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ミステリの祭典

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霧の旗

作家 松本清張
出版日1962年01月
平均点6.29点
書評数7人

No.7 4点 ボナンザ
(2024/01/06 18:26登録)
社会派というよりは復讐ものなので、納得できないと厳しい。

No.6 8点 蟷螂の斧
(2021/12/02 16:50登録)
映画化が2回、TVドラマ化が9回と人気作品ですね。11名の女優さんが桐子役を演じているわけですが、その一覧を見て一番しっくり来たのは堀北真希さんでした(笑)。この逆恨みと理不尽さが本作の肝ですね。そしてラスト。それは今の時代とは異なり、昭和30年代の女性の決意であり、本作にとってなくてはならないものでしょう。

No.5 7点 人並由真
(2021/10/28 04:58登録)
(ネタバレなし)
 清張版「(ウールリッチの)ノワール・シリーズ」。
 まったくの数奇な経緯から、復讐という情念に憑りつかれてしまった柳田桐子というオンナの、どす黒くそして哀しい物語。

 清張が描きたかったのは<どれだけ理不尽だろうと逆恨みだろうと、復讐にしがみつかなければ、もはや生き続ける意味が見出せなくなってしまった人間の切なさと悲しみ>であろう(そして東西のミステリ史上、その観念を究極・最高の域まで高めて具現化したキャラクターが、あの『喪服のランデヴー』の主人公ジョニー・マーだ!)。
 だからそんなメインテーマの文芸をくっきり、はっきりと栄えさせるためだけに、もう一人の主人公である弁護士・大塚欽三の「等身大のいい人ぶり」は、逆説的にみっちりと描きこまれる。ああ、コワイ。

 しかし、ほとんどストレートノベル風のノワールロマンかと思っていたら、後半、あららと言うほど、ミステリ味が強くなるのが意外であった。

 でもまあ、長年、想像していたものとは2~3割違う中身だったけれど、それでも十分に期待に応えた作品ではある。
 紙幅的には結構短めの上、余計なモブキャラにはいちいち固有名詞も与えていない小説の作りも読者にやさしく、リーダビリティは最強。

 ただまあ、このクライマックスが、ストーリーの道筋として必然であったかというと、なんかいくつかの前哨的な分岐点で枝分かれの可能性はあったんじゃないか、とも思えてしまった。
 その意味では、若干、恣意的にこのラストに向けてお話を転がしちゃった作者の「神の手」が見えるような気もするので、そこで1点減点。

No.4 4点 E-BANKER
(2016/09/18 19:55登録)
1961年発表。
過去に数回映像化されている作品らしいが・・・一度も見てはいない

~殺人容疑で捕らえられ、死刑の判決を受けた兄の無罪を信じて、柳田桐子は九州から上京した。彼女は有名な弁護士・大塚欽三に調査を依頼するが、すげなく断られる。兄は汚名を着たまま獄死し、桐子の大塚弁護士に対する執拗な復讐が始まる・・・。それぞれに影の部分を持ち、孤絶化した時代に生きる現代人にとって法と裁判制度とはなにかと問うた野心作~

うーん。
こりゃどう考えても「逆恨み」だな。
何のあてもなく上京して、弁護を断られたからといって、弁護士に復讐心を燃やす・・・
ひとりの女性の狂気がテーマというのなら分かるのだが、紹介文によると「法と裁判制度の矛盾」が主題だという。
そういう社会派的作品だと勘違いしても仕方ないだろう。

ということでどうもテーマがはっきりしないまま終わったという感が強い。
途中の大塚弁護士の推理のくだりは冤罪事件を扱ったようになっているし、終盤は先に触れたとおり桐子の復讐譚が語られることになるし・・・
何とも救いのないラストも居心地が悪い。

そして復讐の標的となった大塚弁護士。
特に悪徳弁護士というわけでもないのにねぇ・・・多少小心というか保身に走ったというだけだろう。
それでここまで落ちぶれるとは
いやいや女の怖さっていうやつですな・・・
時代背景もあるとはいえ、毎週のようにゲス不倫やら政治家の不祥事が暴かれている現代では考えられないことです。

評価は高くはならないなぁー。あまり面白くなかったから。

No.3 8点 斎藤警部
(2015/12/08 19:34登録)
終始押しの強い冷気が吹き荒びました。終わってみれば、書き切ったな清張、ってな心象風景です。上流の人間が必ずしも悪どかったり非情だったりするわけじゃないんだと大いなる理解の温風を吹き込ませつつ、この結末。清張氏が本篇を最愛作と公言したことを合わせ思えば氏の脳髄に刻まれた怨嗟執着の底知れぬ深みに思い至らずにはいられません。主人公女子が、自らに甚大な犠牲を強いる事を通すまでして復讐対象を致命的弱みで永久に縛り付ける、その地獄の覚悟振りに戦慄鳴り止まず。最後まで言及されずに終わった題名の意味探りにも心は動きます。ピンポイントで光る本格推理要素もよく溶けている。8.48点。

No.2 5点 江守森江
(2010/08/21 04:44登録)
清張作品で最も映像化された作品ではないだろうか(詳細不明)と思う位に何作もドラマを観ている。
田村高広(正和の兄)主演のドラマ版は取り分け良く再放送された(去年も清張特集で再放送していた)
清張作品自体好きではない(最初に「点と線」を読みガッカリしたのがトラウマになっている)が二時間ドラマは再放送も含めて高頻度で観ている。
そして毎度の如くおさらいするファジーさなのだが、原作もドラマ版の後味の悪さそのままだったのに驚きがあった。
若かりし頃、松本清張と梶山季之をほぼ同時期に読み、同じ社会ネタでもスケベで面白い梶山に傾倒してしまったし、今でも後悔していない。
清張作品をおさらいしていて、昔抱いた読み進まず眠くなるイメージより遥かにリーダビリティが高く読みやすい事に戸惑った。

No.1 8点
(2010/08/20 21:33登録)
中公文庫版カバーの作品紹介では「現代の裁判制度の矛盾と限界を鋭く衝き」となっていますし、作品中でも雑誌社での会話でそのことに触れられています。しかし、実際には社会制度批判になっているとは言いがたい作品です。東京に住む多忙な大塚弁護士が北九州の事件を断ったのは普通のことですし(新幹線もない時代です)、それを裁判には金がかかるという制度の問題点に結びつけることはできません。
それよりもやはり、本作の焦点は桐子の異常な逆恨みでしょう。大塚弁護士から断られた瞬間に、彼女は目的であるはずの兄を救う気持ちをきっぱり捨てたとしか思えません。映画では倍賞千恵子や山口百恵が演じたこのヒロインの復讐は、『ケープ・フィアー』(スコセッシ監督の映画版を見ただけですが)における弁護士家族を追い詰めるデ・ニーロの不気味さより不条理です。
ずいぶん昔、最初読んだ時にはミステリ的でないと思った結末は、清張作品の中でも特に後味の悪いものです。

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