・・ ひとりの女性の狂気がテーマというのなら分かるのだが、紹介文によると「法と裁判制度の矛盾」が主題だという。 そういう社会派的作品だと勘違いしても仕方ないだろう。 ということでどうもテーマがはっきりしないまま終わったという感が強い。 途中の大塚弁護士の推理のくだりは冤罪事件を扱ったようになっているし、終盤は先に触れたとおり桐子の復讐譚が語られることになるし・・・ 何とも救いのないラストも居心地が悪い。 そして復讐の標的となった大塚弁護士。 特に悪徳弁護士というわけでもないのにねぇ・・・多少小心というか保身に走ったというだけだろう。 それでここまで落ちぶれるとは いやいや女の怖さっていうやつですな・・・ 時代背景もあるとはいえ、毎週のようにゲス不倫やら政治家の不祥事が暴かれている現代では考えられないことです。 評価は高くはならないなぁー。あまり面白くなかったから。 |
No.1270 | 5点 | サイモン・アークの事件簿〈Ⅲ〉 エドワード・D・ホック |
(2016/09/09 23:04登録) 年齢二千歳(?!)、謎のオカルト探偵サイモン・アークが主人公のシリーズ第三弾。 作者の作品らしく、不可能犯罪てんこ盛りは今回も同様。 ①「焼け死んだ魔女」=魔女の呪いで女子大生が次々に倒れるという怪現象が発生した名門女子大。真相は当然魔女の呪いではないのだけど、こんな化学的(そこまでいうほどでもないけど)な解決とは・・・。でもそれなら普通気付くよなぁー ②「罪人に突き刺さった剣」=村に伝えられた狂信的宗教。裸に頭巾という異様な男たちの集団のなかに死体がひとつ紛れ込んでいた! ただこのフーダニットはかなり強引。○でなくても見分けることはできそうだけど・・・ ③「過去から飛んできたナイフ」=フレンチ・インディアン戦争の舞台で起こる異様な事件。凶器はなんと数百年前に使われたナイフ・・・っていうのが今回の謎。まぁ合理的といえば合理的なのだが、こじつけといえばこじつけにしか思えない。 ④「海の美人妖術師」=海の中から現れ、男性を海中へ誘い込む美女。そう、まるでライン川にいるというローレライのように・・・。でも、この正体、分かってみれば何じゃそりゃ、的なやつ。化学的といえば化学的だが。 ⑤「フェルファル城から消えた囚人」=ナチスドイツの残党を収監した古城で発生した、人間消失+殺人事件。四カ国の精鋭たちが見守るなかで発生した事件なのだが、トリックは昔から使い古されたやつだ。これも気付きそうなもんだが・・・ ⑥「黄泉の国への早道」=六十四階建ての超高層ビル。屋上までノンストップのエレベーターに乗り込んだロックスターが忽然と消え失せ、何と地下のゴミ集積所で焼死体で見つかるというとびきりの不可能犯罪。正直、トリック自体はたいしたことのないものだが、見せ方というかプロットは実に作者らしくてよい。ただ、アレは遠目に見ても気付くと思うが・・・ ⑦「ヴァレンタインの娘たち」=アメリカ中部の街・ヴァレンタイン。その名前にあやかって、聖ヴァレンタイン・デーの日に開催されたイヴェントで起こった殺人事件。これはまぁ最初から見えてたな。 ⑧「魂の取り立て人」=スウェーデンはストックホルムが舞台となる一編。ただそれだけのような作品。 以上8編。 作者の不可能趣味溢れる作品集というと、本シリーズの他「サム・ホーソーン医師」シリーズがあるが、個人的には後者のほうが断然面白いと思う。 オカルトとミステリーの融合というテーマはいいのだけど、どうにも無理筋やこじつけが目に付きすぎてダメなのだ。 そうはいっても、稀代の短編の名手だから、一定の水準にある作品は並んでいる。 ということで、つぎは「怪盗ニック」シリーズだな。 (個人的ベストはやはり⑥かな。真相が意表をつく①の印象的ではある) |
No.1269 | 8点 | アトポス 島田荘司 |
(2016/09/09 23:03登録) 1993年発表の御手洗潔シリーズ。 「暗闇坂の人喰いの木」「水晶のピラミッド」に続き、長大なスケールと圧倒的な重さで読者の度肝を抜いた超大作。 今回、満を辞して久々に再読したが・・・ ~虚栄の都・ハリウッドに血で爛れた顔の「怪物」が出没する。ホラー作家が首を切断され、嬰児がつぎつぎと誘拐される事件の真相はなにか? 女優レオナ松崎が主演の映画「サロメ」の撮影が行われる水の砂漠・死海でも惨劇は繰り返され、蘇る吸血鬼の恐怖に御手洗潔が立ち向かう!~ いやぁー、分かっていたこととはいえ、『長かった!!』 初読のときも思ったけど、最初のエリザベートのくだり、こんな尺でいるか?? 確かに読み物としては面白い。しかも抜群に! エリザベートが老いの恐怖におののき、徐々に狂っていく様子は、何とも言えない寒気を覚えさせられた・・・ そしてラストのサプライズ! もう完全にB級ホラームービーだ。 やっと本筋の「死海の殺人」の章に入るのだが、 このトリックというか、仕掛けも・・・これではファンタジーとしか表現しようがない! 「伏線は張ってあるだろう!」なんて言ってはいけない。 ここまで荒唐無稽な話、誰が思い付くんだ!! 死海という特殊舞台、ウラン精錬所、回廊を持つ砂漠の中の建物、etc よくもまぁ、こんなこと思い付くよなぁー どんな構造してんだ、作者の頭の中は?? ○○○ーの人々が砂漠の中をゾロゾロ歩くなんて、シュールすぎて思わず笑ってしまったほどだ。 ・・・というような批判はいくらでもできる。 でも何なんだ、このパワーは! 読者をこれでもかと引込み、グイグイ読ませ、「こんなことあるわけないだろ!」って思わせながらも、最低限のロジックを構築する! これこそが作者が当時主張していた「奇想」なのだろう。 とにかく、作品の持つ得体の知れないパワーと魔力に絡み取られた数日間。 やはり並みの作家ではない。チンケな批判なんてクソ喰らえだ! 興奮してすみません。(実はこの書評、酩酊状態でかなりハイテンションで書いてます) |